icon fsr

文献詳細

雑誌文献

臨床外科67巻13号

2012年12月発行

文献概要

胃癌手術のロジック─発生・解剖・そして郭清・2

腸間膜の剝離可能層

著者: 篠原尚1 春田周宇介1

所属機関: 1虎の門病院消化器外科

ページ範囲:P.1542 - P.1551

文献購入ページに移動
9 今回は腸間膜の微細解剖を追求しながら,剝離可能層とその意義について考える.まず,図8(第1回連載)で作成した胎生5週の基本図から背側胃間膜の部分だけを切り出して拡大してみよう.腸管は,大動脈から衝立状に立ち上がった腹膜の折り返しによって腹壁につなぎ止められている.図5(第1回連載)で決めた地図記号を使って太線で描かれた腹膜は,中皮細胞の単層扁平上皮からなる正真正銘の“膜”である.腸間膜の主体は中間層intermediate layer1)であり,腸管に通じる血管や神経,リンパ管の双方向性の通り道となっている.中間層には脂肪がついてくるが,その厚みは生後,成長につれて増加し,個体差も大きいため時として外科医を悩ませる.いわゆる内臓脂肪というやつである.

 腹膜と脂肪層の間には疎性結合組織からなるわずかな隙間があり,層分離が可能である.その剝離操作の結果として脂肪表層に付着するdenseな結合組織が細い線で表記された腹膜下筋膜で,「膜」という名前は付いているが,図5“筋膜論”で述べたように正規の,つまり細胞成分をもった膜ではない.腸間膜から腹壁への移行に伴い,腹膜を後腹膜,腹膜下筋膜を後腹膜下筋膜と呼ぶこともあるが,言うまでもなく連続した構造物であり,わざわざ特別扱いする必要もないだろう.

参考文献

1)Sato T, Hashimoto M:Morphological analysis of the fascial lamination of the trunk. Bull Tokyo Med Dent Univ 31:21-32, 1984
2)Kanaya S, Haruta S, Kawamura Y, et al:Video:laparoscopy distinctive technique for suprapancreatic lymph node dissection:medial approach for laparoscopic gastric cancer surgery. Surg Endosc 12:3928-3929, 2011
3)佐藤誠二,金谷誠一郎,谷口桂三,他:「神経前面の層」から考える胃癌の腹腔鏡下胃切除.手術65:1731-1737,2011
4)日本胃癌学会(編):胃癌取扱い規約 第14版.金原出版,2010
5)大腸癌研究会(編):大腸癌取扱い規約 第7版補訂版.金原出版,2009
6)日本胃癌学会(編):胃癌治療ガイドライン―医師用 第3版.金原出版,2010
7)金谷誠一郎:膜の解剖からみた消化器一般外科手術―結腸癌根治術・解剖学的事項.臨外51:1579-1608,1996
8)Sadler TW, ed. Langman's Medical Embryology, 11th ed. Philadelpia, Lippincott William & Wilkins, 2009
9)Kawaguchi Y, Cooper B, Gannon M, et al:The role of the transcriptional regulator Ptf1a in converting intestinal to pancreatic progenitors. Nat Genet 32:128-134, 2002
10)Fukuda A, Kawaguchi Y, Furuyama K, et al:Ectopic pancreas formation in Hes1-knockout mice reveals plasticity of endodermal progenitosis of the gut, bile duct, and pancreas. J Clin Invest 116:1484-1493, 2006
11)Roberts CWM, Shutter JR, Korsmeyer SJ:Hox11 controls the genesis of the spleen. Nature 368:747-749, 1994

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1278

印刷版ISSN:0386-9857

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?