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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科66巻8号

2011年08月発行

雑誌目次

特集 画像診断の進歩をいかに手術に役立てるか

ページ範囲:P.1003 - P.1003

 近年の画像診断装置の進歩発展は著しく,非侵襲検査にしても,各臓器の解剖や病変の進展状況,その程度がかなり詳細に,かつ立体的にも把握可能な時代が到来した.PETなどの質的診断とともにCT,MRI,造影超音波検査などの画像診断,およびそれらの組み合わせ(PET/CTなど),さらにはCT画像情報の再構築によるMD-CTやCT colonographyなどの進歩も含め,われわれ外科医にとって極めて有用で詳細な画像情報が得られるようになってきている.さらにこれらの画像情報は,開腹手術においてもさることながら,内視鏡下手術においてもその有用性が発揮されている.

 このような現状に鑑み,本特集を企画した.各分野における最新の知見が,多くの読者にとって有意義なものとなることを願ってやまない.

最新腫瘍イメージングについて

著者: 米山智啓 ,   立石宇貴秀 ,   井上登美夫

ページ範囲:P.1004 - P.1008

【ポイント】

◆悪性腫瘍の診断にはCT,MRIといった形態画像に加えて,ブドウ糖代謝を評価するFDG-PETが診療に貢献している.

◆FDG以外のPET製剤が開発され,様々な代謝情報が得られるようになってきた.

◆近年ではPET/MRIの開発や3T-MRIなどの形態画像の進歩も著しい.

甲状腺・副甲状腺手術(術中シンチを含めて)―副甲状腺機能亢進症に対する小型ガンマカメラによるナビゲーション手術

著者: 藤井孝明 ,   山口悟 ,   矢島玲奈 ,   須藤利永 ,   森田廣樹 ,   堤荘一 ,   浅尾高行 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1010 - P.1015

【ポイント】

◆副甲状腺機能亢進症に対するナビゲーション手術により,術中に病変局在診断が可能である.

◆小型ガンマカメラは,縮小手術と術後残存病変の確認に応用できる.

◆小型ガンマカメラにより,術中迅速副甲状腺ホルモン測定を省略できる可能性がある.

乳癌

著者: 吉山知幸 ,   大野真司

ページ範囲:P.1016 - P.1020

【ポイント】

◆乳癌の治療方針決定における画像診断の役割は非常に大きい.乳癌診療ガイドラインを基に画像診断の役割について述べる.

◆乳房MRIは術前広がり診断に有用であり,特に乳房温存手術を検討する際には大きな役割を果たす.

◆術前化学療法後の治療効果判定において,超音波,MRI,CTの画像診断は非常に有用である.

食道癌―進行食道癌の個別化集学的治療戦略決定への質的画像診断法の応用

著者: 岡住慎一 ,   首藤潔彦 ,   松原久裕 ,   加藤良二

ページ範囲:P.1021 - P.1029

【ポイント】

◆進行食道癌治療においては,正確な癌の進展範囲診断に基づいた集学的個別化治療と治療効果の高精度の判定が必要である.

◆高精度画像診断には,造影MD-CT,FDG-PET,diffusion MRIなどの質的診断法の応用が有用である.

◆それぞれのmodalityの特性および有用性と限界を理解し,さらに工夫を加えた診断学の構築が課題である.

胃癌―MD-CTによるCT angio画像を手術に生かす

著者: 大山繁和

ページ範囲:P.1030 - P.1035

【ポイント】

◆Dynamic MD-CTで血管構築を確認し,動脈の変異の有無をつかむことが容易になった.

◆手術時に注意が必要な危険な変異(肝動脈,動脈瘤)の有無をつかむことが重要である.

◆根治切除可能な巨大リンパ節転移の画像所見を呈示した.

直腸癌

著者: 山田英樹 ,   野澤慶次郎 ,   福島慶久 ,   赤羽根拓弥 ,   堀内敦 ,   島田竜 ,   端山軍 ,   石原聡一郎 ,   松田圭二 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1036 - P.1039

【ポイント】

◆直腸癌の治療では,他の大腸区域と比べ,より正確な深達度診断が求められ,これにより直腸癌の外科的治療の方法が決定される.

◆直腸癌の画像診断には,X線注腸造影,内視鏡,CT,MRIあるいはPETなどが行われ,総合的に判断する.

◆直腸癌では術後合併症,もしくは人工肛門造設などによって,患者QOLに多大に影響を及ぼすことがありうるので,診断,治療においては慎重であらねばならない.

