icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科65巻6号

2010年06月発行

雑誌目次

特集 癌外科治療の日本と海外との相違点

ページ範囲:P.765 - P.765

わが国の癌外科治療を海外と比較すると,手術適応,リンパ節郭清範囲,再建術式,術後補助化学療法など,様々な点に相違がみられる.

術後成績は,多くの分野でわが国での結果が良好となっているが,患者の体型や遺伝形質の違いなどの因子のほか,こうした手術手技やリンパ節の検索方法といった技術面の卓越性も関与していると考えられる.

乳癌治療の日本と海外との相違点

著者: 朴英進 ,   池田正

ページ範囲:P.766 - P.771

要旨:手術療法ではわが国と欧米の差はないが,放射線療法では海外と若干の差がある.化学療法ではわが国未承認薬が多い.ホルモン療法ではわが国,海外ともに科学的根拠に基づく治療選択が浸透し同じ療法が行われている.分子標的療法では,ヒト上皮増殖因子受容体ファミリーを標的とした薬剤には承認薬があるが,血管新生阻害薬は未承認である.多くの臨床試験の結果を導入することで,わが国の乳癌治療成績は海外に比べて良好となった.しかし臨床試験の多くは海外から発信されたものであり,日本人乳癌の特徴を考慮して最適な治療法を検討することが重要で,これによりわが国の乳癌死亡率の増加傾向に歯止めがかかるかもしれない.

肺癌外科治療における日本と海外の違い

著者: 淺村尚生

ページ範囲:P.772 - P.775

要旨:肺癌の外科治療におけるわが国と諸外国との差異は,肺癌そのものの病理生物学的特性,診療を取り巻く環境,診療制度のあり方などによって生ずるものである.わが国においては,アメリカと同様に肺野末梢に発生する腺癌の比率が高く増加傾向にある一方で,肺門部に発生する扁平上皮癌の減少傾向が顕著である.このことから,肺癌の術式としては肺全摘術,気管支形成術が減少し,肺葉切除,あるいはより早期の肺癌を対象とするsublobar resectionが増加することとなり,さらにこのことは,術後死亡率/合併症発生率の減少という結果を生んだ.その一方で,わが国の癌治療においては臨床腫瘍学,放射線腫瘍学の専門家が未だに不足しており,特に多モダリティ治療を施行する状況においては深刻な問題を生んでいる.これらはわが国における肺癌全体の診療を考えるうえで重要な課題といえる.

食道癌外科治療の海外との相違点

著者: 宮崎達也 ,   家田敬輔 ,   酒井真 ,   宗田真 ,   田中成岳 ,   鈴木茂正 ,   福地稔 ,   中島政信 ,   加藤広行 ,   桑野博行

ページ範囲:P.776 - P.781

要旨:食道癌診療における日本と海外の相違点を検討すると,日本では扁平上皮癌がほとんどで胸部中部食道に発生する例が最も多いのに対し,欧米では腺癌が急増しており下部食道に最も多く発生しているという背景がある.日本では縦隔内のリンパ節郭清を重視し上縦隔郭清を伴う右開胸の食道切除が標準的に行われ,欧米では経食道裂孔的な手術が日常的に行われている.治療成績は予後および安全性において日本の成績が海外を凌駕しており,その要因の1つとしては開胸術式による系統的なリンパ節郭清があると考えられる.日本における食道癌の外科治療は世界に誇る高度な技術であり,集学的治療の確立を含めてさらなる治療成績の向上を目指す必要がある.

胃癌外科治療の日本と海外との相違点

著者: 山口俊晴 ,   佐野武 ,   比企直樹 ,   大山繁和 ,   布部創也 ,   小川京子 ,   熊谷厚司 ,   愛甲丞 ,   片山宏 ,   明石義正 ,   窪田健

ページ範囲:P.782 - P.787

要旨:わが国における胃癌外科の治療成績は,短期成績も長期成績も良好である.これを支えている要因としては,優れた診断技術と国民皆保険制度により保障された医療アクセスの容易さなどが挙げられる.また,胃癌研究会の胃癌取扱い規約を軸に,内科・外科ばかりでなく病理をはじめとした基礎医学者が胃癌研究のために努力したことが今日の成果をもたらしたと考えられる.日本胃癌学会が設立され,胃癌の化学療法にも目が向けられるようになり,優れたエビデンスを創出する体制が整いつつある.韓国などにおいて胃癌診療レベルの向上が著しいが,当分の間は世界の胃癌診療のリーダーとしての日本の地位は揺るぎないものと考えられる.

