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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科67巻2号

2012年02月発行

雑誌目次

特集 肝胆膵外科手術における術中トラブル―その予防と対処のポイント

ページ範囲:P.161 - P.161

 肝胆膵領域の外科手術では複雑な手術が多く,様々な術中合併症が発症する.その術中合併症に対して的確に対処することは極めて重要である.対応を一歩間違えるとさらに重篤な事態を招き,生体に大きな影響を及ぼすことになり,術後の回復にも大きく影響する.さらに,術中起こりうる様々な偶発症を前もって予知し,その防止策を工夫しておくことは,エキスパート外科医に要求される能力であろう.

 本特集では,豊富な経験をもつ肝胆膵外科医の方々に,術中起こりうる偶発症への的確な対処とその予防について,実技面のポイントを述べていただいた.

〔肝切除〕

肝実質離断中の過大出血

著者: 島津元秀 ,   阿部雄太 ,   高野公徳 ,   尾野大気 ,   木原優 ,   横山卓剛

ページ範囲:P.162 - P.166

【ポイント】

◆肝実質離断に伴う出血を減少させる方策としては,①肝阻血,②肝静脈圧(中心静脈圧)低下,③圧迫,④牽引,⑤各種止血機器の応用,などがある.

◆現在最も多く行われている肝阻血法は,肝硬変の有無を問わず15分の阻血,5分解除を繰り返すPringle法であり,経験的に安全性が確かめられている.

◆肝離断中の出血で難渋するのは主として肝静脈からの出血であり,これをコントロールすることが出血量を減らすポイントである.

肝静脈根部の剝離中の肝静脈損傷

著者: 檜垣時夫 ,   髙山忠利

ページ範囲:P.167 - P.171

【ポイント】

◆厳格な適応:肝静脈根部での損傷は致命的であり,不必要な剝離は行わない.

◆予防することが最も確実な対処法である:常に基本手技を励行し,危険が予知される場合には決して無理をせず,血流コントロール法に必要な処理を先行させる.

◆損傷した場合には:まず圧迫止血を行い,肝臓外科に習熟した上級医に連絡し,冷静に視野の確保を行い,損傷部を直視下で縫合閉鎖する.

End-tidal CO2の肝切離中の急激な低下

著者: 田中栄一 ,   平野聡 ,   土川貴裕 ,   加藤健太郎 ,   松本譲 ,   野路武寛 ,   七戸俊明

ページ範囲:P.172 - P.175

【ポイント】

◆ETCO2の低下は非特異的現象であるが,肝切除時に観察された場合は空気塞栓症を疑う.特に腹腔鏡下手術では高頻度で発生している.

◆ETCO2の低下とともに循環虚脱を伴うことは稀であるが,空気塞栓としては緊急の病態で迅速な対処を要する.

◆肝静脈本幹や下大静脈に近接する操作では,静脈分枝の引き抜き損傷に十分注意する必要がある.

肝脱転時の下大静脈および副腎からの出血

著者: 北順二 ,   窪田敬一

ページ範囲:P.176 - P.182

【ポイント】

◆右副腎からの出血を防止するには,第一助手による肝右葉の脱転に過度の緊張がかからないように注意を促すことである.また,切離の前に副腎を囲むように下大静脈に沿い絹糸をかけておき,出血の際に結紮対応ができるようにしておくことも重要である.出血した場合は,縫合止血で対応することとなる.

◆下大静脈からの出血は,短肝静脈や下右肝静脈に対しての剝離が不十分で,かつ粗雑であることがほとんどである.丁寧な剝離と確実な縫合を行い,無用な出血を避けなければならない.

◆再肝切除症例や巨大腫瘍症例などでは,組織の硬さや視野確保に問題が生じるため,さらに高難度の剝離操作が要求される.

肝内側区域切除時の左胆管損傷

著者: 加藤厚 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   古川勝規 ,   吉富秀幸 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   中島正之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.184 - P.189

【ポイント】

◆肝内側区域切除術においては,肝門から左肝管にかけてのグリソン鞘の損傷を避けるために注意深い剝離操作を要する.