肝切除における画像支援手術

著者: 阿部雄太 ,   高野公徳 ,   粕谷和彦 ,   島津元秀

ページ範囲:P.1040 - P.1050

【ポイント】

◆肝臓には複雑な脈管構造が発達しており,外科的切除の際は腫瘍と脈管の位置関係を正確に把握する必要がある.

◆肝臓3D画像解析は従来多くの知識と経験が必要とされた肝内脈管の立体的把握と腫瘍の局所診断,切除術式の決定を容易かつ客観的にした.

◆本稿ではMDCTデータを肝シミュレーションソフトによって3D画像に変換し,解析情報から術式の決定,手術ナビゲーションに生かす実際を述べる.

胆道癌

著者: 清水宏明 ,   木村文夫 ,   吉留博之 ,   大塚將之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   鈴木大亮 ,   中島正之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1052 - P.1057

【ポイント】

◆Multidetector-row CT(MDCT)は検出器の多列化により飛躍的に時間・空間分解能が向上し,胆道癌の詳細な進展度診断が可能となった.

◆胆管癌の水平浸潤部は,造影効果を有する胆管壁の肥厚とそれより上流側胆管内腔径の変化をもって評価するが,減黄処置後には,胆管拡張が消失し,また,チューブの影響のため進展度診断は困難になる.

◆MDCTではmultiplanar reconstruction(MPR)をはじめとする任意の断層像も得られ,肝門部の局所解剖,ランドマークとされる門脈と胆管浸潤部との相対的位置関係なども理解しやすい.

◆肝門部胆管癌における術式選択のポイントは,右側優位型の症例では左門脈臍部右縁における左側胆管浸潤の有無,左側優位型の症例では特に右後区域胆管の上流側の浸潤部位と右門脈との相対的位置関係からみた胆管切離の限界ラインの見極めと考える.

◆MDCTを活用するにあたっては,胆管良性狭窄の鑑別,胆管癌の上皮内進展の診断など,その限界も十分に念頭に置かねばならない.

膵癌

著者: 鈴木裕 ,   杉山政則 ,   中里徹矢 ,   横山政明 ,   阿部展次 ,   柳田修 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   跡見裕

ページ範囲:P.1058 - P.1065

【ポイント】

◆膵癌の手術適応の決定には的確な病期診断が重要であり,正確な進展度と遠隔転移の有無を診断できるモダリティが要求される.

◆膵癌の進展度診断はCTが中心であり,MPR像やVR像などの多彩な画像構築によって低侵襲に質的診断が可能である.

◆小膵癌の描出にはEUSが他のモダリティよりも優れる.膵管狭窄・拡張のみで腫瘍の描出ができない場合にはEUSを積極的に施行すべきである.

肺癌―最新の画像診断技術を活用した呼吸器外科手術

著者: 茂木晃 ,   八巻英 ,   高坂貴行 ,   田中司玄文 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1067 - P.1073

【ポイント】

◆FDG-PET/CTは肺病変の良悪性の判別や,リンパ節転移および遠隔転移の評価において有用であり,施行可能な施設では術前にできる限り行うことが勧められる.

◆3D-CT angiographyなどを用いて,術前に肺動静脈や気管支の走行などを的確に把握しておくことは,出血などの術中合併症を回避する意味においてきわめて重要である.

◆術前CTガイド下マーキングは,肺癌など悪性が疑われる触知不能小型肺病変に対するVATSにおいて非常に有用である.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・14

減量手術の経済効果

著者: 中里哲也 ,   笠間和典

ページ範囲:P.1074 - P.1078

 みなさまっ!元気ですかーっ!

 私はソーシャルワーカーの中里哲也と申します.笠間先生と一緒に仕事を始めて7年が経過しました.私自身のソーシャルワーカー人生そのものがこの減量治療といっても過言ではありません.この治療に携わることで多くの患者さんの笑顔に出会うことができ,日々楽しく仕事をさせてもらっています.今回は,「減量手術の効果」の回(65巻9号)で,ミネソタ留学からパワーアップして帰ってきた関先生も少し書いていましたが,減量手術の経済効果について担当させていただきます.ソーシャルワーカーの認知度も低いこの日本で……ソーシャルワーカーが肥満治療に,……いやっ!日本ではいまだ周知の治療ではない減量外科に携わっていることは非常に稀であるかと思います.私は笠間先生に公私にわたって大変お世話になっており,いつの間にか,元気があればなんでもできる!を合言葉に日々頑張っています.

