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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科67巻5号

2012年05月発行

雑誌目次

特集 次代のMinimally Invasive Surgery!

ページ範囲:P.597 - P.597

 外科手術においてminimally invasive surgeryの重要性がうたわれて久しくなった.理想的な手術とは,術前(病気が発生する前の健康な状態)と術後のQOLが変わらないものだと考えられる.しかしながら,外科手術においては,生体にメスが入り,特に癌手術では臓器(組織)損失も余儀なくされる.手術は,アプローチ,切除,再建といった要素で構成されているが,それぞれにminimally invasive procedureがあってよいはずである.また,endoscopic procedureはアプローチだけの“minimally”ではないのか,といった疑問も生じている.

 本特集では,各疾患手術において何が“invasive”なのかを明らかにし,アプローチ,切除,再建の構成要素別に,何が“minimally invasive procedure”になるのか,その方向性を論じていただいた.

Minimally invasive surgeryの歴史―MISとは何か?

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.598 - P.601

【ポイント】

◆Minimally invasive surgery(MIS)の本質は“minimum trauma and maximum therapeutic result”である.

◆MISは,先人の創意工夫,内視鏡技術,機器の発達によって日進月歩である.

◆アプローチだけではなく,切除・再建においても真のMISを追求すべきである.

手術侵襲と生体反応

著者: 深柄和彦 ,   安原洋

ページ範囲:P.602 - P.606

【ポイント】

◆侵襲後の満潮相では,傷ついた組織の早期修復と病原体の侵入防御のために代謝系,呼吸・循環器系,神経内分泌系,免疫系の反応が高まる.

◆SIRSなどの侵襲に対する生体反応を調節することが大侵襲後の予後改善のテーマとして注目されている.

◆食道切除術や肝胆膵領域の手術は大侵襲であり,術後の重症感染症や臓器障害発生が問題となるケースもある.

◆周術期の適切な栄養管理が低侵襲手術のためのパッケージの1つである.

甲状腺癌に対するminimally invasive surgery―有用性と将来展望

著者: 清水一雄 ,   赤須東樹 ,   五十嵐建人 ,   岡村律子 ,   ヘイムス規予美 ,   竹間由佳 ,   軸薗智雄

ページ範囲:P.608 - P.613

【ポイント】

◆Minimally invasive surgeryとは,内視鏡下手術に代表される手術によって患者の生体に与える直接的な肉体的侵襲のみならず,整容面,入院期間の短縮なども含めた術後の精神的な苦痛を軽減し,術後のQOLをさらに軽減させる術式である.

◆特に甲状腺手術では露出された前頸部に手術創が入ることや,女性に多い疾患であることから,今まで整容面で様々な工夫が凝らされてきた.しかし,整容面の利点が明らかな内視鏡下手術の登場によりこの問題は解消され,その需要が高まっている.

◆予後のよい甲状腺乳頭癌,特に直径1cm以下の微小乳頭癌は内視鏡下手術のよい適応である.また,全摘の必要な甲状腺癌のなかで,遺伝子診断陽性である家族性髄様癌の予防的全摘,また全摘を必要とする放射能被曝後の甲状腺微小乳頭癌も適応としている.その正確な適応診断のためには,超音波などによる腫瘍の局在部位,大きさ,リンパ節転移の有無など慎重な術前評価が必要である.

乳癌におけるminimally invasive surgery

著者: 明石定子

ページ範囲:P.614 - P.618

【ポイント】

◆乳癌において,センチネルリンパ節生検(SNB)陰性症例における腋窩郭清の省略はless invasiveである.

◆SNB陰性例で腋窩郭清を省略しても長期予後に影響を与えない.

◆各種補助療法の進歩によって,臨床的にリンパ節転移陰性症例ではSNBが微小転移もしくは2個以下の転移陽性であっても郭清が省略できる可能性が出てきた.

肺癌に対する次代のminimally invasive surgery

著者: 池田徳彦 ,   佐治久 ,   梶原直央 ,   萩原優

ページ範囲:P.620 - P.623

【ポイント】

◆低侵襲な肺癌手術は創の縮小(胸腔鏡下手術)と肺機能温存(縮小手術)の要素からなる.

