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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科66巻11号

2011年10月発行

雑誌目次

特集 外科医のための最新癌薬物療法

ページ範囲:P.1 - P.1

本書の目的と使い方

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.4 - P.5

目 的

 本書は「外科医のための」癌薬物療法の手引書です.あくまでも,手術の施行を前提とした構成になっています.薬物療法の進歩は著しく,そのすさまじさは,この書を一読していただければ実感されると思います.ただし,まだ外科的切除が唯一の根治治療であると明記されている癌腫もあれば,手術はmultimodalityのなかの1つという考え方をする癌腫もあるようです.そのニュアンスの差も本書から読み取れます.とにかく圧倒されるボリューム,内容になっています.

 病期が進んでいる癌に対して,手術のみということはありえない時代になっています.したがって,癌に携わる医療者にとって薬物療法の知識は必要不可欠ですが,わが国においては腫瘍内科医の不足から,まだまだ多くの薬物療法が外科医のもとで行われているのが現状のようです.当然,外科医もその最新かつ最良の知識を持ち合わせていなければなりません.しかも,すべての癌腫において「化学療法前手術」あるいは「化学療法後手術」という言葉はなく,「術前」あるいは「術後」といったように手術が中心として考えられています.手術を実際に行う外科医も(外科医だからこそ),実際に施行するかどうかは別にして,薬物療法にも精通している必要があると考えます.そこで本特集では,外科医に最新の薬物治療の知識を持っていただき,かつ日常診療で活用していただくことを目的として編集しています.

Ⅰ章 臓器別薬物療法

ページ範囲:P.7 - P.7

1.乳癌―①術前療法

著者: 山城大泰

ページ範囲:P.8 - P.17

術前療法の適応とレジメン選択

術前療法の適応

 NSABP B-18試験1)やB-272)といった術前薬物療法の大規模試験の結果から,術前か術後かといった薬物療法の施行時期は無病生存期間や全生存期間に影響を与えないと考えられるようになってきており,primary systemic therapy(初期全身療法)という概念でまとめられる.したがって化学療法,内分泌療法,分子標的療法などを含めた術前薬物療法の適応と術後薬物療法の適応は基本的に同一であるが,閉経前ホルモン受容体(hormone receptor:HR)陽性乳癌に対する術前内分泌療法は推奨されておらず,術後薬物療法のエビデンスを術前にそのまま持ち込むには不十分な部分もある.

 乳癌では化学療法をはじめ,トラスツズマブなどの分子標的療法や内分泌療法など薬物療法の選択は多岐にわたる.薬物療法のガイドラインには,St. Gallenコンセンサス会議の推奨3)(表1-①,1-②)やNCCN(http://www.nccn.org/index.aspから入手可能)などがあるが,薬物療法の適応についてはガイドラインによって若干の違いがあるため注意を要する.

1.乳癌―②術後補助療法

著者: 柏葉匡寛 ,   稲葉亨 ,   小松英明 ,   川岸涼子 ,   松井雄介 ,   若林剛

ページ範囲:P.18 - P.36

術後補助療法の適応とレジメン選択

 乳癌の術後補助療法は,原発巣切除後にも存在している微小転移を標的とした全身的薬物療法であり,原発巣における治療標的分子の発現が効果予測因子である.また,乳癌の特徴としてホルモン療法を含む特定分子の存在下に有効な分子標的療法と,細胞増殖にかかわる様々な段階を標的分子の有無にかかわらず抑制する化学療法によって構成されている.本稿では,ほかの疾患との整合性を考慮し,非浸潤癌に対するホルモン療法を割愛している.

1.乳癌―③進行・再発(切除不能を含む)治療

著者: 清水千佳子

ページ範囲:P.39 - P.54

レジメン選択のアルゴリズム

アルゴリズム(図1)

■ホルモン受容体(HR)陽性乳癌

 HR陽性の場合,症状がなく腫瘍量が比較的少なければ内分泌療法を先行する.ホルモン療法抵抗性の場合に化学療法を行う.

2.肺癌―①術前療法

著者: 大久保憲一

ページ範囲:P.55 - P.60

術前療法の適応とレジメン選択

術前療法の適応

・縦隔リンパ節転移(N2-ⅢA期)症例

・T4(ⅢA期)症例

2.肺癌―②術後補助療法

著者: 村川知弘

ページ範囲:P.61 - P.65

術後補助療法の適応とレジメン選択

 小細胞癌治療の主体は全身化学療法と放射線治療であり,手術療法のもつ効果は限られているため,本稿では非小細胞肺癌完全切除例に対する補助療法に話題を絞って提示する.

