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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科67巻12号

2012年11月発行

雑誌目次

特集 食道癌・胃癌切除後の再建法を見直す―達人の選択

ページ範囲:P.1353 - P.1353

 再建の方法は古くて新しい問題である.以前は器械吻合と手縫い吻合の違い,特性で論じられてきたが,最近では,完全内視鏡下での再建方法が導入されるなど,アプローチの面からも検討されなければならない.本特集では,食道・胃のそれぞれの領域における達人に,日ごろ行っている再建方法のポイントを紹介していただき,かつ,忌憚なくそれぞれの手技の長所,短所を述べていただいた.本特集が,若い先生方には,自分が術者になったときに行いたい再建方法を検討していただく,ベテランの先生には,自分が行っている吻合方法を再考していただく,それぞれの機会になればと考えて企画した.

再建法の歴史的変遷と現状

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.1354 - P.1357

はじめに

 食道癌・胃癌切除後の再建法は,小腸や大腸などほかの管腔臓器切除後と比較すると,明らかにバラエテイーに富んでいる.「胃癌治療ガイドライン」1)には再建法として表1のような手法が記載されているが,それぞれに長短があると明記されている.「食道癌診断・治療ガイドライン」2)では再建経路として,胸壁前,胸骨後,後縦隔・胸腔内が紹介されており,やはりそれぞれ一長一短があると記述されている.再建臓器としては,胃が最も多く用いられるが,ほかに,結腸,回結腸,空腸なども用いられると記述されている.一方,小腸や大腸切除後に再建経路あるいは再建臓器で悩むことはまずないであろう.これだけ選択肢があるということは,明らかに秀でている手法がないということと等しい.

 選択肢は経路や臓器だけではない.手縫いか器械吻合か,また,最近では開腹か内視鏡下の違いも論じなければならない.実に悩ましい.

〔基本事項から再建法を見直す〕

手縫い吻合,器械吻合の特性と違い

著者: 福島亮治

ページ範囲:P.1358 - P.1362

【ポイント】

◆手縫い吻合(特に断端を縫合するGambee法など)では粘膜の癒合が,器械吻合では漿膜の癒合が良好である.

◆縫合糸による吻合部の物理的接合強度は経時的に低下するが,器械吻合では術後早期の低下はみられない.

◆臨床的に,器械吻合は手縫い吻合と比べてやや狭窄が起きやすいが,そのほかは同等以上の成績が各種報告されている.

各種デバイスの特性

著者: 市川大輔 ,   小西博貴 ,   村山康利 ,   小松周平 ,   塩崎敦 ,   栗生宜明 ,   生駒久視 ,   窪田健 ,   中西正芳 ,   藤原斉 ,   岡本和真 ,   落合登志哉 ,   國場幸均 ,   大辻英吾

ページ範囲:P.1363 - P.1367

【ポイント】

◆自動縫合・吻合器のそれぞれの特性を理解したうえで,適切なデバイスを選択する.

◆縫合・吻合終了後には必ず縫合線のチェックを行い,異常を認めた場合には適宜,対処する.

◆多少の縫合線における出血は容認するぐらいの気持ちで,縫合・吻合部の断端組織の血流の維持を最重要事項と考える.

縫合糸の特性

著者: 名波竜規 ,   島田英昭

ページ範囲:P.1368 - P.1373

【ポイント】

◆縫合糸について,求められる特性や分類など基本的な内容についてまとめた.

◆体内に残留する縫合糸は吸収性のものが推奨される.

◆実際に使用されている縫合糸の特徴を一覧とする.

〔達人が勧める再建法〕 食道癌

器械吻合による頸部食道胃吻合

著者: 細川正夫 ,   上村志臣 ,   山田広幸 ,   坂下啓太 ,   吉川智宏 ,   木ノ下義宏 ,   久須美貴哉 ,   西田靖仙

ページ範囲:P.1374 - P.1379

【ポイント】

◆頸部食道胃吻合は術後のQOLに影響があるため,短時間ででき,縫合不全や狭窄の少ない術式が望まれる.

◆Collard変法による縫合不全率は2%であり,10~15分でできる優れた吻合法である.

◆リニアステイプラーが3本必要であり,保険上では吻合器,縫合器の使用に制限が生じる.

頸部手縫い吻合

著者: 岩沼佳見 ,   鶴丸昌彦 ,   梶山美明

ページ範囲:P.1380 - P.1384

【ポイント】

◆頸部手縫い吻合を行うためには手術基本手技の習得が重要である.

