icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科67巻4号

2012年04月発行

雑誌目次

特集 内視鏡外科手術の腕をみがく―技術認定医をめざして

ページ範囲:P.453 - P.453

 内視鏡外科手術が広まるなか,一定レベル以上の技術を備えること,さらに現場で技術指導できることが求められている.日本内視鏡外科学会の技術認定制度は,そうしたニーズをシステムとして下支えするものであるが,認定基準が指導者レベルに置かれており,2010年度の合格率は35%とかなりの難関となっている.

 技術認定制度では未編集の手術ビデオの提出が義務づけられている.完璧な手術を行えば何ら問題はないが,手術の最初から最後まですべてを完璧に行うことはなかなか難しい.しかし,“完璧ではないが,手術をうまくまとめる”コツもある.

〔総論〕

技術認定制度のこれまでの経過と現在の問題点,そして今後の展望

著者: 森俊幸 ,   小西文雄

ページ範囲:P.454 - P.457

【ポイント】

◆内視鏡外科技術認定制度は未編集手術ビデオを評価し,一定以上の技術と指導性をもつ外科医を認定しようとする類例のない制度である.

◆認定合格者,非合格者間で比較すると,術後合併症,手術時間,出血量,術後在院期間で合格者が有意に良好な成績を示した.

◆認定資格は手術ロボット導入時の施設要件などに利用されるようになり,外科医フィーの導入も議論されている.

〔各論〕

甲状腺内視鏡下手術

著者: 清水一雄

ページ範囲:P.458 - P.463

【ポイント】

◆甲状腺内視鏡下手術は消化器・一般外科領域に含まれ,ビデオ審査基準項目は共通項目と臓器別項目に分かれている.それぞれの項目の採点結果を合計し100点を満点として60点が合格の目安である.

◆共通項目審査では,良好な視野で,標準的時間内に,助手との良好な連携のもとに,正確な剝離層に入りながら内視鏡機器類の使用が正しく安全に行われ,手術動作が評価者に説得力があり,その動作を理解でき,映像を見ていて安心できる手術が展開されることが要求される.

◆臓器別項目審査では,皮膚切開創の保護から始まり,手術操作腔形成法,甲状腺へのアプローチまでの確実な操作,摘出手技,神経血管同定温存操作,筋肉修復,閉創に至るまで,それぞれの操作項目の重要度により配点が異なる.

乳腺内視鏡下手術

著者: 福間英祐 ,   坂本正明 ,   坂本尚美 ,   中島裕一

ページ範囲:P.464 - P.469

【ポイント】

◆乳房は体表臓器であり,整容性と癌根治性の両立が求められる.乳房に対する内視鏡下手術は腔を作製する組織剝離技術と言い換えることができる.

◆半球形である乳房の形状,大小胸筋,広背筋が腋窩に停止している解剖学的特徴から,傍乳輪切開,腋窩切開をアクセスポイントとするのが合理的である.

◆筋膜剝離,皮弁作製とも解剖学的膜構造をふまえた手技により,容易な組織剝離と癌根治が担保される.

腹腔鏡下胆囊摘出術

著者: 木村泰三 ,   鈴木憲次

ページ範囲:P.470 - P.474

【ポイント】

◆カメラは,なるべく正面視できる方向から適切な距離で対象物を捉え,視野の揺れを避け,上下を正しく保つ.

◆Critical view exposure techniqueに従ったCalot三角の剝離と胆囊管の切離を行い,漿膜下層で肝床から剝離する.

◆剝離は,種々の鉗子,電気メス,超音波凝固切開装置など何を用いてもよいが,不要の出血や熱傷を起こさない.

腹腔鏡下脾臓摘出術

著者: 柴崎正幸 ,   万代恭嗣 ,   伊地知正賢 ,   日下浩二 ,   冨樫順一 ,   田邊麻美

ページ範囲:P.475 - P.479

【ポイント】

◆脾臓下極の処理:下極では脾臓に接して脾結腸間膜を切離する.結腸損傷に十分に注意する.

