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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科66巻2号

2011年02月発行

雑誌目次

特集 T4の癌―臓器別特性と治療戦略

ページ範囲:P.133 - P.133

 TNM分類におけるT4癌は各臓器において,一部に炎症性乳癌なども含まれるが,そのほとんどは「隣接臓器にまで浸潤している癌」とされている.隣接臓器といっても,各々の臓器の解剖学的位置関係から対象臓器,対象組織は様々であり,また同じ癌でもその局在によって異なる場合も少なくない.そのため癌の発生した臓器により,その症状,診断法,治療方針,そして手術手技も異なる.そのような各臓器のT4癌を臓器横断的に一つの特集という場で検討してみたい.

 隣接臓器に浸潤したようなTNM分類におけるT4癌の治療にあたっては,①術前診断の方法の選択や精度の向上,そして②術前,術中,術後の合併療法も含めた治療戦略,さらに③手術適応判断と高度な手術手技が求められており,外科医の能力が最も問われる分野である.本特集が,読者に有益かつ意義深い特集となれば幸いである.

各臓器におけるT4癌の取り扱い

著者: 平田公一 ,   木村康利 ,   沖田憲司 ,   今村将史 ,   信岡隆幸 ,   目黒誠 ,   川本雅樹 ,   原田敬介 ,   西舘敏彦 ,   九冨五郎 ,   水口徹

ページ範囲:P.134 - P.139

【ポイント】

◆T4癌の治療戦略にあたっては,①切除可能癌,②切除不能癌,および①術前治療奏効癌,②同無効癌に大別して考える必要がある.外科治療にあたっては根治性の点で周囲組織の合併切除を余儀なくされる場合があり,術後のQOLと生命予後成績が天秤にのることとなる.

◆癌診療ガイドラインにおいては,外科治療選択における根治性の可能性と限界,microあるいはmicro metastasisの再発予防効果,などの点でエビデンスに基づいて周術期治療法が紹介されているものがある.

◆癌腫によってはエビデンスが少ないために,次代をめざした臨床研究に依存する解説を示しているものも少なくない.

◆癌腫間での推奨内容を比較すると,エビデンスの質と量には差が大きい.医療情報を正確に把握したうえでインフォームド・コンセント(IC)に尽力する必要があることを意識されたい.

食道癌

著者: 加藤広行 ,   中島政信 ,   佐々木欣郎

ページ範囲:P.140 - P.145

【ポイント】

◆食道癌はT4の対象臓器が多く,かつ生命維持にきわめて重要な臓器であるため,慎重かつ柔軟な治療戦略を立てる必要がある.

◆T4食道癌の治療の基本は根治的化学放射線療法であるが,わが国における日常診療では術前治療を行って根治手術を行う場合もある.

◆術前治療としては化学療法と化学放射線療法があるが,T4を解除しなければ手術ができない場合には局所制御効果の高い化学放射線療法を行う.

胃癌

著者: 和田郁雄 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.146 - P.151

【ポイント】

◆隣接臓器浸潤を伴う胃癌に対して,隣接臓器合併切除により根治術が可能な場合に生命予後を改善し得る.

◆隣接臓器合併切除の合併症の頻度は多く,切除臓器数が増加するにつれてriskが高くなる.

◆減量手術の生命予後に対する有効性は現時点では認められない.集学的治療法の発展が待たれる.

結腸癌

著者: 野澤慶次郎 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.152 - P.156

【ポイント】

◆T4結腸癌は,根治度AおよびBの手術症例では可能な限り積極的に隣接臓器の一括合併切除を行うべきである.

◆結腸癌は浸潤しやすいため,可動性が不良で,環周率が高い大きな進行癌は,隣接臓器浸潤を積極的に疑う.

◆術前に隣接臓器浸潤を強く疑う場合は,CTCやPET/CTなどの検査を積極的に行ったうえで,手術に臨む必要がある.

直腸・肛門管癌―T4直腸・肛門管癌に対する適切な切除範囲

著者: 野上仁 ,   島田能史 ,   亀山仁史 ,   飯合恒夫 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.157 - P.160

【ポイント】

◆直腸・肛門管癌の隣接臓器浸潤の診断にはCTやMRIが有用であり,術前に合併切除の必要性を検討して適切な治療戦略を立てる必要がある.

