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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科65巻4号

2010年04月発行

雑誌目次

特集 消化器癌neoadjuvant chemotherapyの新展開

ページ範囲:P.471 - P.471

 近年,化学療法の進歩はめざましく,消化器癌の治療成績向上に寄与し得る重要な因子として扱われるようになっている.特に,切除不能消化器癌に対する有効性が明確になり,さらに術前adjuvant chemotherapyの有効性が示唆される,といったデータが多く示されるようになってきた.いま,このように有効な術前補助療法を用いることでさらなる外科切除の適応拡大,外科切除後の再発予防といった効果が期待されている.

 こうした観点から,本特集では消化器癌外科治療のエキスパートに,neoadjuvant chemotherapyの新たな展開について,自験例を交えてreviewしていただいた.

〔根治性向上〕

進行食道癌に対するneoadjuvant chemoradiotherapyの意義

著者: 竹内裕也 ,   大山隆史 ,   才川義朗 ,   北川雄光

ページ範囲:P.472 - P.477

要旨:これまで食道癌に対する術前,術後補助療法の有用性を検証したランダム化比較試験(RCT)は数多くみられるものの,研究デザインや治療レジメン,手術精度などの違いから一定の見解は得られていない.しかし最近のmeta-analysisの結果からは術前補助化学療法,術前補助化学放射線療法の有用性も示されるようになっている.わが国における術前補助化学放射線療法の意義については未だ明らかでないが,欧米での標準治療になりつつあるtri-modality therapyとの比較という見地からも,JCOG9907に続く臨床試験として術前補助化学放射線療法を検証する国内多施設共同研究の計画,実行が期待される.

進行胃癌に対するneoadjuvant chemotherapyの意義

著者: 佐野武

ページ範囲:P.478 - P.484

要旨:治癒切除が行われたStage Ⅱ/Ⅲ胃癌では,術後のS-1補助化学療法がわが国の標準治療となった.しかしスキルス胃癌や高度リンパ節転移例などの予後は未だ不良であり,これらに対しては,強力な化学療法を用いたdown-stageにより治癒切除を目指す試みがさかんに行われている.術前療法には高い奏効率と安全性を示すレジメンが求められ,現在S-1+CDDPを中心に臨床試験が展開されており,組織学的完全奏効例も経験されるようになった.将来は,より早い病期の胃癌にも術前療法が行われるようになると予想されるが,手術のみでも高い治療成績を残すわが国では,綿密に計画された臨床研究による評価を通じて最良の補助療法を開発していく必要がある.

進行大腸癌に対するneoadjuvant chemotherapyの適応と意義

著者: 飯合恒夫 ,   谷達夫 ,   皆川昌広 ,   黒﨑功 ,   野上仁 ,   亀山仁史 ,   畠山勝義 ,   瀧井康公 ,   丸山聡

ページ範囲:P.486 - P.492

要旨:切除可能大腸癌に対する術前化学療法の効果についてのエビデンスはほとんどなく,標準治療になっていない.しかし,根治術を行っても予後の悪い群に関しては,術前化学療法に大きな可能性と期待がある.一方,切除不能大腸癌,特に切除不能肝転移に対する術前化学療法については,新規抗癌剤の出現とともにエビデンスが構築されつつあり,標準治療になりつつある.いわゆるdrug-lagが解消された現在,わが国でも術前化学療法のエビデンスを作って,世界に発信していく必要がある.

胆道癌に対するneoadjuvant chemoradiotherapyの試み

著者: 田端正己 ,   加藤宏之 ,   伊佐地秀司

ページ範囲:P.494 - P.501

要旨:高い局所制御能を有する照射療法を化学療法とともに切除前に行う術前化学放射線療法(NCRT)は,食道癌や直腸癌ではすでに標準治療として定着しており,最近では膵癌でもその有用性が立証されているが,胆道癌ではほとんど行われていない.2007年から導入したわれわれのジェムザール+体外照射45GyによるNCRTはきわめて強い抗腫瘍効果を示すが,残肝障害が問題であり,2008年以降,線量を36Gyに減量した.NCRTを標準治療とするには未だ解決すべき問題点が多いが,近い将来,予後不良な胆道癌に対する集学的治療の一環となることを期待している.

