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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科65巻2号

2010年02月発行

雑誌目次

特集 外科医に必要なPET検査の知識―その有用性と問題点

ページ範囲:P.177 - P.177

 近年,FDG-PET検査は画期的な癌画像診断法として普及し,わが国でも2002年より,肺癌・乳癌・大腸癌・頭頸部癌・脳腫瘍・膵癌・悪性リンパ腫・転移性肝癌・悪性黒色腫・原発不明癌の診断で保険適用となった.2005年からは18F-FDG注射液が診断剤として市販され,外科領域でも広く用いられるようになり,特に治療前の全身検索や再発の診断,治療効果判定に有用であると考えられている.

 しかし,症例の集積に伴い,その診断能の限界も明らかになりつつある.

 本特集では各執筆者に,外科領域においてどんなときにPET検査を使用すべきか,またその診断能の限界はどこなのかなど,各種疾患のPET検査の有用性や問題点などについて論じていただいた.

総論:PETの計測原理と臨床応用の現状

著者: 村山秀雄 ,   吉川京燦

ページ範囲:P.178 - P.185

要旨:PETは,生体内組織の形態学的異常に先立つ代謝異常を,生体まるごとの体外計測により高精度に検出できる新しい検査法である.放射性同位元素で標識した分子を生体内に投与し,高エネルギー放射線を体外で検出することにより,標識した分子の体内分布画像を描出する.その画像情報から,生体活動を制御する微量物質やタンパク質が生化学的な変化を受ける局所の様子を分析できる.本稿では,生体に影響を与えることなく生体内極微量物質の分子生物学的活動を可視化するPET装置の計測原理について簡単に説明し,PETの臨床応用の現状および今後の新たなる展開について概説する.

甲状腺腫瘍におけるFDG-PET―最近の知見とレビュー

著者: 小川利久

ページ範囲:P.186 - P.191

要旨:甲状腺腫瘍がFDG-PET検査によりインシデンタローマとして発見される機会が増えている.乳頭癌のPET感受性は高いが,径の小さな腫瘍に対しては検出率は低下する.濾胞腺腫でもFDGは集積するが,濾胞癌ほど高率ではなく,ある程度両者の鑑別は可能である.慢性甲状腺炎やバセドウ病などがあるとFDGが広範に集積するため診断が困難で注意が必要となる.甲状腺癌の再発転移部位同定やヨード治療に対する効果を評価するための手段として,従来の放射性ヨードシンチグラフィに代わり,PETが汎用されつつある.とりわけサイログロブリン陰性の低分化癌に対する局在診断や治療効果判定に,PETは必要欠くべからざる検査となっている.甲状腺癌の転移や再発には外科的切除という治療手段が有効であり,PETは甲状腺癌の術後フォローに有用である.

乳癌診療におけるFDG-PET検査

著者: 大地哲也 ,   神尾孝子 ,   亀岡信悟

ページ範囲:P.192 - P.199

要旨:乳癌PETはCT一体型装置の登場以来,乳癌臨床に急速に普及してきた.

 当科における389例の検討で,既知の乳癌原発巣の診断成績は感度82.8%だった.浸潤性乳管癌の感度が85.3%であったのに対し,浸潤性小葉癌の感度は58.3%と不良だった.リンパ節転移診断は感度が低く特異度が高い.微小転移の描出は困難で,センチネルリンパ節生検の代用にはならない.全身を一度でスキャンできるFDG-PETの転移再発診断における有用性は高いが,造骨性骨転移の偽陰性に注意が必要である.

 FDG-FETは腫瘍のviabilityを定量化することが可能で,薬物治療の効果判定や予後の予測に有効である可能性があり,今後の症例の蓄積とさらなる検討が待たれる.

 PET診断成績の向上には,放射線科医と外科医のコミュニケーションが重要である.

