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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科65巻7号

2010年07月発行

雑誌目次

特集 腹壁瘢痕ヘルニア治療up date

ページ範囲:P.935 - P.935

腹壁瘢痕ヘルニアの歴史は,外科医による開腹手術の歴史と重なる古いものである.しかしながら,2008年に日本ヘルニア学会が発足し,他学会でもテーマに取り上げられるなど,その発生動向や治療法は今も変化し続けている.

本特集では,それぞれ特徴的な工夫を凝らした腹壁瘢痕ヘルニア整復・根治術の「適用と禁忌」「利点と欠点」,また最近のトピックスについてご執筆いただいた.

特集によせて

著者: 稲葉毅

ページ範囲:P.937 - P.937

 腹壁瘢痕ヘルニアの歴史は,外科医による開腹手術の歴史と重なるものである.当然ながらその治療の歴史も古く,どの外科書を見ても本疾患の記載のないものはない.体格が大きく,肥満者の多い国の教科書には,目を疑いたくなるような巨大な腹壁瘢痕ヘルニアの写真が掲載されていることも多い.わが国ではそれほど巨大な腹壁瘢痕ヘルニアを目にすることは稀であると考えられてきたが,昨今のいわゆる「欧米化」の流れが続けば,日本人患者の写真が巨大ヘルニア症例として世界の教科書に載るような時代がやってきても不思議ではない.

 2008年に日本ヘルニア研究会が日本ヘルニア学会として新たなスタートを切り,2009年4月には,学会としては第1回の学術集会が開催された.3会場で2日間かけてようやく発表しきれるほどの演題が集まり,新参の学会としては異例と言ってよい盛会となった.当然ながら,腹壁瘢痕ヘルニアについても複数のセッションが組まれ,活発な討議がなされた.また,昨年は日本臨床外科学会においても腹壁瘢痕ヘルニアがパネルディスカッションのテーマとして取り上げられ,治療法に関する討議がなされた.このように学会討議が活発に行われているということはすなわち,腹壁瘢痕ヘルニアは歴史的には古い疾患であるが,その発生動向や治療法が今も変化し続けているからに他ならない.

腹壁瘢痕ヘルニアの現状と治療の問題点―“常識”の再確認と“常識”の打破と

著者: 稲葉毅

ページ範囲:P.938 - P.942

要旨:近年,専門疾患として腹壁瘢痕ヘルニアの認識が高まっている.その発生率は施設によって異なるが,渡會ら(日外感染症会誌,2009)の報告した7.7%が目安となろう.原疾患としては悪性腫瘍が増加し,メッシュ補強後の再発も増えてきた.筋鞘の癒合が予防に重要であることに違いはないが,最近は筋鞘の縫い代を狭くしたほうが発生が少ないという報告もされており,従来の常識が変化している.縫合糸はmonofilamentで抗張力保持期間が長い合成吸収糸が発生予防によいようであるが,結論は出ていない.治療術式ではtension-freeの重要性が広く認識されてきたが,メッシュか自己組織か,開腹法か腹腔鏡法かの優劣は明確ではなく,患者の状態と術者の手技習熟度とで選択するのが現在の最良の方法であろう.新素材の製品が次々に登場しているが,それぞれに利点・欠点がある.外科医としてはよいものは取り込みつつ,企業に振り回されることのないように心がけるしかない.

単純縫縮法による腹壁瘢痕ヘルニア修復術

著者: 丸山嘉一

ページ範囲:P.944 - P.948

要旨:腹壁瘢痕ヘルニアは開腹手術後の合併症である.先行する開腹手術創での筋膜層の治癒不全・閉鎖不全によって筋層が離開し,腹腔内容が皮下に脱出した状態で,肥満や糖尿などの全身的背景や手術手技が原因である.治療は手術による修復が行われる.その基本はほかのヘルニアと同様にヘルニア囊の処理とヘルニア門の閉鎖・補強である.修復の方法には単純縫縮や生体・人工物を用いた補綴があり,われわれ外科医はそれぞれの手技・利点・欠点を知っておかなければならない.術式の選択にあたっては,単にヘルニアの大きさだけでなく,背景を勘案して行われるべきである.単純縫縮法の適応は初回手術,ヘルニア門横径3cm以内を原則としている.適応を厳密にすることで,手術操作が少ない単純縫縮法は現在でも有用な手技と考える.

