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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科67巻3号

2012年03月発行

雑誌目次

特集 消化器外科のドレーン管理を再考する

ページ範囲:P.305 - P.305

 消化器外科において,適切なドレーンの挿入・管理は術後合併症対策として最も重要な事項であり,古くからその功罪について多くの議論が行われてきた.最近の一部のrandomized controlled studyでは,消化器領域のおけるドレーンは不必要であるという結果が報告されている.また,医療効率の観点から,できるだけ早期に抜去する傾向もみられる.しかしながら,厳重なドレーン管理によって救命しえた症例も少なからず経験されるところである.

 この古くて新しい命題を最近の研究成果を踏まえて再考し,臨床に携わる外科医に有益な情報を提供するために本特集を企画した.

ドレーンの必要性についてのエビデンス

著者: 竹末芳生 ,   池内浩基 ,   内野基

ページ範囲:P.306 - P.310

【ポイント】

◆待機的結腸・直腸切除術や肝切除術,胆囊摘出術では,特定のハイリスク症例以外ではドレーンのルーチン使用は推奨されていない.

◆胃切除術ではドレーンの有無で合併症に差はみられないが,いまだ検討症例数が十分でなく,また,胃全摘手術,拡大リンパ節郭清,膵合併切除などのハイリスク手術における適応に関する明確な結論は出されていない.

◆膵切除術においては明確なエビデンスはないものの,一般的にはドレーンが使用される.膵切除における議論は適応よりも,むしろ留置期間にある.ドレーンの長期留置によって膵液瘻などの難治合併症が高率となるため,4日以内の短期抜去が推奨される.

ドレーンの種類と適応・使用法

著者: 松井洋人 ,   岡正朗

ページ範囲:P.312 - P.317

【ポイント】

◆ドレナージは術後の患者のQOLにかかわってくる重要な手技である.その目的と特性を理解することが大切である.

◆定型手術後は逆行性感染予防の観点から閉鎖型ドレーンの挿入と術後早期の抜去が推奨されている.

Surgical site infection(SSI)対策としてのドレーン

著者: 吉松和彦 ,   横溝肇 ,   大谷泰介 ,   大澤岳史 ,   金達浩 ,   碓井健文 ,   塩澤俊一 ,   小川健治

ページ範囲:P.318 - P.322

【ポイント】

◆消化器外科手術におけるSSI発生率は比較的高く,大腸手術では創感染の比率が高い.

◆創感染予防には一次治癒が不可決であり,閉鎖吸引式皮下ドレーン留置や真皮縫合によって正確な組織修復がもたらされる.

◆RCTやメタアナリシスでは,皮下ドレーン留置が創感染の減少に有用というエビデンスはないが,創感染の高リスク手術で皮下ドレーン留置や真皮縫合の有用性が観察されている.

消化器外科術後における経皮的ドレナージ術―アプローチ法を中心に

著者: 田村全 ,   中塚誠之

ページ範囲:P.324 - P.330

【ポイント】

◆消化器外科術後の経皮的ドレナージは低侵襲で治療効果が高く,広く施行されている.適応も拡大傾向にある.

◆各種の画像装置と穿刺技術の発展によってほとんどの病変は穿刺可能であるが,高い読影能力と手技への習熟が必要である.

◆一見,穿刺が困難に思える病変でも,様々な工夫をすることで穿刺できることが多い.穿刺法への習熟が重要である.

食道手術後のドレーン管理

著者: 猪瀬崇徳 ,   宮崎達也 ,   田中成岳 ,   宗田真 ,   中島政信 ,   福地稔 ,   桑野博行

ページ範囲:P.332 - P.335

【ポイント】

◆食道癌手術は消化器癌手術のなかでも特に侵襲が大きいため,適切なドレーン管理がきわめて重要である.

◆食道癌手術(3領域リンパ節郭清)後は右胸腔と頸部にドレーンをおいているが,原則として腹部には留置しない.

◆ドレーンの情報から患者の情報を把握し,新たなドレナージや再手術の要否を判断することが肝要である.

胃切除術(開腹・腹腔鏡下)後のドレーン管理

著者: 山形幸徳 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.336 - P.340

【ポイント】

◆胃切除後のドレーン留置に関するRCTは複数存在し,いずれもドレーン留置に否定的な結果であった.