肺癌におけるFDG-PETの有用性とその問題点について

著者: 岩田尚 ,   白橋幸洋 ,   水野吉雅 ,   松本真介 ,   丸井努 ,   竹村博文

ページ範囲:P.200 - P.206

要旨:肺癌原発巣に関するFDG-PETの診断能は,感度96%,特異度78%と報告されている.CT画像上ground-glass opacity(GGO)をきたす結節影および1cm以下の結節影の診断は困難であることが多い.一方でFDG集積と悪性度が相関を呈するという報告があり,SUVmaxの高値は予後と相関する.リンパ節転移に対しては感度83%,特異度96%と報告されているが,4mm以下の大きさのリンパ節転移に関しては診断することが困難である.遠隔転移は,副腎転移がCTより感度が高い.骨転移に対しては,感度90%で骨シンチグラフィと同等であるが,特異性98%と骨シンチグラフィに対する優位性を持つ.

食道癌診療におけるPETの有用性と問題点

著者: 宮崎達也 ,   宗田真 ,   田中成岳 ,   加藤広行 ,   桑野博行

ページ範囲:P.208 - P.215

要旨:食道癌の進行度診断は壁深達度,リンパ節転移,遠隔転移に基づいて行われ,最適な治療を選択するうえできわめて重要である.従来より解剖学的な画像であるCT検査やMRI検査が主に用いられているが,腫瘍による解剖学的変化に依存した画像では,食道癌の広がり,特にリンパ節転移診断に関して十分とはいい難い.FDG-PET検査は非侵襲的検査であり,CT検査のような形態学的な腫瘍サイズによる診断ではなく,代謝機能イメージに基づいた精度の高い情報を提供するという利点がある.FDG-PET検査は良悪性鑑別診断,病期診断,治療効果の判定,再発評価などに幅広く用いられている.本稿では,食道癌診療におけるFDG-PET検査の臨床的有用性と問題点について概説する.

胃癌でのPET・PET/CTの有効活用

著者: 安田聖栄 ,   幕内博康

ページ範囲:P.216 - P.222

要旨:胃癌でのPETの適応は限定的であるが,症例を適切に選択すれば胃癌診療で役立てることができる.早期胃癌はPETで検出できない.また進行胃癌であってもPETで検出できない場合がある.しかし胃癌の組織型と腫瘍体積を念頭に置いて実施すると,進行再発胃癌の治療方針決定で役立つ.FDGが高集積する組織型は乳頭腺癌(pap),管状腺癌(tub1,2),低分化腺癌充実型(por1)である.これは生検または切除標本の病理検査結果で情報が得られる.腫瘍体積は1cm3以上が必要と思われる.また,進行再発胃癌化学療法の早期効果判定にPETが役立つ可能性が高い.

大腸癌におけるPET/CT検査の意義

著者: 伊藤雅昭 ,   角田祥之 ,   甲田貴丸 ,   齋藤典男

ページ範囲:P.224 - P.230

要旨:大腸癌に対するFDG-PET/CT検査は,大きく2つの臨床側面に生かされる.1つは術後フォローアップにおける早期再発診断である.PET/CTのFDG集積による良好な視認性は,従来のCT診断が苦手とした局所再発や腹膜再発の診断能の向上に寄与した.また,術前リンパ節転移診断においては,原発巣よりもやや離れた2群以上リンパ節で良好な診断能を示した.CTやMRIで行われてきたリンパ節径からの良悪性診断には限界があり,SUVのカットオフ値による客観的診断法を加えることにより,診断能は向上しうることが分かった.さらにこのPET/CT情報の3D画像は術前シミュレーションとしても高い有用性を示した.