大腿筋膜を用いた腹壁瘢痕ヘルニア修復術

著者: 多久嶋亮彦 ,   波利井清紀

ページ範囲:P.950 - P.955

要旨:腹壁瘢痕ヘルニアは,ヘルニアの部位,大きさ,周囲組織の状態が症例ごとに大きく異なっているが,大腿筋膜を用いた修復方法は,術野の細菌汚染が考慮されるような場面を含めて,あらゆる状況下での使用が可能である.筋膜を採取するという手間はかかるものの,人工物を用いる場合と違い,術後の感染や露出の可能性もほとんどない.筋膜採取部の大腿外側には軽度の感覚障害が残るが,大きな機能障害もない.さらに,修復術後に生じるイレウスなどの合併症率も他法と比較して遜色はなく,筋膜と腸管などが強く癒着することはないと考えられる.したがって,大腿筋膜を用いたパッチによる腹壁瘢痕ヘルニアに対する修復方法はきわめて汎用性が高く,有用である.

Components separation法による腹壁瘢痕ヘルニア修復術

著者: 島田長人 ,   本田善子 ,   一林亮 ,   高地良介 ,   杉本元信 ,   金子弘真

ページ範囲:P.956 - P.961

要旨:Components separation法は正中型腹壁瘢痕ヘルニアに対する修復術である.外腹斜筋腱膜を切開し,外腹斜筋と内腹斜筋の間を剝離することで腹直筋を正中へ伸展させ,直接縫合する手術法である.この術式の最大の利点は,メッシュなどの人工材料を使用せずに腹壁を再建できることにある.したがって,創部感染合併例や緊急手術例はもちろんのこと,他疾患との同時手術も可能であり,臨床上の適応範囲は広い.修復可能なヘルニア門の横軸長はウエストライン上で約15cmまでと考えられるが,上腹部の肋骨弓付近と下腹部領域での腹直筋の伸展はやや不良である.手技は比較的容易であり,われわれ一般外科医でも十分に習得することが可能な修復術である.

Modified shoelace darn repair法による腹壁瘢痕ヘルニア修復術

著者: 堤敬文 ,   楠本哲也 ,   永末裕友 ,   山口将平 ,   遠藤和也 ,   池尻公二

ページ範囲:P.962 - P.966

要旨:腹壁瘢痕ヘルニア修復術に関しては,その再発率の高さからゴールドスタンダードと考えられている術式がないのが現状である.われわれは腹直筋前鞘を反転させるtension freeの修復法であるmodified shoelace darn repair法を腹壁瘢痕ヘルニアの修復に用いており,良好な結果を得ているので,本稿ではその手術手技を報告する.修復法は,①腹直筋前鞘をヘルニア門の幅の半分程度の長さで切離し,②切離した腹直筋前鞘を反転して正中で連続縫合し,③減張のため,残存している腹直筋前鞘を靴ひもを結ぶように水平マットレス連続縫合する(shoelace縫合).本術式では人工物を使用せず,手技も安全であり費用も安価であるため,腹直筋前鞘が健全である症例では有効な修復法の1つとなり得ると考える.

Double mesh法による腹壁瘢痕ヘルニア修復術

著者: 佐原八束 ,   中嶋昭 ,   東海林裕 ,   大石陽子 ,   川村徹 ,   佐藤康

ページ範囲:P.968 - P.972

要旨:腹壁瘢痕ヘルニアの単純閉鎖術は再発率が25~63%と言われており,近年はメッシュを使用した術式が多用されている.われわれは腹壁瘢痕ヘルニアの術式としてメッシュを二重に用いるdouble mesh法を選択している.本術式は前方アプローチからヘルニア門を層々に閉鎖して後鞘の上層,前鞘の上層の2つの層にそれぞれメッシュを留置することで自己組織による腹壁再形成を補強するものである.閉鎖式持続吸引ドレーンを留置し,漿液腫形成を予防する.再発例は21例中1例であり,メッシュ感染例は認めなかった.本術式は腹壁瘢痕ヘルニア修復術の1つとして有用と考えられる.