私の工夫―手術・処置・手順

腹腔鏡下大腸手術におけるドップラエコーの有用性

著者: 太田裕之 ,   塚山正市 ,   藤岡重一 ,   川上恭平 ,   児玉泰一 ,   川浦幸光

ページ範囲:P.1079 - P.1079

【はじめに】

 腹腔鏡補助下大腸切除術(laparoscopy-assisted colectomy:LAC)では内側アプローチによって腫瘍の支配血管系の処理を先行する手技が主流である1,2).しかしながら,内臓脂肪が豊富で腸間膜が厚い症例では血管走行の把握が困難なことがある.また,腹腔鏡下手術では触覚が欠如しており,開腹手術のように触診によって動脈の拍動を触知することができない.

 われわれはLACにおいて術中にドップラエコーを使用して確実に主要血管を同定する工夫を行っているので紹介する.

Expertに学ぶ画像診断・6

画像強調観察:AFI(上部)

著者: 松井芙美 ,   上堂文也 ,   長井健吾 ,   辻井芳樹 ,   太田高志 ,   神崎洋光 ,   花房正雄 ,   鼻岡昇 ,   河田奈都子 ,   山本幸子 ,   竹内洋司 ,   東野晃治 ,   石原立 ,   飯石浩康 ,   竜田正晴

ページ範囲:P.1080 - P.1084

はじめに

 自家蛍光電子内視鏡とは,内視鏡下に励起光を照射して,生体組織内にある内因性の蛍光物質からの自家蛍光を捉え,電気処理した画像をモニター上に擬似カラー表示するものである.Autofluorescence Imaging(AFI:オリンパス・メディカル・システムズ)は内視鏡下に青色の励起光(照射波長:395~475nm)を照射して生体組織内にあるコラーゲンなどの蛍光物質からの自家蛍光を捉え(検出波長:490~625nm),モニター上に擬似カラー表示する(図1).当院では通常の上下部内視鏡検査や早期胃癌の内視鏡治療の前に,白色光,narrow band imaging(NBI),色素散布にAFIも適宜組み合わせて観察を行っている.上部消化管においては主に早期癌のスクリーニングや,広がりを精査する際に使用する1つの手段として用いている.

 本稿では,われわれが施行している上部消化管におけるAFI観察の実際を述べる.

交見室

主治医制について思う

著者: 出口浩之

ページ範囲:P.1085 - P.1085

 日本の病院においては長らく主治医制がとられてきた.その意義・目的は一般的につぎのように理解されている.一人の医師が(多くは)初診から検査,診断,治療方針の決定,入院治療,外科系ならば手術の術者,退院後の外来担当とすべての診療に責任を持ってあたることこそ患者に対しての礼儀であり,良質な医療の提供の根源となり,その結果,患者や患者家族との間に深い信頼関係が築かれる(根拠のない曖昧な楽観)ことになっているように思われる.

 しかし,そのためには,夜間・休日を問わず,ほぼすべての診療行為を主治医一人が行うことになり,時として肉体的精神的負担は限界に近づくことがある.また,すべての疾患が治癒するわけでもないし,すべての人が最大長寿を果たすわけでないという,きわめて常識的な問題もしばしばあらためて患者の家族に説明する作業まで引き受けざるを得ない.そのうえ,病院の方針によっては早出,居残り,当直などの時間外勤務を半ば強制されるため,勤務医は業務量軽減のためにもこの伝統たる主治医制を考える時期にきているのではないだろうか.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑥

“鉗子・前編”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.1086 - P.1089

剝離鉗子は剝離を行うものなり.

把持鉗子は把持を行うものなり.

機能を理解し,用途に応じた鉗子を選ぶべし.

病院めぐり

五所川原市立西北中央病院外科

著者: 高谷俊一

ページ範囲:P.1090 - P.1090

 当院は人口6万人強の青森県五所川原市にあります.当市と,西津軽郡と北津軽郡を合わせた周辺人口15万人弱を包括する二次医療圏の地域中核病院(18医療科)として機能しています.

 青森の夏はねぶた祭りが全国的に有名ですが,当市では8月4日から高さ22m,重さ18tの巨大な立佞武多が市内を練り歩きます.ビル6階建てほどの高さの圧倒的な姿を心躍るリズムとともに見ることができます.

