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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科66巻3号

2011年03月発行

雑誌目次

特集 知っておくべき 外科手術の神経系合併症 その診断と対策

ページ範囲:P.273 - P.273

 様々な領域部位の手術を手がける一般臨床外科医にとって,その手術領域の臨床解剖の知識は手術を正確かつ安全に施行するために必須のものである.手術時の損傷および術後合併症には様々なものが当然惹起しうるが,なかでも神経系の合併症についてはその対応に術後苦慮する場合が少なくない.

 本特集では,手術する際に起こりうる様々な神経系合併症について,その領域の専門の先生方に,豊富な手術経験からみた合併症発症時の診断のポイント,神経解剖をもとにした手術操作に際しての注意点と対策を執筆いただいた.さらに,神経系合併症が術後に発症してしまった場合の,その後の経過予測および治療方針についても触れていただいた.

頸部手術時の反回神経損傷

著者: 花澤豊行 ,   米倉修二 ,   櫻井大樹 ,   鈴木誉 ,   茶薗英明 ,   岡本美孝

ページ範囲:P.274 - P.277

【ポイント】

◆反回神経は左側に比べて右側は確認しにくいことが多いため,解剖を熟知し,特殊機器を用いるなど同定を工夫する.

◆片側の反回神経麻痺によって嗄声と誤嚥が生じるため,特に術後の呼吸および食事管理には注意する.

◆反回神経損傷に対しては即時神経再建術と音声改善術が存在し,術後のQOLの改善と生命予後の向上に役立つ.

頸部手術時の上喉頭神経損傷

著者: 高見博

ページ範囲:P.278 - P.282

【ポイント】

◆頸部,特に甲状腺・副甲状腺の手術において,上喉頭神経,特にその外枝の意義はあまり注目されず,解剖も詳しく述べられていなかった.手術時にも大きな注意は払われていなかった.

◆上喉頭神経,特にその外枝は反回神経についで発声に大きな影響を及ぼすため,その存在を認識し,手術損傷を可能な限り避ける必要がある.

◆上喉頭神経外枝は通常,術野で確認できない場合が多いので,損傷を避ける術式を行うことが重要である.もしも損傷が確認されても,通常は神経吻合などの処置はできない.

頸部大血管手術後のホルナー症候群

著者: 岡本宏之

ページ範囲:P.284 - P.287

【ポイント】

◆頸部血管手術後のホルナー症候群は,星状神経節から上頸部交感神経節までの交感神経の損傷によって起こる.

◆血管外膜に沿って剝離を進める限り交感神経の損傷はまずないが,術後に眼瞼下垂がみられたら第一に疑うべきである.

◆鎖骨下動脈の中枢側,特に椎骨動脈の起始部の操作では,内側に星状神経節が存在するので注意が必要である.

耳下腺領域の手術時の顔面神経損傷

著者: 篠﨑剛 ,   林隆一

ページ範囲:P.288 - P.291

【ポイント】

◆神経損傷を避けるには,「無用な侵襲を加えないこと」に尽きる.特に切開生検の適応は慎重に行うべきである.

◆顔面神経周囲の操作は愛護的に行う.一度神経を切断してしまうと吻合を行っても麻痺の完全な回復は困難である.

乳癌腋窩郭清時の神経損傷

著者: 園尾博司

ページ範囲:P.292 - P.299

【ポイント】

◆下胸筋神経は大胸筋外側縁露出時に損傷しやすい.大胸筋縁・上1/3部位でこの神経と伴走する小静脈を見つけ,ともに温存する.

◆長胸神経は頭側では腋窩深部郭清時に,尾側では神経の前鋸筋進入部剝離時に損傷しやすい.長胸神経を早い時期に露出し,頭側では背側に落しておく.尾側では前鋸筋膜の外側の層で剝離する.

◆長胸神経および胸背血管・神経の郭清時には筋攣縮のために神経損傷をきたすことがあるので,電気メスは用いない.

