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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科65巻9号

2010年09月発行

雑誌目次

特集 [臓器別]消化器癌終末期の特徴とターミナルケア

ページ範囲:P.1211 - P.1211

わが国の死亡原因の第1位が悪性腫瘍であることは言うまでもない.2007年に発効したがん対策基本法においては最重点課題の1つに「早期からの緩和医療」の提供が示され,各地域で院内に緩和ケアチーム,緩和ケア外来設置および実地医家,訪問看護ステーションによる在宅緩和ケアを確立し,円滑な病診連携を可能にすることが求められている.

また,WHOは「緩和ケアとは生命を脅かす疾患に直面している患者とその家族に対し,早期から痛みやそのほかの身体的,精神的,社会的,そしてスピリチュアルな苦痛を予防,診断,治療,ケアすることによってQOLを向上させるアプローチ」と定義している.このことは外科医にとっても重要な課題であり,癌に携わる担当医として,もしくはチームの一員として緩和医療に対する十分な知識の習得と,各疾患の専門医としての癌の特異性に基づいた情報の発信と共有が肝要である.実際,現実に多くの外科医が各癌腫の終末医療に直面し,対処しているのが現状である.

最近のがん緩和医療

著者: 江口研二

ページ範囲:P.1212 - P.1215

要旨:2006年にわが国において成立した「がん対策基本法」は癌医療において画期的な法律である.がん緩和医療は単に終末期医療ではなく,がん患者への早期からの診療介入・支援によって患者の日常生活の支障となる身体的・精神的な苦痛を軽減し,快適な療養を実現することを目指している.患者がみずから希望する療養場所の選択肢を増やすことは患者の生活の質を重視する点で大切であり,地域におけるがん医療連携が必要となる.Cancer survivorsが年間150万人を超え,国民の2人に1人ががんを経験すると言われる時代を迎え,がん緩和医療の果たす役割はますます大きくなっている.

消化器癌の終末期の臨床像

著者: 坂本康寛 ,   石岡千加史

ページ範囲:P.1216 - P.1222

要旨:消化器癌の終末期臨床像と言っても,その症状は原発巣の部位や転移巣の部位によって多様であることは言うまでもない.消化器癌を含む癌の終末期によくみられる症状とその頻度,ならびに主要な症状である痛み,嘔気,嘔吐,食欲不振,悪液質,倦怠感,呼吸困難,せん妄,便秘について,それぞれの病態生理や病因,治療を解説した.根治不能癌を患っている患者は終末期になるにしたがって,癌による様々な症状に悩まされるようになる.したがって,癌による症状の知識は非常に重要であり,この知識によってわれわれ医療従事者は癌に伴う症状を早期に把握し,治療に結びつけることができるようになる.

消化器癌終末期の疼痛管理

著者: 下山恵美 ,   下山直人

ページ範囲:P.1224 - P.1230

要旨:癌の痛みの対策は1986年に発表されたWorld Health Organization(WHO)の方式が基本であり,終末期に限らず,診断時から強い痛みに対しては強オピオイドを使用することが推奨されている.オピオイドは経口投与が基本であるが,消化器癌の患者では消化管の閉塞等によって経口投与が不可能となることも多いため,経口投与にこだわらず,患者の状態によっては持続皮下注や持続静注など適切な投与経路を選択することが重要である.使用できる強オピオイドの種類はモルヒネ,オキシコドン,フェンタニルであるが,注射剤,経口徐放製剤,経口速放製剤すべてが揃っているわけではないため,患者のquality of life(QOL)を考慮しながら薬剤を選択するオピオイドローテーションが必要である.

消化器癌終末期の栄養管理

著者: 渡邊紘章 ,   安達勇

ページ範囲:P.1232 - P.1237

要旨:消化器癌は抗癌治療の過程で非経口的な栄養投与経路が確保されていることが多く,終末期であっても比較的容易に栄養投与が可能であるため,栄養投与の適応はより慎重に検討する必要がある.検討する際に重要な4項目は,①栄養摂取経路(経口/非経口),②栄養障害タイプ(悪液質/飢餓状態),③予後予測(週単位/月単位),④本人・家族の希望である.これら4項目を総合的に判断し,可逆性が見込まれる場合には,癌終末期であっても通常の栄養管理を行い,不可逆的な悪液質では過剰な栄養投与による胸水・腹水の増加や気道分泌の増加などでQOLを損うことのないように配慮が必要である.

