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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科66巻5号

2011年05月発行

雑誌目次

特集 いま必要な外科治療に関する臨床試験の最新知識

ページ範囲:P.555 - P.555

 EBMに基づいた診療の必要性が強調されるなか,臨床試験の重要性が増している.わが国の様々なガイドラインでは,EBMに基づいた診療を呈示するため,多くの海外の臨床試験の結果が引用されている.一方,海外には遅れをとっていたが,近年は大規模な臨床試験の結果がわが国からも発信されるようになってきた.これは,これまでに様々な努力が払われた結果,わが国において臨床試験を行う環境が整ってきた成果によるものと考えられる.

 本特集では,このように注目されている臨床試験に関して,臨床試験を正しく理解・評価するために必要な最新知識,さらに現在の日本の臨床試験が抱えている問題点と将来展望について解説していただいた.

日本の臨床試験のこれから―強い点と弱い点

著者: 片山宏 ,   中村健一 ,   柴田大朗 ,   福田治彦

ページ範囲:P.556 - P.563

【ポイント】

◆がんの治療開発には,薬物療法,手術,放射線治療を組み合わせた集学的治療の開発が欠かせない.

◆集学的治療の開発を行うのがcooperative group(多施設共同臨床試験グループ)の役目である.

◆効率よく新治療を開発するために,日本にもcooperative groupを統轄する組織が必要である.

臨床試験に最低限必要な統計の知識とピットフォール

著者: 浜田知久馬

ページ範囲:P.564 - P.569

【ポイント】

◆臨床試験では統計学的な症例数設計を行い,十分なclarity(精度)を確保する必要がある.

◆臨床試験ではランダム化割付や盲験化などを行い,comparability(比較可能性)を保証する必要がある.

◆臨床試験では交互作用解析やサブグループ解析を行い,generalizability(一般化可能性)を検討する必要がある.

臨床試験における評価項目の設定とその見方―臨床医の視点から:多様化する臨床試験の評価項目

著者: 石黒めぐみ ,   植竹宏之 ,   石川敏昭 ,   杉原健一

ページ範囲:P.570 - P.576

【ポイント】

◆臨床試験の結果は統計学的有意差の有無だけでなく,臨床的な視点で解釈すべきである.

◆QOLや医療経済性,利便性など,有効性・安全性のほかにも治療選択を左右するような重要な評価項目がある.

◆評価項目の設定では一般的に用いられている定義や評価方法を使用し,他試験との比較可能性を担保する.

[領域別]外科治療の臨床試験の問題点と今後の展望

食道癌の外科治療に関するわが国の臨床試験

著者: 森和彦 ,   福田俊 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.578 - P.581

【ポイント】

◆早期癌においては,より局所コントロールが重視されるが,内視鏡切除術+化学放射線療法または化学放射線療法と手術療法との対等性が吟味されている.

◆切除が可能な進行癌においては手術が標準治療とされているが,術後補助化学療法と術前化学療法の無作為比較試験(JCOG9907)において術前治療の優位が示された.

◆化学療法のレジメンに関しては多種類の選択肢がなく,比較試験はほとんど行われてきていない.

胃癌の外科治療に関する臨床試験

著者: 黒川幸典 ,   土岐祐一郎 ,   笹子三津留

ページ範囲:P.582 - P.586

【ポイント】

◆胃癌に対するリンパ節郭清のRCTの結果,欧米ではD1が標準,アジアではD2が標準となった.

◆わが国において現在進行中の3つの大規模RCT(脾摘,網囊切除,腹腔鏡下手術)の結果が待たれている.

◆手術の臨床試験の成功には,JCOGのような組織による試験の質と手術手技の質の管理が不可欠である.

肝細胞癌の外科治療に関する臨床試験

著者: 長谷川潔 ,   菅原寧彦 ,   國土典宏

ページ範囲:P.588 - P.595

【ポイント】

◆肝細胞癌は何らかの慢性肝障害を合併し,それが長期予後に影響するため,治療効果の客観的評価が難しい.