◆左肝内胆管には様々な走行異常が存在するため,術前に胆管走行や門脈との位置関係を把握することが重要である.

◆胆管損傷に伴う胆汁瘻は,その成因と部位を正確に診断し,離断型胆汁瘻に対してはエタノール焼灼などの処置を行う.

〔胆道手術〕

腹腔鏡下胆囊摘出術時の胆管損傷

著者: 米永吉邦 ,   串畑史樹 ,   藤山泰二 ,   村上朱里 ,   竹林孝晃 ,   伊藤英太郎 ,   井上仁 ,   渡邊常太 ,   三好明文 ,   高田泰次

ページ範囲:P.190 - P.194

【ポイント】

◆術前にDIC-CTやMRCPを行い,胆管走行異常を確認する.

◆Calotの三角を安全に剝離し,critical view of safetyを確保することが重要である.

◆術後胆汁漏や胆管狭窄の治療は内視鏡的アプローチが第一選択である.

腹腔鏡下胆囊摘出術時の肝動脈損傷

著者: 太田岳洋 ,   樋口亮太 ,   谷澤武久 ,   梶山英樹 ,   小貫建一郎 ,   植村修一郎 ,   笹川剛 ,   山本雅一

ページ範囲:P.195 - P.198

【ポイント】

◆腹腔鏡下胆囊摘出術において肝動脈損傷は胆管損傷に伴って生じることが多い.

◆損傷を防ぐためには,胆管損傷の際と同様にcritical view of safetyの考え方が大切である.

◆損傷を生じた場合には,開腹してPringle法を行って出血をコントロールし,損傷の修復を行う.

◆胆管と肝動脈をともに損傷した場合は,血行再建に熟達した外科医による再建が望ましい.

胆道手術時の門脈損傷

著者: 鈴木裕 ,   杉山政則 ,   中里徹矢 ,   横山政明 ,   阿部展次 ,   柳田修 ,   正木忠彦 ,   森俊幸

ページ範囲:P.199 - P.203

【ポイント】

◆胆道手術における門脈損傷は,肝門部剝離操作や膵頭十二指腸切除術の際の門脈前面の剝離操作による各アーケードの損傷によることが多い.

◆剝離操作が困難な場合は,細い枝を丁寧に処理しながら行うことが,不要な門脈損傷を回避するポイントである.

◆門脈系の出血は静脈性の出血であるため,慌てず軽い圧迫により出血をコントロールしながら結紮縫合などの止血処置を行う.

Confluence stoneに対する外科治療―胆管損傷を避ける工夫

著者: 黒崎功 ,   横山直行 ,   大谷哲也 ,   皆川昌広 ,   高野可赴 ,   滝沢一泰 ,   畠山勝義 ,   二瓶幸栄

ページ範囲:P.204 - P.209

【ポイント】

◆Confluence stoneを伴う胆石症の胆囊摘出術では,胆囊管縦切開による採石が有用である.

◆炎症の強い例では胆囊管と総肝管が癒着しており,胆囊管を総胆管と錯覚することがある.

◆潜在的胆囊癌の合併は高率であり,画像診断とともに術中精査が重要である.

慢性炎症を伴った胆囊摘出時の胆囊・十二指腸瘻の対処

著者: 旭吉雅秀 ,   千々岩一男 ,   大内田次郎 ,   矢野公一 ,   今村直哉 ,   永野元章 ,   大谷和広 ,   藤井義郎

ページ範囲:P.210 - P.213

【ポイント】

◆胆囊十二指腸瘻に対する治療は瘻孔の切除と胆囊の摘出であるが,内視鏡下手術で対処可能である.

◆手術では,胆囊と消化管の漿膜に沿って剝離を進めることで瘻孔を確認し,周囲の臓器損傷を予防する.

◆瘻孔は自動縫合器を用いて処理することで,その後の合併症も少なく,手術時のストレスも軽減することができる.