◆通常の胃切除症例には基本的にドレーン留置は必要ないが,膵液瘻など合併症リスクの大きい症例にはドレーン留置を考慮すべきである.

◆ドレーンを留置する必要に迫られた症例ではドレーンの留置は必要最小限にとどめ,必要がなくなれば可及的速やかに抜去すべきである.

大腸切除術(開腹・腹腔鏡下)後のドレーン管理

著者: 島田竜 ,   野澤慶次郎 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.342 - P.346

【ポイント】

◆消化管外科手術におけるドレナージの役割

◆消化管外科手術に用いられるドレーン機材の種類と特長

◆ドレーン機材による合併症とその対策

肝切除術後のドレーン管理

著者: 高野公徳 ,   阿部雄太 ,   尾野大気 ,   横山卓剛 ,   木原優 ,   島津元秀

ページ範囲:P.348 - P.353

【ポイント】

◆肝切除後のドレーン留置の有用性については否定的な論文が多いにもかかわらず,依然として多数の施設で留置されている.

◆肝切除後のドレーンは,適切な症例に限れば省略や早期抜去が可能であることが示されており,各施設で実践されつつある.

◆肝切除後においてはドレーンを留置することで合併症の重症化を防げることもしばしば経験するため,ドレーン管理を含めた注意深い術後管理が求められる.

胆囊摘出術・胆道手術後のドレーン管理

著者: 高屋敷吏 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   竹内男 ,   久保木知 ,   鈴木大亮 ,   中島正之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.354 - P.357

【ポイント】

◆胆道手術後のドレーンは,胆汁漏や縫合不全の治療ルートになることも考慮して最短距離に直線的に留置する.

◆ドレーンの抜去時期は,排液量と性状に加えて排液中ビリルビン値を参考にして決定する.

◆胆汁ドレナージチューブはねじれや屈曲がないように固定方法やボトル管理に注意をする.

膵頭十二指腸切除術後のドレーン管理

著者: 川井学 ,   山上裕機

ページ範囲:P.358 - P.363

【ポイント】

◆膵頭十二指腸切除術の術後合併症の発生率は30~65%と高率であり,ドレーン管理が重要である.

◆臨床試験の結果から,術後合併症を減少させるためにドレーン早期抜去は必要である.

◆重症化する膵液瘻を早期診断することによってドレーン留置症例を見極めることが今後の課題である.

腹膜炎手術後のドレーン管理

著者: 島田能史 ,   亀山仁史 ,   野上仁 ,   飯合恒夫 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.364 - P.366

【ポイント】

◆一般的に,わが国では腹膜炎手術後にドレーンを留置するが,欧米ではドレーンを留置しないことが多い.

◆腹膜炎手術後のドレーン留置を支持するエビデンスはなく,むしろ合併症の原因となるという報告がある.

◆ドレーン留置の目的と弊害を理解し,不要なドレーンを留置しないことを心がけるべきである.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑬

“手術室照明”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.368 - P.371

画面が暗いスコープは光量を上げて用いるべし.

それでも暗いと感じるならば照明の色を変えるべし.

補色は手術にコントラストをつけるものなり.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・21

減量外科に必要な設備と機材

著者: 園田和子 ,   笠間和典

ページ範囲:P.372 - P.380

 皆さーん! 元気ですかーっ!

 前回は「肥満手術に必要なチーム」(第16回)の回で執筆させていただいた看護師の園田です.チームについて書かせていただいたときは夏真っ盛りで笠間医師の熱さをしのぐほどの猛暑でしたが,現在はすっかり寒くなり,今度は笠間医師の熱さで暖をとっている今日この頃です.

 前回執筆させたいただいたあとに当院の組織変更があり,「減量外科センター」が成立しました! 今までの医師,看護師,栄養士,ソーシャルワーカーなどの縦のラインをなくして横のつながりにしたことで,さらにチーム力がパワーアップしました.私は念願叶って,バリアトリックナース(減量外科看護師)兼任でコーディネーターの役割を担うことになり,早くも減量外科に関する高度実践看護師として,手術室のみならず病棟や外来を飛び回っています.充実した毎日を過ごすとともに,この役割を担う者としては元気がないと継続看護はできないことを実感しています!