◆頸部手縫い吻合は技術的制約が少なく,病変が高位などの困難な状況にも柔軟に対応できる.

胸部食道癌に対する右開胸開腹食道切除,胸腔内高位器械吻合

著者: 山田和彦 ,   峯真司 ,   原田和人 ,   比企直樹 ,   布部創也 ,   谷村慎哉 ,   佐野武 ,   山口俊晴

ページ範囲:P.1385 - P.1389

【ポイント】

◆胸腔内吻合は安全な手技であり,縫合不全や吻合部狭窄が少ないという利点がある.

◆縫合不全膿胸などを合併しても,減圧,ドレナージ,栄養療法で対処が可能である.

◆PPIを使用したとしても,Grade C以上の逆流性食道炎の発生率が高いという欠点がある.

胃癌

完全腹腔鏡下胃全摘術における組立式タバコ縫合器を用いたRoux-en-Y再建

著者: 小川憲人 ,   小嶋一幸 ,   井ノ口幹人 ,   加藤敬二 ,   本山一夫 ,   杉原健一

ページ範囲:P.1390 - P.1394

【ポイント】

◆組立式タバコ縫合器(Detachable ENDO-PSI鉗子)を用いることによって,開腹手術と同様の手順でcircular staplerを用いた再建が完全腹腔鏡下に可能となる.

◆タバコ縫合器でタバコ縫合をかけたのち,食道を完全に切離せずに前壁を約1/2周切開し,後壁を残すことでアンビルヘッドの食道への挿入が容易となる.

◆完全腹腔鏡下手術では癒着が少ないので,内ヘルニアの予防目的にY脚腸間膜と輸出脚腸間膜のギャップとPetersen's defectの閉鎖を行うことが推奨される.

完全腹腔鏡下幽門側胃切除術

著者: 福永哲 ,   民上真也 ,   櫻井丈 ,   榎本武治 ,   諏訪敏之 ,   小野田恵一郎 ,   京井玲奈 ,   夕部由規謙 ,   松下恒久 ,   宮島信宜 ,   大坪毅人

ページ範囲:P.1395 - P.1401

【ポイント】

◆完全腹腔鏡下幽門側胃切除術の再建は結腸前のRoux-en-Y法で行うが,Y脚の吻合を先に行うことで挙上空腸のねじれを予防できる.

◆Y脚の吻合は自動縫合器による側々吻合で行い,挿入孔の閉鎖は流入路の狭窄に注意して,自動縫合器または手縫いで縫合閉鎖する.

◆胃空腸吻合は,自動縫合器による残胃大彎での順蠕動性の側々吻合を行うが,極小残胃ではOrVilによる端側吻合を行う.

腹腔鏡補助下胃全摘術―経口アンビルを用いた再建法

著者: 國崎主税 ,   小野秀高 ,   大島貴 ,   小坂隆司 ,   牧野洋知 ,   秋山浩利 ,   遠藤格

ページ範囲:P.1402 - P.1405

【ポイント】

◆LATGは決して容易な手術ではない.十分な技量を持った術者が施行するか,または指導的助手がいない場合には行うべきではない.

◆われわれは経口アンビル(OrVil)を用いた腹腔鏡下Roux-en-Y再建法を施行している.

◆今後,接合手技をより容易としたり,新たな器具を開発していかなければならない.

腹腔鏡補助下幽門側胃切除術における再建方法

著者: 奥村直樹 ,   吉田和弘 ,   山口和也 ,   高橋孝夫 ,   長田真二

ページ範囲:P.1406 - P.1410

【ポイント】

◆LADGはTLDGと違い,小開腹創から開腹術とほぼ同様の操作で安全に再建が行えることが利点である.

◆LADGにおける再建は,腹腔鏡下胃切除術を導入する際に必要で習得すべき手技と考えられる.症例を重ねてTLDGへ移行されたい.

◆十二指腸の授動は安全な再建に必須の操作である.腹腔鏡下で内側は胃十二指腸動脈まで剝離し,外側の癒着剝離も十分に行う必要がある.

開腹胃癌手術における食道空腸吻合

著者: 深川剛生 ,   大橋真記 ,   森田信司 ,   前田将宏 ,   興田幸恵 ,   片井均

ページ範囲:P.1412 - P.1415

【ポイント】

◆食道空腸吻合を安全に行うためには,使用デバイスについての理解と慎重な操作が重要である.