開胸手術時の肋間神経痛対策

著者: 井上達哉 ,   池田徳彦

ページ範囲:P.300 - P.304

【ポイント】

◆開胸術後の肋間神経痛は多くの患者を悩ます合併症である.

◆外科医が肋間神経の解剖とともに,疼痛のメカニズムと効果的な除痛治療に精通することで,患者のQOLの低下を防ぐことができる.

◆本稿では,外科的な側面と麻酔科的な側面から,開胸術後の肋間神経痛の予防策について当科での手術の工夫と文献的な報告とを交えて紹介する.

食道癌外科手術時の反回神経損傷

著者: 宮崎達也 ,   宗田真 ,   田中成岳 ,   横堀武彦 ,   鈴木茂正 ,   中島政信 ,   加藤広行 ,   桑野博行

ページ範囲:P.306 - P.310

【ポイント】

◆反回神経麻痺は,離断しない限りにおいてはほとんどは一過性のもので,3~6か月程度で回復する場合が多い.

◆両側反回神経麻痺は声帯が正中位固定すると窒息状態になることもあり,ただちに再挿管が必要となる.

◆反回神経損傷は術中の反回神経の確認と愛護的な操作によって予防することが最も肝要である.

胃リンパ節郭清後の蠕動障害

著者: 清水伸幸 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.312 - P.316

【ポイント】

◆胃癌の早期発見が進むにつれて,機能温存を目指す縮小手術が施されるようになってきている.

◆組織学的検討によって,予防的郭清の範疇であれば,神経温存はリンパ節郭清と両立することが可能と考えられている.

◆消化管運動の評価方法は種々あるが,最近ではMRIを用いた残胃蠕動の定量法も報告されている.

膵癌手術における上腸間膜動脈周囲神経叢郭清と下痢

著者: 神崎章之 ,   中尾昭公

ページ範囲:P.318 - P.322

【ポイント】

◆膵癌手術における上腸間膜動脈周囲神経叢郭清は術後の下痢の合併が多く,ときに難治性であり,QOLの低下を招く.

◆術前・術中検査で神経叢浸潤を含め,膵癌の進展を正確に評価し適切な術式を決定することが重要である.

◆術後の下痢に対しては薬物治療を中心とした適切な治療がQOLの向上および栄養状態の改善に重要である.

直腸手術後の肛門機能不全

著者: 野上仁 ,   島田能史 ,   亀山仁史 ,   飯合恒夫 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.324 - P.329

【ポイント】

◆直腸手術の際は,疾患の良・悪性にかかわらず術後の排便障害は不可避の問題であり,その病態の理解と対策を熟知しておく必要がある.

◆肛門機能障害の軽減のためには新直腸再建法が重要であり,J型結腸囊再建やtransverse coloplasty pouchなどが用いられている.

◆術後に排便機能障害が認められた場合は薬物療法が第一選択であり,約7割の患者に有効である.

骨盤手術後の性機能不全

著者: 野澤慶次郎 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.330 - P.333

【ポイント】

◆骨盤手術後の性機能障害を知るためには,骨盤内の神経の走行と他臓器との位置関係を十分に理解する必要がある.

◆男性機能には勃起機能と射精機能とがあり,下腹神経と骨盤神経を温存できれば,勃起能のほとんどと射精能の大部分が回復する.

◆術後の射精障害は,精液が膀胱内に逆流してしまう逆行性射精が比較的高頻度で,精液量の減少を認める.

神経損傷時における再建医療―術後のトラブルケースの治療法と絞扼性神経障害

著者: 光嶋勲 ,   山本匠 ,   成島三長 ,   三原誠 ,   菊池和希 ,   飯田拓也 ,   内田源太郎 ,   吉村浩太郎

ページ範囲:P.334 - P.343

【ポイント】

◆神経欠損:できるだけ血行を持つ神経弁移植術が望ましい.