 さて,今までは笠間医師をはじめ,関医師や減量チームメンバー一同が肥満手術のソフト面についてそれぞれの立場で執筆してきましたが,今回は肥満手術を実際に開始する際に必要な設備,機材など,ハード面について書かせていただきたいと思います.笠間医師や減量チームがどんなに素晴らしくても,設備や機材が適していなければ治療を開始することはできません! 今回は当院の実際の写真を中心にお届けしたいと思います.

 元気があれば設備や機材を揃えることもできるっ! ダーッ!!

ポイント画像で学ぶ腹腔鏡下低位前方切除術・3

直腸周囲の剝離―前編

著者: 長谷川傑 ,   篠原尚 ,   松末亮 ,   大越香江 ,   山田理大 ,   河田健二 ,   川村純一郎 ,   坂井義治

ページ範囲:P.382 - P.390

■はじめに

 今回から,いよいよ直腸周囲の剝離の解説に移る.腹腔鏡下に直腸周囲の剝離を安全かつ正確に行うためには,膜解剖や神経走行についての正しい解剖の「知識」と,実際の手術中に剝離すべき層を術野に展開することができる「技術」が必要になる.ひとたびそれが可能になれば,腹腔鏡の拡大視効果は狭く深い骨盤内でその威力を発揮してくれるであろう.直腸周囲の剝離については今月号と来月号の2回に分けての解説を予定している.今月号では特に背側から側方の剝離を中心に取り上げ,来月号では直腸前方から側方にかけての剝離を解説する予定であるが,なにせ連続性のある話なので多少の重複があることはご容赦願いたい.

Expertに学ぶ画像診断・12

気管支鏡

著者: 山田玄 ,   北村康夫 ,   梅田泰淳 ,   山田裕一 ,   夏井坂元基 ,   高橋守 ,   高橋弘毅

ページ範囲:P.392 - P.398

はじめに

 気管支鏡検査は,中枢気道に発生した病変を観察し診断するうえで標準的な検査方法と考えられる.最近,narrow band imaging(NBI)や自家蛍光気管支鏡(auto-fluorescence bronchoscopy:AFB),気管支超音波(endobronchial ultrasonography:EBUS)などの新しい機器が気管支鏡検査にも普及してきているが1,2),このような検査を正確に行うためにも,基本的な白色光による通常観察の習得は必須である.また,電子スコープの進歩によって気管支鏡画像の解像度は向上し,微細な変化が捉えられるようになってきた.

 本稿では,気管支鏡画像を分析するうえで基本的な内容について腫瘍性病変を中心に解説する.

外科専門医予備試験 想定問題集・3

心臓・血管

著者: 加納宣康 ,   伊藤校輝 ,   武居友子

ページ範囲:P.400 - P.406

出題のねらい

 受験者の多くは,まだ心臓手術の経験は少ないことが予想され,予備試験での出題は基本問題が中心です.解剖の基礎知識を確認し,冠動脈バイパス術,弁膜症,大動脈瘤,先天性心疾患の手術,ステントグラフトなどの治療に関して一通り復習するとよいでしょう.PAD(ASO)や深部静脈血栓症,下肢静脈瘤などの末梢血管疾患も必ず出題されています.また,Swan-Ganzカテーテル,凝固系などの基本事項についてもチェックしておきましょう.術後合併症に関するやや難しい問題も出題されたことがありますが,まずは基本的な問題を確実に正解できるように勉強しましょう.

病院めぐり

済生会新潟第二病院外科

著者: 酒井靖夫

ページ範囲:P.407 - P.407

 当院は,信濃川が日本海に注ぐ新潟市にある社会福祉法人恩賜財団済生会グループの病院です.人口80万人の政令指定都市である新潟市の西地区の基幹病院として,周辺の医療機関と連携した地域完結型医療の推進を目指しています.昭和25年,田町地区に24床の済生会新潟病院が誕生し,昭和53年には279床の総合病院となりましたが,老朽化して手狭になったため平成3年7月に新築・移転し,新たに現名称で診療を開始しました.現在の病床数は427床(一般411床,ICU・CCU/HCU 16床)となっています.

 当院は地域との連携を重視しており,平成12年にオープンシステムと呼ばれる地域開業医や医療機関との乗り入れ型診療方式を導入し,平成14年8月に新潟県で初の地域医療支援病院の認定を受けました.「済生会新潟第二病院質マネジメント」(SQM)と称してSQM委員会を設置し,PDCAサイクルに基づく継続的な病院の質の改善活動を展開しています.日本医療機能評価機構(Ver. 6)および国際標準規格であるISO 9001(2008年版)の認証も取得しました.急性期医療のなかでも癌診療や産科・周産期医療に重点を置いていますが,平成22年に地域がん診療拠点病院となり,平成20年には新潟県で初のユニセフ認定「赤ちゃんに優しい病院」に選ばれました.