2.肺癌―③進行・再発(切除不能を含む)治療

著者: 大熊裕介 ,   細見幸生

ページ範囲:P.66 - P.85

レジメン選択のアルゴリズム

レジメン選択のアルゴリズム

 小細胞肺癌および進行・再発(切除不能を含む)非小細胞肺癌の治療は,日本肺癌学会編集「肺癌診療ガイドライン」に則り,以下のアルゴリズム(図1~3)のように肺癌患者の年齢・病期・全身状態・組織型・EGFR遺伝子変異の有無に応じた治療法を選択する.

 非小細胞肺癌における切除不能の局所進行期(ⅢA-B期)の治療および限局型小細胞肺癌の治療については,全身状態が良好であれば化学放射線療法が推奨されるが,基本的には内科・放射線治療医が中心となって行うべきであり,本稿では割愛する.

3.食道癌―①術前療法

著者: 馬場祥史 ,   渡邊雅之 ,   小澄敬祐 ,   井田智 ,   長井洋平 ,   石本崇胤 ,   岩槻政晃 ,   岩上志朗 ,   坂本快郎 ,   宮本裕士 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.86 - P.90

術前療法の適応とレジメンの選択

術前療法の適応

■cStage Ⅱ,Ⅲ(T4は除外)食道扁平上皮癌

 食道癌に対する術前補助療法のメリットとしては,腫瘍縮小効果による根治性の向上,微小転移巣の制御による再発抑制,感受性試験としての意義などが挙げられる.また,手術で血管網が破綻する前,または手術侵襲が加わる前に投与できることによりdrug deliveryおよび完遂率の面でのbenefitも期待される.

 JCOG9204およびJCOG9907の結果より,現時点でわが国における切除可能食道癌Stage Ⅱ,Ⅲ(T4は除外)に対する標準治療は,5-FU/シスプラチンによる術前化学療法2コース後+手術と考えられている.その他の病期(Ⅰ期,Ⅳ期やT4)に対する術前補助療法のエビデンスは示されていない.

3.食道癌―②術後補助療法

著者: 田中成岳 ,   宮崎達也 ,   小澤大悟 ,   鈴木茂正 ,   横堀武彦 ,   猪瀬崇徳 ,   宗田真 ,   桑野博行

ページ範囲:P.91 - P.94

術後補助療法の適応とレジメン選択

術後補助療法の適応

●術後病理学的検索にて,リンパ節転移を認めた症例〔pN(+)〕

●術中所見で他臓器浸潤を認めた症例〔sT4〕や癌遺残症例などの根治度A以外の症例

3.食道癌―③進行・再発(切除不能を含む)治療

著者: 陳勁松

ページ範囲:P.95 - P.101

レジメン選択のアルゴリズム

食道癌(Ⅰ~ⅣA期:UICC TNM分類6版)

 この病期で手術を行わない場合は同時化学放射線療法〔シスプラチン+5-FU(FP)+放射線治療(RT):FP+RT〕である.腫瘍縮小が得られた症例では続いてFPを2回行う.上記で癌が遺残または,局所再発した場合,可能なら内視鏡的または外科的に切除を行う.切除不能な場合は下記のⅣB期と同様に化学療法を行う.臨床病期Ⅱ~Ⅲ期(T4除く)で手術を行う場合は術前補助化学療法としてFP2コース(1コース後腫瘍縮小が得られなければ2コース目はなし)後手術を行う.

4.胃癌―①術前療法

著者: 岩崎善毅 ,   大橋学 ,   岩永知大 ,   大日向玲紀 ,   高橋慶一 ,   山口達郎 ,   松本寛 ,   中野大輔 ,   平島由香

ページ範囲:P.102 - P.106

術前化学療法の適応

 手術療法のみでは難治性である予後不良の高度進行に対しては,近年の胃癌に対する化学療法開発の躍進を受け,予後の向上を目指す術前補助化学療法が注目されている.胃癌治療ガイドラインでは日常診療として推奨されるには至っていないものの,有望な治療戦略の1つである.

