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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科67巻7号

2012年07月発行

雑誌目次

特集 分子標的薬の有害事象とその対策

ページ範囲:P.861 - P.861

 近年の癌治療における薬物療法の効果の向上は非常に著しいものがある.特に最近では,抗癌薬に分子標的薬を併用したり,あるいは分子標的薬を単独投与したりするなど,分子標的薬を投与する機会が増えてきている.

 本特集は分子標的薬の有害事象に的を絞り,その臓器障害別にその症状と,その対策(予防と治療)について理解を深めてもらえるように企画した.有害事象に対する支持療法の効果によって本来の抗癌治療がより長く続けられるということになり,予後にも大きく貢献できるものと思われる.

分子標的薬の副作用のトピックス,展望

著者: 森隆弘 ,   石岡千加史

ページ範囲:P.862 - P.868

【ポイント】

◆分子標的薬の毒性(副作用)プロファイルは殺細胞性抗がん薬とは異なる.

◆副作用回避や費用対効果改善のためにもバイオマーカーによるテーラーメード医療が必要である.

分子標的薬による皮膚障害とその対策

著者: 清原祥夫

ページ範囲:P.869 - P.877

【ポイント】

◆分子標的薬の皮膚障害には主に手足症候群(HFS),ざ瘡様皮疹(rash),皮膚乾燥症,爪囲炎などがある.

◆対策は,外用剤(ステロイド軟膏と保湿剤)と内服〔NSAID,ミノサイクリン(MINO)やプレドニゾロン(PSL),抗アレルギー薬〕を早期段階から比較的強めのもので積極的に行う.

◆スキンケアは保湿,保清(清潔),保護(刺激回避)が基本であり,これを励行するには多職種チーム医療が必須である.

分子標的薬による血液毒性とその対策

著者: 照井康仁

ページ範囲:P.878 - P.881

【ポイント】

◆造血細胞の増殖と分化には種々のチロシンキナーゼが重要な役割を果たしている.

◆マルチチロシンキナーゼ阻害剤のように,標的分子が多いほど血液毒性が出やすい傾向にある.

◆抗がん剤による骨髄抑制は,程度の強弱はあるにしても一部の抗癌剤を除いて共通する有害事象である.

分子標的薬による消化器毒性とその対策

著者: 大木暁 ,   山口研成

ページ範囲:P.882 - P.888

【ポイント】

◆分子標的薬の投与開始前に,全身状態評価,併用禁忌薬,薬剤相互作用などの情報を最新の添付文書で確認する必要がある.

◆多種多様な毒性プロファイルがあるため,慎重なモニタリングを行うことが肝要である.

◆有害事象のマネージメントが治療効果を維持するために不可欠である.

分子標的薬による心毒性・循環障害

著者: 藤井博文

ページ範囲:P.890 - P.896

【ポイント】

◆分子標的薬には循環器系の毒性を持つものがあるため,循環器系の合併症を持つがん患者,特に高齢者への投与には注意が必要である.

◆分子標的薬における心毒性は一過性であることが多いが,長期的な毒性の評価は現在進行中であり,今後,注意深い観察が重要である.

◆がん治療に循環器専門医の関与が必要な状況になっていることを認識してもらい,連携を強固なものにしていく必要がある.

分子標的薬による肺毒性とその対策

著者: 齋藤好信 ,   弦間昭彦

ページ範囲:P.897 - P.901

【ポイント】

◆薬剤による肺毒性の主たる病型は間質性肺炎であり,重篤となりやすいため,つねに念頭に置いておく必要がある.

◆薬剤性間質性肺炎の診断は鑑別診断に基づく.マネージメントも含めて呼吸器内科医との連携が重要である.

◆癌化学療法の前には間質性肺炎の副作用を説明し,症状が出現した場合に受診が遅れないよう指導する.

分子標的薬による神経毒性とその対策

著者: 相羽惠介 ,   高原忍 ,   小林和真

ページ範囲:P.902 - P.906

【ポイント】

◆従来のcytotoxic dgentでは種々の有害事象を伴う.一方,分子標的薬では,その標的分子に特異的な反応系あるいはクロストーク的な範囲に作用が波及して有害事象が発現する.有害事象の発生機序はいまだ不明なことが多い.

◆分子標的薬の神経障害は,末梢神経障害が主体であるが,稀に重篤な中枢神経障害があるため,注意深い観察が必要である.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑰

“SAGES 2012 part 2”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.908 - P.911

「来た,見た,勝った」

  これシーザーの名言なり

「また,見た,ズビズバった」

  これ読者の感想なり

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・2

鼠径ヘルニアの経過観察―無症状のヘルニアに手術は必要か

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.912 - P.915

素朴な疑問

 鼠径ヘルニア(以下,ヘルニア)は「あれば手術適応」であり,『標準外科学』(第12版,医学書院)には「根治治療として外科治療を行う」と書かれている.ところが,ヘルニアがあっても放置している人は多く,嵌頓や絞扼を起こして緊急手術になる頻度は意外と低い.無症状のヘルニアに手術を勧めるべきであろうか.