◆吻合の手順はつねに同じように行い(ルーチン化),いったん吻合を開始したら,ほかのことはしないように注意する.

◆縫合不全や狭窄などの合併症の発生・治療についての理解を深める必要がある.

開腹幽門側胃切除術

著者: 寺島雅典

ページ範囲:P.1416 - P.1419

【ポイント】

◆開腹幽門側胃切除術の主な再建方法にはBillroth-Ⅰ法とRoux-en-Y法がある.

◆それぞれの再建法には長所と短所があるので,どちらの手技についても習熟しておき,個々の症例ごとに選択するのが望ましい.

◆術後合併症は極力回避すべきであり,特に縫合不全はあってはならない合併症と認識すべきである.

胃癌手術のロジック─発生・解剖・そして郭清・1【新連載】

大網─知られざる胃の腸間膜

著者: 篠原尚 ,   春田周宇介

ページ範囲:P.1420 - P.1429

はじめに─外科医の錯覚と呪縛

 手術は人体の補修工事であり,完成までの過程(発生)と構造(解剖)を熟知したうえで胎生を遡ることがその基本理念である.無論,解剖の真実は普遍だが,生体を扱うわれわれ外科医の興味は解剖学者のそれと若干異なるのもまた事実である.

 手術という共同作業を行い,あるいはそれを他者とディスカッションすることが必要な外科医にとって,用語の共有は不可避である.ただし,それは血管や神経のように明瞭な輪郭をもつ構造物であれば問題はないが,結合組織のように境界や連続性のはっきりしないものになると,途端に曖昧になる.そこで外科医のこだわりが始まる.注意深い外科医は手術のたびに遭遇する気持ちのよい剝離層があることに気づき,剝離された後の景色を眺めながら,あたかも自分が2枚の「膜」の隙間を見事かき分けて進んできたような“錯覚”に陥る.そして,実は剝離によってそれまでよりも密になっただけの結合組織の面に○○fasciaという名前を付ける.fasciaが日本語で「筋膜」と訳されていること自体がその錯覚を容認している.ただし,ここで厄介なことがある.気持ちのよい剝離層に隣接して,別の剝離可能層が存在することがある.所詮は境界のはっきりしない結合組織の中を進んでいるのだから当然である.それを電気メスで切ると線状の切り跡が現れる.超音波凝固切開装置を使うと,シールされてよりはっきりした線になる.外科医は思う.「ここにはもう一枚筋膜がある!」.鑷子で摘み上げると確かにテント状に吊り上がり,あたかも膜が覆っているように見える.その状態でホルマリン固定しHE染色でもしようものなら,スジ状の構造物が浮かび上がる.間違いない!そして新しい名前を付ける.こうして○○筋膜がどんどん増えていく.後進の外科医たちはこんなに複雑なのかとうんざりしながらも,それを一つ一つ確認しながら(あるいは探しながら)手術することを強いられる.確認といってももともと曖昧なものだから,ときには無から有(アーチファクト)を作り出して納得しているかもしれない.そればかりか,それが生体内でひと続きの結合組織であるということもいつしか忘れてしまい,胃の手術をするときに出くわす○○筋膜と直腸の△△筋膜をローカルな名称として別々に覚える羽目になる.筋膜なんて,作ろうと思えばいくらでも作れるのに,だ.かくして“呪縛”に支配された,難解極まりない局所解剖学が成立する.

 でも胎生期の発生過程を遡ってみれば,たとえば胃や大腸,膵といった臓器ごとの特殊性をもって捉えられがちな局所解剖でさえも,ある共通の構造と一定の規則性の上につくられたものであることに気づく.○○筋膜と呼ばれるものの多くは,その強い語感とは裏腹な,かつて胃や腸が単純な「腸間膜」で腹壁とつながっていた頃に腹膜と脂肪との間隙に介在していた細胞成分をもたない“疎性結合組織”が密になったものである.また,癒合筋膜fusion fasciaは腸間膜の褶曲現象が生んだ腹膜の融解産物とされている.癌の手術においてこれらを意識することが重要なのは,リンパ郭清が,標的臓器の腸間膜を基部で切り落とすことを原則とするからである.名前ではなく実体としての膜の重要性に気づけば,出血が減り,手術の精度は向上する.