 適応としては以下のものが挙げられる.
①診断時にR0手術が可能な進行胃癌であるが再発の危険が高度な症例
②診断時には根治切除が不能である症例

4.胃癌―②術後補助療法

著者: 深川剛生

ページ範囲:P.107 - P.109

 術後補助化学療法は治癒切除後の微小遺残癌細胞による再発予防を目的として行われる化学療法である.胃癌に対しては,古くから多くの臨床試験が行われてきたが,確実な延命効果は示されなかった.2006年,ACTS-GC試験(Adjuvant Chemotherapy Trial of TS-1 for Gastric Cancer)によりS-1の有効性が示され1),これがわが国における標準治療となった.

4.胃癌―③進行・再発(切除不能を含む)治療

著者: 朴成和

ページ範囲:P.110 - P.118

レジメン選択のアルゴリズム

アルゴリズム

 切除不能・再発胃癌に対する標準的な1次化学療法は,世界的にもフッ化ピリミジンとプラチナ製剤の併用療法であると認識されている.最近は5-FUの静注に代わってS-1やカペシタビンなどの経口フッ化ピリミジン製剤が用いられることが多く,特にわが国ではSPIRITS試験1)の結果を受けて,S-1+シスプラチン併用療法が標準治療とされている.また,ToGA試験2)の結果によりHER2陽性胃癌に対してはトラスツズマブ(ハーセプチン®)を併用することが推奨される.わが国からToGA試験に登録された症例に対してはカペシタビン+シスプラチン併用療法が用いられていたため,トラスツズマブ併用時にはカペシタビン+シスプラチン併用療法をベースにすることが第一選択となる.ただし,切除不能・再発胃癌では腹膜転移を伴うことが多く,経口摂取不要な場合や大量腹水がある場合には,経口剤やシスプラチンを使用することができない.その場合には,5-FU注射剤が用いられることが多い.2次治療以降には確固たるエビデンスはないが,大腸癌と同様に有効な薬剤をすべて使いきることが重要であると考えられており,イリノテカンまたはパクリタキセル,ドセタキセルなどのタキサン系薬剤が用いられることが多い.

 S-1による術後補助化学療法歴のある再発例においては,再発時期によって,再発後にS-1を用いるか否かを決定すべきであるが,確固たるデータはない.

5.大腸癌―①術前療法

著者: 石原聡一郎 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.120 - P.127

 わが国の大腸癌外科治療における補助療法は治癒切除術後に行われる全身化学療法が主体であり,術前の補助療法が行われることは必ずしも多くない.大腸癌の代表的な術前療法は,直腸癌に対する術前補助化学放射線療法(CRT)である.術前CRTは欧米において直腸癌の標準的治療となっているが,わが国のガイドライン1)では「有効性と安全性を示すエビデンスに乏しい」とされ,標準治療とは位置付けられていない.本稿では,大腸癌の術前療法として直腸癌に対する術前CRTを取り上げて解説する.

5.大腸癌―②術後補助療法

著者: 加藤俊介 ,   植竹宏之 ,   杉原健一

ページ範囲:P.128 - P.134

術後補助療法の適応とレジメン選択

術後補助療法の適応(「大腸癌治療ガイドライン医師用2010年版」1)より)

・R0切除が行われたStage Ⅲ大腸癌(結腸癌・直腸癌)

・全身状態が良好(PS 0~1)で,適切なインフォームド・コンセントのもと患者自身から同意が得られた症例

5.大腸癌―③進行・再発(切除不能を含む)治療

著者: 飯合恒夫 ,   野上仁 ,   亀山仁史 ,   島田能史 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.135 - P.146

レジメン選択のアルゴリズム

 この20年で大腸癌に対する化学療法は大きく進歩した.1980年代までは,大腸癌に効果があるとされていた抗癌剤は5-FUのみであり,いかにその効果をあげるかに努力が注がれてきた.1980年代以降,5-FUの投与法としてロイコボリンの併用によるbiochemical modulationや持続静注法1~3)が開発された.わが国では欧米に遅れて1999年にやっとl-ロイコボリンであるレボホリナートカルシウムが承認され,大腸癌の化学療法は新しい時代に入った.しかし,そのとき認可されたレジメンは5-FUの急速静注にロイコボリンを加えたRoswell Park Memorial Institute(RPMI)1)レジメンのみであった.1997年,de Gramontら3)により5-FUの持続静注療法の有用性が示され,特に欧州を中心に5-FUの持続静注療法のレジメンが好んで用いられるようになった.5-FUの持続静注療法レジメンに新規抗癌剤といわれているイリノテカンやオキサリプラチンを組み合わせたレジメンが,近年の大腸癌化学療法の中心を担っているFOLFIRI療法,FOLFOX療法である.イリノテカンもオキサリプラチンもわが国で開発された薬剤である.しかし,イリノテカンは1994年にわが国で世界に先んじて大腸癌治療薬として単剤での使用が承認されたが,ほとんど用いられることはなく,オキサリプラチンは承認すらされなかった.2000年に入り,欧米ではFOLFIRI療法,FOLFOX療法の有用性が示されていたが,わが国では使用することができず,2005年に5-FUの持続静注療法,オキサリプラチンが承認されたことで,やっとFOLFIRI療法,FOLFOX療法が使用できるようになった.その後,わが国では分子標的薬であるベバシズマブが2007年に,セツキシマブが2008年に,パニツムマブが2010年に承認され,欧米で大腸癌化学療法に用いられているレジメンのほとんどが使えるようになった.それと同時にレジメンの選択肢が多様化し,より複雑化している.