肝細胞癌におけるPET検査の有用性

著者: 北順二 ,   窪田敬一 ,   村上康二

ページ範囲:P.232 - P.237

要旨:肝細胞癌に対するPET検査は,高分化型を除いて高率に検出可能である.分化度が低くなるほど検出感度が上昇することから,再発や予後の予測に有用な検査である.また腫瘍内の細胞のviabilityが高い部位は検出感度が高いことを利用して,ラジオ波焼灼や肝動脈塞栓術の治療効果判定にも利用できる.さらに肺や骨などの肝外転移巣や重複癌の発見によって外科切除の適応決定を左右する可能性もある.FDGに代わる製剤として脂質代謝に係わるacetateとcholineが注目され,分化度の高い肝細胞癌の検出率が高いことが報告されている.このことからFDG製剤との併用検査によって肝細胞癌の検出率が上昇すると考えられる.近い将来,PET検査は肝細胞癌に対する有益な検査として再評価されるであろう.

胆囊癌・胆管癌におけるPET検査の意義

著者: 山本久仁治 ,   海野倫明

ページ範囲:P.238 - P.242

要旨:現在,胆道癌における画像診断の主役は高い空間分解能を有するMD-CTであるが,比較的新しい画像診断法であるFDG-PETは,腫瘍の糖代謝活性を視覚化した機能的画像診断法であり,CTなどの形態的画像診断法とは全く異なった側面から,腫瘍の評価が可能である.現時点では,従来の画像診断法との比較において原発巣の描出率に明らかな有効性は認められず,むしろ予期せぬ遠隔転移の検出や転移リンパ節診断における特異度の高さを評価する報告が多い.一方で浸潤傾向の強い癌腫においてFDGの集積が低いとする報告もみられ,当教室での切除例を対象とした検討でも,局所浸潤能の高い症例において,SUVmaxが有意に低値であった.胆道癌に関する報告は未だ多くはなく,機能的診断法としてのPET独自の価値を見いだすべく,詳細なデータを蓄積することが今後の課題である.

膵癌におけるPET検査の有用性と問題点

著者: 中里徹矢 ,   鈴木裕 ,   阿部展次 ,   柳田修 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   杉山政則 ,   跡見裕 ,   飯塚友道 ,   生形之男 ,   池田義毅

ページ範囲:P.244 - P.248

要旨:急速な症例数の増加をみせているFDG-PET検査であるが,日常診療のうえで万能な画像検査ではないことを理解する必要がある.膵癌診療ではスクリーニングから術後のフォローアップまで様々な状況下でFDG-PET検査の有用性が報告されているが,一方で多くの問題点が明らかになってきている.FDG-PETではTS1膵癌のような小病変の検出は難しく,スクリーニングには向かないと考えられる.しかし,術前の遠隔転移診断や再発診断については効果的と考えられる.さらに,予後予測因子としての有用性も報告されている.また,新しいトレーサーの開発など今後の展開が期待される.

GISTの診療におけるPET検査の応用

著者: 石川卓 ,   神田達夫 ,   間島寧興 ,   羽入隆晃 ,   松木淳 ,   小杉伸一 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.250 - P.257

要旨:GISTは消化管原発の間葉系腫瘍として最も多い疾患であり,近年の病態解明に伴い,その診断,治療が飛躍的に発展した.特にメシル酸イマチニブによる分子標的治療の導入により,転移・再発GISTの予後は大きく改善した.FDG-PET検査は,悪性腫瘍の抗癌剤治療効果判定で有用性が期待されているが,GISTの分子標的治療においても早期効果判定が可能であることが多数報告されている.CTなどと比べて空間分解能が劣ることなどの問題はあるが,消化管粘膜下腫瘍の質的診断,GISTの悪性度評価,イマチニブ二次耐性腫瘍の診断などにおいて有用性の高い検査と考える.GISTについてはまだ医療保険が適用されておらず,早期の適用拡大が望まれる.