〔膵切除〕

膵頭十二指腸切除時の上腸間膜静脈・門脈損傷の対処法

著者: 竹田伸 ,   中尾昭公 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.214 - P.217

【ポイント】

◆術前に各種画像診断,特にMDCTによる血管系の解剖を熟知しておかなければならない.

◆門脈系には丁寧な基本的な手術操作だけでなく,過大な緊張をかけないようにすることが予期せぬ出血を招かないコツである.

◆もしも思わぬ出血に見舞われた場合には,まずは圧迫して止血を待ち,冷静沈着に対処することが肝要である.

膵頭十二指腸切除時の肝動脈・上腸間膜動脈(枝)損傷

著者: 鈴木秀樹 ,   佐々木滋 ,   新木健一郎 ,   久保憲生 ,   渡辺亮 ,   桑野博行

ページ範囲:P.218 - P.223

【ポイント】

◆膵頭部領域の動脈走行は変異している場合が多く,術後合併症予防のためには術前画像診断による詳細な検討が極めて重要である.

◆置換総肝動脈が膵頭部を走行する場合には,術前に対策を立てておく必要がある.

◆肝胆膵外科専門の高度技能医は,血管損傷した場合には迅速に対応できるように,対処法には十分熟知していることが肝要である.

脾温存膵体尾部切除時の脾静脈の損傷

著者: 木村理

ページ範囲:P.224 - P.229

【ポイント】

◆脾温存膵体尾部切除術には脾動静脈を温存しないWarshaw法と,脾動静脈を温存する方法がある.前者に急性期の脾梗塞や脾膿瘍などの,また慢性期の胃静脈瘤発生などの術後合併症が報告されている.

◆脾温存膵体尾部切除術は,脾動静脈および脾臓を温存した方法が次第に重視されるようになってきている.

◆手技の要点は,Toldtの癒合筋膜を脾静脈の長軸方向に沿って切離し脾静脈後面を露出し,脾静脈を膵から剝離する操作を,想定膵切離線あたりから脾臓に向かって行うことである.安全で確実な方法であり,今後とも広く施行されていく術式である.

◆脾静脈の損傷を考えるとき,この手技がそれを回避するために最も優れている方法であり,これをもってしてこの手技全体がKimura法と呼ばれる所以となっている.

◆本稿では,脾静脈の損傷時の対応について述べた.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・20

減量手術のサポートグループ

著者: 中里哲也 ,   笠間和典

ページ範囲:P.230 - P.237

 元気ですかーっ!!

 2回目の登場となります.ソーシャルワーカーの中里です.前回は「減量手術の経済効果」(第14回)について書かせていただきましたが,今回は,本業であります「減量手術におけるソーシャルワーク」,主にサポートグループについて書かせていただきます.今思うと,減量外科に携わり始めてから現在まで活動をしてきた約8年間で延べ4,000人以上の減量手術を希望する方々と話をしてきて……紆余曲折,実に様々なことがありました.「減量手術に必要なチーム」の回(第16回)でも園田看護師が記載しましたが,チーム医療のなかにはサポートグループも含まれています.単独では成り立たない減量手術……「俺も助けてもらわねえと生きていけねえ」自信があります! ただ,元気があればサポートグループだってできます!!

ダァーーッ!!

ポイント画像で学ぶ腹腔鏡下低位前方切除術・2

内側アプローチから外側アプローチ―脾彎曲の授動を含む

著者: 長谷川傑 ,   篠原尚 ,   松末亮 ,   大越香江 ,   山田理大 ,   河田健二 ,   川村純一郎 ,   坂井義治

ページ範囲:P.238 - P.245

■はじめに

 前月号の連載第1回で,腹膜切開から中枢側血管の処理までについて述べた.第2回は中枢血管処理後の,内側・外側アプローチによる左側結腸間膜の授動操作について述べる.本ステップの大部分は生理的癒着面の剝離操作なので,正しい層さえ見失わなければ,基本的に鈍的に剝離を進めることができる.