 大腸癌研究会ではわが国の大腸癌治療の標準化を目的に,大腸癌治療ガイドラインを2005年4)に発刊し,その後,時代の変化に合わせて改訂している.そのなかの化学療法の項目には,切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法の3次治療までのアルゴリズムが示されており,改訂のたびに加筆修正されている.最新版5)は2010年に改訂されており,現在わが国の実臨床では,ここに記載されているアルゴリズム(図1)を参考にして治療が行われている.

6.GIST―①術前療法

著者: 和田郁雄 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.147 - P.151

術前療法の適応とレジメン選択

術前療法の適応

・完全切除が困難と考えられる局所進行GISTに対し,術前療法を行うことで完全切除を可能にする.

・完全切除が可能と思われるGISTでも,腫瘍の縮小により切除範囲を小さくすることで,手術侵襲の低減や臓器機能の温存,隣接臓器の温存をはかる.

6.GIST―②術後補助療法

著者: 西沢佑次郎 ,   柳本喜智 ,   赤松大樹 ,   西田俊朗

ページ範囲:P.152 - P.155

術後補助療法の適応とレジメン選択

術後補助療法の適応

・modified Fletcher分類のhigh risk GISTあるいはclinically malignant GIST

・NCCN-Miettinen分類のhigh risk GISTあるいはGIST with rupture

6.GIST―③進行・再発(切除不能を含む)治療

著者: 神田達夫 ,   石川卓 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.156 - P.160

治療アルゴリズム

アルゴリズム

 転移・再発性消化管間質腫瘍(GIST)の治療アルゴリズムを図1に示す.転移・再発性GIST治療の第一選択薬はイマチニブ・メシル酸塩(グリベック®)である.イマチニブ・メシル酸塩(以下イマチニブ)はKITキナーゼを阻害するチロシンキナーゼ阻害薬であり,KITキナーゼの恒常的活性化を原因とするGISTに高い効果を発揮する.

 イマチニブが無効の場合にはスニチニブ・リンゴ酸塩(スーテント®)が使用される.スニチニブ・リンゴ酸塩(以下スニチニブ)はKITキナーゼ以外に血管内皮成長因子受容体(VEGFR)にも阻害作用をもつチロシンキナーゼ阻害薬である.

7.肝癌―①術前療法

著者: 田中基文 ,   福本巧 ,   具英成

ページ範囲:P.161 - P.166

術前療法の適応とレジメン選択

 術前化学療法の主な目的を以下の2つに大別した.
①切除可能症例における腫瘍縮小,転移予防を目的とした術前治療
②高度脈管侵襲や巨大腫瘍による手術不能例における腫瘍のダウンステージングを目的とした術前治療

7.肝癌―②術後補助療法

著者: 和田浩志 ,   永野浩昭 ,   丸橋繁 ,   小林省吾 ,   川本弘一 ,   江口英利 ,   種村匡弘 ,   土岐祐一郎 ,   森正樹

ページ範囲:P.167 - P.175

術後補助療法の適応とレジメン選択

 肝細胞癌に対する外科的切除は,最も局所制御に優れた治療であるが,肉眼的な根治切除術施行後であっても高率に肝内再発をきたす.肝細胞癌の肝内再発形式は,肝内転移再発と慢性肝炎や肝硬変を背景とする多中心性発癌の2つがあり,術後早期の再発は,主に肝内転移再発が占めると考えられている1).肝細胞癌の長期成績向上には,この肝内再発を抑制する有効な補助療法の開発が必要である2).そこで本稿では,現在までに報告された肝細胞癌に対する術後補助療法として,①補助化学療法,②化学療法以外のその他の治療として,インターフェロン治療,免疫療法,分子標的治療薬などの可能性について概説する.

