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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科67巻13号

2012年12月発行

雑誌目次

特集 本当は怖い 臓器解剖変異―外科医が必ず知っておくべき知識

ページ範囲:P.1481 - P.1481

変異も含む外科解剖を熟知した手術に向けて

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.1483 - P.1483

 外科医にとって,系統解剖とともに外科解剖を熟知することは必須の要件であることは言を待たないが,さらに各臓器においては様々な解剖のanomalyとともにvariation(変異)が存在することも事実である.ここでいう「変異」とは「mutation」ではなく「variation」であり,「形態的,機能的発生異常のうち,一定の頻度で観察され,個体の生存に対して重篤な障害とならない」ものである.しかしながら,このような通常の生活においては何ら支障をきたさないvariationであっても,手術という手段において,そのアプローチや術野展開,さらには臓器の切除および再建などにおいては,variationがない患者に対する通常の方法では,致命的もしくは何らかの障害をきたす可能性がある解剖変異が各臓器には少なからず存在している.

 これら変異の頻度の多少を問わず,もしくはきわめて稀なものであっても,それが重大な結果をきたすものであれば,外科医にとってそれを知っておくことは,手術を施行する者としてきわめて重要であり,必須であるともいえる.

甲状腺・副甲状腺手術で重要な解剖変異

著者: 鈴木眞一 ,   福島俊彦 ,   阿美弘文

ページ範囲:P.1484 - P.1489

【ポイント】

◆甲状腺・副甲状腺手術の最大のリスクは反回神経損傷である.反回神経損傷の最大のリスクポイントは下甲状腺動脈幹より頭側の喉頭外にある約2cmの部分で,解剖学的変異も多いところである.

◆上喉頭神経外枝を温存するには甲状腺上極,喉頭と上甲状腺動静脈の3角形の部分で確認温存の注意をして甲状腺近傍で動静脈を切離する.

◆Zuckerkandlの結節は下甲状腺動脈とともに反回神経発見の目印である.

◆副甲状腺は位置の異常と数の異常がある.

呼吸器外科手術における血管分岐・走行異常

著者: 吉田成利 ,   吉野一郎

ページ範囲:P.1490 - P.1497

【ポイント】

◆術前に造影CT(thin slice)を必ず撮影し,評価する.

◆CTは横断面だけでなく矢状断,冠状断または3D構築を行い,術前に血管走行をしっかり確認しておく.

◆血管分岐・走行に十分注意を払った臓器の展開操作,血管剝離,リンパ節郭清を丁寧に行う.

食道癌手術時に留意すべき解剖とその変異

著者: 宮崎達也 ,   猪瀬崇徳 ,   田中成岳 ,   鈴木茂正 ,   原圭吾 ,   小澤大悟 ,   横堀武彦 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1498 - P.1503

【ポイント】

◆大血管およびその分枝の発生異常は,術前の造影CT検査でほとんどの症例が診断可能である.

◆非反回下咽頭神経の存在を強く疑う食道後方右鎖骨下動脈症例は,右頸部郭清時に解剖学的な位置に留意する.

◆下大静脈奇静脈結合を伴う下大静脈欠損症の場合,治療操作で奇静脈を結紮すると致命的となる.

◆右の気管支動脈は比較的操作の浅い層で処理することができるため,確実に温存しやすい.

胃癌手術において重要な動脈の破格

著者: 山下裕玄 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1504 - P.1509

【ポイント】

◆精度の高いリンパ節郭清には血管の走行を術前に把握しておくことが重要で,動脈破格の知識も必須である.

◆Adachi分類のⅠ型4群が最も頻度の高い血管破格であるが,太い左副肝動脈の場合はほかの破格の可能性も考えたほうがよい.

◆右胃動脈の起始部は多様であり,十二指腸切離を先行すると多様性に対応でき,根部処理が容易になる.