◆T4直腸・肛門管癌に対する手術は,癌に対する根治性を保ち,QOLを低下させない過不足のない適切な切除を計画し,実行する.

◆放射線化学療法の目的としては,局所再発率の低下があるが,放射線による機能障害も考慮して適応を決定するべきである.

肝癌

著者: 阿部雄太 ,   高野公徳 ,   菊池哲 ,   今野理 ,   島津元秀

ページ範囲:P.161 - P.170

【ポイント】

◆T4肝癌の根本的治療法は外科切除のみだが,さらなる成績の向上には補助療法の確立が至上命題である.

◆遠隔転移のない肝機能良好症例に対しては,姑息的治療選択の前に,肝切除を中心とした集学的治療の可能性を肝癌治療専門チーム主導で考慮することが第一と考える.

◆脈管処理を伴う葉切除以上の手術となるため切除可能性の判断と高難度手術に対する技術の裏付けがきわめて重要である.

胆道癌

著者: 加藤厚 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   古川勝規 ,   吉富秀幸 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   須田浩介 ,   久保木知 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.172 - P.179

【ポイント】

◆胆道癌は,解剖学的位置関係から病状の進行に伴い多彩な進展様式をとり,発見された時点で隣接臓器への浸潤を有するT4胆道癌であることも多く,その診断と治療には専門的な知識や経験が要求される.

◆近年,MDCTを中心とした各種画像診断装置の解像度や解析機能の向上により,腫瘍の局在や進展範囲,胆管の走行や閉塞部位の同定などが可能となり,術前の胆道ドレナージや術式のプランニングにきわめて有用である.

◆周術期管理の向上により術後の合併症の頻度は減少し,進行胆道癌に対して根治切除のための血管合併切除を含む積極的な拡大切除などが施行され,今後は新規抗癌剤による化学療法を含めた集学的治療により,胆道癌の治療成績のさらなる向上が期待される.

膵癌

著者: 山口幸二 ,   皆川紀剛 ,   井上謙 ,   金光秀一 ,   鳥越貴行 ,   柴尾和徳 ,   日暮愛一郎

ページ範囲:P.180 - P.184

【ポイント】

◆MDCT,EUSなどで膵癌の進展度診断を正確に行いStage分類を行う.悪性の確定診断には膵液細胞診やEUS下細胞診・組織診が重要である.

◆T4膵癌でStage Ⅳa(A-)の場合,外科切除が第一選択で,ゲムシタビン塩酸塩を中心とした術後補助化学療法が適応となる.

◆局所進行非切除の場合,ゲムシタビン塩酸塩(+S1)を中心とした化学療法か,放射線化学療法が適応となる.

◆転移性・再発性Stage Ⅳb膵癌の場合,ゲムシタビン塩酸塩(+S1)を中心とした化学療法が適応となりPS不良の場合BSCが適応となる.種々のステントや緩和治療も適応となる.

甲状腺癌

著者: 高見博

ページ範囲:P.186 - P.190

【ポイント】

◆甲状腺分化癌の多くは予後良好であるが,なかには進行性,浸潤性で予後不良のものがある.しかし,それらの中でも一部のものを除けば,浸潤性は強くても遠隔転移能は強くなく,局所の積極的治療で延命とQOLが期待できる.さらに,外部照射により頸部遺残・再発腫瘍のコントロールが,131Ⅰ内用療法により小さな遠隔転移の縮小,消失が期待できる.

乳癌

著者: 紅林淳一

ページ範囲:P.191 - P.195

【ポイント】

◆T4乳癌は,胸壁に浸潤するT4a,皮膚に浸潤するT4b,胸壁と皮膚に浸潤するT4c,炎症性乳癌のT4dに分類される.

◆乳癌に対する無知や過度の恐怖から医療機関の受診を避け,乳房腫瘤を放置し,T4乳癌として初診する症例は少なくない.

◆T4乳癌の集学的治療として,生物学的特性に合わせた薬物療法と原発腫瘍に対する適切な局所療法が必須である.