肝細胞癌に対する手術適応の相違点―多発症例と門脈圧亢進症合併症例を中心に

著者: 別宮好文 ,   國土典宏

ページ範囲:P.788 - P.794

要旨:欧米において,肝細胞癌に対する肝切除の適応は,Child-PughスコアA,単発,門脈圧が正常,血清ビリルビン値が正常の症例のみであるが,わが国では多発症例,門脈圧亢進症合併症例に対しても積極的に手術を行っており,その治療成績は良好である.また,わが国では,ICG 15分停滞率と残肝容積に応じて,切除容積を細かく規定しているため,術後肝不全死を0.1%まで低下させている.わが国の肝細胞癌に対する肝切除は今後も世界をリードするであろう.

大腸癌肝転移治療の日本と海外との相違点

著者: 田中邦哉 ,   遠藤格

ページ範囲:P.796 - P.806

要旨:わが国では大腸癌自体が低率で原発性肝癌が高率であった事情を反映し,大腸癌肝転移に対する外科治療は海外に遅れをとってきた.現在でも,新規薬剤のドラッグラグといった問題により周術期化学療法も含め,海外データの追従に終始している印象がある.

 わが国の肝臓外科の高い技術レベルを駆使し,局所化学療法なども応用した集学的治療を展開して,オリジナリティのある臨床研究を行うことが独自のストラテジーの確立に重要である.このためにも大腸・肝臓外科医による積極的な多施設共同研究が必須であり,現在,肝胆膵外科学会ならびに大腸癌研究会が合同で,レトロスペクティブあるいはプロスペクティブな研究を企画中である.本領域におけるわが国発の海外へのエビデンスの発信が強く望まれる.

世界における膵癌治療

著者: 藤井努 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.808 - P.812

要旨:膵臓癌に対する外科治療そのものにおいて,諸外国と日本との相違はそれほど大きなものではない.特にわが国では拡大手術が積極的に試みられてきたが,近年では過侵襲を避ける傾向にある.アメリカでは,補助放射線療法が重視されている.大規模臨床試験が特にヨーロッパを中心に行われているが,わが国ではS-1を中心とした臨床試験が進行中である.

胆囊・胆管癌治療の相違点

著者: 清水宏明 ,   木村文夫 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   三橋登 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   須田浩介 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.814 - P.821

要旨:わが国における胆道癌,特に胆囊癌,肝門部胆管癌の積極的な外科治療は世界をリードしているといっても過言ではない.肝門部の緻密な解剖をはじめ,術前進展度診断,胆管ドレナージによる減黄術,門脈塞栓術,そして手術療法,およびその術後成績など,わが国から数多くの論文が世界に向けて発信されている.欧米でも,わが国の拡大肝葉切除例における胆管ドレナージ,必要に応じての門脈塞栓術などのstrategyを踏襲し,外科治療を行っている施設もあるものの,術前の進展度診断はかなり大ざっぱに行われる傾向にあり,また,進行症例に対する手術適応のcriteriaもわが国と異なり,Stage Ⅲ,Ⅳの外科切除率は低いのが現状であろう.また,もう1つ大きく違うところは欧米の一部の施設において肝門部胆管癌のうち限られた症例に対し,化学放射線療法後に肝移植を行っている点である.しかしながら,移植後の成績はわが国での外科切除成績と比較しても良好とはいい難く,今後の治療成績をStage別に注意深くみていく必要があるだろうと思われる.

十二指腸乳頭部癌治療の海外との相違点

著者: 鈴木裕 ,   阿部展次 ,   中里徹矢 ,   松岡弘芳 ,   柳田修 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   杉山政則 ,   跡見裕

ページ範囲:P.822 - P.827

要旨:十二指腸乳頭部癌は切除率も高く,根治切除により長期生存が十分に望める腫瘍である.その標準治療は2群のリンパ節郭清を加えた膵頭十二指腸切除術である.長期成績に関しては90年代には本邦は諸外国に比し優れていたが,2000年代になって諸外国においても本邦と同等の成績が報告されている.また,リンパ節転移のない早期癌を適応として経十二指腸的乳頭切除術や内視鏡的乳頭切除術などの各縮小手術があるが,いずれもその評価はいまだ議論の余地が残されている.それぞれの治療法に関する評価と適応が確立し,エビデンスに基づいた治療の選択肢が増えることによって,個々の病態に応じた治療が可能になると思われる.