 拙著「イラストレイテッド外科手術」第3版1)は,こうしたコンセプトに基づき改訂されたが,2010年の上梓以降,発表の機会などを通じて多くの先生方から貴重なコメントやアドバイスをいただき,筆者の考え方はむしろよりシンプルになった.また,カラー化,アニメーション化の要望が多いことも実感した.折しも京都大学,坂井義治先生らの連載『ポイント画像で学ぶ腹腔鏡下低位前方切除術』の続編として,胃癌手術のリンパ郭清に役立つ臨床解剖をテーマとした企画をいただき,自分の中で刷新した内容をまとめ,再び世に問う絶好の場と思いお受けした.予定している約1年間の長期連載の中で,前半は「胃の腸間膜」をキーワードに,その誕生からわれわれ外科医が目にするまでの形態変化を特に膵との関係を意識しながら追う.そして後半では,胃の領域リンパ節のうちでも特に膵と関わりの深い6番と11番の郭清手技に関するロジックを展開したい.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その㉑

“今度こそ、モニター…”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.1430 - P.1434

スコープは目なり

  モニターは視覚野なり

たかがモニター? だからモニター!

  今回も良いモニターを広い視野で!!

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・6

グラスゴー予後スコア―血液検査で予後がわかるか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.1436 - P.1439

素朴な疑問

 「グラスゴー予後スコア」(Glasgow prognostic score:GPS)は,血液検査で決まる予後スコアである.がんの予後因子には,腫瘍径・深達度・組織型・脈管侵襲・リンパ節転移・遠隔転移・切除断端・治癒度などがあり,そのために外科医は標本整理や病理診断を大切にしているのに,がん患者の予後が血液検査だけでわかるのだろうか.

病院めぐり

市立八幡浜総合病院外科

著者: 的場勝弘

ページ範囲:P.1440 - P.1440

 当院は愛媛県の西南部で三崎半島の基部に位置する八幡浜市にあり,昭和3年に町立病院として開設されました.八幡浜市近辺は明治時代に鉱業・海運業・紡績業などの商工業が発達し,四国で初めて電灯がともった地です.第二次大戦後からは漁港および九州と四国を結ぶ連絡港として栄え,柑橘類の生産でも有名です.

 当院は八幡浜市および周辺地域(伊方町と西予市の一部)を含めた八西地域における基幹病院としての役割を担っています.また,原子力発電所が近在し,初期被ばく医療機関・災害拠点病院に指定されています.病床数は312床(一般病床310床,感染病床2床)ですが,常勤医師数は22名(17診療科)と減少の一途をたどっています.昨今の医師不足によって,特に内科医師(現在,常勤4名)は減少が続いています.

健康保険八代総合病院外科

著者: 倉本正文

ページ範囲:P.1441 - P.1441

 当院は熊本県第二の市である八代市のほぼ中央,市街地にある総合病院です.病床数は344床で,15の診療科を標榜し,職員数は519名(医師数:39名)と文字どおり熊本県県南地域の中核的拠点病院です.5年前までは,県内で最も経営的にも人材的にも厳しい状況下にある病院の1つとされていました.しかし,現・島田院長が着任されてから,病院理念から人材(医師)確保,経営,経費削減に至るまで様々な改革が行われ,現在では県内で最も活気のある病院として注目されるに至っています.今年12月には地下1階,地上14階建の新病院が竣工し,病院名も「熊本総合病院」に変わる予定です.地域完結型医療における公的病院の使命を実践すべく,職員一丸となって頑張っているところです.

 外科のスタッフは院長を含め6名で,消化器癌を中心に肺癌,乳癌,甲状腺癌などの各種癌腫および,胆石症,虫垂炎,憩室炎,血栓症,腸閉塞,汎発性腹膜炎などの良性疾患に至るまで幅広く診療を行っています.昨年度の全手術症例は566例で,主な癌手術の内訳は,食道切除再建術(すべて胸腔鏡下切除)10例,胃癌手術72例(胃全摘術15例,胃切除術35例,腹腔鏡下胃切除術22例),結腸切除術57例,直腸手術32例,膵胆管癌手術18例(膵頭十二指腸切除術13例,膵体尾部切除術2例)と,地域がん拠点病院としての役割を果たすべく,積極的に取り組んでいます.癌の進行度に応じて術式を決定し,個々の症例に最も適切な手術を行うように心がけています.腹腔鏡,胸腔鏡を用いた低侵襲手術(内視鏡下手術)は早くから積極的に導入し,腹腔鏡下胃切除術,胸腔鏡下食道切除術は県内でも有数の症例数を経験しており,良好な成績を上げています.