肺癌―隣接臓器浸潤T4非小細胞肺癌に対する外科治療

著者: 茂木晃 ,   八巻英 ,   高坂貴行 ,   桑野博行

ページ範囲:P.196 - P.201

【ポイント】

◆肺癌におけるT4浸潤臓器には,心臓,大血管,気管分岐部,胸椎および食道が含まれ,大血管に含まれるものとして大動脈,上下大静脈,主肺動脈,心膜内部における左右の肺動静脈がある.

◆過大侵襲を伴うT4肺癌に対する手術は,それらの浸潤臓器の特性を十分把握しておくことが重要である.

◆高度な手術手技やチームワークに加え,術前診断の精度の高さが手術成績に大きな影響を与える.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・8

腹腔鏡下スリーブ・バイパス術

著者: 笠間和典

ページ範囲:P.202 - P.206

元気ですか~っ!!

元気があれば忙しい学会シーズンも乗り切ることができる!(はずだーっ!!)

10月下旬から11月第1週までにJDDWから内視鏡外科学会,そのままアジア肥満外科学会(hands-onインストラクターと講演2つ),ベネズエラ肥満代謝外科学会(ライブ・サージェリー,講演5つ,司会2つ!)という気が遠くなるスケージュールの合間に,手術,研究会での講演,患者さん向けのセミナー2件を入れてしまっているという状態を何とか乗り切りたいため,みずからを鼓舞してみました.

Expertに学ぶ画像診断・2

超音波検査

著者: 丸上永晃 ,   平井都始子 ,   山下奈美子 ,   吉田美鈴 ,   森本由紀子 ,   大石元

ページ範囲:P.207 - P.216

はじめに

 超音波検査とは,超音波が対象物に当たり,その反響を映像化した検査法であり,日常で汎用されているBモードはその振幅の強弱を白黒表示したものである.体内の解剖学的な情報を簡便に,かつ詳細に把握できる.一方,超音波検査におけるカラー表示とは,このBモードで得られた解剖学的な白黒情報の上に,カラードプラ法やパワードプラ法に代表される体内の血液などの流れの情報や超音波造影剤の多寡,弾性能などをカラー表示で付加し,1つの画面で質的情報をも表示できる手法である.

 本稿では様々なカラー表示法の特徴を解説し,臨床的な有用性について述べる.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・【新連載】

「伝える」ということ

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.218 - P.219

 ある日,少年鑑別所に送致された矢吹丈のもとへ,一通のはがきが届く.

外科専門医予備試験 想定問題集・2

肝胆膵

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   伊藤校輝 ,   松本純明

ページ範囲:P.220 - P.223

出題のねらい

 今回は消化器のなかで,肝胆膵を扱います.専門性の高い分野で,難しく感じる方もいらっしゃるかもしれませんが,出題内容は日常診療に直結した良問が多く,それほど構える必要はなさそうです.ベッドサイドの経験が重要になりますので,これまで経験した症例に偏りがないかチェックしてみましょう.

病院めぐり

関田会ときわ病院外科

著者: 出口浩之

ページ範囲:P.224 - P.224

 兵庫県三木市は神戸市の西部に北接する人口約8万2千人の街である.旧播磨国の北部にあたり,県下では北播地区と呼ばれる地域でもある.古くから金物の町として知られているが,近年は神戸市のベッドタウンとして開発が進んでいる.天正8年1月,羽柴秀吉の三木城攻めにおいて約2年の間ともに籠城した家臣,領民の命を保障して一族自刃し降伏・開城した別所小三郎長治の居城は三木城址として市の中心部に残っており,「今はただうらみもあらじ諸人のいのちにかはる我身と思えば」の長治の辞世の句が歌碑として残され,四百余年たった今でもその人徳が語り継がれている.

 当院は平成元年に理事長・院長である関田幹雄が19床の有床診療所である関田胃腸科外科を開設したことに始まる.平成10年に神戸常磐大学と提携して看護教育に協力するとともに現名称となり,同時に188床の病院(急性期42床,回復期51床,療養95床)として新たに発足した.また,平成22年4月には歯科・口腔外科を開設した.

