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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科67巻10号

2012年10月発行

雑誌目次

特集 炎症性腸疾患のすべて―新しい治療戦略

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.1225 - P.1225

 炎症性腸疾患の内科的治療は,分子標的治療薬である抗TNFα抗体製剤(インフリキシマブ)などをはじめとする様々な治療により大きな進歩を遂げている.クローン病は根本的治療法がないため,現在の治療目標は寛解導入・維持と患者のQOLを高めることである.高度な狭窄,瘻孔あるいは穿孔などを認める場合は外科治療の適応となる.しかし,近年では生物製剤の発展が著しく,いまやクローン病の自然史を変える可能性も期待されている.また,抗ヒトTNFα抗体製剤は2010年6月に潰瘍性大腸炎に対しても効能・効果が追加承認された.潰瘍性大腸炎においても,分子標的治療薬による治療効果が期待されている.

 一方,外科治療においては,腹腔鏡下手術などをはじめとした技術進歩が認められ,低侵襲化や,整容性の向上によるQOLを重視した治療が行われている.特に炎症性腸疾患では,悪性疾患と比較して外科治療となる対象がより若年者の場合も多く,整容性も外科治療を考慮するうえで重要なポイントとなる場合もある.また,腹腔鏡下手術が行われる件数が増えているとはいえ,開腹手術・腹腔鏡下手術ともに利点・欠点が存在する.

〔潰瘍性大腸炎〕

潰瘍性大腸炎の診断と内科治療

著者: 水野慎大 ,   松岡克善 ,   日比紀文

ページ範囲:P.1226 - P.1230

【ポイント】

◆潰瘍性大腸炎は多因子によって生じる,大腸粘膜を主座とした慢性炎症性疾患である.

◆潰瘍性大腸炎の診断に際しては,感染性腸炎をはじめとする他疾患の除外が重要である.

◆重症度・病変範囲に応じて寛解導入・寛解維持それぞれに適した治療法を選択する.

潰瘍性大腸炎の外科治療 ①開腹手術

著者: 池内浩基 ,   内野基 ,   松岡宏樹 ,   坂東俊宏 ,   竹末芳生 ,   冨田尚裕

ページ範囲:P.1231 - P.1234

【ポイント】

◆回腸囊肛門吻合術(IPAA)を行うときは,回腸囊が十分に肛門まで到達することを確認してから粘膜切除を開始すること.

◆到達が疑わしい症例では躊躇することなく,回腸囊肛門管吻合術(IACA)に術式変更することが望ましい.

◆粘膜切除時は内肛門括約筋をできるだけ損傷しないように,愛護的に操作し,回腸囊肛門吻合は24針等間隔で確実な吻合を行う.

潰瘍性大腸炎の外科治療 ②腹腔鏡下手術

著者: 小澤平太 ,   中村隆俊 ,   國場幸均 ,   池田篤 ,   内藤正規 ,   佐藤武郎 ,   三浦啓寿 ,   筒井敦子 ,   小倉直人 ,   渡邊昌彦

ページ範囲:P.1235 - P.1241

【ポイント】

◆潰瘍性大腸炎(UC)に対する腹腔鏡下大腸全摘術(LTP)の適応は,UCの手術適応を満たすもののうち難治例がよい適応であり,重症例や緊急手術に対する安全性は明らかではない.

◆肛門挙筋群が明らかになるまで直腸を十分に剝離し,歯状線の1~1.5cm口側で直腸を切離する.

◆LTPは開腹大腸全摘術(OTP)に比べて出血量,術後疼痛,消化管機能の回復および合併症率の点で優れており,肛門機能は同等である.

癌合併例に対する治療

著者: 日吉雅也 ,   風間伸介 ,   須並英二 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1242 - P.1249

【ポイント】

◆潰瘍性大腸炎は,大腸癌のハイリスク群であり,特に罹病期間,罹患範囲が主なリスクファクターである.