7.肝癌―③塞栓術(TACE)

著者: 山浦秀和 ,   稲葉吉隆 ,   佐藤洋造 ,   加藤弥菜 ,   井上大作 ,   栗延孝至 ,   佐藤健司 ,   加藤久晶

ページ範囲:P.177 - P.182

 迷路のような血管の中でマイクロカテーテルを駆使して腫瘍へと到達し,集中的な攻撃を仕掛ける肝動脈内化学塞栓療法(TACE)は,時に映画「ミクロの決死圏」に例えられる.しかし,世代が違う筆者は「ミクロの決死圏」といわれてもあまりピンとこない.現在,TACEに携わる医師には,むしろ「ドラえもん」のほうがこのSF的な冒険の主役としてイメージしやすい世代も多いのではないだろうか?

 TACEの要は癌の栄養動脈を遮断することであり,これさえ忘れなければ,抗癌剤を使用しなくても癌を壊死へと導くことが期待できる.よって,TACEで使用する抗癌剤が,おまけのようなイメージでしかないIVRistは多いかもしれない.しかし,2004年に発売されたシスプラチン製剤(アイエーコール®)により抗癌剤そのもののパワーが示され,また,欧米で普及している球状塞栓物質ビーズを用いた塞栓術がわが国で始まろうとしている今,従来の血流遮断ありきのTACEではなく,抗癌剤のパワーを利用した新しいTACEを模索する必要性が出てきている.

7.肝癌―④進行・再発(切除不能を含む)治療

著者: 上嶋一臣 ,   工藤正俊

ページ範囲:P.183 - P.189

アルゴリズム

 肝細胞癌に対するガイドラインとして,2005年2月に「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2005年版」1)が初めて刊行された.このガイドラインはEBMの手法に則り作成されたものである.その後,2009年に改訂されている.2009年版2)においては2007年6月までのエビデンス(論文)が採用されている.このガイドラインに掲載されている治療アルゴリズムはエビデンスに基づく標準的なアルゴリズムであるが,アルゴリズム中に肝外転移や脈管浸潤の記載がなく,現在切除不能肝細胞癌の標準的治療であるソラフェニブが記載されていないなどの問題がある(SHARP試験は2008年3),Asia-Pacific試験は2009年4)に論文化されているため,2009年版には採用されていない).これに対して日本肝臓学会推奨のコンセンサスに基づく肝癌治療アルゴリズムは,現在日本において広く行われている治療法を示したものであり(図1)5),より実臨床に即したものとして汎用されているが,エビデンスのない推奨部分もあり,今後の課題となっている.実際はこれらの治療アルゴリズムに基づいて治療が選択される.3cm,3個以下のものに対しては肝切除あるいは局所療法が行われるが,4個以上のものに関しては,TACEや動注療法が選択される.また脈管浸潤を有する場合,あるいは遠隔転移を有する場合は全身化学療法が選択される.また最初からChild-Pugh Cで肝機能不良の場合は基本的に緩和治療となるが,ミラノ基準内であれば肝移植が選択される.

8.胆道癌―①術前療法

著者: 片寄友 ,   力山敏樹 ,   中川圭 ,   江川新一 ,   海野倫明

ページ範囲:P.190 - P.195

術前療法の適応とレジメン選択

術前療法の適応

 胆道癌には,胆管癌,胆囊癌,十二指腸乳頭部癌があるが,化学療法の標準治療も定まっておらず,現在,胆管癌に対する術後補助療法の検討が行われているところである.そこで本稿では,胆管癌について述べることとする.

 胆管癌治療の基本は外科切除であると考えられており,様々な工夫がなされてきた.たとえば肝門部胆管癌で尾状葉を合併切除する,あるいは門脈塞栓術にて断端陰性化と安全性向上をめざしたり,また術前術後の栄養管理を含めた周術期管理の改善により治療成績が向上してきている.しかし,胆管は解剖学的に動脈,門脈など主要な脈管が隣接しており,剝離面に癌が遺残しやすく,また胆管の肝側には肝臓,十二指腸側には膵臓があり,根治切除が困難なこともあり,胆管癌は常に局所再発のリスクとのバランスから治療が考えられている.また,胆管癌の生物学的な特性から,上皮内進展や神経周囲浸潤も多く,十分断端から距離を置いて切除したと考えても,腫瘍が切離断端付近まで存在することも多い.