神戸掖済会病院外科

著者: 大鶴実

ページ範囲:P.225 - P.225

 当院は大正3年創立という長い歴史を持っており,昭和6年に神戸港に近い中央区に総合病院として移転し,長年,船員のための医療機関として治療や健康管理を行ってきました.平成7年の阪神・淡路大震災では石造の病院は倒壊を免れ,多くの被災者の救護にあたりました.平成13年に現在地に基幹病院として新築・移転し,現在は6病棟,317病床,17診療科,常勤医数43名の総合病院となっています.病院の窓から明石海峡大橋や淡路島,瀬戸内海の島々を望める風光明媚な立地にあります.

 当院の手術件数は年間約2千例あり,全麻例は994例(2009年)です.常勤の麻酔医が3名いるおかげで緊急手術の対応もスムーズにいき,各部署の連携も大変良好です.外科の手術件数は559例(全麻例は342例)です.常勤医7名,後期研修医1名,前期研修医1名の体制で,上部消化管,下部消化管,肝胆膵,血管外科,乳腺甲状腺外科を分担し,それぞれ専門性を持ち,積極的に手術に取り組んでいます.最近では特に腹腔鏡下手術(大腸,胆囊など)に力を注いでおり,大腸癌手術の約50%になります.血管外科も大変症例が多く,腹部大動脈瘤,ASO,下肢静脈瘤,血栓除去術などの手術を緊急時でも行える体制を整えています.

交見室

検診マンモグラフィ

著者: 出口浩之

ページ範囲:P.226 - P.226

 私が神戸市内の大手検診機関の非常勤嘱託医としてマンモグラフィ読影に携わり6年が過ぎた.毎週1回,百例あまりの症例に目を通すので,年間数千例を見ていることになる.おかげで今や腫瘤や石灰化病変には何ら躊躇なく読影は進むが,時として読影のペースが一瞬止まることがある.FADである.

 FADとはマンモグラフィにおける乳腺実質の所見のなかの用語で,局所性非対称性陰影(focal asymmetric density)を指す.似て非なるものと言ってよいのか,非対称性乳房組織(asymmetric breast tissue)なるものもある.結論から言えば,後者は原則としてカテゴリー1(正常範囲の乳腺のバリエーション)であるが,前者(FAD)はカテゴリー3の場合も1の場合もあり,この見極めが難しいときがある.検診マンモグラフィで要精査(カテゴリー3以上)と判定される頻度は,一説によれば約6%と言われている.ある時期,ある地域で要精査事例の頻度が11%前後の時期があり,当該地区の二次検診施設がパンク寸前になったということを読影認定医更新試験の会場で耳にした.この差というものはひとえにFADをどう読むかにかかっている.言い換えれば,FADを自信を持ってカテゴリー1とどれだけ判定できるかにかかっているのだ(私の言葉ではない.マンモグラフィ業界の著名な放射線科の先生が述べていた).

臨床報告

数日間の経過をみて診断し得た特発性大網捻転症の1例

著者: 羽田野直人 ,   今村祐司 ,   中光篤志 ,   香山茂平 ,   上神慎之介 ,   角重信

ページ範囲:P.228 - P.231

要旨

症例は19歳,女性.右下腹部痛にて発症し近医を受診した後,急性虫垂炎の疑いにて当科へ紹介となった.初診時の腹部CT検査では軽度の上行結腸の壁肥厚と,その周辺の脂肪織の濃度上昇を認めたが,虫垂の腫大や憩室の存在は認めず,抗菌薬投与による保存的治療を開始した.しかし,入院後2日経過しても腹部症状が改善せず,血液検査では炎症反応が増悪,再検した腹部CT検査の結果,前回認めた脂肪織は大網に連絡するスポンジケーキ様の腫瘤状影として描出された.よって,大網捻転症を疑い緊急手術となり,腹腔鏡検査にて本症と確認し,血行障害を呈する大網を切除した.原因不明の下腹部痛に対しては,本疾患も念頭に置き適切な治療を選択する必要があると思われた.

