icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科65巻3号

2010年03月発行

雑誌目次

特集 エキスパートが伝える 消化器癌手術の流れと手術助手の心得

ページ範囲:P.325 - P.325

 日常診療においてチーム医療の重要性が注目されるようになって久しく,あらゆる医療現場において実践されている.そのチーム医療の原点とも言える「手術」という現場は術者,数名の助手,介助看護師,外回り看護師,そして麻酔医を中心に狭義の「チーム医療」が展開されている.

 この手術における術者,手術助手のあり方も,従来から引き継がれている普遍の形態もあれば,最新の医療技術,医療機器,医療環境,外科教育のあり方などの変化に伴って変化,もしくは進化したものもある.

特集によせて

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.326 - P.327

■はじめに

 今日までも,色々な外科専門雑誌において手術助手のあり方は様々のかたちで特集も組まれ,また,手術手技研究会からは「手術べからず集」1)「新べからず集」2~4)などが出されており,助手の心構えなどが示されてきた.日常診療においてチーム医療の重要性が注目されるようになって久しく,あらゆる医療現場において実践されている.そのチーム医療の原点とも言える「手術」という現場は,術者,数名の助手,介助看護師,外回り看護師,そして麻酔医を中心に狭義の「チーム医療」が展開されている.手術における術者,手術助手のあり方は従来から引き継がれている普遍の形態もあれば,最新の医療技術,医療機器,医療環境,外科教育のあり方などの変化に伴って変様,変貌,もしくは進化したものもある.このような現況に鑑み,外科手術における最新の術者と手術助手のあり方を再考し,整理することはきわめて意義深いものと考える.

 手術においては,術者のみならず助手もこれを熟知したうえで臨むことは言うまでもないが,それぞれの立場でどのような役割と責任を果たしてゆくのか,という点から,消化器癌の臓器別の標準的手術を中心に最新の手術の流れと,各局面における助手の役割とそのあり方のポイントを示していただきたく,本特集を企画した.

 本稿では,一般的観点から手術助手のあり方を簡潔にまとめてみる.

手術における指導的助手とその役割

著者: 畠山勝義

ページ範囲:P.328 - P.331

要旨:近年,「指導的助手」という語句を見かける機会が多くなってきている.指導的助手とは,術者よりその手術の経験や知識が多く,専門医や指導医の資格があってその術者を指導しながら手術を行う,その手術の最終(最高)責任者と解釈される.術者と同様に指導的助手にも手術責任は絶対的に存在する.ほかの医療従事者への指示は術者と同等か,それ以上となる.主体的手術操作はあくまでも術者にあるが,手術の経験や知識はもちろん術者より高度なものが要求される.したがって,手術操作における指導的助手の役割は,技術面では通常の手術助手と同等であるが,手術に対する知識や経験は術者より優れていることが要求され,実際に手術手技などの指導が必要となる.また,精神面での支えも通常の助手以上に必要となることが多い.

食道癌手術の流れと手術助手の心得

著者: 加藤広行 ,   佐々木欣郎 ,   依田紀仁 ,   小野寺真一 ,   中島政信 ,   大塚吉郎

ページ範囲:P.332 - P.338

要旨:手術は術者,助手,看護師,麻酔医で構成される医療チームによる共同作業である.胸部食道癌手術は消化器外科手術のなかでも難度が高い手術であり,術野が狭くて深部にあるため,術者単独では手術の場を作り出すことができず,助手の役割もほかの手術と比較して特徴的である.助手の役割の多くは術野の展開であり,重要臓器が密集する縦隔において組織の牽引および臓器の圧排には解剖学的知識と愛護的な操作が要求される.本稿では,胸腔鏡補助下の右開胸食道亜全摘・後縦隔経路胃管再建術の流れと助手の役割について解説した.優れた助手は知識と正確な技術のみならず,献身的な配慮と忍耐力が要求される.向上心を持って経験を積み,食道外科医への階段を着実に歩んで欲しい.