小腸の解剖学的変異

著者: 佐久間浩 ,   畠山優一 ,   六角裕一 ,   竹之下誠一

ページ範囲:P.1510 - P.1513

【ポイント】

◆小腸の解剖変異はそのほとんどが新生児期から小児期に発症・発見される先天性疾患である.

◆成人発症例は偶然発見されることが多く,診断に難渋し,また,ほかの腹部疾患の検査の妨げになることがあるため注意が必要である.

大腸における血管の解剖学的変異

著者: 金子学 ,   須並英二 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1514 - P.1518

【ポイント】

◆大腸領域では動脈のバリエーションが多く,正確な知識と術中の判断が求められる.

◆中結腸動脈のバリエーションは複雑で,頻度の低いものが多数存在するため,横行結腸の手術に際しては注意が必要である.

◆特に腹腔鏡下手術では,術前に3D-CTAによる腫瘍の支配動脈の確認が有用である.

肝臓手術において重要な門脈の分岐異常

著者: 有泉俊一 ,   小寺由人 ,   太田岳洋 ,   片桐聡 ,   山本雅一

ページ範囲:P.1520 - P.1526

【ポイント】

◆系統的肝切除は,癌の存在する門脈の支配領域を切除する方法である.

◆ごく稀だが,手術で致命的となる門脈分岐異常(門脈左右分岐部欠如,右肝円索に伴う門脈分岐異常など)がある.

◆新しいワークステーションによる3D-CTは肝内門脈分岐異常の診断に有用で,門脈分岐異常でも系統的肝切除のシミュレーションが可能である.

胆道手術時に重要な肝門部脈管・胆管の立体解剖

著者: 細川勇 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   鈴木大亮 ,   中島正之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1527 - P.1534

【ポイント】

◆通常の肝門部の胆管および肝動脈の分岐形態を,門脈との相対的位置関係をもとに,その意義を理解する.

◆症例ごとの肝門部脈管(肝動脈・門脈)と胆管の分岐形態をMDCTで評価し,さらに互いの相対的位置関係を十分に把握する.

◆これらの肝門部脈管と胆管の立体解剖に基づき,適切な術式を立案し,その解剖に基づき安全に手術を施行する.

膵臓の解剖変異

著者: 千葉斉一 ,   佐野達 ,   富田晃一 ,   高野公徳 ,   河地茂行 ,   島津元秀

ページ範囲:P.1535 - P.1540

【ポイント】

◆〔動脈〕右肝動脈が上腸間膜動脈(SMA)の起始部から分岐し,膵頭部の背側を走行しながら門脈背側,胆管右側に沿って上行する症例がある.

◆〔動脈〕SMA本幹右側から第1空腸動脈(J1a)が分岐する亜型では,下膵十二指腸動脈(IPDA)と誤認してJ1aを処理してしまう可能性がある.

◆〔静脈〕胃結腸静脈幹(GCT)の上腸間膜静脈(SMV)への合流部における第1空腸静脈がSMA腹側を走行する場合には,SMA周囲操作の際に静脈損傷をきたさないように注意を要する.

◆〔静脈〕下腸間膜静脈(IMV)が脾静脈(SPV)へ直接流入する場合,門脈再建時にSPVを結紮切断したままでも胃のうっ血を回避できる.

◆〔膵管〕膵管非癒合を伴う膵頭部領域の癌では通常の膵頭部癌に比較して,Wirsung管領域の膵液うっ滞による腹側膵の膵炎が多いと推察されるため,術中の剝離操作において通常より出血などが起こりやすい.

◆〔膵管〕十二指腸乳頭部癌や膵IPMNに対する各種縮小手術において,術前に膵管非癒合を診断することは手術術式の立案に有用である.

