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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科66巻7号

2011年07月発行

雑誌目次

特集 術前薬物療法は乳癌手術を縮小させるか

ページ範囲:P.875 - P.875

 近年,乳癌の薬剤治療の進歩には目覚ましいものがある.術後補助療法はもとより,最近は術前薬物療法も標準治療となりつつある.術前薬物療法の大きなメリットは,手術治療の縮小化に結びつく可能性があることである.

 薬物療法で用いられる薬剤は,抗癌剤,ホルモン剤,分子標的薬に分けられるが,本特集では,それぞれの薬物治療の縮小手術(乳房温存手術やセンチネルリンパ節生検)への寄与やそのエビデンス,さらに今後の展望について執筆いただいた.

今後の乳癌診療における術前薬物治療の位置づけ

著者: 池田正 ,   志賀千鶴子

ページ範囲:P.876 - P.880

【ポイント】

◆術前化学療法は術後化学療法と効果は変わらず,術後化学療法が適応の患者には標準治療となろう.

◆多くの場合,縮小手術が可能となるが,切除範囲の決定には注意を要する.

◆センチネルリンパ節生検は化学療法前に施行するのが標準であるが,将来は大部分の症例では化学療法後に施行するようになるであろう.

術前化学療法とセンチネルリンパ節生検

著者: 井本滋

ページ範囲:P.882 - P.885

【ポイント】

◆術前化学療法によって乳房温存率は向上したが,腫瘍とリンパ節転移がpCRとなる効果予測因子とレジメンは明らかではない.

◆術前化学療法後のセンチネルリンパ節生検によるリンパ節郭清の個別化はT1-2N0乳癌では許容される.しかし,T3-4N0乳癌では推奨できない.

◆N+乳癌における術前化学療法とセンチネルリンパ節生検に関する第Ⅱ相臨床試験が行われている.

術前ホルモン療法とセンチネルリンパ節生検

著者: 内海俊明 ,   小林尚美 ,   宮島慎介 ,   引地理浩 ,   牛窓かおり

ページ範囲:P.886 - P.891

【ポイント】

◆閉経後のホルモン高感受性乳癌にはアロマターゼ阻害剤による術前ホルモン療法が有用である可能性が高く,脚光を浴びている.

◆センチネルリンパ節転移陰性例に腋窩リンパ節郭清省略は標準と考えてよい.リンパ節転移少数陽性例の腋窩リンパ節郭清省略はさらなる検討が必要である.

◆術前ホルモン療法後のセンチネルリンパ節生検に関してのエビデンスはほとんどなく,個別化治療の推進のために今後,検討が必要である.

術前分子標的薬療法とセンチネルリンパ節生検

著者: 中村清吾

ページ範囲:P.892 - P.897

【ポイント】

◆HER2陽性乳癌では,化学療法にトラスツズマブなどの分子標的薬を加えるとpCR率がさらに上昇する.

◆化学療法前に転移陽性のリンパ節も,リンパ節のpCRが得られた場合は郭清が不要となる可能性がある.

◆適切に対象を絞り込めば,センチネルリンパ節の転移陰性率(非郭清率)を高めることが期待される.

術前化学療法と乳房温存術

著者: 髙田正泰 ,   戸井雅和

ページ範囲:P.898 - P.902

【ポイント】

◆術前化学療法によって乳房温存率の上昇と切除範囲の縮小化が期待できる.

◆術前化学療法後の温存術の計画には画像検査による抗腫瘍効果のモニタリングが重要である.

◆バイオマーカーに基づく治療効果予測は切除範囲の適正化に役立つ可能性がある.

術前ホルモン療法と乳房温存術

著者: 指宿睦子 ,   山本豊 ,   岩瀬弘敬

ページ範囲:P.904 - P.912

【ポイント】

◆術前ホルモン療法の薬剤としてアロマターゼ阻害薬(AI)は有効であり,奏効度や乳房温存率はタモキシフェン(TAM)と比較して優れた成績を示している.

◆乳房温存率改善以外の術前ホルモン療法の意義や至適投与期間などについては不明であり,今後解決すべき課題が多い.