炎症性腸疾患の発癌症例とPET検査

著者: 池内浩基 ,   内野基 ,   松岡宏樹 ,   坂東俊宏 ,   竹末芳生 ,   冨田尚裕

ページ範囲:P.258 - P.265

要旨:潰瘍性大腸炎に合併するcolitic cancer症例の臨床的特徴として,診断時の炎症の程度をCRPで検討すると,CRPが陽性でステロイド治療を受けている症例はごくわずかである.活動期の症例に対してFDG-PET検査を行っても大腸全体に集積されてしまう.CRPが陰性の症例に対して,癌の壁深達度と集積の関係を検討すると,MP癌以上の症例では集積を認めた.このなかには術前診断がdysplasiaの症例も含まれており,FDG-PET検査で集積を認める症例では,病理診断がdysplasiaであっても進行癌の可能性が高く,手術を急ぐべきである.一方,クローン病の領域では,直腸肛門の活動性の病変部位に癌が合併することが多い.また,組織学的に集積率の悪い粘液癌が多いこともあり,サーベイランス目的のFDG-PET検査の有用性は指摘できないのが現状である.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・14

胆道再建に愛用の手術器具・材料

著者: 三好篤 ,   北原賢二 ,   神谷尚彦 ,   能城浩和 ,   宮﨑耕治

ページ範囲:P.169 - P.173

はじめに

 胆道再建術は,胆管を切除あるいは切離したのちに,肝側を膵側胆管あるいは消化管と吻合して新たな胆汁路を作製する術式である.

病院めぐり

栗原市立栗原中央病院外科

著者: 内田孝

ページ範囲:P.266 - P.266

 栗原市は岩手県と宮城県の県境に位置しており,2004年に10町村が合併してできた人口8万弱の地方都市です.2008年6月の岩手宮城内陸地震の被災地として全国ニュースにもなりました.当院は栗原市の急性期医療と2次救急医療を担う病床数300(一般250床,療養50床)の中核病院です.2002年7月改築・移転した新しい病院で,免震構造を有します.岩手宮城内陸地震は震度6強でしたが,おかげで病院の被害は皆無で,被災地内にありながら災害医療が可能でした.

 2008年4月には病院機能評価Ver. 5の認定を受け,救急指定病院,災害拠点病院,管理型臨床研修病院でもあります.当院の標榜の診療科は14科で,常勤医師数は24名です.2010年度は2名の初期研修医を迎えます.外科関連の修練施設として日本外科学会外科専門医制度修練施設・日本消化器外科学会専門医修練施設となっており,マンモグラフィ検診施設画像認定も受けています.

みやぎ県南中核病院外科

著者: 内藤広郎

ページ範囲:P.267 - P.267

 当院は仙台市の南方約30kmにある大河原町に平成14年8月に新規開業した,一般病床300床の自治体病院です.運営自治体は大河原町のほか,隣接する1市2町で,背景人口は約11万人です.病院の基本計画は平成10年9月に策定され,「地域完結型医療のセンター病院」として機能することを目指しました.すなわち,救急医療の充実,入院医療,高度医療への特化,外来は紹介が原則という当時としては先進的な方針でした.その結果,最近では時間外救急患者12,000人/年,救急車受け入れ3,200台/年,外来患者430名/日,紹介率68%,逆紹介率50%,稼働率80%で推移しています.当初は住民からこの方針が理解されず苦情も多かったのですが,最近ではまずはかかりつけ医へという文化が定着しつつあります.また,入院治療に専念できる環境のためか医師数も順調に増加し,開院時は21名の常勤医でしたが,現在は常勤医48名,研修医17名の合計65名になりました.

内視鏡外科トレーニングルーム スーチャリング虎の穴・9

左で縫う

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.269 - P.274

Dr. 押忍!

 原稿の締め切りに追われ,京王プラザホテルで日本内視鏡外科学会(JSES)の隙を縫いながら書いています.ここでも「縫う」,すなわちスーチャリングのテクニックが活かされているのです!

