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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科66巻12号

2011年11月発行

雑誌目次

特集 目で見てわかる肛門疾患治療

ページ範囲:P.1419 - P.1419

 肛門疾患には多様な病態が存在するが,その解剖学的特徴から,病変を直接見て診療を行うことが重要となる.本特集は「目で見てわかる」というコンセプトのもと,肛門疾患に対する最新の治療法を解説する目的で企画した.

肛門の局所解剖と肛門疾患の関係

著者: 松田直樹 ,   日比優一 ,   清水義雄

ページ範囲:P.1420 - P.1427

【ポイント】

◆臨床医にとって,ともすれば退屈に感じがちな肛門の局所解剖学であるが,肛門疾患の診断のもととなるので覚えておかねばならない.本稿ではその基本を説明する.

◆肛門を形態学的に捉えるとともに,肛門管の狭さ,広さ,筋肉群の緩みなどが肛門疾患の成因に実際にどのように影響を与えるかを説明する.

◆肛門科医として40年の臨床経験では,排便状態の不適切さが肛門疾患の原因の1つとなる.本稿では,それが理解できるようにイラストで説明する.

肛門周囲膿瘍―肛門・直腸周囲膿瘍の治療

著者: 下島裕寛 ,   伊東功 ,   河野洋一 ,   岡本康介 ,   松島誠

ページ範囲:P.1464 - P.1470

【ポイント】

◆肛門周囲膿瘍,肛門直腸周囲膿瘍に対しては準緊急的に切開・排膿ドレナージを行って膿瘍の進展を阻止する.

◆消炎後の根治手術を見据えて的確な位置に切開を行い,十分に排膿して遺残膿瘍の発生回避に留意する.

◆肛門機能障害を避けるため,正確な解剖学的知識と膿瘍の進展状態を正しく診断する能力が要求される.

痔瘻の治療

著者: 山名哲郎

ページ範囲:P.1472 - P.1477

【ポイント】

◆後方の低位筋間痔瘻は,瘻管を切開開放したのちに適切なドレナージ創を作製する(切開開放術式).

◆側方・前方の低位筋間痔瘻は皮膚と肛門上皮だけを切開して,括約筋はゴム糸でくくるだけにとどめる(タイトシートン法).

◆肛門挙筋下痔瘻は後方6時にある原発口と原発巣を除去して,充塡または開放とする(筋肉充塡法またはHanley変法).

裂肛の治療

著者: 高野正太 ,   山田一隆 ,   緒方俊二 ,   高野正博

ページ範囲:P.1478 - P.1484

【ポイント】

◆裂肛の治療を行うに当たっては,まず病期および発生要因での分類をもとに診断を行い,治療方針を決定する.

◆急性裂肛では保存療法が選択されるが,慢性裂肛に移行した場合は手術療法など積極的治療を行う.

◆手術療法としてLISやSSGが広く行われるが,再発率や合併症などを説明したうえでのインフォームド・コンセントが必要である.

Crohn病の肛門病変―Crohn病に合併した肛門部病変に対する治療

著者: 二見喜太郎 ,   東大二郎 ,   永川祐二 ,   石橋由紀子 ,   三上公治 ,   平野公一 ,   薦野晃 ,   佐々木貴英 ,   武富啓能 ,   山下りさこ ,   前川隆文

ページ範囲:P.1486 - P.1492

【ポイント】

◆Crohn病において肛門部は回盲部と並んで罹患頻度の高い部位であり,肛門部病変を知ることは早期診断を導く手がかりとしても重要である.

◆最も頻度の高い痔瘻・膿瘍は若年性,多発性とともに裂肛・肛門潰瘍,皮垂などが混在することが特徴的であり,長期経過例では癌合併のリスクとなる.

◆痔瘻・膿瘍に対する外科治療は高頻度に生じる再発とともに,肛門機能の保持にも配慮してseton法ドレナージが適する.繰り返す複雑多発痔瘻や線維性の直腸肛門狭窄など重症肛門部病変は人工肛門の適応となる.

