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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科67巻1号

2012年01月発行

雑誌目次

特集 「切除困難例」への化学療法後の手術―根治切除はどこまで可能か

ページ範囲:P.5 - P.5

 分子標的薬をはじめとする最近の化学療法の進歩は目覚ましいものがある.これまで局所高度進行腫瘍あるいは転移性の腫瘍は外科切除の対象外とされ,化学療法あるいは化学放射線療法(CRT)が延命目的の治療として行われてきた.しかしながら,近年,このようないったんは根治を断念し化学療法ないしはCRTを行った患者のなかに,治療が著効し,根治切除が可能となるケースがみられるようになってきている.

 このような患者に対する追加外科切除は,conversion therapy,salvage surgery,あるいはadjuvant surgeryなどと呼ばれるが,その実行性や予後改善効果はいまだ十分に明らかになっていない.本特集は,上記について国内外の最新の知見や自験例をもとに解説いただいた.

転移再発乳癌に対する外科手術の可能性

著者: 吉本賢隆 ,   白川一男 ,   吉井淳 ,   井寺奈美 ,   桑山明子

ページ範囲:P.6 - P.11

【ポイント】

◆乳癌薬物療法の進歩によって進行再発乳癌の生存期間は着実に延長しているが,依然として治癒は望めない現状にある.

◆肺・肝・胸壁再発などに対して散発的に外科治療が行われており,そのなかには少なくない長期生存例,治癒例がある.

◆Disease free interval(DFI)3年以上,ER陽性で,薬物療法で制御され,完全切除が可能な症例などでは外科治療がよい選択肢となりうる.

非小細胞肺癌に対する根治的放射線化学療法後の手術

著者: 豊岡伸一 ,   宗淳一 ,   枝園和彦 ,   牧佑歩 ,   三好健太郎 ,   上野剛 ,   杉本誠一郎 ,   山根正修 ,   大藤剛宏 ,   三好新一郎

ページ範囲:P.12 - P.16

【ポイント】

◆局所進行非小細胞肺癌に対しては根治的放射線化学療法を行うことが多いが,その後,外科手術になることがある.

◆根治的放射線化学療法の再発症例に対するサルベージ手術,あるいは高線量による導入放射線化学療法の有用性は確立していない.

◆高線量の放射線照射後の手術はリスクが高くなることが考えられるが,手術が原病,あるいは治療による合併症を改善する症例があり,必要に応じて手術を考慮すべきである.

食道癌に対する化学療法後の手術

著者: 田中成岳 ,   宮崎達也 ,   小澤大悟 ,   鈴木茂正 ,   横堀武彦 ,   猪瀬崇徳 ,   桑野博行

ページ範囲:P.18 - P.24

【ポイント】

◆切除不能食道癌は非常に予後不良である.

◆食道扁平上皮癌はほかの固形癌に比べて抗癌剤や放射線への感受性が高い.

◆切除困難症例を切除可能症例にするには補助療法が必要である.

胃癌に対する化学療法後の手術

著者: 石神純也 ,   有上貴明 ,   内門泰斗 ,   喜多芳昭 ,   上之園芳一 ,   奥村浩 ,   松本正隆 ,   帆北修一 ,   夏越祥次

ページ範囲:P.26 - P.30

【ポイント】

◆化学療法後の手術後に再燃のリスクが高い症例は,組織学的な非奏効例,肉眼型が4型,遠隔病変として腹膜播種であった.

◆CR症例であっても切除標本内には遺残腫瘍がみられるため,腫瘍の除去に外科治療は有効である.

◆術後化学療法から解放された無再発症例を7例経験し,手術介入の意義が確認できた.しかし,介入の時期や切除範囲,術後の治療内容について明らかにするためには,さらなる症例の集積が必要である.

大腸癌に対する化学療法後の手術

著者: 石原聡一郎 ,   福島慶久 ,   赤羽根拓弥 ,   島田竜 ,   堀内敦 ,   端山軍 ,   山田英樹 ,   野澤慶次郎 ,   松田圭二 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.32 - P.39

【ポイント】

◆進行再発大腸癌に対する有効性が示された新しい抗癌剤・分子標的薬が術前補助療法にも取り入れられつつある.