胃癌手術のロジック─発生・解剖・そして郭清・2

腸間膜の剝離可能層

著者: 篠原尚 ,   春田周宇介

ページ範囲:P.1542 - P.1551

9 今回は腸間膜の微細解剖を追求しながら,剝離可能層とその意義について考える.まず,図8(第1回連載)で作成した胎生5週の基本図から背側胃間膜の部分だけを切り出して拡大してみよう.腸管は,大動脈から衝立状に立ち上がった腹膜の折り返しによって腹壁につなぎ止められている.図5(第1回連載)で決めた地図記号を使って太線で描かれた腹膜は,中皮細胞の単層扁平上皮からなる正真正銘の“膜”である.腸間膜の主体は中間層intermediate layer1)であり,腸管に通じる血管や神経,リンパ管の双方向性の通り道となっている.中間層には脂肪がついてくるが,その厚みは生後,成長につれて増加し,個体差も大きいため時として外科医を悩ませる.いわゆる内臓脂肪というやつである.

 腹膜と脂肪層の間には疎性結合組織からなるわずかな隙間があり,層分離が可能である.その剝離操作の結果として脂肪表層に付着するdenseな結合組織が細い線で表記された腹膜下筋膜で,「膜」という名前は付いているが,図5“筋膜論”で述べたように正規の,つまり細胞成分をもった膜ではない.腸間膜から腹壁への移行に伴い,腹膜を後腹膜,腹膜下筋膜を後腹膜下筋膜と呼ぶこともあるが,言うまでもなく連続した構造物であり,わざわざ特別扱いする必要もないだろう.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・7

スポーツ観戦―サッカーは心臓にわるいか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.1552 - P.1555

素朴な疑問

 サッカーは1点を争うスポーツである.接戦や0-0の試合は手に汗を握る緊張感があり,ハラハラ・ドキドキすると交感神経が緊張して血圧や脈拍が上がる.国の代表チームが戦う国際大会の重要な試合は心臓にわるいのだろうか.負けられない試合がPK戦になったとき,心臓病がある人は観ないほうがよいのだろうか.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」【最終回】

“ラパロのあした”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.1556 - P.1558

ラパロのあしたを知るには

 機器展示場に立ち寄ること.

そこでデバイスをよーく見るべし.

 デバイスはラパロのあしたを左右するものなり.

病院めぐり

岩手県立中央病院外科・消化器外科

著者: 望月泉

ページ範囲:P.1560 - P.1560

 当院は昭和8年5月に,明治23年の開業以来40有余年の歴史のある私立病院の委譲を受け,有限責任購買販売利用組合盛岡病院として発足しました.昭和25年11月,「県下にあまねく医療の均霑を」という高邁な創業精神のもとに岩手県医療局が発足し,岩手県立盛岡病院として県に移管・改称され,昭和35年4月に名称変更で岩手県立中央病院となりました.昭和62年3月に現在地に新築・移転し,一般685床,結核45床,計730床で業務を開始しました.平成20年度に一般外科を外科・消化器外科と乳腺・甲状腺外科の2科に分け,当科の診療対象は消化器の外科的疾患,乳腺・甲状腺以外の外科的疾患としました.

 現在,当科のスタッフは11名です.卒業年度は昭和53年(病院長),平成3,6~8,10,13,16年で,ほかにレジデントが3名います.また,臨床研修病院として研修医が多く,ローテーション研修で当科を希望する研修医もあり,スタッフが比較的若くアクティブな点が特徴です.

JA山口厚生連 周東総合病院外科

著者: 瀬山厚司

ページ範囲:P.1561 - P.1561

 当院は山口県南東部の,波静かな瀬戸内の海と緑の山々に囲まれた柳井市にあります.東側は米軍基地問題を抱える岩国市,西側は原子力発電所建設で揺れる上関町に隣接し,大畠瀬戸を挟んで対岸には瀬戸内海で3番目に大きい島,周防大島が横たわっています.柳井市,周防大島町,上関町を含む柳井保健医療圏(背景人口約8万5千人)内で唯一の急性期総合病院として地域医療の中核を担っています.