◆サーベイランス生検法として,従来のstep biopsyに代わって,色素内視鏡を併用したtarget biopsyが欧米のガイドラインでも推奨されるようになってきた.

◆平坦粘膜にlow-grade dysplasia(LGD)を認めた場合,現時点では腸切除か短期間でのサーベイランスかのコンセンサスは得られていない.

〔クローン病〕

クローン病の診断と内科治療

著者: 齊藤詠子 ,   渡辺守

ページ範囲:P.1250 - P.1256

【ポイント】

◆クローン病はいまだ難治度が高い疾患であり,患者数は増加傾向にある.

◆厚生労働省の診断基準は2010年に大きく変更されており,いまだに診断が難しい疾患である.

◆近年,多種多様な新薬が治療に導入され,治療効果は以前に比べ格段に改善している.

クローン病の外科治療 ①開腹手術

著者: 山本隆行

ページ範囲:P.1258 - P.1263

【ポイント】

◆症状の原因になっている主病変が手術適応であり,すべての病変が手術適応となるわけではない.

◆小腸を可能な限り温存する.広範囲切除の必要はなく,適応があれば狭窄形成術を用いる.

◆術後合併症のリスクが高い患者では,腸管吻合を避けたり,吻合を行った後にその口側に人工肛門(covering stoma)を造設する.

クローン病の外科治療 ②腹腔鏡下手術

著者: 長谷川博俊 ,   岡林剛史 ,   森谷弘乃介 ,   茂田浩平 ,   瀬尾雄樹 ,   星野剛 ,   石田隆 ,   菊池弘人 ,   寒河江三太郎 ,   清島亮 ,   高橋秀奈 ,   松井信平 ,   山田暢 ,   遠藤高志 ,   石井良幸 ,   北川雄光

ページ範囲:P.1264 - P.1268

【ポイント】

◆Vienna分類はクローン病の病型,病変部位をできるだけシンプルに分類するために1998年に提唱された分類で,診断時の年齢,病変部位,狭窄や穿通などの病態からなる.

◆腹腔鏡下手術の適応については,上述のVienna分類を用いると,B3L3/L4以外,特にB2L1は最も良い適応である.B3L3/L4では,開腹移行率が高率で,合併症もそれ以外の群に比して高くなる.

◆腹腔鏡下手術の長期予後について,開腹手術とのRCTの結果や筆者らの検討では,累積再手術率は開腹手術との間に有意差を認めなかった.

クローン病に合併した癌の治療

著者: 杉田昭 ,   小金井一隆 ,   辰巳健二 ,   山田恭子 ,   二木了 ,   黒木博介 ,   荒井勝彦 ,   木村英明 ,   鬼頭文彦 ,   福島恒男

ページ範囲:P.1270 - P.1275

【ポイント】

◆クローン病では小腸癌,大腸癌の合併頻度が有意に高く,後者のうち,わが国では欧米と異なり,痔瘻癌を含めた直腸肛門管癌が多い.

◆クローン病に合併した大腸癌は進行癌で発見されることが多く,予後は不良であり,下血,粘液排出の増加,狭窄症状の増強などの臨床症状の変化に留意する.

◆クローン病に合併した大腸癌の早期診断には,直腸肛門管病変に対する細胞診や生検での組織診断を行うことが必要であり,癌サーベイランスプログラムの確立が望まれる.

クローン病の肛門病変の診断と治療

著者: 二見喜太郎 ,   東大二郎 ,   永川祐二 ,   石橋由紀子 ,   三上公治 ,   平野公一 ,   山本希治 ,   小島大望 ,   山口良介 ,   上床崇吾 ,   前川隆文

ページ範囲:P.1276 - P.1281

【ポイント】

◆クローン病における肛門病変の病態は潰瘍性病変(裂肛・肛門潰瘍)と感染性病変(痔瘻・膿瘍)に集約される.難治性で再発を繰り返すため,また癌合併の好発部位でもあり,長期的な管理を必要とする.