◆胃脾間膜の脾上極での処理:脾上極付近では胃が脾臓に接してくるため視野が不良となる.助手の鉗子で脾上極を外側に圧排し,術者左手の鉗子にて胃壁を内側に手繰り,視野を確保することが重要である.

◆脾臓の後腹膜からの授動:術者の左手鉗子の柄で脾臓を内側に圧排し,助手の鉗子で後腹膜を背側に押すことで良好な視野と十分なテンションが得られる.

◆脾門部での自動縫合器による切離:術者の左手鉗子と助手の鉗子で脾臓を吊り上げて脾門部の視野を確認する.自動縫合器を脾門部に滑らすように差し入れ,膵尾部を損傷しないよう脾臓に接して切離する.

食道内視鏡下手術

著者: 柏木秀幸 ,   大杉治司

ページ範囲:P.480 - P.486

【ポイント】

◆内視鏡下特有の臓器の位置関係の解剖学的な理解と,内視鏡下特有の制限下で安全に手術を遂行する技術が求められる.

◆目的に沿った視野展開,愛護的な臓器の把持,そして迷走神経の同定と温存が,各手技に共通して重要である.

◆筋層切開,噴門形成,リンパ節郭清など術式特有の目的に沿った手技の習得が必要である.

腹腔鏡下胃切除術

著者: 谷口桂三 ,   吉村文博 ,   須田康一 ,   河村祐一郎 ,   佐藤誠二 ,   宇山一朗

ページ範囲:P.487 - P.497

【ポイント】

◆デバイスについての理解を深めることは重要である.そうでなければ不意の出血や合併症を起こすことになる.準備を十分にしておくことは開腹手術となんら変わりない.

◆腹腔鏡下胃切除術の成否は術野展開に尽きる.術野展開でどのような切離ラインを出すか? それを理解しておくことが重要である.

腹腔鏡下S状結腸切除術

著者: 中村隆俊 ,   渡邊昌彦

ページ範囲:P.498 - P.503

【ポイント】

◆スムーズな手術を行うために視野展開を定型化する.

◆剝離授動のランドマークを決める.

◆愛護的な鉗子操作とまめな止血操作によりクリーンな術野を確保する.

◆腸管壁の露出と安全・確実な腸切離・吻合が重要である.

腹腔鏡下副腎摘除術

著者: 貝羽義浩 ,   黒川良望

ページ範囲:P.505 - P.508

【ポイント】

◆副腎は柔らかい臓器であり,容易に出血,損傷しやすいため,直接把持せず,周囲脂肪組織を拳上したり牽引して切離組織に緊張をかける.

◆適切な部位で腹膜切開を行い,ランドマークである横隔膜前面,副腎静脈を同定する.

腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術

著者: 松本純夫 ,   大住幸司

ページ範囲:P.509 - P.517

【ポイント】

◆腹腔鏡下手術によるヘルニア修復術において,経腹腔的アプローチではヘルニアの陥凹が直視でき,日本ヘルニア分類におけるⅣ型(併存型)を見逃すことはない.

◆剝離範囲として,内側はクーパー靱帯,恥骨,腹直筋外縁,腹側は腹横筋腱膜弓,外側は内鼠径輪外縁から3cm,背側は腸恥靱帯(iliopubic tract)から3cm程度が目安である.

◆腹膜前層には脂肪織だけでなく,浅葉,深葉の2枚の筋膜があることを意識する.

◆大きなヘルニアではヘルニアサック離断時,腹膜閉鎖まで考えて切離線を決定する.

Expertに学ぶ画像診断・13

胆道鏡

著者: 露口利夫 ,   杉山晴俊 ,   酒井裕司 ,   西川貴雄 ,   黒澤浄 ,   齊藤将喜 ,   太和田勝之 ,   三方林太郎 ,   多田素久 ,   石原武 ,   横須賀收

ページ範囲:P.518 - P.525

はじめに

 経皮経肝胆道鏡(percutaneous transhepatic cholangioscopy:PTCS)の普及によって胆道鏡検査はその臨床的地位を確立したが,瘻孔作製に伴う合併症は無視することができないものである.一方,経口胆道鏡(peroral cholangioscopy:POCS)はPTCSより非侵襲的で無黄疸例にも施行することが可能などの利点があり1),また,ビデオスコープの導入による画質の向上には目を見張るものがある.ただし,スコープの耐久性不足や周辺機器の不備が普及の妨げとなっている.最近では耐久性や操作性向上を目的にディスポーザブルのカテーテル型内視鏡であるSpyGlass(ボストン社)が開発され,わが国にも導入されている.