 当院は山口県農業協同組合連合会(JA山口厚生連)が柳井市に開設している,いわゆる農協の病院です.平成20年5月に増改築工事が終了し,ほぼ全面建て替えによる新病院が完成しました.病床数は360床で,二次救急病院,地域がん診療連携拠点病院,卒後臨床研修指定病院,地域災害医療拠点病院に指定されています.常勤医師数は38名と少なく,深刻な医師不足にあえいでいます.ほぼすべての医師が山口大学医学部から派遣されており,地方病院勤務医不足の元凶とされる医局講座制ですが,医局なしには成り立たない病院です.

臨床研究

当院における膵癌術中洗浄細胞診陽性例の検討

著者: 足立尊仁 ,   松井聡 ,   波頭経明 ,   山田誠 ,   松井康司 ,   伊藤元博

ページ範囲:P.1563 - P.1566

要旨

膵癌における腹膜再発率は17~41%とされている.当院でも23.3%の腹膜再発を認めている.当院で2007~2009年に切除された浸潤性膵管癌32例のうち,術中腹腔洗浄細胞診を施行した28例を対象に,腹膜転移と予後につき検討した.CY陽性例は7例(25%)であった.腹膜再発との相関については,単変量解析でCY(p=0.034)とRP(p=0.036)が有意差を認め,ly2(p=0.056),S(p=0.080)とR1,2(p=0.090)が有意な傾向を示した.多変量解析では,いずれの因子も有意差は認めなかった.予後との相関は単変量・多変量解析において,いずれの因子も有意差を認めなかった.CY陽性/陰性例の1年生存率は71.4/61.9%と有意差は認めなかった.切除可能膵癌におけるCY陽性例は,より進行した症例(fStage Ⅲ,Ⅳ)であるため独立した予後因子とはならなかったが,腹膜再発に対しては有効な予測因子となりうることが示された.

90歳以上超高齢者消化器外科手術症例の臨床的検討

著者: 久保直樹 ,   竹内信道 ,   中山中 ,   辻本和雄 ,   伊藤憲雄

ページ範囲:P.1567 - P.1571

要旨

〔目的〕90歳以上の超高齢者に対する周術期リスク評価について検討した.〔方法〕過去6年間に当院で施行した90歳以上の全身麻酔下手術60例を対象とした.術後合併症の有無により,術前危険因子,血液検査所見,手術因子,POSSUMの検討を行った.〔結果〕呼吸器合併症,performance status,POSSUMのphysiological score,predicted mortality rate,predicted morbidity rate,P-POSSUMのpredicted morbidity rateで有意差を認めた.〔結語〕90歳以上の超高齢者手術でもPOSSUMによる術前評価が有用であると考えられる.

臨床報告

劇症型アメーバ性大腸炎の1例

著者: 平沼知加志 ,   服部昌和 ,   遠藤直樹 ,   大田浩司 ,   宮永太門 ,   道傳研司

ページ範囲:P.1572 - P.1574

要旨

症例は70歳台,男性.2007年11月に急性腹症のため当院へ救急搬送された.腹部全体に圧痛・筋性防御を認め,CTで造影されない拡張したS状結腸と腹水を認めたため,壊死性虚血性腸炎を疑い緊急手術を行った.直腸,S状結腸が壊死しており,Hartmann手術を施行した.腸管壁は全体に菲薄し,“ぼろ雑巾”様で種々の程度の結腸壁の壊死がみられた.術後10日目に病理検査結果でアメーバ栄養体を認め,劇症型アメーバ腸炎と診断した.ただちに経口でメトロニダゾール投与を開始したところ,全身状態は改善し,術後77日目に退院した.術後約4年経過した現在,再発兆候は認めない.