◆切除後の高再発率が問題であるが,その経路に肝内転移と二次発癌が存在することが課題の克服を困難にしている.

◆客観的に評価する重要性を理解し,他施設や他領域と密な連携を保って,適切にデザインされた試験を完遂することが重要である.

胆道癌の外科治療に関する臨床試験

著者: 加藤厚 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   古川勝規 ,   吉富秀幸 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   須田浩介 ,   久保木知 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.596 - P.602

【ポイント】

◆胆道癌診療ではエビデンスレベルの高い報告は少なく,臨床経験の蓄積がその根拠となっていることが多い.

◆胆道癌診療を世界的にリードするわが国が外科治療に関する臨床試験を行い,世界に発信する必要がある.

◆臨床試験の実施が倫理的に困難な場合には,臨床経験の蓄積から胆道癌治療の標準化をはかる必要がある.

◆術後補助化学療法においては,質の高い大規模な臨床試験によって有効な治療法を確立することが必要である.

膵癌の外科治療に関するランダム化比較試験

著者: 阪本良弘 ,   小菅智男 ,   奈良聡 ,   江崎稔 ,   島田和明

ページ範囲:P.604 - P.609

【ポイント】

◆膵癌の外科治療に関する主な臨床試験は,①膵切除術式が短期予後に及ぼす影響に関する臨床試験,②膵切除術式が長期予後に及ぼす影響に関する臨床試験,③膵癌の補助療法に関する臨床試験,に大別される.

◆ランダム化比較試験の結果の解釈は慎重に行う必要があり,特に短期予後に関する試験の結果は施設固有の因子によるバイアスの影響が大きい.

◆わが国から世界に通用するエビデンスを発信することが求められており,欧米で行われているような大規模な多施設共同のランダム化比較試験の遂行が必須である.

大腸癌の外科治療に関するわが国の臨床試験

著者: 森谷冝皓 ,   島田安博 ,   濱口哲弥

ページ範囲:P.610 - P.616

【ポイント】

◆大腸癌に関するJCOG内における研究組織の構築は,食道癌や胃癌のグループに遅れること20年以上であった.

◆手術療法を比較する臨床試験はJCOG0212,0404,1006の3試験である.手術の質の担保とグループ活性化は臨床試験の成否を決める.

◆日本の外科医は放射線化学療法とTMEのみでなく,側方郭清を使うことができる好位置にいる.

肺癌の外科治療に関する臨床試験

著者: 佐治久 ,   池田徳彦

ページ範囲:P.618 - P.625

【ポイント】

◆縮小手術の臨床試験として,わが国のJCOG0802/WJOG4607L,JCOG0804/WJOG4507Lおよび北米のCALGB140503の3つの大規模臨床試験が進行中である.

◆術後補助化学療法の開発も進行癌と同様に,分子標的治療薬やバイオマーカーを用いた個別化治療の方向で進んでいる.

◆局所進行肺癌に対する外科治療を含む集学的治療法にはいまだ確固たるエビデンスはないが,開発が進むことは肺癌全体の予後の改善に与える影響が大きい.

乳癌の外科治療に関するわが国の臨床試験の展望

著者: 齊藤光江

ページ範囲:P.626 - P.631

【ポイント】

◆質の高い医師主導臨床試験の実施ができる環境整備作り(体制,資金,人材)が今後の課題である.

◆日本の外科医は,画像診断を駆使した手術計画と外科技術,病理診断との照合の緻密さを世界に発信すべきである.

◆日本の乳腺外科医は,診断・手術・薬物療法を俯瞰的に見られる立場を利用した臨床試験を立案・実施できる.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・11

減量外科手術の合併症

著者: 清水英治 ,   関洋介 ,   笠間和典

ページ範囲:P.632 - P.637

皆様はじめましてーっ!