◆神経腫の治療:軸索内輸送を再建するため,知覚神経切断部の遠位側に神経終末を再建するのが望ましい.

◆絞扼性神経障害の治療:神経剝離のみでは症状は軽減しない.剝離と同時に,再絞扼予防と神経幹の癒着予防のための脂肪弁移植が必要である.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・9

減量手術と糖尿病

著者: 関洋介 ,   笠間和典

ページ範囲:P.344 - P.349

 How are you?

 インターネットの翻訳サイトで「ゲンキデスカ」と入力すると,案の定,こう出てきました.やはり,イングリッシュだと気分が出ませんね.それでは改めまして……

 元気ですかーっ!

 今回は米国ミネアポリスより,私,関が「減量手術と糖尿病」について書かせていただきます.実は現在,米国ミネソタ大学減量外科で臨床フェローをしております.ミネソタ大学はこの分野をつねにリードしてきた名門施設で,プロレスでたとえるならば,マジソンスクエアガーデン(Madison Square Garden:MSG)でしょうか.こちらで私は大変エキサイティングな日々を送っているのですが,機会がありましたら紹介させていただきますね.

外科専門医予備試験 想定問題集・3

心臓・血管

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   伊藤校輝 ,   松本純明

ページ範囲:P.350 - P.356

出題のねらい

 第3回は心臓・末梢血管分野を扱います.受験者の多くは心臓手術の経験が少ないことが予想されるためか,基本的な問題が中心となっています.心臓の解剖に関する基礎知識を確認し,冠動脈バイパス術,弁膜症,大動脈瘤,先天性心疾患の手術に関して一通り復習するとよいでしょう.また,凝固系に関する問題も必ず出題されていますので,これを機に一度教科書をチェックしておきましょう.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その①

“遠近感”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.358 - P.360

遠近感をつかむ為,鉗子の繊細なタッチによる持ち替えを頻回に行う事.この際,鉗子を開いた構えでやや視野を斜めから狙い,探る様に持つべし.正確な把持に続く操作は,その位置関係をも明確にするものなり.

病院めぐり

社会医療法人恵生会黒須病院外科

著者: 金澤曉太郎

ページ範囲:P.362 - P.362

 当院は栃木県の県庁所在地である宇都宮からJR東北線で北に3つ目の氏家駅の近くにあり,周囲に田園の広がる私立の病院です.急性病棟約150床,慢性病棟約50床の中小病院ですが,老健施設とグループホームも併設しています.当院は氏家と喜連川の2自治体の合併によりできた「さくら市」の中央にあり,隣接する高根沢町,塩谷町を併せた地域の中核病院として地域医療の発展に努力してきました.平成5年3月には特定医療法人,さらに平成21年4月には社会医療法人の承認を受けました.

 地方の私立病院の常として医師の確保に悩んでいますが,自治医科大学と獨協医科大学から人材の派遣を受け,5名の常勤外科医の密接な連携によって救急医療も含めて地域医療の内容向上のために連日努力しています.整形外科の常勤医の少ないのが悩みの種ですが,その分,各外科医の専門分野の活動を通じて地域の信頼を得てきました.

安来市立病院外科

著者: 菅村健二

ページ範囲:P.363 - P.363

 当院は山陰地方,島根県の東部に位置する人口約4万5千人の安来市にあり,JR安来駅から車で約15分の安来市広瀬町に位置しています.安来市には安来節や,日本庭園で有名な足立美術館があります.また,NHK朝の連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」の舞台にもなりました.

 当院は昭和30年5月に広瀬町・布部村組合立病院として開院し,当時の病床数は伝染病棟を加え58床でした.昭和35年に広瀬町立広瀬病院となり,その後の増築・増床を経て,救急告示病院,地域医療拠点病院として地域医療の向上に寄与してきました.平成16年10月の平成の大合併に際し,安来市,広瀬町,伯太町の3市町が合併して安来市となったのを機に現名称となり,現在に至ります.現在,常勤医師は16名で,診療科14科,病床数199床(一般151床,療養48床)で診療を行っています.昨年度の1日平均外来患者数は269人,病床利用率81.6%,平均在院日数22.6日でした.平成21年4月に電子カルテを導入し,平成22年7月からはDPCも導入して診療を行っています.