わが国の大腸癌外科治療―欧米との違い

著者: 石黒めぐみ ,   杉原健一

ページ範囲:P.828 - P.836

要旨:わが国の大腸癌治療成績は世界でも上位に位置し,Stage Ⅲ結腸癌に対する術後補助化学療法の臨床試験における5年生存率では,欧米に比し10%以上良好である.その主な要因は,Stageに応じた系統的リンパ節郭清と,精度の高い病理診断,綿密な術後サーベイランス,転移・再発巣の積極的な切除などにある.切除不能進行・再発大腸癌の化学療法におけるdrug lagは解消されたが,術後補助化学療法においては,背景となる手術成績が異なるため,欧米で有用性が証明されたレジメンであっても,わが国では有用性が得られないばかりか,患者の身体的・経済的負担を助長する可能性も想定され,欧米の標準治療をそのまま外挿することには慎重になる必要がある.

肛門管癌の治療方針について

著者: 稲次直樹 ,   吉川周作 ,   増田勉 ,   内田秀樹 ,   久下博之 ,   大野隆 ,   横谷倫世 ,   川口千尋 ,   山口貴也 ,   山岡健太郎 ,   稲垣水美 ,   下林孝好

ページ範囲:P.838 - P.845

要旨:従来,肛門管癌に対する治療は腺癌が主であったわが国では,直腸癌と同様に腹会陰式直腸切断術(APR)が標準的な治療であった.欧米では扁平上皮癌が主であり,放射線治療に感受性が高いことから化学放射線療法(CRT)が第一選択とされ,癌の遺残あるいは再発例に対して外科的治療を行う方針が標準的治療となってきた.近年,わが国においても「放射線治療計画ガイドライン(2008)」が示され,CRTが主流となりつつある.今後はさらに肛門管扁平上皮癌に対する経験豊かな欧米のガイドラインを参考に全国的な症例の集積と解析を進め,放射線治療医,腫瘍内科医,外科医の共同でわが国における総合的な肛門管扁平上皮癌治療ガイドラインの確立が求められている.

甲状腺癌治療の日本と海外との相違点

著者: 岩瀬克己

ページ範囲:P.846 - P.854

要旨:甲状腺癌の大部分を占める分化癌,特に予後良好な乳頭癌の治療を中心にわが国における動向を述べ,欧米との相違とその要因について考察した.予後良好な乳頭癌は再発後の生存もきわめて長期に及ぶ特徴があり,その治療は生涯を見通して計画される.甲状腺切除や頸部郭清の範囲も治療に伴う合併症の危険と同時に再発後の対応を念頭に,それぞれが持つ医療環境を前提として最適な選択をせねばならない.再発転移腫瘍の治療には手術以外に131I内照射があり,後者の重要度がわが国と海外では大きく異なり,海外では131I治療を前提とするのに対し,わが国では手術に頼る傾向があり,術後経過観察も含め治療戦略全体に強い影響を与えている.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・17

肝全摘(肝移植)に愛用の手術器具・材料

著者: 嶋村剛 ,   鈴木友己 ,   谷口雅彦 ,   山下健一郎 ,   太田稔 ,   藤堂省

ページ範囲:P.757 - P.763

はじめに

 肝移植は原則的に病的肝の全摘と,同所性にグラフトを植え込むステップからなる.肝全摘のステップは,肝不全に起因する血液凝固障害,門脈圧亢進症や過去の開腹手術に由来する高度の癒着からしばしば難渋し,出血量や手術時間に大きく影響する.このため,肝移植黎明期から手術器具・材料には幾多の改良が加えられてきた.当院では,肝移植の中心的施設であるPittsburgh大学で採用されている器具・材料をそのまま移入し,同手術を実施している.肝全摘の方法は①脳死肝移植で頻用される,下大静脈を肝臓と一緒に摘出するconventional techniqueと,②生体肝移植ならびに脳死肝移植でも選択肢となる,下大静脈を温存して肝臓を摘出するpiggyback techniqueに大別されるが,いずれの場合も同じ手術器具・材料を用いている.