私は,笠間先生のもと減量外科フェローとして学んでいる清水と申します.今回は,減量外科手術合併症に関する内容について担当させていただきます.フェローの私は,及ばずながら,患者さんの周術期管理を先頭に立って行っております.今回,この原稿をまとめるにあたり,色々と推敲を重ねてきましたが,「事件は会議室で起きてるんじゃない,現場で起きてるんだ!」という原点に立ち返り,なるべく現場視点で,普段考えていることを中心に皆様にお届けしたいと思います.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その③

“アクセス制限”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.638 - P.641

トロッカーは,右拳に捻りを加え,まっすぐに腹壁をえぐり込む様に打つべし.

この際,打った対側の腹壁をカウンター気味に押し上げる事.

一発でアクセスを生む必殺パンチなり.

外科専門医予備試験 想定問題集・5

乳腺・内分泌

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   伊藤校輝 ,   松本純明

ページ範囲:P.642 - P.647

出題のねらい

 乳腺領域は5~6題程度の出題ですが,出題内容の幅が広く対策が立てにくいと思われます.ここに挙げた問題をチェックし,大体の難易度を把握したうえで,自身の診療で受け持った症例を確実にモノにしていくことが早道かもしれません.また,内分泌領域(甲状腺や副腎疾患)の手術は施設によっては耳鼻科や泌尿器科が担当しているかもしれません.時間に余裕があるときには他科の手術にも入れてもらえるよう指導医と相談してみましょう.どちらも学習しにくい分野ですが,今のうちに少しずつ勉強しておくとよいでしょう.

病院めぐり

名古屋セントラル病院外科

著者: 木村保則

ページ範囲:P.648 - P.648

 当院は,名古屋駅から徒歩10分と名古屋の中心に位置する,東海旅客鉄道株式会社(JR東海)の企業立病院です.その歴史は古く,名古屋鉄道診療所として開設されたのは大正8年4月で,その後,名古屋鉄道病院,JR東海総合病院と名称を変えてきましたが,建物の老朽化に伴い,平成18年7月により高度な医療の提供を目指して新築移転し,現名称で新たなスタートをきりました.新病院は地上10階,地下1階,免震構造で,屋上緑化やコ・ジェネレーションなど環境にも配慮した設計であり,名古屋市のハートビル法認定建築物に指定されています.

 移転を機に電子カルテ,PET,ナビゲーション・術中MRI・手術用顕微鏡・データマネージメントシステムを統合した脳神経外科手術システム(ブレインスイート),定位放射線治療装置(ノバリス),前立腺肥大症治療のKTPレーザー機器(PVP),シームレス救急CT(SMART)などの最新鋭医療機器を導入し,地域医療に貢献しています.現在の診療科は19科,常勤医師は51名(初期研修医9名含む)です.病床数は一般病床180床,HCU 12床,ICU・CCU 6床の計198床で,全室個室が特徴であり,患者さんの療養環境は非常に整備されています.

公立那賀病院外科

著者: 森一成

ページ範囲:P.649 - P.649

 当院は,和歌山県の北部を東西に流れる一級河川,紀ノ川沿いに開けた紀の川市と岩出市,合わせて12万人の医療圏にあります.この地域には西日本きっての桃の産地(あら川の桃)があったり,豊臣秀吉の焼き討ちを被った根来寺や粉河寺といった古刹があったり,車で15分程離れた山すそに江戸時代に「通仙散」という全身麻酔薬で乳癌摘出手術を行った華岡青洲先生の生誕地記念館があったりして,当院の周囲はのどかな田舎の雰囲気です.

