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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科65巻8号

2010年08月発行

雑誌目次

特集 ESD時代の外科治療

ページ範囲:P.1071 - P.1071

現在,内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)は各地の施設で実施されるようになってきた.その多くは消化器内科で行っていると思われるが,ESD実施後に外科で腸管を切除することになるケースもあり,また,ESDには消化管出血・穿孔などの合併症もみられ,ESDへの外科医の関わりは決して少なくない.しかし,施設の状況に応じてESDの適応や外科医の関わり方にも相違があるため,現場では「外科としてESDにどう関わるべきか」と迷う場面もあるようである.

そこで本特集では,領域別に各施設から,①ESDを実施する際の内科/外科の役割分担と連携,②ESDの適応をめぐって議論になりやすい点,③ESD実施後に外科治療をする際にポイントとなっていること,を中心に,外科医のESDへの関わり方を報告していただいた.

食道癌に対するESD

東海大学医学部付属病院での「外科の対応」

著者: 島田英雄 ,   幕内博康 ,   小澤壯治 ,   千野修 ,   西隆之 ,   葉梨智子 ,   山本壮一郎 ,   名久井実 ,   数野暁人

ページ範囲:P.1072 - P.1079

要旨:今日,早期食道癌に対する治療法として内視鏡的切除が積極的に行われ,食道を温存できるメリットから適応拡大が進んでいる.内視鏡的切除は内視鏡的粘膜切除術(EMR)と内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)に大別され,食道癌に対するESDが保険収載され3年になる.EMRでは分割切除が余儀なくされた病巣も一括切除が可能になった.しかし,局所治療であることに変わりはなく,リンパ節転移の危険性のない病巣が対象となる.ESDと外科治療に関して論議となる点は,①深達度からみた適応拡大,②周在性からみた適応拡大,③ESD後の病理結果からの追加手術,の3点に集約される.ESDの普及が外科治療に及ぼす影響は何なのか.現況のERの適応とその治療成績について解説した.

がん・感染症センター都立駒込病院での「外科の対応」

著者: 出江洋介 ,   了徳寺大郎 ,   本多通孝 ,   宮本昌武 ,   三浦昭順 ,   加藤剛 ,   門馬久美子 ,   藤原純子 ,   江頭秀人 ,   根本哲生 ,   前田義治 ,   佐々木栄作 ,   唐澤克之 ,   久賀元兆 ,   吉田操

ページ範囲:P.1080 - P.1088

要旨:内視鏡技術の進歩により,表在癌に対しての内視鏡的切除の適応が広がっている.さらに進行癌に対しても,CRT後のサルベージEMR,ESDなど,集学的治療のなかで食道温存療法の一翼を担うまでになった.

 そのようななかで,ESD後に追加治療を検討する症例も多くなった.追加治療の適応は前治療の有無を問わずpSM2以深,脈管侵襲(+),INFc,低分化癌のいずれかの因子がある場合としているが,このような条件でESD後の追加治療として鏡視下手術を行った結果,リンパ節転移を認めた症例が8例中2例(25%)であった.観察期間3~9年で全例無再発生存しており,追加治療として鏡視下手術を迷わずお勧めする理由はそこにある.しかし,ESD後の明らかな病変が画像上指摘できない状態で受け入れられる手術を考えた場合,さらなる改善が必要であり,その取り組みについても紹介する.

新潟大学医歯学総合病院での「外科の対応」

著者: 小杉伸一 ,   神田達夫 ,   竹内学 ,   小林正明 ,   渡辺玄 ,   番場竹生 ,   矢島和人 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.1090 - P.1095

要旨:食道表在癌に対する内視鏡治療は,内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)の登場によって応用範囲が飛躍的に拡大した.また,化学放射線療法の進歩と相まって,食道表在癌に対する治療の考え方が変わりつつある.本稿では,われわれの施設での食道表在癌に対するESDの現状を報告するとともに,相対的・研究的適応病変,ESD後再発病変,そしてESD後合併症に対する外科の対応について,自験例を呈示しながら概説した.ESDの普及によって食道癌に対する外科治療が多様化・複雑化している現在,食道外科医は食道癌患者が最小限の侵襲で最大限の恩恵を受けられるよう,最新の動向に精通している必要がある.