◆外科治療の対象は感染性病変であり,適切なドレナージと肛門機能の保持を目標としてseton法ドレナージが第1選択となり,適宜薬物治療を付加する.

◆下部直腸肛門部癌の診断には,麻酔下での経肛門的な組織検査に内視鏡検査を組み合わせるとサーベイランスとしても期待できる.

〔小児〕

小児のIBD

著者: 余田篤

ページ範囲:P.1282 - P.1288

【ポイント】

◆小児のIBDは成人より病変範囲が広範囲で重症のことが多く,発症後も重症化しやすい.

◆新規の免疫調節薬や生物製剤がIBD治療に導入されているが,投与に際しては従来の治療に抵抗する例を対象とし,これらの薬物の発症初期からの安易な投与は推奨されない.

◆小児IBDの外科治療は本人だけでなく,保護者にとっても受容が困難なことが多く,外科治療が遅れる傾向にある.

FOCUS

「食道癌診断・治療ガイドライン2012年4月版」(第3版)の改訂点のポイント

著者: 宮崎達也 ,   宗田真 ,   猪瀬崇徳 ,   田中成岳 ,   鈴木茂正 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1290 - P.1294

はじめに

 「食道癌診断・治療ガイドライン」は日本食道疾患研究会(現:日本食道学会)が食道癌の日常診療に役立てることを目的に2002年12月版(初版)を作成したことに始まり,5年ぶりの改訂を経て2012年4月に第3版1)が出版された.

 本稿では第3版における主な改訂点,ポイント,活用法について概説する.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・5

治療成績の性差―傷病の経過に男女差はあるか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.1296 - P.1299

素朴な疑問

 年齢と性別は診断や治療に欠かせない患者情報であるが,治療方針や術式を決めるときに,性別に配慮する外科医は少ない.男性と女性は生物学的に異なるが,同じ病気でも治療成績が異なることがあるのだろうか.がん患者の生存率や外傷患者の死亡率に男女差があるのだろうか.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑳

“「モニター…」”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.1300 - P.1303

スコープは目なり

  モニターは視覚野なり

たかがモニター? だからモニター!

  良いモニターを広い視野で!!

病院めぐり

住友病院外科

著者: 妙中直之

ページ範囲:P.1304 - P.1304

 2011年に創立90周年を迎えた当院は,北は堂島川(美味しい「堂島ロール」はご存知ですか?),南は土佐堀川に囲まれた細い中洲,中之島にある唯一の病院です.中之島には,大坂(現・大阪市)が天下の台所といわれた江戸時代,その水運を利用するために各藩の蔵屋敷が立ち並んでいたようで,福沢諭吉生誕の地(中津藩蔵屋敷跡)なども近いです.現在の中之島は,大阪都構想で話題の大阪市役所や日本銀行,中央公会堂などがあり,また,大阪市立科学館や,国際美術館,東洋陶磁美術館,中之島図書館などもあって,大阪のビジネス街の中心地,文化の発信地です.

 当院は大阪国際会議場やリーガロイヤルホテルに隣接しており,学会などで大阪にこられたことのある方は,「ああ,あそこの病院か」と思われるかもしれません.三井住友銀行や住友化学,住友商事,住友生命,住友電工などの住友グループ(住友家は別子銅山を源流とした銅事業を発端に江戸時代の豪商となった)の病院ですが,もちろん住友グループ関係者のみを診ているわけではありません.

津山中央病院外科

著者: 林同輔

ページ範囲:P.1305 - P.1305

 当院は岡山県の県北に位置する人口11万人弱の津山市にあります.当市は古くは宇田川一族に代表される蘭学の故郷として名を馳せ,近年ではB級グルメの「津山ホルモンうどん」で全国的に有名です.当院は財団法人津山慈風会を母体に昭和29年に設立されました.地域の中核病院として発展を続け,国立療養所津山病院の経営移譲を受けたのち,平成11年に救命救急センターを併設した新病院として現在の地に移転しました.岡山県北の拠点病院として近隣25万人の医療圏を持ち,兵庫県の西部からも患者さんが来院しています.