 当院は平成11年に新築・移転して病床数は304床となりました.内装もホテルのようにピカピカに磨きあげた病院です.18診療科(常勤)が揃っていますが,医師数は47名と,さほど多いほうではないと思います.外科は私を含めて5名ですが,手術は毎年450件(全身麻酔は320件)行っています.ほかに乳腺外科,呼吸器外科の専門外科があるので,私たちは主に消化器外科を担当しています.といっても,地域がん診療連携拠点病院として他院から癌終末期患者の転入を受け入れたり,消化器癌化学療法や内視鏡検査・治療を行ったり……と大忙しです.

臨床研究

80歳以上の高齢者に対する消化器外科手術のリスク評価

著者: 猪狩公宏 ,   藍原有弘 ,   落合高徳 ,   熊谷洋一 ,   飯田道夫 ,   山崎繁

ページ範囲:P.651 - P.657

要旨

目的:高齢者の消化器外科手術をより安全に行うために,周術期のリスク評価について検討した.

方法:対象は,過去6年間に当院の外科で80歳以上の高齢者に対して消化器外科手術を施行した593例とし,合併症発生および死亡率について検討した.

結果:合併症は281例(47%),周術期死亡は57例(9%)に認められた.Glasgow coma score,脈拍数,各種血液検査値,緊急手術症例,術中輸血症例で有意差を認め,またphysiological and operative severity score for the enumeration of mortality and morbidity(POSSUM)スコアが予後と相関していた.

結語:POSSUMスコアは予後予測に有用であり,術前にhigh risk groupを設定することは予後改善に寄与する可能性があると考えられる.

精神疾患患者における乳癌治療の検討

著者: 小南裕明 ,   廣吉基己

ページ範囲:P.659 - P.662

要旨

精神疾患の有無が乳癌の治療経過に及ぼす影響を検討した.2002年4月から2007年3月までの5年間に聖隷三方原病院外科で手術を受けた乳癌患者全423例を精神疾患罹患の有無で分類し,初診時自覚症状の有無,患側,手術術式,術後不穏の有無,病期分類,ホルモン感受性,術前術後治療の有無などについてretrospectiveに検討した.その結果,術後不穏の出現頻度と術前術後推奨治療施行の有無で統計学的有意差が認められた.精神疾患罹患患者の乳癌治療においては,術後管理と標準的治療施行時に注意を要する可能性が示唆された.

臨床報告

胃切除術後30年経過して発症した逆行性空腸重積の1例

著者: 猪川祥邦 ,   望月能成 ,   谷口健次 ,   越川克己 ,   横山裕之 ,   末永裕之

ページ範囲:P.663 - P.666

要旨

患者は59歳,男性.30年前に胃潰瘍に対して幽門側胃切除術の既往があった.2008年9月の夜間,突然の腹痛と嘔気を主訴に当院の救急外来を受診した.上腹部に腹膜刺激症状を伴う圧痛を認めた.腹部CTで左上腹部に同心円状の腫瘤陰影を認めたため腸重積と診断し,同日,緊急開腹術を施行した.開腹所見では胃はBillroth Ⅱ法,結腸前経路の再建であり,ブラウン吻合部より肛門側10cmの部位に逆行性に空腸が重積していた.用手的に還納が可能であった.重積先進部には重積の原因となる器質的病変は認められなかった.術後経過は良好で,第10病日に退院した.胃切除後の腸重積症は稀な合併症であるため報告した.

Rokitansky-Aschoff洞内に発生した早期胆囊癌の1例

著者: 平沼知加志 ,   服部昌和 ,   遠藤直樹 ,   大田浩司 ,   宮永太門 ,   道傳研司

ページ範囲:P.667 - P.670

要旨

患者は72歳,男性.65歳時に胆囊ポリープを指摘されて経過観察されていたが,2007年11月に患者が手術を希望して当科紹介された.腹部CTで胆囊体部に小結節を認め,腹部MRIでも同部位にT2強調像で欠損様低信号域を認めた.胆囊腺筋腫症や胆囊ポリープなどを疑って腹腔鏡下胆囊摘出術を行った.摘出標本では胆囊体部に粘膜下腫瘍様隆起を認めた.病理組織学的にはその部位はRokitansky-Aschoff sinus(RAS)で,これを内張りするように乳頭状腺癌組織が認められたが,間質浸潤は認めなかった.腫瘍は上部の粘膜面に進展はなく,RAS内のみに存在した.