第二岡本総合病院外科

著者: 清水義博

ページ範囲:P.408 - P.408

 当院は源氏物語の里,宇治市にあり,山城北二次医療圏(人口44万人)に位置します.1906年,京都市伏見区に岡本医院として開業し,1979年,現在地に後継病院の第二岡本病院が開設しました.現在は総合病院となり,特定集中治療室6床,回復期リハ病棟46床を含めた419床を有しています.2009年には救急をはじめとする急性期医療を担う病院として社会医療法人となり,地域中核病院の地位を確立しました.

 外科は開設時から看板を掲げており,京都府立医科大学の関連施設として,筆者(副院長/外科・救急部部長),内山清外科副部長/化学療法室長,山本芳樹,金修一の4名に,学外で細野俊介,外科系救急医として二木元典の2名を加えた計6名体制で,救急・外来診療,手術,癌化学療法,緩和療法などに幅広く取り組んでいます.当院は臨床研修指定病院であり,日本外科学会,日本消化器外科学会,日本救急医学会,日本緩和医療学会の修練指定施設となっており,日本がん治療認定研修施設の指定も受けています.

臨床研究

Y字型胃管を用いた食道バイパス手術症例の検討

著者: 梅邑晃 ,   北村道彦 ,   渋谷俊介 ,   梅邑明子 ,   郷右近祐司 ,   若林剛

ページ範囲:P.409 - P.413

要旨

下咽頭癌や食道癌による食道狭窄や気管食道瘻,放射線化学療法後の食道狭窄に対してQOLを確保するためにステント留置が行われるが,穿孔などの合併症に苦労することもある.当科では,このような症例に対して積極的にY字型胃管を用いたバイパス手術を行っている.5年間で本術式を4例に施行し,術後合併症として縫合不全1例を認めたが,全例で五分粥を摂取することが可能であった.食道バイパス手術は手術侵襲に見合う成績を望めないこともあるが,Y字型胃管食道バイパス手術は食道内分泌液のドレナージと食物通過経路を1か所の消化管吻合で行うことができ,さらに,胃管作製において粘膜,漿膜筋層を別々に処理することで胃管のより高位への挙上を可能にした.

臨床報告

腹腔動脈起始部圧迫症候群の術前診断で,術中肝血流測定によって膵頭十二指腸切除術を安全に施行した膵頭部癌の1切除例

著者: 野島広之 ,   高野重紹 ,   大塚将之 ,   木村文夫 ,   清水宏明 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.414 - P.417

要旨

膵頭十二指腸切除術(PD)を施行する際には胃十二指腸動脈(GDA)を切離することから,腹腔動脈から総肝動脈を介した肝血流保持がきわめて重要であり,GDA遮断後の肝血流量の確認が重要である.今回,腹腔動脈起始部圧迫症候群を伴った膵頭部癌で術中肝血流測定によってPDを安全に施行した1切除例を報告する.患者は67歳,男性.膵頭部癌の診断で,血管立体構築画像で腹腔動脈起始部狭窄および膵アーケードの発達を認めた.開腹時に総肝動脈は遠肝性,GDAから固有肝動脈は求肝性で,固有肝動脈はGDAをクランプすると著明な血流の減少を認めた.正中弓状靱帯の切離後,総肝動脈は求肝性で大幅な血流の増加を認めたため,GDAを切離してPDを施行した.

ペースメーカー留置側に発生した乳癌に対してセンチネルリンパ節生検を行った1例

著者: 谷島裕之 ,   玉川孝治 ,   宮川義仁 ,   庄野嘉治 ,   椿原秀明 ,   田伏克惇

ページ範囲:P.418 - P.421

要旨

ペースメーカー留置側に発生した乳癌に対してセンチネルリンパ節生検を施行した1例を経験したので報告する.患者は77歳,女性で,右乳房腫瘤を主訴に当院を受診した.マンモグラフィ,乳腺超音波検査で右AC領域に10×9×6mmの腫瘤を認め,針生検で浸潤性乳管癌と診断した.腫瘍からペースメーカーまでの距離は約4cmであり,広範な乳管内進展も認められないため,手術に際してペースメーカーの再留置は不要と判断した.色素法でセンチネルリンパ節生検を施行したのち,右乳房切除術と腋窩リンパ節のバックアップ郭清を施行した.病理組織検査では,センチネルリンパ節を含めて腋窩リンパ節転移は認めなかった.術中・術後経過を通して不整脈などの異常はなく,順調に経過した.