デュアルメッシュ®による腹壁瘢痕ヘルニア修復術

著者: 蛭川浩史 ,   小林隆 ,   添野真嗣 ,   佐藤優 ,   松岡弘泰 ,   多田哲也

ページ範囲:P.974 - P.980

要旨:デュアルメッシュ®は100%ePTFEからなり,組織浸潤面と癒着防止面の2面構造を持つ,腹腔内に留置することが可能なメッシュである.軟らかく丈夫で,耐熱性,耐薬品性,撥水性などに優れ,生体親和性も高い.当科では腹壁瘢痕ヘルニアに対し,開腹によるデュアルメッシュ®の腹腔内留置法を行っている.術式を行ううえで留意すべき点は,①メッシュの収縮を考慮してヘルニア門より十分に大きなメッシュを使用することと②非吸収糸で筋層全層に通刺して確実に固定することで,再発や慢性疼痛を予防するために重要である.デュアルメッシュ®の腹腔内留置法は消化管に対する影響がほとんどなく,感染にも強いと考えられ,簡便かつ安全な方法である.

Rives-Stoppa法による腹壁瘢痕ヘルニア修復術

著者: 松浦謙二

ページ範囲:P.982 - P.987

要旨:腹壁瘢痕ヘルニアの術後再発率は17~63%と高率であり,個々の症例に応じた適切な術式選択が再発を防ぐ最大の因子とされている.われわれは2000年から再発ヘルニア・複数複雑ヘルニア門・巨大ヘルニア門の症例に対してRives-Stoppa法(RS法)を行っている.本稿では2002年から2006年までの9症例の予後を検討した.術後観察期間は平均38か月であり,現在まで全例で再発を認めていない.RS法はretromuscular/preperitonealに大きなメッシュを挿入し,前方腹壁を全体にわたって再建する術式である.RS法の利点として,①tension-freeで腹壁再建が可能であること,②巨大・複雑なヘルニアにも応用が可能であること,③再発率がきわめて低いこと,④開腹を必要としないことなど多数の事柄が挙げられる.いわゆるSwiss-cheese型のヘルニアや再発ヘルニアの術式として第1に選択すべき術式と考えている.

腹腔内留置型composite mesh法による腹壁瘢痕ヘルニア修復術

著者: 三澤健之 ,   坂本太郎 ,   矢永勝彦

ページ範囲:P.988 - P.995

要旨:近年,腹壁(瘢痕)ヘルニア修復術に使用されているコンポジット(composite:複合)メッシュは,臓側面のePTFEシートによって腸管との癒着が予防されることから腹腔内に留置することが可能となった.筋膜を広範囲に剝離する必要がなく,最内側(腹腔側)からヘルニア門を閉鎖することができるtension-free修復術として急速に普及している.手技が簡便で再発率の低下にも寄与している本術式であるが,その普及に伴って問題点も報告されていることから,使用法の基本を十分に理解しておく必要がある.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・18

末梢動脈再建術に愛用の手術器具・材料

著者: 古森公浩

ページ範囲:P.929 - P.933

はじめに

 外科手術の進歩ならびに手術適応の拡大に伴い,手術中に重要血管を切除し,再建しなければならない場面が増加している.その際,治療の対象となる血管には,硬化性,炎症性,腫瘍性変化などの病変が存在していることが多く,これらの血管の処理には血管外科独特の手技が必要である.

 本稿の対象は末梢動脈を主とするが,一般的な血管の剝離・露出,血流遮断,血管の切開,吻合の基本手技,さらには手術器具・材料について,そのコツや注意点を踏まえて述べる.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・1【新連載】

減量外科とは何か?

著者: 笠間和典

ページ範囲:P.996 - P.1001

 元気ですかぁぁぁ!!

 元気があれば新連載もできる!

 市中の一般内視鏡外科医として生きるつもりだったものの

 全然違う方向に走ってしまい

 人生はままならず,という感じの今日この頃

 元気がなくなってしまった日本の外科学を憂い

 元気がなくなってしまった日本を嘆いています

 人間,守る時は攻めている時の何倍もパワーがいる

 だったら毎日攻めりゃいいじゃねえか!

外科専門医予備試験 想定問題・5

小児外科,救急・麻酔

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   青木耕平 ,   松田諭

ページ範囲:P.1002 - P.1010

出題のねらい

 小児外科領域は多くの受験者は経験が少なく,難しく感じる方も多いのではないでしょうか.一般外科医が見慣れない画像の問題がいくつか出題されていますが,全体の1割程度の問題配分ですので,やはり一通り教科書の知識を復習しておく必要がありそうです.