8.胆道癌―②術後補助療法

著者: 加藤厚 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   古川勝規 ,   吉富秀幸 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   鈴木大亮 ,   中島正之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.196 - P.200

術後補助療法の適応とレジメン選択

術後補助療法の適応

・現状においては,胆道癌の術後補助療法におけるエビデンスレベルの高い報告はきわめて少なく,術後補助療法の適応に関する明確な基準はない.

・胆道癌は早期診断が困難であり,発見された時点では進行癌であることが多く,切除後の再発率も高いため,進行胆道癌症例や非治癒切除症例においては,術後の補助療法を考慮することが勧められる.

8.胆道癌―③進行・再発(切除不能を含む)治療

著者: 古瀬純司 ,   北村浩 ,   高須充子 ,   春日章良 ,   長島文夫

ページ範囲:P.201 - P.208

レジメン選択のアルゴリズム

アルゴリズム(図1)

 胆道癌では外科切除が唯一根治を望める治療法であり,切除の可否について十分検討する必要がある.切除不能例の多くは薬物療法が適応となるが,全身状態の高度低下例,減黄不良例などは緩和治療が適当である.放射線療法あるいは化学放射線療法は遠隔転移のない高度局所浸潤を認める胆管癌で行われることがあるが,位置づけは確立していない.

 薬物療法の1次治療は,ゲムシタビン単独治療(ゲムシタビン療法)とゲムシタビン+シスプラチン併用療法(GC療法)によるランダム化比較試験の結果1,2),GC療法が標準治療として位置づけられている.しかし,2011年5月の時点で,シスプラチンは胆道癌に保険適用が承認されていない.現在,上記のランダム化比較試験の結果に基づき公知申請が行われており,早期の承認が待たれている.

9.膵癌―①術前療法

著者: 相浦浩一 ,   北郷実 ,   真杉洋平 ,   坂元亨宇 ,   北川雄光

ページ範囲:P.209 - P.217

術前療法の適応とレジメン選択

術前療法の意義と適応

 唯一根治が期待できる手術療法でも手術単独では治療成績に限界があり,集学的治療法が必須である.その一環として術前療法が存在するが,膵癌診療ガイドライン2009年版では,膵癌に対する術前治療の有用性を支持する論文が増加傾向にあるものの,十分な知見は蓄積されていないことから推奨度grade C1(科学的根拠はないが,行うよう勧められる)となっている.近年においても,膵癌術前治療に関する論文は数多く発表されてきているが,無作為化比較試験による十分なエビデンスはまだないのが現状であり,報告ごとにレジメンは異なっていて,また独特なものも多く,いずれも確立されたものではない.

9.膵癌―②術後補助療法

著者: 高橋秀典 ,   大東弘明 ,   石川治 ,   真貝竜史 ,   本告正明 ,   後藤邦仁 ,   岸健太郎 ,   能浦真吾 ,   山田晃正 ,   宮代勲 ,   大植雅之 ,   矢野雅彦

ページ範囲:P.218 - P.224

 通常型膵癌に対し根治が期待できる唯一の治療法は外科的切除であるが,切除可能な段階で発見される症例は全症例の20~30%である.また,切除可能膵癌であっても切除後の5年生存率は10~15%に過ぎず,手術単独治療の限界は明らかである1).膵癌切除術後の補助療法は1990年代より試みられてきたが,近年のゲムシタビンの登場により大きく進歩したといえる.本稿では,これまでランダム化比較試験の行われたレジメンに加え,現在,有望視されている術後補助療法のレジメンについても概説する.

9.膵癌―③進行・再発(切除不能を含む)治療

著者: 山口智宏 ,   上野秀樹 ,   奥坂拓志

ページ範囲:P.225 - P.230

レジメン選択のアルゴリズム

進行・再発膵臓癌に対する治療のアルゴリズム(図1)

 進行・再発膵臓癌に対する化学療法は,1997年にBurrisら1)が5-FUに対するゲムシタビンの優越性を報告して以来,ゲムシタビン療法が標準治療として位置付けられてきていた.また,わが国ではS-1の第Ⅱ相試験で一定の抗腫瘍効果が報告されており,保険適用である.以上より,わが国では1次治療では世界的標準治療であるゲムシタビン療法を,2次治療ではS-1療法を使用することが一般的であるとされている.