 今回も前回に引き続き運針のお話になります.私の知る限り,最もクールな運針をする外科医の1人に「Dr. 押忍!」という人物がいます.彼の吻合技術は素晴らしく,空腸-空腸吻合がなんと5分….両手が見事に協調し,リズム感に富む流れるような運針をします.しかし,彼には内視鏡下縫合・結紮の基本はまったく当てはまりません.長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督の少年野球指導語録「球がこうスッと来るだろ」「そこをグゥーッと構えて腰をガッとする」「あとはバァッといってガーンと打つんだ」は有名ですが,まさに彼の技術も「鉗子をこうスッと寄せるだろう」「そこをグッと構えて糸をガッと取る」「あとはバァッといってキュッと結紮するんだ」という感じで,グリップもクソ握り,セットアップも軸も関係なし…まさに天才です.でも彼は決して初めから天才であったわけではなく,むっちゃ練習していますし,今もトレーニングを続けています.不器用な男で見た目もヤバそうですが,とても純粋かつ患者さんのための努力を惜しまない外科医で,私にとって大切な友人の1人です.

臨床報告

Direct Kugel Patchにて治療した閉鎖孔ヘルニア再々発の1例

著者: 森和弘 ,   蕪木友則 ,   石井要 ,   岩田啓子 ,   経田淳 ,   竹山茂

ページ範囲:P.275 - P.279

要旨:症例は81歳,女性.主訴は,腹痛・嘔吐.2007年4月,右閉鎖孔ヘルニアに対し,開腹下にメッシュシートを用いてヘルニア修復術を施行されたが,退院後25日目に右閉鎖孔ヘルニアの再発を認め,徒手整復術が施行された.2008年1月,腹痛・嘔吐が出現したため当院の救急外来を受診し,右閉鎖孔ヘルニアの再々発と診断された.鼠径法にて手術を施行した.横筋筋膜を切開し腹膜前腔に到達したところ,閉鎖孔に嵌頓したヘルニア囊を認めた.ヘルニア囊を剝離・開放したのち腹膜前腔にDirect Kugel Patchを留置した.術後の経過は良好で,術後19か月目の現在,再発は認めていない.閉鎖孔ヘルニアに対して,本法は確実に閉鎖孔を閉鎖でき再発例にも応用できる有用な術式と思われた.

緩徐な経過をたどり術前診断が困難であった大網裂孔ヘルニアの1例

著者: 近藤昭宏 ,   浅野栄介 ,   諸口明人 ,   岡田節雄

ページ範囲:P.281 - P.284

要旨:症例は36歳の男性で,2006年2月腹痛で入院となった.入院時の腹部CTで内ヘルニアが疑われたものの,臨床所見では腸管虚血所見はなく経過観察となった.入院後,腹痛は軽快したが膨満感は残存したため第6病日に腹部CTの再検査を施行したところ,やはり内ヘルニアが否定できず手術を施行した.開腹すると空腸が大網の異常裂孔より背側から腹側に脱出しており,大網裂孔ヘルニアと診断した.小腸は切除せず,大網裂孔の切開を行ったのち閉腹した.術後は問題なく軽快し,退院した.大網裂孔ヘルニアは稀な疾患で,術前診断には腹部CTが有用であると報告されている.しかし本症例のように病状が緩徐に経過し,術前診断が困難な場合もあり注意が必要である.

術前に診断し腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した小児胆囊捻転症の1例

著者: 大嶋俊範 ,   原田洋明 ,   森埼哲郎 ,   服部希世 ,   木村正美 ,   岐部明廣

ページ範囲:P.285 - P.289

はじめに

 胆囊捻転症は比較的稀な疾患で高齢女性に多く1),小児ではきわめて稀である2).また術前診断が困難なため,急性腹症として開腹手術が行われることが多い.今回われわれは,腹部超音波検査と造影CTにより小児の胆囊捻転症を術前診断し,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行して早期退院が可能となった症例を経験したので報告する.