 病床数は535床で,救命救急センター30床を備えています.年間の救急外来患者数は約26,000人で,救急車4,600台を受け入れており,1年365日24時間,県北の救急医療を担っています.また,早くからIT化に力を入れており,電子カルテを新病院開設とともに採用し(中四国で2番目),独自のシステムを構築してきました.

臨床報告

経皮的ラジオ波焼灼療法後に発症した遅発性横隔膜ヘルニア嵌頓の1例

著者: 田尻裕匡 ,   杉町圭史 ,   金城直 ,   池部正彦 ,   山下尚毅 ,   東秀史

ページ範囲:P.1307 - P.1311

要旨

患者は66歳,男性.アルコール性肝硬変があり,2002年に肝細胞癌(HCC)に対しS2に経皮的エタノール局注療法,ラジオ波焼灼療法(RFA)を施行した.2004年にHCC再発(S7)に対して右肋間よりRFAを行った.2011年3月に嘔気・嘔吐と持続する右上腹部痛で救急搬送され,腹部CTで結腸の右胸腔内への逸脱を認め,横隔膜ヘルニア嵌頓と診断した.小開胸併用腹腔鏡下に修復術を行い,術中所見では右横隔膜に約5cmの筋膜欠損部を認め,大網および横行結腸が脱出し嵌頓していた.術後経過は良好で術後12日目に退院した.RFA後の上腹部痛症例では遅発性合併症である横隔膜ヘルニア嵌頓を鑑別する必要があり,本症と診断した際には早急な外科的治療を選択すべきである.

胆囊炎に併存し診断に苦慮した肝炎症性偽腫瘍の1切除例

著者: 辻義彦 ,   北野育郎 ,   澤田勝寛 ,   杉本幸司 ,   高橋卓也

ページ範囲:P.1312 - P.1316

要旨

症例は66歳,男性.弛張熱と上腹部痛を主訴に入院した.腹部超音波,CT,MRI検査にて胆囊頸部の壁肥厚とともに,肝S4に18mm径の境界明瞭で内部不均一な腫瘤影を認めた.抗菌薬投与でも症状改善が得られないため,準緊急で胆囊摘出術ならびに肝切除術を施行した.病理組織学的には肝腫瘤内に悪性所見はなく,多核巨細胞や形質細胞を含む炎症細胞浸潤を認めた.免疫組織染色ではIgG4陽性形質細胞が高頻度に出現しており,fibrohistiocytic typeのIgG4関連肝炎症性偽腫瘍である可能性が示唆された.術後は特に問題なく経過し,術後8か月目の現在,外来通院中である.

腸重積にて発症した小腸原発悪性ラブドイド腫瘍の1例

著者: 盛直生 ,   櫻井直樹 ,   石岡大輔 ,   飯澤肇 ,   田村元 ,   刑部光正

ページ範囲:P.1317 - P.1321

要旨

症例は59歳,男性.2007年5月に腹部膨満感,嘔吐が出現した.前医を受診し,腸閉塞の診断でイレウスチューブを挿入したが改善せず,当院へ紹介となった.腹部CTで腸重積を疑い,緊急開腹手術となった.Treitz靱帯より190cmの部位で小腸腫瘍を先進部とする腸重積を認め,小腸部分切除術を施行した.肉眼的には小腸内に7cm大の弾性軟な腫瘤を認め,病理組織学的には大型で未分化な異型の強い腫瘍細胞が充実性に増殖しており,小腸原発の悪性ラブドイド腫瘍と診断した.術後約4年が経過するが,無再発生存中である.腸重積にて発症した小腸ラブドイド腫瘍は検索しえた限りでは自験例が初めてであり,ここに報告した.