頸部食道外切開で摘出し,胸鎖乳突筋フラップで縫合部被覆を行った義歯による食道異物の1例

著者: 石橋雄次 ,   若林和彦 ,   大森敬太 ,   山崎洋子 ,   渡辺慶史 ,   伊藤豊

ページ範囲:P.422 - P.425

要旨

患者は70歳,男性.食事摂取時の咳と嚥下困難感が持続したため近医を受診した.胸部X線検査で義歯と思われる異物を認め,食道異物の疑いで同日,当院に緊急入院となった.上部内視鏡検査で切歯から20cmの部位に義歯を認め,鉗子で摘出を試みたが可動性がなく,内視鏡的には摘出は困難と判断して緊急手術を施行した.頸部に襟状切開を置いて食道側壁を露出し,食道壁を切開して義歯を摘出したのち,食道壁は層層で閉層し,胸鎖乳突筋で縫合部を被覆した.術後合併症はなく退院となった.食道異物の多くは内視鏡的摘出が可能であるが,稀に手術での摘出が必要となる.義歯による食道異物に対して頸部食道外切開を要した1例を経験したので報告した.

急速な転帰を辿った妊婦胃癌の1例

著者: 村岡孝幸 ,   浅野博昭 ,   佃和憲 ,   内藤稔 ,   羽藤慎二 ,   三好新一郎

ページ範囲:P.426 - P.429

要旨

妊婦の多くが該当する若年者の胃癌には悪性度の高い腫瘍が多い.また,妊娠期間中には悪阻などによる消化器症状と消化管原発疾患による症状との鑑別が困難である.このため妊婦胃癌は進行症例が多く,予後不良である.われわれは29歳妊婦の胃癌症例を経験した.患者は妊娠33週に背部痛を発症し,血中腫瘍マーカーの上昇と画像所見から癌性腹膜炎と診断された.早期の診断確定と治療開始目的に緊急帝王切開術を行った.胃前庭部と膵頭部が一塊となった原発巣と腹膜播種を認め,術後の消化管内視鏡検査と合わせて胃癌(低分化腺癌)と診断した.5-FUとパクリタキセルによる化学療法を行ったが,病勢進行を抑制できず,帝王切開術後59日目に癌死した.

胃癌からのリンパ行性転移が強く疑われた小腸腫瘍穿孔の1例

著者: 角田知行 ,   小杉伸一 ,   番場竹生 ,   矢島和人 ,   神田達夫 ,   畠山勝義

ページ範囲:P.430 - P.435

要旨

患者は88歳,男性.消化管穿孔による汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.術中所見で胃中部の漿膜側に露出する腫瘤を認めたが穿孔はなく,小腸に5か所の腫瘍性病変を認め,うち2か所の小腸腫瘍が穿孔していた.また,小腸間膜にリンパ節の腫大を多数認め,胃癌の腸間膜リンパ節転移および小腸浸潤を伴う腹膜播種と考えた.穿孔部を含む小腸部分切除吻合およびドレナージ術のみ行った.切除標本では2か所とも限局潰瘍型腫瘍の潰瘍底で穿孔し,病理組織学的には粘膜下層まで進展する低分化型腺癌で,粘膜筋板近傍に多数のリンパ管侵襲が認められた.癌の局在は粘膜下層主体で播種性ではなく,リンパ行性の小腸転移が強く疑われた.