臨床研究

腹腔鏡補助下胃全摘術の検討―短期成績と医療経済面からみた開腹胃全摘術との比較

著者: 右田和寛 ,   高山智燮 ,   榎本浩士 ,   田仲徹行 ,   伊藤眞廣 ,   中島祥介

ページ範囲:P.1443 - P.1448

要旨

【目的】腹腔鏡補助下胃全摘術(LATG)を短期成績と医療経済面から開腹胃全摘術(OTG)と比較検討した.【対象と方法】当科で同期間に施行したLATG 20例とOTG 15例を比較した.【結果】LATG群で手術時間は長く,出血量は少なかった.排ガス開始日や歩行開始日,持続硬膜外麻酔期間はLATG群で短かった.術後在院日数では差を認めなかった.手術請求額はLATG群で高額であったが,入院総請求額は同等であった.LATG群で手術経費は高額であったが,手術請求額との差額は同等であった.【考察】LATGはOTGと比べて低侵襲であり,経済面においても不利益とはならず,有用な術式であると考えられる.

痔核に対する2つの治療方法についての比較検討―硬化療法 vs. 手術療法

著者: 矢野孝明 ,   浅野道雄 ,   田中荘一 ,   矢野義明 ,   川上和彦 ,   松田保秀

ページ範囲:P.1449 - P.1451

要旨

【目的】痔核に対する硬化療法であるALTA治療は,手術治療に遜色ないほどの良好な治療成績が報告されている.しかし,ALTA治療の観察期間は短期間であったので,今回,ALTA,手術治療のそれぞれ施行から4年後の治療成績を明らかにするためにアンケートを用いて前向き研究を行った.【対象】2007年に内痔核に対してALTA硬化療法または手術治療を施行した74例を対象とした.【結果】患者の満足度は,手術治療のほうがALTA治療に比べて有意に優れていた.【結論】より長い期間の治療効果を期待するのであれば,ALTA治療に比べて手術療法のほうが適していると思われた.

潰瘍性大腸炎に対する腹腔鏡下大腸全摘術の治療成績

著者: 平塚孝宏 ,   猪股雅史 ,   白下英史 ,   衛藤剛 ,   安田一弘 ,   白石憲男 ,   北野正剛

ページ範囲:P.1453 - P.1456

要旨

重症例を含む潰瘍性大腸炎(UC)に対して腹腔鏡下大腸全摘術を施行した7症例の手術成績を評価し,UCに対する腹腔鏡下手術の適応を検討した.手技は,腹腔鏡下に全大腸の剝離・授動と腸間膜の切離を行い,5cm長の小開腹創より,回腸囊を作製し,経肛門的に回腸囊肛門吻合術を行った.全例に術死・術中合併症なく腹腔鏡下手術を完遂できた.手術時間の中央値は496分,平均出血量は228mlで,術後合併症は回腸囊炎と創関連合併症を計3例に認めたが,すべて保存的に改善した.UCに対する腹腔鏡下大腸全摘術は,症例の選択,手技の習熟により,劇症例を含む重症例に対しても低侵襲手術のオプションの1つとして適応となりうると考えられた.

臨床報告

腸重積をきたした小腸血管脂肪腫の1例

著者: 松尾達也 ,   久保洋 ,   甲斐敬太 ,   原田貞美

ページ範囲:P.1457 - P.1460

要旨

回腸終末部に発生した血管脂肪腫が先進部となり,腸重積をきたした症例を経験した.患者は47歳,男性で,突然の激しい臍周囲痛のため救急車で当院を受診した.腹部CT検査で回盲部を中心とした急性腸炎と診断し,加療を開始した.経過中に腸閉塞を発症し,小腸造影および大腸内視鏡検査から結腸腫瘍(血管腫)を疑って開腹手術を施行したところ,回腸腫瘍による腸重積と,これによる腸閉塞症と判明した.腫瘍は4cm大の粘膜下腫瘍で,病理組織学的に毛細血管の増生と成熟脂肪組織を混じる血管脂肪腫と診断された.検索しえた限り,わが国において消化管原発の血管脂肪腫は10例目であり,稀な症例と考えられた.