◆局所進行直腸癌に対する術前化学放射線療法においては高い癌完全消失(CR)率が報告されるようになり,治療成績の向上が期待されている.

◆切除不能肝転移のconversion therapyに関する臨床試験によって良好な切除率と予後の改善が示されるようになった.

GISTに対する化学療法後の手術

著者: 神田達夫 ,   石川卓 ,   小杉伸一 ,   矢島和人 ,   小林和明 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.40 - P.45

【ポイント】

◆二次耐性腫瘍切除に比べてイマチニブ奏効残存腫瘍切除は完全切除率が高く,術後の無増悪期間も長い.

◆手術で完全切除が達成されても術後のイマチニブ治療は継続する.治療の中止は術後早期の再発を生じる.

◆完全切除が得られても長期の無再発患者は少ない.臨床的有用性を明確にするエビデンス作りが望まれる.

切除不能大腸癌肝転移に対するconversion therapy

著者: 土居浩一 ,   別府透 ,   近本亮 ,   美馬公介 ,   岡部弘尚 ,   林洋光 ,   今井克憲 ,   新田英利 ,   坂本快郎 ,   宮本裕士 ,   渡辺雅之 ,   石河隆敏 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.46 - P.53

【ポイント】

◆分子標的治療薬を含めた化学療法の進歩によって切除不能大腸癌肝転移の10~40%が切除可能となり,KRAS野生型の場合には肝切除率は43%,R0切除率は38%に達するとの報告もみられる.

◆切除不能大腸癌肝転移におけるconversion therapyでは,「術前治療回数」「切除術式」「切除のタイミング」の至適条件を踏まえて治療にあたることが重要である.

肝癌に対する術前化学療法

著者: 津川大介 ,   福本巧 ,   具英成

ページ範囲:P.54 - P.58

【ポイント】

◆肝癌の術前化学療法として肝動脈化学塞栓療法が行われてきた.

◆現在のところ,術前化学療法が切除可能肝癌の予後を改善するというエビデンスはない.

◆切除困難症例に対するダウンステージを目的とした術前化学療法の有効性については今後の検討が必要である.

肝内胆管癌に対する化学療法後の手術

著者: 大塚将之 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   竹内男 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   鈴木大亮 ,   中島正之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.60 - P.64

【ポイント】

◆化学療法剤の進歩によって,化学療法の効果から当初は切除不能と判断された症例も切除可能となる場合が少なからずみられるようになってきている.

◆最近はゲムシタビンやS-1による全身化学療法からのconversion therapyの報告が多くなってきている.

◆肝内胆管癌の治療の原則はあくまで外科切除であるが,conversion therapyの発展によって肝内胆管癌の手術適応も大きく変わる可能性がある.

局所進行/切除不能膵癌に対する化学放射線療法後の根治切除の意義

著者: 伊佐地秀司 ,   岸和田昌之 ,   村田泰洋 ,   小林基之

ページ範囲:P.66 - P.72

【ポイント】

◆わが国で膵癌にゲムシタビンが保険適用となった2001年以降,有意に生存率の改善が得られている.

◆膵癌は切除可能(R),切除可能境界(BR),切除不能(UR)に分類して治療方針を立てることが重要である.

◆BRおよびUR膵癌に対しては化学放射線療法の施行後に再評価し,切除適応を判断する方法が推奨される.

ポイント画像で学ぶ腹腔鏡下低位前方切除術・1【新連載】

術野展開から中枢側血管処理

著者: 長谷川傑 ,   篠原尚 ,   松末亮 ,   大越香江 ,   山田理大 ,   河田健二 ,   川村純一郎 ,   坂井義治

ページ範囲:P.74 - P.83

■はじめに

 腹腔鏡の出現は外科手術手技の発展に大きな影響を与えた.特に手術画像の共有,保存が可能な点は,いつでもどこでも手術画像を反復して閲覧することを可能とし,手術手技の学習に大いに役立っている.学会,インターネット,DVDなどでも容易に動画の提示,閲覧が可能となり,手術の学習は動画全盛期となっている.

 しかし,実際の手術中に術野のどこを切離・剝離するかの判断は,動画のなかの“ある一場面”(の組み合わせ)からなされているのである.今回,動画ではなく,あえて静止画にこだわった理由はそこにあり,術中に悩みやすい場面を提示することにより,読者に問題を提起し,実際の手術における判断の一助としてもらうことを目標とした.