内視鏡下食道癌手術の流れと手術助手の心得

著者: 名久井実 ,   小澤壯治

ページ範囲:P.340 - P.346

要旨:助手に要求される根本は,「チームとしての能力を最大限に発揮するために自分のなすべきことは何か」,そして「今,術者は何を考えているのか」という観点に立ってつねに行動するということである.また,これを円滑に行うためには,お互いが遠慮なく質問・提案・指導できる「人間的信頼関係」を日頃から構築しておくことがきわめて重要である.食道癌の内視鏡下手術では術者の目が行き届かない領域が必然的に増えてしまうため,助手は開腹・開胸手術以上に見えない視野でも組織を愛護的に扱う技術が必要であり,また,遠慮なく意見・確認・質問をできる雰囲気を保つことが非常に重要である.

胃癌手術の流れと手術助手の心得―幽門側胃切除における助手の役割

著者: 木下浩一 ,   渡邊雅之 ,   藏重淳二 ,   齊藤誠哉 ,   辛島龍一 ,   佐藤伸隆 ,   今村裕 ,   長井洋平 ,   岩上志朗 ,   池田貯 ,   林尚子 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.348 - P.352

要旨:開腹手術で助手に最も求められるものは術野の展開・確保である.それに加えての術者の補助として,脈管や結合織の結紮切離,組織の牽引(カウンタートラクション),吸引なども重要な役割の1つである.一方,手術は助手が優れた術者の技術を学ぶ場であり,外科局所解剖を学ぶ場でもある.また,術者の経験が浅いときには,その指導を含めた高度な知識も要求される.本稿では,開腹による胃癌の標準的手術として,D2リンパ節郭清を伴う幽門側胃切除術の流れと助手の役割について解説する.

内視鏡下胃癌手術の流れと手術助手の心得

著者: 河村祐一郎 ,   金谷誠一郎 ,   宇山一朗

ページ範囲:P.354 - P.358

要旨:早期胃癌に対する外科的治療として腹腔鏡下胃切除術が普及しつつあるが,その歴史は浅く,術者を養成する一連のサイクルが定着したとは言いがたい.しかし,一部の施設では早期胃癌に対する手術手技は定型化され,術者,助手の役割,手順も明確になってきている.腹腔鏡下手術に特有の助手としてカメラ助手が存在する.カメラ助手は軽視されがちであるが,術者に次ぐ重要な役割である.第1助手の役割は助手の技量によって各段階があり,本稿では標準的術式として腹腔鏡下幽門側胃切除術での各ステップでの場の展開とポイントについて触れた.術者としての成長は単に技術の上達のみならず,場の展開,切離ライン,剝離層のそれぞれに一貫性と合理性が備わることが必要である.指導者として症例の蓄積による技術を披露するだけでは新規術者の教育は困難である.術式の定型化を模索しつつ,鮮やかな場の展開と合理的な手順を示し,感動を与えることこそが指導者の役割であると考える.

大腸癌手術の流れと手術助手の心得

著者: 野澤慶次郎 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.360 - P.362

要旨:指導助手とは,若い外科医が術者となったときに,手術全般について術者の経験や技術度に応じて手術を指導・補佐することである.大腸癌手術における腸管切除・吻合は消化器外科における基本的手技であり,そのためには大腸癌の病態をよく知り,解剖を十分に理解して手術を行う必要がある.標準的な手術のステップは,まず腸管の授動を行い,つぎに血管処理(腸間膜処理),最後に腸切除・吻合となる.助手のポイントは,(1)良好な視野を保ち,(2)適切なカウンタートラクションを行い,(3)周囲臓器との位置関係をつねに配慮することである.

内視鏡下大腸癌手術の流れと手術助手の心得

著者: 小野里航 ,   中村隆俊 ,   内藤正規 ,   池田篤 ,   小澤平太 ,   佐藤武郎 ,   井原厚 ,   渡邊昌彦

ページ範囲:P.364 - P.371

要旨:内視鏡下手術は低侵襲手術として急速に普及した.現在,「大腸癌治療ガイドライン.2009年版」では結腸癌および直腸S状部癌のうちcStage 0,Ⅰがよい適応とされている.当院では深達度SEまでの盲腸癌,上行結腸癌,下行結腸癌,S状結腸癌,直腸S状部癌と,深達度MPまでの横行結腸癌,直腸癌に対して内視鏡下手術を行ってきた.