幼児巨大ウィルムス腫瘍(腎芽腫)の1手術例

著者: 内山昌則 ,   村田大樹 ,   尾矢剛志 ,   浅見恵子

ページ範囲:P.1322 - P.1326

要旨

発熱で小児科医院を受診した3歳の幼児に腹部腫瘍が発見され,準夜帯に当科に緊急入院した.画像所見で巨大な右腎芽腫と診断されたが,急速に増大して貧血も増強したため,oncological emergencyとして入院3日目に腫瘍切除術を行った.術後経過は良好で,5日目から日本ウィルムス腫瘍スタディグループ(JWiTS)プロトコールに則った化学療法(EE-4A)を行った.JWiTSの中央病理で腎芽腫・腎芽型,病期Ⅰと診断された.化学療法を7クール施行した.現在,術後1年で,局所再発や転移所見はなく経過良好である.地域病院で小児悪性腫瘍の手術や治療を行う際には,各都道府県の小児悪性腫瘍ボードおよび全国的腫瘍スタディグループとの連携が必要と考えられた.

主膵管内発育を伴った多発性非機能性膵内分泌腫瘍の1切除例

著者: 遠藤芳克 ,   渡邉貴紀 ,   甲斐恭平 ,   佐藤四三 ,   藤澤真義

ページ範囲:P.1327 - P.1332

要旨

患者は56歳,男性.B型慢性肝炎で加療中に施行した腹部超音波検査で膵体部に20mm大の腫瘤を指摘され,当科を紹介された.浸潤性膵癌との術前診断のもと膵体尾部脾合併切除術を施行したが,病理組織学的検査の結果,主腫瘍はpancreatic endocrine tumor(islet cell tumor),well differentiated endocrine tumor,uncertain behabiorであり,主膵管内に進展・発育していた.免疫染色の結果はpancreatic polypeptide(PP)陽性で,insulin,glucagon,somatostatinはいずれも陰性であった.また,画像所見上は認識されていなかった約1mm大のendocrine tumorが4個認められ,1個はglucagon dominant,1個はpancreatic polypeptide dominant,2個はいずれのホルモンもごく少数のみ陽性であった.臨床的にホルモン過剰症状を伴っていないことから,最終的には非機能性膵内分泌腫瘍との診断となった.

乳頭癌,好酸性細胞型濾胞癌,低分化癌が併存した甲状腺多発癌の1例

著者: 和久利彦 ,   勝部亮一 ,   大多和泰幸 ,   佐藤直広 ,   神原健 ,   剱持雅一

ページ範囲:P.1333 - P.1337

要旨

患者は56歳,男性.検診で頸部腫脹を指摘され当院を受診した.甲状腺両葉にそれぞれ5cm以上ある腫瘤を触知し,Tgは1,000ng/ml以上であった.頸部超音波検査では両葉腫瘤ともに不均質な内部エコーを示し,両葉腫瘤の穿刺細胞診では濾胞性腫瘍が疑われた.CT検査では遠隔転移やリンパ節腫大はなく,腫瘤の周囲臓器への浸潤もなかった.甲状腺全摘術+両側頸部中央区域リンパ節郭清を行った.病理組織所見では,両葉に非連続性の大小の腫瘤を認めた.両葉上極には1cm以下の乳頭癌が存在していた.左葉の5cm大の腫瘤は好酸性細胞型濾胞癌であり,右葉の5cm大の腫瘤は低分化癌であった.われわれが調べえた限りでは,乳頭癌,好酸性細胞型濾胞癌,低分化癌が併存した報告例は過去に認められなかった.