選択的動脈塞栓術にて良好な転帰が得られた正中弓状靱帯症候群に伴う下膵十二指腸動脈瘤破裂の1例

著者: 佐藤文哉 ,   平松聖史 ,   佐伯悟三 ,   岡田禎人 ,   雨宮剛 ,   新井利幸

ページ範囲:P.1575 - P.1579

要旨

症例は48歳,男性.突然の腹痛を主訴に受診した.腹部造影CTで前腎傍腔から右腹腔内を主体とした血腫を認め,精査加療目的に入院した.第2病日のCTで下膵十二指腸動脈瘤と,腹腔動脈起始部のhook状の屈曲と狭窄を認め,正中弓状靱帯症候群に伴う下膵十二指腸動脈瘤破裂による血腫と診断し,緊急腹部血管造影を施行した.上腸間膜動脈から膵頭アーケードを介した肝への血流が非常に発達しており,腹腔動脈造影では総肝動脈への血流は乏しく,胃十二指腸動脈はほとんど造影されなかった.下膵十二指腸動脈に動脈瘤を認め,金属コイルによる選択的動脈塞栓術を施行した.塞栓術後の経過は良好で,第7病日に退院となった.正中弓状靱帯症候群に伴う膵十二指腸領域の動脈瘤破裂には選択的動脈塞栓術が有効であるが,腹腔動脈の血流是正の必要性に関しては今後の検討が必要である.

S状結腸膀胱瘻術後に小腸膀胱瘻をきたした続発性アミロイドーシスの1例

著者: 藤本悟 ,   伊井徹 ,   田中茂弘

ページ範囲:P.1580 - P.1583

要旨

患者は80歳,女性.関節リウマチ(RA)の加療中に糞尿を認め,当科を紹介された.S状結腸膀胱瘻と診断し,S状結腸膀胱瘻切除術を施行した.3か月後に急性腸炎で内科に入院中に再び糞尿を認め,当科を紹介された.小腸膀胱瘻と診断し,小腸膀胱瘻切除術を施行した.術後病理検査では小腸粘膜下層の血管壁にAA型アミロイドの沈着を認め,RAに続発したアミロイドーシスに伴う小腸膀胱瘻と診断した.のちに初回の切除標本を検索すると,やはり瘻孔部にAA型アミロイドの沈着を認めた.S状結腸膀胱瘻術後3か月で小腸膀胱瘻をきたした続発性アミロイドーシスを経験した.

メタリックステントを使用して非観血的に内瘻化しえた膵頭十二指腸切除術後難治性膵液瘻の1例

著者: 石橋雄次 ,   伊藤豊 ,   大森敬太 ,   渡邊慶史 ,   若林和彦 ,   服部貴行

ページ範囲:P.1584 - P.1587

要旨

膵頭十二指腸切除術後の膵空腸吻合部縫合不全に伴う膵液瘻は時に致命的となりうる合併症である.今回,われわれはメタリックステントを使用して非観血的に内瘻化しえた膵頭十二指腸切除術後難治性膵液瘻の1例を経験した.患者は71歳,男性で,胆管癌の診断で膵頭十二指腸切除術を施行した.術後に膵空腸吻合部縫合不全から腹腔内膿瘍を合併した.保存的加療で膿瘍腔は縮小したが,難治性膵液瘻を発症した.瘻孔造影で,膵管から連続するように瘻孔を介して胆管空腸吻合部が造影されたため,瘻孔にメタリックステントを留置して内瘻化した.難治性膵液瘻の治療として今回施行した非観血的内瘻化術は低侵襲で非常に有用な方法と考えられた.

骨形成性S状結腸癌の1切除例

著者: 稲田健太郎 ,   志田大 ,   谷澤徹 ,   松永裕樹 ,   松岡勇二郎 ,   井上暁

ページ範囲:P.1588 - P.1591

要旨

患者は50歳,女性.S状結腸癌の診断で当院を紹介され受診した.術前の腹部造影CT検査でS状結腸に,内部に多数の点状石灰化を伴う造影効果のある腫瘤を認めた.2011年7月にS状結腸切除術およびD3リンパ節郭清を行った.病理組織学的にSS,N1H0P0M0,fStage Ⅲaであり,腫瘍内に骨形成を認めた.転移リンパ節にも微小石灰化を認めた.原発巣に骨形成を認める大腸癌は稀であり,わが国での骨形成性大腸癌報告例は本症例を含め16例であった.癌胞巣中央に強い面靤壊死と微小石灰沈着および骨形成を伴ったS状結腸癌の1例を経験した.