◆術前ホルモン療法はトランスレーショナル・リサーチの宝庫であり,PEPIやKi67を用いた予後予測モデル・因子についての新しい知見に加えて,臨床試験と連動した分子生物学的解析が行われており,今後の個別化治療への応用が期待される.

術前分子標的薬物療法と乳房温存術

著者: 齋藤雄紀 ,   大下内理紗 ,   寺尾まやこ ,   寺田瑞穂 ,   津田万里 ,   岡村卓穂 ,   鈴木育宏 ,   徳田裕

ページ範囲:P.914 - P.918

【ポイント】

◆HER 2陽性乳癌のトラスツズマブ併用術前薬物療法は高いpCRが期待されるが,わが国では保険適応外使用である.

◆新規抗HER 2治療薬を併用した術前薬物療法の臨床試験が進行している.

◆高いpCR率を乳癌縮小手術に反映させるため,術前薬物療法後の残存腫瘍をより正確に評価する診断法を確立しなければならないなど検討課題は多い.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・13

減量外科と妊娠

著者: 笠間和典

ページ範囲:P.920 - P.924

 元気ですか~っ!!

 この原稿を書いている時点では,東北地方を襲った震災の影響が大きく,まだ復興の兆しも見えていません.しかし,この号を読まれる頃には東北地方も元気を取り戻していることを期待しています.私の知っている東北人はみな我慢強く,粘り強い.また,滅多なことでは不平不満を言わない(飲んだときを除く)というヤツばかりです.きっとその東北人気質を活かして,着実な復興を歩んでくれることでしょう.ガンバレ東北,ガンバレ日本!

 さて,今回は復興にも関連する未来を語るテーマです.未来,すなわち,新たに生まれてくる命,妊娠と出産に関して,肥満や減量外科とのかかわりを説明していきます.外科医には直接関連のない話かもしれませんが,同僚の産婦人科医にも読んでもらい,ぜひ肥満に対する注意を促してもらいたいと思っています.

Expertに学ぶ画像診断・5

拡大内視鏡―Pit pattern観察による大腸病変の拡大内視鏡診断

著者: 河野弘志 ,   鶴田修 ,   酒井健 ,   長田修一郎 ,   野田哲裕 ,   前山泰彦 ,   有田桂子 ,   長谷川申 ,   中原慶太 ,   光山慶一 ,   佐田通夫

ページ範囲:P.926 - P.934

はじめに

 大腸内視鏡検査において病変を発見した場合,まずその病変が腫瘍か非腫瘍かを判断し,腫瘍が疑われる場合には治療の必要性を判断するために良悪性の診断を,さらに悪性が疑われる場合には治療方法決定のために深達度診断を行う必要がある.大腸病変の内視鏡を用いたスクリーニング検査は白色光による通常観察で行い,必要があればインジゴカルミン散布による色素法を加えるのが一般的である.これらの方法によって,病変の大きさ,肉眼形態,色調,表面性状などを観察する.通常観察にインジゴカルミン散布を加えた観察法のみを用いて腫瘍・非腫瘍を鑑別することは,鋸歯状腺腫や広基性鋸歯状病変などの例外を除き,多くの病変において容易であると思われる1)

 しかし,腺腫と粘膜内または粘膜下層へ微小浸潤(1,000μm未満)した癌(以下,M~SM軽度浸潤癌)との鑑別や,癌が疑われる場合の深達度診断において,通常観察のみではその診断に難渋する病変も少なからず存在する2).そのような場合,通常観察に加えて,pitと呼ばれるわずかに窪んだ腺管開口部や窩間部の性状を詳細に拡大観察することで,より多くの情報を得ることができる(図1).また,得られた情報からより正確な診断を行うことで適切な治療法を選択することが可能となる.このような理由で大腸病変の診断における拡大内視鏡を用いたpit pattern診断の重要性は大きいと考える.

 本稿では,拡大内視鏡を用いたpit pattern診断の手法,診断の実際,有用性やピットフォールについて述べる.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑤

“青トロッカー”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.936 - P.939

色は製造元を表すものなり.

先ずは添付文書にある器機類の適正な使用法を理解すべし.

これに加える多少の改良はその威力を3倍にするものなり.