S状結腸癌術後に発症した原発性小腸癌の1例

著者: 藤田敏忠 ,   生田肇 ,   角泰雄 ,   西田十紀人

ページ範囲:P.291 - P.294

はじめに

 近年,大腸癌の罹患率の高まりとともに他臓器との重複癌が認められるようになったが,その多くは胃癌であり1,2),小腸癌との重複癌は非常に稀である.今回われわれは,S状結腸癌の術後経過観察中に発症した原発性小腸癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

膵癌との鑑別に苦慮した,プレドニゾロン服用中に発症した自己免疫性膵炎の1例

著者: 山下築 ,   藤川貴久 ,   安部俊弘 ,   吉本裕紀 ,   白石慶 ,   田中明

ページ範囲:P.295 - P.301

要旨:症例は60歳,男性.1988年に膜性腎症と診断されて以来,プレドニゾロン5mg/日を服用していた.2008年7月に左背部痛を自覚し,近医で膵炎を疑われ,精査・加療目的で当科へ入院した.血液検査で膵酵素と腫瘍マーカーの上昇,造影CTで主膵管の軽度拡張と膵体尾部の腫大を認めた.ERCP,MRCPでは膵体部に約3cmの主膵管の途絶を認めた.膵液細胞診はclass Ⅱ,膵臓の病理組織学的検査は行わなかった.以上の所見から膵癌と自己免疫性膵炎を鑑別に入れた.IgG4が125mg/dlと軽度に上昇し,リウマチ因子陽性であるほかに免疫学的検査で異常は認めなかった.自己免疫性膵炎の診断基準は満たしておらず,膵体部癌の術前診断にて膵体尾部,脾臓合併切除を施行した.病理組織学的検査の結果,悪性所見は認めず自己免疫性膵炎の診断に至った.自己免疫性膵炎の発症前より長期間プレドニゾロンを服用している場合,自験例のように膵癌との鑑別がきわめて困難になることも予想される.膵癌では診断が遅れることで手術時期を逸する可能性もある.慎重に病理学的検査を行ったうえで診断がつかなければ,開腹での膵生検を含めた外科的切除を施行することも考慮すべきと考えられた.

完全内臓逆位症に併存した横行結腸腺腫に対し腹腔鏡補助下結腸粘膜切除術を施行した1例

著者: 河野洋平 ,   桑原亮彦

ページ範囲:P.303 - P.307

要旨:完全内臓逆位症に併存した横行結腸腺腫に対して腹腔鏡補助下結腸粘膜切除術を施行した.症例は74歳,女性.検診で便潜血陽性を指摘され,当院を受診した.既往歴として完全内臓逆位症を指摘されていた.大腸内視鏡検査で横行結腸に2cm大の腺腫を認めた.内視鏡的切除は困難であったため,腹腔鏡補助下結腸粘膜切除術を施行した.腹腔内を観察すると,完全内臓逆位を呈していたが随伴奇形は認めなかった.病変部の横行結腸は腹壁に癒着しており,これを剝離し,特に問題なく手術を施行し得た.完全内臓逆位症に対する腹腔鏡下大腸手術はまだ報告が少なく,文献的考察を加えて報告する.

粘膜下腫瘍様形態を呈した直腸癌の1症例

著者: 木村洋平 ,   五井孝憲 ,   小練研司 ,   飯田敦 ,   片山寛次 ,   山口明夫

ページ範囲:P.309 - P.313

はじめに

 直腸癌における肉眼形態は,潰瘍限局型に代表されるように大腸の管腔内に発育するものがほとんどであり,粘膜下腫瘍様の形態を示すものはきわめて稀といわれている1).今回われわれは,粘膜下腫瘍様病変を呈した直腸癌症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

昨日の患者

すべては自己責任のもとに

著者: 中川国利

ページ範囲:P.222 - P.222

 通常は容認しがたい患者さんの要望でも,本人が望めばできるだけ意に沿うように努めている.すべての行動は自己責任であるが,主治医としても結果は大いに気になる.

 40歳代半ばのSさんが黄疸を主訴として外来を突然受診した.紹介状には詳細な現病歴や検査結果が付けられており,紹介者はSさん本人であった.そして,総胆管結石症として当日の緊急手術を強く望まれた.さらには「仕事が忙しく,明日には退院できますか」と質問された.