胃癌に対するESD

杏林大学医学部付属病院での「外科の対応」

著者: 阿部展次 ,   竹内弘久 ,   大木亜津子 ,   柳田修 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   杉山政則 ,   中村健二 ,   田内優 ,   高橋信一

ページ範囲:P.1096 - P.1100

要旨:内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)全盛時代における当院での外科医のESDへの関わり方や,内科・外科間の連携などを中心に概説した.当院では内科・外科双方で独立してESDを行っているが,適応や切除法などに関しては統一するようにしている.診断や適応に迷う症例は合同カンファレンスで議論し,偶発症が発生した場合やESD後追加外科治療が必要な場合は綿密な連携をとって対処している.ESD後,非治癒切除因子が明らかとなった場合は,予想されるリンパ節転移率などを提示したうえで追加外科治療の必要性を患者サイドに十分に説明し,同意を得たうえで腹腔鏡補助下胃切除術を行っている.また,胃切除拒否例に対しては,リンパ節転移の有無を確定するための全胃温存腹腔鏡下リンパ節郭清術を当科独自の臨床試験として提示し,同意が得られた症例に限ってこれを行うようにしている.

昭和大学横浜市北部病院での「外科の対応」―ESDと腹腔鏡下胃切除術の間を埋める新しい治療法(CLEAN-NET)の開発

著者: 井上晴洋 ,   小鷹紀子 ,   伊藤寛晃 ,   里館均 ,   工藤進英

ページ範囲:P.1102 - P.1106

要旨:内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)に対して外科がフォローする点は,大別すると2種類がある.1つは,①分化型粘膜癌と考えESDを施行した結果,sm2などのESDの適応外病巣であった場合と,もう1つは,②3cm以下の分化型Mではあるものの高度の瘢痕症例などのいわゆるESD困難例であろう.①には追加の腹腔鏡下手術が施行される.一方②に対しても,これまでは,画一的に腹腔鏡下手術が適応されてきた経緯があろう.われわれは,主として②に対して,より低侵襲な治療をめざして,CLEAN-NET(combination of laparoscopic and endoscopic approaches to neoplasia with non exposure technique)を開発して臨床応用している.CLEAN-NETとは,胃の局所切除(全層)を経口内視鏡と腹腔鏡の組み合わせで“胃内腔を腹腔内に開放することなく”行う方法である.色素法のsentinel node navigationを併用しつつリンパ節郭清も行う.CLEAN-NETは,ESDと腹腔鏡下手術の間を埋める新しい治療法であり,胃の切除範囲を最低限にとどめられる手法と期待される.このように過不足のないオーダーメイド医療を追及している.

鹿児島大学病院での「外科の対応」

著者: 石神純也 ,   上之園芳一 ,   有上貴明 ,   夏越祥次

ページ範囲:P.1108 - P.1111

要旨:内視鏡治療の技術の進歩と各種医療機器の改善により,内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)が安全で容易に施行可能となり,対象病変の範囲,部位が広がってきている.一方,早期胃癌といえどもリンパ節転移のリスクは存在しており,わが国の膨大な早期胃癌のデータを基にしてリンパ節転移高危険群が設定されている.胃癌治療ガイドラインでは,これら症例に対しては胃切除とリンパ節郭清が推奨されている.ESD後の組織診断でリンパ節転移高危険群と判明した場合,所属リンパ節の郭清を含めた追加治療が必要となる.適応基準は次期胃癌治療ガイドラインに明記される予定である.しかし,早期胃癌の多くはリンパ節転移のみられない症例であり,リンパ節転移が低リスクの症例に対して画一的なリンパ節郭清は望まれない.転移のみられない症例を過去のデータから抽出することは重要な作業である.それとともに転移リンパ節をいかにして検出するかということが重要である.これらの状況を加味して,当科ではESDの適応拡大の際には,微小転移診断を基にセンチネルリンパ節生検を行う治療の工夫を試行しているので紹介した.