外科専門医予備試験 想定問題集・7

外科総論・麻酔・救急

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   伊藤校輝 ,   松本純明 ,   青木耕平

ページ範囲:P.940 - P.944

出題のねらい

 外科総論的な問題は3~4題出題されています.日々の診療における処置や血栓塞栓症などの知識について幅広く出題されますが,初期臨床研修を受けていれば十分に対応できると思います.麻酔・救急の問題は全体の1割を占めます.こちらも日々の診療経験でカバーできると思いますが,3次救急の経験が少ない方は直前に国家試験用の問題集などに目を通しておくとより良いかもしれません.次回は,これまで扱った全分野の知識を総チェックします.

病院めぐり

ヴォーリズ記念病院外科

著者: 周防正史

ページ範囲:P.946 - P.946

 当院は1918年に結核療養所「近江療養院」として開設されました.大正から昭和初期には結核はいわゆる「死に至る病」として知られ,社会から排除される時代でした.結核感染者を隔離することによって感染の蔓延を防ぎ,偏見のなかで彼らの人権を守り,死に至る床で最期を看取ってきました.創立者であるW. M. ヴォーリズがキリスト教の理念のもと結核の撲滅に心血を注いだ病院です.

 外科手術は昭和25年に肺結核に対して行われた胸郭形成術に始まり,翌年には肺切除術が施行されました.昭和60年頃までは,呼吸器疾患の専門病院として胸部外科の諸先輩が活躍しておられました.当時の手術室は地下にあり,エレベーターもない時代でしたので,手術が終わると男性職員が集められ,担架で患者さんを2階にある病室まで運んだそうです.戦後は抗結核療法剤の進歩に伴って結核感染症が減少し,1990年代には結核医療からの転換を迫られました.21世紀にやってくる超高齢者時代を想定して1993年に訪問看護ステーション,ヘルパーステーション,居宅介護支援事業所を開設し,2000年をもって結核病棟を閉鎖し,療養病棟を開設しました.

殿田胃腸肛門病院外科

著者: 湯川裕史

ページ範囲:P.947 - P.947

 当院は平成22年に開院30周年を迎えました.昭和55年11月に19床の「殿田胃腸肛門外科」として産声を上げ,昭和62年に現名称(59床)に生まれ変わりました.同年11月には救急指定病院となり,また,平成9年6月には老人保健施設の「やすらぎ苑」(100床)を開設し,岩出市あるいは那賀地方の医療と介護の一角を担ってきました.

 岩出市は和歌山県の北部に位置し,和歌山市の東に隣接しています.十数年前までは人口の少ない田園地帯でしたが,和歌山市や大阪泉南地方の通勤圏に位置するため,この数年は宅地の開発とともに人口増加が進み,さらに平成6年の関西国際空港の開港に伴って,同空港から和歌山へのゲートタウンとして発展してきました.そして,平成18年4月には旧那賀郡岩出町から市となりました.南部には有吉佐和子の小説で有名な一級河川「紀の川」が東西に滔々と流れています.市の北部に東西に連なる和泉山脈のふもとには新義真言宗総本山「根来寺」が,国宝の大塔や数々の重要文化財,国の史跡である境内,国の名勝である庭園などを有して静かな佇まいを見せています.

交見室

師との出会い

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.948 - P.948

 新しい臨床研修制度がスタートして8年目を迎えました.臨床研修には「基本的な診療能力の修得」と「医師としての人格の涵養」という大きな目標がありますが,研修医にとって臨床研修は「出会いの場」でもあります.臨床研修にはたくさんの到達目標やチェックリストがあり,研修医は知識や技術の習得に明け暮れますが,医師としての第一歩を踏み出す研修医には,面倒見のよい指導医と出会うことが大切です.私は母校(九州大学)の外科に入局し,1年目は大学病院で研修しましたが,2年目は市中病院で研修し,生涯の師となる素晴らしい外科医に出会えました.それが朔 元則先生です.

 当時の朔先生は患者を研修医と担当し,研修医を助手にして執刀しながら,機会を見つけては術者をさせてくれました.たとえば,直腸の手術では前もって患者さんから承諾を得て研修医に虫垂切除をさせ,縫合不全や吻合部狭窄を生じにくい回腸結腸吻合では研修医にはじめての手縫い吻合を経験させました.胃の手術では少しずつ段階的に研修医を術者の位置に立たせ,1年経つと早期胃癌の幽門側胃切除術を最初から最後まで執刀できるようにしました.時間がかかっても辛抱づよく見守ってくださる朔先生は,「やって見せ,やらせて教える」ありがたい外科医でした.