東京ヘルニアセンター(執行クリニック)

著者: 執行友成

ページ範囲:P.1091 - P.1091

 当院は1991年12月に,私が生まれ育った東京都新宿区神楽坂で外科「執行クリニック」として開院しました.基本的に手術を継続できる開業形態を考え,手術室を併設しました.一般の外来診療に勤しみながら,1995年には在宅診療も開始しました.

 1998年6月にご近所の患者さんから「鼠径ヘルニア」の相談を受け,開業前まで勤務していた東京警察病院外科を紹介しました.しかし,ご本人からお仕事の関係で休みが取りづらく,何とかならないかという相談がありました.ちょうど1995年に日本で発売された「mesh & plug」を知っていましたので,要望に沿うために思い切って「局所麻酔のみによる鼠径ヘルニア日帰り外来手術」に踏み出したことが,今日の「東京ヘルニアセンター」へ名称変更するまでになったきっかけです.

外科専門医予備試験 想定問題集・8

直前総チェック

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   伊藤校輝 ,   松本純明 ,   青木耕平 ,   松田諭

ページ範囲:P.1092 - P.1110

出題のねらい

 今年度の外科専門医予備試験想定問題集も今号で最終回になりました.これまで練習してきた問題の要点を一問一答式のチェックリストにまとめました.空欄を設けた設問には適切な数字・用語を,そのほかは○×でお答えください.試験直前に時間がとれない方も,苦手な分野を優先的にチェックして役立てていただければと思います.

 今年は会場が大阪に変更されました.遠方の方は試験当日のトラブルを避けるためにも,代診や宿泊などの手配も十分に整えておきましょう.皆さんの健闘をお祈りいたします.

臨床研究

嵌頓痔核に対する手術の至適なタイミング

著者: 矢野孝明 ,   浅野道雄 ,   田中荘一 ,   石丸啓 ,   川上和彦 ,   松田保秀

ページ範囲:P.1111 - P.1113

要旨

【目的】患者のアンケートから嵌頓痔核に対する手術の至適なタイミングを明らかにすることを目的とした.【対象と方法】2001~2009年に当院で嵌頓痔核に対して結紮切除術を施行した140例を対象とした.手術の時期を3つに(早期:0~3day,準待機:4~28day,待機:29day~)分類したうえで,満足度,失禁,狭窄についてレトロスペクティブに検討した.【結果】手術の時期は満足度,失禁,狭窄に影響しなかった.【結論】早期手術でも,待機手術と遜色ない治療成績を期待できると考えられた.

臨床報告

急性膵炎で発症した膵管内乳頭粘液性腫瘍の1例

著者: 坂井昇道 ,   帆足孝彦 ,   丸川太郎 ,   田中善壽 ,   木村雄二 ,   柴田信博

ページ範囲:P.1115 - P.1118

要旨

症例は66歳の男性で,急性膵炎(軽症型)を発症した.急性膵炎重症度診断時の腹部造影MDCT検査で,膵頭部の囊胞性病変を指摘された.膵炎消退後,MRCP検査にて主膵管の限局性拡張を伴う混合型IPMNと診断され,膵液洗浄細胞診でIPMNが強く疑われたが,悪性所見はなかった.膵炎の既往と画像・膵液細胞診による診断から手術適応と判断し,リンパ節郭清を伴わない膵頭十二指腸切除術を行った.術後20か月の現在,再発なく社会復帰している.膵管内乳頭粘液性腫瘍に起因する急性膵炎の報告は最近増加しているとはいえ,わが国での詳細な報告は少なく,いまだ稀な症例と考え報告した.

胃癌を合併したdiffuse cystic malformationの1例

著者: 山崎祐樹 ,   尾山勝信 ,   木下淳 ,   伏田幸夫 ,   藤村隆 ,   太田哲生

ページ範囲:P.1119 - P.1122

要旨

Diffuse cystic malformation(DCM)は粘膜下層に多発性の囊胞を形成する比較的稀な疾患である.今回われわれは,胃癌を合併したDCMの1例を経験したので報告する.症例は67歳,女性.64歳時に子宮体癌の既往がある.心窩部不快感を主訴に前医を受診し,体下部後壁の潰瘍瘢痕様病変からの生検で低分化腺癌と診断された.穹窿部から体下部にかけ全周性に境界不明瞭な浮腫状隆起を認め,CTで脾門部に転移リンパ節を疑わせる腫瘤を指摘された.リンパ節転移を伴う4型胃癌を疑い,胃全摘術を施行した.病理検査の結果,壁肥厚部に一致し囊胞状拡張した異所性腺腔がみられ,体下部小彎に2cm大の低分化腺癌が認められた.転移が疑われた腫瘤は子宮体癌の腹膜播種巣であった.