結腸間膜穿通をきたしたS状結腸癌の1例

著者: 加藤久仁之 ,   大塚幸喜 ,   板橋哲也 ,   箱崎将規 ,   梅邑晃 ,   若林剛

ページ範囲:P.436 - P.439

要旨

患者は58歳,女性.腹痛を主訴に近医を受診し,大腸内視鏡検査でS状結腸に2型病変を認め,生検で高分化型管状腺癌と診断された.検査後に腹痛が増強し,注腸検査でS状結腸間膜側に造影剤の漏出を認めたため,大腸穿孔との診断で当科を紹介された.来院時の全身状態は良好であり,CT上も明らかなフリーエアや腹水を認めなかったため待機手術とした.腹腔内汚染は認めず,S状結腸切除術を施行した.標本では腫瘍に穿通部位を認めた.経過は良好で,術後12か月が経過した現在,外来通院中である.大腸穿孔は糞便性腹膜炎を伴い重篤な経過をたどることが多いが,自験例のように腸間膜へ穿通する症例は稀であり,腹膜炎を伴わない場合は術後経過は良好と考えられた.

宿便性潰瘍によるS状結腸穿孔の1例

著者: 尾崎和秀 ,   濱田円 ,   寺石文則 ,   志摩泰生 ,   西岡豊 ,   堀見忠司

ページ範囲:P.440 - P.443

要旨

症例は便秘傾向のある79歳,女性.腹痛を主訴に当院を受診し,精査・加療目的で入院した.翌日,腹痛増強とともに下血があり,緊急内視鏡検査を施行したところ,S状結腸に多量の便塊と深掘の潰瘍を認めた.腹部CTではS状結腸に多量の便塊があり,遊離ガス像と後腹膜気腫を認めたため,S状結腸穿孔による汎発性腹膜炎と診断し緊急手術となった.腹腔内には便汁性腹水があり,S状結腸腸間膜対側に穿孔を認めたためHartmann手術を施行した.標本所見にてS状結腸に約2cmの類円形潰瘍があり,潰瘍底は菲薄化し穿孔していた.臨床所見と病理所見から宿便性潰瘍による穿孔と診断した.術後は順調に経過し,第15病日に退院した.

ひとやすみ・83

耐震と免震

著者: 中川国利

ページ範囲:P.323 - P.323

 東日本大震災は最大震度7と国内観測史上最大の地震にもかかわらず,家屋やビルの倒壊はほとんど生じなかった.そして2万名を超える数多くの尊い生命が失われたが,建物崩壊による人的被害は少なく,多くは津波による溺死であった.津波対策は不十分であったが,建物崩壊が少なかったのは厳しい耐震基準による国の行政指導と建設業界の努力の賜物である.今回は,東日本大震災における私自身の体験をもとに,耐震と免震の違いを報告する.

 私は,40年ほど前に旧県住宅供給公社が丘陵地に造成した団地の一軒家に10年前まで住んでいた.今回の大震災によってこの宅地には大きな亀裂が走り,家は大きく傾き,全壊の罹災証明を受けた.さらに周囲の道路は波打ち,近くの小学校を含めて立ち入り禁止区域に指定された.

書評

國土典宏,菅原寧彦(編)「よくわかる肝移植」

著者: 川崎誠治

ページ範囲:P.330 - P.330

 時機を得た「肝移植医療」に関する解説書が上梓された.東京大学肝移植チームの経験豊富なスタッフが,それぞれの肝移植における専門分野を中心に分担執筆したものである.序文で編集者である國土典宏教授が書かれているように,「移植を考えなければならない状況の患者さん」を担当している,あるいは「移植後の患者さん」を担当するかもしれない医師や看護師などの医療関係者の方を主に対象としたものである.臓器移植法が改正され,脳死肝移植実施数も増加しつつあるが,それでも肝移植を日本で受けられる患者さんは少数であり,いろいろな基本的制約もある.前述の医療関係者のより良い理解を得て,末期肝疾患の患者さんとそのご家族の,肝移植に対するいたずらな期待とその後の深い落胆を減らそうというのも本書の目的のひとつであり,その点でもわかりやすく納得できる記述がなされている.

 非常に手に取りやすいサイズになっていて,通読しなくても,患者さんを傍らにして,すぐに必要な知識を得る,あるいは確認する,というときに,項目も分かりやすく適切な本であると言える.その意味で,外来や病室に置いておくのがお勧めである.コマーシャルのようになってしまったが,肝疾患の患者さんを担当している病院・医院に必携の本として,強く推薦する次第である.