食道癌の終末期の特徴とターミナルケア

著者: 宮崎達也 ,   宗田真 ,   田中成岳 ,   鈴木茂正 ,   猪瀬崇徳 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1238 - P.1242

要旨:高度進行食道癌の根治的治療は集学的治療によって改善はされているが,いまだ十分なものではない.治療効果や患者の全身状態から根治的治療の適応外となった症例に対しては緩和治療が中心的になされる.高度進行食道癌の臨床症状は,嚥下障害,栄養障害,誤嚥性肺炎,食道気管瘻,出血,遠隔転移による症状,電解質異常など多彩である.これらの食道癌の終末期の病態,症状を理解し,個々の患者の状態を適切に把握して治療を選択する必要がある.

胃癌の終末期の特徴とターミナルケア

著者: 岩上志朗 ,   今村裕 ,   長井洋平 ,   宮本裕士 ,   岩槻政晃 ,   林尚子 ,   渡邊雅之 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.1244 - P.1249

要旨:終末期の胃癌の症状は,癌性疼痛,全身倦怠感,嘔気・嘔吐,消化管閉塞症状,体腔液の貯留,尿路閉塞,disseminated intravascular coagulation(DIC)など多岐にわたる.末期患者の苦痛を取り除き,quality of life(QOL)を向上させるために,病態に応じた適切な治療を行う必要がある.本稿では胃癌末期に特有な病態や症状を取り上げ,その治療法について概説する.

大腸癌(特異性)の終末期の特徴とターミナルケア

著者: 野澤慶次郎 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1250 - P.1253

要旨:切除不能進行再発大腸癌患者の治療は主に緩和治療が中心となる.原病巣の部位や転移巣,再発病巣の部位によって症状が異なるため,それぞれにあった症状のマネージメントを行うことが大切である.症状が進行すると悪心・嘔吐や食思不振,便秘,腸閉塞,リンパ浮腫,癌性腹膜炎による腹水貯留など著しくquality of life(QOL)を低下させる症状が出現するため,それぞれに合った治療法を選択する.直腸癌,特に下部直腸癌術後の排便障害や人工肛門造設後においてはQOLの低下が問題となり得るため,専門看護師や他科の医師,他業種に早期の助言を受けることがマネージメントにおいて必要である.

肝癌の終末期の特徴とターミナルケア

著者: 阿部雄太 ,   菊池哲 ,   高野公徳 ,   島津元秀

ページ範囲:P.1254 - P.1259

要旨:肝癌患者はほかの消化器癌患者と異なり,明らかに肝硬変という基礎疾患を有することが多い.したがって,緩和すべき症状は腹水貯留,肝性脳症,消化管出血など肝不全に伴うものが多く,決して癌の終末期のみに現れるものではないことが特徴と言える.よって,終末期に捉われず早期から症状に対する緩和的医療を行うことが望ましい.さらに最近の治療選択肢の多様化によって肝癌患者の闘病期間も長期化しており,緩和治療のニーズは今後もさらに高まると考えられる.また,肝不全によって薬物の副作用が容易に出現することも留意すべきである.抗癌治療と緩和医療はほかの消化器癌と同様に癌の診断・治療と表裏一体をなす必要がある.本稿では,肝癌で最も頻度の高い肝細胞癌の終末期管理について知見をまとめた.

胆道癌の終末期の特徴とターミナルケア

著者: 岡庭輝 ,   加藤厚 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   古川勝規 ,   吉富秀幸 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   須田浩介 ,   高野重紹 ,   久保木知 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1260 - P.1265

要旨:胆道癌は,解剖学的位置関係から病状の進行に伴って多彩な進展様式や再発形式をとるため,切除不能進行胆道癌,再発胆道癌では,閉塞性黄疸,胆管炎,肝膿瘍,消化管閉塞,門脈閉塞に伴う消化管出血,肝性脳症,腹水などの様々な特徴的な症状が出現する.胆道癌の終末期においては,これらの病態に応じた適切な外科的治療やinterventional radiology(IVR),interventional endoscopy(IVE)によってQOLの向上と症状緩和が可能である.患者の全身状態や生命予後を考慮したうえで適切な治療を行う必要がある.