大腸癌に対するESD

慶應義塾大学病院での「外科の対応」

著者: 長谷川博俊 ,   飯田修史 ,   石井良幸 ,   遠藤高志 ,   岡林剛史 ,   平田玲 ,   代永和秀 ,   今枝博之 ,   北川雄光

ページ範囲:P.1112 - P.1115

要旨:近年,内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)が早期大腸癌に対しても臨床導入され,2cm以上の大きな腫瘍も内視鏡的に一括切除が可能となった.適応については腫瘍最大径5~6cm,環周度1/2までとしている.ESD後の合併症は,穿孔を1例(1%)に認め,保存的に治癒した以外認めなかった.ESD後の追加腸切除では全例で腹腔鏡下腸切除術を施行し,術中・術後合併症は経験していない.

 ESDの導入により,pM癌に対する腹腔鏡下手術の役割は明らかに減少した.報告ではESDは穿孔などの合併症の頻度も高いが,症例を選べば安全に施行可能であり,内視鏡的粘膜切除術(EMR)の適応とならないcM癌・cSM軽度浸潤癌に対しては,まずESDを考慮すべきと思われる.

奈良県立医科大学附属病院での「外科の対応」―消化器外科医が施行する大腸ESD

著者: 内本和晃 ,   藤井久男 ,   小山文一 ,   中川正 ,   中村信治 ,   植田剛 ,   錦織直人 ,   中島祥介

ページ範囲:P.1116 - P.1121

要旨:大腸ESD(内視鏡的粘膜下層はく離術)は,手技の困難性や穿孔時の腹膜炎の危険性から,まだ臨床研究の段階である.ESDは主に消化器内科医によって施行されていると思われるが,消化器外科医もその適応や合併症について理解しておく必要がある.大腸ESDを施行するにあたり,安全性が第一で,そのうえで腫瘍学的に適切な治療選択肢か,患者のニーズはどうか,ESD施行体制は整っているか,穿孔時や施行中断時の対応などについて,消化器内科医と話し合っておかなければならない.当施設では,われわれ消化器外科医が大腸ESDも行っているので,内視鏡治療から腹腔鏡下手術を含めた外科的治療まで,同じチームで治療を行うことが可能である.

自治医科大学附属さいたま医療センターでの「外科の対応」

著者: 桑原悠一 ,   河村裕 ,   佐々木純一 ,   溝上賢 ,   小西文雄 ,   高松徹 ,   吉田行雄

ページ範囲:P.1122 - P.1126

要旨:大腸腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)が導入されてきているが,手技的難易度が高く,穿孔などの合併症リスクが高いことが知られている.したがって,ESDの適応については消化器内科医と外科医により十分に検討されたうえで施行されるべきである.今後,技術的向上やデバイスの開発が進められれば,ESDはより安全に施行され普及していくことが予想される.しかし,ESDの適応を検討する際やESD施行後に合併症が生じた際などには外科医の関与が必要であることには変わりはないであろう.ESDの適応についてはもちろんのこと,ESDによって生じた合併症への外科的対応が求められることがあるので,常日頃より外科医もESDの特性や危険性の理解を深めておくことが必要である.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・19

下肢静脈瘤手術に愛用の手術器具・材料

著者: 折井正博

ページ範囲:P.1065 - P.1070

はじめに

 下肢静脈瘤のなかで外科的治療の対象となるのは大伏在静脈,あるいは小伏在静脈の弁不全を主因とする伏在静脈瘤であり,その根本的な治療法がいわゆるストリッピングである.伏在静脈治療の原則は①伏在静脈本幹の逆流を止めること,②不全穿通枝の遮断,③静脈瘤をなくすことである.本来,ストリッピングとは伏在静脈本幹の抜去を意味する用語だが,一般には②,③も含めた根治術と同義に使われる.伏在静脈瘤でも本幹の拡張・蛇行が軽度な例や,抗凝固療法中でストリッピングは避けたい例などには静脈結紮併用硬化療法が選択される.

