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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科65巻13号

2010年12月発行

雑誌目次

特集 「出血量ゼロ」をめざした消化管癌の内視鏡下手術

ページ範囲:P.1621 - P.1621

内視鏡下手術は,新しい器械の導入をはじめ技術的な進歩を遂げており,より広く行われるようになってきた.内視鏡下手術では,拡大視効果によって開腹手術よりも微細な観察が可能となり,神経・血管などの同定にも役立っている.

 しかし,このような利点は,術野を出血から回避することによって可能となるものである.たとえば直腸癌の手術に際しては,骨盤腔内の剝離は出血を回避した“白い視野を保つ”ことにより,剝離層・神経などの視認が可能となる.つまり,いかに出血を回避して手術操作を進めるかが内視鏡下手術のキーポイントといえる.

〔食道癌〕

腹臥位胸腔鏡下食道切除術

著者: 小澤壯治 ,   名久井実 ,   千野修 ,   山本壮一郎 ,   數野暁人 ,   島田英雄 ,   幕内博康

ページ範囲:P.1622 - P.1627

要旨:出血させないための工夫の第1は,胸壁破壊を極力少なくすることである.トロッカーのみを挿入して胸腔内操作を仕上げることができれば,胸壁からの出血量が減少する.第2は,体位を腹臥位にすることである.縦隔臓器と肺が重力で前方へ移動するため,縦隔の展開が容易となる.血液や滲出液が胸腔前方へ移動するため,食道周囲や縦隔の視野が確保しやすく,視野不良に起因する出血を防ぐことができる.第3は,バイポーラ型のエネルギーデバイスを使用することである.重要臓器近傍で手術操作を進める必要があり,凝固や止血操作自体が確実であるとともに,周囲への熱損傷などを極力抑えられ,偶発的な損傷や出血を回避しやすい.

〔胃癌〕

腹腔鏡下胃全摘術

著者: 布部創也 ,   比企直樹 ,   谷村慎哉 ,   熊谷厚志 ,   窪田健 ,   野原京子 ,   愛甲丞 ,   尾崎知博 ,   渡邊良平 ,   佐野武 ,   山口俊晴

ページ範囲:P.1628 - P.1634

要旨:腹腔鏡下胃全摘術(LATG)における「出血量ゼロ」をめざした手術手技について紹介した.再建の手技が確立されていないため,手術全体のバランスを考えると,いかに出血なくリンパ節郭清を行い再建に移れるかがLATGのポイントと考えられる.特に脾門部から噴門部にかけての処理が重要であり,われわれは助手の展開を工夫し脾臓の損傷を防ぐこと,胃後壁の無漿膜野を意識しより良い視野を保つことで出血を最小限に抑え,同部位の処理を行っている.また,腹腔鏡下幽門側胃切除で行う幽門部や膵上縁のリンパ節郭清なども,手際のよい定型化された手技,視野展開とともに,ドライな視野を保つためのより繊細な出血させない工夫が必要と考えられる.

腹腔鏡下噴門側胃切除術

著者: 持木彫人 ,   豊増嘉高 ,   大野哲郎 ,   浅尾高行 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1636 - P.1641

要旨:腹腔鏡下噴門側胃切除術は上部の早期胃癌に対して行われる術式であり,徐々に施行施設が増加している.腹腔鏡下手術では視野の確保が最も重要であり,常にドライな環境で行う必要がある.腹腔鏡下噴門側胃切除術で出血しやすい部位は脾臓下極,膵上縁,脾門部である.この部位を丹念な操作で行えば,ドライな環境で手術が行える.脾臓下極では左胃大網動脈が横行結腸,脾臓,膵尾部に挟まれているため注意が必要である.また,膵上縁でのリンパ節郭清では,リンパ節に流入する血管の処理が重要になる.そして脾門部においては,十分な視野展開のもとに血管周囲の脂肪,リンパ節を丁寧に剝離し,出血させない操作が必要になる.