肛門診について思う

著者: 出口浩之

ページ範囲:P.949 - P.949

 肛門周囲に異常を自覚した場合,何科に行けば一番よいのかわからないという声をよく耳にする.肛門科を標榜する病院やクリニックはあまた見かける.もちろん,それらはほぼすべての肛門疾患に対応できるはずであるが,現状は外科,特に消化器外科医,なかでも肛門疾患担当者(肛門専門医でない場合が多い)が担っていることが多い.また,胃腸疾患には精通していても肛門疾患には興味すら示さない消化器科医が多いように,直腸癌の手術には熱心だが肛門疾患には手を出さない消化器外科医も珍しくない.

 この原因は,痔核,痔瘻,裂肛に代表される肛門疾患が肛門診とともに長らくほかの消化器病変やその検査に比べて軽んじられ疎まれてきた歴史的経緯がある1).また,卒後研修の多くが大学病院や基幹病院で行われ,肛門疾患の治療(手術)はあってもきわめて少数であり,指導医もいない場合が多く,したがって,興味・関心を持つことなく各人がその後の専門的医療に入ってしまう.新臨床研修制度が始まってもその実情は何も変わらない.さらに,同じ下部消化管疾患でも癌や炎症性腸疾患(IBD)の話題に比べて学術論文のテーマになりにくい面もあろう.また,肛門や陰部,さらに便に対してことさらに嫌悪感の強い方は肛門視触診を回避する傾向もあるだろう.最近では,医療法上は肛門科ではなく,肛門外科と肛門内科という標榜科になっている.前者はともかく,後者はいったい何をする科なんだと思わず唸ってしまうのは私だけだろうか.一般の患者の方々は,なおさらのことであろう.

臨床研究

腹腔鏡下修復術を施行した腹壁瘢痕ヘルニア症例の検討

著者: 中川国利 ,   深町伸 ,   塚本信和 ,   小林照忠 ,   遠藤公人 ,   鈴木幸正

ページ範囲:P.951 - P.955

要旨

われわれは腹壁瘢痕ヘルニアに対する腹腔鏡下修復術を過去4年半に14例施行した.平均年齢は72.0歳,平均開腹歴は1.6回で,うち2例は単純閉鎖術後の再発例であった.BMIは平均28.1と肥満例が多かった.瘢痕創からの癒着剝離を全例で要し,うち2例では腹腔鏡下の剝離が困難なため開腹に移行した.使用したメッシュはComposix Kugel Patch®11例,最近の3例ではC-QUR Edge®を用いた.術中に腸管損傷などの合併症はなく,平均手術時間は74.7分であった.術後疼痛は軽度で,術後平均8.8日で退院した.術後平均2年7か月目の現在,ヘルニア再発などの合発症は認めていない.腹壁瘢痕ヘルニアに対する腹腔鏡下修復術は今後,広く普及するものと思われる.

手術手技

直腸脱再発に対するDelorme手術の有用性

著者: 徳永行彦 ,   佐々木宏和 ,   斎藤徹

ページ範囲:P.957 - P.959

要旨

2009年8月から2010年3月までに,われわれは3例の完全直腸脱の術後再発に対してDelorme手術を施行した.症例はいずれも女性で,67,83,84歳であった.前医での直腸脱に対する手術歴として,症例1では経腹的直腸固定術,結腸部分切除術,Tiersch手術,症例2では2回のGant-三輪法,症例3ではprocedure for prolaps and hemorrhoids(PPH)とGant-三輪法があった.いずれも直腸脱に対して手術を受けたが,再発をきたして当院を紹介された.直腸脱の術後再発に対してDelorme手術を施行した.術後経過は良好で,第4~6病日に退院し,術後5~12か月が経過したが,直腸脱の再発は認めていない.直腸脱の術後再発は術式の選択は難しいことがある.直腸脱の術後再発に対してDelorme手術を施行して有用であったので報告する.