 2005年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)では,ゲムシタビンとエルロチニブの併用療法がゲムシタビン単剤と比較して死亡の相対リスクを18%減少させた(p=0.038)ことが報告された.生存期間中央値は,ゲムシタビン群が5.9か月,併用群は6.2か月であった2).統計学的に有意差を認めたものの,下痢や皮疹,間質性肺炎などの有害事象の頻度が併用群で高い傾向であった.副作用に見合う延命効果が臨床的に不十分であるという意見も多く,ゲムシタビン療法に置き換わる治療とは位置付けられていない.米国では膵癌に対してゲムシタビン+エルロチニブ療法が認可され1つの選択肢となっているが,わが国ではエルロチニブは現在のところ保険適用外である(注:2011年6月,わが国でも保険承認となった).

Ⅱ章 支持療法

ページ範囲:P.231 - P.231

10.―有害事象①―血液毒性

著者: 横山雅大

ページ範囲:P.232 - P.237

 癌薬物療法を行ううえで,有害事象に対する支持療法は必要不可欠である.有害事象に対する適切な支持療法を行うことが,安全で有効な癌薬物療法を実施,継続していくことにつながる.

 有害事象のなかでも,ほとんどの抗癌剤に共通するものの一つは血液毒性である.血液毒性は,①白血球減少,好中球減少,②貧血,③血小板減少の3つと,④ ①に伴う感染症および発熱性好中球減少症が代表的である.本稿では,主に①~③の血液毒性と④の対処法について,近年の動向,基本的な考え方を解説する.

11.―有害事象②―消化器症状

著者: 小倉真理子

ページ範囲:P.238 - P.245

 癌治療に伴う副作用や合併症を予防または軽減させる支持療法は不可欠である.特に抗癌剤投与によって起こる消化器症状は生活の質に大きく影響し,その後の治療のコンプライアンス低下につながるため,医療者側は化学療法の毒性を十分に周知し,患者教育を適切に行い,毒性出現時の対処ができるようにしなければならない.

 本稿では,主な消化器症状である,①悪心・嘔吐,②下痢,③口内炎の対処法について述べる.

12.―有害事象③―皮膚症状・神経症状

著者: 浅尾高行

ページ範囲:P.246 - P.256

皮膚症状への対処法の基本

皮膚症状―最近の動向

 抗癌剤による皮膚の傷害については,古くからフッ化ピリミジン系薬剤における手足症候群が知られているが,色素沈着程度の日常生活に支障を及ぼさない軽症のものがほとんどであったため,これまで臨床的に問題となることは少なかった.しかし,最近では治療の中断を余儀なくされるような皮膚障害を引き起こす薬剤が広く使われるようになって,適切な対処法による皮膚症状のコントロールが,抗癌剤治療中の患者のQOLの維持だけでなく,抗癌剤治療の全体としての成績を左右するマネージメントの対象として認識がされるようになっている.

13.疼痛緩和

著者: 金井良晃 ,   黒田佑次郎 ,   岩瀬哲 ,   中川恵一

ページ範囲:P.257 - P.264

 世界保健機関が「緩和ケアは疾患の経過の早期から適応となる」と定義づけて久しい1)一方で,治療効果をQOLという主観的なアウトカムで評価しなければならない緩和ケアの領域では,長く信頼性の高い知見に乏しかった.2010年,「転移を有する非小細胞肺癌において,早期からの緩和ケア介入により,QOLも生存期間も有意に改善した」という無作為化比較試験(RCT)の結果が,The New England Journal of Medicineで報告された2).積極的な抗癌治療と緩和ケアが併用されることの有効性が,今後も癌種や病期を超えて証明されていくと考えられる.

 本稿では,緩和ケア・緩和医療のなかでも話題を癌疼痛に絞り,近年の動向や基本的な考え方から,臨床家諸兄が遭遇し苦慮しやすいポイントまで概説したい.

Ⅲ章 薬物療法―あらたな展開

ページ範囲:P.265 - P.265

14.分子標的治療薬

著者: 後藤悌 ,   宮川清

ページ範囲:P.266 - P.271

分子標的薬とは

 分子標的薬とは癌細胞の増殖・転移を司る分子機構を特異的に阻害するものである.これに対し,従来の抗癌剤は細胞傷害性治療薬と称され,癌細胞が正常細胞よりも活発に分裂する性質を利用して治療効果を得ていると考えられてきた.細胞傷害性治療薬も作用機序を探ることによって標的分子が明らかになってきているものもある.分子標的薬の最大の特徴は,標的分子を創薬にはじまる薬剤開発の段階から定めていることであるといえる.