膵癌に対するneoadjuvant chemoradiationの適応と意義

著者: 大東弘明 ,   高橋秀典 ,   江口英利 ,   後藤邦仁 ,   山田晃正 ,   石川治 ,   田中晃司 ,   真貝竜史 ,   本告正明 ,   岸健太郎 ,   能浦真吾 ,   宮代勲 ,   大植雅之 ,   矢野雅彦

ページ範囲:P.502 - P.507

要旨:長期生存を得るにはR0切除が必須であるが,進行例の多い膵癌では手術単独での限界は明らかである.術前化学放射線療法はsurgical marginやリンパ節転移の陰性化など局所制御の向上をもたらした.われわれは3-dimensional conformal radiationによって胃や十二指腸などの消化管を厳密に照射野から外すことを試み,full-doseのgemcitabine併用にもかかわらず消化器系副作用を軽減させ,通院でも施行可能にした.これに加え,術後の肝灌流化学療法の併用は,肝転移再発を抑制し,治療前T3~4でありながら56%の5年生存が得られた.

〔機能温存〕

頸部食道癌に対するchemoradiotherapyを用いた機能温存手術

著者: 酒井真 ,   宮崎達也 ,   宗田真 ,   田中成岳 ,   佐野彰彦 ,   鈴木茂正 ,   桑野博行

ページ範囲:P.508 - P.513

要旨:化学放射線療法の発展により,頸部食道癌における喉頭温存可能症例の増加が期待されている.根治切除に際して喉頭の合併切除が必要な場合は,術後発声機能の損失という大きなQOLの低下を招くが,仮に喉頭が温存された場合でも,術後に嗄声や誤嚥を生じ,結果的にQOLの低下をきたすこともあり,根治性とQOL,病気の進展と患者側の要因などを症例ごとに十分考慮したうえでの治療選択が求められる.本稿では頸部食道癌に対する機能温存を目指した術前化学放射線療法と,機能温存手術の適応,術式,注意すべき合併症を中心に概説する.

進行直腸癌に対する肛門温存外科切除

著者: 端山軍 ,   石原聡一郎 ,   赤羽根拓弥 ,   島田竜 ,   堀内敦 ,   渋谷肇 ,   青柳賀子 ,   中村圭介 ,   山田英樹 ,   野澤慶次郎 ,   松田圭二 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.516 - P.521

要旨:直腸癌を治療するにあたって,根治性とQOLのバランスが重要である.直腸癌は結腸癌に比べて局所再発率が高く,局所再発率のコントロールを行わなければならない.人工肛門の有無により患者のQOLは大きく影響を受け,また人工肛門に抵抗感がある患者は多い.そこで局所のコントロールおよび肛門温存率を上げるため,下部直腸癌に対して術前化学放射線療法を行っている.現在のところ,局所のコントロールに関しては手術単独に比べて良好な成績を得ているという報告があるが,肛門温存率に関してはcontroversialである.今後,併用する化学療法の進歩によるpathological complete response率の上昇や切除marginを縮小することの安全性が確認されることで肛門温存率の上昇を得られる可能性がある.

〔切除不能例に対するdown-staging〕

切除困難大腸癌肝転移に対するdown-staging chemotherapy後の外科切除

著者: 吉留博之 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   古川勝規 ,   吉富秀幸 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   須田浩介 ,   久保木知 ,   高野重紹 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.522 - P.527

要旨:切除不能と判断される大腸癌肝転移症例は未だ多く存在するが,最近の新規抗癌剤ならびに分子標的治療剤の飛躍的進歩により,術前に投与することで切除可能へとconvertする治療戦略の報告がなされるようになってきた.切除可能となれば,その予後は切除可能肝転移症例と遜色がなく有効な治療戦略と考えられる.一方,抗癌剤による肝障害の問題や抗腫瘍効果の点からも明確にすべき点が多く残されている.本稿では投与する抗癌剤・分子標的治療剤の種類とその成績を,自験例と文献的考察を含めて詳述した.