臨床報告

胆管癌を契機に発症した胆囊十二指腸瘻の1例

著者: 平出貴乗 ,   小路毅 ,   松田巌 ,   谷口正美 ,   東幸宏 ,   米川甫

ページ範囲:P.961 - P.964

要旨

患者は68歳,男性.食欲不振と黄疸を主訴に紹介され受診した.腹部CT検査で中部胆管から胆囊管に連続する腫瘤性病変と,胆囊内には空気の貯留を認めた.内視鏡的逆行性胆管造影下での生検で高分化型乳頭状腺癌と診断し,膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本では中部胆管に腫瘤を認めた.胆囊と十二指腸には穿孔部が存在し,胆囊十二指腸瘻を形成していた.病理検査所見では胆管癌による胆囊管の閉塞を契機とした胆囊炎および胆囊十二指腸瘻と診断した.術中の操作で瘻孔が破綻した場合には播種の可能性もあるため,胆管癌によって胆囊が造影されないような症例では胆囊十二指腸瘻の存在も考慮に入れ,慎重な手術操作が必要であると考えられた.

術後癒着による強固な腹痛に対して腹腔鏡下手術が奏効した1例

著者: 延原泰行 ,   西尾康平 ,   松岡順子 ,   松村雅方 ,   小山剛

ページ範囲:P.965 - P.967

要旨

患者は40歳,男性.上行結腸憩室炎を繰り返したため,腹腔鏡補助下右結腸切除術を施行した.術後に腹腔内出血をきたしたが保存的に軽快し,術後13日目に退院となった.しかし,退院後すぐに右下腹部に限局した腹痛を認めた.画像上,腸閉塞はなく,器質的な異常も認めなかった.腹痛は食事とは関係なく,体動時に増強した.痛みが強いときにはソセゴン®を使用したが,コントロールできなかった.患者本人と相談のうえ,11か月後に腹腔鏡下手術を施行した.腹腔内を観察すると,前回の小開腹創直下に小腸へ連なる索状物を認め,この部分が腹痛の原因と考えられた.そのほか腹痛の原因となるものは認めなかった.手術後は本人の訴えもなくなった.術後の強固な腹痛に対して腹腔鏡を用いて原因を同定でき,かつ解除できた症例を経験した.

開腹術後のドレーン抜去部に生じたRichterヘルニアの1例

著者: 古川健太 ,   池永雅一 ,   宮崎道彦 ,   安井昌義 ,   三嶋秀行 ,   辻仲利政

ページ範囲:P.968 - P.971

要旨

患者は74歳,女性.S状結腸癌に対してS状結腸切除術と,その後,肝・肺再発に対して切除術の既往があった.今回,吻合部への局所再発を認めたため,再発部の切除術を施行した.術後4日目にドレーンを抜去したが,夜間に血性嘔吐を認め絶食とした.以降の嘔吐はなく,術後6日目に食事を再開したところ,同日夜にドレーン抜去部の膨隆を認めたため,抜去部の腹壁ヘルニアと判断した.膨隆は用手的に還納することが可能であったが,術後8日目に再度,嘔吐および膨隆を認め,ドレーン抜去創への腸管の嵌頓が視認できたため緊急手術を行った.術中所見ではドレーン抜去創への腸管の嵌頓を認め,Richterヘルニアと診断して嵌頓の解除を行った.術後経過は良好で,術後11日目に退院した.

保存的加療で治癒した胃瘻孔を伴う特発性肝膿瘍の1例

著者: 古川公之 ,   浅野博昭 ,   伊賀徳周 ,   佃和憲 ,   内藤稔

ページ範囲:P.973 - P.975

要旨

患者は66歳,男性.コントロール不良の糖尿病で通院中に,心窩部痛を主訴に近医を受診した.腹部CTで肝,胃の間に7cm大の腫瘤と,高度の炎症反応を認めた.肝膿瘍の疑いで当院を紹介された.入院後には糖尿病コントロールと抗生剤投与で炎症反応の低下を認めた.上部消化管内視鏡では胃前庭部に壁外からの圧迫があり,中心部の小孔から膿汁の流出を認めた.徐々に腫瘤は縮小し,消失した.循環器と糖尿病の合併症を有しており,治療方針の決定に難渋したが,保存的加療のみで治癒した.胃瘻孔を形成した特発性肝膿瘍は稀な疾患のため,文献的考察を加え報告する.

