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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科67巻6号

2012年06月発行

雑誌目次

特集 よくわかるNCD

ページ範囲:P.741 - P.741

 2011年よりNational Clinical Database(NCD)登録が開始され,多くの施設で様々な工夫のもとに精力的な取り組みがなされている.本事業により,登録されたデータを解析することで,医療の質の向上をめざし,また専門医の申請に活用できるなど多くの利点が期待される一方で,現場においては入力業務に伴い少なからぬ混乱もみられるようである.そのような状況のもと,NCDの現状を把握し,改善点を探り,その理念と今後の展望を考えることの意義は大きい.また,各学会における取り組みについても述べていただいた.

NCDの理念

著者: 岩中督 ,   宮田裕章 ,   大久保豪 ,   友滝愛

ページ範囲:P.742 - P.745

【ポイント】

◆National Clinical Database(NCD)設立の理念は,下記の4点にまとめることができる.

◆基本入力項目を用いてわが国の外科系手術の全数を把握し,地域における外科医療の現状を把握する.

◆手術を実施している外科医情報を駆使することにより,専門医の適正配置ならびにその適正数について検討する.

◆Risk-adjustされたサブスペシャルティ領域のデータベースを用いて,外科医ならびに各施設の医療水準評価を行い,フィードバックを行いつつ,市民に適切な医療の提供を行う.

◆このデータベースを用いた医師主導臨床試験や各種治験などの臨床研究支援を行う.

NCDの現状―診療科の登録状況と入力体制

著者: 大久保豪 ,   宮田裕章 ,   橋本英樹 ,   後藤満一 ,   村上新 ,   本村昇 ,   岩中督

ページ範囲:P.746 - P.751

【ポイント】

◆2012年4月現在,NCDにはおよそ3,400の施設から4,900余りの診療科が登録されている.

◆2011年の症例としては,100万症例以上が集積される見込みである.

◆システムのユーザビリティの向上を継続的に図るとともに,医療の質の向上に継続的に貢献できるような体制作りが重要である.

NCDの将来展望

著者: 後藤満一 ,   宮田裕章 ,   杉原健一 ,   岩中督 ,   里見進

ページ範囲:P.752 - P.755

【ポイント】

◆NCDのデータ登録の一元化により,手術実施施設が複数であっても,自らの経験症例数はインターネットで確認可能である.

◆入力は外科医だけではなく,看護師,診療情報管理士,医師事務作業補助者,データマネジャーも可能である.

◆正確なデータを保証するため,主任外科医もしくは診療科長のデータチェックによる承認が必要である.

◆外科関連専門医申請,リスク調整した外科医療水準評価,労働環境の改善,適正な診療報酬の算定,臨床研究などに利用できる.

〔システム作りのモデル〕

町田市民病院の取り組み

著者: 羽生信義 ,   大橋伸介

ページ範囲:P.756 - P.759

【ポイント】

◆CRF(Case Report Form):各学会で作成された共通の入力フォームで,学会ごとに入力の内容や項目数が異なる.術直後と術後30日にオンライン入力する.

◆電子カルテとNCD:電子カルテにデータ入力すれば自動的にNCDデータベースにも登録できるのがシステム的に理想的な形だが,現在のところ両者は同一基盤であるとは言いがたい.

◆「どこでもMY病院」:政府が掲げた個人の診療履歴などを電子化する構想が実現すれば,どこでもいつでも参照することが可能になる.

NCDのアンケート調査から見えてきた効率よい入力法

著者: 柿添三郎 ,   柿添由美子 ,   柿添圭嗣 ,   森寿義 ,   平田一典 ,   山浦真子 ,   小野清子

ページ範囲:P.760 - P.763

【ポイント】

◆NCD入力のアンケートから,多くの外科医がNCDの意義を理解してはいるが,仕事量を増加させていることがわかった.

◆多くの施設で,事務職員にNCD入力の援助を受けていることがわかった.

◆事務職員でも容易に入力できるよう,手術記録の書式の変更などを行うことが考えられた.