非開胸頸部襟状切開アプローチ手術で摘出した,頸部から縦隔に進展する副甲状腺囊胞の2例

著者: 上林孝豊 ,   鈴木卓 ,   藤田葉子

ページ範囲:P.1338 - P.1342

要旨

 今回われわれは頸部アプローチによって摘出した,頸部から中縦隔に進展する副甲状腺囊胞を2例経験した.2例とも胸部単純写真で気管の高度な右側偏位を指摘され受診した.頸部から中縦隔に進展するそれぞれ長径67mm,86mmの囊胞性病変であり,ともに頸部アプローチ下に摘出した.頸部から縦隔に進展した囊胞性病変の摘出に際しては,縦隔への進展が高度と思われても,浸潤や癒着が少ないと予想されるならば,侵襲や創痛の小さい頸部アプローチのみでの摘出を試みるのが有意義であると思われた.

書評

佐藤 裕(監修)/桑野博行(編)「外科学 温故知新」

著者: 岩中督

ページ範囲:P.1257 - P.1257

 本書は「日本外科学会53の会」という昭和53年卒業の同級会に所属する外科医たちによって,それぞれの専門領域や得意とする総論領域(外科免疫,輸液栄養,癌化学療法など)が分担執筆された大論文集である.全36編に3編の補遺が加わった本書の執筆にあたっては,どの執筆者も,多忙な外科医生活の合間に,歴史的調査をはじめとする様々な検索,多大な労力を費やされたに違いない.どの論文をとっても,淡々と,また堅苦しく医学史が述べられているのではなく,随所に執筆者の個人的な見解,豊かな経験が溢れており,気楽に読める外科全領域の集大成ともいえよう.

 本書には全編に共通して,それぞれの領域の「これまで」が振り返られ,蓄積されてきたいろいろな研究・臨床や開発の歩みが「今」にどのように反映されたか,また若い人たちの教育も含めて「これから」にどうやって結びつけていけばよいか,が明快に記述されている.さらに個々の論文は,今さら恥ずかしくて人には聞けないような基礎的な内容も非常にわかりやすく解説している.コラムとして所々に散りばめられた,監修者の佐藤裕氏(医学史専門家)のうんちくも絶妙であり,本編の論文に色を添えるのみならず,読者の知識欲を巧みに刺激する.全編を通読した個々の領域の専門医諸氏には,幅広い外科の知識を取り戻すことで“general surgeon”としての診療レベルの向上をお約束できよう.また,研修医や医師以外の方々には,肩肘張らずにエッセイを読むような感覚で本書に目を通していただきたい.外科学全体を俯瞰する知識の宝庫である本書は,必ずや皆さんの現在のお仕事の幅を広げるであろう.

工藤進英(著)「大腸内視鏡挿入法 第2版 軸保持短縮法のすべて」

著者: 上西紀夫

ページ範囲:P.1295 - P.1295

 待ちに待った本が刊行された.大腸内視鏡の世界のトップリーダーである著者による,質の高い大腸内視鏡診療をめざすすべての消化器内視鏡医のための教科書である.序文に書かれているように,“初版時の時代背景と異なる内視鏡の世界が到来しており,診断・治療面でのドラスティックな変化の中で,大腸内視鏡挿入法が万古不易のままではありえない”というコンセプトでまとめられた本書は,まさに軸保持短縮法を軸とし,安全で確実な大腸内視鏡挿入法について,豊富なイラストや内視鏡像を用いてわかりやすく解説している.また本書は,『大腸内視鏡挿入法』と題しているが,内容としては大腸内視鏡に関する基礎のみならず,大腸内視鏡の診断,治療に関する最新の情報もコンパクトに掲載されている.

