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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科66巻6号

2011年06月発行

雑誌目次

特集 栄養療法―最新の知見と新たな展開

ページ範囲:P.715 - P.715

 TPN,ENなど栄養療法は,一般外科領域においてその重要性は日増しに増大している.単に低栄養に対する栄養改善だけではなく,治療成績に直結する,あるいは向上させる様々な取り組みがなされている.また,最近ではわが国においても外科的治療を必要とする高度肥満症例が増加しつつあり,過栄養に対する取り組みも始まっている.

 本特集では,外科領域において有用と考えられ,かつ外科医が知っておくべき最新の知見と,今後の方向性を紹介していただいた.

〔総説〕

栄養療法―最近の動向

著者: 深柄和彦

ページ範囲:P.716 - P.722

【ポイント】

◆わが国の栄養サポートチームは持ち寄りパーティー形式で急速に広がったが,今後は施設の大きさによってはシステムの新展開が必要だろう.

◆免疫増強製剤から調節製剤へ,免疫栄養からERASへ,血糖管理レベルに関する揺れ返し,など最近の栄養療法の話題は尽きないが,画期的な新しい栄養管理法の開発には至っていない.

◆明日のより良い臨床栄養のために,研究・教育の充実が必要で,行政レベルでも協力が望まれる.

〔栄養療法における製剤〕

TPN製剤―ラインナップとそれぞれの特徴

著者: 小山諭 ,   坂田英子 ,   長谷川美樹 ,   利川千絵 ,   萬羽尚子 ,   五十嵐麻由子 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.724 - P.730

【ポイント】

◆TPNとは完全静脈栄養であり,輸液剤を用いて必要な熱量・栄養素を経静脈投与することを意味する.

◆糖質・アミノ酸を配合したTPNキット製剤が開発され,さらにビタミンや微量元素を含む製品も登場してきた.

◆キット製剤は簡便であるが内容・組成をよく理解し,患者個々の必要量を満たすように使用すべきである.

EN製剤―ラインナップとそれぞれの特徴

著者: 田中芳明

ページ範囲:P.731 - P.741

【ポイント】

◆最近,経腸栄養剤は各種病態に配慮した製品が充実してきているが,それぞれがいまだ完全なものとはいえず,時には数種類の栄養剤を組み合わせることもある.

◆経腸栄養剤の選択において重要なことは,栄養剤中の個々の栄養素の効果を理解し,各種病態に適した栄養素を含有するように選択,決定することである.

◆栄養剤の投与にあたっては,定期的に栄養評価を行い,適宜その選択を見直す必要がある.

〔周術期の栄養療法〕

術前低栄養症例に対する栄養療法―適応と目標

著者: 鷲澤尚宏

ページ範囲:P.742 - P.745

【ポイント】

◆安全な手術と術後合併症の防止が目的となる.

◆消化器疾患に対する手術を受ける患者では術前低栄養が多く,術前術後の特殊栄養療法を要することが多い.

◆中等度以上の低栄養があると判断された場合,7~14日間の栄養管理を行う.

◆低栄養が疾患そのものによって起きている場合,栄養療法を待たずに疾患治療を行わねばならないことがある.

周術期の免疫栄養療法―適応と功罪

著者: 土師誠二

ページ範囲:P.746 - P.749

【ポイント】

◆免疫栄養療法(immunonutrition)は,術後感染症制御に対して最も有望かつエビデンスレベルの高い栄養学的介入法である.

◆大侵襲手術例や栄養学的リスクを有する外科手術例では,常に適応として考慮されるべきである.

◆免疫増強経腸栄養剤の術前投与は,“preconditioning”の概念からも優れており,必要ならば術後早期からも再開する.栄養剤の組成としては高濃度EPA(エイコサペンタエン酸)の配合が望まれる.

◆重症敗血症併発例に対する高濃度アルギニン配合の免疫増強経腸栄養剤の使用,栄養リスクのない低侵襲手術例での免疫栄養療法の使用についての評価は定まっていない.