〔NCDへの取り組み〕

消化器外科全般

著者: 今野弘之

ページ範囲:P.764 - P.767

【ポイント】

◆消化器外科専門医制度:わが国で最も歴史のある専門医制度の一つであるが,NCD登録症例を用いた利便性のある新規申請や更新をめざしている.

◆消化器外科関連専門医制度・消化器外科データベース合同協議会:消化器外科学会を中心とした消化器外科関連学会・研究会が集まり,統一性のある専門医制度設計とNCDの利活用について検討を重ねている.

◆がん登録事業:現在,各臓器別に行われている登録事業を,NCD登録を活用することにより「共通化」「一元化」することが期待されている.

消化器外科①食道外科

著者: 藤也寸志 ,   安藤暢敏 ,   日月裕司

ページ範囲:P.768 - P.771

【ポイント】

◆食道外科にとって,NCD登録により,手術症例数が少ない施設も含む全国の手術水準が明らかになる意義は大きい.

◆NCD登録の意義を全国の外科医に明確に認識(実感)させることが継続のための必要条件である.

◆食道がん全国登録は,外科だけでは意味が少なく,その目的を明確にすることから始めるべきである.

消化器外科②大腸肛門外科

著者: 井上靖浩 ,   田中光司 ,   楠正人

ページ範囲:P.772 - P.775

【ポイント】

◆大腸肛門外科領域を網羅する専門医制度には,基本ボードの外科専門医,サブスペシャリティとしての消化器外科専門医,大腸肛門病専門医がある.

◆現時点では前二者の専門医制度がNCDとリンクしており,専門医制度側での術式名変更など両者の整合性をとる作業が大規模に行われた.

◆3つの診療カテゴリーをもつ大腸肛門病学会専門医制度では,術式だけのデータベースではリンクしきれない問題があり,その対応は今後の課題である.

消化器外科③肝胆膵外科

著者: 三浦文彦 ,   高田忠敬 ,   山本雅一 ,   矢永勝彦 ,   海野倫明

ページ範囲:P.776 - P.778

【ポイント】

◆肝胆膵外科学会高度技能専門医制度の各種申請の際の高難度肝胆膵外科手術の手術実績は,NCD登録を前提としている.

◆2012年1月以降の症例は,NCDの肝胆膵外科詳細項目がすべて入力されていないと,高難度肝胆膵外科手術の手術実績として認められない見込みである.

◆NCDでの肝胆膵外科高難度手術の術式選択には注意が必要で,NCDサイト内の[CRF,マニュアル]にある「NCD術式と高難度手術術式の対応表」を適宜参照されたい.

心臓血管外科

著者: 本村昇

ページ範囲:P.780 - P.783

【ポイント】

◆医療の質向上を目的に開始された日本心臓血管外科手術データベース(JCVSD)が成長し,専門医制度にリンクしたNCDとして発展した.

◆JCVSDではすでにリスクモデルが完成し,JapanSCORE(リスク計算式),施設別サマリーといった機能が備わっている.

◆JCVSDの機能を損なうことなくNCDや専門医制度とリンクしていくことが重要である.

呼吸器外科

著者: 奥村明之進 ,   池田徳彦

ページ範囲:P.784 - P.787

【ポイント】

◆呼吸器外科領域におけるデータベース事業には,全国肺癌登録事業と肺移植レジストリーがあり,日本の呼吸器外科診療の実績を国内外に発信している.

◆呼吸器外科手術のNCD登録は,現在は共通部分の基本的統計調査のみ参加しているが,今後,呼吸器外科専門医制度の認定・更新にNCDの症例登録を利用する方向で検討されている.

◆NCD登録により,肺癌登録事業の進歩,他疾患のデータベースの確立,臨床研究への応用など,呼吸器外科領域の発展につながる制度確立を期待したい.

乳腺外科

著者: 徳田裕

ページ範囲:P.788 - P.791

【ポイント】

◆日本乳癌学会は正会員の約80%が外科,約20%が外科以外の臨床医学系,基礎医学系の会員より構成される.