 本稿では,胆道鏡の内視鏡所見について読影の注意点を中心に解説する.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑭

“手術室レイアウト”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.526 - P.530

手狭なオペ室を嘆くべからず.

 狭いながらも楽しき我が家.

配置に工夫をこらすべし.

 根本的解決は建て替えのみ.

ポイント画像で学ぶ腹腔鏡下低位前方切除術・4

直腸周囲の剝離―後編

著者: 長谷川傑 ,   篠原尚 ,   松末亮 ,   大越香江 ,   山田理大 ,   河田健二 ,   川村純一郎 ,   坂井義治

ページ範囲:P.532 - P.542

■はじめに

 前回,直腸の剝離の前半部分を解説したが,今回はその続きでTMEの完成までを解説する.ところで,「正しいTMEの剝離層」とはどんなものであろうか? どの教科書をみても概念的には書かれているが,実際に術中に悩む場面にきちんと答えてくれるテキストはあまり遭遇することがない.

 これから述べる直腸剝離の後半の部分は,腫瘍が近接することも多く,手技的にも最も難しい部分である.われわれは,手術を「再現可能なメルクマル(チェックポイント)を通過しながら,それに沿った区画に囲まれる部分を切除するもの」と考えている.読者のみなさんも,術中に1つひとつチェックポイントを通過しながら,あたかもオリエンテーリングをしているような感覚で手術を行ってもらえれば幸いである.

外科専門医予備試験 想定問題集・4

呼吸器

著者: 加納宣康 ,   青木耕平 ,   井上慶明 ,   本多通孝

ページ範囲:P.544 - P.549

出題のねらい

 呼吸器領域の手術・診療経験は修練施設による差が出やすく,苦手意識を持っている受験者も多いのではないでしょうか.基本的な解剖と呼吸・循環の生理学に関する問題のほかに,肺腫瘍の組織分類に関する紛らわしい問題が出題されています.肺腫瘍の組織分類は複雑ですが,試験直前に一度取扱い規約に目を通しておくとよいかもしれません.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・22

減量外科医のトレーニング

著者: 山口剛 ,   関洋介 ,   笠間和典

ページ範囲:P.550 - P.554

 元気ですかーっ!

 私は当センターのフェロー,山口と申します.2011年4月にここでフェローをスタートし,同年6月に前フェローの清水英治先生からたすきを受け継ぎました.2008年に笠間先生が私の勤務していた大学病院にbariatric surgeryの講義および施行のためにきてくださり,そのとき受けたインパクトはとても大きなものでした.大学の命もあり,当センターでbariatric surgeryを学ばせていただいています.私はそれまで上部消化管外科を中心に修練していましたが,ここで目の当たりにした減量外科治療は今までの胃外科とはまったく違うものでした.

 ここで学んでいるものはあまりに多く,実になる貴重な時間を過ごしています.それでは,気合を入れて,ダーっ!!

病院めぐり

豊見城中央病院外科

著者: 照屋剛

ページ範囲:P.555 - P.555

 当院は沖縄本島南部の豊見城市にあります.昭和55年4月に医師6名,5診療科,99床で開院し,平成22年4月に創立30周年を迎えました.現在は医師128名(研修医含む),診療部門23科目,356床となり,地域の基幹病院としての医療を担っています.さらに,群星(むりぶし)沖縄臨床研修基幹病院として多くの研修医が県内外から集まっています.

 外科は開院当初からあり,現在では副院長を含む総勢15名で診療にあたっています.平成22年度の手術件数は計1,070例でした.日本外科学会外科専門医制度修練施設,日本消化器外科学会専門医制度修練施設,日本呼吸器外科学会関連施設,日本胸部外科学会関連施設,日本乳癌学会専門医制度関連施設,日本がん治療認定医機構認定研修施設の認定を受けています.