術前診断に難渋した早期食道悪性黒色腫の1切除例

著者: 戸谷裕之 ,   川島吉之 ,   有馬美和子 ,   大庭華子 ,   黒住昌史 ,   田中洋一

ページ範囲:P.232 - P.236

要旨

症例は65歳,男性.上部消化管内視鏡にて門歯より31cmの食道に15mm長の黒色斑を発見され,悪性黒色腫疑いにて紹介された.生検標本では,良悪性の判定は困難であった.診断的内視鏡治療を含め治療方針を検討し,食道悪性黒色腫疑いとして胸腔鏡下食道亜全摘,リンパ節郭清を施行した.病理組織診断は悪性黒色腫であった.背景の食道には粘膜基底側に沿って配列するメラノサイトの増生を広範に認め,背景病変または前駆病変の可能性が示唆された.食道悪性黒色腫の初期病変が疑われるが確定診断に至らない場合,現在の治療の選択肢としては根治手術であるが,診断的内視鏡切除を加えることで,より適切な治療を行える可能性が高くなると考えられる.

胃軸捻転症を併発し吐血により発症したMorgagni孔ヘルニアの1例

著者: 大谷弘樹 ,   小林成行 ,   久保雅俊 ,   宇高徹総 ,   水田稔 ,   白川和豊

ページ範囲:P.237 - P.241

要旨

Morgagni孔ヘルニアは,横隔膜ヘルニアのなかでは比較的稀な疾患の一つである.今回,胃軸捻転を併発し吐血にて発症したMorgagni孔ヘルニアの1例を経験したので報告する.症例は86歳女性.数日前より吐血を繰り返し,近医を受診した.上部消化管内視鏡検査にて胃炎による消化管出血を認め,胃体部から前庭部にかけて狭窄を認めた.腹部CT検査では,右胸骨後方のヘルニア門より胃と大腸が胸腔内に陥入していた.以上より,Morgagni孔ヘルニアと診断し手術を施行した.右胸骨後面に4×3cm大のヘルニア門がみられ,横行結腸のみの脱出を認めた.腹腔内に還納後,ヘルニア囊を反転し切除後にヘルニア門を単純縫合閉鎖した.

保存的に経過観察しえた中結腸動脈瘤破裂と考えられた腹腔内出血の1例

著者: 合志健一 ,   江口大彦 ,   原田昇 ,   川崎勝己 ,   是永大輔 ,   竹中賢治

ページ範囲:P.243 - P.245

要旨

46歳,男性.急性腹症で救急搬送された.CTで網囊~結腸間膜に広範な血腫を認めた.横行結腸壁肥厚を認め,中結腸動脈瘤破裂による腹腔内出血・虚血性腸炎が疑われ,緊急血管造影を施行した.中結腸動脈は血腫による圧排で蛇行しており,数珠状拡張・解離による壁不整が認められ,segmental arterial mediolysis(SAM)の関与が疑われた.活動性出血がなく,バイタルサインが安定していたため,保存的治療の方針とした.7病日のCTで血腫の増大はなく,結腸壁肥厚も改善していた.13病日の下部消化管内視鏡で虚血所見はなく,経過良好で22病日退院した.発症3か月後のCTで仮性瘤形成は認めていない.SAMによると思われる特発性腹腔内出血に対し,保存的治療で経過観察しえた1例を経験した.

術前に卵巣腫瘍と診断した腸間膜リンパ管腫の1例

著者: 田中優作 ,   長嶺弘太郎 ,   門倉俊明 ,   亀田久仁郎 ,   久保章 ,   竹川義則

ページ範囲:P.247 - P.250

要旨

症例は49歳,女性.左下腹部に手拳大の可動性腫瘤を自覚し,当院婦人科を受診した.経腟超音波検査・腹部骨盤MRI検査で骨盤底に約13cm大の囊胞性腫瘤を認め,卵巣腫瘍の診断で手術を施行した.開腹すると卵巣に異常はなく,空腸間膜に15×10cm大の軟らかい多房性囊胞状腫瘍を認めた.腫瘍とともに約20cmの空腸を合併切除した.病理組織学検査では,囊胞内腔の被覆細胞はリンパ管内皮細胞に特異的な免疫染色D2-40陽性であり,腸間膜リンパ管腫と診断した.術後経過は良好で,第12病日に軽快退院した.本疾患は比較的稀で,自験例のように術前に卵巣腫瘍などと診断される例もある.本邦報告例を含めた文献的考察を加え報告する.