腹腔鏡下幽門側胃切除術―出血させない手技と止血のコツ

著者: 佐藤誠二 ,   金谷誠一郎 ,   石田喜敬 ,   吉村文博 ,   河村祐一郎 ,   磯垣淳 ,   谷口桂三 ,   宇山一朗

ページ範囲:P.1642 - P.1647

要旨:層構造を意識した正確な手術と迅速な止血が達成できれば,手術はドライな状況で進行し,手術時間の短縮,合併症の防止につながると考えられる.このため当教室では,安全かつ正確なリンパ節郭清を行うために,臨床解剖における「層構造」を重視している.正しい層を認識しつつ郭清を進めれば血管を損傷するリスクが減り,出血させない手術が可能となる.本稿では,胃癌手術で重要な膵上縁郭清に焦点を当て,「神経前面の層」を重視した「十分な術野展開」「神経前面の層をキープする手術のTouch」「適切な郭清アプローチ」に関する当教室のコンセプトを解説した.さらに出血した際の対処法として,当教室の標準的な止血手技とVIO(エルベ社)によるソフト凝固をより有効に活用するための器具を紹介した.

〔結腸癌〕

腹腔鏡下右半結腸切除術

著者: 猪股雅史 ,   白下英史 ,   衛藤剛 ,   安田一弘 ,   白石憲男 ,   北野正剛

ページ範囲:P.1648 - P.1653

要旨:内視鏡外科手術は,拡大視・平行視効果を利用することにより,従来手術以上の繊細で安全な手術を可能にし得る.そのためには,確実に出血を回避し得る手技上の工夫が必要である.腹腔鏡下右半結腸切除術において,①剝離授動では回結腸動静脈幹・後腹膜下筋膜・十二指腸水平脚・上腸間膜静脈をランドマークとし,後腹膜と結腸・結腸間膜との間に先行して広い安全スペースを形成すること,②surgical trunkの郭清では,術前3D-CT画像による中結腸動静脈系のvariationを把握しておくこと,③腹腔内にて腸管の十分な後腹膜からの授動と副右結腸静脈の処理を行っておくこと,が「出血量ゼロ」をめざした手技の工夫として重要である.

腹腔鏡下左半結腸切除/S状結腸切除術―出血量を最小限にするための手順と止血のコツ

著者: 花井恒一 ,   前田耕太郎 ,   升森宏次 ,   松岡宏 ,   勝野秀稔

ページ範囲:P.1654 - P.1661

要旨:大腸癌手術の原則は,膜構造を維持し癌細胞散布をさせないようにen-blockに切除を行うことである.この原則を守り,視野が限られる腹腔鏡下大腸切除術を円滑に進めるには,出血をコントロールしながら膜構造を維持した手術を行うことが重要である.そのポイントは,①中小血管,実質臓器,間膜構造などの解剖学的位置関係を十分理解し,出血しやすい部位を把握しておくこと,②腹腔鏡下手術の特徴に配慮した,鉗子やエネルギー源の器具の適切な選択や手技を行うこと,③助手との連携によって,良好な視野展開で手術を進める,④細かな血管でも止血する,⑤出血時には出血源や出血量に応じた適切な器具を選択し,止血を的確に行うこと,などである.これらを遵守することで,癌手術の原則を守った腹腔鏡下手術が可能となる.

〔直腸癌〕

術前照射後の低位前方切除術

著者: 奥田準二 ,   田中慶太朗 ,   近藤圭策 ,   浅井慶子 ,   番場嘉子 ,   茅野新 ,   山本誠士 ,   鱒渕真介 ,   谷川允彦

ページ範囲:P.1662 - P.1670

要旨:下部直腸進行癌の原発巣がbulkyで周囲浸潤が疑われる場合には,surgical marginの確保(特にRM0)が困難なことが多く,術前放射線・放射線化学療法の腫瘍縮小効果の有用性が報告されている.一方で,近年,拡大視や近接視効果により,直腸癌に対しても腹腔鏡下手術を導入する施設が増加している.当科では,2006年よりbulkyなA~(AI)の下部直腸進行癌に対して術前化学放射線療法(NACRT)を行った後に腹腔鏡下手術を行っている.ただし,NACRT後には照射野の組織の浮腫や線維化のため,下部直腸の剝離操作に十分な注意を要し,特に骨盤内での出血の予防や止血に留意することが必須となる.この際,NACRT後の変化に加えて癌の進展範囲も含めた最適な剝離層を十分に視極めつつ,適切なデバイスを的確に用いることが出血制御のうえでも最も重要となる.