書評

IDATENセミナーテキスト編集委員会(編)「市中感染症診療の考え方と進め方―IDATEN感染症セミナー」

著者: 後藤元

ページ範囲:P.231 - P.231

 79歳の女性.認知症があり,自宅で半ば寝たきりで過ごしていた.2,3日前から元気がなくなり,食欲も低下してきた.37℃台前半ではあるが微熱が出現している.胸部X線を撮ると右下肺野の透過性が低下しているようにみえる.血液検査では白血球数は4,800であったが,CRPは3.2と軽度ながら上昇していた.とりあえずキノロン系抗菌薬を経口で開始した.3日間使用したが,微熱は相変わらず続き,全身状態も改善がみられなかった.このため入院とし,抗菌薬をカルバペネムに変更した.しかし1週間経っても状態は同様であった.喀痰検査を行ってみたところ,Stenotrophomonas maltophiliaとMRSAが検出された.薬剤感受性成績をみるといずれもカルバペネム耐性である.そうか,だからカルバペネムは効かないのだ.この菌種を狙って抗菌薬を変更しようと今,考えているあなたにとって,本書は大きな助けとなってくれるであろう.

 感染症は,どの診療科であっても日常臨床の中で否応なしに対応を迫られる頻度の高い疾患である.しかし現在,わが国で感染症を専門としている医師は多くはない.ありていに言えば少ない.実際このような症例に遭遇した時,的確なアドバイスを与えてくれる上級医がそばにいてくれないという状況は少なくない.

宮崎 仁,尾藤誠司,大生定義(編)「白衣のポケットの中―医師のプロフェッショナリズムを考える」

著者: 黒川清

ページ範囲:P.243 - P.243

 この数年,「プロ」という言葉がどこの職業分野でも簡単に使われてきた.しかし,「プロ」とは誰か,その資格のありようは何か,誰が決めるのか,そんなことはお構いなしに安易に使われていたところがある.

 では,「プロ」の職業人のありようとは何か.ひと言で言えば,その集団の一人ひとりが,自らを律し,その集団全体が社会からどれだけ信頼されているか,評価されているか,であろう.グローバル時代になっては,この社会が国内だけでないところも,この問題の背景にある.

大木隆生(編)「胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術の実際」

著者: 古森公浩

ページ範囲:P.314 - P.314

 大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術が日本でも盛んに行われるようになった.腹部大動脈瘤の市販のステントは2006年に認可され,現在3種類が使用されている.これまでに約4,000例が施行されており,腹部大動脈治療の約30~40%を占めている.胸部大動脈瘤の市販のステントは2007年に認可され,現在2種類が使用可能である.これまでに約1,000例が施行されている.

 日本では日本血管外科学会を含む関連11学会により構成された「ステントグラフト実施基準管理委員会」により施設基準,実施医基準および指導医基準が定められ,書類審査の上認定される.2009年9月現在腹部の3種類のステント指導医の合計は延べ約300人に対し,胸部の指導医は約30人とまだ少なく,実施施設も多くないのが現状である.そのような状況にあって,胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aneurysmal repair:TEVAR)の手技を解説した,非常にわかりやすいテキストブックが東京慈恵会医科大学グループにより,このたび発刊された.

1200字通信・10

「ディア・ドクター」

著者: 板野聡

ページ範囲:P.248 - P.248

 「もし,あの偽医者が出てきたとして,袋叩きにあうのはこっちの方で,山のどこかに埋められたりするのかもしれないなぁ」

 2009年6月に公開された映画「ディア・ドクター」(Dear Doctor製作委員会)の終わり近くになって,失踪した偽医者の捜査に来ている刑事が呟く台詞です.本作は,笑福亭鶴瓶さんの初主役ということで話題になった映画ですが,脚本と監督を手掛けた西川美和女史は重要な台詞を脇役に喋らせているようで,私の心に残った台詞の1つです.