胸部CT上すりガラス様陰影(GGO)を呈した乳癌肺転移の1例

著者: 加藤健 ,   本郷麻依子 ,   若林俊樹 ,   粕谷孝光 ,   吉岡浩 ,   丹羽誠 ,   泉純一 ,   平野弘子 ,   高橋正人

ページ範囲:P.251 - P.256

要旨

症例は55歳,女性.左乳癌に対しCAF療法を4コース施行後,2007年8月に胸筋温存乳房切除術,腋窩リンパ節郭清を施行した.病理所見で浸潤性乳管癌(硬癌),n(10/13),ER(+),PgR(-),HER2(3+)で病期はT3 N1M0 stage ⅢAであった.術後にCAF療法を2コース後,胸骨傍リンパ節領域,鎖骨上窩リンパ節領域,胸壁に計50Gy照射し,アナストロゾールを内服していた.2009年2月の胸部CTで両肺に多発するすりガラス様陰影(ground glass opacity:GGO)と肺門,縦隔リンパ節腫大を認めたため,経気管支的肺生検を施行した.病理所見で腺癌の増殖を認め,TTF-1(-),ER(+),PgR(-)であり乳癌肺転移と診断した.トラスツズマブ,ドセタキセル併用療法によりGGOは消失した.今回われわれは,胸部CT上GGOを呈した乳癌肺転移を経験したので,文献的考察を加え報告する.

腹腔鏡下胃局所切除術を施行した胃神経鞘腫の1例

著者: 趙秀之 ,   庄田勝俊 ,   北川昌洋 ,   吉川徹二 ,   石井洋 ,   川上定男

ページ範囲:P.257 - P.260

要旨

症例は48歳,男性.近医で胃中部の隆起性病変を指摘され,当院内科に紹介された.精査の結果,胃中部前壁の20mmの胃粘膜下腫瘍と診断された.近医での1年前の内視鏡検査では病変を認めておらず,急速な増大の可能性を考慮し,手術を行う方針とした.手術は,自動縫合器を使用し腹腔鏡下胃局所切除術を施行した.病理検査の結果,胃神経鞘腫と診断された.本疾患は,全胃腫瘍の0.1%程度と稀な疾患である.これまで治療として,開腹下に胃局所切除が選択されることが多かったが,近年低侵襲手術として腹腔鏡下手術の報告例が増えてきている.本疾患および治療法について,若干の文献的考察を加え報告する.

1200字通信・23

続・カナダ紀行―卒業式と医療制度

著者: 板野聡

ページ範囲:P.156 - P.156

 昨年の65巻13号に,カナダ旅行で経験したことから日本の「今」を垣間見た気がしたと書きましたが,今回はもっと気楽に旅行の思い出話をご紹介したいと思います.

 今回のカナダ旅行は,末の娘が留学していた高校の卒業式に参列するためでした.もっとも,日本のそれとは大きく異なり,生徒のためではなく家族のためのセレモニーとして行われているようで,普段はコンサートホールとして使用されているバンクーバー市内の大きな劇場での式典でした.卒業生たちは黒いガウンに赤い“vee”という布を首にかけ,赤い房が付いた四角い帽子で正装しています.この房は,学生のときは左側に垂らし,卒業すると右側に垂らすそうで,壇上で校長先生と握手を交わして卒業証書を貰うと,各自が房を右側に移動させていくという姿には,親として感慨深いものがありました.また,校長先生を始めとする先生方も立派な黒のガウンを着ておられ,それぞれの立場を表すのか,色や大きさの違った布を肩にかけておられました.この光景は,さながら「ハリーポッター」の世界とでもいったもので,バグパイプの生演奏で始まり,約3時間にわたる式典のあと,やはりバグパイプの演奏で終了するまで,長い式典に不慣れな私たち日本人家族にとっても素晴らしく感動的なセレモニーでした.

昨日の患者

祖父からの祝辞

著者: 中川国利

ページ範囲:P.179 - P.179

 人は人生において多くの人と交わり,そして周囲の人たちに数多くの思い出を残して黄泉の世界に旅立っていく.残された人々はいつまでも故人を偲びたいと願っていても,日々の生活に忙殺され,故人との思い出は次第に薄れがちになる.しかしながら,残された故人の手紙や写真に接するとフラッシュバックのように思い出される.