短期間に再発を繰り返して脱分化型に移行したが寛解しえた後腹膜脂肪肉腫の1例

著者: 高山哲郎 ,   天田憲利 ,   大江洋文 ,   菊地廣行 ,   芳賀泉 ,   黒須明

ページ範囲:P.977 - P.981

要旨

患者は67歳,女性.境界明瞭な約20cmの巨大後腹膜腫瘤に対して腫瘍摘出術を施行した.病理診断は粘液型と硬化型が混在した分化型の混合型脂肪肉腫であった.その後,局所再発を繰り返して3年6か月の間に計5回の手術を施行したが,5回目の手術以降は約2年にわたって無再発生存中である.4回目以降の切除腫瘍の病理診断は脱分化型脂肪肉腫であった.脂肪肉腫は再発切除を繰り返すにつれて悪性度が高くなることが知られており,また,化学療法・放射線療法の有効性が確立されていないことや,腫瘍の摘出のみでは再発率が高いことから,治癒切除のためには周辺臓器も含めたen blocの広範囲切除が必要であることがあらためて認識された.

開心術後縦隔炎に対して持続洗浄VACを行った1例

著者: 吉田和則 ,   大塚亮 ,   民田浩一 ,   吉川純一

ページ範囲:P.983 - P.986

要旨

創感染に対する基本的な治療戦略は従来から感染創の十分なデブリードマンと洗浄であるとされてきたが,多大なマンパワーとコストが必要であり,特に開心術後に生じる胸骨感染や人工血管などの異物感染に対しては感染菌が十分に除去できず,敗血症など全身状態の悪化を呈する場合がある.また,長期に及ぶ人工呼吸器管理が必要となる症例では経口摂取が困難であるため,低栄養状態の遷延や肺炎などの合併症を生じることが多く,依然,死亡率は高率であるとされている.われわれは,開心術後創感染(縦隔炎)症例に対して持続洗浄vaccum-assisted closure(VAC)を用い,良好な結果を得たので,若干の文献的考察を含め報告する.

抗TNFα療法中に臍ヘルニア手術を契機として発見された結核性腹膜炎・胸膜炎の1例

著者: 李俊尚 ,   土居崇 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.987 - P.990

要旨

抗TNFα療法は関節リウマチ(RA)において強力な関節破壊阻止作用を示すが,稀な合併症として結核が挙げられている.今回,同療法によって結核性腹膜炎・胸膜炎を発症した1例を経験した.患者は61歳,女性で,RAに対して6か月前から抗TNFα製剤の使用中であった.数日前から臍ヘルニア部の膨隆が増強し,入院した.内容は嵌頓大網であったが,発熱と腹水が出現し,緊急手術を施行した.腹膜面に癌性腹膜炎様の多発性粟粒結節をみたが,腫瘍や穿孔は認めず,嵌頓部大網切除および臍ヘルニア修復を行った.術後4日目に胸水が出現し,腹水,胸水のPCR検査で結核性腹膜炎・胸膜炎と診断した.抗結核療法によって軽快し,術後2か月目に退院した.

短報

保存的治療で治癒した腸管気腫症を伴う門脈ガス血症の1例

著者: 永橋昌幸 ,   髙橋元子 ,   小野一之 ,   岡本春彦 ,   田宮洋一 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.991 - P.993

要旨

症例は72歳,男性.Lewy小体型痴呆があり,寝たきり状態であった.嘔吐,腹部膨満を主訴に受診した.腹部に軽度の圧痛を認めたが,反跳痛や筋性防御は認めなかった.腹部X線検査で,上部小腸はガスが充満し著明に拡張しており,腸閉塞と診断された.腹部造影CT検査で,門脈ガス像と腸管気腫を認めた.上腸間膜動脈に,明らかな血栓を認めなかった.非閉塞性腸管虚血と診断した.腸管気腫は上部小腸に限局しており,全身状態も安定していたため,保存的に治療する方針とした.2病日には,排ガスとともに腹部膨満は消失し,X線上の小腸の拡張ガス像は改善した.5病日に再検したCTでは,門脈ガスおよび腸管気腫は消失していた.41病日に退院した.