肝細胞癌副腎転移による後腹膜出血の1例

著者: 竹谷園生 ,   北川真吾 ,   長嶋和郎 ,   秦史壯

ページ範囲:P.1123 - P.1125

要旨

症例は61歳,男性.他院で肝細胞癌と診断され加療中であったが,激しい右背部痛にて当院に救急搬送された.CTで右後腹膜に造影剤の流出を伴う血腫を認めた.緊急手術を施行したところ右副腎腫瘍からの出血を認め,これを切除した.手術所見と病理所見より肝細胞癌の副腎転移と診断した.肝細胞癌の副腎転移は稀ではないが,転移巣より出血をきたすことは少ない.また,肝細胞癌の肝外転移は予後不良であるが,副腎単独転移症例は治癒切除により平均生存期間が延長するとの報告がある.本症例では出血と疼痛の制御のため緊急手術を施行した.その結果,治癒切除が可能であったので,文献的考察を交え報告する.

腋窩リンパ節転移が増大した軟骨化生を伴う乳癌の1例

著者: 赤羽和久 ,   鈴木正彦 ,   鷲津潤爾 ,   佐藤直紀 ,   鳥居翔 ,   水上泰延

ページ範囲:P.1126 - P.1131

要旨

稀な病理組織型である骨・軟骨化生を伴う乳癌の1例を経験したので報告する.症例は54歳,女性.左乳房のしこりと増大する左腋窩リンパ節を主訴に当科を受診した.左乳房腫瘤および腋窩リンパ節からの穿刺吸引細胞診で間質性粘液を伴った癌細胞を採取した.針生検は浸潤性乳管癌であったが,一部に軟骨肉腫様の細胞を認めた.左乳房切除術および腋窩リンパ節郭清術(level Ⅱ)を施行した.病理診断は軟骨化生を伴う乳癌,pT2,pN1(1/17)で,ER(±),PgR(-),HER2(-)であった.術後補助療法を追加し,現在再発は認めていない.1983年以降にわが国で報告された骨・軟骨化生を伴う乳癌症例に,自験例を加えた58例を集計して報告する.

Duct penetrating signを認め,腫瘤形成性膵炎との鑑別に苦慮した膵癌の1例

著者: 松本直基 ,   寺崎正起 ,   岡本好史 ,   鈴村潔 ,   田中顕一郎 ,   浅沼修一郎 ,   星昭二

ページ範囲:P.1132 - P.1136

要旨

症例は66歳,男性.無治療の糖尿病,高血圧の既往あり.2か月で10kgの体重減少を主訴に受診した.CT上,膵頭部に造影効果の弱い腫瘤を認め,内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)にて分枝膵管の描出と,主膵管が腫瘤を貫通するduct penetrating signを認めた.腫瘤形成性膵炎が疑われたが,腫瘍マーカーはその後も上昇するため,癌を否定できず幽門輪温存膵頭十二指腸切除を施行した.病理学的には副膵管領域主体の膵癌(中分化型管状腺癌)であり,随伴性膵炎による強い線維化が主膵管を圧排狭窄し,duct penetrating signを呈したと考えられた.

昨日の患者

ケチケチするな

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1015 - P.1015

 病院での飲酒は原則的に厳禁である.しかし,病状によっては,節度ある飲酒ならば認可してもよいのではないかと思う.特にターミナルの患者さんではあえて大好きなお酒を禁止することはなく,逆に飲酒によって病状が改善することもある.

 60歳代後半のOさんが大腸癌の再発で入院した.癌化学療法を施行したが無効で,癌性疼痛も生じたためモルヒネを用いた.また,不眠を訴えたため睡眠剤を処方したが,眠れないと訴えた.

1200字通信・29

夢の後押し

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1051 - P.1051

 今年の春のことですが,娘たちがお世話になった先生から,「医学部受験を目指す生徒さんがいるのですが」とご相談がありました.その生徒さんのご家庭は医療関係に無縁であり,医学部の受験を考えてはいても,まったく別世界のことゆえ,不安があるとのことでした.