切除困難な進行膵・胆道癌に対するdown-staging chemotherapy後の外科切除

著者: 粕谷和彦 ,   鈴木芳明 ,   青木利明 ,   菊池哲 ,   阿部雄太 ,   安田祥浩 ,   島津元秀

ページ範囲:P.528 - P.534

要旨:切除不能膵・胆道癌に対する術前の補助化学療法の有用性に関しては,そのほとんどが経験症例に関する報告である.欧米を中心に膵・胆道癌の切除可能例,または境界病変に対する術前化学放射線療法の報告は散見される.その研究の多くは一定の切除率を示しているが,予後の改善を示すには至っていない.近年,保険診療の適応とされたgemcitabineとTS-1を中心とする積極的な術前補助化学療法が始まっており,安全性・忍容性の確保と長期成績までの発展が期待される.

進行胆囊癌に対する肝動注化学療法と放射線治療の併用療法によるdown-staging

著者: 齋藤博哉 ,   鉾立博文 ,   堀川雅弘 ,   高邑明夫

ページ範囲:P.536 - P.543

要旨:進行胆囊癌は,診断確定時には切除不能例が半数以上を占めているのが現状である.胆囊癌の予後を改善するためには,down-stagingを得たのち,根治手術を行うという治療戦略も考えられる.

 しかしながら化学療法単独では現時点では奏効率はそれほど高くはなく,down-stagingが得られる症例には限りがあるが,われわれが施行してきた動注化学療法と放射線療法の併用療法は奏効率も高いため,積極的な外科切除に結びつく可能性がある.

 今後は,さらに新たな抗癌剤や分子標的薬の開発,各種併用療法のレジメンの開発なども進み,より強力な治療戦略が実現する可能性が高い.進行胆囊癌に対するdown-stagingを目的とした抗腫瘍療法が,集学的治療の一環としてますます重要になってくると思われる.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・15

門脈再建に愛用の手術器具・材料

著者: 上本伸二

ページ範囲:P.465 - P.468

 門脈再建は,肝臓移植,門脈浸潤のある肝門部胆管癌や肝外胆管癌の手術,門脈浸潤のある膵腫瘍の手術,あるいは門脈腫瘍栓のある肝細胞癌の手術において必要とされる手術手技である.これらの門脈再建に筆者が愛用している手術器具と材料を図1~5に示す.

 門脈壁は下大静脈壁と比べると薄いので,図1のミューラー社の血管鉗子や図2のガイスター社のドベーキー血管鉗子を使用して,門脈壁を傷つけないようにしている.特に血管壁が薄い乳児の門脈の把持には注意が必要であり,非常に脆い門脈壁の場合には図3のガイスター社のブルドック鉗子を使用している.逆に,門脈内血栓が器質化して壁肥厚が著しい場合には,上記のような「柔らかい血管鉗子」でのクランプは不十分なことがあり,その際には通常のポッツの血管鉗子などを使用する.

病院めぐり

坂井市立三国病院外科

著者: 廣瀬和郎

ページ範囲:P.544 - P.544

 坂井市は福井県の北東部に位置し,平成18年の坂井郡4町(三国,春江,坂井,丸岡)の合併で誕生した人口約9万5千人,県内第2の市です.三国町は坂井市の最北部にある日本海を臨む港町です.江戸後期から明治に北前船による海運で繁栄した歴史ある街並み,険しい海食崖の景勝「東尋坊」から臨む雄大な日本海の水平線に沈む美しい夕陽,冬に水揚げされる美味な大きなズワイガニ「越前蟹」などが有名で,四季を通じて多くの観光客が訪れます.

 当院は明治15年に公立坂井病院として開設され,同22年の町村制の施行で町立三国病院(結核病床を含む140床)と改称され,その後,幾多の変遷を経て,坂井市移行の際に新病院(一般病床105床)が建設されました.電子カルテ・オーダリングシステムの導入と放射線・内視鏡器機の一新・デジタル化が行われ,2次救急を含む急性期の地域医療,腎臓透析,市民の疾病予防・健康の維持(各種検診,ドック)を担っています.

林病院外科

著者: 多保孝典

ページ範囲:P.545 - P.545

 越前市は福井県の中央部に位置しており,市の中心を流れる日野川の清流の恵みを受けて里地里山の風景が残っています.歴史は古く,大化の改新の頃に越前の国府が置かれ政治・経済・文化の中心として栄えてきました.また,平安時代には源氏物語の作者である紫式部が生涯でただ一度,京の都を離れ,少女時代を過ごした地でもあります.人口は約88,000人で,地域産業は伝統工業と農業などであり,越前打ち刃物や越前和紙などが知られています.近年は,越前焼から発展した電子部品の先端技術産業が世界的に高いシェアを持っています.