Expertに学ぶ画像診断・11

カプセル内視鏡

著者: 細江直樹 ,   緒方晴彦

ページ範囲:P.246 - P.250

はじめに

 カプセル内視鏡(capsule endoscopy:CE)は2000年にIddanら1)によって発表され,現在では世界中で幅広く使用されている.小腸用カプセル内視鏡はわが国においても保険適用となっており,ギブン・イメージング社やオリンパスメディカルシステムズ社のカプセル内視鏡が使用可能である.本稿では小腸用カプセル内視鏡を中心に解説を行う.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑫

“ハンドリング”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.252 - P.255

親指を外に添え

 手のひらで軽く持つべし.

  これこそ「サムアウト」なり.

不要なリキミは

 鉗子のフットワークを妨げるものなり.

外科専門医予備試験 想定問題集・2

肝胆膵

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   杉本卓哉

ページ範囲:P.256 - P.260

出題のねらい

 肝胆膵領域は18問前後の出題があります.解剖や治療が複雑で,苦手意識を持っている方も多いと思います.解剖や診断に関する頻出問題がいくつかあり,確実に正解できるものを落とさないようにしましょう.なかには術後管理の経験がないと難しく感じられるものも含まれています.この領域の症例経験が少ない方は指導責任者に相談して,今のうちに手術や術後管理に関われるように対策を立てておきましょう.

病院めぐり

高知赤十字病院外科

著者: 浜口伸正

ページ範囲:P.261 - P.261

 当院は高知市の北部にあり,JR高知駅のすぐ北に位置しています.昭和3年8月に日本赤十字社高知県支部療院として,内科・外科・眼科の3診療科,72床で発足したのが始まりです.昭和18年1月に現名称となり,その後,順次,診療科も増えてきました.平成6年11月には高知県ではじめて救命救急センターを開設し,3次救急医療施設として24時間対応での高度な救命救急医療体制を確立しました.平成11年2月には臓器移植法施行後初の臓器提供施設となっています.人間ドックや生活習慣病予防検診などの検診事業にも注力しており,健康管理センターも設置しています.

 当院の理念は「愛され,親しまれ,信頼される病院づくりを目指します」であり,地域医療支援病院,地域がん診療連携拠点病院,臨床研修病院,災害拠点病院,日本医療機能評価機構(Ver6.0)の認定病院など多数の施設認定を取得し,地域の医療の質向上をはかり,連携を重視した地域完結型医療を推進しています.現在の病床数は482床(一般426床,結核26床,救急30床),診療科は全20科で,そのほか救急部,検診部,検査部の3部門があります.医師数は89名です.

大原綜合病院外科

著者: 星野正美

ページ範囲:P.262 - P.262

 当院は明治29年当時,広大な原野だった福島市の住民に十分な医療を施そうという創始者の気持ちに端を発して設立されました.その後,民間病院としては珍しく,地方病であった野兎病の研究に邁進し,原因究明や治療方法の確立を行って名を馳せました.その熱意は後輩たちにも受け継がれ,福島県立医科大学の協力を仰ぎながら医大に勝るとも劣らない医療レベルを保持しつつ福島県民に高度な医療を提供し続けています.

 外科は現在8名〔常勤医4名(卒後33,23,21,19年),医大からの1年交代医2名(卒後13,10年),初期研修医2名〕で診療にあたっています.日本外科学会,日本消化器外科学会の修練施設であり,日本乳癌学会,日本内分泌学会の専門医も常勤しており,充実した診療体制を整えています.

臨床報告

大腸癌術後に出現し,脾転移との鑑別に苦慮した脾サルコイドーシスの1例

著者: 八木寛 ,   飯合恒夫 ,   島田能史 ,   亀山仁史 ,   野上仁 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.263 - P.266