 一方,救急・麻酔分野は比較的簡単な問題が多く正答率は高いと思われます.日頃の臨床をまじめに取り組んでいる方は特別な対策は必要なさそうですが,ACLSの代表的なアルゴリズムは復習しておきましょう.来月は試験直前の基本事項総チェックを行います.

病院めぐり

川口工業総合病院外科

著者: 田嶋政之

ページ範囲:P.1012 - P.1012

 当院は埼玉県川口市にある,病床数199床の中規模病院です.川口は吉永小百合さん主演の映画「キューポラのある街」の舞台となった街です.キューポラとは鉄の溶解炉のことで,当市は鋳物工業で栄えた街でした.東京都と接する地理的好条件もあり,最近では工場に代わり高層マンションが数多く目につくようになりました.

 当院は,かつての産業の中心であった鋳物組合や機械組合によって作られた健康保険組合の直営病院として昭和34年に開設されました.保険組合の直営病院とは言え,現在は受診患者の9割以上は非組合員の方であり,50年にわたり地域医療を担ってきました.また,東京医科歯科大学の臨床研修病院となっており,多くの医師が同大学の出身者となっています.

岡村記念クリニック

著者: 岡村維摩

ページ範囲:P.1013 - P.1013

 当院は今年で開院10年という,まだ歴史の浅い有床診療所です.当院のある日高市は埼玉県南部に位置します.山と清流に囲まれた,人口6万弱の静かな町です.大きな観光スポットはありませんが,最近では彼岸花の群生が見られる「巾着田」と,出世の神様で有名な高麗神社に沢山の観光客が訪れます.また,東京から車で1時間強の通勤圏のはずれでもあります.

 そんな町の地域基幹病院として埼玉医科大学国際医療センターが,また隣町ではありますが埼玉医科大学病院があり,当院はそれらの施設に一番近い「入院施設」として病診連携を行っています.病床数19床という有床診療所でありますが,超急性期医療と住民とをつなぐ存在です.設備的にもMRIなどの診断機器はもとより,開院時から電子カルテを導入しており,現在は2世代目となっています.

私の工夫―手術・処置・手順

根部結紮を併用する痔核硬化療法(L・ALTA)

著者: 出口浩之

ページ範囲:P.1014 - P.1015

【はじめに】

 Aluminum potassium sulfate tannic acid hydrate(ジオン®)による痔核硬化療法(ALTA)は今や内痔核疾患に対して第1選択の治療法になりつつあり,一般的には4段階注射法として周知され,良好な治療成績が報告されている.反面,徐脈1,2)に代表される心血管系の副作用や直腸潰瘍からの出血・狭窄などの有害事象も報告されている3,4).前者は主としてジオンの注入量とその速度に影響を受け,後者は過度の注入量と不適切な部位への注入が原因と考えられる.

 筆者はこれらを防ぐための方法として4段階注射法の第1段階注射に代えて,痔核上極の上直腸動脈流入部の結紮を併用したALTA療法(ALTA with ligation:L・ALTA)を行っているので,その結果を報告する.

臨床報告

腹腔鏡補助下手術を施行した虫垂粘液囊腫の2例

著者: 後藤裕信 ,   池永雅一 ,   高田晃宏 ,   安井昌義 ,   三嶋秀行 ,   辻仲利政

ページ範囲:P.1017 - P.1022

要旨:当科において経験した虫垂粘液囊腫の2例に対して腹腔鏡補助下手術を施行した.腹部造影CT検査および下部消化管内視鏡検査から虫垂粘液囊腫と診断した.手術は腹腔鏡補助下回盲部切除術ならびに腹腔鏡補助下虫垂切除術を施行した.病理組織学的所見では2例とも虫垂粘液囊胞腺腫であった.虫垂粘液囊腫は良・悪性の術前・術中診断が困難である.そのため,症例に応じて腹腔鏡補助下手術を行い,切除標本の病理組織学的所見から追加手術を検討することによって過大な手術侵襲を避けることができると考えられる.

特発性分節性大網梗塞の1例

著者: 宮澤智徳 ,   小出則彦 ,   藤田亘浩 ,   本間憲治

ページ範囲:P.1023 - P.1026

要旨:患者は48歳の女性で,突然の腹痛を主訴に当院を受診した.身体所見上,左腹部に圧痛と反跳痛を認めた.腹部CT検査所見で,胃下方の左側腹壁に接して扁平な脂肪濃度腫瘤があり,辺縁に不正な増強効果があった.以上から特発性分節性大網梗塞と診断し,まずは保存的治療を行ったが,症状が増悪したため翌日に緊急手術を施行した.手術所見では大網の一部が扁平な血腫状の腫瘤となっており,大網を部分切除して腫瘤を摘出した.病理検査所見では,顕著な出血性の背景に脂肪壊死が局所的に存在し,さらに反応性細胞浸潤がびまん性に認められ,大網の出血性梗塞の状態であった.