 当院は越前市の中心に位置しており,JR武生駅を降りた左手の建物で,越前市役所の対面にあります.病院の創立は大正2年にさかのぼり,外科,内科,産婦人科で開院しました.地域の中核病院としての役割を担いつつ,時代とともに診療科を増設し,現在は20診療科,病床数216床,職員数315名,常勤医16名で総合病院としての医療を地域の方々に提供しています.救急患者の受け入れは年間約1,000件で,これは管内の救急要請患者数の約4割です.

内視鏡外科トレーニングルーム スーチャリング虎の穴・11

持針器の選択

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.547 - P.554

違いがわかる縫合・結紮

 エッ? 第5回のパラレルな状況での結紮テクニック1)と第10回のテクニック2)が被ってる…!?

 ゴソゴソ…(机に積み上がった雑誌の山から発掘中)

 パラパラ…「!!!」

 とっ,とんでもない…! よ~く比べてみて下さい,び,微妙に違うでしょ…(目を逸らす).この違いが判った先生は…「虎の穴・免許皆伝!」です.実は,あえて再掲したのには理由があります(やっぱ,被ってんじゃん!).

外科専門医予備試験 想定問題・2

消化器②(肝胆膵,外科学総論)

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   青木耕平 ,   松田諭

ページ範囲:P.556 - P.563

出題のねらい

 消化器の後半は肝胆膵領域と総論的な内容を扱います.消化管と同様,解剖と診断に関する基本問題が多いのですが,肝胆膵領域の術後管理に関する問題は臨床経験が全くないと難しく感じるかもしれません.今のうちにベッドサイドで経験を積めるように指導医の先生に相談するのもよいでしょう.総論に関しても,日々の臨床に問題意識・疑問を持って取り組んでいるかどうかが問われているのだと思います.まだ試験まで時間がありますので,これを機に消毒や縫合について復習してみるとよいでしょう.

臨床研究

成人小腸重積症手術例の検討―小児例との比較

著者: 小南裕明 ,   廣吉基己 ,   藤田博文 ,   邦本幸洋 ,   荻野和功

ページ範囲:P.565 - P.569

要旨:1998年1月から2007年12月までの10年間に腸重積症に対して手術的治療を行った全18例のうち,成人10例と小児7例が小腸発生であった.小腸発生成人例に限れば男女比は3:7で平均年齢は67.1歳,平均病悩期間は7.5日で主訴は嘔吐が最多だった.小児例に比べると成人例で血便,下痢の出現率が低く腹部腫瘤の触知頻度が高かった.全例が術前検査で腸重積症と診断されており,明らかな好発部位といえるものはなかった.病変部を中心とした消化管切除を必要としたのは10例中6例で,このうち3例が重積部に腫瘍を認めたが,病理学的検索の結果はすべて良性疾患だった.また様々な全身的合併症を伴い,特に成人例で認知症や統合失調症などの精神疾患が過半数でみられた.

人工肛門閉鎖術における環状皮膚縫合の経験

著者: 間遠一成 ,   窪田信行 ,   中田泰彦 ,   三原良明 ,   吉田直 ,   神野大乗

ページ範囲:P.571 - P.575

要旨:人工肛門閉鎖術は,機能回復とQOL改善を目的とするため,社会復帰が速やかで整容性が良好であることが理想だが,高率な創感染に難渋し,また大きな瘢痕になりやすい.環状皮膚縫合(PSC)は,感染制御に優れた方法として1997年にBanerjeeが紹介した.最近,筆者もPSCを好んでおり,その経験を紹介する.大腸穿孔(4例),結腸癌イレウス(3例)などで人工肛門を造設した10例にPSCを施行した.人工肛門を含む腸管を切除し吻合後,腹壁を閉鎖し真皮にナイロン糸で連続巾着縫合を掛け,縫縮した.術後創処置は行わず1週間で抜糸した.結果,創感染は全例で認めず,9例では1~3cmの瘢痕に縮小し,整容性に優れていた.