 さて,初版の発刊以来15年が経過し,この間に蓄積された豊富な経験に基づき,そして機器の改良,進歩により挿入法も進化しているが,その基本はone man methodであることに変わりがない.そして,挿入技術とともに変わらないのが心構えである.確かに以前に比べると,新しい機器の登場,適切な上級医による指導,シミュレーターやコロンモデルによる修練などにより挿入が比較的容易になったことは事実である.しかしながら,上部消化管内視鏡に比し大腸内視鏡検査は難しい手技であり,また,ベテランであっても挿入困難例に遭遇することはまれではない.そこで重要なのは著者が強調している“熱意と忍耐”である.すなわち,“急がば廻れ”であり,基本に立ち返る心構えである.その難しさを安全,確実に乗り越えていくための解説が具体的に,わかりやすく書かれている.そのわかりやすさは,“現場のみが教える珠宝の言葉・真実(序文より)”に裏打ちされているためである.これに加えて,もう1つの本書の特色は,豊富なCOLUMNとして記載されたコメントである.基本は外科医であり,またスポーツマンである著者ならではのコメントであり,スポーツになぞらえた含蓄のある内容であり,大変楽しく読める.

昨日の患者

放射線被曝

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1263 - P.1263

 東日本大震災では地震そのものより,直後に発生した大津波による被害が甚大で,さらに東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射線被曝が深刻な影響を及ぼし続けている.

 Tさんは60歳代後半の直腸癌の術後患者さんで,福島県との県境に接した町に住んでいる.再発症状はないが,定期検査のために時折来院する.そして,「最近,何か変わったことはありませんでしたか」と聞くと,病気以外に四方山話も語ってくれる.

勤務医コラム・41

六道の辻

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.1269 - P.1269

 今年のゴールデンウィークは,医者になって30年目にして初めて日当直のない4連休となった.実は2回入っていたのだが,若い先生に無理を言って交替してもらい,旅行へ出かけた.学会がらみではない普通の旅行など何年ぶりだろうか.ちょっと思い出せない.

 京都へ行った.混雑することはわかっていたので,できるだけ人出の少ない小さな寺々を廻ることにした.毎日病院にいる身としては,昼間からこういう場所をのんびり歩くのは,異空間にいる感じがして心地良い.その異空間の中に東山鳥辺野の六道珍皇寺はあった.平安時代のはじめ,小野篁(おののたかむら)という頭脳明晰なお役人がいて,昼間は朝廷へ出仕し,夜はこの寺の井戸伝いに冥界へ下って閻魔大王に仕えていた,とのこと.さしずめこの寺は,あの世とこの世との境―六道の辻―にあった,ということらしい.

1200字通信・44

ブラックジョーク

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1288 - P.1288

 久しぶりにゆっくりと本屋さんに行く機会があり,面白い本に出会いました.なぜなら,今の日本を見ていて,こうしたことが起こりうるのではないかという思いがなくはなかったからでした.それは,「七十歳死亡法案,可決」(垣谷美雨,幻冬舎)という本です.「うっそ~,きっついブラックジョークやな」と思いつつも,買ってしまいました.

 時は2020年.その2年後から日本国民は70歳になると死ななければならず,国が安楽死用の薬を用意するというお話です.もっとも,この題名だけを見ると,なんと乱暴な,と御自分の年齢を考えて不愉快になる方も出てくるのではないでしょうか.実のところ,私も「あと12年か」と思いました.しかし,その題名に釣られて読んでみると,意外や意外,十数年間にわたって義母の介護を一人で行っている主婦を中心に,家庭を顧みない勝手な夫(身につまされます)や引きこもりの息子,家を出て非正規社員で頑張る娘など,今,われわれの周りで起こっている医療や介護,さらには若者の就職難といった様々な現実が取り上げられており,意外な展開に引き込まれていきます.また,現実の国会が声高に言うだけで何もできない体たらくなのに対し,この本の中では気持ちのよいほどに決断,実行されており,その1つがこの法案という皮肉です.義母が幼かったころの第二次大戦後の情景も描かれており,2011年の3.11にも通じる場面もあって,「今」の日本が抱える問題が凝集されて話が展開していきます.筋書きを語る野暮は止めておきますが,納得できる結末に,少し強烈すぎる題名とは裏腹に,爽やかな読後感が残る本でした.