臨床研究

高齢者大腸癌患者における手術症例の臨床的検討

著者: 平田貴文 ,   久米修一 ,   久保田竜生

ページ範囲:P.365 - P.369

要旨:高齢者大腸癌手術の特徴について非高齢者群と比較したので報告する.対象は2002年1月から2009年3月まで当院で行った大腸癌手術患者で,75歳以上を高齢者群(32例),75歳未満を非高齢者群(35例)とした.高齢者群では術前合併症が多かった.手術所見は両群とも出血量,手術時間,根治度に差はなかった.POSSUM scoring systemでの術後合併症と死亡例の発生予測は,いずれも高齢者群で有意に高かった.しかし,実際の術後合併症,死亡例の発生率に差はなかった.生存期間は両群間に差を認めなかったが,高齢者群では他病死が多かった.高齢者大腸癌患者でも非高齢者と同等の術後成績が期待できると考えられる.

臨床報告

膵胆管合流異常に合併した同時性胆管癌および胆囊癌の1例

著者: 水内祐介 ,   西原一善 ,   松永浩明 ,   阿部祐治 ,   中野徹 ,   光山昌珠

ページ範囲:P.371 - P.375

要旨:患者は73歳,女性.近医で総胆管拡張症を経過観察されていたが,手術を希望して当院を紹介され受診した.CTでは総胆管~左右肝管の拡張と,胆囊管~総肝管~左右肝管の限局性壁肥厚を認め,胆囊底部に均一な壁肥厚を認めた.ERCPでは15mmの共通管を認め,総胆管~左右肝管の拡張を認めたが,壁硬化像は明らかでなかった.以上から総胆管拡張症および胆管癌と診断して手術を施行した.一般に胆管癌の範囲はERCPにおける胆管壁の硬化像で評価するが,今回の症例では評価は困難であった.今回の症例では,CTで造影効果のある肥厚した胆管壁の範囲と組織学的な癌の進展範囲が一致しており,胆管癌の範囲を最も正確に描出していたのはCTであった.

ヘルニア囊内子宮内膜症を合併した鼠径ヘルニアの1例

著者: 吉楽拓哉 ,   小棚木均 ,   酒井梨香 ,   澤田俊哉 ,   吉川雅輝 ,   大内慎一郎

ページ範囲:P.377 - P.380

要旨:鼠径ヘルニア囊内に子宮内膜症を認めた1例を経験した.患者は29歳,女性で,右鼠径部の痛みと腫脹を主訴に受診した.身体所見,超音波検査などから鼠径ヘルニアとして手術した.鼠径管を開けるとヘルニア囊を認め,その末梢側では陳旧性血液が貯留して周囲と高度に癒着していた.術中に鼠径部痛が月経周期と関連することを聴取して,子宮内膜症を合併する鼠径ヘルニアと診断した.このため,ヘルニア修復とヘルニア囊末梢側を広く切除して子宮内膜組織を完全摘出した.術後の病理結果でも同部に子宮内膜組織を認めた.鼠径ヘルニアに,月経時に増強する痛みや,術中に陳旧性血液の貯留を認める場合には本症を疑って治療する必要がある.

腸重積様の画像所見を呈した横行結腸悪性リンパ腫の1例

著者: 楊知明 ,   岩城隆二 ,   大石賢玄 ,   元廣高之 ,   山道啓吾

ページ範囲:P.381 - P.385

要旨:患者は84歳,男性.便秘・腹痛を主訴に当院を受診した.腹部超音波検査および腹部CTで横行結腸に直径60mmの腫瘤が認められ,口側腸管が腫瘍に陥入していた.入院後に症状が消失しため,待機的加療が可能と考え,精査を進めた.注腸造影ではカニ爪様の腸重積様の画像所見を呈しており,下部消化管内視鏡検査では全周性の1型腫瘍を認めた.横行結腸腫瘍と診断し,右半結腸切除術を施行した.組織学的にはびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫であった.横行結腸悪性リンパ腫は比較的稀な疾患であり,かつ本症例では腸重積様の特徴的画像所見を呈していた.