 筆者は大伏在静脈のストリッピングは腰椎麻酔で,小伏在静脈のストリッピングは膨潤麻酔(tumescent local anesthesia)あるいは腰椎麻酔で,静脈結紮併用硬化療法は局所浸潤麻酔で行っている.腰椎麻酔の場合,入院は2~4日である.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・2

術前準備

著者: 関洋介 ,   笠間和典

ページ範囲:P.1128 - P.1133

 読者の皆様,こんにちは.四谷メディカルキューブの関と申します.笠間医師と一緒に,今後,十数回にわたって私たちが専門にしております減量外科(bariatric surgery)について紹介させていただきます.できるだけ生きた情報を読者の先生方にお届けするべく頑張りますので,楽しみにしていてください.また,こんなことを取り上げて欲しい,といったリクエストがありましたら編集室までどしどしご連絡ください.

 さて,前置きはこの位にしておいて……今回のテーマは「術前準備」です.術前に準備しておくべきこと,これには実に様々な意味が含まれています.箇条書きにすると,以下のような項目が挙げられるでしょう.

病院めぐり

市立島田市民病院外科

著者: 木村貴彦

ページ範囲:P.1134 - P.1134

 島田市は静岡県のほぼ中央,駿河と遠州を分ける大井川流域に存在する.いわゆる南アルプスの登山口でもあり,大井川鉄道には人気の高いSL機関車も走っている.その車窓からも望まれる茶畑など緑豊かな景色は広大で,心和む環境にある.「箱根八里は馬でも越すが,越すに越されぬ大井川」と歌われているように,東海道五十三次の交通の要所として大井川を挟む2つの町(島田,金谷)は伝統ある宿場町として栄えてきた.近郊には全国でも有数の日本酒の酒蔵が数多くあり,海の幸,山の幸にめぐまれ,美食家にはたまらない環境でもある.

 さて,平成17年に金谷町と合併した新島田市は人口10万人を数えるようになったが,実際には当院は市周辺を含めて約30万人を対象に中核病院の機能を果たしている.当院は昭和21年に島田町立診療所として発足し,昭和32年には病床数180の総合病院となり,現在は536床,診療科29科を数え,救急センターも抱える多機能総合病院となった.

静岡市立清水病院外科

著者: 丸尾啓敏

ページ範囲:P.1135 - P.1135

 現在の静岡市は旧静岡市と旧清水市の合併によって2003年4月に発足しました.その後,全国的に市町村合併が相次いで順位を落としましたが,一時は日本一広い面積を持つ市でした.2005年4月の政令指定都市移行に伴い3つの行政区が誕生して旧清水市は清水区となり,当院も清水市立病院から現名称となりました.

 清水と言えば昔なら清水次郎長の生誕地として,今は清水エスパルスのホームタウンとして有名でしょう.当院は駿河湾に臨む区の南端にあります.富士山を一望でき,周りには日本平,三保の松原といった景勝地も多い風光明媚な場所です.同時に都市部にもほどよく近く,勤務する者にとっては非常に居心地のよい環境と言えると思います.

外科専門医予備試験 想定問題・6

直前総チェック

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   青木耕平 ,   松田諭

ページ範囲:P.1136 - P.1152

出題のねらい

 外科専門医予備試験が実施される8月22日まで,もうあと少し.いよいよ本番が近づいてきました.今年受験予定のみなさんは,すでに準備万端でしょうか.

 今回は,試験直前の知識の総チェック問題を361題,用意しました.空欄を設けた設問には適切な数字・用語を,そのほかは○×でお答えください.

 それでは,試験当日,遺憾なく実力が発揮できるよう祈念いたします.

臨床外科交見室

What did McBurney mean by the point bearing his name?

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.1153 - P.1153

 虫垂炎の際に認められる臨床徴候として,反跳圧痛(Blumberg sign)や筋性防御(défense musculaire)とともに,最も知られた診断的価値の高い圧痛点がMcBurney点とLanz点である.後述する原典においてMcBurney点は,「臍と右上前腸骨棘とを結ぶ線上で,腸骨棘から1.5~2インチ臍側へ寄った点」であり,Lanz点は「両側の上前腸骨棘を結ぶ線分を三等分する最右側の点」である(図1).このうち,McBurney点に関しては埼玉医科大学総合医療センターの佐藤紀氏が本誌の交見室欄に「Where is McBurney's point?」1)と題して寄稿し,McBurneyの原典に基づいてその正確な位置を論考している.