外科専門医予備試験 想定問題集・7

外科学総論・麻酔・救急

著者: 加納宣康 ,   杉本卓哉 ,   本多通孝

ページ範囲:P.916 - P.920

出題のねらい

 外科学総論的な問題は毎年3~4題出題されています.肺血栓塞栓症の予防や消毒滅菌などの感染対策,創傷治癒に関する基礎知識など,日々の診療における幅広い内容が出題されています.また,麻酔・救急の問題は全体の1割を占めます.こちらも初期臨床研修を受けていれば十分に対応できると思いますが,3次救急の経験が少ない方は,直前に国家試験用の問題集などに目を通しておくとより良いでしょう.

病院めぐり

富士吉田市立病院外科

著者: 本田勇二

ページ範囲:P.922 - P.922

 富士吉田市は山梨県の南東部で富士山の北麓に位置する,人口51,588人(平成23年現在)の街です.富士山をごく間近に見ることができ,周辺には富士五湖があり,自然豊かで風光明媚な景色が数多く存在します.標高が652~850mに存在しているため,夏には避暑地としても知られ,数多くの別荘が建てられています.また,日本三奇祭の一つである「吉田の火祭り」をはじめ,さまざまな歴史的な行事も多く行なわれ,国内のみならず海外からも,多くの観光客が訪れる国際観光都市です.最近では富士山を中心とした世界文化遺産登録が話題となっています.

 当院は昭和26年3月の市制施行時に下吉田町立病院から改称し,昭和42年建設の旧市立病院を経て,平成13年5月に富士吉田市の南東の現地に新築・移転しました.病棟は免震構造鉄筋コンクリート造りによる地上5階,地下1階で,病床数は一般病床250床,療養病床50床,感染症病床4床の計304床です.19の診療科と,緩和ケア外来や頭痛外来などの専門外来,ヘリポート,集中治療室,血液浄化センター,内視鏡センター,各種高度医療機器を有する病院で,富士北麓地域の基幹病院,大規模災害時の地域災害拠点病院,救急告示病院,地域周産期母子センター,エイズ治療拠点病院,さらに平成19年1月には国から地域がん診療連携拠点病院に指定されました.また,DPCと7:1看護基準の導入を行いました.

健和会大手町病院外科

著者: 松山晋平

ページ範囲:P.923 - P.923

 平成23年に九州新幹線が博多から鹿児島まで開通しました.当院が所在する北九州市小倉は,山陽新幹線が関門海峡を渡って最初の駅になります.当院は一般病床350床,慢性期病床108床,回復期リハビリ病床108床の総合病院です.当市の北東部地域の中核病院として特に救急医療に力を入れており,市内で救急車搬送件数が最も多い病院です.また,臨床研修指定病院,開放型病院,災害拠点病院,救急医療告示病院の施設認定を受けています.

 外科関連の施設認定は,日本外科学会専門医制度修練施設,日本消化器外科学会専門医修練施設,日本救急医学会救急科専門医指定施設,日本がん治療認定医機構認定研修施設を受けています.外科のスタッフは外科学会指導医1名と専門医5名,研修医2名の構成で,標準的治療を地域の患者さんに提供することをモットーに日々研鑚しています.

臨床研究

超音波ガイド下埋設型鎖骨下刺入中心静脈ポート造設の検討

著者: 青柳智義 ,   徳嶺譲芳 ,   大網毅彦 ,   松村洋輔 ,   山本義一 ,   松原久裕

ページ範囲:P.925 - P.928

要旨

【目的】安全な中心静脈穿刺のため超音波の使用が推奨されている.化学療法の埋設型鎖骨下刺入中心静脈ポート留置における超音波ガイド下穿刺の有用性・安全性をランドマーク法と比較検討した.【方法】当院で施行した埋設型鎖骨下刺入中心静脈ポート造設の64症例を超音波ガイド法43例とランドマーク法21例に分け,成功率と穿刺時機械的合併症の有無について後ろ向きに検討した.【結果】留置成功率は,超音波ガイド法100%,ランドマーク法86%であった.超音波ガイド法では合併症は生じなかった.一方,ランドマーク法は2例で動脈誤穿刺を起こした.【結論】超音波ガイドによる埋設型鎖骨下刺入中心静脈ポートは従来のランドマーク法以上に有用な可能性がある.