腹腔鏡下修復術を施行した横行結腸間膜裂孔ヘルニアの1例

著者: 深町伸 ,   中川国利 ,   鈴木幸正

ページ範囲:P.1027 - P.1030

要旨:患者は83歳の女性で,腹痛および嘔吐を主訴として紹介された.腹部CT検査では胃の背側,横行結腸の頭側に著明に拡張した空腸を認めた.また,空腸間膜の浮腫と収束像を認めたため,横行結腸間膜裂孔ヘルニアを疑った.腹腔鏡下に観察すると,横行結腸間膜に直径3cmの裂孔を認めた.さらに,Treitz靱帯から約80cm肛門側の空腸が嵌入していた.腸把持鉗子で1mほどの空腸を引き出し,裂孔を吸収糸で縫合閉鎖し,腸管切除は行わずに手術を終了した.横行結腸間膜裂孔ヘルニアの術前診断には腹部CT検査が大変有用であり,また,腹腔鏡下手術によって確定診断から治療までを一貫して施行できた.

HIV陽性で,回盲弁狭小化による腸閉塞をきたした1例

著者: 末田聖倫 ,   池永雅一 ,   安達智洋 ,   安井昌義 ,   宮崎道彦 ,   辻仲利政

ページ範囲:P.1031 - P.1035

要旨:患者は38歳,男性.HIV感染症でhighly active anti-retroviral therapy(HAART)の導入中であった.腸閉塞を繰り返し発症し,保存的治療で改善していた.経過中の下部消化管精査で回盲弁の狭小化を認めていたが,腸結核などの特異的な所見は得られなかった.2008年9月に腸閉塞で緊急入院した.CD4値は100cells/mm3前後で,免疫不全状態が持続していた.腸閉塞は保存的に改善することもあり,CD4値の改善を第一としたが,腹部症状が増悪したため手術を施行した.以前から認めていた回腸末端の狭小化が原因と考え,回盲部切除術を施行した.病理組織学的には特異的な炎症像や感染を示す細胞像および悪性所見も認めなかった.HIV陽性で何らかの炎症所見によって回盲弁狭小化による腸閉塞をきたした1例を経験したので報告する.

成人出血性Meckel憩室に対して腹腔鏡下手術を施行した1例

著者: 吉岡茂 ,   太枝良夫 ,   若月一雄 ,   片岡雅章 ,   外岡亨 ,   川本潤

ページ範囲:P.1037 - P.1041

要旨:出血性Meckel憩室に対して腹腔鏡下手術を施行した1例を経験したので報告する.患者は33歳,男性.下血を主訴に当科に入院した.上部・下部内視鏡検査では出血源を認めなかった.Meckel憩室を疑って,99mTcO4-シンチグラムを施行したが異常集積を認めず.小腸造影で骨盤内の回腸に憩室を認めた.出血性Meckel憩室の診断のもとに腹腔鏡下手術を施行した.回腸末端から50cm口側に5cm大のMeckel憩室を認め,憩室を含めた回腸部分切除術を施行した.憩室内に潰瘍および異所性胃粘膜を認めた.経過は良好で,第9病日に退院した.以上の成人出血性Meckel憩室症例について文献的考察を加えて報告する.

上行結腸原発gastrointestinal autonomic nerve tumor(GANT)の1切除例

著者: 北山卓 ,   内山哲之 ,   阿部友哉 ,   大石英和 ,   小田聡 ,   渡辺みか ,   伊勢秀雄

ページ範囲:P.1043 - P.1047

要旨:患者は64歳の男性で,検診目的のPET-CTで上行結腸に異常集積が指摘され,精査目的に紹介された.術前の画像診断では悪性腫瘍も否定できなかったため右半結腸切除術を施行した.免疫組織学的検索ではvimentin,S-100がび漫性に陽性で,さらに巣状にKIT,CD34,SMA,CD56が陽性像を示したため,上行結腸原発のgastrointestinal autonomic nerve tumor(GANT)と最終診断された.わが国では結腸原発GANTの切除例はきわめて稀なため報告する.