術後栄養管理のありかた

著者: 福島亮治 ,   井上泰介 ,   小川越史 ,   堀川昌宏 ,   小出泰平 ,   山崎江里子 ,   岩崎晃太 ,   飯沼久恵 ,   稲葉毅

ページ範囲:P.750 - P.755

【ポイント】

◆術後に積極的な栄養管理(artificial nutrition)を必要とするのは,術前から低栄養に陥っている患者,および術後7~10日以上にわたり十分な経口摂取が障害されることが予想される場合である.

◆術後のartificial nutritionを必要とする場合は,術後24(36)時間以内の早期経腸栄養を開始することが望ましい.

◆消化器外科手術でも多くの症例で術後早期からの経口摂取が可能であること,また必ずしも流動食から食事を開始する必要がないことが明らかとなってきている.

糖尿病症例の周術期栄養管理

著者: 鍋谷圭宏 ,   櫻井健一 ,   坂本昭雄

ページ範囲:P.756 - P.763

【ポイント】

◆糖尿病(DM)合併症例では,術前にDMの病態把握と制御に加えて適切な栄養管理も必要であり,術前管理が極めて重要である.

◆周術期の目標血糖値はおおむね150~200mg/dlの範囲で,血糖変動幅を小さくするようインスリンで管理し,術後は経口摂取を早く開始するよう心掛ける.

◆エネルギー投与と血糖コントロールの優先度を周術期の各時点で評価して,個別化した栄養管理を行う必要がある.

ERASはわが国でも導入可能か?

著者: 宮田剛

ページ範囲:P.764 - P.768

【ポイント】

◆北欧で発信されたERAS プロトコールは,部分的にはすでにわが国でも導入されている.

◆「早く治す」を大目標として意識化し,必要に応じて推奨対策を組み合わせる柔軟性が必要である.

◆「早く治る」指標を「術後在院日数」だけにしてしまうと,不十分な回復のままに退院させられる不幸を生む.

術後合併症発生時の栄養療法―特に縫合不全発生時

著者: 橋口陽二郎 ,   上野秀樹 ,   神藤英二 ,   内藤善久 ,   守屋智之 ,   岡本耕一 ,   山本順司 ,   長谷和生

ページ範囲:P.770 - P.775

【ポイント】

◆縫合不全ハイリスク症例では,空腸瘻や一時的人工肛門を初回手術時に造設しておき,術後,縫合不全が発生しても経口あるいは経腸栄養が可能なようにしておく.

◆上記準備の行われていない症例における縫合不全発生の初期は,経口摂取を停止し,炎症反応,循環動態の安定を待つ.

◆急性期の所見が改善しない場合は再手術を考慮する.

◆全身状態安定後は,縫合不全部が瘻孔化するまでは完全静脈栄養を行う.

◆縫合不全部の瘻孔化を待って,経口あるいは経腸栄養を行う(あるいはTPNと併用する).

〔今後の新たな展開〕

高度肥満症に対する栄養療法―外科的療法を中心に

著者: 畑尾史彦 ,   清水伸幸 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.776 - P.781

【ポイント】

◆内科的治療に抵抗性の高度肥満症に対する外科的治療は,欧米のみならず,アジアを含め世界的に急速に増加しつつある.

◆特に消化管の経路の変更を伴う術式では劇的な代謝改善効果が得られるため,metabolic surgeryという新しい概念が注目されている.

◆日本でも年々普及しつつあるが,効果と安全性のバランスに配慮し,日本人に適した術式と適応基準について十分な検討が必要である.

癌悪液質症例に対する栄養療法―癌緩和ケアにおける栄養療法の考察

著者: 林達彦

ページ範囲:P.782 - P.790

【ポイント】

◆癌悪液質を理解し,適正な栄養療法を行うことは,癌患者のQOLの維持と向上のために極めて重要である.

◆予後推量因子(PPI)判定:6週未満とCRP値:陽性の2項目で,癌悪液質を診断できる可能性が示唆された.