 内視鏡下手術における助手は術者との協調操作を心がけ,切開や剝離などの操作部位に適度な相互緊張をかけることが重要である.本稿では,われわれの経験に基づいた結腸右半切除術(内視鏡下手術)とS状結腸切除術(内視鏡下手術)の手術手順について助手の役割を含めて述べる.

肝癌手術の流れと手術助手の心得

著者: 島津元秀

ページ範囲:P.372 - P.378

要旨:肝切除においては,術野の維持,止血操作,頻回の結紮など,手術時に助手が能動的な役割を果たすことが多い.主として助手が行う肝内脈管の結紮は結紮点が動くと容易に裂けて出血するため,熟練した結紮技術が必要である.また,下大静脈損傷による大量出血などの術中偶発症では,助手は適切な止血の補助や血液吸引などを行って冷静に術者を助けねばならず,無事に手術を完遂するうえで助手の役割は大きい.

 本稿では,前方アプローチによる右肝切除術の流れを示し,術野の展開と助手の役割について解説するとともに,術者,助手の心得,あり方について筆者の考えを述べた.

胆道癌手術の流れと手術助手の心得

著者: 宮崎勝 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝則 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   須田浩介 ,   高野重紹 ,   久保木知

ページ範囲:P.380 - P.384

要旨:胆道癌の外科手術においてはほかの外科手術に比べて第1助手の役割がきわめて大きく,術野展開の手助けや確保を行い,また,手術操作の手順を術者と同様のレベルで読んでいかなければならない.そのためには胆道癌手術で最も重要な術前画像から手術プランをしっかり立てておかなくてはならず,術者と同一レベルの質の高さが要求される.

 胆道癌外科切除においてはしばしば進行例が多いため,標準的な予定手術どおりには手術が進められないこともしばしばある.そのような非定型的な手術の進み具合にも対応できる能力が助手にも術者と同様に求められる.また逆に,このような経験を1例1例助手として積んでいくことが,若い外科医が成熟した外科医として胆道外科手術をこなしていけるようになる近道であろう.困難な非定型的な手術を選択せざるを得ないような症例が多い胆道癌手術は,消化器外科の癌手術の応用編として,一般外科研修を終えた外科医にとって外科医としてさらなるskill-upをするにふさわしい経験となろう.将来,どのような消化器外科医を目指そうと,胆道癌手術をチームの一員として経験することは大変有益で魅力的な研修効果を挙げるものである.

 本稿では,胆管癌に対しての標準的な術式である肝右葉+尾状葉切除および胆管切除+胆管空腸吻合術を例にとり,その手術の進め方と,手術中の助手の役割についてポイントを述べる.

膵癌手術の流れと手術助手の心得

著者: 杉山政則 ,   鈴木裕 ,   阿部展次 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   跡見裕

ページ範囲:P.386 - P.392

要旨:膵癌に対する幽門輪温存膵頭十二指腸切除術における助手の主な役割は,良好な術野の展開,適切なカウンタートラクション,迅速かつ確実な結紮である.その際に膵実質や門脈系分枝などを損傷しないように気をつける.膵管非拡張例での膵管空腸粘膜吻合は技術的にやや困難である.膵管ホルダー(円錐形の膵管拡張器),mucosa squeeze-out法(小孔の周囲の空腸を丸く握り,粘膜を外翻させる)や,助手による縫合糸の整理(W字形クリッピングなど)によって吻合操作が容易となる.

内視鏡外科トレーニングルーム スーチャリング虎の穴・10

TANKO結紮

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.393 - P.399

響き渡る単孔節

 新年明けましておめでとうございます.

 今年の干支は寅! そう,まさに「スーチャリング虎の穴」にふさわしい年です.

 私も皆さんのお役にたてるよう,また締め切りに間に合うよう,一層努力していきたいと考えております.本年も,何卒よろしくお願いいたします.

 ところで,皆さんは“TANKO”してますか? “TANKO”とは単孔式内視鏡下手術の愛称で,英語風にタンコゥと発音します.昨年12月のJSESではあっちこっちの会場やブースで「単孔節」が響き渡ってましたね.