北海道消化器科病院外科

著者: 森田高行

ページ範囲:P.556 - P.556

 当院は北海道札幌市に存在し,消化器疾患の専門病院として昭和63年に設立されました.現在の病床数は200床であり,診療内容は完全に消化器科に特化していますが,消化器疾患に関しては診断から治療までを完結できるように,ハード・ソフト両面を充実させています.診断部門ではMDCT,PET,SPECT,MRI,DSA装置などを有し,放射線治療部門,病理診断部門,化学療法外来,緩和ケア外来などと有機的に連携しながら診療を行っています.

 外科は北海道大学消化器外科学Ⅱ分野と連携しており,現在は常勤医7人の体制で診療・手術を行っています.手術部を外科単科で運営するため,月~金曜日の連日朝から夜まで手術を行っています.その間に内科とのカンファレンス,病理報告会,術前カンファレンス,抄読会を行い,忙しいなかでも治療に対する反省や,新しい治療法に対しての積極的な試みを継続するように努力しています.

臨床研究

膵癌における腹腔洗浄細胞診陽性例に対する手術適応

著者: 中田泰幸 ,   草塩公彦 ,   安富淳 ,   松本正成 ,   鈴木大 ,   宇田川郁夫

ページ範囲:P.557 - P.562

要旨

膵癌治療において外科的切除が最も有効な治療法であることは周知の事実である.切除不能例においては予後不良であり,近年,膵癌に対する化学療法の進歩により治療成績の向上が報告されているが,手術療法を凌駕するには至っていない.膵癌においては腹膜播種を伴うものはもとより,腹水細胞診陽性例においても一般的には手術適応とはされていない.当院において過去,膵癌に対し根治手術を施行した症例のうち,腹腔洗浄細胞診陽性例に対する手術症例(2000年以降の5例)に対し再検討を行った.その結果,明らかな腹膜播種を認めない腹腔洗浄細胞診陽性例で,かつ膵体尾部切除にて手術的に局所切除が可能な膵癌症例において,積極的な手術が予後の向上に有効である可能性が示唆された.

臨床報告

待機的に鼠径法でDirect Kugel法で修復した閉鎖孔ヘルニアの1例

著者: 松崎裕幸 ,   竹上智浩 ,   山田純 ,   赤木大輔 ,   新海宏 ,   小林一博

ページ範囲:P.563 - P.566

要旨

患者は88歳,女性.83歳時に大腸癌に対し手術を施行された.1年前より右鼠径から大腿部の痛みを自覚していた.大腸癌の術後フォローCTで右閉鎖孔に嵌入する軟部組織陰影を認め,閉鎖孔ヘルニアの診断となった.経過より嵌入と自然還納を繰り返していたものと考えられ,待機的に手術を施行した.鼠径法で腹膜前腔に到達し,閉鎖孔に嵌入するヘルニア囊を同定し処理した.閉鎖孔は1.5横指程度に開大していた.Direct Kugel patchを腹膜前腔に留置し,手術を終了した.閉鎖孔ヘルニアは緊急手術が必要な場合が多いが,本症例のように待機的手術が可能な場合は,Direct Kugel法による鼠径法での修復は,根治性と低侵襲性の点で有用であると考えられる.

術前CTで診断された急性虫垂炎合併Amyand's herniaの1例

著者: 木村洋平 ,   前原正典 ,   藤島由佳 ,   木村捷一 ,   山口明夫

ページ範囲:P.567 - P.570

要旨

症例は48歳,女性.右下腹部痛,嘔吐を主訴に当院を受診した.右下腹部に限局する圧痛を認め,精査のため腹部CTを施行したところ,ヘルニア内容が虫垂である右鼠径ヘルニアを認めた.ヘルニア囊内には膿瘍を認め,同日緊急手術を行った.術中所見では外鼠径ヘルニア内に腫脹した虫垂が嵌頓しており,周囲には膿瘍を認めた.虫垂切除術と鼠径ヘルニア根治術(iliopubic tract repair)を行った.ヘルニア内容が虫垂であるいわゆるAmyand's herniaは比較的稀な状態であり,術前に診断された報告は少ない.今回われわれは,術前に診断しえた急性虫垂炎を合併したAmyand's herniaの1例を経験したので報告する.