◆栄養療法のギアチェンジには,患者のQOLのために患者・家族と価値観を共有できるようなコミュニケーションを行う.

在宅で可能な栄養療法

著者: 井上善文

ページ範囲:P.791 - P.797

【ポイント】

◆すべての栄養療法は在宅で実施可能で,その方法はほぼ確立している.その方法をいかにして普及させるかが重要である.

◆在宅静脈栄養(HPN)においては,感染対策を確実に実施することが重要で,年余にわたってカテーテルは管理できて当然である.

◆在宅経腸栄養(HEN)はPEGを用いて容易に実施できると考えられているが,様々な問題が発生するリスクを有していることも考えておくべきである.

栄養療法におけるグレリンの役割

著者: 足立真一 ,   瀧口修司 ,   宮崎安弘 ,   日浦祐一郎 ,   山本和義 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.798 - P.804

【ポイント】

◆グレリンは主に胃から分泌されるホルモンで,成長ホルモン分泌だけでなく,摂食促進,体重増加などの作用が報告されている.

◆上部消化管術後患者へのグレリン投与は食欲や摂取量を増加させるのみならず,除脂肪体重を維持しつつ体重減少を抑える効果がある.

◆グレリンは,上部消化管外科領域における術後栄養療法のキーホルモンであり,臨床応用が期待される.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・12

肥満,減量手術と癌

著者: 関洋介 ,   笠間和典

ページ範囲:P.806 - P.812

 元気ですかーっ!

 先週,北海道でアジアパシフィック地域の減量外科の国際会議(The IFSO-APC & JSSO Congress 2011)があり,笠間隊長はじめ,われわれスタッフも参加してきました.世界中の減量外科施設からの最新の報告,彼らとのディスカッションやフレンドシップは恐ろしく刺激的で,スタッフ一同,“エネルギー注入”されて帰ってきました.この会を通して気になったことは,肥満症や肥満に伴う代謝異常に対する外科治療,という比較的“新しい”コンセプトに対してアジアも含めた世界でもの凄いスピードで臨床・研究・エビデンスの蓄積が進んでいるなかで,日本だけ(といっても過言ではない!)が旧態依然とした考え方からなかなか脱却できず,取り残されている印象を受けたことです.世界標準が何たるかを知るためには,最新の知見をつねにアップデートして頭に入れておくことが必要です.日本のbariatric surgeryは“ガラパゴス化”している,などと馬鹿にされないためにも,今回も気合を入れていきましょう,ダーっ!

病院めぐり

いまず外科

著者: 今津浩喜

ページ範囲:P.813 - P.813

 当院は名古屋駅から東北500mほどの位置にあり,1972年8月に父の今津市郎が開院し,2004年5月に私が継承・開業したクリニックです.立地上は名古屋駅に近いのですが,下町であるうえに近年の都市化の影響で人口減少が著しいこともあり,外来患者数が減少傾向にあって不採算の環境でした.そのため,開業に際して,いわゆる近隣のかかりつけ医としての役割は残し,標榜科も父親が届け出ていた多くの科を残すものの,クリニックの特徴として,鼠径ヘルニア,腹壁瘢痕ヘルニア,下肢静脈瘤,痔核などの日帰り手術と,プロポフォールを用いた全身麻酔下の内視鏡検査を柱として院外にアピールすることとしました.

 当初は市民セミナーやホームページなどインターネットで情報を発信することから始め,新患数がゆっくり増えてきました.2005年1月に現在の施設(隣接駐車場に建設)に移り,2006年4月に老人ホームを併設するとともに,手術室や入院施設(2床)を増設し,患者の希望によっては入院(来院患者のほとんどは当日帰宅の1日入院ですが)にも対応可能となりました.手術術式のみでなく,麻酔方法や術前後の管理などを少しずつ検討・改良することによって日帰り手術件数は2010年末までに1,993件(2010年単年では509件.創傷処理やデブリードマンなどを除く)となりました.99.9%の患者は当日に帰宅しており,そのうち鼠径ヘルニア手術が1,429件(1,516症例.2010年は332件,352症例)と72%を占めています.