膵癌の終末期の特徴とターミナルケア

著者: 中里徹矢 ,   杉山政則 ,   鈴木裕 ,   阿部展次 ,   柳田修 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   跡見裕

ページ範囲:P.1266 - P.1271

要旨:膵癌は予後がきわめて不良であり,診断時には根治切除が不能であることが多い.癌の進行に伴って出現する症状は苦痛を伴い,quality of life(QOL)が低下して治療の妨げになる.疼痛に対してはWHO方式がん疼痛治療法を正しく適応し,また,可能な施設であれば腹腔神経叢ブロックを考慮する.閉塞性黄疸に対しては胆道ドレナージが必要であり,可能な限り内瘻化を目指すことが重要である.症状緩和を目的として化学療法を行うことにはエビデンスがあり,全身状態を考慮して行うことが望ましい.緩和ケアは苦痛なく手術や化学療法の治療を行うためにも,診断時より治療と並行して行うことが患者のQOLを維持するためにも重要である.

Gastrointestinal stromal tumor(GIST)の終末期の特徴とターミナルケア

著者: 石川卓 ,   神田達夫 ,   小杉伸一 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.1272 - P.1278

要旨:Gastrointestinal stromal tumor(GIST)は消化管原発の間葉系腫瘍であり,比較的稀な疾患である.メシル酸イマチニブによる分子標的治療の導入によってGIST患者の予後は大きく改善したものの,転移・再発をきたして治癒できないことも少なくない.転移・再発GIST患者の大部分は肝転移か腹膜転移によって死亡する.終末期に呈する症状や必要となる治療は基本的にはほかの消化器癌と同様であるが,再発腫瘍が大きくなっても腸閉塞症状をきたしにくいことや,耐性腫瘍を生じてもイマチニブの継続投与が望ましいことなど,細かな点では特有の性質がある.またGISTの終末期は他癌より長くなりやすいため,治療とケアの両面からquality of life(QOL)を維持する努力が重要である.

カラーグラフ エキスパート愛用の手術器具,手術材料・20

熱メス

著者: 霞富士雄

ページ範囲:P.1205 - P.1210

はじめに

 熱メスは加熱メス,あるいは創作者の名前をとってショー加熱メスとも呼ばれているが,簡単に「熱メス」と呼ぶのが適していると考えられるので,以下,熱メスと呼称する.

 熱メスは替刃のなかに内蔵されている小さな3個のマイクロサーキットによって,通電後,瞬時にして刃の温度が最高300℃までに達する通電加熱メス,すなわち電気メスならぬ「電熱メス」である.ステンレス製の鋭い刃の切れ心地にこの加熱による蛋白の変性凝固がハイブリッド効果として相乗し,焼灼切開と言うべき鋭い切れ味のよいものとなっている.

 また,刃の両側面の300℃の高熱によって蛋白変性をもたらして組織を切離しながら,同時に小血管からのoozingを防止し,切離と創面表層の熱凝固をはかるよう工夫されたメスである.加熱するとメス腹に凝固物が付着してしまうが,この難点を克服させるために,メスの両側面にはテフロン加工が施されていて,長時間切れ味を保つよう配慮されている.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・3

減量手術の効果

著者: 関洋介 ,   笠間和典

ページ範囲:P.1280 - P.1285

元気ですかーっ!

 第2回に引き続いて今回の「読めばわかるさ…」も,私,関が担当させていただきます.今回のテーマは「減量手術の効果」です.

病院めぐり

金沢有松病院外科

著者: 高畠一郎

ページ範囲:P.1286 - P.1286

 当院は特別名勝である兼六園から程近い金沢市内に位置する140床の中規模急性期病院です.昭和58年の開設当初から「地域医療・救急医療そして地域住民の健康管理・福祉に貢献し,患者さんに信頼され安心して治療を受けられる24時間体制の病院を目指す」をモットーとして歩んできました.現在,日本医療機能評価機構認定病院で入院基本料7対1を取得しています.

 外科のスタッフは4名で,副院長の筆者と金子真美,田中伸佳が一般消化器外科を担当し,吉田千尋理事長が血管外科を担当しています.手術症数は年間約300件弱で,全身麻酔は約半分です.地域の一線病院であるため多くの種類の手術を行っており,外科の平均在院日数は10日前後となっています.