 Sさんは90歳で大腸癌の手術を受け,肝転移で92歳で亡くなった.亡くなる直前まで意識は明白であり,病床に伏せながらも大好きな詩歌などを広告用紙の裏に書き記していた.Sさんが亡くなって半年後に娘さんから手紙をいただいた.手紙には主治医であった私への思いが綴ってあり,また,Sさんがパチンコ店の広告紙の裏に書いていたという,医師となった孫の結婚式で述べるはずであった祝辞がコピーされて同封されていた.

書評

北島政樹(監修)/加藤治文,畠山勝義,北野正剛(編)「標準外科学(第12版)」

著者: 稲田英一

ページ範囲:P.185 - P.185

 最近は外科志望の医師が減少しているといわれている.外科医を増やすためには,まず実技教育を含めた生き生きとした充実した学生教育を行う必要がある.一口に外科といっても,消化器外科,呼吸器外科,心臓外科,乳腺外科,小児外科などその領域は広い.外科領域の臨床だけでなく,外科学に関係する遺伝子学や免疫学などを含めた基礎教育など幅広い教育も必要となってくる.さらに,臓器移植,遺伝子治療,新薬による治療などに関する倫理的な教育も必要となってくる.このような幅広い要請に十分に応える外科の優れた学生向け教科書が必要なことは言うまでもない.『標準外科学』は今回で第12版となり,1976年の初版発行から30余年が過ぎた「標準」と付いていることに恥じないロングセラーである.現在,外科学の一線で活躍されている先生方の多くも使用された教科書であると思う.本書はその表紙から紙面まで大きく変わっている.真っ白な表紙は,刷新された本書の意気込みや潔さが象徴されている気がする.

 評者は麻酔科医であり,外科医ではない.良書であることを知っているので気軽に書評を引き受けたものの,麻酔科医である私が適任かどうかについて悩むこととなった.そこで,学生になった気持ちで本書を読むこととした.教科書はまず読み応えがなくてはならない.単に調べるため,あるいは記憶するためだけの本は,教科書とは呼べないであろう.ざっと章だてを眺めてみると,総論には,歴史,外科侵襲の病態生理,ショック,外科診断法,無菌法,基本外科手術手技や処置,出血,止血,輸血,救急外科,急性腹症,損傷,外科損傷,腫瘍といった章が並んでいる.さらに,近年学問的進歩が著しく,臨床的にも応用が進んでいる免疫,分子生物学,臓器移植,人工臓器,再生医学,リスクマネジメントといった章が続く.次に各論では,顔面,口腔,頸部,乳腺,心臓,血管,消化管,肝臓といった部位別,臓器別の章が続いている.老人外科,小児外科は別立ての章となっている.

聖路加国際病院ブレストセンター(編)「乳癌診療ポケットガイド」

著者: 田村和夫

ページ範囲:P.246 - P.246

 本書は乳癌患者を実際に診療するにあたってガイドとなる,B6判224頁の白衣のポケットに容易に入るサイズの冊子である.表紙はピンク色でピンクリボンを思わせ,乳腺を扱う本であることを想定させる装丁である.

 執筆は中村清吾センター長(現・昭和大学病院乳腺外科教授)を中心とした聖路加国際病院の乳腺科のチームが担当されているが,チームで乳癌患者を診療する視点から記載され,極めて実践的ですべての職種が利用できる内容となっている.

関東腹腔鏡下胃切除研究会(編著)「腹腔鏡下胃切除術 一目でわかる術野展開とテクニック(第2版)」

著者: 笹子三津留

ページ範囲:P.261 - P.261

 腹腔鏡下の胃癌手術は早期胃癌に対するRCTが実施されている一方で,エビデンスもないまま,まさに“流行り”となっている.その反面,見よう見まねでやった手術で死の危機に瀕する合併症を生じたケースや早期に再発する症例など,担当医への不信から胃癌を専門として長年やってきた私のところにセカンドオピニオンを求めてやって来る患者・家族に時々遭遇するようになった.誰にとっても「初めての術式」の経験はあるわけで,どうすれば患者さんに迷惑をかけることなく新しい技量を身につけていけるかを考えることは今後ますます重要な課題といえる.