18か月の経過観察後に胃癌の転移と判明した回腸潰瘍の1例

著者: 澤田俊哉 ,   小棚木均 ,   吉楽拓哉 ,   酒井梨香 ,   吉川雅輝 ,   大内慎一郎

ページ範囲:P.671 - P.676

要旨

患者は75歳,男性.2008年7月に下血で発症した.上部消化管内視鏡検査(GTF)では胃潰瘍瘢痕を認めた.下部消化管内視鏡検査(CF)で終末回腸に3か所の不整形潰瘍を認め,生検では良性であった.18か月後でも潰瘍性病変に変化がなかった.2010年1月のGTFで胃体部に4型胃癌を認めた.胃癌と難治性小腸潰瘍の診断で胃全摘術と回盲部切除術を施行した.病理所見では胃癌は非充実型低分化腺癌で,終末回腸の潰瘍性病変はいずれも胃癌の小腸転移と診断された.胃癌の小腸転移の報告は稀である.自験例では18か月前には診断できなかった.小腸潰瘍が胃癌の転移である可能性も念頭に置くべきと考えられた.

魚骨による横行結腸穿通の1例

著者: 金丸理人 ,   小泉大 ,   森和亮 ,   関口忠司

ページ範囲:P.677 - P.680

要旨

患者は71歳,女性.2009年8月に,3日前からの食欲低下および下腹部痛で当院を紹介され受診した.腹部CTでfree airは認めず,胃の大彎側に,内部に線状高濃度陰影を伴う腫瘤を認めた.腹膜炎および腹腔内膿瘍と診断し,緊急手術を施行した.開腹所見で,横行結腸中央の胃結腸間膜部に限局した腫瘤状の膿瘍を認めた.腫瘤,横行結腸間膜,胃結腸間膜を一塊として横行結腸部分切除術を施行した.標本に割を入れると膿瘍腔内に魚骨を認め,魚骨による横行結腸穿通および腸間膜膿瘍と診断した.経過は良好で,第12病日に退院した.異物による消化管穿孔・穿通の原因としては魚骨,義歯,爪楊枝などが知られている.わが国における魚骨による穿孔・穿通症例の文献的考察を加え報告する.

FDG-PET陽性であり,進行胆囊癌と鑑別困難であった黄色肉芽腫性胆囊炎の2例

著者: 内藤雅人 ,   古山裕章 ,   政野裕紀 ,   佐々木勉 ,   吉村玄浩

ページ範囲:P.681 - P.685

要旨

黄色肉芽腫性胆囊炎(xanthogranulomatous cholecystitis:XGC)は周囲への浸潤傾向が強く,臨床的に胆囊癌との鑑別が難しい.われわれは,肝浸潤を伴う胆囊癌と術前診断したが,最終的に病理組織学的診断でXGCと診断された2例を経験した.2例とも胆囊壁の不整肥厚を認め,18F-2-fluoro-2-deoxy-D-glucoseを用いたFDG-PET検査(PET)では胆囊に一致した高度集積を示した.PETが胆囊癌の検出に有効であるとの報告は近年増加しているが,XGCと胆囊癌との術前の鑑別は困難であり,最終的には切除標本の病理組織学的診断を必要とすると考える.