山内常男(編)「ことばもクスリ 患者と話せる医師になる」

著者: 箕輪良行

ページ範囲:P.367 - P.367

 1990年代以降に医学教育を受けたOSCE世代と呼ばれる医師は「私は○○科のミノワです」と自己紹介でき,最後に「ほかに何か言い残したことはありませんか」とドアノブ質問ができる,という筆者らの観察は,評者もアンケート調査で実証してきた.また,評者らが開発したコミュニケーションスキル訓練コースを受講した,地域で高い評価を受けているベテラン医師が受講後にみせた行動変容は唯一,ドアノブ質問の使用増加であった.

 本書は,若い医師たちをこのように見ていながらも,日ごろ,目にして耳にする患者からのクレームをもとにどうしても伝えたい「言葉」の話を医療従事者に向けてまとめた書物である.クレーム実例から出発しているのでリアルであり,真摯な語りかけである.この領域で二冊のテキスト(『医療現場のコミュニケーション』『コミュニケーションスキル・トレーニング』,ともに医学書院刊)を執筆している評者にとっても,このような語りかけがどうしてもかくあるべしの理想論になりがちで非常に難しいのがわかるだけに,クレームからのアプローチは執筆の抑制を保つうえでうまい戦略だと感心させられた.

Rita Charon(著)/斎藤清二,岸本寛史,宮田靖志,山本和利(訳)「ナラティブ・メディスン 物語能力が医療を変える」

著者: 江口重幸

ページ範囲:P.381 - P.381

 臨床の前線で日々働く医療者にとって,医療と文学を結びつける発想や,病いや苦悩は語りであるとする言説などは,およそ悠長で傍観者的見解と思われるかもしれない.臨床場面は死や不慮の事故などのハードな現実と皮接しているからだ.実際そのような感想を面と向かって言われたことも何度かある.しかし,例えば狭義の医学的な枠組みから外れた慢性的病いを抱えて毎日やりくりしながら生活する患者や家族,あるいは彼らを支えケアする人たちを考えていただきたい.彼らが科学的な根拠のみを「糧」にしているのではないのは明らかであろう.病いを抱えながら,苦悩や生きにくさを日々の生きる力に変換していく根源の部分で「物語」が大きな役割を果たしているのである.

 患者や家族の経験にさらに近づくために,こうした「語り」に注目したアプローチが医療やケア領域に本格的に現れるようになったのは,1980年代からである.本書はその最前線からもたらされた最良の贈り物である.医師でもあり文学者でもある著者のリタ・シャロンは,さまざまな文学作品や人文科学の概念を駆使しながら「物語能力(narrative competence)」の重要さを説く.それは医療者が患者に適切に説明したり,事例検討の場で上手にプレゼンしたりする能力のことではない.病いや苦しみや医療にはそれらがストーリー化されているという本性があり,その部分にどれだけ注意を払い,正確に把握し,具体的に対処できるかという能力のことである.それに向けて著者が長年心を砕き,文学作品や「パラレルチャート」を含む多様な臨床教材を使用しながら医学教育の場でも教えてきた成果のすべてが,惜しげもなくここに示されている.

高橋 孝(著)/荒井邦佳(執筆協力)「胃癌外科の歴史」

著者: 丸山圭一

ページ範囲:P.399 - P.399

 『胃癌外科の歴史』が刊行されました.胃癌の外科治療にたずさわる医師には,ぜひ読んでいただきたい良書です.胃癌外科の歴史は,Billrothが最初の胃癌切除に成功した1881年(明治14年)から数えて,わずか130年と短いものです.この間の進歩をふり返り,その基礎を知ることは,今,胃癌治療にたずさわる外科医にとって大変意味があるからです.

 著者は癌研病院外科部長を長らく勤められた高橋 孝先生と,先生が2009年5月に逝去された後に遺志をつがれた豊島病院副院長の腫瘍外科医,荒井邦佳先生です.本書ではお二人の考え方,すなわち胃癌外科治療の「理論と実践」を歴史からつまびらかにすることをめざしています.このために,実に膨大な文献・資料を網羅し,多くの図版と図表を載せ,著者の言葉で解説しています.

1200字通信・37

“なでしこ”に学ぶ

著者: 板野聡

ページ範囲:P.341 - P.341

 昨年7月の2011 FIFA女子ワールドカップでは「なでしこジャパン」が見事に優勝し,日本国民に明るい話題と勇気を与えてくれました.また,引き続き行われたロンドンオリンピックの最終予選でも1位で出場権を獲得し,こうしたことから,国民栄誉賞と紫綬褒章を授与されることになりました.