 本稿では手術の各ステップにしたがい,われわれが用いている手術器具・材料の特徴ならびに使用上の注意点などについて述べる.

外科専門医予備試験 想定問題・4

呼吸器,乳腺・内分泌

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   青木耕平 ,   松田諭

ページ範囲:P.856 - P.863

出題のねらい

 呼吸器や内分泌領域は,受験者のレベルでは手術経験が少なく対策がおろそかになりがちではないでしょうか.手術手技や補助療法の最新のエビデンスを問う問題は少ないようですが,解剖や肺腫瘍の組織分類に関する紛らわしい問題が出題されています.試験直前に取扱い規約に目を通しておくとよいでしょう.気胸はもちろん,気管支断端瘻のような重要な術後合併症はしっかり押さえておきましょう.

 乳癌は近年増加傾向にあり,日常診療でもしばしば遭遇する疾患ですが,内分泌と合わせて11題と出題数は少ないです.その割に問題では幅広い知識を要求され,難しく感じるかもしれません.何とも対策が立てにくい分野ですが,直前に基本事項(第6回に掲載予定)をチェックし,簡単な問題を確実に取ることが大事です.

内視鏡外科トレーニングルーム スーチャリング虎の穴・連載を終えて

ロスタイム

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.865 - P.868

いつもながら長い前置き

 いやぁ~,この連載も前回で最終回を迎えたはずなんですが…

 さすが医学書院…サッカーでいうところの「アディショナルタイム(通称:ロスタイム)」があったようです.アディショナルタイムは「空費された時間の追加」として,JFA日本サッカー協会で以下の定義がされています.

病院めぐり

医療生協わたり病院外科

著者: 佐藤祐治 ,   遠藤剛

ページ範囲:P.870 - P.870

 「病院めぐり」の原稿依頼の順番が,ようやく回ってきたと喜んでいます.当院は福島県の県庁所在地である福島市にあります.福島市には,写真家の秋山庄太郎が「福島に桃源郷あり」と形容し,写真集も出版され全国的に有名になった花見山があります.当院はその山の麓に位置しており,桜の時期には通勤が困難になるほど全国から観光客の乗ったバスや車が集まります.

 当院は医療生協の施設であり,一般の病院と成り立ちが違います.医療生協は,地域の人々が組織を運営し,運動を行うという「消費生活協同組合法」に基づいており,組合員さんから集めた出資金で病院が運営されています.病床数は196床で,勤務医は28名(パート含む)です.外科,心臓血管外科,肛門科,麻酔科,内科,循環器科,消化器科,透析療法科,小児科,婦人科,リハビリテーション科,呼吸器科,神経内科,精神心療内科,アレルギー科,放射線科,病理科,検診科を有しています.地域の第一線の医療機関として,救急患者さんを積極的に受け入れるとともに,開放型病院として開業の先生との共同診療の実施や在宅療養患者さんの支援にも取り組んでいます.

呉羽総合病院外科

著者: 緑川靖彦

ページ範囲:P.871 - P.871

 当院は昭和19年に呉羽化学〔現(株)クレハ〕の事業所診療所としてスタートし,昭和47年に現名称で独立しました.現在は病床数239床(一般163床,療養型76床)で,いわき市南部の中核病院として機能しています.また,平成20年3月に病院に隣接して介護老人保健施設を開設しました.これにより当院は健康管理センター(予防医学),急性期・慢性期を担う病院,そして在宅へ向けての訪問看護,介護老人保健施設を備えたことになり,地域住民に対して,その状況に応じて様々な医療,介護サービスが提供できるようになりました.

 当市は平成の市町村合併の2003年まで面積が日本一であった広大な市であり,現在は人口約35万人を擁しています.太平洋に面した美しい海岸線を有し,多くの港や海水浴場が賑わっています.一方,海とは対照的に緑豊かな大地も広がっており,渓谷美とともに四季折々の山菜を楽しめ,海の幸,山の幸を存分に味わうことができます.また,古くから日本三古泉の1つに数えられるいわき湯本温泉が湧く町を有し,最近では映画「フラガール」で有名になりました.