外科専門医予備試験 想定問題・1【新連載】

消化器①(消化管)

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   青木耕平 ,   松田諭

ページ範囲:P.400 - P.407

連載開始にあたって

 2009年8月に実施された外科専門医予備試験は計110題(2008年以前は100題)の出題があり,消化器48題,心臓血管18題,呼吸器11題,乳腺・内分泌11題,小児外科11題,救急・麻酔11題の内訳でした.今号より5回の連載で,予備試験の難易度に合わせた「想定問題」を分野別に解説していきます.まずは問題の難易度を知って感触をつかむためにも,気軽に挑戦してみて下さい.第6回では直前対策として,全分野の基本事項をもう一度総復習する予定です.

 消化器48題は各臓器の解剖,癌の画像診断に関する基礎知識が問われます.また,外科学総論的な問題が数題含まれています.全般的に良問が多く,一部の専門施設で行っているような高度な手術術式に関する問題や最近確立された補助療法を問うような問題はないので,対策は教科書の復習が最優先となります.今回は消化器のなかから,消化管(食道,胃,小腸,大腸,肛門)を扱います.次回は肝胆膵,外科学総論から出題します.

病院めぐり

富士重工業健康保険組合 総合太田病院一般外科

著者: 神徳純一

ページ範囲:P.408 - P.408

 当院の存在する太田市は群馬県南東部に位置し,人口約22万人の工業都市です.東京から東武電車で約1時間20分の距離にあります.高速道路では2008年3月に北関東自動車道が開通し,アクセスがよくなりました.市内には富士重工業の主力工場が複数あります.当院は1938年に富士重工業の前身である中島飛行機により開設されました.終戦時に一時閉鎖されましたが,1946年に健康保険組合の病院として再開されました.その名称が示すように富士重工業健康組合が設立母体の病院ですが,太田市最大の総合病院であり,地域の中核病院として市民病院的役割を果たしています.

群馬県立小児医療センター外科

著者: 鈴木則夫

ページ範囲:P.409 - P.409

 当センターは高度専門的な総合的小児医療,保健活動を目指す施設として構想され,未熟児・新生児・乳児低年齢層の幼児を中心とした専門的な診断治療を行う施設として昭和57年から全面的に診療活動を開始しました.当初は80床でスタートし,すぐに98床(新生児30床,小児内科44床,外科24床)に増床しました.その後も病棟の小改造で103床までの増床が行われましたが,平成17年5月に新病棟が開設され,総合周産期母子医療センター,血液・腫瘍・循環器病棟に小児集中治療室(PICU)8床(現6床が稼働)を加え,現在は150床,16診療科となり,学童を含めた県下の3次救急と,北毛地区の輪番制2次救急を受け持っています.

臨床研究

完全皮下埋め込み式カテーテルの抜去例の検討

著者: 繁本憲文 ,   田原浩 ,   前田佳之 ,   布袋裕士 ,   平岡俊文 ,   三好信和

ページ範囲:P.411 - P.415

要旨:2006年1月から2008年8月までに呉共済病院で完全皮下埋め込み式カテーテルを留置した124例を対象とし,年齢,性別,穿刺か入れ替えか,担癌,糖尿病,抗悪性腫瘍薬・高カロリー輸液投与,ストーマ,胃瘻,喫煙,飲酒の有無,留置時の白血球数,末梢総リンパ球数,血清アルブミン値,血清コリンエステラーゼ値,予後について検討した.挿入時の合併症として血管外迷入が1例みられた.ポートが使用されなくなって1例で抜去し,18例で感染や外傷によって抜去した.のべポート挿入日数は36,472日で,1,000日あたりのポート抜去率は0.52%であった.高カロリー輸液投与した患者に感染による抜去例が多かった.ポート抜去した群とそのほかの群で予後に差はみられず,原因に対して適切に治療が行われれば生命予後への悪影響は小さいと考えられた.