括約筋切除を伴う肛門温存術

著者: 花岡裕 ,   黒柳洋弥

ページ範囲:P.1671 - P.1675

要旨:下部直腸癌に対する肛門温存手術は,手術器具の開発や,括約筋切除といった手術手技の工夫が重ねられ,以前ならば腹会陰式直腸切断術が避けられなかったような症例でも,肛門機能の温存が望めるようになった.また,直腸癌に対して腹腔鏡下手術を行うことで開腹手術では得られないような良好な視野で手術を進めていくことが可能となり,解剖学的にも腫瘍学的にもより安全な手術を展開できると考えている.一方,直腸癌に対する腹腔鏡下手術は手技的に容易でなく,括約筋切除を必要とするような下部直腸癌であれば,十分な知識と経験が必要である.そこで本稿では,腹腔鏡下に括約筋切除を伴う肛門温存術に対して,特に出血量を抑えるために意識すべきポイントを紹介する.

腹腔鏡下直腸切断術・側方郭清術

著者: 福永正氣 ,   菅野雅彦 ,   李慶文 ,   永仮邦彦 ,   須田健 ,   飯田義人 ,   吉川征一郎 ,   伊藤嘉智 ,   大内昌和 ,   勝野剛太郎 ,   平崎憲範 ,   津村秀憲

ページ範囲:P.1676 - P.1682

要旨:直腸癌に対する腹腔鏡下手術(LAP)は結腸癌に比べ手技的に高難度なこと,腫瘍学的安全性のエビデンスが不十分なことなどより標準手術とは位置づけられていない.特に直腸切断術・側方郭清は骨盤深部で,しかも複雑に脈管や神経が錯綜する領域での手技である.LAPの利点である視認性の良さ,拡大視効果を活かすには出血させない,わずかな出血も徹底して止血することが不可欠である.この利点を活かしたうえで本術式を定型化することが,正確に,しかも安全に手術を遂行するうえで重要である.本稿では手技とポイントについて解説した.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・22

甲状腺手術に愛用の手術器具・材料

著者: 高見博

ページ範囲:P.1617 - P.1620

はじめに

 甲状腺の手術は切除のみであり,通常は再建がないので使用する器具も限られてくる.しかし,頸部には複雑な血管や神経が走行しており,基本的には通常の腹部手術で用いる機器よりも微細な機器を用いるのが原則である.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・6

腹腔鏡下調節性胃バンディング術

著者: 関洋介 ,   笠間和典

ページ範囲:P.1684 - P.1688

 そろそろ9月になろうというのに(執筆の時点),まだこの暑さっ!

 読者の皆さんは……元気ですかーっ!

病院めぐり

本荘第一病院外科

著者: 鈴木克彦

ページ範囲:P.1690 - P.1690

 当院は1988年に現理事長である小松寛治が創設しました.100床,常勤医6名でスタートしましたが,94年に増床し,現在は160床,常勤医25名です.早くから日本病院機能評価機構や人間ドック機能評価の施設認定を取得し,DPCは県内では秋田大学についで導入しました.病院の理念に「地域と手をつなぐ医療」,基本方針に「最高の医療を目指す」を掲げており,きめ細かい地域医療と最高の医療の提供を目標にしてきました.

 由利本荘市は2005年に本荘市と7つの町が合併して発足しました.面積は県内最大で,秋田県の1/10を有し,山形県との県境にそびえる鳥海山の麓までが医療圏になります.その山里の2つの診療所に医師を派遣してきましたが,本年4月からはさらに奥にある3つの地域の巡回診療を始めました.近くには「日本の滝百選」の1つである法(ほっ)体(たい)の滝があり,冬は3mの積雪がある豪雪地域です.

秋田組合総合病院外科

著者: 下山雅朗

ページ範囲:P.1691 - P.1691

 秋田市は人口約32万人の県庁所在地で,秋田藩時代から城下町として栄えてきました.雄物川が流れ,風光明媚です.日本酒と米(あきたこまち)が美味しく,また,美人が多いことでも知られています.