勤務医コラム・9

夜来る患者様列伝

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.301 - P.301

 当院は一般病床50床の小ぢんまりとした外科系病院で,二次救急もやっていて敷居が低い感じなのでしょうか,チョイとしたことでいろんな人がやってきます.夜12時を過ぎると,「何故その症状でこの時間に来たの?」という受診理由不明の方々が出没します.市中の中小病院では珍しくもないことだと思いますが,何人かご紹介しましょう.

 20歳代女性,腹が張ると訴えて1時に初診してきたが,正常妊娠の臨月であった.産科も含めて病院へ来るのは初めてとのこと.ナンデ夜中なの?

ひとやすみ・56

大往生とは

著者: 中川国利

ページ範囲:P.307 - P.307

 この世に生を受けた者は,必ず死を迎える.それでは,どのような死に方が理想であろうか.昨今は死ぬ直前まで元気で,ある日突然に召される「ポックリ病」がもてはやされている.しかし,ポックリと逝くことは本当に理想的な死に方であろうか.

 日本人の主な死因としては,癌,心筋梗塞,脳梗塞,肺炎などが挙げられる.ポックリと逝く死因としては色々と挙げられるが,心筋梗塞が最も多いと思われる.心筋梗塞が生じた場合,短期間ではあるが激烈な胸痛で苦しむ.それよりなにより家族を含めた周囲の人々に別れを告げることなく,唐突に逝くことになる.

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あとがき

著者: 畠山勝義

ページ範囲:P.320 - P.320

 2006年第61巻第8号のこの欄で新潟県佐渡市におけるトキ(朱鷺)の人工繁殖を,2008年第63巻第8号では試験放鳥のための訓練について,2009年第64巻第1号では第1回目の10羽の試験放鳥について紹介したので,今回はトキに関しての4回目の紹介となる.

 第1回目の試験放鳥(2008年9月25日)に引き続いて,2009年9月29日に2回目の放鳥が行われた.今回は雄が8羽,雌が12羽の合計20羽である.そして今回の放鳥の特色は,前回の「ハードリリース」方式の反省から「ソフトリリース」方式にしたことである.前回は,「ハードリリース」といって1羽ずつ狭い箱に入れられていたトキを1羽ずつ次々と放鳥したのであるが,これに加えて観衆に驚かされたことも原因となり,結果的には全く群れを作らずバラバラに行動することになった.そこで今回は「ソフトリリース」とし,仮設ケージにあらかじめ放鳥する20羽を入れて慣らしておき,そのケージの1端を開放して自然にケージから飛び立たせたのである.この結果,開放当日の29日は2羽が,30日には11羽が,10月1日には3羽(このうちの1羽は直ぐに保護された)が,2日には2羽が,そして3日には2羽がケージから飛び立ち,5日間ですべてのトキが自然のかたちで飼育ケージから自然の山里へと飛翔したのである.この「ソフトリリース」の好影響と思われるが,約2か月した現在もなおトキは群れを形成して過ごしている.このように群れを形成していれば,春には自然環境のなかでの繁殖も大いに期待されるとのことである.自然の山野で自然孵化した雛を是非ともみたいものである.

 一方,第1回目に放鳥されたトキのうち,4羽(いずれも雌である)が本州に飛び渡ってきており,このなかで現在3羽の生存が確認されている.識別番号が3番のトキは新潟県燕市で,4番トキは富山県黒部市で,13番トキは新潟県長岡市で確認された.このなかで13番トキは,7月15日より新潟大学のすぐ近く(新潟市西区内野)に4か月ほど住んでいた.このため,学長が遊び心でこのトキに学生証を発行している.在籍番号は「091001(2009年10月01日の意味)」,所属は「自然再生学」,氏名は「飛翔カズミ(識別番号が13なのでカズミとした)」である.学長は「遊び心」としているが,粋なはからいと評判である.このような学生が多数入学し,大学キャンパスでいつでもみられる環境になることを望むものである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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