 そのためには,もちろん,正しい外科解剖の理解と,その解剖をしっかりと明らかにするための展開方法が重要になる.それを示すために,共著者として篠原尚先生にも加わっていただき,美しい解剖のシェーマと術野展開の図を作成していただいた.実際の手術画像では表しきれない,術野全体の俯瞰や解剖の理解の助けとなればありがたい.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・19

減量外科の薬剤管理

著者: 渡部直樹 ,   笠間和典

ページ範囲:P.84 - P.89

 元気ですかぁ~~~っ!!

 元気があれば薬剤管理だってできるっ!!

 ということで,今回のテーマは「減量外科の薬剤管理」です.私は四谷メディカルキューブ薬剤師の渡部と申します.減量外科チームのメンバーとなって1年あまり,薬剤師として患者さんに何ができるかを考えながら,日々奮闘しています.今回は減量外科というちょっと特殊な分野において,薬剤師が何をすべきか,また何が必要なのかをわかりやすくお届けできればと思います.それでは,よろしくお願いします!

Expertに学ぶ画像診断・10

小腸内視鏡

著者: 矢野智則 ,   山本博徳

ページ範囲:P.90 - P.95

はじめに

 ダブルバルーン内視鏡(double-balloon endoscopy:DBE)とカプセル内視鏡(capsule endoscopy:CE)の登場は小腸疾患に対する内視鏡的アプローチを可能にした.特にDBEは観察だけでなく処置も行えることから,小腸疾患の診断・治療戦略を大きく変えることにつながった.その後,DBEの2つのバルーンのうち,内視鏡先端のバルーンを省略したシングルバルーン内視鏡(single-balloon endoscopy:SBE)も登場し,現在では両者を総称してバルーン内視鏡(balloon assisted endoscopy:BAE)と呼んでいる.

 BAEの基本原理や適応となる疾患は両者共通で,深部小腸に到達できるだけでなく,高い操作性も維持しながら到達できるという点で,従来のpush式小腸内視鏡とはまったく異なっている.本稿では,BAEを中心に解説する.

外科専門医予備試験 想定問題集・1【新連載】

消化管

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   杉本卓哉

ページ範囲:P.96 - P.102

出題のねらい

 日本外科学会外科専門医予備試験は,例年100~110題の出題があります.実際の試験問題は非公開ですが,同等の難易度を想定した練習問題を作成しました.第1回は消化管を扱います.この領域は20問前後の出題があり,食道,胃,小腸,大腸,肛門の解剖・疾患について幅広く問われます.ガイドラインを意識した出題も散見されますので,日々の診療においてもガイドラインと照らし合わせて勉強していくとよいでしょう.

FOCUS

ぜひ知ってほしい「神経因性骨盤臓器症候群」(NIS)

著者: 高野正博

ページ範囲:P.104 - P.109

はじめに

 まだあまり知られていない「神経因性骨盤臓器症候群」(neurogenic intrapelvic syndrome:NIS)と呼ばれる病態がある.日常よくみられる肛門痛や腹部症状などを訴えるが,器質疾患もなく,原因不明の症状が続く.NISは肛門痛,括約不全,排便障害,腹部症状,腰椎症状の5つからなる症候群である.骨盤臓器を支配する神経の障害であり,近年増加している.

 本稿では,この病態や治療法を解説する.

病院めぐり

中電病院外科

著者: 今岡泰博

ページ範囲:P.110 - P.110

 当院は広島平和記念公園の程近くにあり,街中にもかかわらず閑静な場所に立地しています.春には病室から平和公園の満開の桜が一望でき,夏には平和記念式典,秋には山々の紅葉も展望できます.また,建物自体も広島市の平成5年度優秀建築物(景観賞)に選ばれるなど,患者様にもゆったりとした環境が提供できているものと思います.院内も日中ずっと清掃されていて,赴任当初は清掃員があまりに目立つので驚いたものです.