 当院は昭和7年に秋田医療組合病院として開設され,昭和23年に秋田県厚生連に移管されました.平成12年に秋田市土崎地区から現在の飯島地区へ新築・移転し,現在に至っています.秋田市北部・男鹿南秋地区(約18万人)を診療圏とする標榜科20科,479床の一般病院で,平成15年に管理型臨床研修指定病院の指定を,平成16年に日本医療機能評価認定を(平成21年にVer5.0),また,平成21年2月には地域がん診療拠点病院に認定され,秋田県内にある厚生連9病院群のフラッグシップ病院として発展しています.

臨床外科交見室

脊髄硬膜外血腫を考える

著者: 出口浩之

ページ範囲:P.1692 - P.1693

 近年,硬膜外麻酔は多くのメリットが報告され,開腹術はもとより無痛分娩への応用など,その使用頻度と適応は増加している.また,術後疼痛管理のために2~3日間,局所麻酔剤の持続注入に使用される事例も多い.外科医ならばアッペやヘルニア,ヘモなど腰椎麻酔を施行する機会も多い.一方,近年は術前から抗凝固療法を受けている患者が増加しており,また術後の血栓予防療法が普及している.これらは脊髄硬膜外血腫の頻度を増加させる可能性を含んでいると思われる.脊髄硬膜外血腫は近年の上記の治療法の普及とともにあらためて注意すべき問題であると思われるので,本稿では私見を述べてみたい.

 脊髄硬膜外血腫の発生頻度は,85万例を検討したTryba1)や130万例を検討したWulf2)の報告がその後の多くの研究論文に引用されているが,彼らによれば硬膜外血腫は15~19万例に1例の頻度で発症すると結論されている.この数字は個人はもちろん単一医療機関においてさえもおよそ経験し得ないような数であるがゆえに,まさか無関心を装っているのではないであろうが,自身の過去・現在の同僚医師をみても十分に認識されているとは言いがたく,憂慮している.しかし,西邑ら3)は,硬膜外麻酔の9,232例中10例,脊椎麻酔8,501例中3例に発症したと集計・報告しており,少なくとも脊椎麻酔においては生涯,外科臨床医を続ければ手が届きそうな症例数と経験しそうな頻度である.

臨床研究

痔核結紮切除術を施行した患者の満足度における検討

著者: 矢野孝明 ,   浅野道雄 ,   田中荘一 ,   中井勝彦 ,   川上和彦 ,   松田保秀

ページ範囲:P.1695 - P.1698

要旨:痔核に対して結紮切除術(LE)を施行した患者の満足度を中心に検討した.【対象と方法】2001年1月~2008年12月の8年間に,当院で痔核に対して結紮切除術を施行した5,692例を対象とした.【結果】術後の皮垂は5.1%,肛門狭窄は2.1%に生じた.術後半年のアンケート調査による自覚症状は,突起物あり13%,狭窄感21%であった.切除した痔核の数と,狭窄感の発生では有意差を認めた.また,患者の満足度は術者の手術経験数と有意な相関関係を認めた.【考察】患者の訴える皮垂や狭窄感が実際の診察で認められるよりはるかに多く存在すると思われた.このことに留意して,術後の肛門診察に臨むべきである.また,患者の高い満足度を得るには,十分な手術経験が必要であることが示唆された.

当院における大腸手術後SSIの検討

著者: 佐々木賢一 ,   澁谷均 ,   久木田和磨 ,   今野愛 ,   河野剛 ,   植木知身

ページ範囲:P.1699 - P.1703

要旨:当院で施行した大腸手術232例を対象とし,大腸手術後SSI発生の危険因子と創培養分離菌に関して検討した.創分類class Ⅲ以上,ASA score Ⅲ以上,NNIS t値以上の手術時間,ストーマあり,緊急手術でそれぞれSSI発生率は有意に高く,腹腔鏡下手術,出血量100ml未満でそれぞれ有意に低かった.創培養分離菌109株の内訳は,Enterococcus属,Bacteroides属を筆頭に腸内由来と考えられる菌が多かった.SSI対策として,腸内細菌の術野汚染を最小限にする努力が重要であると思われた.また,腹腔鏡下手術がSSI対策として有用な手段になる可能性がある.