胸腺腫術後に発症したヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の1例

著者: 西野豪志 ,   谷田信行 ,   大西一久 ,   藤島則明 ,   浜口伸正 ,   開発展之

ページ範囲:P.387 - P.390

要旨:患者は76歳の男性で,胸腺腫手術を目的に入院した.心房細動に対してワルファリン内服中であったため,周術期にヘパリンによる代替療法を行った.手術は問題なく終了し,退院を予定していたが,術後7日目に突然の著明な血小板減少とDダイマー上昇を認めた.全身検索で右膝窩静脈に血栓形成が明らかとなった.ヘパリン投与中であったためヘパリン起因性血小板減少症と診断し,ヘパリン投与を中止してアルガトロバンによる代替療法を開始した.その後,血栓は徐々に消失して血小板数も回復し,軽快し退院した.ヘパリン起因性血小板減少症は著明な血小板減少をきたすヘパリンの副作用であり,少なからず動静脈血栓症を合併する重大な疾患である.

晩期放射線障害に起因すると考えられた骨盤内臓全摘術後の回腸導管会陰皮膚瘻の1例

著者: 丸山智宏 ,   亀山仁史 ,   八木寛 ,   谷達夫 ,   飯合恒夫 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.391 - P.394

要旨:患者は79歳の男性で,膀胱浸潤を伴う直腸癌に対して術前化学放射線療法を行い,1997年1月に骨盤内臓全摘およびD3リンパ節郭清術を施行した.2010年3月に殿部の腫脹・疼痛と会陰部創からの排膿を主訴に受診し,CT検査で骨盤内膿瘍と診断した.経皮的ドレナージ後に,会陰部切開創から尿の排出を多量に認めるようになった.回腸導管からの造影検査で回腸導管会陰皮膚瘻と診断した.会陰部創から瘻孔内に尿道バルーンカテーテルを留置することで尿をほぼ脇漏れなく回収できるようになり,入院28日目に退院となった.晩期放射線障害に起因する回腸導管会陰皮膚瘻の症例は文献上検索しえず,本症例は貴重な症例と考えられる.

胃切除後の難治性腹水に対して腹腔-静脈シャント術が有効であった1例

著者: 桒田亜希 ,   中光篤志 ,   今村祐司 ,   香山茂平 ,   上神慎之介 ,   藤解邦生

ページ範囲:P.395 - P.399

要旨:患者は74歳のC型肝炎の既往がある女性.胃癌で幽門側胃切除術を施行し,術後に著明な腹水貯留を認めた.利尿剤でコントロールが不良であったため,計4回の腹水濾過濃縮再静注法を施行した.しかし腹水の減少を認めなかったため,術後83日目に腹腔-静脈シャント造設術(Denver ascites shunt system)を施行した.術後に腹水は減少傾向であったため,リハビリ目的で術後4か月目に転院となった.転院後6か月目のフォローアップCTでは腹水は消失していた.難治性腹水に対して腹腔-静脈シャントは侵襲の少ない外科的治療の1つであるが,術後の難治性腹水に対して腹腔-静脈シャントを施行した症例の報告は少ない.胃癌術後の難治性腹水に対し腹腔-静脈シャントを施行して良好な結果を得た症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

ひとやすみ・70

研究会を引き継ぐ

著者: 中川国利

ページ範囲:P.323 - P.323

 馬齢を重ね,はからずも24年間も継続している研究会の会長職を委託された.研究会には仙台市内の外科勤務医が年に2回集まり,特定のテーマを設けては忌憚のない意見を交換してきた.市内の各病院には学究的な外科医が多く,研究会では厳しい意見も飛び交った.しかしながら,研究会終了後の懇親会では病院の垣根を越えて大いに盛り上がった.