心臓血管センター金沢循環器病院心臓血管外科

著者: 上山克史

ページ範囲:P.1287 - P.1287

 当院は石川県で唯一,また,北陸でも数少ない循環器の専門病院として平成3年5月に石川県金沢市内に開院し,以来十数年にわたって地元の循環器治療に携わってきました.大学病院や公立病院と異なり,小回りの利く臨床一線病院として1年365日の24時間受け入れ体制を敷いており,狭心症や心筋梗塞などに対しては緊急カテーテル検査・治療から救命冠動脈バイパス手術まで,また急性大動脈解離,腹部大動脈瘤破裂などの大動脈疾患に対しても緊急手術を含めた迅速な対応を行っています.

 現在,心臓血管外科の医師は常勤医4名,非常勤医師1名で,胸部外科指導医,心臓血管外科専門医も常勤しており,心臓血管外科専門医認定機構の基幹施設となっています.また,平成20年度には腹部大動脈ステントグラフト実施施設となりました.

臨床外科交見室

緩和ケアに対する外科医の想い入れ

著者: 庭野元孝

ページ範囲:P.1288 - P.1289

 日本三景の1つである「天橋立」近辺の医療者がつくる「京都北部緩和ケア研究会」は10年以上続く老舗の研究会です.舞鶴医療センター,舞鶴赤十字病院,舞鶴共済病院,市立福知山市民病院の京都府北部の4基幹病院(舞鶴医療センターと市立福知山市民病院は京都府北部のがん診療連携拠点病院です)が主要参加メンバーで,年3回の勉強会と1回の講演会を開き,研鑽を行っています.医局人事で京丹後市の丹後中央病院外科に異動した私も赴任以来,この研究会に参加してきました.

 わが国では国民が,いつでも,どこでも質の高い緩和ケアを受けることのできるようにする「がん対策基本法」(平成18年6月)と,それに基づく「がん対策推進基本計画」(平成19年6月)がそれぞれ成立しました.また,がん診療に携わるすべての医師が緩和ケアについての基本的な知識を習得し,がん治療の初期段階から緩和ケアを提供できるように,平成20年4月に厚生労働省から「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会の開催指針」(平成20年4月1日付け健発第0401016号厚生労働省健康局長通知)が各都道府県に出され,日本緩和医療学会が教育研修委員会を中心に厚生労働科学研究費補助金がん臨床研究事業「がん医療の均てん化に資する緩和医療に携わる医療従事者の育成に関する研究」班,日本サイコオンコロジー学会と協力して,「症状の評価とマネジメントを中心とした緩和ケアのための医師の継続教育プログラム」(palliative care emphasis program on symptom management and assessment for continuous medical education:PEACE)が開発されました.

臨床報告

右大腿ヘルニア嵌頓と,魚骨が原因と考えられる左閉鎖孔ヘルニア嵌頓イレウスが併存した1例

著者: 西田十紀人 ,   宮田吉晴 ,   藤田敏忠 ,   角泰雄 ,   生田肇

ページ範囲:P.1291 - P.1294

要旨:患者は69歳,女性.夕食に寿司を食べたのち,腹痛,嘔吐,下痢が出現して2日後に救急搬送され,腹部単純X線検査でイレウスと診断された.右大腿部に鶏卵大膨隆と,腹部CTで右大腿ヘルニア嵌頓を認めたため,同日,緊急手術を施行した.大腿ヘルニア内容は大網のみでイレウスの原因ではなく,開腹して検索すると魚骨を伴った回腸が左閉鎖孔に嵌頓していた.魚骨によって穿孔した回腸を切除した.術前の腹部CTを再確認すると左閉鎖孔内に魚骨が写っており,イレウスの診断に際しては注意深い腹部CTの読影が必要であると反省させられた.右大腿ヘルニア嵌頓と,魚骨が原因と考えられる左閉鎖孔ヘルニア嵌頓イレウスの稀な1例を経験したので報告する.

異物によって消化管穿孔を起こした3症例

著者: 野間大督 ,   長谷川慎一 ,   吉田達也 ,   大佛智彦 ,   笠原彰夫 ,   山本裕司

ページ範囲:P.1295 - P.1299

要旨:魚骨,爪楊枝,木片による消化管穿孔を起こしたそれぞれ54歳,69歳,73歳の男性の3症例に緊急手術を施行した.魚骨による1例は術前にCTで異物穿孔と診断することができた.過去5年間の魚骨穿孔報告例のうちCT診断について記載のある75例について集計を行った.術前診断率は74.6%(56/75例)で,術後にretrospectiveに検証した診断率は84%(63/75例)であった.近年のMDCTの普及と改良によって画像診断能は飛躍的に進歩した.しかしながら,詳細な病歴聴取から疑うことによって,術前診断率はさらなる向上の余地があり,確実な異物除去に寄与するものと考えられる.