開腹歴のない絞扼性イレウスの検討

著者: 北薗巌 ,   石部良平 ,   槐島健太郎 ,   三木徹生

ページ範囲:P.417 - P.419

要旨:今回,川内市医師会立市民病院(以下,当院)で経験した開腹歴のない絞扼性イレウスを対象として,その臨床的特徴を解析し,開腹歴のある絞扼性イレウスとの比較検討を行った.2005年1月から2009年4月までの4年4か月の間に,絞扼性イレウスの診断で当院に入院となった22例中,開腹歴のない症例(A群)は8例(36.3%)であった.その原因としては,大網組織からなる索状物形成が7例で,小腸型Chilaiditi症候群が1例であった.また,開腹歴のある群(B群:14例)との比較検討では,A群において絞扼された腸管の長さが有意に長かった(p=0.04).今回の検討で,A群における絞扼の原因として大網組織からなる索状物によるものが多く,B群と比べて絞扼腸管の長さが有意に長かったことから,開腹歴のない症例に関しては迅速な診断と早期の手術が要求されることが示唆された.

手術手技

PROLENE* Hernia Systemによる大腿ヘルニア修復と再発予防

著者: 松谷毅 ,   内田英二 ,   松下晃 ,   川本聖郎 ,   新井洋紀 ,   笹島耕二

ページ範囲:P.421 - P.425

要旨:当科で行っている大腿ヘルニア予防を目的としたPROLENE* Hernia System(PHS)のunderlay patch展開の工夫を紹介する.横筋筋膜と腹膜前筋膜浅葉を切開し,腹膜前腔へ到達する.Cooper靱帯を同定し,外腸骨静脈の内側と恥骨結節側の2か所でunderlay patchをCooper靱帯に固定する.内鼠径輪を十分に覆うようにunderlay patchを腹膜前腔で展開すると,underlay patchは腹膜前腔の層でmyopectineal orifice(大腿輪,Hesselbach三角,lateral triangle)を被覆するように配置される.

臨床報告

部分内臓逆位症および腸回転異常症を併存した進行胃癌の1例

著者: 角谷慎一 ,   前田一也 ,   吉田貢一 ,   村上望

ページ範囲:P.427 - P.431

要旨:内臓逆位症は合併奇形が多く,各領域において診断治療の困難性が課題とされている.今回,部分内臓逆位症および腸回転異常症を併存した進行胃癌の1例を経験したので報告する.患者は85歳,女性で,食欲不振と上腹部痛を主訴に来院し,精査の結果進行胃癌と診断された.開腹所見では,肝臓は正中に,胃・脾臓は右上腹部に存在しており,部分内臓逆位症を呈していた.また,腸回転異常症も併存していた.術式は胃全摘術,Roux-en-Y法による再建を行った.病理結果はtub2>por1,se,intermediate type,INFβ,ly0,v2,n1,stage ⅢAであった.術前CT検査が各臓器の位置関係や血管走行の把握に有用であった.

乳房神経鞘腫の1例

著者: 武田佳久 ,   稲本将 ,   安田誠一 ,   寺村康史 ,   山田英二 ,   赤松信

ページ範囲:P.433 - P.437

要旨:患者は82歳,女性.左乳房腫瘤を近医で指摘されて来院した.左乳房に径5.0×3.0cm大の可動性がきわめて良好な腫瘤を認めた.触診上,線維腺腫などの良性腫瘍を疑った.針生検組織診では確定診断が得られず,年齢や腫瘤の大きさから乳癌も念頭に置いて腫瘤摘出術を施行した.摘出された腫瘍は5.0×3.0cmで,内腔は半透明な黄色の粘液様腫瘤であった.腫瘍のHE染色による組織診断では平滑筋腫や神経鞘腫などの間葉系腫瘍が疑われたが,確定診断には至らず,免疫組織診断を行った.S-100蛋白強陽性から神経鞘腫と診断された.乳房神経鞘腫は,文献検索した範囲内においてわが国では9例のみであり,稀な疾患と考えられた.

イマチニブによる間質性肺炎を発症し,再投与を行ったgastrointestinal stromal tumor再発の1例

著者: 阪田和哉 ,   小塚雅也 ,   森至弘 ,   山本正博

ページ範囲:P.439 - P.443

要旨:患者は78歳の男性で,2008年1月上旬からgastrointestinal stromal tumor(GIST)に対してイマチニブ加療を行っていた.同年2月下旬,受診の6日前から労作性呼吸困難が出現して受診した.CTで両肺野にスリガラス陰影と胸水を認めた.経過と併せてイマチニブによる間質性肺炎を疑い,内服を中止して入院し,経過をみたところ軽快した.残存腫瘍に対してイマチニブとプレドニン30mg/日を併用して投薬を再開した.経過は順調で,現在も投与継続中である.CT上腫瘍は認めず,肺炎の再発兆候も認められない.イマチニブによる間質性肺炎,さらに再投与した文献は少ないため報告する.