◆1975年より開始された乳癌登録は,2003年までに188,265症例が登録され,2004年からの総登録症例数は162,963例である.

◆NCD登録に参加することで,わが国における真の乳癌罹患数に近づくことが期待される.

◆Quality indicatorの選択により,手術だけでなく診断,薬物療法などの評価も可能である.

小児外科

著者: 前田貢作

ページ範囲:P.792 - P.795

【ポイント】

◆小児外科領域でのNCD運用の現況はその登録率の高さから,きわめて良好であると考えられる.

◆当初より専門医制度への有機的な活用をめざし,会員の利便性と症例登録のしやすさを目的に種々の試みを行ってきた.

◆専門医制度のみならずデータベースを利活用した,医療の質を高めるための幅広い臨床研究への展開を模索している.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・1【新連載】

虫垂炎の保存的治療―虫垂炎は抗菌薬で治るか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.796 - P.799

 こんにちは.私は以前,本誌で「外科の常識・非常識―人に聞けない素朴な疑問」という連載企画(59巻4号~63巻2号)を担当しましたが,このたび,編集室のご厚意で新しい企画を担当し,全国の皆さんに再びお目にかかる機会をいただきました.

 今回の企画は,①セミナー室で4~5人の研修医にミニレクチャーを行い,②知っておくと診療に役立つホットな話題を取り上げ,③医学雑誌に掲載されている論文のデータや知見を紹介して解説する,というものです.「虫垂炎の保存的治療」「鼠径ヘルニアの放置」「Will Rogers現象」など30の話題を用意しており,2~3年の連載を計画しています.取り上げて欲しい話題やテーマがあれば検討しますので,編集室にご連絡ください.

 「気になるテーマをわかりやすく」をモットーに,楽しみながら取り組みます.一人でも多くの研修医やレジデントに読んでもらえたら嬉しいです.ご愛読のほど,どうぞよろしくお願いします.

Expertに学ぶ画像診断・15

乳管内視鏡

著者: 神尾孝子 ,   亀岡信悟

ページ範囲:P.800 - P.806

はじめに

 乳管内の微細な増殖性変化をターゲットにした乳管内視鏡は,異常乳頭分泌を唯一の症状とする非触知乳癌や乳管内乳頭腫の診断には欠くことのできない有用な検査法である(図1)1~5).とりわけ乳癌においては非浸潤癌の占める割合が高く6),その診断的意義はきわめて大きい.

 本稿では,乳管内視鏡による観察法のコツと生検法について述べるとともに,乳管内視鏡で得られる様々な画像所見を呈示し,良・悪性腫瘍鑑別のポイントについて紹介する.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑯

“SAGES 2012”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.808 - P.810

「来た,見た,勝った」

  これシーザーの名言なり

「行った,見た,良かった」

  これ個人的な感想なり

外科専門医予備試験 想定問題集・6

小児外科

著者: 加納宣康 ,   松田諭 ,   本多通孝

ページ範囲:P.812 - P.818

出題のねらい

 小児外科領域の専門的な疾患を診療する機会は少ないのではないでしょうか.しかしながら試験では一般的な疾患に関する問題は少なく,見慣れない画像なども出題されます.受験者の間で格差が生じやすい分野かもしれません.全体の1割程度の問題配分がありますので,やはり一通り教科書の知識を復習しておく必要がありそうです.

病院めぐり

潤和会記念病院外科

著者: 岩村威志

ページ範囲:P.819 - P.819

 当院は宮崎市の大淀川沿いに位置しており,15診療科を擁する市北西部の中核病院です.1947年に整形外科医であった大野英男初代理事長が大野病院として延岡市に開設し,1964年に現在地に移転しました.1973年に財団法人となり,1982年にはリハビリテーション学院を併設し,1983年には脳神経外科を開設して,整形外科と脳血管疾患のリハビリテーションを主に発展を続けてきました.以上の経緯からベッドが容易に離合できる広い廊下があり,また病室も広いため患者さんに喜ばれています.