◆腫瘍径20mm以下の肺癌症例に対する縮小手術の有用性は現在進行中の臨床試験で解明されるであろう.

◆次世代の低侵襲手術確立のためには,正確な診断,医工連携,科学的な安全への配慮を包括的に推進していく必要がある.

食道癌手術における低侵襲開胸法

著者: 阿久津泰典 ,   松原久裕

ページ範囲:P.624 - P.627

【ポイント】

◆肋骨切離や筋肉切断を行うことなく開胸する低侵襲開胸法の実際を紹介する.

◆体腔鏡を併用することで術野の共有化が可能となる.

◆真の低侵襲を目指すにはどのようにすべきか,その方向性を考える.

胃癌における低侵襲手術

著者: 奥村直樹 ,   ,   山口和也 ,   吉田和弘

ページ範囲:P.628 - P.632

【ポイント】

◆腹腔鏡下胃切除術は胃癌手術における低侵襲性を飛躍的に向上させた.技術革新に伴い,今後もその重要性が増すであろう.

◆胃癌におけるセンチネルリンパ節理論の確立がさらなる縮小手術を可能とするため,その研究が急務である.

◆低侵襲手術は技術的,腫瘍学的安全性を保たなければならず,エビデンスの確立を忘れてはならない.

大腸癌におけるminimally invasive surgeryの方向性

著者: 花岡裕 ,   黒柳洋弥

ページ範囲:P.634 - P.638

【ポイント】

◆大腸癌の手術は,根治性を追い求めた拡大切除・拡大郭清の時代から,機能温存・縮小手術へと変遷してきた.

◆その過程で低侵襲(小手術創)手術の先駆けとなる腹腔鏡下手術が登場し,広がりを見せている.

◆腹腔鏡下手術は根治性において開腹手術と比較される.根治性に重点を置いて腹腔鏡下手術の展望を論じる.

肝癌に対する腹腔鏡下肝切除術の現況と問題点

著者: 石崎陽一 ,   川崎誠治

ページ範囲:P.640 - P.645

【ポイント】

◆体壁の大きな破壊を伴う開腹肝切除に対して,腹腔鏡下肝切除術はminimally invasive surgeryとして普及しつつある.

◆開腹肝切除術との比較ではこれまでのところ短期成績のみならず,長期成績も同等であったとする報告が多いが,publication biasを考慮する必要がある.

◆肝切除術は開腹でも難易度の高い術式で,入院死亡率も高い.腹腔鏡下肝切除術が本当に安全な術式かどうかに関しては今後の検討が必要である.

通常型浸潤性膵管癌へのminimally invasive surgeryの可能性

著者: 趙明浩 ,   山本宏 ,   貝沼修 ,   太田拓実 ,   朴成進 ,   有光秀仁 ,   池田篤 ,   早田浩明 ,   鍋谷圭宏 ,   滝口伸浩 ,   永田松夫

ページ範囲:P.646 - P.649

【ポイント】

◆膵臓内視鏡外科の最大のテーマの1つは,内視鏡下手術を通常型浸潤性膵管癌まで適応拡大できるかである.

◆症例数は少ないながら,短期成績では生存率も含めて腹腔鏡下手術は開腹手術に劣っていなかった.

◆近い将来に膵癌のminimally invasive surgeryとし腹腔鏡下膵切除術が認知されていくことが期待される.

ヘルニアにおけるminimally invasive surgery

著者: 蜂須賀丈博

ページ範囲:P.650 - P.653

【ポイント】

◆ヘルニア手術は長い歴史を持ち,19世紀以降,Cooper,Bassini,McVay,Lichtenstein,Nyhusらの偉大な外科医の功績によって現在の形になっている.

◆腹腔鏡下手術やメッシュの形状の進歩によって,前方到達法,前方到達型腹膜前修復法,腹腔鏡下修復術のいずれもが一定の成熟した手術法として完成されてきている.

◆将来的には,手術法としてsutureless repairや単孔式腹腔鏡下手術,素材として消えてなくなるメッシュ素材などの開発による進化が期待される.