 本書は,どうすれば開腹胃癌手術に一定水準以上の技量と経験を持つ人が鏡視下の胃切除を安全かつ有効に実施できるようになるか,を念頭に書かれた書物と筆者は考えたい.胃癌手術の初心者は本書よりも,むしろ同じ医学書院の『イラストレイテッド外科手術』(第3版)を読むべきである.本書は開腹に限っていた胃癌手術を鏡視下手術に広げたい人向けである.いや,それ以上に自分のやり方では何とかそれなりの鏡視下手術を実施できる実力をつけられた先生にぜひ読んでいただきたい.

勤務医コラム・21

あこがれの週休2日

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.201 - P.201

 9月のある祝日に24時間日当直をした.その明けの日に,外来をこなしたあと,6時間かけて胆道癌の手術をしたが,気が張っていたせいか,あまり疲れを感じなかった.ヨッシャまだまだいける,と自信を持ったが,その夜はコンコンと眠り続け10時間眠った.まるで子供,と女房に笑われた.この仕事に就いた時から,拘束時間の長さには慣れっこになっている.大学病院や国立病院に勤めていた頃はひどいものだった.今はかなりマシなほうだ.ちょっと計算してみよう.9月は,土日祝10とふつうの日20の合計30日=720時間であった.土日祝10のうち,日当直1=24時間,日直4でAM7~PM6なので11×4=44時間,午前中勤務5でAM7~正午なので5×5=25時間.ふつうの日20のうち,全くふつうが18で11×18=198時間,全くふつう+当直が2で24×2=48時間.合計339時間で339/720=47.1%を職場で過ごしたことになる.お役所なら8×20÷720=22.2%!たまに行く碁会所で,「そろそろゆっくりしたいなあ」と甘ったれたことを言ったら,人生の大先輩から,「20年早いわ!」と一喝されてしまった.こんな状態があと20年も続くのかと思うとゾッとしました.いろいろ言っても元気で仕事ができている今が花かもしれません.

ひとやすみ・69

ご当地時間

著者: 中川国利

ページ範囲:P.242 - P.242

 昨今は各地の特産物がもてはやされ,商品名の冠に生産地の地名を付けることが流行している.しかし,各地の地名を付けられ,忌み嫌われる言葉もある.わたしが住む仙台にも「仙台時間」なるものがあり,種々の行事はいつも定刻が過ぎてから開始される.

 病棟の歓送迎会を19時から開催するとする.定刻を過ぎても集まりが悪く,15分ほど経過してやっと大多数が集まって開始となることが多い.その間,定刻に来た人は喉を涸らし腹をすかして待つことになる.確かに「交通事情が悪かったから」「定期手術が長引いたから」「急患患者さんが来院したから」,さらには「臨時手術があったから」など,遅参する理由は色々と挙げられる.しかしながら,いつも定刻に集まる人は必ず定刻までに集まり,一方,遅れる人はいつも遅れる.しかも遅れて来る時間は,いつも正確である.10分遅れる人は10分遅れで,30分遅れる人は30分遅れで到着する.ただ遅れて来た理由が時によって異なるだけである.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.216 - P.216

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.236 - P.236

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.262 - P.262

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.263 - P.263

投稿規定

ページ範囲:P.264 - P.265

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.266 - P.266

次号予告

ページ範囲:P.267 - P.267

あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.268 - P.268

 「外科手術の醍醐味とは?」,最近私にとってしばしば脳裏に浮かぶテーマである.このことは,取りも直さず,若き医学生や研修医に外科の興味と奥の深さ,そして意義を伝える局面においてその源泉となるべきものであり,さらに外科学および自分自身の外科医としての「これまでとこれから」を位置付ける観点として重要と考えるからである.

 そのような視点からみると,今回特集テーマとして取り上げた「T4の癌」もしくは「隣接臓器浸潤癌」は,いずれの臓器においても高度な手術手技が求められるのみならず,術前診断の精度,手術に限らず他の治療法も含めた広範な知識にもとづいた治療戦略の構築,そして的確な術中判断が問われる病態であり,まさに外科学の王道の一つであることに変わりはない.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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