 病床数は248床で,そのうち外科は28床です.外科スタッフは4名で,経験豊富なベテランだけで構成されており,拡大手術から患者様に優しい低侵襲手術まで,それぞれの患者様に現状で一番適した医療を提供する努力をしています.取り扱う疾患は,頸部(甲状腺)から胸部(乳腺,肺,食道,縦隔など),腹部(胃,小腸,結腸,直腸,肝,胆,膵臓など),肛門疾患までを対象としています.当科は広島における内視鏡外科手術の草分けとして1991年に腹腔鏡下胆囊摘出術を始め,症例数も2,000例になろうとしています.胃,大腸に対しても積極的に腹腔鏡下手術を行っており,2年前からは胆囊,虫垂を中心に単孔式腹腔鏡下手術も取り入れ,日々研鑽を積んでいます.

佐田厚生会 佐田病院外科

著者: 佐田正之

ページ範囲:P.111 - P.111

 当院は福岡市の都心部に位置する病床数180,職員220名の急性期病院です.

 ここ福岡市は黒田52万石の城下町「福岡」と商人の町「博多」が明治時代に1つになって誕生しました.九州地方の経済,行政,交通,文化の中心であり,九州最大の商業地天神や繁華街として全国的に有名な中洲があります.また,博多祇園山笠や博多人形,博多織など数々の歴史・文化が色濃く残り,新鮮な魚介類,博多ラーメン,辛子明太子など食べ物も安くて美味しい魅力的な街です.また昨年3月の九州新幹線全線開業を機にJR博多駅ビルも「JR博多シティ」として生まれ変わり,博多―天神を軸とした更なる拠点性の高まりが期待されています.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑪

“スコープ・完結編”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.112 - P.114

近くは顕微鏡で観察すべし.

  遠くは望遠鏡で観察すべし.

どちらも拡大視するものなり.

  似ているようで別物.

    甲乙つけ難し.

臨床報告

術後に皮膚症状の著明な改善を認めた皮膚筋炎合併胃癌の1例

著者: 南村圭亮 ,   岡村裕輔 ,   梅村彰尚 ,   平田泰 ,   真船健一

ページ範囲:P.115 - P.120

要旨

患者は61歳,女性.両手指伸側,顔面,背部に皮疹を自覚して皮膚科に通院中,食欲不振を認めたため内科を受診した.上部消化管内視鏡検査で前庭部に3型進行胃癌を認めた.典型的な皮膚症状(びまん性紅斑,ゴットロン徴候,ヘリオトロープ疹)を認めたが筋炎症状に乏しく,amyopathic dermatomyositis(ADM)と診断した.幽門側胃切除術と腹腔内化学温熱療法を施行した.術後1か月目に皮膚症状は消失し,腫瘍マーカーも正常化した.術後9か月目に肝門部にリンパ節再発をきたし,11か月目に急速な経過で死亡に至ったが,皮膚症状の再燃は認めなかった.

スキルス胃癌上に併存した有茎性高分化型管状腺癌によってball valve症候群をきたした1例

著者: 岩﨑渉 ,   小棚木均 ,   武藤理 ,   里吉梨香 ,   吉楽拓哉

ページ範囲:P.121 - P.124

要旨

スキルス胃癌上に高分化型腺癌が併存し,その有茎性の癌腫によってball valve症候群をきたした1例を経験した.患者は77歳,女性.食事時の心窩部膨満,嘔吐,腹痛を主訴とし,スキルス胃癌,癌性腹膜炎,十二指腸内腫瘤による幽門狭窄と診断された.患者の希望もあって胃全摘術を施行した.切除標本ではスキルス胃癌および小彎上に多発する隆起性病変を認め,その隆起性病変は病理組織学的に高分化型管状腺癌であった.幽門上の有茎性癌が十二指腸に脱出してball valve症候群をきたしたと判断された.スキルス胃癌に幽門狭窄を伴って認める場合でも,ほかの要因によって幽門狭窄が生じることを念頭に置いて精査・治療する必要がある.