鼠径ヘルニアの手術を契機に発見された腹膜偽粘液腫の1例

著者: 久保直樹 ,   中山中 ,   竹内信道 ,   辻本和雄 ,   伊藤憲雄

ページ範囲:P.571 - P.574

要旨

症例は42歳の男性.2008年8月頃より左鼠径部腫脹を自覚していた.同年10月に左鼠径ヘルニアの診断でヘルニア根治術を施行したところ,ヘルニア囊にゼリー様の粘液に富む物質を認めた.手術後にCTなどの精査を施行したところ,腹腔内に多数の囊胞性腫瘤を認め,腹膜偽粘液腫と診断した.12月に虫垂切除術および大網切除術を行い,粘液物質を可及的に除去してから腹腔内を洗浄した.病理組織学的には虫垂の粘液性囊胞腺腫であった.鼠径ヘルニアのヘルニア内容に粘液が貯留していたことで発見された腹膜偽粘液腫は稀であり,文献的考察を加え報告する.

S-1/シスプラチン療法で組織学的complete responseとなった胃癌術後肝転移の1例

著者: 丸森健司 ,   岡﨑雅也 ,   今村史人 ,   間瀬憲多朗 ,   堀口尚 ,   津嶋秀史 ,   村上雅彦

ページ範囲:P.575 - P.578

要旨

症例は55歳,男性.胃噴門部付近のU領域の全周性3型胃癌に対し胃全摘術(D2+#16a1),脾摘術を施行した(fStage Ⅲa).術後ドキシフルリジンを投与していたが,1年後の腹部CTで肝左葉外側区域に約4cm大の転移巣を認め,S-1/シスプラチン療法を開始した.肝転移巣は著明な縮小傾向を示し,4クール終了したところで画像上転移巣はほとんど消失し,partial response(PR)と診断された.PET,CTなどで腹膜,肺,リンパ節など他部位への転移がないことを確認した後,肝外側区域切除を施行した.病理組織学的検査で切除肝に癌細胞は認められず,組織学的効果判定Grade 3と診断された.今回われわれは,胃癌術後肝転移に対し化学療法後に組織学的complete response(CR)が得られた1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

ProGRPが高値を示した多発性肺カルチノイドの1例

著者: 和久利彦 ,   勝部亮一 ,   大多和泰幸 ,   佐藤直広 ,   神原健 ,   剱持雅一

ページ範囲:P.579 - P.583

要旨

66歳,女性.検診で胸部異常陰影を指摘され当院を受診した.胸部CT検査で右上葉,右中葉,左舌区に結節を認めた.気管支鏡検査,PET検査で診断ができず舌区部分切除を施行した.腫瘤内は隣接する形で大小の結節性病変が一つの病巣となっており,それぞれの結節は定型カルチノイド,spindle cell,非定型カルチノイド,tumorletなどの違った組織型で構成されていた.免疫染色ではChromogranin A,Synaptophysin,CD56が陽性であった.多彩な組織像を呈した肺カルチノイドと診断し,両肺多発発生が疑われた.術後測定したProGRP値は210pg/mlと高値を示した.初回手術2か月後に右上葉部分切除・右中葉切除を施行した.いずれの結節も非定型肺カルチノイドと診断され,多発性肺カルチノイドと最終診断した.

腹壁瘢痕ヘルニアメッシュ修復術後12年でメッシュ小腸穿通をきたした1例

著者: 林達也 ,   伊藤博 ,   伊古田勇人 ,   諏訪敏一 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.584 - P.586

要旨

患者は77歳,女性.他院において3回の腹壁瘢痕ヘルニア手術の既往があり,最終手術から12年が経過していたが,腹壁手術瘢痕部から膿の流出があるという主訴で来院した.創部の瘢痕感染の診断で外来処置を続けたが,改善しないため手術を施行した.術中所見ではメッシュと小腸が一塊となっており,一部穿通を認めたため,癒着した小腸も切除した.腹壁瘢痕ヘルニア治療においてメッシュによるtension free法は有用であるが,その合併症,特に長期経過後の合併症に留意する必要があると思われた.