 ワールドカップやオリンピック予選を通じて「21人の小さな娘たち」をまとめ上げて優勝を手にし,また,本大会出場の切符を手に入れた佐々木則夫監督の手腕には,女性が多い職場で働く私たち外科医が学ぶべき沢山のことがありそうだと感じました.そう感じていたとき,NumberWebで2011年7月31日に配信されたコラム,『“なでしこマネジメント”5つの法則』(了戒美子:文)を見つけました.これは,なでしこジャパンの練習などを見ていた記者が発見した法則だそうですが,私たちの職場でも使えるのではないかと考えてみることにしました.

勤務医コラム・34

外科の灯台

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.347 - P.347

 私は放射線科の先生が好きだ.外科医のようにギスギス,ギラギラしたところがなく,皆心優しい.いつも冷静で,正しい診断・正しい病態把握を指し示してくれる灯台みたいな人たちだ.

 彼らと話すことで,術前に自分の頭の中にあるイメージを再確認できるうえに,自分の認識の誤りに気づくこともあり,それが手術の現場で何よりも強い味方となる.出血やleakなど,起きてほしくないことが起きて,われわれがいちばんつらい時期にも冷静に画像を読み,つぎにどういう手を打つべきかを示してくれる.ときにはIVR的手法を使って根こそぎ解決してくれることもある.慢性期にも,放射線治療という手法によって,われわれの担当患者の軽愁訴に一役買ってくれる.本当に,放射線科様々である.

学会告知板

第20回日本消化器関連学会週間 Japan Digestive Disease Week 2012(JDDW 2012)

ページ範囲:P.391 - P.391

 JDDW 2012は,2012年10月10日(水)~13日(土)の4日間,神戸(神戸国際展示場,ポートピアホテル,神戸国際会議場)において開催されます.この日本消化器関連学会週間には,第54回日本消化器病学会大会,第84回日本消化器内視鏡学会総会,第16回日本肝臓学会大会,第10回日本消化器外科学会大会,第50回日本消化器がん検診学会大会,第43回日本消化吸収学会総会の参加があります.


会 期:2012年10月10日(水)~13日(土)

場 所:神戸国際展示場・ポートピアホテル・神戸国際会議場

昨日の患者

馴染みの患者さん

著者: 中川国利

ページ範囲:P.435 - P.435

 急性疾患を主に扱う病院では,特定患者さんの診療に長期間にわたって携わる機会は少ない.一方,当院のような地域に根ざした病院では,長期にわたって種々の外科的疾患で受診する馴染みの患者さんが多数存在する.そして長年築いた縁で,受診するたびに病気以外の近況報告を受け,さらには自作の野菜などをも置かれていくことなどもある.

 Tさんは80歳代前半の現役農夫である.私がこの病院に赴任した25年ほど前に,直腸癌で直腸前方切除術を施行した.それ以来,手の怪我から急性胆囊炎まで,種々の外科的疾患でたびたび外来を受診する.そして現在は,時々悪化する痔核で来院する.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.310 - P.310

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.380 - P.380

投稿規定

ページ範囲:P.444 - P.445

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.446 - P.446

次号予告

ページ範囲:P.447 - P.447

あとがき

著者: 島津元秀

ページ範囲:P.448 - P.448

 本号の特集は「消化器外科のドレーン管理を再考する」である.従来,ドレーンについては日本では経験則で議論されてきたが,海外では多くのrandomized controlled trial (RCT)が行われ,エビデンスに基づいた客観的な検討がなされている.その結果については特集内でも述べられているが,日本の臨床現場においてはどの程度受け入れられているのであろうか.

 当然のことながら,ドレーンの必要性は,手術侵襲の程度,術野の汚染度,患者側のリスク,術者の力量・性格など複合的な要因で決定されるので,画一的に決められるものではない.しかし,虫垂切除,胆囊摘出,大腸切除,肝部分切除など定型的な低侵襲手術におけるドレーンの必要性については,多くのRCTがルーチンの使用を推奨していない.不必要なドレーンを使用しないという原則は,ドレーン関連合併症の回避,早期離床,ならびに医療経済的にも有益である.一方,頻度は低いとはいえ,偶発した縫合不全や腹腔内膿瘍を,ドレーンが留置されていたために新たな侵襲を加えることなく保存的に治癒できた経験は多くの外科医が持っていることであろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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