臨床報告

急性膵炎を契機として発見された乳癌膵転移の1例

著者: 高他大輔 ,   山田達也 ,   坂元一郎 ,   大木孝 ,   星野崇 ,   竹吉泉

ページ範囲:P.929 - P.934

要旨

患者は44歳,女性.41歳時に左乳癌に対して乳腺部分切除および腋窩リンパ節郭清を行った〔Invasive ductal carcinoma,ER(-),PgR(-),HER2 negative〕.骨転移,肺転移後の術後3年7か月目に心窩部痛を認めた.精査の結果,膵頭部腫瘤に伴う急性膵炎と診断した.内視鏡的胆道ドレナージチューブと膵管チューブの挿入によって経過観察していたが,Vater乳頭部に発赤を認め,同部の生検から乳癌の膵転移と診断した.FEC(5-FU,塩酸エピルビシン,シクロホスファミド)療法を6コース行い,腫瘤の縮小とともに症状の改善を得た.乳癌の膵臓転移は非常に稀であり,原発性膵癌との鑑別が難しい場合が多い.鑑別には免疫組織学的染色が有効であり,QOLを考慮した治療が望まれる.

腹腔鏡下に治療を行った遅発性小腸狭窄の1例

著者: 小南裕明 ,   川崎健太郎 ,   田中賢一 ,   仁和浩貴 ,   荻野和功 ,   富永正寛

ページ範囲:P.935 - P.938

要旨

患者は19歳,男性.交通事故で腹部を打撲した翌日の夕食時に上腹部痛を自覚し,受傷後7日目に当院を受診した.嘔吐はなく,排便は1日1回,普通便がみられたが,腹部単純X線でニボー像が確認できたため,原因不明の小腸イレウスとして保存的治療を開始した.絶食状態では無症状であったが,食事開始で腹痛,腹部膨満が惹起されたため小腸透視を行ったところ,Treitz靱帯と回盲部のほぼ中間部で全周性の狭窄が疑われた.臨床経過から遅発性小腸狭窄を疑い,受傷後22日目に腹腔鏡下に手術を行って小腸部分切除を施行した.病理所見で狭窄部腸管壁に線維組織の増生が認められたことから,鈍的外傷後の遅発性小腸狭窄と考えられた.

コカ・コーラによる溶解療法中に嵌頓による小腸イレウスを起こした柿胃石の1例

著者: 柴田孝弥 ,   三井敬盛 ,   全並秀司 ,   柄松章司 ,   杉浦博士 ,   西田勉

ページ範囲:P.939 - P.944

要旨

患者は83歳,男性.腹痛と嘔吐のため入院した.精査で胃石の嵌頓による小腸イレウスと診断し,コカ・コーラによる溶解療法を試みた.胃石の分解がみられたがイレウスは改善せず,腹膜炎所見が出現したため緊急手術を施行した.落下した胃石が小腸に嵌頓しており,小腸を切除した.切除腸管は潰瘍と虚血性壊死を認めた.コーラによる胃石溶解療法は簡便で有効な治療法であるが,嵌頓胃石によるイレウスでは腸壁の循環障害が生じている可能性があるため,つねに緊急手術の可能性を念頭に置くことと,コーラによる溶解療法の適応は慎重に判断することが重要と考えられた.

食道癌手術後に発症した後天性血友病の1例

著者: 坂本渉 ,   浦住幸治郎 ,   岡本正俊 ,   中山浩一 ,   渡辺洋平 ,   鈴志野聖子 ,   竹之下誠一

ページ範囲:P.945 - P.949

要旨

後天性血友病は成人に突然発症する疾患で,第Ⅷ因子に対する自己抗体が産生され重篤な出血傾向が出現する稀な疾患であり,悪性疾患などに合併する.患者は65歳,女性で,食道癌根治術後の約1か月目に筋肉痛と広範な皮下出血,血尿で発症した.APTTが65.9秒と著明な延長を認め,正常血漿との混合試験で上に凸のパターンを示したため,ステロイドパルス療法と,新鮮凍結血漿による凝固因子補充療法を開始した.のちに第Ⅷ因子活性低下,第Ⅷ因子インヒビターの存在が明らかとなり,後天性血友病と診断した.経過は良好で,ステロイドからの離脱が可能であった.悪性疾患術後の原因不明の出血傾向の原因として本疾患を鑑別に挙げることが必要である.