Upside down stomachおよび結腸の脱出を伴った巨大な食道裂孔ヘルニアに併発した胃癌の1切除例

著者: 渋谷雅常 ,   寺岡均 ,   中尾重富 ,   真下勝行 ,   原順一 ,   新田敦範

ページ範囲:P.1049 - P.1053

要旨:患者は87歳,男性.嘔吐および食欲不振を主訴に近医を受診し,胸部単純X線写真で縦隔内に消化管ガス像を認めたため,精査加療目的で当院を紹介された.精査の結果,upside down stomachを伴った食道裂孔ヘルニアに併発した早期胃癌と診断し,手術を施行した.手術所見では約10cmのヘルニア門を有する滑脱型の食道裂孔ヘルニアを認め,横行結腸の一部および長軸方向に180度捻転した全胃が縦隔内に脱出していた.脱出臓器を用手的に腹腔内へ還納したのち,幽門側胃切除術および食道裂孔縫縮術を施行した.術後経過は良好であった.胃軸捻転や結腸の脱出を伴う食道裂孔ヘルニアに併発した胃癌は非常に稀なため,文献的考察を加えて報告する.

ひとやすみ・61

埴生の宿

著者: 中川国利

ページ範囲:P.981 - P.981

 少子高齢化社会を迎え,いかに両親を看取るかが社会問題となっている.昨年4月に大腸癌の肝転移で父親を,そして10月に嚥下性肺炎で母親を看取った.生命には限りがあり,いつかは必ず別れがあることを覚悟はしていたが,現実になると寂しさが募る.

 両親が田舎に暮らしていた頃は毎週のように電話をかけ,月に1度は実家に帰ったものである.そして,いまだに何か出来事があると,両親に報告したくて電話をかけたくなる.しかし,親が逝った現実に引き戻され,寂しさを感じる.

勤務医コラム・14

癌が再発したら

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.1011 - P.1011

 自分が手術を担当した患者さんの癌が再発したら……まずがっかりする.これから先,いつ頃どういうことが起こって,どう処置したらこうなって,そうして最終的にこうなる,という流れ図が頭のなかに浮かんでしまう.はじめから切除不能の場合も似たような流れ図が浮かんでくる.

 Negativeな気持ちをふり払って治療を始める.患者さんの年齢,性,性格,仕事,経済状態,家族構成などを考えて,なるべくよさそうな方法を選ぶ.できるだけ副作用がないように,お金がかからぬように,よく効くように,と願いつつやる.“抗癌剤の作用機序”のような理屈はさておき,とにかく気持ちを込めてやるしかない.気持ちで解決するほどヤワな問題ではないが,気持ちしか持っていないのだから仕方ない.「あきらめず,とことんつき合う」それしかない.当然,屍の山だ.しかしそのなかにポツンと咲く花をたまに見つける.

1200字通信・15

「龍馬伝」に思う

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1016 - P.1016

 NHKの大河ドラマ「龍馬伝」が人気だそうです.主役が福山雅治さんということも手伝ってのことでしょうが,題材が坂本龍馬であれば面白くないわけがないと,時代劇大好きオジさんも楽しく拝見しています.

 さて,龍馬さんが土佐出身ということは知ってはいましたが,今回のドラマで土佐藩での身分制度,それも同じ武士のなかでの上士と下士の扱いの違いには驚かされることになりました.当時は,生まれた家の身分のままに生涯を過ごさねばならず,また,勝手に土佐を離れることもままならなかったようです.それにしても,虐げられた下士のなかから日本を変える人材が輩出されたことは古今東西における歴史の必然であり,あるいは「だからこそ」と言えるのかもしれません.

昨日の患者

病室から月を愛でる

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1048 - P.1048

 いくら説明をしても,相手を納得させることは至難の業である.いわんや黙していては,相手は関心さえ示してくれないのが世の常である.しかし,沈黙していても,お互いの気持ちを理解し合えることもある.

 Tさんは慢性便秘を訴えて来院した.検査を行うと大腸癌であり,多発性肝転移も認めた.しかし,80歳代後半でもあるため,単に大腸切除術のみが行われた.術後経過は良好で,娘さんに付き添われて退院した.癌が進行し,半年後に食欲不振で再入院した.補液により一時的ながら全身状態が改善した.