 2001年に吉山が入職して消化器科,2002年に谷口が入職して外科を新設し,2004年の病院の増改築完成とともに筆者が宮崎大学医学部第1外科助教授を辞して入職し,外科が本格稼働しました.2005年には台風14号による大水害で病院の1階部分がすべて大人の背丈ほど水没し,CTやMRIなどの高額医療機械が全滅してしまいましたが,職員が一致団結して1か月後には力強く立ち直りました.

日本海総合病院外科

著者: 陳正浩

ページ範囲:P.820 - P.820

 当院は山形県庄内地方の酒田市にあります.秋田県と山形県にまたがる鳥海山を北に臨み,山形県内陸とは「雪の峰 いくつ崩れて 月の山」と詠まれた月山で境され,「五月雨を 集めて早し 最上川」が庄内平野を貫流し,病院のすぐ近くを通って日本海に注いでいます.自然に恵まれ,美味しい庄内米やそのお米を食べて育った三元豚や,鳥海山の伏流水に鍛えられた岩牡蠣,日本海近海の鮮魚などが食通の舌を唸らせます.

 旧来,酒田市には市立酒田病院と県立日本海病院がありましたが,自治体病院のあり方が議論された結果,両者を統合・合併することとなり,平成20年4月に山形県と酒田市が共同出資する地方独立行政法人として当院は開院しました.現在,3次救急救命センターを新設した25科,646床の病院であり,約100名の医師と20名の初期研修医が診療にあたっています.

臨床研究

大腸癌術前点墨後に黒染されたリンパ節の臨床的意義の検討

著者: 瀬尾智 ,   有光竜樹 ,   濱口雄平 ,   馬場園豊 ,   尾池文隆 ,   光吉明

ページ範囲:P.821 - P.824

要旨

大腸癌術前点墨後に黒染されたリンパ節の臨床的意義を検討したので報告する.2010年3月~2011年2月の1年間に腹腔鏡補助下大腸切除術を施行した大腸癌22例を対象とした.術前点墨は,手術前日に下部消化管内視鏡検査を行い,墨汁を腫瘍部前壁に0.1mlを注入し終了した.郭清度はD2:5例,D2(prxD3):2例,D3:15例で,術後肉眼的にリンパ節全体が黒染されているものを黒染リンパ節と定義した.郭清された所属リンパ節の総数は517個で,黒染リンパ節は183個であった.組織学的な転移は19個に認めたが黒染リンパ節に転移は認めなかった.リンパ節の術前点墨による染色は,術中のリンパ節転移診断の一助になると思われた.

臨床報告

上腸間膜動脈解離に腹腔動脈解離が合併した1例

著者: 田中達也 ,   桑原義之 ,   木村昌弘 ,   三井章 ,   石黒秀行 ,   竹山廣光

ページ範囲:P.825 - P.828

要旨

症例は34歳,男性で,突然の腹痛を主訴に近医を受診した.腹部造影CTで上腸間膜動脈と腹腔動脈の解離が認められたため当院に紹介された.腹部造影CTで上腸間膜動脈起始部と腹腔動脈根部に解離を認めたが,症状が軽度であったため保存的加療を行った.受診から6日後のCTで上腸間膜動脈の狭窄が強くなったことから,同日上腸間膜動脈にステントを留置した.ステント留置術後に抗血小板薬,抗凝固薬の内服を開始し,症状は軽快した.上腸間膜動脈解離は稀な疾患であり,腹腔動脈の解離を伴うものはさらに稀である.保存的治療や手術治療を行った報告が多いが,近年,血管内治療の報告も出てきており,文献的考察を加えて報告する.