盲腸軸捻転によって穿孔性腹膜炎をきたした1例

著者: 松尾篤 ,   宮喜一

ページ範囲:P.1592 - P.1595

要旨

患者は84歳,男性.継続的な激しい腹痛で当院の救急外来を受診した.CTで腹水,上腹部を中心に多量のfree air,左上腹部にclosed loop形成を疑う著明な拡張腸管を認め,穿孔性腹膜炎と診断して,ただちに緊急手術を施行した.移動性盲腸で,時計回りに360度捻転し,拡張した盲腸にピンホール大の穿孔部が数か所あり,黄色混濁した腸管内容液が流出していた.回盲部切除と端々吻合を行い,吻合部から20cm口側で小腸にループ式人工肛門を造設した.術前からショック状態であったが,術後の集学的治療で良好な経過を得た.盲腸軸捻転は合併症を持つ高齢者に多く穿孔を併発すれば,きわめて予後不良である.迅速な診断と早期手術開始が救命に結びついたと考えられた.

ストレス多血症に伴う上腸間膜静脈血栓症の1例

著者: 山岡雄祐 ,   池永雅一 ,   塚部昌美 ,   安井昌義 ,   宮崎道彦 ,   辻仲利政

ページ範囲:P.1596 - P.1600

要旨

患者は61歳,男性.主訴は腹痛.赤血球数の増加と炎症反応の上昇を認め,CT検査で腹水貯留と小腸壁肥厚,腸間膜の脂肪織の濃度上昇を認めたため,緊急手術を行った.多量の血性腹水と腸管壊死があり,約85cmの小腸を切除して人工肛門を造設した.腸管壁近傍で動脈性出血と,腸間膜静脈内血栓を認めたため,上腸間膜静脈血栓症と診断した.血栓症の原因として先天性凝固異常,真性多血症などの骨髄増殖性疾患,門脈圧亢進症,悪性腫瘍などは否定的であった.脾腫や白血球数,血小板数の増加はなく,血清エリスロポエチン値が正常であったことから,ストレス多血症に伴う上腸間膜静脈血栓症と考えられた.

1200字通信・47

はじめての法医解剖

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1503 - P.1503

 少し前の事ですが,医学部に通う娘から携帯電話にメールが届きました.そのなかで,「法医学の解剖実習が始まって,いきなり多発骨折の司法解剖を見た」とありました.「気分を悪くした人もいた」と続けられており,それだけ悲惨なものであったと想像され,娘の気持ちを心配することになりました.今となっては,気分を悪くした学生さんが立ち直ってくれることを祈るのみであります.

 その夜,なんと返事をしようかと考えているうちに,自分が経験した,はじめての法医解剖の光景を思い出すことになりました.それは,無理心中をはかった母親に頸を絞められて亡くなった幼い兄妹の司法解剖でしたが,頸には絞められたときの手の跡が鮮明に残り,顔色は土気色をしていて,なるほど教科書どおりだと思ったことでした.ただ,それにしても子供の表情があまりにも穏やかだったことが印象的で,単にはじめての法医学の解剖実習というだけではなしに,記憶に深く刻まれることになったようです.実習の開始後に,学生に混じって見学していた若い婦人警官が蒼ざめて部屋を出ていったことも思い出されますが,あらかじめ色々な写真を見せられている学生との違いを感じたことでした.ただ,今になってみて,当時の婦人警官や気分を悪くした学生さんのほうが,よほどまともな精神の持ち主かも知れないと思うことにはなっています.