転移性肝癌との鑑別が困難であった多発性肝硬化性血管腫の1切除例

著者: 若杉正樹 ,   上島成幸 ,   赤松大樹 ,   鳥正幸 ,   辻本正彦 ,   西田俊朗

ページ範囲:P.1461 - P.1465

要旨

症例は61歳,女性.直腸S状部癌に対して単孔式腹腔鏡補助下高位前方切除術を行い,術後2か月で同時性転移性肝癌切除目的で入院となった.造影CT検査で,肝S3にring enhanceされる21mm大の腫瘤を認めた.腹部MRI検査で,肝S3に21mm大,肝S2に5mm大でT1強調像で低信号,T2強調像で高信号,造影MRIの動脈相で造影効果の乏しい腫瘤を認めた.転移性肝癌の術前診断で肝外側区域切除術を施行した.病理組織学的検査で肝S3,S2の病変いずれも肝硬化性血管腫と診断された.多発性肝腫瘍の鑑別診断においても,肝硬化性血管腫の可能性を念頭に置く必要があると考えられた.

高度の瘢痕狭窄を残して治癒した肝膿瘍を伴うアメーバ性大腸炎の1例

著者: 坂井昇道 ,   王利明 ,   王恩 ,   帆足孝彦 ,   田中善壽 ,   柴田信博

ページ範囲:P.1467 - P.1469

要旨

症例は62歳,男性.入院1か月前に,粘液下痢便によるテネスムスと腹痛を主訴に当院の救急外来を受診した.直接鏡検法で便中に赤痢アメーバが確認されたため,アメーバ症の診断で緊急入院となった.大腸内視鏡検査と腹部造影MDCT検査から,アメーバ性肝膿瘍およびアメーバ性大腸炎と診断した.メトロニダゾールの経口投与により,臨床症状は消失し,便中のアメーバ原虫も検出されなくなった.治療終了1か月後,患者は腹部膨満を訴え再度来院し,上部直腸の完全閉塞と診断され,緊急的に2連式人工肛門造設術を施行した.狭窄部の組織生検では悪性所見はなく,アメーバも検出されなかった.患者は治療後36か月現在,狭窄部に変化はないものの日常生活に問題なく暮らしている.アメーバ性大腸炎治療後の高度の瘢痕性狭窄は非常に稀である.

学会告知板

第30回日本呼吸器外科学会総会

ページ範囲:P.1367 - P.1367

会 期:2013年5月9日(木),10日(金)

会 場:名古屋国際会議場

1200字通信・46

今,試されている時

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1435 - P.1435

 人生には,今まさに自分が試されていると実感するその「時」があるものです.もっとも,年齢を重ねたからそう思うのかも知れませんが,これまで試され続け,今もなお試されているということであり,そうした試練を乗り越えて今があるということでもあります.

 子供の頃には,そこまで考えもしなかったわけですが,学校でのテストや体力測定などは,まさにそうした繰り返しであったのだと,今になって気づかされます.さらに,大学受験ともなると,大袈裟ではなしに,自分の人生を決めるための試練であったわけで,今に続く道の分岐点としてのその時の「時」を懐かしく思い出すことになります.

ひとやすみ・92

老人は何歳からか

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1452 - P.1452

 一般に人は,自分の年齢を基準にして若さを認識するものである.10歳代の若者にとって20歳を超えた青年は「おじん,おばん」である.また,40歳代にとっての70歳代は人生の大先輩である.しかし,70歳代の高齢者でも,90歳代と比べればまだまだ若いと思っている.それでは,何歳からが老人の範疇に入るのだろうか.

 「村の渡しの船頭さんは 今年60のお爺さん.年は取っても~」という唄がある.私が幼児の頃は60歳を超えると老人の範疇に入っていたが,現在の60歳はまだまだ元気で,現役として働いている人も多い.

勤務医コラム・42

Placebo

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.1466 - P.1466

 女房が1週間ほど留守をした.背中に羽が生えたような気がして,たまには独りもエエもんです.朝,洗面台で顔を洗い,ふと見ると,鏡の前にキラキラしたオシャレなボトルが立っている.

SHISEIDO TSUBAKI WATER

昨日の患者

トラブルメーカー

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1470 - P.1470

 社会の縮図である病院には,家庭環境,職歴,性格などを異にする様々な人々が病を得て入院してくる.そして,病室という限られた空間において様々の行動を繰り広げる.種々の特異的な行動で話題を提供したSさんを紹介する.