〔痔核〕

外痔核の治療

著者: 及能達男 ,   及能大輔 ,   平田公一

ページ範囲:P.1429 - P.1434

【ポイント】

◆外痔核は歯状線より外側に存在する痔核であり,血栓性外痔核・肛門皮垂に大別される.

◆血栓性外痔核の除痛には早期の血栓除去術が有効である.

◆血栓除去術の1つにデルマパンチ®を用いる方法があり,手術操作・創治癒の点で有効である.

内痔核に対する硬化療法―画像でわかる,適応となる内痔核および硬化剤の注射部位

著者: 斎藤徹

ページ範囲:P.1436 - P.1441

【ポイント】

◆ALTA療法の適応は内痔核主体の脱肛症例であり,痔核スケールに見合う投与量を四段階法で注射する.

◆筒型肛門鏡によって正常粘膜は三角形に見えるが,内痔核の上極は隆起した円形に見えるので同定できる.

◆内痔核下極の同定は歯状線よりもヘルマン線を指標にして,ヘルマン線付近から移行帯上皮に注射する.

内痔核に対する輪ゴム結紮術

著者: 谷達夫 ,   内藤哲也 ,   長谷川潤 ,   八木亮磨 ,   利川千絵 ,   大橋優智 ,   島影尚弘 ,   田島健三

ページ範囲:P.1442 - P.1448

【ポイント】

◆内痔核に対する輪ゴム結紮療法は,内痔核に輪ゴムをかけて阻血性変化によって痔核を壊死脱落させ,その瘢痕形成によりanal cusionを固定し,内痔核の症状を緩和させる治療法である.

◆本法は外来で行うことのできる簡便で低侵襲な手技であり,その適応はgrade Ⅱ,Ⅲの内痔核である.

◆合併症として疼痛や出血があるが,十分に許容範囲内であり,治療効果も高く,手術治療を行う前に考慮されるべき治療法の1つである.

内痔核に対する結紮・切除術―よくわかる痔核結紮・切除術マニュアル

著者: 赤木一成 ,   辻仲康伸

ページ範囲:P.1450 - P.1456

【ポイント】

◆「見よう見まね」の痔核手術と,「理詰め」の痔核手術とでは成績に歴然とした差が現れる.

◆われわれの施設では「理詰め」かつ「修練を積めば誰でも習得できる」手術マニュアルを作成している.

◆手術手順を①剝離,②結紮・縫合,③最終チェック,の3ステップに分け,各ステップのポイントを示す.

痔核に対するPPHのコツと工夫

著者: 栗原聰元 ,   船橋公彦

ページ範囲:P.1458 - P.1463

【ポイント】

◆適応:外痔成分のない全周性の内痔核もしくは粘膜脱がよい適応である.

◆良好な視野の確保:すべての操作を確実にするため,ローンスターリトラクターを用いた肛門の展開が有用である.

◆流入動脈の高位結紮:流入動脈に対しての高位結紮は痔核内の血流を減少させ,術後出血の防止に有用である.

◆確実な巾着縫合:痔核上縁の1.5~2.0cm口側で,粘膜のかけ落としがないように巾着縫合を行う.

〔感染症〕

壊死性筋膜炎(フルニエ症候群)の治療

著者: 前田耕太郎 ,   花井恒一 ,   佐藤美信 ,   升森宏次 ,   小出欽和 ,   松岡宏 ,   勝野秀稔 ,   野呂智仁 ,   本多克行 ,   塩田規帆 ,   遠藤智美 ,   松岡伸司

ページ範囲:P.1496 - P.1499

【ポイント】

◆フルニエ症候群は会陰部,外陰部に発生する激症壊死性感染症で,急速に進行する予後不良な疾患である.

◆多くは糖尿病やアルコール中毒などの合併症を持ち,肛門周囲膿瘍などの直腸肛門・泌尿器科疾患に起因する.

◆早期診断,早期の壊死部除去,十分な排膿,ドレナージ,適切な抗菌薬投与,栄養管理が必要である.