ひとやすみ・74

東日本大震災

著者: 中川国利

ページ範囲:P.919 - P.919

 2011年3月11日午後2時46分,宮城県牡鹿半島の東南東約130kmの海底を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震が発生した.宮城県北部の震度7を最大震度として東日本が大きく揺れ,日本列島の太平洋岸には津波が押し寄せた.特に東北地方では10~20mの大津波となり,大災害をもたらした.この地震と津波により,死者と行方不明者は合わせて2万7千人にも及んだ.

 地震発生当時,私は図書室で資料の整理をしていた.突然,巨大な揺れが生じ,本棚から滝のように本が崩れ落ちた.そして壁には亀裂が走り,壁の一部が剝がれ落ちた.揺れは永遠に続くがごとくで,4分以上にも及んだ.幸いなことに当院では地震による被害は軽微で,停電もすぐに自家発電に切り替えられた.そして手術は続行され,病棟の各種モニターやレスピレーターにも問題は生じなかった.

1200字通信・28

風のにおい,雨のにおい

著者: 板野聡

ページ範囲:P.925 - P.925

 病院での生活では,朝,建物に入るとそのままで,帰る頃には夜になっていることが多く,季節感に乏しい生活になりかねません.そこで,医局に戻ったときには窓を開けて外の空気を大きく吸い込み,それぞれの季節を味わうようにしています.春は芽吹く木々の香りを,また夏は焦げるような熱気を感じることになりますし,秋は枯れてゆく落ち葉の匂いに少しセンチな気分を味わえます.寒い冬は冬で,凛とした冷気を吸い込み,身体が引き締まる思いを楽しんでいます.

 歳を取ってきてよいことのひとつ(と自分で考えていること)に,こうした季節ごとの,あるいは朝と夕での気温や湿度の違いに敏感になってくることがありますが,若い頃にはなかったように思えてなりません.この感覚は,人生という経験を積むことで得られるものなのか,はたまた人生の残り時間が減っていく分だけ感覚が研ぎ澄まされていくためなのか,その理由はわからないでいますが,自分としては歳を取る代償としては,まずまず納得できることの一つではあります.

勤務医コラム・26

減らす工夫

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.935 - P.935

 国の歳出に占める医療・介護費の割合が上昇中だ.これまでいろんなところで右肩上がりのグラフばかり見て育ったので,何でも右肩上がりがよいのだと信じていたが,そんなことを続けていたら国が滅ぶのではないかと,ふと心配になってきた.貧者の一灯よろしく,田舎の一勤務医が外来で心がけている事項について申し述べます.

 ①安易に採血しない.市町村や会社の健診,他院でのデータを最大限活用する.抗癌剤やIFN投与中の患者さんのルーチン採血をグッと我慢する.データ欠落部は年季と想像力と患者さんの顔色とでカバーする.

書評

高橋 孝(著)荒井邦佳(執筆協力)「胃癌外科の歴史」

著者: 髙橋俊雄

ページ範囲:P.950 - P.950

 本書は,Billrothが1881年世界最初の胃癌切除に成功し,人体の消化管の連続性を離断し再建の可能性を初めて示した消化器外科最大の歴史的出来事から始まり,現在の胃癌の外科治療に至るまで,著者の歴史観「まなざし」で胃癌外科の歴史をたどった,他に類を見ない興味ある書であります.

 著者の胃癌外科に対する「まなざし」は主に胃癌のリンパ流,リンパ節郭清に注がれ,欧米でのMikulicz,Pólya,Navratil,Rouvièreらの業績,さらにわが国の三宅 速,久留 勝,梶谷 鐶らによって確立された系統的胃癌リンパ節郭清について,膨大な文献を基に哲学的とも言える詳細な考察を行っています.しかも,本書は決して固い学術書ではなく,物語調で書かれた大変読みやすい歴史物語であり,胃癌外科の歴史を知らず知らずに教えてくれます.

中村恭一(著)「大腸癌の構造(第2版)」

著者: 平山廉三

ページ範囲:P.956 - P.956

 初版から20年余を経ての大改訂のもと,「大腸癌の構造第2版」が上梓された.