痔核に対するminimally invasive surgery

著者: 黒川彰夫 ,   木附公介

ページ範囲:P.655 - P.659

【ポイント】

◆ALTA療法のcombination therapyでは,ALTA注射を主体としたほうがより低侵襲性の手術となる.

◆ALTA療法と古典的分離結紮法は結紮切除術(LE)より馴染みがよく,日帰り手術が可能である.

◆内痔核の正確な診断には怒責診が重要である.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・23【最終回】

減量外科―今までの10年と未来

著者: 笠間和典

ページ範囲:P.660 - P.668

 みなさん,元気ですか~っ! 早いもので,この連載を始めてからもう約2年が過ぎました.また,私が最初の腹腔鏡下Roux-en-Y胃バイパス術を行ってから,ちょうど10年になりました.この10年で約450件の減量手術を行い,今年中には500件になると思います.

 2011年には日本中の13の病院で,21人の外科医によって168件の減量手術が行われました.100件を超えているのは当院のみですが,5件以上行った病院は9施設あり,当院以外にも10件以上行った病院が1施設(沖縄の中頭病院)ありました.10年前とは隔世の感がありますし,2009年には日本中で70件程度だったので,日本でも少しずつですが進歩がみられていると思われます(アジアのほかの国々の進歩のスピードに比べるととても遅いのですが……).

 この最終回では減量外科の今までの10年を振り返り,また今後,この分野がどうなるかを考えてみたいと思います.

Expertに学ぶ画像診断・14

画像強調観察:FICE(下部)

著者: 冨樫一智 ,   根本大樹 ,   大須賀文彦 ,   竹重俊幸 ,   添田暢俊 ,   五十畑則之 ,   遠藤俊吾 ,   斎藤拓朗

ページ範囲:P.670 - P.675

 大腸内視鏡検査は,色彩を含めた形態情報を提供する唯一のmodalityである.flexible spectral-imaging color enhancement(FICE)は,その色彩情報を最大限に利用した画像強調内視鏡(image enhanced endoscopy)の1つとして最近,注目されている.2010年4月に,narrow band imaging(NBI)とともにFICE拡大観察加算が200点認められたこともあり,わが国では一般診療所においても普及しつつある.FICEでは,色素撒布なしにボタン1つを押す操作によって,コンピュータ画像処理技術を介して疑似色素内視鏡画像が得られる.この手軽さが世界中で受け入れられている最大の理由であり,英語論文数も増加の一途をたどっている(図1).

 本稿ではまずFICEの原理について述べ,つぎ一般的な外科の先生方がFICEを使いこなすために必要な基本的な知識・操作法を解説し,最後に大腸内視鏡検査における実際の活用法について述べる.

ポイント画像で学ぶ腹腔鏡下低位前方切除術・5【最終回】

直腸の切離・吻合操作

著者: 長谷川傑 ,   篠原尚 ,   松末亮 ,   大越香江 ,   山田理大 ,   河田健二 ,   川村純一郎 ,   坂井義治

ページ範囲:P.676 - P.684

■はじめに

 さて,5回にわたり続けてきた連載も今回で最終回である.直腸の切離・吻合操作は「縫合不全」という直腸低位前方切除で最も厄介な合併症に直結するので,外科医として神経を使う部分である.われわれも初期には縫合不全に悩まされた時期もあったが,様々な努力・工夫によって,その発症率を減少させることが可能となった.

 本稿では,できるだけストレスが少なく直腸の切離・吻合が行えるように,われわれが行っている工夫を紹介する.

外科専門医予備試験 想定問題集・5

乳腺・内分泌

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   松本純明

ページ範囲:P.686 - P.691

出題のねらい

 乳腺領域は7~8題程度の出題ですが,出題範囲は疫学から手術・補助療法まで広範囲で,対策が立てにくい分野です.ここに挙げた問題をチェックし,大体の難易度を把握したうえで,自身の診療で受け持った症例を確実にモノにしていくようにしましょう.また,内分泌領域(甲状腺や副腎疾患)の手術は施設によっては耳鼻科や泌尿器科が担当しているかもしれません.時間に余裕があるときには他科の手術にも入れてもらえるよう指導医と相談してみましょう.どちらも学習しにくい分野ですが,今から少しずつ機会を見つけて勉強しておくとよいでしょう.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑮

“Needlescopic Surgery”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.692 - P.695

………………

  …………う~ん

………………

  ……何も出ない……

病院めぐり

医療法人社団誠馨会 千葉中央メディカルセンター外科

著者: 松葉芳郎

ページ範囲:P.696 - P.696

 当院の所在地である千葉市若葉区は区役所の広報によると,「豊かな自然と歴史と文化に育まれたふれあいのまちで,千葉市6区のなかで最大の面積を持ちます.豊かな自然環境に恵ぐまれ,農業も盛んです.加曽利貝塚や御成街道などの史跡を保全しつつ,地域の活性化に努めています.レッサーパンダの風太がいる動物公園があります」と紹介されています.当院は,JR千葉駅からバスで約20分の若葉区加曽利町の坂月川のほとりに,昭和57年4月に加曽利病院として内科,外科,整形外科,皮膚科の4科で開院しました.当時の高田方凱院長が初代の外科のトップでした.その後,平成元年に現法人である医療法人社団誠馨会が設立されました.平成13年に経営母体がSECOMグループに変わり,平成16年に現名称となりました.筆者は平成19年に部長として就任しました.

 現在,当院は病床数272床で,常勤医師56名,非常勤医師78名が在籍しています.標榜科は25科あり,院内に設けた専門センターには糖尿病,循環器,脊椎脊髄,脳卒中の4つがあります.循環器内科,脳神経外科の救急診療は24時間体制で,院内にはつねに常勤医師が待機しており,ホットラインに対応できる状態です.脳神経外科は九十九里方面からの救急車などにも対応しており,かなり広範囲の救急を引き受けています.当院の入院疾患別構成比(ICD分類)をみますと,循環器疾患が33%,整形外科疾患10%,消化器疾患10%,新生物8%の順になっています.救急搬送患者は年間3千件以上にのぼります.病院理念は「信頼と奉仕」で,基本方針には①患者の権利を擁護し,公正な医療を実践します,②教育・研修を推進し,医療の質の向上に努めます,③信頼関係に基づいた安心・安全な医療を提供します,④職員が喜びと誇りを持って働ける職場づくりを目指します,⑤医療連携の充実を図り,地域の保健活動に貢献します,と謳っています.

済生会中和病院外科

著者: 細井孝純

ページ範囲:P.697 - P.697

 当院は人口約6万人の桜井市にあり,奈良県の中和地域に位置しています.特産品には三輪素麺や材木などがあります.また,近年パワースポットとしても有名になった日本最古の神社といわれる大神神社をはじめ,長谷寺や談山神社など由緒ある寺社が数多くみられます.卑弥呼の墓とされる箸墓古墳や纏向遺跡などもあります.

 当院は昭和17年6月に済生会創立30周年記念事業の一環として桜井診療所として発足し,昭和29年6月に現名称となりました(24床,内科・外科).その後,徐々に診療科の増設と病棟改築を進め,現在は17診療科です.病床数は324床(一般病床272床,感染病床4床,療養型病床48床)で,介護老人保健施設(100床)を併設しています.また,病院機能評価(Ver.6)認定病院および管理型臨床研修病院です.

手術手技

高度肥満患者に対する腹腔鏡下手術におけるポートサイト閉鎖―クローズシュアーシステム®の使用経験

著者: 清水英治 ,   関洋介 ,   笠間和典 ,   根岸由香 ,   梅澤昭子 ,   黒川良望

ページ範囲:P.698 - P.701

要旨

腹腔鏡下手術後特有の合併症としてポートサイトヘルニアがある.肥満はそのリスクファクターであり,高度肥満患者では,腹膜前脂肪織に小腸が嵌頓するRichterヘルニアも報告され,ポートサイトの全層閉鎖が望ましいと考えられる.一方で,高度肥満患者では腹壁が厚いため,ポートサイトの全層閉鎖が困難なことが多い.われわれは,体重221.6kg,BMI 64.1kg/m2の高度肥満患者に対して腹腔鏡下袖状胃切除術を行い,クローズシュアーシステム®を用いてポートサイトを容易に全層縫合することが可能であった.近年,増加傾向にある肥満患者に対する腹腔鏡下手術におけるポートサイトの閉鎖に有用であると考えられる.