臨床研究

腹腔鏡下虫垂切除術の手術時間に影響を与える術前因子の検討

著者: 円城寺恩 ,   榎本直記 ,   上田吉宏 ,   加藤俊介 ,   大野玲

ページ範囲:P.875 - P.879

要旨:後期研修医が腹腔鏡下虫垂切除術(以下,LA)を執刀するにあたり,難易度を術前に予想する目的で,術者が技術的に習熟していない時期の手術時間に影響を与える術前因子について検討した.後期研修医2名の初回から連続20例を技術習熟までの期間と考え,合計40例を対象とし,手術時間に影響を与える因子について検討した.多変量解析にてCTの虫垂径が手術時間に影響を与える独立した関連因子であった.虫垂径が13mm以上の症例には手術時間が平均より長い症例が多く含まれていた.後期研修医が技術習熟前にLAを執刀する症例は虫垂径13mm未満の症例が望ましいと考えた.

大腸癌手術における癒着防止吸収性バリア(セプラフィルム®)使用による術後早期腸閉塞予防に関する検討

著者: 池永雅一 ,   高田晃宏 ,   安井昌義 ,   宮崎道彦 ,   三嶋秀行 ,   辻仲利政

ページ範囲:P.881 - P.884

要旨:大腸癌手術後腸閉塞予防として,癒着防止吸収性バリア(セプラフィルム®)を使用し,その有用性について検討した.対象は大腸癌待機開腹手術症例782例.癒着防止剤を使用していない226例(非使用群)と使用した556例(セプラ使用群)を,腸閉塞なし群,腸閉塞検査群,腸閉塞治療群の3種類に分けて検討した.腸閉塞治療群には非使用群とセプラ使用群とに差はなかった.しかし,術後経過において腸閉塞に対して何らかの医療資源を投入したことになる腸閉塞検査群と腸閉塞治療群を合わせた群と腸閉塞なし群とで比較検討すると,セプラ使用群で有意に頻度が低かった.癒着防止剤の使用により,さらなる医療資源の投入を回避できる可能性が示唆された.

臨床報告

術前化学療法が奏効し根治切除が可能となった巨大膵粘液性囊胞腺癌の1例

著者: 原康之 ,   臼田昌広 ,   中野達也 ,   平野拓司 ,   望月泉 ,   小野貞英

ページ範囲:P.885 - P.889

要旨:症例は28歳,女性.2004年2月上腹部腫瘤を主訴に近医を受診し,精査目的で当院に入院した.腹部CTで左上腹部に多房性囊胞性腫瘤を認め,中等量の腹水が貯留していた.腫瘍マーカーも著明に上昇しており,癌性腹膜炎を併発した膵粘液性囊胞腺癌と診断し,ゲムシタビン単剤投与を8クール施行した.投与後,腫瘍マーカーが著明に低下し,腹水も消失したため切除可能と判断し,開腹術を施行した.横行結腸合併切除を伴う膵体部の部分切除で腫瘍を完全に切除し得た.病理診断で粘液性囊胞腺癌であった.今回われわれは,術前化学療法が奏効し根治切除が可能となった巨大膵粘液性囊胞腺癌の1例を経験したので報告する.

膀胱自然破裂の2例

著者: 三賀森学 ,   池永雅一 ,   西塔拓郎 ,   黒川幸典 ,   安井昌義 ,   辻仲利政

ページ範囲:P.891 - P.895

要旨:症例1は64歳,女性.子宮頸癌に対して手術と放射線治療を施行した既往歴があった.今回,下腹部痛を主訴に救急搬送され緊急手術を施行した.淡黄色の腹水を認め,骨盤内の検索で膀胱に穿孔を認めた.放射線治療の影響で膀胱壁が菲薄化したことに伴う膀胱自然破裂と診断した.症例2は68歳,男性で,大量飲酒後に泥酔し約2日間自宅で臥床していたところ,急激な腹痛を自覚し救急搬送された.白血球数上昇と腎機能悪化を認め,緊急手術を施行した.淡血性腹水を認め,膀胱後壁から頂部にかけて約10cmの裂孔があり,飲酒後の膀胱過伸展による膀胱自然破裂と診断した.膀胱自然破裂は,急性腹症の原因となりうることを考慮すべきである.