要旨

症例は76歳,女性.便潜血反応陽性を主訴に近医を受診し,下部消化管内視鏡で上行結腸癌を指摘された.当科に紹介され,腹腔鏡下結腸部分切除術を施行された.術後病理診断は高分化型腺癌pSSN1H0P0M0 pStage Ⅲaであった.術後補助化学療法を施行後2年間フォローアップしていたが,術後5年経過時にCTにて脾臓に腫瘤影が出現した.徐々に増加・増大するため大腸癌脾転移を疑い,脾臓摘出術を施行した.術後病理診断は脾サルコイドーシスであった.大腸癌術後に出現し,転移性脾腫瘍との鑑別が困難であった脾サルコイドーシスの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

穿刺吸引細胞診で診断しえた乳腺腺様囊胞癌の1例

著者: 佐藤雄 ,   古川義英 ,   長澤雄大 ,   大竹徹 ,   鈴木眞一 ,   竹之下誠一

ページ範囲:P.267 - P.270

要旨

乳腺の腺様囊胞癌は稀で,特徴的な細胞像を有する.今回,術前の穿刺吸引細胞診で診断しえた乳腺腺様囊胞癌を経験したので報告する.症例は50歳,女性.右乳房に硬結を触知し,マンモグラフィおよび超音波検査では充実性の腫瘤として認められた.穿刺吸引細胞診では,粘液状物質を取り囲むように腫瘍細胞が集塊をなし,典型的な腺様囊胞癌の細胞像であった.乳腺腺様囊胞癌の診断で乳房温存術を施行し,組織学的にも真の腺管と偽囊胞から成る特徴的な像がみられた.乳腺原発の腺様囊胞癌は予後が良好であるため,その特徴的な細胞像を理解することは,術前診断の精度向上と適切な治療の選択に有用であると考えられる.

鼠径部に発生したmesothelial cystの2例

著者: 岩﨑渉 ,   小棚木均 ,   吉楽拓哉 ,   里吉梨香 ,   齋藤謙

ページ範囲:P.271 - P.274

要旨

2例ともに30歳代女性.子宮円靱帯と並行する多房性の囊胞を認めた.ヘルニア囊も存在したが,連続性はなかった.手術は囊胞摘出とヘルニア修復を行った.病理組織学的検査では,内面が1層の中皮によって覆われ,免疫染色ではカルレチニン陽性,MIB-1陽性率5%以下,EMA染色陰性,CEA染色陰性であった.以上からmesothelial cystと診断した.自験のような鼠径部の囊胞性疾患では,腹膜中皮腫のような悪性疾患もあるので,内容を漏らさないよう囊胞を完全切除することが重要である.また,鑑別診断には免疫染色が必須である.

同時性に嵌頓した両側閉鎖孔ヘルニアの1例

著者: 森山秀樹 ,   大竹由美子 ,   橋爪泰夫

ページ範囲:P.275 - P.277

要旨

症例は83歳,女性.2009年3月中旬,腹部膨満感,嘔吐,両側鼠径部痛を主訴に当院を受診した.腹部X線検査で腸閉塞と診断し保存的加療を行った.症状の改善がみられないため腹部CTを施行したところ,両側の閉鎖孔に小腸の嵌頓を認めたため,両側閉鎖孔ヘルニアの診断で緊急開腹手術を施行した.両側の閉鎖孔に嵌頓した小腸を用手的に解除したのち,小腸切除術を施行した.閉鎖孔ヘルニアは日常臨床でしばしば経験されるが,両側同時性の嵌頓例は報告が少ない.本症例に関して文献的考察を加えて報告する.

非ステロイド系抗炎症薬によると思われた多発結腸潰瘍穿孔の1例

著者: 倉橋康典 ,   稲本道 ,   篠原尚 ,   白潟義晴 ,   牧淳彦 ,   水野惠文

ページ範囲:P.278 - P.281

要旨

症例は37歳,女性,月経痛が強く市販のNSAIDsを常用していた.外耳炎に対し近医でNSAIDsを処方され,内服2日目に心窩部不快感を自覚し内服を中止した.5日目に黒色便と下腹部痛,7日目にCTでfree airと腹水を認め,当院へ紹介され,緊急手術となった.手術では上行~横行結腸に約10か所の穿孔を認め,同部位の切除・上行結腸人工肛門造設を行った.摘出標本では結腸紐に沿って3列に並ぶ多数の潰瘍を認めたが,病理学的には非特異的潰瘍であった.NSAIDs起因性大腸穿孔の報告はきわめて稀であるが,患者が市販のNSAIDsを常用している可能性があり,少量投与でも起こりうることを念頭に置く必要があると考えられた.