直腸肛門の性感染症の治療

著者: 松田保秀 ,   浅野道雄 ,   田中荘一 ,   川上和彦 ,   中井勝彦 ,   野中雅彦 ,   矢野孝明 ,   矢野義明 ,   尾田典隆 ,   石井正嗣 ,   木村浩三 ,   小澤享史

ページ範囲:P.1500 - P.1508

【ポイント】

◆1991年4月1日,①後天性免疫不全症候群(AIDS),②梅毒,③性器クラミジア感染症,④性器ヘルペスウイルス感染症,⑤淋菌感染症,⑥尖圭コンジローマが性感染症(STD)に指定された.

◆若年者の性行動の多様化によって数種のSTDが合併し,病変が性器以外に眼球粘膜,口腔・咽頭,直腸肛門部・腸管粘膜にも及んでいる.

◆STDのなかでも,制御できていないHIV・AIDSが最重要疾患である.

〔腫瘍〕

肛門管癌(扁平上皮癌)の治療

著者: 稲次直樹 ,   吉川周作 ,   増田勉 ,   内田秀樹 ,   久下博之 ,   大野隆 ,   横谷倫世 ,   山口貴也 ,   山岡健太郎 ,   稲垣水美 ,   下林孝好

ページ範囲:P.1510 - P.1516

【ポイント】

◆早期肛門管癌の診断には,肛門疾患,良性腫瘍,inflammatory bowel disease(IBD)の肛門病変,sexually transmitted disease(STD)などと鑑別する診断力が求められる.

◆肛門管癌を疑ったら生検,examination under anesthesia(EUA)を行う.

◆扁平上皮内癌には局所切除術,それ以深には化学放射線療法(CRT)を行う.局所再発には直腸切断術(APR),転移性病変には化学療法を行う.

痔瘻癌の治療

著者: 池内浩基 ,   内野基 ,   松岡宏樹 ,   平田晃宏 ,   坂東俊宏 ,   竹末芳生 ,   冨田尚裕

ページ範囲:P.1518 - P.1522

【ポイント】

◆確定診断は病理検査が最も優先されるが,疑う場合は麻酔下に数回,生検や掻爬を行うべきである.

◆予後不良との報告が多いが,脈管侵襲や上方リンパ節転移は少ないとの報告もあり,広範囲切除が基本である.

◆Crohn病に合併する報告例が増加しているが,肛門管癌の直腸型癌と痔瘻癌に区別することが必要である.

稀な肛門腫瘍の治療―肛門部Paget病とPaget現象,基底細胞癌と類基底細胞癌,肛門部Bowen病とBowen様丘疹,肛門部悪性黒色腫

著者: 栗原浩幸 ,   金井忠男 ,   神藤英二 ,   石川徹 ,   金井慎一郎 ,   張文誠 ,   金井亮太 ,   黒田敏彦 ,   赤瀬崇嘉 ,   橋口陽二郎 ,   長谷和生

ページ範囲:P.1524 - P.1529

【ポイント】

◆肛門管は,内胚葉由来の腫瘍や肛門腺を含む外胚葉由来の腫瘍など,色々な腫瘍の発生する母地となる.

◆Paget病とPaget現象,類基底細胞癌,Bowen病,悪性黒色腫などの臨床的特徴を把握しなくてはならない.

◆病態の解明によって診断・治療は漸次進歩するので,最新の知識を身に付けて診療することが必要である.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・17

減量外科の病棟看護

著者: 山下舞 ,   湯浅可奈子 ,   安田真由子

ページ範囲:P.1530 - P.1536

 皆さん,元気ですかーっ!!

 今回のテーマは,減量外科手術を受ける患者様の「病棟看護」についてです!担当させていただくのは,四谷メディカルキューブ病棟看護師の山下・湯浅・安田です.減量手術を受ける患者様の入院中の看護を担当しています.私たち3人は減量治療チームのスタッフとして笠間先生方に日々ご指導いただき,元気があれば何でもできるっ!!とお尻を叩かれながら??色々なことに挑戦させてもらっています♪♪ 大変なこともありますが,そのたびに達成感を味わっている気がします☆

 わかりやすく面白く書けるか不安ですが,減量外科看護をお伝えできるように頑張って書きました♪♪

FOCUS

2011年 米国臨床腫瘍学会(ASCO)報告―GIST,胃癌,膵癌および肝癌における最新の知見

著者: 持木彫人 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1537 - P.1539

 2011年の米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology:ASCO)は6月3日から7日までイリノイ州のシカゴで開催されました.シカゴはミシガン湖の南西に位置する大都市で全米第3の人口を有します.シカゴのダウンタウンには超高層ビルや歴史的な建造物が建ち並び,北米経済の中心都市となっています.