臨床報告

胃潰瘍穿孔に対して穿孔部を腹直筋後鞘で被覆した1例

著者: 田中友理 ,   梶川真樹 ,   森本大士 ,   高瀬恒信 ,   中山茂樹 ,   矢口豊久

ページ範囲:P.702 - P.705

要旨

患者は61歳,男性.アルコール性肝硬変で当院の内科に通院中であった.数日前から続く吐血で受診し,採血で著明な貧血を認めたため上部消化管内視鏡検査を施行した.胃体部前壁に出血性潰瘍を認めたため,焼灼術で止血処置を行った.翌日の検査直後に腹部膨満感と腹痛が出現し,腹部CT検査で多量の腹腔内遊離ガスを認めたため,胃潰瘍穿孔と診断して緊急手術を施行した.腹腔内には大量の腹水と,胃体部小彎から前壁にかけて穿孔部位を認めた.大網および肝円索は著明に萎縮して授動が困難であったため,腹膜および腹直筋後鞘を有茎弁として穿孔部を被覆した.腹直筋後鞘を用いて被覆し,良好な経過をたどった1例を経験した.

術前診断が可能であった,腸回転異常症に合併した急性虫垂炎の1例

著者: 安藤拓也 ,   小林正学 ,   榊原堅式 ,   中前勝視 ,   杉浦博士 ,   榊原一貴

ページ範囲:P.706 - P.710

要旨

成人での腸回転異常症は通常は無症状であり,ほかの消化管疾患の精査や開腹時に偶然発見されることが多い.今回われわれは,術前に診断できた腸回転異常症に伴う急性虫垂炎の1例を経験した.患者は36歳,男性.上腹部痛と発熱で当院を受診した.腹部CT検査で盲腸部は脾彎曲部に存在し,その尾側に膿瘍を認めた.SMAとSMVが左右逆に位置するSMV rotation signを認め,腸回転異常症に合併した急性虫垂炎および腹腔内膿瘍と診断して手術を施行した.手術所見では腸回転異常症はmalrotation type,虫垂は根部で穿孔して盲腸部の炎症が高度であり,回盲部切除術を施行した.

外科的治療と術後化学療法で長期生存を得た横行結腸間膜原発extragastrointestinal stromal tumor(EGIST)の1例

著者: 松下晃 ,   笹島耕二 ,   吉田寛 ,   鈴木成治 ,   松谷毅 ,   内田英二

ページ範囲:P.711 - P.714

要旨

患者は58歳,男性.腹痛を主訴に前医を受診した.腹部CT検査で左上腹部に30×20cm大の巨大な腫瘍を認めた.上下部消化管内視鏡検査では異常はなかった.腹部血管造影検査で,左結腸動脈から栄養される腫瘍濃染像を認めた.Gastrointestinal stromal tumor(GIST)を疑い,開腹手術を施行した.腫瘍は横行結腸間膜から発生し,消化管との連続性は認めなかったため,腫瘍の完全摘出術を行った.病理学的検査では,HE染色で類円形腫瘍細胞が増生し,免疫組織学的染色でKIT陽性,MIB-1 index(10%)であり,横行結腸間膜原発extragastrointestinal stromal tumor(EGIST)と診断した.術後1年間,メシル酸イマチニブを投与した.現在,術後3年が経過したが,無再発生存中である.

一期的縫合閉鎖が有効であった食道穿孔の2例

著者: 喜多芳昭 ,   松本正隆 ,   内門泰斗 ,   奥村浩 ,   大脇哲洋 ,   夏越祥次

ページ範囲:P.715 - P.719

要旨

症例1は77歳,男性.糖尿病,高血圧,脳梗塞,脳出血の既往があった.食道アカラシアの診断で食道バルーン拡張術を施行したところ食道穿孔が生じ,食道穿孔部粘膜閉鎖ドレナージ術+アカラシア手術(Heller-Dor手術)を行った.症例2は60歳,女性.統合失調症で,入院中に義歯の紛失が判明し,胸部X線検査で頸胸境界部に義歯を認めた.内視鏡で義歯を胃内に落として引き上げる際に食道を損傷し,食道穿孔と診断されて当院へ搬送された.手術は,右開胸開腹食道異物摘出術,食道穿孔部閉鎖,洗浄ドレナージ,腸瘻造設術を行った.食道穿孔の治療方針は多岐にわたるが,食道穿孔部位が確認でき,穿孔部の状況が良好であれば,一期的縫合閉鎖も選択肢の1つであると考えられた.