Expertに学ぶ画像診断・4

画像強調観察:NBI(下部)―大腸腫瘍に対するNBI拡大内視鏡観察のポイント

著者: 田中信治 ,   高田さやか ,   中山奈那 ,   中土井鋼一 ,   寺崎元美 ,   金尾浩幸 ,   岡志郎 ,   茶山一彰

ページ範囲:P.814 - P.822

はじめに

 画像強調内視鏡観察(image-enhanced endoscopy:IEE)の1つであるnarrow band imaging(NBI)は2010年春の保険診療報酬改訂において,拡大内視鏡観察と併用することで200点の診療報酬加算が認可され,現在,広く日常臨床の場へ普及しつつある.本稿では,大腸腫瘍に対するNBI拡大観察のポイントと実際のコツについて解説する.

外科専門医予備試験 想定問題集・6

小児外科

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   松田諭

ページ範囲:P.824 - P.829

出題のねらい

 多くの施設では小児外科領域の専門的な疾患を診療する機会が少ないのではないでしょうか.そのためこの分野では,受験者の間で格差が生じやすいのが実情です.この分野は一般的な疾患に関する出題が少ないものの,全体の1割程度の問題配分がありますので,やはり一通り教科書の知識を復習しておく必要があります.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その④

“赤トロッカー”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.830 - P.834

形状は機能を表すものなり.

機能に基づいて器機類は正しく使用すべし.

これラパロにおける基本なり.

臨床報告

広範囲胃切除術およびBillroth-Ⅱ法再建術後の輸入脚内に流入した魚骨による十二指腸穿孔の1例

著者: 藤井一博 ,   遠藤和伸 ,   亀田久仁郎 ,   杉浦浩朗 ,   長嶺弘太郎 ,   久保章

ページ範囲:P.835 - P.838

要旨

患者は80歳の男性で,腹痛を主訴に来院した.腹部身体所見では,上腹部正中に筋性防御を伴う圧痛を認めた.腹部単純CTで十二指腸内にhigh densityの線状陰影と,十二指腸周囲の後腹膜内にairの存在を認めた.異物による十二指腸穿孔と診断し,手術を施行した.開腹所見で,十二指腸球部に壁外へ突出する魚骨を認めた.これを除去し,穿孔部を縫合閉鎖したのち,十分に洗浄してドレーンを留置し閉腹した.広範囲胃切除術およびBillroth-Ⅱ法再建術後の輸入脚内に魚骨による穿孔をきたした症例はわが国ではほかに報告がなく,きわめて稀であるため,文献的考察を加えて報告する.

急性虫垂炎で発症した虫垂杯細胞カルチノイドの1例

著者: 西野豪志 ,   谷田信行 ,   大西一久 ,   藤島則明 ,   浜口伸正 ,   黒田直人

ページ範囲:P.839 - P.844

要旨

症例は52歳の男性で,右下腹部痛を主訴に当院を受診した.CTで急性虫垂炎と診断し,虫垂切除術を施行した.術後経過は良好で術後6日目に退院したが,病理組織学的検査で虫垂根部から体部にかけて印環細胞類似の腫瘍細胞が胞巣状,散在性に増殖していた.特殊免疫染色の所見から虫垂杯細胞カルチノイドと診断した.腫瘍細胞は漿膜近傍まで浸潤を認め,虫垂根部断端にも浸潤を確認したため,再入院のうえ,開腹結腸右半切除術,リンパ節D2郭清を施行した.病理組織学的検査の結果,腫瘍細胞の残存やリンパ節転移は認めなかった.術後経過は良好で,術後1年の現在,無再発生存中である.虫垂杯細胞カルチノイドはカルチノイド類似像と腺癌類似像を共有する稀な腫瘍であり,予後不良と考えられている.急性虫垂炎で発症することが多く,注意が必要である.