胃-空腸吻合部に発生した胃内分泌細胞癌の1例

著者: 松村富二夫 ,   崔林承 ,   市原敦史 ,   柴田雄司

ページ範囲:P.897 - P.900

要旨:症例は57歳の男性で,10歳の頃に胃-空腸吻合の手術を受けている(詳細不明).2008年4月,全身倦怠感と食欲不振にて胃内視鏡検査を受けたところ吻合部に2型の腫瘍を指摘された.生検でGroup Ⅴと診断し,幽門側胃切除,小腸,横行結腸部分切除術を施行した.術後の病理組織検査にてsynaptophysin, chromogranin A, NSEに対する抗体が陽性であり,神経内分泌細胞への分化を示しており内分泌細胞癌と診断した.低分化型の内分泌細胞癌は予後不良であるが,術後補助療法としてCDDP+CPT-11を3コース行ったところ1年9か月後の現在でも再発を認めていない.胃-空腸吻合部に発生した内分泌細胞癌は,われわれの検索した範囲ではほかには報告例はなかった.

漿膜側脂肪組織を先端とした内翻Meckel憩室による成人腸重積の1例

著者: 宮平工 ,   照屋なつき ,   花城直次 ,   西原実 ,   奥島憲彦 ,   戸田隆義

ページ範囲:P.901 - P.905

要旨:内翻Meckel憩室による腸重積は比較的稀な病態であるが,漿膜側脂肪組織を先端とした内翻Meckel憩室による成人腸重積の1例を経験したので報告する.症例は26歳の男性で,腹痛を主訴に当科へ紹介となり,腹部超音波および造影CT検査で典型的な腸重積の所見を認めた.腸閉塞を認めないため,重積の自然解除を期待した保存的治療を試みるも改善せず,腹腔鏡補助下手術を施行した.重積は回盲弁より70cmの回腸に位置し,これを用手的に解除したところ,漿膜側にdimplingを認めた.小腸内腔に腫瘤を触知したため,その近傍を切開し腫瘤を引き出した.先端に腫瘤を伴った憩室の内翻と診断し,憩室を切除した.病理組織学的には,漿膜側脂肪組織を先端とした内翻Meckel憩室と診断した.

術前CT検査が有用であった大網裂孔ヘルニアの1例

著者: 日比康太 ,   白京訓 ,   鈴木隆文 ,   松山秀樹

ページ範囲:P.907 - P.911

要旨:大網裂孔ヘルニアは比較的稀な疾患であり,術前診断が困難とされている.今回われわれは,術前CT検査が有用であった症例を経験したので報告する.症例は50歳,男性.腹痛,嘔気を主訴に近医からイレウスの疑いで紹介となった.開腹の既往はなく,受診時に腹部膨満を認め,腹痛の増強もあったためCTを施行した.CT上,腹水および右上腹部の腹側に小腸の拡張像と腸間膜の集束像を認め,大網裂孔ヘルニアによる絞扼性イレウスの疑いで緊急手術を施行した.約70cmの回腸が大網裂孔をヘルニア門として脱出し,嵌頓,絞扼していたため小腸部分切除術を施行した.開腹歴のないイレウスにおいても本症を念頭に置く必要があると思われた.

ERCP後に重症膵炎をきたした下部胆管癌に膵頭十二指腸切除を施行した1例

著者: 南村圭亮 ,   若杉正樹 ,   梅村彰尚 ,   菊一雅弘 ,   平田泰 ,   坂本昌義

ページ範囲:P.913 - P.917

要旨:患者は61歳,男性で,右背部痛を主訴に受診した.肝機能異常および腹部超音波検査で肝内胆管拡張,総胆管内腫瘤を指摘され,精査のため入院となった.ERCPで下部胆管癌が疑われた.ERCP後に重症膵炎(CT grade分類Ⅳ)を発症し,保存的加療を行った.ERCP後71日目にPDを施行したが,術後6病日に腹腔内出血をきたし再開腹止血術を行った.術後,持続洗浄とソマトスタチンアナログ剤の投与を行ったがドレーンアミラーゼは高値であり,再手術後27日目に再出血をきたした.造影CTで胃十二指腸動脈切離断端部に仮性瘤を認めたためTAEを行ったところ,それ以後は止血が得られ,残存する膵液瘻はフィブリン糊の充塡により消失した.集学的治療により救命することができたので報告する.