巨大膿瘍を合併した尿膜管遺残症に対し腹腔鏡下に摘出した1例

著者: 羽田野直人 ,   今村祐司 ,   中光篤志 ,   香山茂平 ,   上神慎之介

ページ範囲:P.687 - P.690

要旨

症例は30歳,男性.数日前よりの下腹痛を主訴に受診された.初診時の血液検査で炎症反応の上昇を認め,精査加療目的に入院となった.入院後の腹部CTで下腹部に臍下から膀胱に連なる巨大な囊胞性病変を認め,尿膜管遺残症と診断した.まずは穿刺排膿および抗菌薬投与により炎症の沈静化を図った後,腹腔鏡下に尿膜管摘出術を施行した.膀胱側の処理などに工夫を必要としたが,大きな合併症なく手術は完遂できた.術後は良好に経過し,10日後に退院となった.本症に対する腹腔鏡手術は安全かつ有用であると思われた.

腹腔鏡下に切除した若年者後腹膜神経鞘腫の1例

著者: 八木草彦 ,   串畑史樹 ,   高井昭洋 ,   山元英資 ,   児島洋 ,   本田和男

ページ範囲:P.691 - P.695

要旨

後腹膜領域の腫瘍は画像診断では確定診断が困難であり,切除による病理診断を必要とすることが多い.今回われわれは,後腹膜腫瘍に対して診断と治療を兼ねて腹腔鏡下に切除を行った.症例は10歳台の男性で,腹部大動脈の左側に最大径25mmの卵形の腫瘍を認めた.腹腔鏡下に腸間膜を切開して後腹膜腔に到達し,腫瘍の剝離,切除を行った.病理検査の結果は神経鞘腫瘍であった.確定診断が困難な後腹膜腫瘍に対して腹腔鏡下手術は有用な検査,治療法と考えられる.

Micropapillary carcinoma成分を含んだ直腸癌の1例

著者: 富岡寛行 ,   齊藤修治 ,   絹笠祐介 ,   塩見明生 ,   橋本洋右 ,   草深公秀

ページ範囲:P.697 - P.700

要旨

患者は89歳,女性.下血を契機に直腸癌を発見された.生検は中分化腺癌であった.手術は腹会陰式直腸切断術,中枢側D3郭清を施行した.最終判定は,pA,ly3,v1,pPM0,pDM0,pRM0,pN2,sH0,sP0,cM0,fStage Ⅲb,根治度Aであった.術後6か月で腰椎転移および多発肺転移を認め,術後9か月で原病死した.病理組織学的所見では,中分化型腺癌を主体とする腫瘍であったが,一部にmicropapillary carcinoma(MC)成分を認めた.MC成分を含む癌腫は,高率にリンパ節転移を伴う高悪性度腫瘍と考えられており,治療戦略上,注意が必要である.

月経随伴性気胸術後に発生した横隔膜ヘルニアの1例

著者: 村上隆啓 ,   伊志嶺徹 ,   伊江将史 ,   嵩下英次郎 ,   上田真 ,   𤘩宮城正典

ページ範囲:P.701 - P.704

要旨

症例は38歳,女性.胸痛にて発症した再発性右気胸に対し,胸腔鏡下ブラ切除術を施行した.術中所見にて右横隔膜に異所性子宮内膜を認め,月経随伴性気胸と診断された.術後5か月目に腹痛,嘔吐にて受診し,精査にて右横隔膜ヘルニア,小腸嵌頓と診断され緊急手術を施行した.小腸に壊死は認めず,腹腔内へ還納し,約3cmの横隔膜欠損孔は縫合閉鎖し,ePTFEシートにて補強した.術後,数回気胸を繰り返したが保存的に軽快し,現在もホルモン療法を継続中である.月経随伴性気胸術後の横隔膜ヘルニアは非常に稀な病態であるが,外科的治療に加え,術後ホルモン療法の追加が重要であると考えられた.

ひとやすみ・72

主治医付き外泊

著者: 中川国利

ページ範囲:P.602 - P.602

 家族の主治医は,一般に務めるものではないとされている.特に癌などの手術では結果が必ずしも上手くいくわけではなく,不幸な結果に至った場合には家族関係が悪化し,さらに自分自身が後悔することにもなる.一方,主治医を務めているからこそ,家族に対して特別に行えることもある.