小腸転移により腸閉塞をきたした再発乳癌の1症例

著者: 池田宏国 ,   佃和憲 ,   浅野博昭 ,   内藤稔 ,   土井原博義 ,   三好新一郎 ,   伏見聡一郎

ページ範囲:P.282 - P.286

要旨

症例は50歳,女性.45歳時に右乳癌に対し乳房温存術を施行(scirrhous carcinoma T2N2 Stage ⅢA)した.48歳時から骨転移があった.腹部膨満を主訴に他院を受診,回盲部の腫瘤性病変による腸閉塞症と診断され当院へ紹介され,同日緊急手術を行った.手術所見で回盲部に全周性の腫瘤性病変を認め,回盲部部分切除を行った.切除標本所見で病変部は粘膜下腫瘍様で,Bauhin弁を全周性に取り囲んでいた.病理組織所見で小腸の腸管壁内に漿膜下層と固有筋層を主体に乳癌細胞の浸潤を認めた.わが国における乳癌小腸転移に関する文献的報告は少なく,若干の文献的考察を加えて報告する.

全麻下開腹手術時にラテックスアレルギーを認めた1例

著者: 小林慎一朗 ,   永田康浩 ,   渡海大隆 ,   戸坂真也 ,   藤岡ひかる

ページ範囲:P.287 - P.290

要旨

症例は40歳代,女性.悪性線維性組織球腫に対して7回の手術既往があった.今回,再発腫瘍に対して全身麻酔下手術を施行したところ,執刀30分後の腹腔内操作時に原因不明のショック状態に陥ったため,閉腹し手術を終了した.アナフィラキシーショックの可能性が高いことから,原因物質の検索を行った.術中使用した主な薬剤はリンパ球幼若化試験,皮内テストともに陰性であったが,ラテックスに対する血清特異的IgE抗体が強陽性であり,ラテックスアレルギーと診断した.後日ラテックスフリーの環境で左開胸開腹横隔膜部分切除による腫瘍摘出,肝部分切除,胃部分切除術を施行した.術中,術後ともに著変なく,術後11日目に軽快退院した.

虫垂杯細胞カルチノイドの1切除例

著者: 後藤正和 ,   三浦連人 ,   木下貴史 ,   松山和男 ,   森本忠興 ,   田代征記

ページ範囲:P.291 - P.294

要旨

症例は69歳,女性.右下腹部痛を主訴に当院を受診し,精査の結果,急性虫垂炎と診断され腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.術後病理組織検査で虫垂杯細胞カルチノイドと診断された.腫瘍径5cm,mitotic activity 10mitoses/10HPFであり高悪性度と考えられたため,初回手術後57日目に腹腔鏡補助下回盲部切除術を施行した.追加切除標本では虫垂切除断端近傍に腫瘍細胞残存を認めたが,リンパ節転移は認めなかった.術後は再発予防のため,S-1内服による補助化学療法を行い経過観察中である.稀な虫垂杯細胞カルチノイド症例を経験し,切除虫垂の病理組織検査の重要性と,虫垂杯細胞カルチノイドでは悪性度に応じた追加治療が必要であることを再確認した.

学会告知板

第66回 手術手技研究会

ページ範囲:P.166 - P.166

会 期:2012年5月25日(金),26日(土)

会 場:5月25日 ホテルニューオータニ博多(福岡市中央区渡辺通1-1-2)

    5月26日 電気ビルみらいホール(福岡市中央区渡辺通2-1-82)

第37回 日本外科系連合学会学術集会

ページ範囲:P.286 - P.286

会 期:2012年6月28日(木),29日(金)

会 場:九州大学医学部百年講堂・同窓会館

    〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1 TEL 092-642-6257(百年講堂)

勤務医コラム・33

百人一首への誘い

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.183 - P.183

 私だけであろうか? 外科の勤務医などというものは毎日毎日馬車馬のように働いて,金もなければ暇もなく,趣味もなければ文化の香りにも程遠く,時間だけが経過して,気付けば五十の坂を越え,取り柄はと言えば「好き嫌いなく,出されたものを残さず食べること」くらい(笑).