虫垂杯細胞カルチノイドの1例

著者: 平沼知加志 ,   服部昌和 ,   遠藤直樹 ,   大田浩司 ,   宮永太門 ,   道傳研司

ページ範囲:P.1301 - P.1304

要旨:患者は37歳,男性.2007年4月下旬に腹痛および発熱のため近医を受診した.急性虫垂炎および腹腔内膿瘍と診断され,緊急手術を施行した.術後の病理検査結果で虫垂杯細胞カルチノイド,遠位断端陽性と診断され,当科を紹介された.腹部CT検査では右腸腰筋前方に大きな膿瘍を認めたが,画像上では残存虫垂を同定できなかった.リンパ節郭清を伴う回盲部切除および腹腔ドレナージを施行し,術中に遺残虫垂を確認できたため,これも含めて摘出した.術後の病理検査結果では遺残虫垂に腫瘍の残存を認めたが,回盲部組織には腫瘍浸潤を認めず,リンパ節転移も認めなかった.術後の厳重な経過観察が必要と考えられた.

後腹膜リンパ管腫の1例

著者: 矢崎伸樹 ,   小野文徳 ,   平賀雅樹 ,   工藤克昌 ,   小野地章一

ページ範囲:P.1305 - P.1308

要旨:患者は37歳,女性.健診で尿潜血と蛋白尿を指摘され来院した.精査で腹腔内囊胞と診断し,手術を施行した.腫瘤は後腹膜に存在し,横行結腸を尾側に圧排していた.後腹膜を開放し,内容液を吸引したのち可及的に摘出した.リンパ管腫は小児の頸部や腋窩に好発する良性腫瘍であり,後腹膜に発生することは稀である.サイズは自験例は25cmであり,本邦報告例のほとんどが15cm以下であるのに比べて巨大なものであった.今回,われわれは後腹膜に位置する巨大なリンパ管腫の1切除例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

腹腔内停留精巣から発生した精上皮腫の1例

著者: 村上敬祥 ,   見市昇

ページ範囲:P.1309 - P.1313

要旨:患者は77歳,男性.主訴は右下腹部腫瘤と腹痛.腹部CTで右下腹部に約10cm大のほぼ球形の腫瘤を認めたため,摘出術を施行した.被膜を有する約10cm大の球状腫瘍が回腸・後腹膜に浸潤しており,腫瘍と回盲部を一塊に摘出した.病理組織はpure seminomaで,後腹膜側の切除断端は陽性であった.画像上も腫瘍遺残が認められたため,化学療法と放射線療法を追加施行したところ,完全奏効が得られた.腹腔内停留精巣は悪性化の傾向が強いうえに,腫瘍が増大するまで無症状のことが多いため,停留精巣の早期発見・治療および経過観察が重要である.本症例は停留精巣から発生した精上皮腫としては本邦最高齢であり,また,集学的治療が効を奏し6年の生存が得られている.

双児出産後に発症した白線ヘルニアに対してDirect Kugel Patch®で修復を行った1手術例

著者: 村上耕一郎 ,   塩見尚礼 ,   水黒知行

ページ範囲:P.1315 - P.1318

要旨:今回われわれは,双児の出産後に生じた白線ヘルニアの1症例を経験した.患者は29歳,女性で,2006年2月に正常分娩で双児(2,942gと2,604g)を出産した.2008年3月頃から上腹壁に拇指頭大の膨隆を認め,同年5月に当科を受診した.初診時,臍上に縦11.5×横7.5cmの膨隆を認め,腹圧下CTで白線ヘルニアと診断した.術中に,離開した白線組織に小裂孔を認め,また,周辺組織全体が菲薄化していたため腹膜前腔にDirect Kugel Patch®を留置した.術後瘢痕ヘルニアと異なり,腹膜破損のない症例ではテフロン面は不要であり,広範囲の補強が可能なDirect Kugel Patch®が積極的に選択されるべきである.