お知らせ

平成24年度 NOTES研究会 研究助成応募要項

ページ範囲:P.1289 - P.1289

 NOTES研究会では本邦のNOTES研究を促進するために,平成21年より研究助成を行っております.本年度も下記の要項により研究を募集することになりましたので,ご案内申し上げます.なお,この制度は賛助会員の皆様のご協力のもとに設立されています.

ひとやすみ・90

手術手技の習得

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1306 - P.1306

 日本の外科医は,診断,手術,術後管理,癌化学療法,緩和ケア,さらには麻酔や救急まで,多面的な活動をしている.しかし,外科医本来の仕事は手術である.それでは,手術手技を習得するために,どうしたよいであろうか.

 手術手技は,先輩の手術に入って助手をしながら盗み取り,つぎに指導を受けながら自分で手術を行う.最後に後輩と手術を行い,指導することによって完全に習得したといえる.さらに達人になるためには,能力もさることながら,努力する必要がある.私が研修医の頃は,他人と話をしながらでも白衣のボタンで糸結びをしたり,自宅で縫合結紮の練習をしたものである.さらに,腹腔鏡下手術のミラーイメージを克服するため,鏡に向かって黒髪に混じる白髪を抜いたりもした.そして,今でも研修医と糸結びの練習をしている.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1294 - P.1294

原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.1311 - P.1311

投稿規定

ページ範囲:P.1343 - P.1344

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.1345 - P.1345

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1346 - P.1346

次号予告

ページ範囲:P.1347 - P.1347

あとがき

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.1348 - P.1348

 ロンドンオリンピックでは,女子サッカーを始めとしていろいろな種目でメダルが期待されましたが,その中でも期待が大きかったのは男子体操でしょう.その期待の男子体操で,日本のエース内村航平選手が見事個人総合で金メダルを獲得しました.団体で金メダルを逃した後,いろいろと厳しい状況もあったと思いますが,それらを払拭した素晴らしい金メダルでした.これまで,東京オリンピックの遠藤幸雄選手をはじめ,ミュンヘンオリンピックでムーンサルト(月面宙返り)を初めて成功させた塚原光男選手,いまだに二人しか成し遂げていないオリンピック個人総合の2連覇を果たした加藤沢男選手など,日本は体操王国でした.その後しばらく活躍があまり目立たなくなった時期がありますが,現在は体操日本が復活しています.

 ロンドンオリンピックが始まる前,テレビで内村航平選手の特別番組を見ました.今回のオリンピックで初めて披露する予定の新技も紹介されていました.外国の選手に見られてしまったら当日不利では…とも思いましたが,あと2週間足らずでオリンピックが始まるという時点では,もう関係ないのでしょう.そんな中で印象深かったのは,彼のイメージトレーニングです.現在でも競技を行う前に右腕を動かしながらイメージトレーニングをしているそうですが,これは彼が小さい頃からやっていたといいます.彼が小学生の頃シドニーオリンピックが開催されましたが,この時の鉄棒技のコバチ(バーを越えながら後方二回宙返り懸垂)の話が印象的でした.彼は,シドニーオリンピックでコバチを成功させた外国人選手のビデオを何回も何回も,ビデオがすり切れるほど繰り返して見てイメージトレーニングをしたそうです.そして実際にそのイメージでコバチにトライしたところ,難しい技であるコバチを1回目で成功させたのだそうです.こんなイメージトレーニングが重要なのは,手術においても同じ気がします.特に腹腔鏡下手術では,術者と助手が全く同じ画面を共有できるという特徴があります.その動画を繰り返し繰り返し見てイメージトレーニングをすることにより,より効率的な手術手技の上達が可能になると思います.実際に,腹腔鏡下手術の経験が少なくても,画像を何度も見てイメージができている人は上達が早いと私自身も実感しています.やはりどの世界においても,「見る」ということは物事の基本であるとしみじみと感じます.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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