 細胞傷害治療薬の開発は,抗癌作用をもつ物質を同定し,毒性・効果の観点からヒトへの治療に有用であるかどうかを検証する作業である.世界ではじめて使用された抗癌剤であるナイトロジェンマスタードは第一次世界大戦で使われた毒ガス(マスタードガス)を改良したものである.大量に被曝した兵士の白血球が低下したことや放射線と同じような変異毒性があったことから,悪性リンパ腫の治療に用いられた.膨大な数の物質をスクリーニングし,目的と見合う化合物を探し出すという過程を経て開発されてきた典型的な薬物も多い.パクリタキセルは,微小管阻害薬に分類され,多くの癌種に使用されている抗癌剤である.1963年にアメリカ国立癌研究所がタイヘイヨウイチイの樹皮抽出液中に強力な抗腫瘍性物質が含まれていることを発見し,1971年に樹皮から分離された.

15.遺伝子治療―癌に対する遺伝子・ウイルス治療の現状

著者: 谷島聡 ,   田川雅敏 ,   島田英昭

ページ範囲:P.272 - P.275

 固形癌に対する世界初の遺伝子治療臨床試験が施行されて以来20年が経過し,現在までに合計1,098件の臨床試験が実施されている.当初のレトロウイルスベクターを用いた治療からアデノウイルス(Ad)ベクターを用いた治療が主体となり,現在は腫瘍細胞に限定して増殖する腫瘍融解ウイルス治療へと発展してきている.

 現在までに国家レベルで公式に承認された遺伝子治療薬剤は,中国SFDA(国家食品および薬品監督管理局)において承認されているAdp53,E1B55K分子欠損のAdの2種類の製剤のみである.

16.免疫細胞治療

著者: 野地秀一 ,   瀬戸泰之 ,   垣見和宏

ページ範囲:P.276 - P.284

 抗体治療薬はすでに癌の標準治療に組み込まれているだけでなく,ブロックバスター医薬品に軒並み名を連ねる状態であるが,細胞性免疫応答による治療も2010年4月にProvenge®が前立腺癌に対する治療ワクチンとして米国FDAから承認されて以来,この2年間でそれに対する風向きが大きく変化した.2011年3月にはメラノーマの治療薬としてipilimumabが承認され,免疫細胞治療は本格的な臨床応用時代の幕開けを迎えた.そこで本稿では,免疫細胞治療の現状と今後の展望について概説したい.

1200字通信・32

陽はまた昇る―震災に願う

著者: 板野聡

ページ範囲:P.37 - P.37

 今年の3月11日午後2時46分18秒,東日本沖の広範囲で大地震が起こり,未曾有の災害が発生しました.地震の発生直後,これまでにない同時中継の映像を目の当たりにして驚きましたが,これほど大量かつ詳細な情報が繰り返し流されたことは,これまでになかったのではないでしょうか.始めのうちは驚きながら見入ってはいましたが,その映像と同時進行で尊い生命や思い出の品々が失われていたわけで,無機質な画像が持つ残酷さを思い知らされることになりました.

 被害のなかった私達のところでも,震災後のしばらく,テレビ放映は被災地の報道一辺倒となり,通常番組やCMの自粛もあって,日本中が震災による非常事態下にあることを実感しました.また,私の外来では,繰り返される震災の報道に接して気分が悪くなったり不眠になったりと,うつ症状を訴える患者さんが続き,こうした大災害は,直接的,間接的に人々の心を蝕むものだと知りました.

ひとやすみ・78

頼もしき後輩

著者: 中川国利

ページ範囲:P.119 - P.119

 当院では「地域医療連携の集い」を年に2回開催し,日頃お世話になっている診療所や病院の医師との交流の場を設けている.毎回80名ほどの医師が集まり,親交を深めてきた.しかしながら,回を重ねると講演内容はマンネリ化し,参加する医師もじり貧状態であった.対策として,関心を惹く講演を企画することにした.当地では東日本大震災で起きた東京電力福島第一原子力発電所事故による放射線被曝が大いなる話題となっている.そこで,講演内容を放射線被曝にした.

 院長の同意のうえで,適切な講師について当院の放射線科部長に相談した.そして,全国的にも権威のある講師として,広島大学のH教授にお願いすることにした.H教授は多忙にもかかわらず講演依頼を快諾してくれた.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.119 - P.119

薬剤・関連用語一覧

ページ範囲:P.285 - P.289

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.290 - P.290

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.291 - P.291

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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