 ASCOの会場となったマコーミック・プレイスコンプレックスは北米最大のコンベンションセンターであり,端から端まで歩くとかなりの時間がかかります.本年度の米国消化器病週間(DDW)もこの会場で開催されました.ASCOは世界最大の国際的な癌専門学会であり,最新の癌研究発表の場となっていて,重要な癌治療研究はこの学会から発表されています.本年も多くの貴重な研究発表がありましたが,重要と思われる発表を紹介したいと思います.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑨

“スコープ続編”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.1540 - P.1543

「目で見て買うな,味見て買え」

   「見ると聞くとは大違い」.

見た目で買ったスコープは

   「裏目に出る」ものなり.

「眼鏡は顔の一部です」

   これ,二回目の登場なり.

病院めぐり

山本総合病院外科

著者: 町支秀樹

ページ範囲:P.1544 - P.1544

 当院は「その手はくわなの焼き蛤」で有名な三重県の北部,桑名市に位置します.当市は人口14万人の都市で,木曽三川(木曽・長良・揖斐川)が合流して伊勢湾に流れる水郷地帯や多度山系の豊かな緑といった恵まれた自然環境を擁し,交通の要衝でもあり,江戸時代より東海道五十三次の宿場町・城下町として栄えた歴史と文化を持つ街です.

 当院の前身は,桑名市の医療施設が戦災によって消失したため,社会福祉事業の一端として故山本重治郎が昭和20年に創立した山本病院です.昭和38年に総合病院の認可を受け,昭和52年に現山本総合病院となりました.現在は349床の急性期病院で,「患者さま・地域・職員から必要とされる病院を目指します」の病院理念のもと専門的医療水準の向上に努力し,チーム医療を実践し,地域の医療機関と連携をとりながら24時間態勢で頑張っています.また,日本医療機能評価機構認定病院で入院基本料7対1を取得したDPC対象病院であり,6病棟,16診療科,常勤医師37名,非常勤医師26名の総合病院です.

中津市立中津市民病院外科

著者: 池田正仁

ページ範囲:P.1545 - P.1545

 当院は,49年間続いた国立中津病院を廃止するという国の決定を受け,中津市および近隣の医療を崩壊させてはならないと,中津市が国立中津病院の経営を譲り受け,平成12年7月1日に現名称で新たにスタートしました.開院10周年を迎えた昨年には,現病院の隣接地に待望の新病院の建設が始まり,平成24年秋の竣工を目指して現在,建設工事が順調に進捗中です.

 診療圏は,中津市を中心とした大分県北部と,県境を越え福岡県東部を加えた人口約24万人の広域に及んでいます.病床数は250床で,15の診療科を標榜し,職員数は364名(うち常勤医35名,研修医6名)と文字どおり当該地域の中核的拠点病院です.ISO14001認証取得病院でもあり,地域住民へ質の高い医療を提供するとともに,生命体としての地球の健康を守るという認識を職員全員で共有しています.