術前診断しえた下部胆管狭窄を伴った広義の胆囊管癌の1例

著者: 足立尊仁 ,   種村廣巳 ,   大下裕夫 ,   今井寿 ,   岩田圭介 ,   山田鉄也

ページ範囲:P.125 - P.129

要旨

患者は74歳,女性.尿濃染に気づき近医を受診した.血液検査で肝機能異常を指摘され,精査加療目的で当院を受診した.術前画像診断によって胆囊管癌,下部胆管浸潤,リンパ節浸潤,門脈分岐部への浸潤の可能性もありと診断し,手術を施行した.術中所見では,門脈へはリンパ節の圧排のみで浸潤はなく,総肝管切除断端および周囲結合織も術中迅速病理検査で癌陰性であったため,PPPDを施行した.切除標本では,胆囊管に結節浸潤型の腫瘍を認めた.Ozdenらの診断基準では,腫瘍の中心が胆囊管に位置するものを胆囊管癌としている.本症例はOzdenらの定義による胆囊管癌であり,下部胆管や肝十二指腸間膜内に浸潤をしたものと考えられた.

短期間で腫瘤の増大と血清CA19-9の著増を認めた化膿性黄色肉芽腫性胆囊炎の1例

著者: 末田聖倫 ,   辻江正徳 ,   宮本敦史 ,   中森正二 ,   辻仲利政

ページ範囲:P.130 - P.134

要旨

患者は67歳,男性.胆石胆囊炎の診断で当院を受診した.超音波検査では胆囊壁は肥厚し,結石を認めた.造影CT検査では肝S4の胆囊に連続する部位に辺縁が造影されるlow density area(LDA)を認めた.血清CA19-9が605U/mlと高値であったが,画像所見から胆石胆囊炎と炎症の波及による肝膿瘍と考え,保存的に経過観察した.1か月後の造影CT検査ではLDAとその周囲の造影される領域の増大を認め,血清CA19-9も1,613U/mlと著増したため,悪性腫瘍を疑って外科的切除を施行した.胆囊内に結石を1個認め,胆囊壁は肥厚し肝臓へ穿通し肝膿瘍を形成していた.病理組織診では,組織球や巨細胞を多数含む肉芽組織が形成され,化膿性黄色肉芽腫性胆囊炎と診断した.

虫垂粘液囊腫に対し腹腔鏡補助下回盲部切除術を施行した4例

著者: 宮澤恒持 ,   井上宰 ,   臼田昌広 ,   望月泉 ,   佐熊勉 ,   小野貞英

ページ範囲:P.135 - P.138

要旨

虫垂粘液囊腫は稀な疾患であり,破裂することで腹膜偽粘液腫をきたす可能性があるため手術適応とされる.われわれは虫垂粘液囊腫に対し腹腔鏡補助下摘出術を施行した4例を経験した.年齢は53~79歳で,男性が3例であった.主訴は検診での便潜血指摘が2例,腹痛が2例であった.下部消化管内視鏡検査では3例で盲腸に外圧排所見を認めた.CTでは1.6~3cm径の囊胞性腫瘤を認めた.全例に腹腔鏡補助下回盲部切除術を施行し,腫瘤破裂や術後合併症を認めた症例はなかった.病理組織学検査では粘液囊胞腺腫が3例,過形成が1例であった.いずれの症例も再発を認めていない.わが国での44例の腹腔鏡下摘出例と合わせ考察した.

根治的3領域郭清を行った頸部食道癌肉腫の1例

著者: 川野雄一郎 ,   野口剛 ,   廣石和章 ,   和田伸介 ,   白石憲男 ,   北野正剛

ページ範囲:P.139 - P.142

要旨

癌肉腫には,間葉系性格を有した紡錘形細胞を伴う癌腫と,骨・軟骨形成を示す腫瘍がある.今回,われわれは頸部食道の癌肉腫の1例を経験したので報告する.患者は63歳,男性.スクリーニング目的で施行した上部消化管内視鏡検査で頸部食道に食道内腔の1/2周を占める1型の腫瘍を認めた.頸部食道癌の診断で食道全摘および喉頭全摘術を施行した.病理組織学的所見では異型重層扁平上皮が増殖する像と紡錐形腫瘍細胞が増殖する像が認められ,食道癌肉腫と診断された.紡錘形細胞はα-smooth muscle actinが陽性に染色され,癌肉腫と考えられた.術後52日目に軽快退院した.