 最近,さすがに「こんなことではイカン」と思うようになった.いつでもどこでも独りでできて,道具が不要でお金もかからない文化的な趣味はないものか? と思っていたら,高校生の娘が学校からもらってきたまま使いもせず放ってあった一冊の本「原色小倉百人一首―古典短歌の精髄をカラーで再現」(文英堂,1997年)が目に止まった.

1200字通信・36

形見

著者: 板野聡

ページ範囲:P.194 - P.194

 ある年の1月半ば,そろそろ正月気分も醒めた頃になって,二人の重症患者さんを抱えることになりました.Aさんは私が担当した方で,術後5日目になって急に呼吸苦を訴え,いわゆるARDSと診断されました.すぐに薬物治療を開始し,さらに気管挿管して人工呼吸器管理となりました.もう一人のBさんは肝疾患が重症化した方で,こちらは内科の先生が担当でした.

 それぞれに主治医を決めてはあるものの,こうしたときには医局の先生方の知識と技術を総動員することになります.Aさんには気管切開などの外科的処置を私が行い,薬物治療では内科医の力を借りることになりました.また,Bさんについては,中心静脈カテーテルの処置などは,手慣れた外科医が行うことになりました.

ひとやすみ・82

学会における楽しみ―番外編

著者: 中川国利

ページ範囲:P.209 - P.209

 外科医は本来活動的であり,学習意欲も旺盛である.もちろん,研究会や学会に参加する外科医も多い.学会参加による利点として,新しい知識を得ることばかりではなく,知人や友人と旧交を温めることもできる.さらに最近,心待ちにしていることがある.それは学会中に開催される会長招宴である.

 馬齢を重ねて知人や友人が増え,会長招宴に招待される機会も増えた.会長招宴は学会開催前日,もしくは学会初日の夕方に行われる.最初に学会を主催する会長が挨拶し,つぎに学会の重鎮や来賓の挨拶が行われる.そして乾杯の前に,メインイベントであるディナーショーが始まる.

昨日の患者

健気なシングルマザー

著者: 中川国利

ページ範囲:P.251 - P.251

 罹患して来院した患者さんは不安を抱き,すべてに対して鋭敏となりがちである.そこで,患者さんの不安を解消するため,時にはジョークを交えて励ますことにしている.しかしながら,患者さんの状況把握が不十分な外来で,私の言葉で患者さんを大きく傷つけたことがある.

 5歳の娘を連れた20歳代半ばのTさんが,母親に付き添われて来院した.問診すると,一昨日から発熱を伴う右上腹部痛があり,近医で急性胆囊炎と診断されていた.そこで手術を勧めたが,頑なに入院を拒否し,外来での治療を希望した.しかし,腹痛がひどく,心配する母親の勧めもあり,不承不承ながら手術に同意した.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.274 - P.274

投稿規定

ページ範囲:P.295 - P.296

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.297 - P.297

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.298 - P.298

あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.300 - P.300

 肝胆膵外科手術は侵襲の大きな術式が多く,また近年,手術を受ける高齢患者数の増加によって,さらに術後管理に難渋することが少なくない.今回は「肝胆膵外科手術における術中トラブル―その予防と対処のポイント」の特集を組ませてもらった.

 術後合併症に対する予防として最も効果的なのは,当然のことながらきちんとした手術を行うことである.しかし,肝胆膵外科手術の多くが高難度の外科手術であることは日本肝胆膵外科学会の高度技能専門医制度からみても明らかである.その手技をしっかり学び,術中起こりうる様々なエピソードに対して適切な対応をすることは,術後経過を順調に導いていくうえで大変に重要である.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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