臨床報告

横行結腸軸捻転症の1例

著者: 吉田亮介 ,   小林直哉 ,   猶本良夫 ,   藤原俊義

ページ範囲:P.1705 - P.1710

要旨:症例は57歳,女性.既往歴に便秘症があった.子宮頸癌術後7日目に腹部膨満,嘔気,嘔吐が出現し症状の増強を認めたため,腹部単純X線検査,CT検査を施行した.横行結腸軸捻転症と診断し,下部内視鏡にて脱気した.症状は軽快したが,脱気後40日目に再度同様の症状が出現,本症の再発と診断した.内視鏡にて整復したのち,待機的に横行結腸切除術を施行した.術中横行結腸は反時計方向に180°捻転しており,再々発をきたしていた.本症は稀な疾患であるが容易に再発し,治療時期を逸すると重篤となる可能性がある.文献的考察を加えた結果,虚血性変化を認めなくとも横行結腸切除を付加した観血的整復術を行うべきであると考えられた.

イレウス管が誘因となった順行性腸重積症の1例

著者: 三口真司 ,   小橋俊彦 ,   眞次康弘 ,   中原英樹 ,   漆原貴 ,   板本敏行

ページ範囲:P.1711 - P.1714

要旨:症例は86歳,男性.20年前に胃潰瘍にて胃切除術を施行していた.下腹部痛と嘔吐を主訴にイレウスの診断で入院となり保存的治療を開始した.第7病日にイレウス管を約30cm自己抜去したため元の位置まで再挿入した.第8病日に腹痛の再燃,イレウス管から血性の排液を認め,CTで小腸重積症と診断し緊急手術を施行した.Treitz靱帯より約50cmの上部空腸が20cmほど肛門側に重積していたため,重積腸管を切除した.イレウス管の再挿入による刺激のため腸管蠕動が亢進し,口側腸管輪状筋の痙性収縮が弛緩した肛門側腸管に嵌入して重積が生じたと推測した.イレウス管自己抜去時の再挿入は,腸重積をきたす危険性があることを念頭に置くべきである.

超音波下に非観血的整復し待機手術が可能であった閉鎖孔ヘルニアの1例

著者: 上村眞一郎 ,   阿部道雄 ,   蓮尾友伸 ,   土井口幸 ,   谷川富夫 ,   坂本不出夫

ページ範囲:P.1715 - P.1718

要旨:患者は83歳,女性.右大腿部痛,嘔気,嘔吐を主訴に他院を受診し,腹部単純X線検査で腸閉塞と診断され当院へ紹介となった.腹部CT検査で右閉鎖孔ヘルニア嵌頓による腸閉塞と診断した.理学所見と血液検査所見から腸管壊死の可能性は低いと判断したため,超音波下に非観血的整復し,後日再発防止目的で手術を行った.手術は腰椎麻酔下に腹膜外アプローチでメッシュシートを用いて閉鎖管を覆った.閉鎖孔ヘルニアは早期に診断されれば非観血的に整復後,待機手術が可能であり,合併症をもつ高齢者に多いことから緊急手術が回避できれば大きな利点と思われる.非観血的整復を行う際に超音波の利用が簡便で有用と思われたので報告する.

腸閉塞を契機に発見され,単孔式腹腔鏡手術で切除しえた回腸・虫垂子宮内膜症の1例

著者: 益満幸一郎 ,   川井田浩一 ,   池江隆正

ページ範囲:P.1719 - P.1723

要旨:症例は47歳,女性.心窩部痛で当院に救急搬送された.腹部X線撮影で小腸ガス像を認めたため,腸閉塞の診断で入院,回腸子宮内膜症と診断され手術となった.手術は単孔式腹腔鏡手術を行ったが,虫垂には後腹膜との強い癒着,また回盲部近くの回腸に強い屈曲を認め,腸閉塞部位と同定し,虫垂切除,小腸切除を施行した.組織学的にはいずれも子宮内膜症の診断であった.術後は順調に経過,退院後に偽閉経療法を開始した.回腸および虫垂子宮内膜症は稀な疾患であるが,検査所見および問診により,術前診断が可能であること,また単孔式腹腔鏡手術は,女性で複数の部位に発生する可能性のある本症に対し,有用な術式であると考えられた.