書評

小西文雄(監修)/自治医科大学附属さいたま医療センター 一般・消化器外科(編著)「消化器外科レジデントマニュアル(第2版)」

著者: 志田晴彦

ページ範囲:P.1054 - P.1054

 2005年に発刊された『消化器外科レジデントマニュアル』が待望の改訂を迎えることになった.この間に多くの外科レジデント,研修医の必携の書として彼らを育てた実績をもっての改訂である.不肖私が“『外科レジデントマニュアル』からさらに一歩消化器外科へ進む本”として本書初版の書評に記したように,日進月歩の外科分野のマニュアルとして改訂にはたいへんなご苦労があったものと察する.実際にこの第2版を見ると,小西教授のもと自治医科大学附属さいたま医療センター一般・消化器外科のスタッフが,最新の情報を求めながら日々診療されているご苦労がそのままマニュアルに反映されていると感じた.それぞれの項目で5年間の新しい知見が盛り込まれているが,特に「内視鏡下手術の基本」「stapling deviceの種類と使い方」の項や,各種の消化器癌取り扱い規約やガイドラインなどの更新に応じたそれぞれの章での改訂に医局員のきめ細やかな配慮が印象的である.

大村健二(編)「栄養塾 症例で学ぶクリニカルパール」

著者: 片多史明

ページ範囲:P.1055 - P.1055

 どの診療科が専門であっても,臨床医として修得しておかなければならない基本的事項が,いくつかある.栄養管理は,感染症の診断・治療や,水分電解質管理と並ぶ,患者マネジメントの基本であり,臨床医必須の知識・技術である.しかし,栄養管理法・臨床栄養学について,卒前に十分な教育を実施している大学は,まだまだ少ない.卒後教育においても,各種疾患の診断・治療に重きが置かれる中で,栄養管理が長い間軽視されてきたことは否めない.専門学会を中心とした,臨床栄養の卒後教育の取り組みが実を結び,各施設でも栄養管理についての教育に目が向けられるようになったのは,まだつい最近のことである.

 研修医に臨床栄養の講義をしていると,「栄養について勉強するのに,何か良い本はありますか?」という質問を受けることが多い.この質問を受けるたびに,いつも私は困っていた.分厚い臨床栄養学の専門書は確かにある.しかし,この分野の専門家を目指すわけではない医師の,限られた研修時間を費やすには効率が悪く,またよほどの心構えがない限り通読は困難である.内科学の教科書にも栄養管理の項目はある.だが全体のページ数のごく一部であり,そのほとんどが総論的事項である.2~3日で通読できて,臨床栄養学の全体を俯瞰することができ,なおかつ実践的な内容の本は……と考えると,答えに窮してしまうことが多かった.

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あとがき

著者: 畠山勝義

ページ範囲:P.1060 - P.1060

 新潟県佐渡市の朱鷺(トキ)の紹介は今回で5回目となる.前回(65巻2号)では2回目の試験放鳥(2次放鳥.2009年9月29日)についてと,本州に飛来した4羽の朱鷺について述べたが,今回は本州に飛来した朱鷺のその後を報告したい.

 この4羽(いずれも雌)は1次放鳥(2008年9月25日)の朱鷺で,最も早い時期に本州に飛来したのは識別番号3番の朱鷺である.3番朱鷺は主に新潟県内を中心に住んでいたが,長野市,山形県遊佐町,福島県只見町,富山市などにも飛来し,本年3月17日に佐渡市に戻り,3月22日には本州の糸魚川市で確認され,3月29日には再び佐渡市に戻っており,佐渡・本州間を2往復している.これに対して,4番朱鷺は4月に新潟県から山脈を飛び越えて(中国の朱鷺は標高差1,000mを移動したとの記録があるという)福島市に飛来し,その後,宮城県角田市,山形県米沢市を経て新潟県に戻った.しかし,昨年の5月に富山県黒部市を中心に住み着き,今年の3月に福井県あわら市や石川県加賀市に少し出てみたが,結局は黒部市に住み着いている.黒部市が住みやすいと思われる.13番朱鷺は佐渡・新潟間を2往復した最初の朱鷺として有名になったものである.この朱鷺は前回も報告したが,新潟大学のすぐ近くに住み着いていたこともあり,学長が遊び心ではあるが,学生証を発行したものである.この3月23日に佐渡に戻って住み着いている.7番朱鷺は残念ながら3月に新潟県胎内市で確認されて以降,消息不明である.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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