 それでは,McBurney2,3)が唱えたこの圧痛点の意味するところは何であろうか.日常経験するように,虫垂の形状やその走向は千差万別である.虫垂炎に対する早期外科手術の提唱者でもあるMcBurney2,3)はその後の論文で,「臍(N)と右側上前腸骨棘(SIAS)を結ぶ線上でSIASから1.5~2インチの点に皮膚切開をおいて,腹斜筋群を分けていって開腹すると(gridiron incision),虫垂の基部に到達する」,すなわち「この点は虫垂の基部(the base of appendix)に相当する」と述べている.しかし,このMcBurney圧痛点を欧州に紹介したオランダ・アムステルダムのLanz4)はみずからの論文において,「自分が提唱する圧痛点のほうが虫垂基部に忠実に対応している」と述べている(図2).

臨床研究

CT lymphography補助下乳癌センチネルリンパ節生検の検討

著者: 古川公之 ,   小笠原豊 ,   徳毛誠樹 ,   山川俊紀 ,   大橋龍一郎 ,   三竿貴彦 ,   青江基

ページ範囲:P.1155 - P.1158

要旨:【目的】原発性乳癌に対するセンチネルリンパ節生検(SLNB)におけるCT lymphography(CTLG)の意義について検討した.【対象と方法】CTLGの施行された原発性乳癌47例を対象とした.【結果】CTLGでは腋窩へ流入するリンパ流とセンチネルリンパ節(SLN)は,47例全例で描出された.色素法によるSLNBでは3例(9.7%)でリンパ管,リンパ節が染色されていなかったが,CTLGで指摘されたSLNを周囲組織とともに摘出することで,全例においてSLNが同定可能であった.【結論】一般的に併用法と比べ同定率が低いとされている色素法の欠点をCTLGは補完できるものと思われた.

境界領域

頸動脈内膜損傷の診断にMDCTが有用であった頸部刺創の1治験例

著者: 遠藤慎一 ,   奥野憲司 ,   小林博雄 ,   小川武希 ,   幕内晴朗

ページ範囲:P.1159 - P.1162

要旨:56歳の女性.統合失調症で通院歴がある.自己の頸部を包丁で刺し,救急車で来院した.大量の皮下気腫があるため気管損傷が疑われ,刺創部は血腫で止血されていたが,血管損傷の可能性も高いと判断した.損傷状態の検索のためMDCTを行った後,直ちに手術室に搬送し,緊急手術のため全身麻酔を開始した.この時点でMDCTの結果が得られ,頸動脈の内膜損傷があることがわかり,頸動脈修復術と気管縫合術を行った.手術時の肉眼的所見のみでは頸動脈損傷を診断することは困難であった.画像構成に時間がかかるMDCTの緊急症例における有用性について検討した.

手術手技

経口アンビルを用いて腹腔鏡補助下胃全摘術を施行した7症例

著者: 山本学 ,   太田光彦 ,   松山歩 ,   岡崎仁 ,   筒井信一 ,   石田照佳

ページ範囲:P.1163 - P.1168

要旨:経口アンビルを用いた腹腔鏡補助下胃全摘術を胃癌7例に対し安全に施行し得たので報告する.7例の平均手術時間は337.6±97.7分,平均術中出血は224.3±239.3mlであった.術後合併症は,吻合部狭窄を1例認めた.

 腹腔鏡補助下胃全摘術は難易度の高い手術と考えるが,開腹手技に近い経口アンビルは,腹腔鏡補助下幽門側胃切除術を施行している施設であれば,その使用法を熟知したうえで安全に施行できると考えられた.

臨床報告

症状緩和目的でMohs pasteを使用し,QOLが改善した食道癌皮膚転移の1例

著者: 渡辺啓太郎 ,   木下寛也 ,   久能木裕明 ,   阿部恵子 ,   松本禎久 ,   喜多嶋拓士

ページ範囲:P.1169 - P.1172

要旨:[症例] 60歳代,女性.[主訴] 転移性皮膚腫瘍からの出血,心窩部の圧迫感.[現病歴] 食道癌の診断で食道亜全摘術を施行,術後化学療法の効果なく,腹部正中創に15×12cmの転移性皮膚腫瘍が存在し,出血,圧迫感のため側臥位を余儀なくされていた.[経過] 入院後,皮膚科領域で使用するMohs pasteを腫瘍に塗布した.腫瘍は固定され,腫瘍表面をメスで切除した.腫瘍出血,臭気,圧迫感から解放され,一時的に在宅療養が可能となった.Mohs pasteは,滲出液のコントロール,消臭の点においても効果的であり,高い止血効果を得られる点で,手術不能な皮膚転移病巣を有する患者治療の選択肢の1つになることが期待される.