 著者の中村は常に,「腫瘍発生の基本概念」を公理として要請し,研究の出発点とする.「細胞分裂の際の突然変異細胞が排除されずに増殖するとき癌巣が形成される.よって,細胞分裂のあるすべての所に癌が出現.胃癌,大腸癌では正常粘膜からのいわゆる‘de novo癌’が大部分.良性限局性病変からの胃癌や腺腫由来の大腸癌もあるが少ない.胃癌については‘de novo癌’と良性限局性病変との比率,大腸癌では‘de novo癌’と腺腫由来の癌との比率こそが重要」.単純・明解である.40年前,わが国の癌の大御所・超大家たちはこぞって「胃潰瘍,胃ポリープ,胃炎などを胃癌の前癌状態」と決めつけて胃切除をしまくった.中村は先の公理の演繹から「胃癌の大部分は‘いわゆる正常粘膜’から生じ,胃潰瘍などとは無関係」なる事実を証明し,‘前癌状態’なる超大家たちの迷妄を完膚なく否定して葬り去った経歴をもつ.

中野 浩(著)「IBDがわかる60例 炎症性腸疾患の経過と鑑別」

著者: 牧山和也

ページ範囲:P.960 - P.960

 本書は,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)の診療と研究をめざす者だけでなく,IBD専門医にも必読を勧めたい著書である.

 潰瘍性大腸炎は約135年前に,クローン病は78年前に初めて報告されているが,いまだ原因不明で若年者に発症のピークがあり,人生を左右しかねない難治性疾患である.当然のことながら基礎的研究は細菌学的,免疫学的,遺伝子学的研究を主体に著しい進歩がみられるが,いわゆるdisease historyからみた探究は極めて少ない.本書は,治療と長期経過から病理学的所見を加味しdisease historyを詳細に観察した正に臨床研究論文である.

学会告知板

第41回胃外科・術後障害研究会

ページ範囲:P.972 - P.972

会 期:2011年10月7日(金)・8日(土)

会 場:千里ライフサイエンスセンター

    〒560-0082大阪府豊中市新千里東町1-4-2

    Tel:06-6873-2010 URL:http://www.senrilc.co.jp/

昨日の患者

肺癌でよかったじゃない

著者: 中川国利

ページ範囲:P.976 - P.976

 生きとし生けるもの,必ず死を迎える.しかしながら,いつ,何で亡くなるかは神のみぞ知ることである.職業柄,多くの死に立ち会ってきたが,近頃は死因として癌で亡くなるのもよいのではないかと思うようになった.

 K先生は,私の小学校時代の恩師である.何かと理由をつけては,わざわざ遠隔地にある私が勤める病院を訪ねてくれる.既往歴に早期膀胱癌や皮膚癌があるため,健康診断を兼ねて胸部から骨盤までのCT検査を行った.すると,左肺に径2cm大の腫瘤を認めた.肺結核の既往もあったが,肺癌が疑われたため呼吸器内科を紹介した.気管支鏡検査の結果は肺癌であった.しかし,88歳と高齢でもあったため手術はしないで,他施設で放射線療法と癌化学療法を行うことになった.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.902 - P.902

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.912 - P.912

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.913 - P.913

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.945 - P.945

投稿規定

ページ範囲:P.994 - P.995

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.996 - P.996

次号予告

ページ範囲:P.997 - P.997

あとがき

著者: 畠山勝義

ページ範囲:P.998 - P.998

 この3月11日14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震(のちに東日本大震災と改称された)は東日本広範囲の東北・関東の太平洋側を襲った巨大地震で,マグニチュード9.0と本邦の観測史上最大の地震となった.この地震のため巨大津波が発生し,また,福島第一原子力発電所の被災事故も相まって,三重の大惨事となった.

 私どもの新潟大学医歯学総合病院も地震の約1時間後にはDMATを2組派遣し,福島県や宮城県で急性期医療に従事してもらったが,その報告では,トリアージ黒(死亡)の方がほとんどだったとのことであった(その後の調査では死因の約92%は水死であったと報告されている.それだけ津波による犠牲者が多かったことを示している).その後は通常の医療支援チームを約1か月の予定で岩手県宮古市に派遣している.また,新潟県は福島県から約8,800人の被災者・避難者を受け入れており,この方々の医療支援も必要とされている.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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