 80歳代半ばのSさんが胃癌の再発をきたして入院した.深夜に,「部屋に知らない人が入り,物を取って行きます.すぐに来てください」と,携帯電話で警察に電話をかけた.折り返しの電話で警察通報を知った看護師が,警察官に状況を説明するとともに平謝りに謝った.真実は,認知症を伴うSさんが病室を見回った看護師を泥棒と思いこみ,警察へ通報したものであった.主治医である私は顛末書を作成した.

書評

若林 剛(監修)/佐々木 章(編)「ステップアップ内視鏡外科手術[DVD付]」

著者: 北島政樹

ページ範囲:P.1471 - P.1471

 ある日,突然『ステップアップ内視鏡外科手術』(監修:若林剛,編集:佐々木章)が医学書院から送られてきた.

 本書を手にしてまず考えたことは1991年慶應義塾大学医学部外科学教室で現在,隆盛を誇る内視鏡外科手術が産声を上げたことである.いみじくも佐々木准教授の“刊行にあたって”の中で私と初期からともに内視鏡外科を手掛けた故大上正裕君と若林剛君(現岩手医科大学教授)が岩手の地で開催された第1回岩手内視鏡外科研究会(1998年)で講演し,情報交換会で二人がトロッカーのサイズで激論を交わしたと記載されている.

加納宣康(監修)/三毛牧夫(著)「腹腔鏡下大腸癌手術―発生からみた筋膜解剖に基づく手術手技」

著者: 杉山保幸

ページ範囲:P.1472 - P.1472

 本書は現在のトピックスの1つである腹腔鏡下大腸癌手術の手技を解説しているので,大きなカテゴリーとしては医学書に分類されることは論を俟たないが,それだけでは済まされないと感じたのは小生だけであろうか.カテゴリーを細分類すると,タイトルからは「手術手技書」となるが,よく読んでみると「腹部の臨床解剖学書」としたほうがよいともいえる.また,「消化管外科医が手術を修得するための基本的な心構え」といった教育論書でもある.さらには「大腸癌手術における覚書」といった著者自身のエッセイというように判断しても妥当かもしれない.文章の端々に著者の外科医としてのポリシーが述べられ,時には人生観も言外の意として込められているからである.

 著者が豊富な手術経験と莫大な数の論文検索を基にして得た解剖学的知識と手術手技を,初心者の立場に立って解説してあるため,非常に理解しやすい内容になっている点が本書の特徴である.すべての図がハンド・ライティングで描写されており,カラー写真が多用されている従来の手術書とは趣を異にしている.“手術記事の中の図を,下手でも自分で描けるのが真の外科医である”と駆け出しのころに恩師から教えられたことを今でも鮮明に記憶している.撮影技術の進歩で写真やビデオとして手術記録を残すことがほとんどという現況で,術中体位,ポート・鉗子の挿入図,腹腔内での操作状況,などすべてが手描きである点が,著者の“外科医魂”の現われでもある.同時に,随所で断面図を挿入して読者の三次元的な理解をアシストしているところは心憎いばかりの教育的配慮である.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.1379 - P.1379

次号予告

ページ範囲:P.1394 - P.1394

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1452 - P.1452

投稿規定

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あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.1476 - P.1476

 そもそも,消化管吻合の始まりはいつ頃であったのであろうか.消化管癌手術の最初の成功例がBillroth先生による1881年の胃癌切除術であったことはあまりにも有名である(「再建法の歴史的変遷と現状」の項を参照).しかしながら,それは偶然成功したのでないことは想像に難くない.動物実験も含めた周到な準備が成功をもたらしたのである.もちろん,トライしていたのはBillroth門下だけではないことも知られている.Billroth先生の名声は後世,現代まで残り,医学部生であれば誰でも知っているほどである.その有名度は,かのHippocratesにも劣らない.一方,同じことを目指した余人の名は歴史上には残らない(実際はこちらの先生も,別件で名は残っているのですが).酷でもあるが,歴史は明快でもある.

 本特集では,再建法の極意が見事に示されている.確かに,Billroth-I法の本質は変わっていないかもしれないが,かの時代よりは着実に進歩,前進していることが感じられる.Billroth先生の第2,3例目は手術死亡し,成功2例目は実際は4例目だったとのことである.現代においては手術死亡は稀なことであり,縫合不全も数%である.大いなる違いがあると思う.縫合糸,器械の類も,かの当時には考えられなかったものとなっている.われわれにとって重要なことは,それらを患者さんのために使いこなすことである.本特集からそれぞれの特徴を熟知していただきたい.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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