 確かに私の場合は父親が医者であり,消毒薬の匂いを嗅ぎながら育ったわけで,何の抵抗もなくみずからこの世界に入り,何の不自然さも感じなかったのでした.逆に言うと,ほかの世界のことを知ろうともせず,世間知らずのままにここまで来てしまったということなのかもしれません.その是非はともかく,医師を目指す夢を持つ若者がいるのであれば,その相談には乗らねばなるまいと,お申し出を引き受けることにしたのでした.

勤務医コラム・27

先生がいない

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.1073 - P.1073

 高校同窓会の冊子をつくるのに広告集めをすることになり,私は近隣の開業医・病院を担当することになった.アポイントを取り,相手方へ伺う.専門科・病院規模ともに多岐にわたる.事務長さんや院長先生と,よもやま話に花が咲く.皆さん異口同音におっしゃることは,「どこかに良い先生はいないかなあ」ということである.各病院により,求められるDr像というものは,これまた多岐にわたるであろうが,結局は「その病院のカラーに馴染んでくれて,なごやかにコミュニケーションができて,よく働き,腕も良い先生」を欲しているのである.かく言う私自身,そのような理想像からは程遠い.手術室や外来でつまらぬことに腹を立てたり,ブツブツ文句を言ったりして,全くなっていないのである.優しくしたいのにできない未熟な自分がいる.日当直の回数が多過ぎて,心身ともに疲れているのかもしれない.イカン,イカン,このままいくとdepressionに陥りそうだ.どこかで良い先生を見つけて一緒にやっていきたい.この際,外科医でも外科医でなくても,男でも女でも,若くても年寄りでも,そんなことはどうでもよい,とにかく人柄の良い先生が欲しい…….これは独り私個人の望みではなく,全国の中小外科系病院をmanageする立場の方々に共通する望みではなかろうか.

学会告知板

第4回蛍光Navigation Surgery研究会

ページ範囲:P.1110 - P.1110

会 期:2011年10月15日(土)

会 場:東京大学 本郷キャンパス 山上会館

ひとやすみ・75

仕事始め

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1114 - P.1114

 正月は日本国民の祝日であり,多くの国民は自宅で家族とともに新年を祝うのが恒例行事である.しかしながら,われわれが従事している医療界では,正月といえども病棟業務や救急医療を行う必要がある.そこで,当科では交代で休むことにし,わたしは年末に家族と近場の温泉宿に泊まることを恒例としてきた.そして,同僚が嫌がる元旦の外科当番を現在の病院に勤めて24年間買って出てきた.

 外科当番医としての業務は,病棟回診や入院患者さんの急変に対応するとともに,救急患者が来院した場合には診療に従事することである.そして,急性腹症などで手術する場合には,新年最初の術者として手術室開きをする喜びを感じた.急性虫垂炎や潰瘍穿孔などの手術も施行したが,強烈に印象に残っているのは父親がイレウスとなり,他施設に勤務する息子と二人で手術をしたことである.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.1020 - P.1020

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.1066 - P.1066

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1078 - P.1078

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1137 - P.1137

投稿規定

ページ範囲:P.1138 - P.1139

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.1140 - P.1140

次号予告

ページ範囲:P.1141 - P.1141

あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.1142 - P.1142

 この『臨床外科』第66巻8号が発刊されるのは,本年3月11日の東日本大震災から5か月が経過した時期となりますが,いまだに苦難の日々を送っておられる多くの方々に思いをいたしつつ,この文章を書いております.お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りし,哀悼の意を表しますとともに,ご遺族の皆様に心からお悔やみを申し上げます.また被災者の皆様の一日も早いご回復と地域の復旧をお祈り致し,復興,支援にご尽力されている多くの方々に心より感謝と敬意を表します.そして私自身,短期的にもまた長期的,継続的にも,外科医として,医師として,そして社会人,日本国民として何らかの貢献ができないものかと模索しつつ,有形無形の,また直接的,間接的に力を尽くしてゆきたいと考えております.

 さて一方で,私たちは日常をどのように送ってゆくべきかを考えたとき,被災地の苦難に心を置きつつも,しっかりとわれわれがなすべき診療,教育,研究に今まで以上に力を注ぐべき時であると思います.作家,故・開高 健氏が生前好んで述べた詩人ゲオルグの「明日,世界が滅びるとしても,今日,あなたはリンゴの木を植える」という言葉を改めてかみしめております.この大震災を機に私たちのあり方,生き方を今一度考えなおす時でしょう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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