出血部位を術前に特定し得た空腸憩室出血の1例

著者: 上原智仁 ,   伊達和俊 ,   藤田加奈子 ,   井上譲 ,   川口誠

ページ範囲:P.445 - P.449

要旨:術前に出血部位を特定し得た空腸憩室出血の1例を経験したので報告する.患者は78歳,男性.2008年6月に吐下血で救急外来を受診した.血管造影検査で第1空腸動脈に造影剤の漏出を認めたため,同部に止血目的にコイリングを行ったが,翌日に再度の下血とショック症状を呈したため,緊急手術となった.術中所見ではコイルによって出血している憩室を特定し,周囲の憩室を含めて十二指腸水平部遠位から空腸の部分切除を行った.空腸憩室出血は出血部位を特定するのが困難であるが,術前に血管造影検査で出血源と考えられる血管にコイリングを行うことで手術を容易に行えると考えられた.

術前診断が困難であった肝硬化性血管腫の1切除例

著者: 吉田月久 ,   杉町圭史 ,   祇園智信 ,   副島雄二 ,   相島慎一 ,   武冨紹信 ,   前原喜彦

ページ範囲:P.451 - P.455

要旨:患者は75歳,女性で,右乳癌に対する術前検査中に肝腫瘤を指摘された.造影CT,MRIで肝S5/6に早期相で周囲が造影され,遅延相で内部が濃染する径3.7cm大の腫瘍を認めた.FDG-PETでは肝に異常集積はなかった.右乳癌は21mm大の囊胞性病変であり,細胞診ではductal carcinomaと診断された.これらは腺癌に矛盾しない画像所見と考え,肝内胆管癌もしくは乳癌肝転移の診断で肝S5/6部分切除術および右乳房部分切除術を施行した.病理組織学的検査で肝硬化性血管腫と診断され,悪性の所見はなかった.肝硬化性血管腫は稀な疾患であるが,肝乏血性腫瘤の鑑別診断の1つとして認識しておく必要があると考えられた.

ひとやすみ・57

選択される病院

著者: 中川国利

ページ範囲:P.385 - P.385

 自分自身が病を得て手術を受ける必要が生じた場合,どの医療機関で誰に手術を依頼するであろうか.疾患は同じでも,施設によって,さらには術者によって術式や成績は微妙に異なる.

 一般に患者さんは最寄りの医療機関を受診する.そして手術が必要となれば,診断された病院で手術を受ける.一方,手術が対応困難な場合には専門病院へ紹介されるのが通常である.しかし,最近は各病院の広報活動の充実や出版会社の情報誌によって,患者さんが居住地とは無関係に医療機関を選択しつつある.自分自身の体であり,より完璧な手術を望むのは当然の行為である.

1200字通信・11

9年連続200本安打

著者: 板野聡

ページ範囲:P.410 - P.410

 2009年,イチロー選手が9年連続200本安打というメジャーリーグ新記録を樹立しました.テレビ番組でも特集が組まれ,偉業達成までの記録やイチロー選手の生の声が盛り込まれており,大変興味深く観ることができました.

 ところで,この「1年に200」という数字ですが,卒後30年を過ぎて,私個人の手術記録簿の番号は,この原稿を書いている時点で6,100番を超えており,時代によって年間の手術数に多寡はあったものの,平均して毎年200件の手術をこなしてきたことになります.もっとも内容はというと,アテローム摘出術に始まり,アッぺ,ヘモ,ヘルニアといったものから,腹腔鏡下胆囊摘出術,さらには消化器癌の手術まで色々な種類があり,イチロー選手のように決して華々しいものではありません.しかし,同じ数字になっているという偶然に満足し,勝手に1人で喜んでいます.

勤務医コラム・10

パスって何だ?