術後早期に再発をきたし死亡した膵腺扁平上皮癌の1例

著者: 門田一晃 ,   後藤田直人 ,   加藤祐一郎 ,   高橋進一郎 ,   小西大 ,   木下平

ページ範囲:P.845 - P.849

要旨

膵腺扁平上皮癌に対し根治的切除後,急速な転帰をたどった症例を経験したので報告する.症例は63歳,男性.心窩部痛を主訴に来院した.術前のCT,MRI検査にて浸潤性膵管癌と診断し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的所見は,腺癌成分と扁平上皮癌成分が混在し,膵腺扁平上皮癌と診断した.合併症はなく術後13日目に軽快退院したが,術後補助化学療法のため根治確認目的に行った腹部CT(術後26日目)にて大動脈周囲リンパ節腫脹を認め,直ちに再発と診断,化学療法を行ったが多発肝転移,リンパ節転移増大し,術後114日目に死亡した.

胆管病変を伴った十二指腸乳頭部カルチノイドの1例

著者: 八木康道 ,   吉光裕 ,   佐久間寛 ,   仲居培雄 ,   上田博

ページ範囲:P.850 - P.854

要旨

症例は62歳,男性.上行結腸憩室出血で入院となった.上部消化管内視鏡検査で十二指腸乳頭部腫瘍を認め,生検でカルチノイドと診断された.腫瘍径は2cmを超え内視鏡的切除は困難と考えられ,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本病理検査にて腫瘍はOddi括約筋までの浸潤を認めたが,核分裂像や脈管侵襲はなくリンパ節転移も認めなかった.また,総胆管断端におよそ200μm程度の微小カルチノイド組織を認め,胆管カルチノイドと考えられた.微小胆管カルチノイドの報告例は現在までになく,胆管カルチノイドと十二指腸乳頭部カルチノイドとの合併例もないことから,本症例はきわめて稀な1例と考えられた.

同側乳腺に併発した広範に及ぶ非浸潤性小葉癌と限局した非浸潤性乳管癌の1例

著者: 阿部郁子 ,   日野眞子 ,   三浦弘善 ,   荒川敦 ,   齊藤光江 ,   霞富士雄

ページ範囲:P.855 - P.859

要旨

58歳,女性.マンモグラフィで右乳房CD領域に微小円形な石灰化の集簇と,乳房超音波で右乳房CD領域とD領域に辺縁不整な低エコー腫瘤を認めた.腫瘤の細胞診はいずれもclass Ⅴで,石灰化のマンモトーム生検で非浸潤性乳管癌と診断した.治療は石灰化と腫瘤を含む範囲で乳房円状部分切除,センチネルリンパ節生検を施行したが,迅速病理で切除検体の断端に広範に及ぶ癌細胞を認めたため乳房切除を施行した.術後の病理所見は大部分が非浸潤性小葉癌でpagetoid spreadもみられ,一部に非浸潤性乳管癌が併存していた.非浸潤性小葉癌の広がりについてはいまだ解明されておらず,自験例も示唆に富む症例であると考えられた.

垂直型オープンMR装置による立位での乳房内部形態観察

著者: 張弘富 ,   阿部元 ,   黒川正人 ,   梅田朋子 ,   久保田良浩 ,   来見良誠 ,   谷徹

ページ範囲:P.860 - P.863

要旨

当施設(滋賀医科大学医学部附属病院)には,立位や座位での撮影が可能な,わが国で唯一の垂直型オープンMR装置が設置されている.今回,この垂直型オープンMR装置を用いて,自然状態,すなわち立位(座位)における,正常乳房の表面および内部形態の観察を行ったので報告する.表面形状のみの測定は既存の三次元レーザースキャナなどでも可能であるが,立位で乳房の表面形状と内部構造の両方を非接触的に観察することが可能なのは,現時点ではこの垂直型オープンMR装置のみである.今後,症例を蓄積していくことで,乳房部分切除術後の乳房変形の評価や予測,あるいは乳房再建術の整容性の改善などに役立つことが期待される.