臨床報告

原発性胆囊管癌と早期胃癌の同時性重複癌の1例

著者: 徳光幸生 ,   山本達人 ,   北村義則 ,   安藤静一郎 ,   齋藤哲朗 ,   都志見久令男

ページ範囲:P.577 - P.582

はじめに

 原発性胆囊管癌は比較的稀な疾患で,解剖学的位置関係からも術前診断が困難であり,かつ病態や術式についても十分な知見が得られているわけではない.さらに重複癌の本邦報告例はきわめて稀である1).今回われわれは,術前診断ならびに治癒切除し得た原発性胆囊管癌と早期胃癌の同時性重複癌を経験したので,若干の文献的考察を加えてこれを報告する.

大動脈解離治療後の上行結腸狭窄に対して腹腔鏡下手術を行った1例

著者: 亀山仁史 ,   山崎俊幸 ,   前田知世 ,   中野雅人 ,   赤松道成 ,   片柳憲雄

ページ範囲:P.583 - P.587

要旨:症例は64歳,男性.2009年1月,胸痛の精査をしたところ,Debakey Ⅲb型の大動脈解離と診断された.破裂の所見はなく,血圧コントロールを行いながら保存的治療の方針となった.2か月後,右下腹部痛が出現した.下部内視鏡検査で上行結腸に限局性の狭窄が認められた.内視鏡的拡張術を行ったが拡張されなかった.症状が改善せず,狭窄も高度のため内科的治療の限界と考えた.手術適応と判断して腹腔鏡補助下回盲部切除を行った.病理組織学的標本では憩室や特異炎症はみられず,瘢痕組織による狭窄と診断された.術後の経過は良好で術後6病日に退院となった.退院後は腹痛などもみられず,外来経過観察中である.

超音波内視鏡下針生検(EUS-FNA)が治療方針決定に有効であった表在型食道癌の1例

著者: 黒木秀幸 ,   中原修 ,   渡邊雅之 ,   高森啓史 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.589 - P.593

要旨:症例は75歳,男性.嗄声を主訴に前医より食道癌の診断にて当科に紹介された.上部消化管内視鏡検査で上切歯列(DA)より30cmに前壁を主体に0-Ⅱc+Ⅱa病変を認めた.DAより25cm部位には壁外性の圧排を認め,胸部CTでは,同部位に一致して4.5cm大の腫瘍を認めた.食道癌のリンパ節転移が考えられたが,主病巣が表在型であること,SIL-2Rも軽度上昇していたことから,鑑別診断として悪性リンパ腫も考えられた.確定診断目的に超音波内視鏡下針生検(EUS-FNA)を行い,細胞診の結果は扁平上皮癌の診断であった.食道癌では病期により治療方針が大きく異なる.EUS-FNAは,縦隔疾患の組織採取に有効であり,食道癌の診断および治療方針を決定する際に重要なモダリティとなると考えられる.

内視鏡的破砕後に十二指腸空腸曲での嵌頓をきたし観血的治療を要した胃石の1例

著者: 佐藤純人 ,   畑山年之 ,   長山裕之 ,   大賀純一 ,   石田康男 ,   幡谷潔

ページ範囲:P.595 - P.599

要旨:患者は74歳男性.72歳時,幽門側胃切除術およびB-Ⅰ法再建術を施行されている.心窩部不快感の精査目的の上部消化管内視鏡検査で約7cm大の胃石を認め,内視鏡的破砕術を施行したが,翌日,心窩部痛にて来院した.再度上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃石片が十二指腸空腸曲に嵌頓し腸管を閉塞していた.内視鏡的破砕術を試みたが不可能であったため,小腸切開砕石術を施行した.胃石症は消化管穿孔や腸閉塞を生じる可能性があるため,摘出を必要とする場合が多いが内視鏡的に砕石困難な症例もある.残存胃石の大きさによっては,砕石後の腸閉塞症の可能性も考慮し早期に手術を検討する必要があると考えられた.

昨日の患者

同じ道を歩む看護師親子

著者: 中川国利

ページ範囲:P.514 - P.514

 親にとっての子供は,いつまでも幼く頼りない存在である.しかし,子供は親の背中を見ながら,親を乗り越えて成長する.子供らが看護師として働く病院に入院し,子供らの成長を見て感激したSさんを紹介する.