初回手術後24年経過して肝切除を施行した顎下腺原発腺様囊胞癌肝転移の1例

著者: 大山健一 ,   飯島信 ,   武田雄一郎 ,   小松正代 ,   新田浩幸 ,   若林剛

ページ範囲:P.829 - P.832

要旨

症例は59歳,女性.1985年,右顎下腺原発腺様囊胞癌の診断で手術が施行され,その後1995年に左腎臓腫瘍にて左腎摘出術,2003年に胸壁腫瘍にて胸骨肋骨部分切除術が施行された.それぞれ腺様囊胞癌の転移と診断されていた.2007年10月の腹部CT検査で肝S6に腫瘍を認め転移を疑ったが,4度目の手術であるため手術を拒否し経過観察されていた.その後2009年6月に施行した腹部CT検査で増大傾向を認めたため手術に同意し,2009年8月に肝右葉切除術を施行,病理検査で腺様囊胞癌肝転移と診断された.唾液腺原発腺様囊胞癌の肝転移は稀であり,さらに本症例のように初回術後長期経過し肝切除を施行した症例はきわめて稀と考えられたので,文献的考察を加え報告する.

腹部手術後の周術期に発生した感染性肝囊胞の1例

著者: 片岡雅章 ,   吉岡茂 ,   若月一雄 ,   外岡亨 ,   宮澤康太郎 ,   太枝良夫

ページ範囲:P.833 - P.836

要旨

症例は80歳,男性.胆石症と総胆管結石症の診断で内視鏡的乳頭部切開術と総胆管結石除去術を行い,25日後に腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.術後3日目に心窩部痛と発熱をきたし,MRCPで遺残総胆管結石を認めたため,内視鏡的総胆管結石除去術を施行した.その後も38℃の発熱が続き,術後8日目に施行した腹部超音波とCTで,術前から指摘されていた肝囊胞の感染合併と判明し,経皮経肝囊胞ドレナージを施行した.ドレナージ後は症状は速やかに改善し,術後23日目に退院となった.感染性肝囊胞は比較的稀であるが,肝囊胞をもつ症例では術後周術期の発熱の原因として,肝囊胞の感染合併があることを知っておくことが早期診断に大切と考えられた.

遺残結紮糸が原因と考えられた腹腔内炎症性肉芽腫の1例

著者: 唐澤幸彦 ,   岡本佳樹 ,   寺本淳 ,   因藤春秋 ,   前場隆志

ページ範囲:P.837 - P.840

要旨

症例は43歳,男性.約3年前に膵悪性内分泌腫瘍のため膵体尾部脾切除,胃後壁・結腸部分切除の既往があった.38℃以上の発熱と左上腹部痛,背部痛を主訴に入院した.CTでenhanceされる充実性部分とlow densityを示すcysticな部分の混在した径6cm大の腫瘤を認め,手術を施行した.Treitz靱帯付近で腫瘤と空腸,腸間膜が一塊となっており,同部を含め約50cmの空腸を切除した.病理検査ではabscessと肉芽形成を認め,内部に絹糸と思われる線維が確認された.腹腔内に生ずる肉芽腫はガーゼオーマや魚骨による報告が散見されるが,本例は結紮糸が原因となった稀な症例と考えられたので報告する.

術後10年目に生じた乳癌腹膜播種再発による結腸閉塞の1例

著者: 田上修司 ,   清水一起 ,   小林ゆかり ,   村田一平 ,   野口芳一

ページ範囲:P.841 - P.846

要旨

症例は49歳,女性.10年前に左乳癌に対し腋窩リンパ節郭清を伴う胸筋温存乳房切除術を実施した.その後,多発骨転移・肝転移に対しホルモン療法を実施中であったが,2010年4月頃より腹部膨満と腹痛を認め,精査目的にて入院となった.腹部造影CTにて横行結腸脾彎曲部に狭窄を認め,大腸癌もしくは乳癌の腹腔内転移の診断にて手術を実施した.多量の漿液性腹水の貯留を認め,腹壁・大網に播種状に拡がる多数の結節を認めた.狭窄部位にも同様の結節性病変を認め,横行結腸で双孔式の人工肛門を造設した.腹膜上の結節を病理学的・免疫学的に検索し,乳癌の再発と最終診断した.乳癌の腹膜播種再発は稀であり,若干の文献学的考察を加えて報告する.