小腸間膜由来の孤立性線維性腫瘍の1例

著者: 佃和憲 ,   増田紘子 ,   池田英二 ,   高木章司 ,   平井隆二 ,   辻尚志

ページ範囲:P.1173 - P.1177

要旨:孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor)は全身のあらゆる臓器に発生し得る中間悪性の間葉系腫瘍で,稀に腹腔にも発生する.症例は56歳,女性で,検診にて腹腔内腫瘤を指摘された.腹部CT,MRI検査では下腹部に7cm大の腫瘤が認められた.小腸由来の消化管間葉系腫瘍を疑い,摘出手術を施行した.腫瘍は小腸間膜より発生し,小腸とは連続していなかった.病理組織検査では紡錘形細胞がpattern-less patternを示し,CD34陽性で孤立性線維性腫瘍と診断された.腸間膜発生の孤立性線維性腫瘍は比較的稀であり,文献的考察を含め報告する.

後腹膜に発生した巨大な機能性paragangliomaの1切除例

著者: 奥野将之 ,   伊東大輔 ,   水野礼 ,   森友彦 ,   古元克好 ,   小切匡史

ページ範囲:P.1179 - P.1185

要旨:67歳,女性.腹部超音波検査で腹部腫瘤を指摘され,当院を紹介され受診した.腹部造影CTで上腹部に径10cm大の腫瘍を認め,FDG-PETでは腫瘍の辺縁を中心に集積を示した.開腹生検で後腹膜paragangliomaと診断され,後日,腫瘍摘出術を行った.術中,異常高血圧を認めたが,切除後に血圧は低下した.血中カテコールアミンは術前・術中とも異常高値を示したが,術後は低下した.後腹膜発生の機能性paragangliomaは非機能性のものと比較して腫瘍径が小さく,平均6.5cmと報告されている.本症例は長径14cmと機能性のものとしては巨大であり,腫瘍切除の際に十二指腸壁・下大静脈壁の合併切除を要した.

膵囊胞性腫瘍と鑑別が困難であった仮性囊胞を伴った浸潤性膵管癌の1例

著者: 足立尊仁 ,   松井康司 ,   種村廣巳 ,   大下裕夫 ,   岩田圭介 ,   山田鉄也

ページ範囲:P.1187 - P.1191

要旨:症例は60歳,男性.2か月前から上腹部・背部痛を認め当院を受診した.腹部画像所見より,膵体部の径70mm大の囊胞腺腫あるいは囊胞腺癌と診断した.病巣は膵体部を中心に,胃後壁に広範囲に進展,さらに結腸間膜およびTreitz靱帯付近の空腸が巻き込まれていた.亜全胃,横行結腸部の一部,十二指腸・空腸の一部,脾臓を合併切除し,尾側膵切除を施行した.術中所見では,明らかな腹膜転移は認めなかった.病理組織学的検査結果は,高分化型管状腺癌,ly0,v0,ne0,mpd(-),pPCM(-),pDPM(-),pN0であり,一部囊胞状の部分を認めた.胃壁や小腸とは膿瘍形成を伴い,線維性・炎症性に癒着していたが,悪性細胞は認めなかった.

勤務医コラム・15

腰が重い

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.1107 - P.1107

 かなり昔に消化器外科学会の専門医を取った.たぶん草創期の頃であった.難しかった.何の準備もせずに丸腰で受けたら,肝胆膵のパートのみできて,あとはまったくわからずに不合格.1年間コツコツ勉強して,つぎの年にようやく合格した.しかし受かった途端にそのことはすっかり忘れて,いつもの忙しい毎日を過ごしていた.