ひとやすみ・84

他病院の自主見学

著者: 中川国利

ページ範囲:P.474 - P.474

 各病院では,医療水準を高めることは当然ながら,利用する患者さんの便宜をはかるため施設のアメニティの向上に努めている.また,5年ごとに行われる病院機能評価機構による評価でも,患者さんがいかに診療を受けやすく,そして快適に過ごせるように施設環境を整備しているかが重要な項目となっている.そこで,他病院での取り組みを知るため,学会でほかの都市に行った際には,できるだけ現地の病院を見学することにしている.

 まずは,病院のエントランスにおける掲示板の内容,受付や検査室などの配置,外来患者さんの導線などに目を向ける.そして外科外来を尋ね,外来担当表などの展示物を見る.つぎに外科病棟に向かい,病室やナースセンターをさりげなく見ながら面談室やトイレを覗く.看護師さんの制服やネームプレートの表示に目を向け,車椅子やベッドでの介助状況,患者さんへの声かけなどにも関心を払う.

書評

ローレンス・ティアニー(著)/松村正巳(訳)「ティアニー先生のベスト・パール」

著者: 松村真司

ページ範囲:P.479 - P.479

 指導医が学生・研修医のプレゼンテーションを聞きつつ,ホワイトボードに鑑別診断を記入していく.現在,わが国の外来カンファレンスではおなじみの光景であるが,そのルーツはティアニーかもしれない.

 筆者が研修を行った病院にティアニーが臨時講師として滞在したときのカンファレンスで,ホワイトボードいっぱいに病歴や身体所見のキーワードをマーカーで書きとどめつつ,思考回路をひもとくその姿を初めて見たときの衝撃は忘れられない.病歴や身体所見の情報をプレゼンターとの絶妙のやりとりで次々と引き出していく.プレゼンターから出てこない鑑別診断を加えながら,情報のピースを組み合わせ,症例をひもといていくプロセスはエキサイティングですらあった.

学会告知板

第16回臨床解剖研究会のご案内(第30回愛知大腸肛門疾患懇話会共催)

ページ範囲:P.497 - P.497

会 期:2012年9月8日(土)

会 場:WINCあいち(愛知県産業労働センター)10階会議室

1200字通信・38

医局は悪か?―6年目の回答

著者: 板野聡

ページ範囲:P.504 - P.504

 2006年の本誌の「コーヒーブレイク」の欄に「医局は悪か?」と題して書かせていただきました(61巻5,6号).2004年春の新臨床研修医制度の導入がきっかけであったと記憶しています.

 さて,私の所属する医局では新制度導入後も毎年10月に開講記念会が開催されており,同門の先生方が一堂に会し,学術発表や若手医師による手術手技コンテスト,そして1年間の教室の研究成果を中心とした会長講演など,盛り沢山の内容で開催されています.

勤務医コラム・35

至福の時

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.531 - P.531

 Tさんは38歳の女性.10年前,まだ20代だった彼女は,肝右葉の大きな肝内胆管癌に冒されていた.私と研修医のE君とで彼女を受け持った.右3区域と尾状葉を切除して胆道を切除再建した.手術はバッチリだった.ところが2日目の晩に,ちょっとした不注意から,吻合部を通して外側区肝内胆管へ留置していた減圧チューブが抜けてしまった! 天を仰ぐ私とE君.「何をそんなに悩んでいるの?」と,キョトンとしている彼女.私とE君の心配をよそに,彼女はどんどん元気になっていった.退院してからも,「いつ再発するだろう」という私の心配をよそに,彼女は明るく振るまっていた.そうして,とうとう再発せずに10年経った.今は1年に1回,外来へ通っている.