肝門部圧排をきたしたアメーバ肝膿瘍の1例

著者: 石田隆志 ,   赤松延久 ,   駒込昌彦 ,   山崎信義 ,   小澤文明 ,   小高明雄

ページ範囲:P.720 - P.726

要旨

患者は44歳,男性.発熱と腹痛で前医を受診し,尾状葉の3cmの肝膿瘍と診断された.穿刺ドレナージが施行されたが膿瘍は急速に増大し,肝機能が増悪し,腎不全,呼吸不全に陥ったため,前医受診から14日目に当科に救急搬送された.転院時はSIRSの状態で,T-Bil 7.3mg/l,PT-INR 2.04,CRP 18.9mg/dlであった.転院後にT-Bil 13.8mg/l,PT-INR 2.34と,さらに肝不全は進行した.CTでは膿瘍が肝門部を取囲むように直径13cmにまで増大し,門脈が圧排されていた.ドレナージチューブを大径化して血漿交換を施行した.膿瘍液の鏡検でE. histolyticaを確認したため,アメーバ肝膿瘍の診断のもとメトロニダゾールを開始した.その後,膿瘍は急速に縮小し,全身状態も著明に改善して救命できた.

両側卵巣転移を伴う妊娠併存S状結腸癌の1例

著者: 山下公大 ,   裏川直樹 ,   植田康司 ,   金光聖哲 ,   鈴木知志 ,   黒田大介

ページ範囲:P.727 - P.731

要旨

症例は31歳,女性.自然妊娠成立後,妊娠24週目の健診で骨盤内腫瘤を指摘され,当院へ紹介され受診した.入院後精査にて,S状結腸癌,両側卵巣転移と診断された.妊娠30週まで待機し,帝王切開(1,132g男児,Apgar score 7/9)および両側卵巣摘出を行った.病理学的に腺癌の両側卵巣転移と診断された.出産後13日目に二期的にS状結腸切除術を施行した.診断は,S状結腸癌(Stage Ⅳ)であった.術後は母子ともに経過良好で退院となった.両側卵巣転移を伴う妊娠併存S状結腸癌の稀な症例を経験した.

勤務医コラム・36

傾(かぶ)き者は何処(いずこ)

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.619 - P.619

 心臓血管外科のK先生,血液内科のO先生,消化器外科の私,田舎で開業しているM先生はほぼ同年代.毎年,年が押し詰まると集まる.もう30年近く,一度も休まずに集まっている.4人集まればやることは1つ,麻雀である.

 最近は全自動卓も進化して楽になった.1年に1回,牌を握るだけなのに,やり方を忘れる,なんていうことはない.学生時代の修業のたまものか.ここ10年くらい毎回負けている私はまさに「カモネギ」だが,それでも参加したくなるのには訳がある.話が楽しいのだ.

1200字通信・39

専門医と専門医制度

著者: 板野聡

ページ範囲:P.633 - P.633

 最近,学会で専門医制度が見直されるようになり,2011年には「専門医制度の再構築」と題した特別講演が複数回行われました.

 私が卒業した1979年頃には麻酔科の専門医しかなく,その後に日本消化器内視鏡学会などが専門医制度(当時は認定医制度)を始めたと記憶しています.私もそうした資格を一生懸命に取得してきました.ただ,当初目指したはずのincentiveはつかないままで今に至っています.最近の専門医制度の「再構築」といった話題では,必ずその話が取り上げられ,研修医の先生方がいの一番に目標にされる専門医の資格に,そうした裏付けを付与していく動きになってきており,ぜひにも実現して欲しいと期待しつつ見守っています.