精神疾患に合併した,腹腔内遊離ガスを伴う腸管囊腫気腫症の2症例

著者: 小南裕明 ,   廣吉基己 ,   藤田博文 ,   邦本幸洋 ,   荻野和功

ページ範囲:P.1319 - P.1323

要旨:精神疾患に合併した,腹腔内遊離ガスを伴う腸管囊腫気腫症を2例経験した.症例1は63歳の女性で,統合失調症を合併し,病変部は小腸,胃,十二指腸に及んだ.症例2は66歳の女性で,アルツハイマー病,パーキンソン病を合併しており,病変部は全小腸であった.2例とも重度な精神疾患が影響して術前に十分な問診や理学所見の聴取が行えなかったことから消化管穿孔や広範な腸管壊死を完全に否定できず,最終的に開腹手術を選択した.

ひとやすみ・63

看護師の人事異動

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1253 - P.1253

 永らく外科病棟の看護係長を務めている看護師のKさんから相談を受けた.「人事異動で内科病棟勤務になりましたが,内科の病棟ははじめてであり,大変不安です」とのことであった.病棟の調整役であるKさんが異動となると病棟業務が混乱することが危惧された.しかし,看護師の人事は看護部長の専属であり,医師が口を出せるものではない.そもそも看護部長による,K看護師の将来を配慮しての人事異動とも推察できた.

 研修医時代に勤めた病院でのエピソードが思い出された.同じように永らく外科病棟に勤めていたUさんが師長試験に合格し,晴れて師長となった.当時の国立病院では,看護師長になるときはほかの国立病院の師長になるのが慣例であった.しかも個人の経験や資格は考慮されず,施設の都合で職場が決められた.Uさんの配属された病棟は精神科であり,しかもほとんどの同僚看護師はUさんより先輩であった.

1200字通信・17

言わぬが花

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1290 - P.1290

 今年の早春のある休日,久しぶりに仲間とドライブに出かけてきました.目的地は,熊野古道などで有名な熊野市にある温泉宿でしたが,途中に,昨年9月にフェリーが座礁して横倒しになったことで話題になった七里ガ浜という海岸がありました.当初は予定になかったのですが,休憩がてら立ち寄って,そのフェリーを見に行こうということになりました.

 七里ガ浜の海岸沿いの道に入った時点で遠くから横倒しのフェリーが確認され,それなりに大きいことは了解できました.しかし,実際に堤防に上がって間近に見るそれは予想以上に巨大なものであり,ちょうど大きなクジラが浜に打ち上げられて無残な姿を晒しているかのように見る者を圧倒し,かつ見てはいけないものを見てしまったという後悔の念を抱かせるような代物でした.

勤務医コラム・16

水村山郭酒旗風

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.1300 - P.1300

 患者さんは70代女性で,書道の先生であった.胃癌を切除して5年が経った御礼に「何か先生の好きなものを書きましょう」と言ってくれた.

書評

東口髙志(編)「《JJNスペシャル》「治る力」を引き出す 実践!臨床栄養」

著者: 佐藤禮子

ページ範囲:P.1324 - P.1325

 『「治る力」を引き出す 実践!臨床栄養』,まずこのタイトルである.裏表紙には,「治るための栄養」「生きるための栄養」の大文字が跳ねる.このタイトルは,編者である東口髙志先生のイメージそのものであると,感じ入りわくわくして頁をめくった.

 期待通りの内容が展開されていた.実は,あるセミナーでご一緒した折に,人間の身体や心の仕組みと栄養問題に対する東口先生の洞察の深さに敬嘆し感動を受けたからである.東口先生の軽妙な語り口による講演は,生きた学問を具体的現実的に伝授するもので,会場を大いに沸かせた.

篠原 尚,水野惠文,牧野尚彦(著)「イラストレイテッド外科手術(第3版)膜の解剖からみた術式のポイント」

著者: 坂井義治

ページ範囲:P.1326 - P.1326

 篠原尚先生・他著による『イラストレイテッド外科手術』第3版を手にした.第1版,第2版ともに購入したものの残念ながら既に私の手元にはない.研修医に貸したまま戻って来ないのである.彼らがボロボロになるまで毎日この本で手術の予習・復習をしている姿を見るにつけ,“自分で買えよ”とは言えず,そのままになってしまった.年代を越えてこれだけ愛読されている外科手術書が他にあるだろうか?