横隔膜脂肪肉腫の1切除例

著者: 浅沼晃三 ,   栗原唯生 ,   重吉到 ,   井合哲 ,   市川辰夫 ,   石津英喜

ページ範囲:P.847 - P.851

要旨

患者は52歳,男性.発熱と全身倦怠感で当院を受診した.解熱剤などの内服で経過観察したが改善せず,精査を施行したところ,CTで右肺から肝臓にかけて腫瘤を認めた.画像診断と穿刺生検で横隔膜周囲の肉腫と診断され,手術目的に外科へ転科した.右開胸開腹下に右肺下葉部分切除,横隔膜部分切除,肝部分切除を施行した.摘出標本では横隔膜中心に12×6×6cmの腫瘤を認め,術後病理所見から脱分化型脂肪肉腫と診断された.本症例は術後に右後腹膜,左傍腰椎,左骨盤内へと再発を繰り返し,そのつど摘出術と補助化学療法を行ったが,初診から約7年後に腹膜再発で永眠した.横隔膜脂肪肉腫はきわめて稀な症例である.

1200字通信・40

努力と資格―私の場合

著者: 板野聡

ページ範囲:P.779 - P.779

 前回(第39回,67巻5号),最近の専門医制度の動きについて書かせていただきましたが,今回は,私にとっての「専門医」について書いてみたいと思います.

 今から30数年前の昭和50年代後半頃から各学会が認定医制度を始めたことはご存じのとおりです.認定医制度ができた当初,外科医としても消化器内視鏡医としても未熟ではありましたが,自分への投資と考えて,勇んで学会へ参加したものでした.そこでは,学会の重鎮から,単に技術的なレベルの確保だけではなく,いずれはアメリカのように資格に対する経済的な裏付けも得ていく予定であることが熱く語られたことをよく覚えています.

ひとやすみ・86

断捨離

著者: 中川国利

ページ範囲:P.791 - P.791

 日本は世界に誇る長寿国であり,男性の平均寿命は79歳である.しかし,亡くなる前の7年間は自立できずに他人の世話を受けて生活している.したがって,還暦を迎えた私には,自由に動き回れる期間は残すところ約10年しかない.さらに同級生の突然の死や重篤な罹患を聞くにつけ,最近は身辺整理の必要性を強く感じている.

 私の父親は転勤に伴い,実家に祖父母の遺品を含め多くの物を残したまま転居を重ねた.そして,退職後に故郷の地へ帰ることとなった.新たな家を作るにあたり,古い家を取り壊す必要があった.しかし,家には祖父が遺した膨大な書物,家具,そして収集した骨董品が保管されていた.父親は,祖父が17歳から72歳の死ぬ直前まで毎日書き記した日記と家族の写真を除き,これらすべての処分を業者に依頼した.また,私的な記録や書類は畑で焼却処分した.私も手伝ったが,父親は見ることもなくただ黙々と燃やし続けた.

お知らせ

公益財団法人かなえ医薬振興財団 平成24年度アジア・オセアニア交流研究助成金募集要項

ページ範囲:P.795 - P.795

趣 旨:近年の生命科学分野において研究者間の交流,ネットワーク,および共同研究が急速な発展に寄与しており,これらの交流は革新的な発見から臨床応用まで少なからぬ貢献ができると考え,アジア・オセアニア地域における共同研究に対する助成を行います.

助成研究テーマ:生命科学分野におけるアジア・オセアニア諸国との交流による学際的研究.特に老年医学,再生医学,感染症,疫学,医療機器,漢方,そのほか.

書評

竜 崇正(編著)「肝臓の外科解剖 門脈segmentationに基づく新たな肝区域の考え方(第2版)」

著者: 山本雅一

ページ範囲:P.807 - P.807

 『肝臓の外科解剖―門脈segmentationに基づく新たな肝区域の考え方(第2版)』が発刊された.初版より7年が経過したが,その内容の充実ぶりには目を見張るものがある.