 Sさんは県立病院に勤めるベテラン看護師である.仕事が忙しくて放置していた皮下腫瘤を当院の外科病棟に勤める娘さんが見つけ,受診を渋るSさんを連れて来た.Sさんが恥らうように出した右上腕には鶏卵大の腫瘤が存在した.

書評

小西文雄(監修)自治医科大学附属さいたま医療センター一般・消化器外科(編著)「消化器外科レジデントマニュアル 第2版」

著者: 篠崎大

ページ範囲:P.515 - P.515

 好評を博していた第1版の出版から4年を経て,自治医科大学附属さいたま医療センター一般・消化器外科スタッフの先生方が執筆し小西文雄教授が監修された『消化器外科レジデントマニュアル 第2版』が刊行された.この本を一読すると,どこをとってもコンパクトな中に必要な知識やtipsを十二分に織り込もうとする強い意欲が感じられる.すなわち一語一語に至るまで無駄がなく,珠玉のエッセンスが込められている.

 内容は,前・後半で総論と各論に二分されている.総論の冒頭では「術前検査の進め方」として日常行れる検査の種々のチェック項目が並んでいるが,一つ一つ実践していくことで外科医としての基礎の基礎を身につけていくことができる.また,最近の診療で大きな問題となっている「インフォームド・コンセント」には比較的多くのページが割かれている.その中には,基本的要件はもちろんのこと,代理決定・文書の必要時とその形式・裁判事例・告知など幅広くトピックスが取り上げられている.

岡田晋吾,谷水正人(編)「パスでできる! がん診療の地域連携と患者サポート」

著者: 望月英隆

ページ範囲:P.600 - P.600

 この度,医学書院から岡田晋吾・谷水正人両氏の編集による,『パスでできる!がん診療の地域連携と患者サポート』が刊行された.

 がんの治療は,手術や抗がん化学療法のみで成り立つものではなく,手術前後の各種補助療法,病態・病勢把握のための定期的な検査や緩和医療等も含んでいる.ここで言う緩和医療とは,進行再発時におけるがん性疼痛への対処は無論のこと,診断が下された時点から求められる心理面でのケアから終末期医療までをも含む極めて広範囲の医療である.これらを一つの医療機関で不足なく行うことは至難の技である.また,近年は患者さんの価値観も多様化し,医療を受ける場所として,医療機関ではなく自宅を選択する方が増えている.このような新たな流れの中では,がん治療にかかわる医療機関が,がん患者さんごとに一貫した治療方針を共有し,それぞれのもつ機能に応じて連携を保つことが極めて重要である.国もがん治療については政策として,均てん化とともに,地域連携によるきめの細かい治療体制の整備を推し進めている.

1200字通信・12

素朴な疑問

著者: 板野聡

ページ範囲:P.543 - P.543

 本誌に連載されていた「外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問」が安達洋祐先生の編集で単行本として発売され(『外科の「常識」 素朴な疑問50』医学書院),私も購入して読ませていただきました.書籍化を機に新たに番外編も加わっていますが,この欄では著者の先生方の本音が見え隠れして,相槌を打ちながら読ませていただくことになりました.これも連載中に書いていただきたかったことではあるが,などと思うことにもなっています.

 月刊誌は,最新の話題を読み,かつ見られることが最大のメリットではありますが,頭の片隅にその一文が残ってはいても,それが書いてあった論文や文章がどの号に載っていたかとなると,探すのに一苦労することがあるものです.その意味で,今回の出版(特に連載をまとめたもの)には感謝していますし,「臨床外科」を定期購読されていない外科の先生方にも役立つものと期待しています.

ひとやすみ・58

主治医との連絡

著者: 中川国利

ページ範囲:P.569 - P.569

 主治医として特定の医師が患者さんを受け持ち,入院から退院まで一貫して治療に当たることは多い.したがって,臨機応変に患者さんの病状変化に対応するためには,看護師との連絡を緊密に保つ必要がある.そこで,病棟と主治医との連絡方法がいつの時代にも問題となってきた.