Expertに学ぶ画像診断・8

画像強調観察:AFI(下部)

著者: 松田尚久 ,   玉井尚人 ,   坂本琢 ,   中島健 ,   斎藤豊

ページ範囲:P.1546 - P.1550

はじめに

 大腸癌は癌死亡の主要な原因の1つとなっており,その前癌状態と考えられる腺腫性ポリープを内視鏡的により早期に発見し摘除することが癌予防の観点からも重要となっている.大腸内視鏡画像の高精細化や内視鏡診断学の進歩などによって大腸腺腫の診断能は向上したものの,依然として大腸内視鏡での腺腫性ポリープの見落としが約20%に存在すると言われている.また,インジゴカルミンによる色素撒布法によって大腸病変の描出能は向上したが,全大腸に色素を撒布することは効率のよい検査法とはいえず,簡便に大腸腫瘍をスクリーニングできるような機器の開発が望まれてきた.近年,大腸内視鏡による腫瘍性病変発見の効率化を目的として様々な画像強調観察法が開発され臨床応用されるに至り,従来用いられてきた色素撒布法よりも簡便にスクリーングできるようになりつつある.

 自家蛍光内視鏡システム(Autofluorescence Imaging system:AFI:オリンパスメディカルシステム)は画像強調観察法(image enhanced endoscopy:IEE)の1つである.蛍光物質の投与を行わずに,組織の変性過程に従って発生する内因性蛍光物質の自家蛍光が減弱する特性を利用した診断技術であり,肺癌診療における気管支鏡検査に対しても応用されている.また,消化管領域においてもその有用性が報告されつつある.

 本稿ではAFIシステムとその有用性に関する研究の紹介と今後の課題について,実際の症例を呈示しながら解説する.

手術手技

単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術における工夫―従来法との比較

著者: 野島広之 ,   吉富秀幸 ,   細川勇 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1551 - P.1554

要旨

単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術(単孔式-LC)には整容性の向上という利点がある一方で,4-port LC(従来法)と比較して術野展開および操作性において問題点がある.今回,手術手技の問題点の解決を試み,従来法と比較検討したので報告する.胆囊結石症および慢性胆囊炎に対して4-port LCを124例,単孔式-LCを15例施行した.年齢および創部痛において有意差を認め,創部痛については単孔式-LCに多く認めた.手術時間,開腹移行率,術後在院期間,合併症は有意差を認めなかった.単孔式-LCにおいて創部は目立たず整容性に優れていたが,創部痛を従来法と比較して多く認めたため,疼痛コントロールの対策が必要と考えられた.

臨床報告

プロテインC欠損症による上下腸間膜静脈血栓症の1手術例

著者: 有光竜樹 ,   瀬尾智 ,   濱口雄平 ,   馬場園豊 ,   尾池文隆 ,   光吉明

ページ範囲:P.1555 - P.1558

要旨

患者は53歳,男性.主訴は下腹部痛および下痢で,左下腹部に弾性・軟な腫瘤を触知した.腹部CT,大腸内視鏡,血管造影などの所見から,腸間膜静脈血栓による左側結腸のうっ血性浮腫と診断した.また,血清分析ではプロテインC抗原量の低下を認めた.血栓溶解および抗凝固療法を行って腹部症状はいったん改善したが,下血が出現するようになった.抗凝固薬を中止したが症状の改善は得られず,腹会陰式直腸切断術および腸瘻造設術を施行した.術後に抗凝固療法を再開し,経過は良好である.プロテインC欠損による腸間膜静脈血栓症の報告は稀であり,特に下腸間膜静脈血栓症の手術例は,検索した範囲ではわが国では2例目であった.

偶然発見された特発性気腹症の2例

著者: 鈴木紳祐 ,   亀田久仁郎 ,   後藤晃紀 ,   吉田謙一 ,   長嶺弘太郎 ,   久保章

ページ範囲:P.1559 - P.1562

要旨

症状を呈さず,偶然に発見された腹腔内遊離ガスに対し,保存的に経過観察をして良好にコントロールしえた特発性気腹症の2例を経験した.ともに腹部X線およびCT検査で腹腔内遊離ガス像を認めたため消化管穿孔との鑑別に苦慮したが,腹部症状がなかったため手術は施行しなかった.上部消化管内視鏡検査を施行したが,潰瘍性病変や悪性腫瘍は認めなかった.1例では2か月後に腹腔内遊離ガス像を再度認めたが,自然に軽快した.特発性気腹症は稀な疾患である.本疾患は消化管穿孔との鑑別を要するが,腹膜刺激症状がなく,内科的治療で改善するとされる.そのため,症状を伴わない腹腔内遊離ガス像を見た際は本疾患を考慮する必要がある.