 初版の序には,肝区域の考え方の変遷が記載されている.肝区域はこれまでさまざまな分類がなされているが,どれも不十分なものであった.特に「肝癌取扱い規約」の区域・亜区域分類は,実は解剖学的門脈分岐に沿ったものではなく,このため多くの誤解が生じた.また,著者らが主張しているように,肝内門脈分岐は決してCouinaud区域分類と一致していない.実際の門脈分岐形態に沿った新しい区域分類が提唱されるのは,3D画像の進歩を見ると当然なことと考えられる.

勤務医コラム・37

すさまじきもの

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.811 - P.811

 すさまじきもの,昼ほゆる犬,春の網代(あじろ).①保険査定の山.医療費抑制を旨として,けっこう真面目にやっている割にはよく引かれるなあ.あ~今月もたくさん引かれちゃった.再審請求どう書きゃいいの? ②なんやかやでたまりにたまった修了証やら認定証やらの紙.えーとこいつの更新が今年で,あれの更新が来年で…….も~知らん.③よく名前を考えついたネと感心するほど多岐にわたる院内委員会の数々.使われる紙の量が多い.日本の山から木がなくならねばよいが….④院内感染対策委員会が済んで外来を通りかかったとき,ゲホゲホ咳をしている患者さんがいるのにマスクも渡さず次の委員会へ急ぐ師長.忙しいんだネ.⑤物理現象としての疾患についてコメントするだけのセカンドオピニオン.その疾患を抱えた患者さんの全人格を長期にわたって受けとめられるか否かが問題点なのに.

 外来でこの原稿を書いていたら,若いナースが通りかかって,「すさまじ」の話になった.「平安時代はネ,今とは違った意味でネ…」と講釈を始めたら,「先生,後ろ髪がはねてすさまじいことになってますョ」と,ケラケラ笑われた.清少納言もびっくり.いちばんすさまじいのは私でした.

昨日の患者

手作り結婚式

著者: 中川国利

ページ範囲:P.846 - P.846

 病室は基本的には治療を行う場所であるが,入院患者さんにとっては日常の生活空間でもある.さらに,病室を離れることができない患者さんにとっては,病室はかけがえのない場所であり,楽しみや苦しみをも享受する場所である.

 60歳代後半のMさんが黄疸を主訴に来院した.精査を行ったところ多発性肝転移を伴った膵臓癌であり,根治的治療は不可能であった.そこで,総胆管の閉塞部位に内視鏡的にステントを留置した.そして従来の生活に戻ったが,数か月ほどで腹痛が生じ食欲が低下した.自宅での療養が困難となり,年の瀬も押し迫った12月中旬に再入院した.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.745 - P.745

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.759 - P.759

次号予告

ページ範囲:P.828 - P.828

投稿規定

ページ範囲:P.852 - P.853

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.854 - P.854

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.855 - P.855

あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.856 - P.856

 半年以上前のことになるが,昨年11月に群馬大学前学長・鈴木 守先生のご案内で温泉へ向かう道中,「リンゴ園」でリンゴを直接もいで食べる機会に恵まれた.九州生まれ,九州育ちの私にとっては初の体験であり,この上ない喜びを感じた.リンゴを一口齧ったら,その味の見事さに感激しつつ,その直前に逝去されたスティーブ・ジョブズ氏が設立した「アップル社」の,一口齧られたリンゴのマークを思い出し,私自身リンゴを齧りながらいろいろなことに想いを馳せた.

 その1:昨年3月にわが国を襲った東日本大震災の被害者の方々と被災地に思いを置きつつ,そのためにできることを可能な限り実践することはもとより,われわれが行うべきことは,原点に立ち帰って外科医としてその使命を果たすことであろうとの確認をあらたにした.以前にも小欄で書いたが,詩人ゲオルグの「明日,世界が滅びるとしても,今日あなたはリンゴの木を植える」(傍点筆者,以下同様)という言葉が蘇ってきた(これはマルチン・ルターの言葉という説もある).

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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バックナンバー

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78巻12号(2023年11月発行)

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特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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