1200字通信・14

蓋し名言

著者: 板野聡

ページ範囲:P.812 - P.812

 今年の春にもまた,医師国家試験の合格発表がありました.例の初期研修のためか,私たちの頃の発表時期に比べると,ずいぶん早くなっているようです.いずれにしても,また新たな医師のヒナ達が誕生したわけで,その門出を心から祝い,立派な若鳥に育って欲しいと期待しています.しかし,これまでの湾内の穏やかな水面に比べて相当に荒れている外海の荒波を見るにつけ,その前途の多難を心配する気持ちが沸いてくるのを抑えられないのも現実ではあります.

 そんなヒナ達のなかに私の知る産婦人科医のお嬢さんがいました.彼女もまた,医師をしている彼女の父親や伯父達の背中を見て医師を目指したそうですが,一方の父親はというと,「今のご時勢では苦労するだけだから」と医学部への入学には消極的であり,「一度も医者になって欲しいなどと言ったことはない」とのことでした.そうは言いながらも,国家試験の合格を聞いたのちの彼の目尻は下がりっぱなしで,彼の心中をよく表わしていると感じられることではありました.

昨日の患者

看護師になってよかった

著者: 中川国利

ページ範囲:P.845 - P.845

 少子高齢化社会を迎え,年老いた親をいかに看取るかが大いなる課題になりつつある.介護保険や老健施設なども整備されつつあるが,家族にはいまだ負担が重くのしかかる.

 黄疸を主訴にMさんが,当院に勤める看護師の娘さんに付き添われて来院した.精査を行うと膵臓癌であり,膵頭十二指腸切除術が行われた.Mさんの伴侶はすでに亡くなり,子供は娘さん1人だけであった.親思いの娘さんは朝な夕な,仕事の合間を惜しんでは甲斐甲斐しく母親の世話をした.

勤務医コラム・13

ダンゴ3兄弟の結論

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.869 - P.869

 男3兄弟は50歳前後の働き盛り.地理的にも離れているので,3人揃って酒を酌み交わすことなど,5年に一度もない.しかし今年の正月は久しぶりに集まった.勤務医・会社員・教員の3人だが,みな年相応に社会にもまれ,各々の職場で悪戦苦闘している.文句をいいたい年頃だ.

 話は自然と,「最近の世相」へと向かう.教育現場は大変だそうだ.子どもがどうこういう前に,親が完全に壊れているらしい.そういえば夜の外来でもそういう人をみかけるなあ.

書評

小西文雄(監修)自治医科大学附属さいたま医療センター 一般・消化器外科(編著)「消化器外科レジデントマニュアル(第2版)」

著者: 小林一博

ページ範囲:P.872 - P.872

 平成16(2004)年に新臨床研修制度が導入され,卒後研修先が大学から市中病院に大幅にシフトしてきているのは周知の通りである.当院でも臨床研修医のみならず,大学病院での外科修練を経ない後期研修医が勤務する事態となっている.第一線病院における医師養成の比重は増大しているが,指導する側は勤務医としての過剰な業務量のため,研修医教育に時間的制約を受けている.このような状況では当然知識や経験は不足,偏りがちとなる.そのため外科をめざす若手医師にはその分野を網羅する知識を集約したマニュアルが不可欠となる.さらにそのマニュアルが診療現場で直ちに役に立つものであれば理想的である.『消化器外科レジデントマニュアル』初版の販売部数は予想をはるかに凌駕したと聞いている.この事実は本書が時代のニーズに見事にマッチしたことを示している.今般,最新の知見を取り入れて改訂され,第2版が出版された.

 本書の特徴は,①医療安全にも配慮され,修練すべき事項を広範囲に網羅していること,②研修医が経験すべき重要な疾患,診療手技が重点的に詳述されていること,③現場で役に立つ具体的内容であることであろう.