腹壁瘢痕ヘルニア術後20か月で発生した遅発性メッシュ感染の1例

著者: 渋谷雅常 ,   寺岡均 ,   中尾重富 ,   坂下克也 ,   金原功 ,   新田敦範

ページ範囲:P.143 - P.146

要旨

患者は52歳,男性.S状結腸穿孔術後の腹壁瘢痕ヘルニアに対して2007年7月に他院でComposix Kugel Patchを用いた修復術が施行された.2009年3月に手術痕に一致して発赤,腫脹,疼痛などの感染徴候が出現したため近医を受診し,精査加療目的に当院を紹介された.腹部CT検査で発赤部に一致して腹壁内の膿瘍形成を認めたため,切開・排膿およびドレーンの挿入を行った.ドレナージおよび抗菌薬による保存的治療では完治には至らず,治療開始後72日目にメッシュ除去術を施行した.メッシュ感染は早期感染と遅発感染に分類されるが,遅発性感染に関する本邦報告は非常に稀である.腹壁瘢痕ヘルニア術後約2年が経過して発生したメッシュ感染の1例を経験したので報告する.

直腸癌に対する腹腔鏡下手術後にトロッカーサイトから壊死性筋膜炎を生じた1例

著者: 坂本一喜 ,   山口智之 ,   片岡直己 ,   冨田雅史 ,   新保雅也 ,   牧本伸一郎

ページ範囲:P.147 - P.151

要旨

患者は56歳,男性.直腸癌に対して腹腔鏡補助下直腸切除術を行い,右下腹部の15mmトロッカーサイトからドレーンを挿入した.術後に縫合不全が生じ,ドレーン挿入部を中心に広範な炎症を認めた.CTで皮下気腫がみられたため術後7日目に小切開して排膿を行ったが,全身状態が悪化したため術後26日目に追加切開した.壊死性筋膜炎の所見であったためデブリードマンを行った.トロッカーサイトをドレーン挿入部として使用したことによって腹腔内の細菌が腹壁内に広がりやすい状態となり,糖尿病が基礎疾患にあったため壊死性筋膜炎に進展したものと思われた.壊死性筋膜炎は腹腔鏡下手術後にも生じることがあるため,早期の認識,診断と外科的デブリードマンが必要である.

書評

安達洋祐(著)「消化器外科のエビデンス 気になる30誌から(第2版)」

著者: 渡邊昌彦

ページ範囲:P.31 - P.31

 私は,外科に入局して1年目に長野県の小さな市立病院に出張した.生まれて初めて本格的な手術の手ほどきをしてくれた外科部長から,胃切除後や結腸切除でドレーンは不要,胃管は手術翌日に抜けと教わった.翌年,大都市の基幹病院に出張した私は,ドレーンは5日以上留置,胃管は排ガスがあるまで置くようにしつけられた.当時の私は疑うことを知らず「どちらも理屈は通っている」と自分を納得させ,しばらく,いや長年にわたって郷に入ったらそのまま郷に従ってきた.

 8年前現在の職に就いた.ところが新しい職場での術後管理の常識は,胃管,ドレーン,抗生剤,包交(驚くなかれ,毎日毎日ドレーンや創のガーゼを交換していたのである)にはじまって,あらゆることが自分にとっての非常識であったのだ.こうなったら自分の常識を押し付け,近代化する以外に道はない.しかし若手に経験則を押し付けるだけでよいのだろうか.指導者として「彼らを理論的に納得させる義務がある」のである.しかし,「いちいち些細なことで文献など調べてはいられない」と自問自答を繰り返していた.

辻仲康伸(監修)「大腸肛門病ハンドブック」

著者: 土屋周二

ページ範囲:P.59 - P.59

 本書は簡便なガイドブックというより,この分野の全体を網羅した成書である.ご承知のように大腸と肛門は密接な関係があり,この両者を一体とした知識と技術をもとにした専門的な医療が求められる.近代,欧米ではそのような視点から水準の高い施設がつくられていったが,わが国では少し遅れ1970~80年代ごろから各地にセンター的施設が創設され,優れた実績を挙げている.またオーストラリア,アジア諸国地域にも欧米の一流施設に比肩するものができ,その水準も高い.有名なGoligherの名著は既に1961年に刊行されたが,その後世代が代わり,内容を新たにした成書が内外で次々に発刊されている.