 それから5年くらい経って,今の病院の事務の人から,「先生,更新しないとマズイよ」と言われて更新をしなければならないことにはじめて気づき,学会の雑誌をパラパラとめくってみたが,官僚ことばで書かれてあって,何をどうすればよいのか,にわかには判じがたい.やっと解読したところ,すでに〆切は過ぎていた.しかしありがたいことに,「私のようなウッカリ者」を想定して期間を限った救済措置があり,それに拾われてなんとか更新した.

書評

奥坂拓志,羽鳥 隆(編)「膵癌診療ポケットガイド」

著者: 中尾昭公

ページ範囲:P.1126 - P.1126

 このたび,『膵癌診療ポケットガイド』が刊行され,読ませていただく機会を得た.膵癌は21世紀に残された最も予後不良な消化器癌の一つであり,各方面からの研究が進みつつあるものの治療成績に反映されるまでに至っていない.日本膵臓学会では『膵癌取扱い規約(第6版)』ならびに『膵癌診療ガイドライン(第2版)』を昨年出版し,また膵癌登録も実施しており,これらは本邦における膵癌治療のための3つの大きな柱となっている.膵癌の治療成績はいまだに不良で十分なエビデンスも少ない.これらの3本柱の資料を上手に利用しながら第一線で活躍中の臨床医の意見をMEMOで取り上げており,執筆者の本音の意見がうかがえて大変面白い.また,膵癌治療は今後さらなる新しい治療法が開発されなければならないが,TOPICSとしてこれからの展望についても述べられている.研修医あるいは若手医師に膵癌治療の現状を読み取っていただくことはもちろんであるが,さらなる治療成績向上のための新しい治療開発にもつながることを期待している.

大村健二(編)「栄養塾―症例で学ぶクリニカルパール」

著者: 鷲澤尚宏

ページ範囲:P.1186 - P.1186

 1980年代には完全静脈栄養法(以下TPN)が全盛であったが,90年代の終わりになると積極的な腸管利用が推奨されるようになった.TPNがあたかも悪い栄養法であるかのごとく評価されるという,米国栄養教育の内容が日本に入ってきた時代である.この結果,無理に経腸栄養を勧めたり,非現実的な経口摂取を叫んだりする状況が医療現場につくられてしまった.これは,医師の卒前教育が行われないままに応用医学が普及した結果である.

 2006年の診療報酬改定で「栄養管理実施加算」が導入され,2010年からは「栄養サポートチーム(NST)加算」が始まった.これにより,栄養サポートチームの看護師や管理栄養士,薬剤師が,受け売りではなく,自ら栄養管理を立案する立場を得ることとなった.医師とコメディカルが栄養管理の方針を話し合うときには客観性のある判断が必要となるが,本書は多くの医療者らが疑問に感じていた部分に明快な解答を示してくれている.

東口髙志(編)「《JJNスペシャル》「治る力」を引き出す 実践!臨床栄養」

著者: 平田公一

ページ範囲:P.1192 - P.1192

 本書を読み終えてみると,さすが東口髙志編とうならされた.同氏の高邁な精神性と教育力の高さを反映し,気遣いの余白も実に適切,各ページの文字とともに説得力のある図や表の提示が,われわれを次のページを読みたいと掻き立てるのである.知識が感性的に身につきやすい教育図書となっている.おのおののページに向ける眼力に,いっそう力が知らず知らずのうちに加わってしまうという,そのような工夫が設定されている.また,見事に多くの共著者陣として素晴らしい専門家が並んでいる.

 昨今,NST活動へ評価は高く,保険診療にも大きく反映されたことは周知のことである.その質を支えそしてチーム医療を向上させるにはもってこいの書であり,そしてTPOを得た発刊ともいえる.多くの医療従事者や教育担当者は日々の勤務の中で負担を背負いつつ,努力による前進が成されている.その努力の結果として,医療の原点ともいえる「ヒポクラテス医学」の心と信念を,日常臨床の場にその理念の導入とその普及へとつなげようとする各種医療職の考え方にさらに向上がみられる.そのような日本的努力の成されている今日,本書による具体的で良質な臨床栄養学の次世代も読んだ提案は,次への目標設定と励みを提供していると考える.ありがたいことである.