肺癌術後遅発性乳糜胸の1例

著者: 齋藤学 ,   三浦健太郎 ,   代田智樹 ,   江口隆 ,   蔵井誠 ,   吉田和夫

ページ範囲:P.1725 - P.1728

要旨:症例は78歳,女性で,胸部X線検査で異常を指摘され,近医にて右肺癌と診断された.当科に紹介され,右上葉切除術およびND2a-2(node dissection)を施行した.術後経過は良好で,術後13日目に退院となったが,退院3週間後の外来受診時に,胸部X線検査上,著明な胸水貯留を認め,胸腔穿刺にて遅発性乳糜胸と診断した.全身状態が良好であったため,外来通院での食事指導および胸腔穿刺にて加療を行う方針とした.発見後,約2か月間で改善し,現在乳糜胸の再発なく経過中である.

腹腔鏡下に切除した直腸子宮内膜症の1例

著者: 坂本一博 ,   永易希一 ,   杉本起一 ,   高橋玄 ,   五藤倫敏 ,   田中真伸

ページ範囲:P.1729 - P.1732

要旨:腸管子宮内膜症に対して腹腔鏡下に直腸切除を施行した症例を経験したので報告する.

 症例は39歳,女性.主訴は便秘,排便困難で,妊娠・出産の既往なし.5年前より便秘がみられたが放置していた.2008年9月より排便困難が強くなり,当科を紹介され受診した.下部消化管造影検査では,直腸S状部に狭窄像と口側腸管の壁不整・硬化像を認めた.骨盤MRI検査では子宮との境界部に充実性の病巣がみられた.生検結果では子宮内膜組織を認めなかったが,腸管子宮内膜症と診断し,腹腔鏡下手術(癒着剝離・低位前方切除術)を施行した.病理組織学的には固有筋層は肥厚し,漿膜から粘膜下層まで間質を伴った子宮内膜腺の増殖を認めた.術後経過は良好で第10病日に退院し,現在まで再発は認められていない.

1200字通信・21

カナダ紀行―マナーについて

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1641 - P.1641

 今年の5月にカナダのバンクーバーに行く機会を得ました.10数年ぶりの外国旅行で緊張したものの,仕事を忘れて気分転換することができ,楽しい旅となりました.

 滞在中はバンクーバー市内での移動が多く,また,数日間は冬季オリンピックが開催されたウィスラーへ行く予定もありましたので,到着後すぐに空港でレンタカーを調達し,帰国のため空港へ戻るまでの期間,借りっぱなしで利用してきました.車好きの私にとっては,周りが外車だらけということもあり(当たり前ですが),旅をより一層楽しむことができました.

勤務医コラム・19

一人の治療が二人分

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.1683 - P.1683

 Nさん夫婦のお宅は当院のすぐ隣り.お互い病気知らずで70歳までやってきた.3年前のある日,N夫さんに黄疸が出て当科へ入院した.Papilla Vaterの癌で,減黄処置したが,肝転移があり切除できずに化学療法を行った.これが思いのほかよく効いて,CRとなり元気に退院した.しかしいつ悪くなるかわからず,奥さんは不安な日々を過ごしていた.

 1年経って,N夫さんはピンピンしていたが,奥さんに進行胃癌が見つかり,胃を全摘して化学療法を加えた.今度はN夫さんが心配して,いろいろと尋ねてくる.お互い外来で抗癌剤を処方されている身なので,一緒に通院すればよいのに,なぜか別々にやってくる.自分のことも気になるが,相手のことも気になる.別々にソーっとやってきて,自分のことでなく相手のことを尋ねて帰っていく.たまに病院の外来ではち合わせすると,憎まれ口ばかりたたいているが,見ていてなんだかほほえましい.

書評

国立がん研究センター内科レジデント(編)「がん診療レジデントマニュアル(第5版)」

著者: 佐藤温

ページ範囲:P.1689 - P.1689

 『がん診療レジデントマニュアル』も第5版となった.初版から既に13年を数え,とても息の長い本である.いかにがん診療医に必要とされつづけている本であるかがうかがえる.私の仕事部屋の本棚にも初版から全版が揃えられている.各版の表紙の色が異なることもあり(徐々に厚くもなっている),並べると案外きれいなものである.マニア心をくすぐるのでプレミアでも付かないかなぁなどと不謹慎なことまで考えてしまう.実は大変お世話になっているので捨てられないのである.がん薬物療法を診療の主とする医師にとっては,複雑で解釈しにくいこの領域における実臨床的な内容が,非常に分かりやすく整理されているため,初めに目を通す本としては最適である.