Mary Dobson(著),小林 力(訳)「Disease人類を襲った30の病魔」

著者: 茨木保

ページ範囲:P.873 - P.873

 本書は病気を切り口にした医学史書です.ペスト,コレラ,天然痘などのパンデミックはこれまで,戦争以上に多くの人命を奪ってきました.異文化の接触のたびに病原体の交流が行われ,それはしばしば一つの文明を滅ぼすほどでした.人類の歴史とは感染症との闘いであったといっても過言ではありません.本書ではそうした歴史が,疾患ごとに見開き8ページ前後で解説されています.各章の長さは,診療の合間に読むのにもちょうどよいボリューム.そして何より一番の特徴は,誌面のビジュアル的な美しさでしょう.B5判全ページカラー,いずれのページにも医学の歴史を伝える貴重な絵画や生き生きとした写真が満載.医薬史研究家の小林力氏の流麗な邦訳と相まって,圧倒的な迫力で読者を時間旅行にいざなってくれます.まさに目で見る医学史の決定版といえるでしょう.

 医学の進歩には「闇」がつきまといます.学者たちはしばしば,疾患の原因を突き止めるためにぞっとするような実験を行ってきました.感染症説を否定しようと,コレラ菌入りのフラスコを飲み干したペッテンコファー,ペラグラの感染を否定するため,患者の汚物を飲んだゴールドバーガー,患者を用いてハンセン病の感染実験をしたために,医学界を追われたハンセン,梅毒の経過を調べるために,患者を無治療のまま追跡調査したアメリカのタスキギー研究……本書はそうした医学の闇についても容赦なく切り込みます.それらには倫理に反する試みも多いのですが,安全で衛生的な社会に生きる現代人は,先人たちの闇の果実の恩恵にあずかっているのだという事実もまた,認めなければなりません.

ひとやすみ・60

病室での心の癒し

著者: 中川国利

ページ範囲:P.895 - P.895

 「坂の上の雲」の主人公である正岡子規の全生涯は35年と短かったが,俳人・歌人として大活躍した.しかも,人生の後半は脊椎カリエスに罹患し,ほとんど寝たきり状態での獅子奮迅であった.また,6畳の書斎兼病室から望む20坪の庭の風情を愛で,情緒豊かに書き残している.

 病院に入院すると,患者さんは病室という限定された空間での生活を余儀なくされる.病は体の障害であるが,気持ちも大いに落ち込む.心を癒してくれるものとして,家族との会話,懐かしの写真,花,テレビ,読書などがある.しかし,自然に接し,自然に抱かれると誰もが安らぎを得るものである.入院すると自由に出歩くことは叶わないが,病室においても自然を楽しむことはできる.

--------------------

あとがき

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.924 - P.924

 本年4月より大腸癌の化学療法の新たな分子標的薬が保険適応となり,再発大腸癌の治療において従来から指摘されてきた,いわゆるdrug lagの問題が解決されようとしています.ここ10数年の間に大腸癌に対しては様々な薬剤が開発され,治療成績が向上してきました.これらの薬剤のなかには,わが国で開発された薬剤もありましたが,こうした薬剤も海外では使用できるのに,わが国では使用できないといった皮肉な問題も発生していました.再発大腸癌の治療において,海外に遅れをとっていたわが国もようやく同じスタートラインに立てたということは,今後の治療に大きな影響を与えることと思います.このような大腸癌の化学療法の問題をみてもわかるように,海外とわが国では,治療上様々な相違点があります.特に外科治療においては,わが国の患者の海外との体型の違い,外科医の手術に対する考え方の違いなど,様々な背景の違いがあると思います.そこで今回は,外科治療におけるわが国と海外との相違点に注目して各臓器の癌治療の特集を組みました.今回の特集では,消化器,内分泌,呼吸器など様々な疾患において海外とわが国との間に差があることが示されています.Evidence based medicine(EBM)の重要性が唱えられていますが,evidenceレベルが高いrandomized controlled trialの多くは海外で行われ,その結果が報告されているのが現状です.このため,evidenceレベルのみに注目すればとかく海外の臨床試験に準じた治療がいわゆるEBMに基づいた治療と考えられがちです.しかし外科の領域においては,従来わが国が海外をリードしてきた分野があるのも事実です.こういった違いを十分認識して海外からのデータを解釈,利用しないと,わが国の実情に合った治療は行えないと思われます.そういった点からは,本特集で紹介されているわが国の外科治療の様々な特徴を認識しておくことはきわめて重要なことと考えられます.わが国と海外の相違点を十分理解したうえで,最適な日常臨床を可能とするために,本特集がお役に立つことを期待しております.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?