昨日の患者

入院は湯治気分

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1127 - P.1127

 病を得て入院となると,多くの場合は気が滅入るものである.さらに自宅と比べると病室は狭く,他人との共同生活を強いられる.したがって早期の退院を希望するのが常であるが,入院を極楽と感じる患者さんも稀ながら存在する.

 腹痛を主訴として,80歳代のMさんがかかりつけの診療所から紹介されてきた.右上腹部を押すと著明な圧痛を認めた.白血球数やCRPの増加を認め,超音波検査などの画像検査では典型的な急性胆囊炎であったので入院を勧めた.しかし,Mさんはどうしても入院には同意しなかった.理由を聞くと,「高齢の夫が心配で,一人にはできません」とのことであった.そこで抗生剤と鎮痛剤を処方した.

1200字通信・16

最後の花火

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1133 - P.1133

 当地では毎年7月の最終土曜日に夏祭りがあり,夜には花火の打ち上げが盛大に催されています.普段は静かな病院も,患者さんやご家族の方々,さらには職員さんたちの浮き浮きした気分からか,この日だけは朝からそれなりに夏祭りの雰囲気を味わえることになります.

 昨年の7月,たまたまそうした花火の夜に当直にあたっていたのですが,遠くから聞こえてくる花火の音に誘われて,医局から病棟の廊下へ出てみることにしました.3階にある病室から花火がよく見えることは知っていたのですが,その部屋にはすでに多くの入院患者さんたちが集まり,夜空を彩る大輪の花火に歓声をあげておられました.私は廊下から患者さんたちの肩越しに花火見物をすることになりましたが,明かりを落とした部屋のなかで花火が瞬くたびに,車いすで見物している患者さんの姿が淡く照らし出されることに気づきました.

ひとやすみ・62

ポストの前で祈る

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1168 - P.1168

 宮城県北部の登米市中田町石森は漫画家の石ノ森章太郎の故郷である.彼の生家は現在,「石ノ森章太郎ふるさと記念館」として公開されている.彼は中学生時代に「毎日中学生新聞」の四コマ漫画投稿欄に入選し,以来,投稿マニアになった.そして高校を卒業するとともに上京し,手塚治虫らが暮らすトキワ荘に住み込んだ.漫画家を志した発端の赤い郵便ポストは今でも生家の前に現存する.そして記念館の入り口には,「採用されますように」と郵便ポストに深々と頭を垂れる学生服姿の章太郎像が置かれている.

 私が最初に論文を書いたのは大学卒業3年目の研修医時代であった.症例報告「腸重積を来した大腸脂肪腫の1例」で,医学雑誌に自分の論文を見出した時の感動をいまだに覚えている.そのときの達成感が引き続き論文を投稿する原動力になった.

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あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.1200 - P.1200

 昨今,「無駄をなくせ」の大合唱で,コスト・パフォーマンス(費用対効果)の名のもとに学問の分野にも厳しい評価の目が向けられている.そして「すぐに役立つこと」「利益を誘導する研究」には高い評価が得られる傾向が顕著になってきている.当然そのような研究や学問はわれわれに多くの「目に見える」恩恵をもたらすことは事実であり,そのこと自体に異論はない.しかし,「すぐに役立つ」研究以外は無駄な学問であろうか? 学問の本質は,そこにある「真理を追求すること」であり,本来,有益か無駄かという尺度とは別の次元のものであろう.医学研究はそのような意味では,比較的「役に立つ」ように見えるものが多く含まれているとは思われるが,人文学,社会学など文化系の学問や,医学以外の理科系の学問には「目に見えて」役に立つのか否かわからないものも多い.しかし,そこにはむしろ更に深淵な学問の奥行きを感じることもまた事実である.

 そこで学問や研究において「無駄」とは何かを考えてみた.われわれ医学の研究においても,物を大切にして,実験道具でも動物でも,また検体や様々なデータでも慈しむような気持ちで心を込めて研究に打ち込むことは肝要であり,そのような意味においての無駄をなくすことは大切であるが,このことと研究自体が「無駄であるか」とか「役に立つか否か」という問題は全く別の観点であろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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