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.416 - P.416

 子供の頃,夏休みは一大イベントであった.遊ぶ気満々なのだが,なぜか「勉強もがんばるぞ!」という熱気を持っていて,突入前に「夏休み計画表」なるものをこしらえた.

 計画表を作るのは楽しい.特殊技能など不要であり,誰にでも作れるからだ.しかし,いざ夏休みに入ったらアラ不思議.次第に崩れていく.計画と現実とは相異なる.7月中はまだよい.8月に入ると相当なvarianceが入り,盆過ぎなどは,形骸化して壁からはがれかけた計画表が扇風機の風にはためいていたものだ.8月末に至って計画は海の藻屑と消え,「とりあえず提出物だけは……」みたいな感じとなる.それをなんとか仕上げた途端に晴れ晴れとした気持ちになり,9月の学校へ出て行くが,あの計画のことなどもはや忘却の彼方.

書評

大木隆生(編)「胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術の実際」

著者: 石丸新

ページ範囲:P.426 - P.426

 本書の編者である大木隆生氏は,米国アルバートアインシュタイン医科大学血管外科学教授にして,東京慈恵会医科大学外科学講座教授・統括責任者の要職にある気鋭の外科医として知られている.米国での豊富な臨床経験を携え2006年に帰国.以来わが国の血管外科医の育成と血管内治療を中心とした先端医療の実践に日々奮迅する中で,やがてそれらの成果が編纂されることは必然であったといえよう.今回,胸部大動脈用ステントグラフトの国内導入時期に合わせ,満を持して本書を上梓した先見性と実行力には氏の面目躍如たるものがある.

 欧米では1990年代後半に腹部大動脈瘤を対象として企業製ステントグラフトの臨床応用が開始されたが,わが国では専ら胸部大動脈瘤あるいは動脈解離について,手作りのステントグラフトによる治療が行われ,今日まで多数の治療経験がある.しかし,個々に手作りされたデバイスが使用されている限り,その治療手法に普遍性を見いだすことは困難であった.

NPO法人マンモグラフィ検診精度管理中央委員会(編)「デジタルマンモグラフィ品質管理マニュアル」

著者: 飯沼武

ページ範囲:P.432 - P.432

 日本の乳癌は罹患数と死亡数とも増加を続けており,適切な一次予防法がないため,マンモグラフィによる乳癌検診による二次予防が必須であることは周知の通りである.

 わが国のマンモグラフィはデジタルマンモグラフィが7割を超えるというデジタル大国であり,本書のような品質管理マニュアルが望まれていた.本書は,まさにタイミングよく発刊されたといえる.また,日本の乳癌検診のシステムとして,世界に誇るべきものが「マンモグラフィ検診精度管理中央委員会」であるが,それによる編集も時宜に適っている.

昨日の患者

執筆は自己アピール

著者: 中川国利

ページ範囲:P.456 - P.456

 人は何ゆえ文章を書くのであろうか.書くことを生業とした職業人は別として,多くの人は書くことによって自己をアピールし,そして心が穏やかになる.癌のターミナルになっても文章を書き続けたSさんを紹介する.

 Sさんは90歳の時に大腸癌で手術を受けた.進行期癌にもかかわらず術後経過は良好で,時おり外来にも顔を出した.また,術前と同様に家庭園芸に勤しみ,ボケ防止と称しては日々の感じたことを同人雑誌などに投稿した.そして,今までに執筆した随筆を集めて自費出版し,主治医の私に贈呈してくれた.

--------------------

あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.460 - P.460

 30年前に医学部を卒業して外科医を志した理由の1つに,手術室に入室した際の「張りつめた空気」のなかにある「緊張感」「澄み切った透明な空気」「背筋が伸びる雰囲気」に対する,ある種の親和感および心地よさを感じたことを思い出す.

 そこで,ここで少々「空気」というものについて考えてみたい.山本七平氏の『「空気」の研究』(文藝春秋,1977年)は有名である.本書では,空気を読むことが時に集団の意志決定をゆがめ誤らせることが指摘されている.最近では「場の空気」がいわゆる「いじめ」を助長しているとされたり,さらには「空気を読めない」を略して「KY」という言葉が取り上げられたりすることもあった.また,インターネット上のコミュニティにおいても「場の空気」が存在することが指摘されている.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?