虫垂粘液囊胞腺癌によって腸重積をきたした1症例

著者: 小西啓夫 ,   小池浩志 ,   山口明浩 ,   菅沼泰

ページ範囲:P.1563 - P.1566

要旨

患者は78歳,女性.心窩部痛を主訴に近医を受診し,精査・加療目的で当院を紹介され受診した.腹部CTで横行結腸内に囊胞性腫瘤を先進部とする腸重積の所見を認めた.下部消化管内視鏡で腸重積を整復したのち,再度,CTを施行して径40mmほどの虫垂粘液囊腫と診断した.治療は待機的に開腹術を行い,悪性の可能性も考慮して右半結腸切除術およびD3郭清を施行した.病理組織学的診断で虫垂粘液囊胞腺癌と診断された.同腫瘍が原因となる腸重積は比較的稀である.治療は切除術が基本であるが,腹膜偽粘液腫をきたさないことが重要である.そのため,腸重積の整復の必要性や腸管の切除範囲などを考慮する必要がある.

手に発生したvenous aneurysmの1例

著者: 山口敏之 ,   尾嶋紀洋 ,   林征洋 ,   小松信男 ,   橋本晋一 ,   小山正道

ページ範囲:P.1567 - P.1570

要旨

患者は66歳,女性.10年前から気づいていた右手背の腫瘤が次第に増大したため当院を受診した.視触診で,右第1指間に暗青色で径2×1.6×1cm大の境界明瞭な腫瘤を認めた.表面の皮膚に異常はなく,可動性があった.圧迫および上肢挙上によって容易に縮小・消失し,圧迫の解除と上肢下垂によって再出現した.腫瘤およびその近傍で血管性雑音は聴取されなかった.超音波検査で腫瘤は境界明瞭,内部は低エコーの囊胞様病変として描出された.患者の希望によって摘出術を行った.病理学的には平滑筋細胞と弾性線維の著明な減少を認め,venous aneurysmと診断された.

ひとやすみ・79

心穏やかに

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1493 - P.1493

 この世は多くの人との交わりで成り立ち,一人で生きて行くことはできない.そして,他人との共同生活では,怒り心頭になることがしばしばある.しかし,相手にも言い分があるもので,自分の意をストレートに表現すると相手も激昂する.そして,相手の対応によってはさらに怒りが増し,最終的には自分自身が疲労困憊するとともに後悔することになる.

 かつて大学で研修していた頃,地方の病院に短期間ながらよく派遣されたものである.地方での最大の喜びは,多くの患者さんと直に接し,大学では経験できない種々の臨床を経験できることであった.若くて独身であったこともあり,ほかの医師の当直をよく代行したものである.1か月の当直回数が28回に及んだこともあったが,当時は労働基準法などはまったく問題視されなかった.連日の当直による利点は,報酬もさることながら,当直室を自分の意のままに使用でき,通勤時間がゼロであり,三食の心配がまったく不要であることであった.ただ,手術着をパジャマ代わりに使用したが,下着の洗濯に苦慮した.また,最大の問題は,睡眠をいかに効率よくとるかであった.

1200字通信・33

そこに山があるから―余話

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1509 - P.1509

 第31回(66巻10号)で,「そこに山があるから」とはじめて言った人のことを書きましたが,好奇心の赴くままにさらに調べを進めたところ,「そして謎は残った―伝説の登山家マロリー発見記」〔ヨッヘン・ヘムレブ,他(著)文藝春秋社,1999年〕という本に辿り着きました.そして,その人,英国人のジョージ・リー・マロリー氏が1924年6月にエベレストで遭難死してから75年後の1999年に,標高8,160mの地点で遺体として発見されていたことを知りました.

 実は,マロリー氏はそれまでにも繰り返し遠征隊に参加しており,そのために「なぜわざわざエベレストに登りたいのか」という質問が繰り返されたようで,それに対して“Because, it is there”とだけぶっきらぼうに答えたのだろうとの説明がありました.そうすると,この“it”には「過去に何度か挑戦し失敗している世界最高峰のエベレスト」という深い意味が含まれていたことになり,これを日本語で単に「山」とだけに訳してよいものかと複雑な気持ちになってきます.