 私が医師になったばかりの30数年前には,今のような携帯電話がなかった.医師は外出時には頻繁に病棟に電話をかけ,さらに重症患者を抱えているときには移動するたびに所在先の固定電話番号を連絡した.ごく稀に病棟との連絡を忘れて同僚医師の世話になることもあったが,チームワークによって特にトラブルもなく診療は行われていた.

勤務医コラム・11

冷汗の日々

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.601 - P.601

 最近特殊なことが多くて,冷汗の日々が続いています.①30歳代の太った男性の呼吸困難.あちこち受診したが解決しないと訴える.下肢深部静脈と肺動脈の血栓症であった.ラパ胆後1日目にみたことはあったが,普通の外来で診たのは初めてであった.その後は循環器内科の先生にお願いした.②これも30歳代の男性.内気な人で声が小さい.腹痛と下痢があり,echoでは胆砂があった.日毎に顔色が悪くなる.もう一度echoしてみると,少量の胸腹水とともに多量の心囊液が….「腹部症状を主訴とする心外膜炎」というものがあるそうで,若年者突然死の原因になるとのこと.本例も循環器内科の先生にお願いして事なきを得た.③70歳代の女性.PEGを依頼され,いつものように行っていたところ,tubeが創からスポーンと抜けてしまった.胃に穴が空いている.大変だ.落ち着いて同じ穴からやり直し,終わったあとにドッと汗が出た.何事もなくてよかった.④これも70歳代の女性の壊死性胆囊炎.開腹してみると胆道がおかしい.術中造影を何度もやる.右副肝管を一旦切離して,胆摘を済ませたのちに,総胆管と吻合した.ひとつ間違えば泥沼化していたはずで,何事もなく元気に帰れてよかった.⑤パナルジンとバイアスピリンを服用中の60歳代の男性.脚立から落ちて左上腹部を打った.脾臓は大丈夫そうだが大きなhematomaができていて,fluidが少しずつ増えている.血圧は下がる.Free airはないが,結構痛がっている…….色々な思いが交錯する.開腹した.左結腸間膜からの出血であった.穿孔はないようだ.左結腸を切除して吻合した.便がたくさんあってイヤな気がしたが,何事もなく経過して本当によかった.

 以上のことが同じ月に起こりました.何か悪いモノでも憑いているのではなかろうか? いつも周囲の人に文句ばかり言っている私,その私に対する神様からの忠告かもしれません.感謝の気持ちを忘れずに笑顔でやっていこう,と思った次第です,ハイ.

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あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.608 - P.608

 消化器癌に対する癌化学療法は,癌の外科切除にあたる外科医にとって,20~30年余り以前においては血液系および婦人科系などの癌種に対するものと比較してその効果をそれほどに期待していなかった,というのが当時の率直な実感であったであろう.しかしながら癌化学療法を専門として研究を続けてこられた消化器系の多くの方々の努力の結果,また新たな有効な新薬の登場によって消化器系の癌腫にもきわめて高い効果が示されるようになり,その効果が多くの現場の臨床医にも実感できるほどになってきたのが現状である.一方で,わが国の消化器外科の手術レベルは国際的にトップレベルに達しており,その手術技術が日々さらに進化しているのは疑いのないところである.このような状況のなかで,特に進行癌に対して化学療法と外科切除療法を双方で競い合わせその治療成績を向上させるのも有益な方向性ではあるが,当然ながら未だ外科切除が多くの消化器癌治療においては根治性が得られる唯一の治療方法であることを忘れず,進歩する消化器癌の化学療法を外科切除療法の成績向上のためにうまく利用していくことが重要であろうと思われる.上手な組み合わせを検討することにより外科切除後の成績を向上させられるばかりではなく,外科切除適応の拡大にも展開することが可能になってきている.これからは,消化器外科医の治療戦略においてもこのように進化する癌化学療法の効果をいかに巧く外科切除にhybridさせられるかが成績向上の鍵となるように思われる.

 本号では,様々な消化器癌におけるそうした新たな取り組みの成果について,各領域でのhigh-volume施設で積極的展開を実施している方々から新規性の高い貴重なデータを報告していただけた.読者の方々も,本特集からこれからの消化器癌治療における新たな外科の役割を興味深く読みとっていただけるものと確信している.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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