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文献詳細

雑誌文献

臨床外科67巻13号

2012年12月発行

文献概要

勤務医コラム・43

さすらいの食道静脈瘤

著者: 中島公洋1

所属機関: 1慈仁会酒井病院外科

ページ範囲:P.1559 - P.1559

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 食道静脈瘤といえば,昔はSB tubeに始まって,シャントあるいは直達手術を経由して,長期的には肝癌や肝不全で終わる,というイメージであった.しかし時代とともにどんどん治療が進歩して,EIS~EVL~BRTOから,ラパロ脾摘さらには移植へと発展し,TIPS,PSE,Denver shuntのような関連手技もある.研修医のころ,吐血患者にルートをとって,先輩が来るまでに,冷生食で胃洗浄しながら,カメラを準備し,クロスマッチをしつつ,遠心器でHct測定していたころが懐しい.最近は,静脈瘤の患者さんが外科に回ってくることは少なくなった.

 そんなある日の早朝,40代男性のKさんが吐血で救急搬送されてきた.久しぶりに研修医に戻ったような気がして,上記準備のあとカメラを入れてみたら,下部食道の静脈瘤からjetで出血しており,幸いEVL一発で止まって視界が開けた.Kさんはトントン拍子に元気になった.virus(-)で,alcoholic cirrhosisであった.人品卑しからざるKさんは,理解力も良くお金持ち風で,聞けば他県の人で日本全国独り旅の最中という.奥さんはいない.何か心に風穴があいたのだろうか? そこまではお聞きしなかったが,きっと何か深い訳があるのだろう.退院の前の日に,これまた久しぶりにICGをやってみたところ15分停滞率10%台だったので,「けっこういいですョ,ちゃんとすれば戻れますョ.」と励ましたら嬉しそうにしていた.今ごろKさんはどこの空の下に居るのだろうか.酒の飲み過ぎは困るが,漂泊の旅には心惹かれます.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1278

印刷版ISSN:0386-9857

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