勤務医コラム・25

外来から見える世の中

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.723 - P.723

 医者になって28年が経ちました.はじめの21年は大学病院・国立病院にいて,厳しくも懐しい日々でした.食道切除再建の大変さ,肝切除の怖さ,PDの美しさ,を教えていただきました.特に肝切除については,術者として250例も経験させていただき,外科医としては幸せなほうであったと思います.しかし,今思えばあの頃は,“financialにもpsychosomaticにも問題のない患者さんに発生した物理的な問題を,物理的に解決しようとしていた”という意味において,非常に特殊な環境にあった,と言えると思います.

 ここ7年間は,市中の小さな外科系病院に居て,昔よりもはるかに卑近なことを問題として日々を過ごしているわけですが,ところがどっこい,それほど卑近でもないのです.心暖まる出来事も多い反面,リアルな現実に直面することも多々あります.社会的な問題を抱えた方々においては,外科疾患の物理的解決が困難であり,解決する意義さえ乏しいことがよくあります.パスもガイドラインも通用せず,その場その場で絵を描いていくしかないので,偉い先生からすれば,エエカゲンな奴に見えるかもしれません.新聞やテレビの報道によれば,国債発行が増え,医療や介護にかかるお金もどんどん増えて,この先いったいどうなるんや? と心配です.

昨日の患者

天国からのエスコート

著者: 中川国利

ページ範囲:P.768 - P.768

 人生において試練は多々あるが,最も耐えがたい試練は家族との別れだと私は思う.特に,幼き子供らを残してこの世を去らなければならない場合には,あまりにも非情な人生を怨んでも怨みきれない.しかしながら,時がすべてを癒し,新たな希望を生み出すものである.

 30歳代後半であった20数年前,同年代のAさんが上腹部痛と食欲不振を訴えて来院した.上部消化管内視鏡検査を行うと,進行した胃癌を認めた.そこで手術を施行したが,癌はすでに腹膜にも転移しており,単に胃切除術のみに終わった.術後に奥さんには進行癌と告知したが,Aさん自身には当時の慣習で単に潰瘍で胃切除をしたとのみ説明した.

学会告知板

第7回 消化器病における性差医学・医療研究会 演題募集のご案内

ページ範囲:P.769 - P.769

 第7回消化器病における性差医学・医療研究会を下記の要領で開催いたします.上部・下部消化管から肝胆膵疾患まで,性差という生物学的特性からのアプローチによる各疾患の病態,予後,治療法に至るまで幅広く一般演題を募集いたします.奮ってご参加,ご発表いただきますようお願い申し上げます.

会 期:2011年7月23日(土)13:00~

会 場:東京ガーデンパレス 文京区湯島1-7-5 TEL:03-3813-6211(代)

第21回 大腸Ⅱc研究会

ページ範囲:P.822 - P.822

代表世話人:工藤進英(昭和大学横浜市北部病院)

日 時:2011年9月11日(日)9:30~17:00(予定)

会 場:ベルサール飯田橋

    〒102-0072東京都千代田区飯田橋3-8-5住友不動産飯田橋駅前ビル1・2F

第65回 手術手技研究会 会期延期のお知らせ

ページ範囲:P.829 - P.829

 2011年5月13日(金)夕方~14日(土)の開催を予定しておりました第65回手術手技研究会ですが,今般の震災を受け,以下のとおり会期と場所を変更して行います.

会 長:塩﨑 均(近畿大学医学部長)

当番世話人:宇田川晴司(虎の門病院消化器外科)

会 期:2011年9月9日(金)夕方~10日(土)

会 場:東京ファッションタウンビル(〒135-8071東京都江東区有明3-6-11)

1200字通信・27

仲間の一言

著者: 板野聡

ページ範囲:P.797 - P.797

 「マーフィーの法則」をご存じの方もおられると思いますが,最も私の記憶に残るものに,「問題は,一番起こって欲しくないタイミングで起こる」というものがあり,わが身を振り返ってみて,なるほどと納得することがあります.