 先日,暗い部屋でエコーをしながら,私は彼女に尋ねてみた.「手術する前,どんな気持ちだった?」『私,もうすぐ死ぬって思ってました.』「手術は痛かったでしょ?」『ん~と,もう忘れました.』「一言も泣きごとを言わなかったね,君は偉いよ,僕なんかよりよっぽど偉い.」『鈍感なだけです.』「管が抜けたの覚えてる?」『エ~,そんなことありました?』「抗癌剤治療きつかったね.」『色黒になるのでお化粧が大変でした.』「とうとう10年経ったね.」『私,これからの人生,何でも自由にやっていいんですね.先生ありがとう.」明るく笑う彼女.当直明けのショボくれたオヤジには,至福の時でした.

お知らせ

SR講習会 第9回リーダーシップコースのお知らせ

ページ範囲:P.543 - P.543

講習会目標:ストーマリハビリテーションの分野でリーダーシップを発揮できるようになるために,ストーマリハビリテーションの理念,ならびにストーマリハビリテーション学の高度な知識・技能・態度を習得する.

主 催:日本大腸肛門病学会,日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会,日本看護協会

昨日の患者

寒さに耐えて咲く四季桜

著者: 中川国利

ページ範囲:P.562 - P.562

 私が勤務する病院の近くに,小さな村社がある.そこには当地では珍しい,1本の四季桜が植えられている.落葉して裸になった枝に,10月末頃から小さな白い花びらを付ける.ソメイヨシノのように一斉に開花することなく,数か月にもわたって咲いては散り,散っては咲く.雪が降る時期では,枝に雪が積もっているのかとさえ見違える.厳しい季節に耐え,健気に咲く四季桜を見ると,思い出す患者さんがいる.

 90歳代前半のSさんがイレウス症状で来院し,精査の結果,大腸癌であった.すでに多発性肝転移をきたしていたが,高齢であったため,単に結腸左半切除術を行った.術後に癌化学療法を行い,一時的に転移巣は縮小して腫瘍マーカーも改善したが,癌は進行した.手術1年後に食欲不振となり,肝機能も著明に悪化したため再入院した.点滴によって症状は一時的ながら改善した.

--------------------

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.566 - P.566

投稿規定

ページ範囲:P.587 - P.588

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.589 - P.589

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.590 - P.590

あとがき

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.592 - P.592

 これまで「高度医療」(第3項先進医療技術)の形で実施されてきた内視鏡下手術用ロボット「ダヴィンチ」を用いた前立腺悪性腫瘍手術が,2012年度診療報酬改定で保険適用されることが決定しました.「ダヴィンチ」の適用は拡大しており,前立腺悪性腫瘍手術以外にも,ダヴィンチによる手術が高度医療の形で実施されています.厚労省保険局医療課によれば,前立腺悪性腫瘍以外の手術についても「有効性がないわけではなく,今後,確認されれば保険適用されることになる」としており,今後は他の臓器の悪性腫瘍に対しても,ダヴィンチ手術が保険適用となっていくことが期待されています.

 現在,ダヴィンチ手術を行うためには,規定の研修を受けIntuitive Surgical社の認定する資格を得ることが条件となっています.一方,現在広く行われるようになった腹腔鏡下手術に関しては,腹腔鏡下手術の特別な資格なしで行うことが可能です.しかし,本特集の森論文に「本邦では1990年代に,十分な準備や科学的検証のないままに拙速な内視鏡下手術導入を余儀なくされたのも事実である.……より安全な手術施行や指導医の育成のために,一定レベル以上の技術や指導性を有する医師の認定制度が必要であるとの認識から,技術認定制度が議論されるようになった(後略)」と紹介されているように,安全な手術手技の普及と指導性を有する医師を認定するという趣旨で日本内視鏡外科学会による技術認定が行われています.その技術認定試験の2010年の合格率は,臓器により異なりますが,24~55%と必ずしも高率ではありません.そもそも技術認定の水準は指導者レベルにあるため,腹腔鏡下手術に携わる全員がこの資格をもっている必要はないと思います.ただ,各々の技術向上のためには,この認定制度で示しているポイントを把握して日常の臨床を行っていくことは大変意義のあることと思われます.このような趣旨で本特集を組みました.本特集が,実臨床での腹腔鏡下手術の手技向上のためにお役に立てることを期待しております.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?