 私の父親は90歳時に大腸癌となり,息子と二人で腹腔鏡下に結腸右半切除術を施行した.1年後に癌が再発し,再び私が主治医を務めた.診療の合間に頻回に父親を見回ることができ,主治医冥利に尽きた.しかし,私の実家は遠隔地にあり,高齢の母親が父親を見舞うことは困難であった.それよりも母親自身が高齢で,一人では生活できずに姉の介護が必要であった.そこで,隔週の土曜日に実家まで母親と姉を迎えに行った.そして病室から父親を連れ出し,病院近くの温泉に家族で宿泊した.

1200字通信・26

鉄は熱いうちに鍛えよ―練習の勧め

著者: 板野聡

ページ範囲:P.617 - P.617

 今年も何人もの外科医が誕生し,研修に励んでおられるものと期待しています.ただ,研修制度が変わってから,一体いつ外科医になったのかがわかりづらくなっているようですし,絶滅危惧種などと言われはじめた外科のことですので,案外少ないのかもしれないと心配しています.もっとも,希望者が少ないことは考えようでは「金の卵」であり,将来はさらに希少価値がでてくるわけで,外科医を目指す若手医師たちは頑張りがいがあるというものでしょう.

 さて,そうした若手外科医諸兄にお願いしたいことがあります.それは,若いうちにしっかり練習をして欲しいということです.では,何を練習するかというと,まずは糸結びです.何を今さらと言われそうですが,自動吻合器や超音波凝固装置などの機器の進歩があるにせよ,糸結びこそが手で術をなすわれわれ外科医の基本であり,これまでに糸結びの下手な外科医で手術が上手いという先生はいないということを肝に銘じて欲しいのです.

書評

北島政樹(監修)/加藤治文,畠山勝義,北野正剛(編)「標準外科学(第12版)」

著者: 篠原尚

ページ範囲:P.650 - P.650

 『標準外科学』を手にするのは3度目になる.最初はもちろん学生時代,第4版であったと記憶している.外科学の最初の講義で教授から推薦され,何の迷いもなく購入した.すでに外科医をめざすと決めていた私は,内科の「朝倉」に比べてあまりにhandyな一冊本であることに多少驚きながらも,こげ茶色の重厚な表紙をわくわくしながらめくったものである.ベッドサイド実習の時期になると,真白い白衣に本書片手の学生たちが外科病棟に設えられた部屋で勉強していた.まさにstandard textbookであった.2度目は第9版,消化器外科学会の専門医試験対策に入手した.表紙こそ紺色を基調としたイラスト入りの斬新なものになっていたが,本文は第4版の頃と変わらぬ安心感のある2色刷りで,懐かしさもあって購入を即決した.専門医試験を受けようとする外科医が学生用の教科書で勉強するのもどうかと思い,同僚には「講義の準備のために買った」ことにしておいたが,卒後十数年の間にいささか偏りすぎた知識の穴を埋めてくれる期待通りの内容で一気に読んだ.今も医局の書架に居座り続けている.

 さて,このたび改訂された第12版.一段とhandyになった印象で,さてはこちらもゆとり教育で内容が削られたかと心配したが頁数はほとんど変わっていない.白基調のすっきりした表紙と,使われている上質紙のためだろう.頁をめくると,大きめの文字でいかにも読みやすそうな記述が目に飛び込んできた.繰り返し読むことの多い教科書にとっては,内容はもちろん,「思わず次の頁をめくりたくなるような読みやすさかどうか」ということも重要である.章のタイトルデザインや余白・図版の配置,フォントの統一感などが旧版より洗練され,成功しているようだ.また,従来の教科書は文章の記述が中心で,ともすれば“退屈”な印象が否めなかったが,本版ではその常識を覆すかのように重要な部分が色文字やアンダーラインで強調され,しかも覚えるべきポイントが箇条書きされた「Note」欄が随所に散りばめられている.例えば食道癌の「Note」では病因や疫学,病期分類,転移経路,診断,治療がわずか15行に凝集されている.これで知識を整理した後,本文に戻り再読すれば,より理解が深まるだろう.さらに余白に書き込んでいけばオリジナルの立派なサブノートが完成する.外科学の勉強はそれで十分だろう.