書評

工藤進英(著)「大腸内視鏡挿入法(第2版)―軸保持短縮法のすべて」

著者: 吉田茂昭

ページ範囲:P.1519 - P.1519

 本書の初版は1997年に上梓され,第一級の教科書として君臨し続けている.「なのに,なぜ,今さら挿入法なのだろう?」というのが,本書を手に取った最初の思いであった.しかし,序にもあるように,大腸内視鏡はこの15年間にpit patternの診断からNBIや超拡大診断,治療領域ではpolypectomyからpiecemeal polypectomy,ESD等々,極めて多様な対応が求められてきており,挿入に手間取っているようでは大腸内視鏡医として与えられた使命を果たせないのである.著者の挿入例数はこの15年間に20万件に達したそうであるが,そのキャリアの大部分は自身が開発した拡大内視鏡によっている.本機器は先端硬性部が長く太径でもあり,一般に挿入が難しい.このスコープを自在に操っている中に,挿入技術に一層の磨きがかかり,遂にはartの域に達したのであろう.本書はこうして完成した軸保持短縮法を何とか多くの内視鏡医に伝えたいという熱い思いにあふれている.

 これまでの挿入法はというと,one-man methodの創始者である新谷弘実先生のright-turn shortening(強いアングル操作で先端を粘膜ひだに引っかけ,右回旋しながら引き戻すことで腸管の直線化を図る)がよく知られている.これに対し,軸保持短縮法ではup-downのアングル操作を控え,可及的に先端硬性部を真っ直ぐに保ち,管腔の走行を的確に想定しながら,トルクを加えつつ順次スコープを挿入していくことを基本としている.筆者もUPDを用いた著者のライブデモンストレーションを見せていただいたことがあるが,確かに先端部を強く屈曲するようなシーンは一度もなかった.

加納宣康(監修)/三毛牧夫(著)「腹腔鏡下大腸癌手術―発生からみた筋膜解剖に基づく手術手技」

著者: 森谷冝皓

ページ範囲:P.1541 - P.1541

 このほど『腹腔鏡下大腸癌手術―発生からみた筋膜解剖に基づく手術手技』が,書評依頼付きで腹腔鏡下手術の経験のない私に送られてきた.戸惑ったが精読してみた.

 本書の中心を流れる三毛手術哲学の特徴は,血管や臓器の細部に言及する従来の系統解剖に手術手技の理解の基礎を求めるのではなく,optical technologyの進歩により可能となった筋膜構造の視認に腹腔鏡下手術の基礎を置く臨床解剖の重要性を一貫して主張しているところにある.発生学からみた筋膜構造に重点が置かれた初めての手術書であろう.

昨日の患者

忠犬ハチ公

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1526 - P.1526

 JR渋谷駅前の秋田犬の像は,飼い主が亡くなってからも必ず定刻になると渋谷駅で主人を出迎えた,忠犬ハチ公を顕彰するために設置された.そのハチ公のように奥様に誠心誠意を尽くす,微笑ましい夫を紹介する.

 70歳代前半のTさんが,腹痛と嘔吐を主訴に来院した.精査を行うとS状結腸癌であり,腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した.Tさんの夫は入院時から頻繁に病室に顔を出し,検査に立ち会ったり手術の準備を手伝ったりした.また,手術時には終始,待合室に控え,回復室でも奥さんに付き添った.さらに術後も早朝から晩まで甲斐甲斐しく奥さんの世話を行い,病状が落ち着いても朝昼晩と1日に3回は必ず顔を出した.男性にしてはあまりにも熱心なので,病棟中の話題の人になった.

勤務医コラム・43

さすらいの食道静脈瘤

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.1559 - P.1559

 食道静脈瘤といえば,昔はSB tubeに始まって,シャントあるいは直達手術を経由して,長期的には肝癌や肝不全で終わる,というイメージであった.しかし時代とともにどんどん治療が進歩して,EIS~EVL~BRTOから,ラパロ脾摘さらには移植へと発展し,TIPS,PSE,Denver shuntのような関連手技もある.研修医のころ,吐血患者にルートをとって,先輩が来るまでに,冷生食で胃洗浄しながら,カメラを準備し,クロスマッチをしつつ,遠心器でHct測定していたころが懐しい.最近は,静脈瘤の患者さんが外科に回ってくることは少なくなった.