 何人かの重症患者さんがいて大変な時期に,さらにトラブルが発生したときなどには,あらためてこの「法則」を思い出すことになりますが,忙しいときだからこそ問題になるのだとは,そのあとでわかることではあります.

ひとやすみ・73

手術における応用問題

著者: 中川国利

ページ範囲:P.823 - P.823

 某がんセンターで大腸癌を多数執刀してきた外科医が当院に赴任した.そして半年後,彼は当院に対する感想を述べた.「以前勤めていた病院では,外科病棟に入院した患者さんには手術を行うのが当たり前であり,また手術も標準術式で行うのが常でした.しかし,この病院では入院患者さんを前にして手術をすべきか否かを思案しなくてはなりません.さらに,苦渋の判断で手術を選択しても,ではどのような術式をすべきか大いに悩んでしまいます.当院での手術は考えることが多くて非常に面白いです」と述懐した.

 地域や医療施設によって,疾患名は同じでも診療内容は大いに異なることがある.がんセンターや大学病院などの急性期疾患に特化した医療施設には,最寄りの医療機関ですでに確定診断を受けた患者さんが紹介され入院する.しかも全身状態が良好な患者さんが多く,極端に進行した癌患者さんや超高齢者が紹介されることは稀である.

お知らせ

公益財団法人 かなえ医薬振興財団 平成23年度アジア・オセアニア交流研究助成金募集要項

ページ範囲:P.838 - P.838

趣 旨:近年の生命科学分野において研究者間の交流,ネットワーク,および共同研究が急速な発展に寄与しており,これらの交流は革新的な発見から臨床応用まで少なからぬ貢献ができると考え,今年度より新たにアジア・オセアニア地域における共同研究に対する助成を開始します.

助成研究テーマ:生命科学分野におけるアジア・オセアニア諸国との交流による学際的研究.特に老年医学,再生医学,感染症,疫学,医療機器,漢方,そのほか.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.781 - P.781

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.812 - P.812

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.864 - P.864

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.865 - P.865

投稿規定

ページ範囲:P.866 - P.867

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.868 - P.868

次号予告

ページ範囲:P.869 - P.869

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.870 - P.870

 今月は栄養療法に関する特集である.「栄養」は古くて新しい問題である.古くは,小生が専門としている食道領域における中山恒明先生の偉大なる輝かしい業績がある.それまで30~50%あった食道癌手術死亡率が,世界で初めて1960年代に10%を下回ったのである.それは過大な侵襲である食道癌手術を3期に分けることで達成できた.1期目は胃瘻をおいたのである.2期目に栄養状態の改善を待って開胸手術にて食道癌を切除した.3期目に再発がないことを確認して再建した.その歴史を知ったときの驚きを小生は今も忘れない.なんと素晴らしい着想であったことか.その後,IVHが導入され(小生が医者になったときはそう呼ばれていた.TPNとの違いは本編小山先生の論文を参照あれ),食道癌手術死亡率はついに数%の時代になった.麻酔の進歩,手術手技の改良も大きな要素であるが,やはり何といっても栄養療法の進歩の寄与が大である.一昔前は,どの外科学教室にも代謝栄養を専門とするグループがいたものである.臓器専門性が問われる時代になり,少々減ったような感じもしていたが,本編を拝読すると,なかなかどうして健在である.しかも,栄養療法の進歩がひしひしと伝わってくる.小生が医者になりたての頃は(昔話ばかりで恐縮です),IVH製剤を自分たちで調合していたものである.今や,TPN製剤はキット化され,EN製剤も様々な病態に合わせて使用すべきことが詳しく記述されている.ただし,小山先生の「少なくとも自分で指示を出したキット製剤に,どのくらいの糖やアミノ酸が含まれているかを全く考慮せずに使用することがあってはならない」ということも重要である.外科医にとって大切な周術期の栄養療法も詳しく述べられている.栄養を決してあなどってはならない.グレリンの臨床応用も始まっている.最新の栄養療法を知ることができる素晴らしい特集であることを確信している.ぜひ,若い外科医も一読あれ.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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