勤務医コラム・30

歳時記を買う

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.1517 - P.1517

 Mさん,75歳男性,当院で胃癌を切除して2年を越えた.再発もなくお元気.趣味は俳句.2か月に1回の外来では,病気の話などこれっぽっちもしない.新作の句を私に見せてくれるのだ.“涼し”は夏だが,“新涼”は秋,とか,ショウガのことを薑(はじかみ)という,などと,ためになることを教えてくれるので,私も楽しみに待っている.

 彼に影響されて私も俳句なるものを作ってみたくなった.考えてみればこれまで30年近く,人の腹を開けて切ったりつないだりしてきたわけだが,普通の感覚からすれば,尋常ならざることを生業としてきたものである.そういう生活の対極にあるもの―絵でも文学でも音楽でもよい,何か芸術的なこと―に心惹かれる.確かに手術もartだが,そのartじゃない別のアートに触れたくなったのだ.

昨日の患者

重き一言

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1570 - P.1570

 病院には社会を構成する種々の職種の人が来院し,そして闘病生活を送っている.患者として入院していても,ときに職業意識が目覚めることがある.

 30歳代前半のSさんは高校の先生である.仕事熱心で,下血が続いても痔からの出血と独断し,検査を受けることもなく売薬で経過をみていた.しかし,イレウス症状が生じたため,当院を受診した.内視鏡検査では直腸に全周性の腫瘍を認め,それより口側への内視鏡挿入は困難であった.さらに,CT検査では肝臓に多発性の転移を認めた.そこで直腸前方切除術と癌化学療法を行うため入院した.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.1493 - P.1493

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1508 - P.1508

次号予告

ページ範囲:P.1523 - P.1523

投稿規定

ページ範囲:P.1571 - P.1572

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.1573 - P.1573

あとがき

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.1574 - P.1574

 「なでしこジャパン」の第6回FIFA女子ワールドカップでの優勝に日本中が湧きました.日本代表として初のFIFA主催の世界大会優勝という快挙を成し遂げ,チームはフェアプレー賞,澤穂希選手はMVPを受賞しました.連日の報道に日本中が釘付けになり,明るい話題が少なかった日本に,久しぶりに感動と勇気を与えてくれた気がします.また,この優勝によって,日本政府から「なでしこジャパン」に国民栄誉賞が授与されました.団体に対する国民栄誉賞は初となる快挙でした.FIFA女子ワールドカップでのこれまでの日本の成績は,ベスト8進出が1回ありましたが,そのほかの4回はすべてグループリーグ敗退でした.それが,今回は佐々木監督のもと,決勝トーナメントに進出するや,一気に優勝まで勝ち取り,日本国民に勇気と希望,そして感動を与えてくれました.

 一方,医療の世界,特に外科における女性はどんな状況にあるのでしょうか.日本外科学会で女性外科医の現状についての実態調査が行われています.アンケート調査の結果によると,1週間の勤務時間が90時間以上である医師の割合が男性外科医は12.9%,女性外科医は18.3%と,女性のほうが頻度が高くなっています.1週間の勤務時間が75時間以上で見てみると,これも男性外科医は33.4%,女性外科医は40.7%と,女性のほうが頻度が高くなっています.また,これを子供のあり/なし別でみると,1週間の勤務時間が90時間以上である医師の割合は子供なしの女性外科医で25%,子供ありは3%となります.つまり,未婚の女性外科医の4人に1人は90時間以上勤務しているということになります.日曜日に1日休めたとしても,残りの6日間は1日15時間勤務していることになります.また,「キャリア形成に障害となっているのは何か」との問いには, 「出産,育児」の37%に次いで「労働条件の悪さ」が36%で,2位となっています.こうした状況のなか,女子学生に外科を進路として勧めるかとの質問には,女性外科医の29%が絶対に勧めないか,どちらかといえば勧めないと回答しています.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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