篠原 尚,水野惠文,牧野尚彦(著)「イラストレイテッド外科手術 膜の解剖からみた術式のポイント(第3版)」

著者: 笹子三津留

ページ範囲:P.1724 - P.1724

 手術を勉強中の外科医にはぜひお勧めしたい1冊です.私も手に入れて良かったと心より思っています.理由は以下の通りです.

 各時代に解剖にうるさい外科医はいましたが,その多くは癌の専門家で特定の臓器に関する造詣が深い人たちでした.その先人たちから私も多くを学びましたが,本書は中小規模の病院で,すべての分野の一般消化器外科患者の手術に携わらねばならない外科医にとって,必要と思われる術式がほぼ網羅されています.これだけの内容,そして数百の素晴らしい図をほとんど一人で手がけた書物は他に類を見ません.

ひとやすみ・67

論文作成

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1693 - P.1693

 日々の臨床で経験した貴重なる症例を,学会で発表するとともに医学雑誌に論文を投稿するとする.まずはパソコンに向かい,関連論文を収集する.「医学中央雑誌」や「PubMed」などの医学論文検索欄を開き,数種類のキーワードを入れる.パソコンの画面には瞬時に関連した論文が提示される.各論文の抄録を読み,関連論文を絞り込む.そして,読みたい論文があればパソコン上に論文全文を開いてコピーをする.

 かつて私が医師になり立ての頃の文献検索は図書館に行って分厚い「医学中央雑誌」や「Index Medicus」をめくることから始まった.関連すると思われる論文名を紙に転記し,雑誌が陳列された本棚に向かって掲載されている本を取り出す.そしてコピー室に向かい,高額な代金を払ってコピーをする.ときに必要な雑誌が貸し出されてない場合には,後日に再度出向いた.また,図書館で購読していない雑誌の場合には,関連論文のコピーを依頼する.論文検索に要する時間と労力は過去と現在では雲泥の差がある.

昨日の患者

入室を拒絶された病室

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1714 - P.1714

 病院では生を受ける人がいる一方で,はからずも死を迎える人もいる.悲喜こもごもの人生ドラマが日々繰り広げられ,様々な思いが各自の心の奥底に積み重ねられる.

 70歳代後半のSさんが急性胆囊炎で緊急入院した.時間外でもあり,重症室に収容しようとしたら,付き添う娘さんになぜか強く拒否をされた.しかたなく,ほかの病室に収容した.そして翌日,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.炎症所見は著明であったが,術後の経過は良好であった.また,仕事を休んで甲斐甲斐しく世話をする娘さんからは病室に対する不満はなかった.

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あとがき

著者: 畠山勝義

ページ範囲:P.1740 - P.1740

 この欄でのトキ(朱鷺:学名はNipponia nippon)の紹介は6回目となる.1回目は佐渡市におけるトキの人工繁殖,2回目は野生復帰のための訓練,3回目は1次放鳥(10羽),4回目は2次放鳥(19羽),5回目は1次および2次放鳥で本州に飛来したトキ,について紹介してきた.今回は1次放鳥(2008年9月25日)および2次放鳥(2009年9月25日)からちょうど2年と1年が経過したので(10月1日現在),その後を報告する.

 1次および2次放鳥を合わせると計29羽のうち,2010年9月22日現在17羽(58.6%)が継続的に確認されており,4羽(13.7%)が未確認となっている.半年以上未確認の行方不明扱いのトキは5羽(17.2%),1年以上未確認を含む死亡扱いのトキは3羽(10.3%)となっている.これら生存しているトキのうち,今春の繁殖期には6組のペアができ,このうち5組が産卵したが,残念ながらいずれも孵化には至らなかった.現在,佐渡島内では放鳥地周辺の新穂・両津エリアで2次放鳥のトキを中心に12羽が群れを形成して行動しており,最大では14羽の群れが確認されたこともあったという.また羽茂エリアには2羽,相川エリアでは1羽が確認されている.一方,本州に渡ってきて住み着いているトキが2羽で,新潟市西蒲区に1羽と富山県黒部市に1羽が確認されている.これら本州に飛来してきた2羽のトキは,現在でも単独で行動しており,ペアを形成するチャンスはほとんど皆無なので,心配な面が多い.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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