昨日の患者

孫らへの最期の教え

著者: 中川国利

ページ範囲:P.657 - P.657

 かつての日本では,家族に看取られながら自宅で亡くなるのが世間一般の常識であった.しかし,現代では病院で医療従事者に死を宣告されるのが普通である.したがって,誰もが看取りを経験していた昔と異なり,現代では死を身近に感じる人は少なくなった.しかしながら,最期の生き様を最愛の家族に教え示し,亡くなる人も存在する.

 60歳代前半のTさんは,3年前に胃癌で手術を受けた.化学療法を施行したが癌性腹膜炎となり,ターミナルケアで再入院した.Tさんには娘さんと3人の孫がいた.いつも18時を過ぎると,娘さんが子供らを連れて見舞った.Tさんは孫らが来ると快活に起き上がり,孫らが語る今日の出来事を嬉しそうに聴き入った.また,孫らに手足を揉んでもらっては,気持ちよさそうに目を閉じた.そして見舞い時間終了の20時まで,綾取りをしたり歌を歌ったりして遊んだ.しかし,孫らが帰ると憔悴しきってベッドに臥した.

勤務医コラム・24

鬼の霍乱

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.696 - P.696

 一昨年はインフルエンザが流行し,当院のような小さな外科系病院の外来でも,1,249例検査して293例(23.5%)が陽性であった.昨年は下火となり,368例検査して67例(18.2%)が陽性であった.2年間で360例の陽性者が来院したことになる.そのうち,少なく見積もっても約1/3=120例を私は直接診たと考えられる.

 「インフルエンザの予防接種も受けないまま多数の陽性者と直接触れ合った場合,本当に私も感染してしまうのだろうか? 発症したら実際どんな感じなのだろうか……?」

学会告知板

がん医療マネジメント研究会第9回シンポジウム

ページ範囲:P.705 - P.705

日 時:2011年6月18日(土)13:00~17:30 ※開場12:00

場 所:東京コンファレンスセンター・品川 大ホール

    〒108-0075東京都港区港南1-9-36アレア品川5F

    ※JR品川駅港南口(東口)より徒歩2分

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.576 - P.576

原稿募集 「臨床外科」交見室

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あとがき

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.710 - P.710

 「臨床外科」は2011年から刷新されました.A4に大判化されたとともに,写真もカラーになりました.このほかにも,より利用しやすい雑誌を目指して様々な工夫が行われていますが,特に注目したいのは電子ジャーナルサイトです.情報通信におけるインターネットの重要性が高まるなか,医学論文においても変化が起きました.従来の紙媒体の雑誌に加えて,電子ジャーナルが広く利用されるようになり,海外論文をはじめとして,現在は様々な雑誌のインターネット上での閲覧やPDF化が可能となっています.「臨床外科」も,現在掲載される論文は“MedicalFinder”で閲覧できるようになっています.

 MedicalFinderは医学書院ほかの雑誌32誌をインターネット上で提供する雑誌記事の検索・閲覧サービスで,2009年1月にサービス開始され,契約年度の論文に加えて,バックナンバーも閲覧することができます.「臨床外科」については2003年の58巻1号から8年分が収録されています.Macintoshユーザーは,これまでこのサービスを利用することができませんでしたが,2011年からMacintoshのOSにも対応できるようになり,利便性が向上しました.また,MedicalFinderでは画像が明瞭に見られるため,2011年から一部がカラーになった「臨床外科」の写真も見やすいと思います.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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