 あらためて第3版をめくる.時代の趨勢で器械吻合のイラストが増えているものの,胃癌手術の際の十二指腸切離・吻合や脾臓脱転操作のイラストを見ると,私自身も県尼(兵庫県立尼崎病院の略称)で指導を受けた牧野尚彦先生の手術操作が蘇る.それほどに著者篠原先生の感性がイラストに凝集,注入され,写真とは異なる“実際”を描写しているともいえる.

奥坂 拓志,羽鳥 隆(編)「膵癌診療ポケットガイド」

著者: 小松嘉人

ページ範囲:P.1327 - P.1327

 『膵癌診療ポケットガイド』という書籍が,編集部から送られてきた.読んで書評をとの依頼であった.膵癌マニュアルとか,膵癌~~というのはちまたにたくさんあるので,また同様のものであろうと思いながら読ませていただいたところ,そうではなかった.ポケットガイドなどという題名のため,広く浅くの内容を想像していたが,これも間違いであった.学生や,研修医向けの初心者向きの記載が多いのかと予測していたが,まったく異なるものであった.

 さすが,国立がんセンター中央病院・肝胆膵内科医長の奥坂先生と東京女子医科大学消化器外科講師の羽鳥先生というわが国の膵癌診療をリードするお二人が編者としてまとめただけあって,すでに経験のある先生方にとっても大変有用な書となることは間違いないものと思われる.現場での,今日の臨床に必要でかつ正確な情報を外科から内科的治療に至るまで網羅的に記載されており,忙しい臨床現場での医療スタッフがこれをポケットに入れて膵癌という困難な敵に戦いを挑むには最適の本といえるのではないだろうか.まさに実践向きのマニュアル本である.

昨日の患者

お遍路さん

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1325 - P.1325

 病で身体が蝕まれていても,精神力で病に打ち勝つことがときにある.特に強い意志があると,通常は不可能なことでも実現できることがある.

 60歳代のOさんは5年前に直腸癌で手術を受けた.その後,癌再発をきたして化学療法を行った.一時的には改善したが,しかし癌性腹膜炎をきたして再入院した.癌性疼痛に対して,モルヒネを使用した.また,経口摂取ができないため,中心静脈栄養を行った.さらに,局所再発による狭窄に対してはステントを留置した.癌再発を自覚しながらも,生来前向きなOさんは病室でも明るく振る舞った.また,疼痛や嘔吐に苦しみながらも写経に勤しんだ.

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あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.1336 - P.1336

 今回の特集では「臓器別・消化器癌終末期の特徴とターミナルケア」というタイトルで,それぞれの専門施設からその現状を述べてもらった.臓器によってその消化器癌の終末期像に特徴があり,異なっていることがよく理解できる.癌末期の全身兆候を呈する以前に,このような臓器特有の症状を呈するということは,その特殊な病態に対して制癌療法ではない病態緩和の有効な治療がなされれば消化器癌終末期の患者さんのquality of life(QOL)はさらによくなることを意味している.終末期消化器癌の治療に多くの消化器外科系の臨床医が様々な工夫を凝らしていて,なかでも各著者らの,患者さんのQOLを少しでも改善しようという暖かな気持ちが大変よく表れている内容である.

 現在,QOLの定量的客観的評価としてしばしば用いられてきているSF-36や,さらにEuro QolやEQ-5Dなどを用いての消化器癌終末期患者さんの管理の評価を行っていく解析が今後必要であろう.進行した消化器癌に対して有効な抗癌剤および分子標的薬の登場によってボーダーライン症例が切除可能に転換したり,切除後もこれらの補助療法効果によって患者さんの予後は確実に延長してきている.これらmulti-modalityの治療方法による患者さんの生存期間への影響を,費用対効果を含めて分析することが可能な,定量化したQOL指標を用いて解析することが今後ますます要求されてくるであろう.

 このような客観的・定量的な評価方法が確立されてくれば,外科手術方法の意義もまたQOLの観点からあらためて検証されてくるようになるであろう.良性疾患に対しての外科治療は当然のことであるが,特に予後不良な難治癌を扱う領域の外科切除療法の意義についても重要な評価方法になっていく.患者さんにとっての最善の治療方法を選択させるためには,その判断に必要な情報をいかにわかりやすく客観的に呈示していけるかは大変重要なポイントである.高度な技術に支えられる先進的な外科治療も,よいチームの支えなくしてはその臨床的価値を十分に発揮して患者さんに役立ち得ないであろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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