 しかし,発会当時の熱血漢の外科医はすでに退職し,テーマもマンネリ化し,参加者はジリ貧状態であった.研究会の世話人を引き継ぐにあたって,まずは参加者を集めることが責務であった.特に,役職の熟年外科医ばかりが参加し,若手医師が研究会に冷めていることが問題であった.そこで,ある企画を思い立った.

勤務医コラム・22

リップサービス

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.357 - P.357

 学校を出た息子が安い車を買い,ローンを組んだ.その保証人のハンコをつく,ということで,生まれてはじめて銀行なる場所へ連れていかれた.病院のなかしか知らない私としては,社会見学へやってきた小学生の気分だ.

 Week dayの昼休み時.人の往来が激しい.お金を出したり入れたり,世の中の人々は忙しいもんヤネ,と見とれていたら,「中島さーん」と呼ばれて,ついたてで仕切られたスペースへ通された.若い女性銀行員が出てきて,私の前にピラッと一枚の紙を置いた.

1200字通信・24

原点回帰

著者: 板野聡

ページ範囲:P.361 - P.361

 昨年の7月,私が所属する医局の新教授就任祝賀会がありました.新教授が引き続き同門から選出され,しかも若く優秀な先生とあって,歴代の教授や他大学の教授に就任された先輩方をはじめ各方面からのご来賓も多数お迎えして盛大に催され,あらためて「医局」による人のつながりや外科医育成能力の底力を実感することになりました.

 あるご縁から本誌にエッセイを書かせていただくことになった際,最初のタイトルは「医局は悪か? 新臨床研修制度に思う」(61巻5号)でした.2006年のことですから,すでに5年の歳月が流れようとしています.現在の医療の状況をあらためてみたとき,各大学医学部のなかで自然発生的に生まれた医局制度が果たしてきた役割は大きいものであったことを,時の流れがあらためて証明してくれていると感じていましたが,今回は,そうした「医局」の集まりに出席することで,そのことを再確認した次第です.

学会告知板

SR講習会 第8回リーダーシップコース

ページ範囲:P.364 - P.364

講習会目標:ストーマリハビリテーションの分野でリーダーシップを発揮できるようになるために,ストーマリハビリテーションの理念,ならびにストーマリハビリテーション学の高度な知識・技能・態度を習得する.

主 催:日本大腸肛門病学会,日本看護協会,日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会

後 援:日本泌尿器科学会

期 日:2011年7月27日(水)~30日(土)の4日間

会 場:東京慈恵会医科大学附属第三病院(東京都狛江市和泉本町4-11-1)

昨日の患者

居酒屋の気丈女将

著者: 中川国利

ページ範囲:P.394 - P.394

 人生は様々であり,幸せのかたちも人によって異なる.そして,他人から見れば苦労だらけの人生でも,本人が幸せで充実した人生と納得できれば,その人にとっては最高の人生である.

 50歳代後半のSさんは大腸癌で手術をしたが,多発性肝転移をきたして再入院した.Sさんの娘さんは仕事が終わると付き添い,甲斐甲斐しく世話をした.また,なぜか見舞い客が多く,厳しい状態ながら病室はいつも賑やかであった.

書評

日本肝胆膵外科学会高度技能医制度委員会(編)「肝胆膵高難度外科手術」

著者: 川原田嘉文

ページ範囲:P.400 - P.400

 2008年に「日本肝胆膵外科学会高度技能医」の資格とシステムが承認されました.トレーニングを受けるフェローにとって,最も大切なものはhigh volume centerでのトレーニング,専門医からの指導と本人のやる気です.しかし今,日本の外科トレーニングで最も欠けているのが,標準的な手術手技のマニュアルつまりtext book of technics in surgeryがないことです.