 本書監修者の辻仲康伸氏は外科,特に大腸肛門病について修練と研究を積まれ,評者の現職時代には大変に教えられるところが多かった.そして高い志を持って大腸肛門病専門の施設を開設されたのである.約20年が経過した現在では大規模な真の意味での大腸肛門病センターとなり,多数のエキスパートと共に活動されている.

ひとやすみ・81

学会における楽しみ

著者: 中川国利

ページ範囲:P.65 - P.65

 学会では日々の臨床で経験した知見を発表するとともに,新たな知識を得ることができる.しかしながら最近は,医学的な関心もさることながら関心事がほかに移りつつある.

 常日頃は疎遠にしている友人や知人に久しぶりで会うと,まずは互いの近況を語り会う.若いときは大学時代の同級生や医局時代の同世代と会っても,特に医療以外の話題で話すことはなかった.しかし,私頃の年代になると,医療より病院経営,家族そして自己の健康に関することが多くなる.

勤務医コラム・32

そこに解はない

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.73 - P.73

 毎回しょうもない話ばかりなので,今回はまじめにいかせてください.

 大学医学部に地域医療関係の講座ができて,われわれ勤務医の労働環境についてのアンケート調査がきた.「当直はどうか」「休みはどうか」「給料はどうか」「肉体的にきついか」「精神的にはどうか」などと尋ねられ,「そう言われてもネェ~」といったナマ返事を記入して返送した.その後,今度は厚労省から同様のアンケート調査がきた.相も変わらず月並みな質問ばかり.要するに,「勤務医は寝る暇がなく,給料が安く,すぐ訴えられる状況にあり,このままでは日本の医療が危ういから,医者にいろいろ尋ねて実態を把握し,問題解決に資する方向で次の一手を考えよう」ということらしい.

1200字通信・35

病院食

著者: 板野聡

ページ範囲:P.103 - P.103

 最近になって入院を経験した知人から,「病院食が美味しかったですよ」と聞かされました.じつは,院長職を拝命して以来,病院での昼食は検食で済ませており,けっこう美味しいと感じていただけに,嬉しく思ったところですが,あらためて病院の食事について考えさせられることになりました.

 病院食は従来,治療の一環と考えられ,味は二の次といった感があったことは否めませんが,いつの頃からか,また日本人の食生活の改善もあってか,美味しさも求められるようになっています.当院では栄養士さんたちの工夫で,味はもちろんのこと,お正月や雛祭り,七夕祭りなど,季節の節目には折り紙を付けたりして目にも美味しい季節料理を提供し,患者さんに喜んでいただいています.

昨日の患者

ガンちゃん,よろしく

著者: 中川国利

ページ範囲:P.134 - P.134

 どんなに修行を積んだ人でも,また,どんなに徳が高い人でも,死を前にするとたじろぎ恐れおののくのが常である.しかし,ごく稀には従容として死を受け入れる,高齢者の患者さんも存在する.

 Uさんは90歳代前半で,3年前に下血を主訴に来院した.下部消化管内視鏡検査を行うと直腸癌を認めたため,直腸前方切除術を施行した.外来で経過観察をしていたら,肝臓に多発性の転移をきたした.高齢にもかかわらず元気なため,肝切除や強力な癌化学療法も考慮した.しかし,Uさんは「もう結構です」と拒否された.そこで,副作用の少ない経口抗癌剤治療を勧めた.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.24 - P.24

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.30 - P.30

投稿規定

ページ範囲:P.152 - P.153

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.154 - P.154

次号予告

ページ範囲:P.155 - P.155

あとがき

著者: 畠山勝義

ページ範囲:P.156 - P.156

 読者の皆様には新年を迎え,新たな抱負に向けて日々努力していることと拝察しております.昨年は本当に災害の多い年でした.3月11日の東日本大震災や,7月の新潟・福島豪雨,9月の台風12号による豪雨などによる被害は甚大でありました.今年はそのような大きな自然災害がないことと,昨年の被災からの1日でも早い復旧・復興を期待し,また復旧・復興を強く望むものであります.

 さて,私もこの3月で定年退職となりますので,本誌の「あとがき」はこれが最後になると思います.このあとがきで7回ほど連載的に掲載した内容に佐渡に於ける「トキの野生復帰」がありますので,これまでの状況をまとめておきたいと思います.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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