ひとやすみ・85

スポーツ大会

著者: 中川国利

ページ範囲:P.639 - P.639

 東北地方の5つの赤十字病院が年に一回,持ち回りで球技大会を開催している.昨年は当院の主催で行われた.人生と同様にスポーツにもドラマがあり,勝者があれば必ず敗者も存在する.そして,歓喜の叫びがあれば悔し涙もある.数多くのエピソードが生まれるが,代表的なものを紹介する.

 野球会場での決勝戦でのエピソード.当院のエースピッチャーMが三振の山を築き,1対0で試合を優位に進めていた.しかし,突然,7回裏に雷雨が生じ,試合が中断した.再開された8回表の最初の一球を打たれ,ランニングホームランとなり同点になった.その後は見事に立ち直り,再び三振で終えた.そして8回裏,打者となったMは内野安打を打って一塁へ全力疾走した.セーフになったものの,右足首を捻挫し,立ち上がることさえ困難となった.代走が送られ,その代走が生還して再び1点差で勝ち越した.最終回,誰もがピッチャー交代を予測した.しかし,Mは継投を強く希望し,足を引きずりながらも三人を全て三振で完投し,勝利投手となった.その精神力に,観戦する皆が感動し,褒め称えた.しかし,応援していた某看護師長が,「彼は病院のことをまったく考えていない」と,呟いた.確かに,高校野球では許されても,プロ野球ではありえない行動であった.

書評

ローレンス・ティアニー(著)/松村正巳(訳)「ティアニー先生のベスト・パール」

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.669 - P.669

 まず本書を開いたとき,「字が少ないな」と思ってはならない.

 近年,医療情報量は爆発的に増加した.ウェブ上コンテンツの充実により一疾患の解説を「5000字以内にまとめて」という制約はもはやない.そこで「うちのはこんなにコンテンツがありまっせ」という量的評価が行われるようになる.「この教材には○○のことがカバーされていない」という形でコンテンツはけなされるようになる.

学会告知板

第35回日本膵・胆管合流異常研究会

ページ範囲:P.701 - P.701

会 期:2012年9月8日(土)

会 場:海運クラブ(東京都千代田区平河町2-6-4海運ビル)

昨日の患者

共白髪まで

著者: 中川国利

ページ範囲:P.710 - P.710

 少子高齢化社会を迎えて高齢の入院患者さんが激増し,付き添う家族も子供は少なくなり,高齢の伴侶が多くなった.伴侶の病気をともに心配し合う夫婦を紹介する.

 Uさんは80歳代前半であり,60歳代後半に胃癌で胃全摘術を受けた.術後経過は良好であったが,5年前に癒着性イレウスで癒着剝離術を受けてからは,しばしばイレウスで入退院を繰り返した.Uさんが入院するたびに奥さんが付き添い,甲斐甲斐しく夫の世話をした.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.618 - P.618

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.632 - P.632

次号予告

ページ範囲:P.685 - P.685

投稿規定

ページ範囲:P.733 - P.734

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.735 - P.735

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.736 - P.736

 「次代のminimally invasive surgery」とは何か? この難問に本特集は見事に答えてくれている.小生が医師になった28年前,鼠径ヘルニアではMcvayかBassiniかを議論したものである.もちろん,plug自体が存在しなかった.乳癌はほとんどの症例でHalstedが行われた.術後は,ボールを手にし,壁に向かって上肢を徐々に挙げていくリハビリが常であった.大胸筋を切除したあとは,皮膚と肋骨が目立つ胸壁のみで,確かに痛々しかった.その当時,患者さんには選択の余地がなかった.隔世の感がある.

 手技は確実に変化し,前進・進歩している.とすれば,5年後,10年後の姿はどうなっているのか.それはすでに萌芽しているはずである.キーワードは「創の縮小」と「機能温存」であることが本特集から窺える.内視鏡下手術の導入は大きな進歩であった.それに伴う機器の発達も目を見張るものがある.まだまだ進歩するに違いない.しかし,それだけではないことも本特集は伝えてくれる.おそらく,これからも日常診療における素朴な疑問や患者さんからの訴えなどが原動力になっていくものと確信している.Technicalのみならず,oncologicalにおいても外科学の益々の,さらなる発展を期待してやまない.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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