 そんなある日の早朝,40代男性のKさんが吐血で救急搬送されてきた.久しぶりに研修医に戻ったような気がして,上記準備のあとカメラを入れてみたら,下部食道の静脈瘤からjetで出血しており,幸いEVL一発で止まって視界が開けた.Kさんはトントン拍子に元気になった.virus(-)で,alcoholic cirrhosisであった.人品卑しからざるKさんは,理解力も良くお金持ち風で,聞けば他県の人で日本全国独り旅の最中という.奥さんはいない.何か心に風穴があいたのだろうか? そこまではお聞きしなかったが,きっと何か深い訳があるのだろう.退院の前の日に,これまた久しぶりにICGをやってみたところ15分停滞率10%台だったので,「けっこういいですョ,ちゃんとすれば戻れますョ.」と励ましたら嬉しそうにしていた.今ごろKさんはどこの空の下に居るのだろうか.酒の飲み過ぎは困るが,漂泊の旅には心惹かれます.

ひとやすみ・93

信頼されるボスザル

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1587 - P.1587

 ボスザルは単に肉体的に勝るだけではなく,統率力があり,さらに仲間から慕われることが絶対条件である.特にメスザルからの信頼は大切で,ボスザルは手渡された子供をよく可愛がる.そして,子供を可愛がることによってメスザルの信頼を得,さらなる統率力が増すものである.この行為は人間社会でも普遍的で,最も大切なものを上司に託すことによって忠誠心を示すとともに,上司は庇護を保証する.

 7対1の看護基準を満たすため,多くの病院が看護師確保に奔走している.当院でも看護師の応募者を増やして定着率を高めるため,勤務時間の多様化や院内保育所開設などの労働環境改善に努めている.しかし,途中で辞める看護師は多く,年度末には看護基準ぎりぎりまで看護師が少なくなる傾向にあった.しかしながら,現在の看護部長になってからは看護師の定着率が向上しつつある.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.1497 - P.1497

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1600 - P.1600

投稿規定

ページ範囲:P.1601 - P.1602

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.1603 - P.1603

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1604 - P.1604

次号予告

ページ範囲:P.1605 - P.1605

あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.1606 - P.1606

 本「臨床外科」誌上に2005年9月から2008年6月まで(60巻9号~63巻6号)連載された「外科学温故知新」が,一冊の本として上梓する運びとなり,この春,大道学舘出版部から世に出すことができた.出版に際しては,「発刊に寄せて」の序文を賜わった日本外科学会理事長 里見 進 東北大学教授(当時)をはじめ,大道学舘 古山正史氏,印刷会社 祥文社の花村美月氏,医学書院『臨床外科』編集室 田村智広氏にこの場を借りて感謝の意を表したい.本書の出版は大道学舘からとなったが,本書の書評については市立貝塚病院総長の小川道雄先生,東京大学小児外科教授の岩中 督先生にご執筆いただき,それぞれ本誌67巻9号,10号に掲載されているので,ぜひお読みいただきたい.

 外科に関する歴史書としては,Jürgen Thorwald『外科の夜明け』(塩月正雄訳,および大野和基訳),また本書を新しい翻訳本として小川道雄先生が出版された『外科医の世紀,近代外科学のあけぼの』(へるす出版),さらに『外科医の帝国,現代外科のいしづえ(上)』へと続き,さらに『消化器外科』(へるす出版)誌上で連載が続いている.小川道雄先生の外科医,研究者そして教育者としてのお姿は私の模範とするところであるが,先生からは『外科学 温故知新』の出版に際し,ヨーロッパのことわざ「歴史を知らない民族は滅びる」というお言葉をいただき,改めて歴史を学ぶ,そして伝える重要性を痛感した.

「臨床外科」第67巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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