 一般的に大学病院の外科やhigh volume centerの外科では,その施設独自の術式がマスターされ,それが伝承されていきます.フェローにとって大切なことは,まず解剖を頭の中に入れ,次いで一般的な高度な術式を把握することです.

日比紀文(編)「炎症性腸疾患」

著者: 八尾恒良

ページ範囲:P.401 - P.401

 日比紀文先生編集による本書『炎症性腸疾患』は厚生労働省「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班」(以下,班研究)の2002年から2007年までの研究成果の集大成である.同様の成書は1999年,11年前に,当時班研究の班長を勤められた武藤徹一郎先生がまとめられ,私もそのお手伝いをした経緯があり,今回の書評を仰せつかったものと思う.

 班研究の業績は毎年まとめられ,コンセンサスが得られた診断・治療方針などその年の業績集に記載されている.しかし,業績集は班員には配布されるものの一般の医師の目に触れる機会は少ない.また,その一部が専門誌で解説されることはあるが業績の全体に目を通す機会はない.消化器専門医は診療や学会の研究発表を正確に理解するために班研究で決められたことを理解しておく必要がある.

ローレンス・ティアニー,松村正巳(著)「ティアニー先生の臨床入門」

著者: 山中克郎

ページ範囲:P.402 - P.402

 大好評だった前著『ティアニー先生の診断入門』に続いて本書が世に出た.「名匠に学ぶに勝るものなし!!」のキャッチフレーズに思わず読書欲がかき立てられる.第1部「臨床入門」では豊富な臨床経験をもとにティアニー先生が,医学の神髄をわかりやすく解説される.「より多くの時間を患者とともに過ごした医学生・研修医こそが優れた臨床医として成長していく」「同僚が主治医である患者をも観察できる機会にできるだけ参加し,病棟・外来・救命救急室で最大限時間を過ごすべき」…これらの姿勢は臨床能力を極めようとする者の不易の姿である.職人の年季奉公と同じく,良き指導医から導きを受け,額に汗し貪欲に患者さんから直接学ぶことの重要性が強調されている.さらに,指導医の心得に対しては,「最良の教育者のゴールは,生徒が教育者よりも,より良き医師に成長すること.教育者は常に,生徒の知識欲,より経験しようとする意欲を刺激しなければならない」と述べられている.心深くに楔を打ち込まれた,そんな強い印象を受けた.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.299 - P.299

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.304 - P.304

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.311 - P.311

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.317 - P.317

投稿規定

ページ範囲:P.404 - P.405

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.406 - P.406

次号予告

ページ範囲:P.407 - P.407

あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.408 - P.408

 今回の特集は「知っておくべき 外科手術の神経系合併症 その診断と対策」として,様々な外科手術の領域別にそれぞれのエキスパートの先生方にご執筆いただいた.外科手術においては体の様々な部位において手術操作をするわけであるが,その際,適切な手術操作を行うにはその局所解剖を十分に知っておくことが最も大切である.外科手術における必要な局所解剖の理解には,基礎医学で習う解剖学のうえに立っての臨床外科解剖と言ってもよく,基礎解剖学に加えさらなる知識が要求される.外科手術が病巣摘除のためであったり,損傷部位の修復・置換であったりするため,それらの手術を適切に遂行するのに要求される解剖学的知識とは臨床機能的解剖と言ってもよいものである.

 したがって,いわゆる基本的な正常な解剖学のうえにその機能を加味したもの,別の言い方をすれば解剖学に生化学,生理学などの各臓器,各系統の機能を加味した統合的な機能解剖学の知識が要求されるわけである.実地臨床における外科手術の際には,様々な症例ごとのバリエーションがあるわけで,その症例ごとのバリエーションにおいてつねに的確な判断を下しつつ,外科手術を効率よくかつ安全・的確にこなしていくには全身の機能解剖をしっかり勉強していくことが大切である.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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