サンゴ状腎結石に伴う腎盂腎炎から脾膿瘍を発症した1例

著者: 西野豪志 ,   片山和久 ,   高橋裕兒 ,   田中隆

ページ範囲:P.951 - P.954

要旨

症例は,両側サンゴ状腎結石に伴う慢性腎不全を基礎疾患としてもつ77歳の女性で,高熱,嘔吐を主訴に当院を受診した.血液検査で,高度の炎症と腎機能障害を認めた.また,尿検査で尿路感染を認め,尿培養で大腸菌を検出した.CT検査で,脾内に70mm大の膿瘍形成を認め,両側サンゴ状腎結石と左腎盂腎炎の所見も認めた.そのほかに明らかな感染巣は認めなかった.脾膿瘍と診断し,抗菌薬投与を行ったが解熱が得られず,脾摘術を施行した.術後,呼吸不全や廃用症候群により長期入院を要したが,軽快退院した.サンゴ状腎結石は感染結石であることが多く,腎盂腎炎から脾膿瘍をきたす原因疾患となりうることが示唆された.

急性腹症にて発症した腹膜原発漿液性乳頭状腺癌の1例

著者: 坂下克也 ,   寺岡均 ,   渋谷雅常 ,   豊川貴弘 ,   金原功

ページ範囲:P.955 - P.958

要旨

腹膜原発漿液性乳頭状腺癌は原発不明の癌性腹膜炎で発見され,診断に苦慮することが多い.今回,急性腹症で発症し,外科的対応に迫られた1例を経験した.症例は88歳,女性.発熱および左側腹部痛にて当院へ紹介された.腹部CT検査で骨盤内に13×7cm大の腫瘤を認めた.著明な炎症所見を伴い,S状結腸腸間膜内穿通による腹腔内膿瘍を疑い,緊急手術を施行した.腫瘤は弾性硬で被膜を有し,S状結腸から直腸Rsにかけての大腸と一塊となっていた.両側卵巣に異常を認めなかった.直腸・S状結腸を含めて腫瘍を摘出し,人工肛門を造設した.病理組織検査で腹膜原発漿液性乳頭状腺癌と診断された.現在まで9か月が経過するが,再発を認めていない.

学会告知板

第17回日本病態プロテアーゼ学会学術集会

ページ範囲:P.881 - P.881

学術集会長:今野弘之(浜松医科大学外科学第二講座教授)

会 期:2012年8月10日(金),11日(土)

会 場:オークラアクトシティホテル浜松(静岡県浜松市)

勤務医コラム・38

冬の糖尿

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.907 - P.907

 21年間大きな病院にいて,外科疾患の物理的解決のみにいそしんだあと,ここ8年間は小さな病院にいて世間の風に吹かれ,「世の中は理屈どおりにはいかぬ厄介な事が多い」という,あたり前のことを実感しています.具体的には,消化器外科医である私が,なんで糖尿やらCOPDやら心不全やら精神疾患やらといった,専門外の患者さんをずっと診ているのだろう,と不思議です.

 担当医と患者さんとの間には,専門がどうこうというような小さな因子を超えた,一種独特なる関係があって,それは他の人からは窺い知れないものだと思います.小さな病院に勤務して,外来での患者さんとのつき合いの中から教えてもらったことを挙げてみます.これまた当り前のことばかりですが,すべて実体験なので,若い先生方のお役に立つかもしれません.

ひとやすみ・87

他施設における手術

著者: 中川国利

ページ範囲:P.921 - P.921

 自分が働く病院で,いつものスタッフと行う手術は,お互いの気心が知れているため手術は順調に進行するものである.一方,他施設で行う手術は,互いの手術手技が異なるうえに使用する道具も異なるためやりづらい.いわんや,言葉が通じない外国での手術は過度の緊張を強いられ,普段の実力を発揮することは困難である.

 今から17年前に中華人民共和国は吉林省長春市の病院から,腹腔鏡下胆囊摘出術の技術指導を依頼されたことがある.私が執筆した論文をたまたま目にした副院長が興味を抱いて招聘してくれた.早速,当院の上司や院長の許可を得て,承諾の手紙を書いた.

1200字通信・41

七夕に想う

著者: 板野聡

ページ範囲:P.924 - P.924

 2011年3月の東日本大震災から1年4か月が経とうとしていますが,津波の被害だけではなく,原発事故による放射線被害は解決していません.津波による被害は物理的な被害を処理していくことで「復興」が見えてくるのでしょうが,放射線は目に見えないだけに,風評被害も含め,被害が広範かつ長期間に及び,時間とともに拡大している感さえあります.

 今回の災害では,直接被災していない私でさえ,学会の中止や開催地の変更と,なにかにつけて災害があったことを思い知らされたわけですが,直接被災された方々にとっては,生活だけではなしに人生観すら一変させられる経験であったろうと想像され,今なお被災地の映像や情報に接するたびに,事の重大さを再認識することになっています.

書評

ローレンス・ティアニー,松村正巳(著)「ティアニー先生の診断入門(第2版)」

著者: 佐藤泰吾

ページ範囲:P.950 - P.950

 私は2000~2004年の4年間に何度かティアニー先生とともに過ごす幸せに恵まれた.松村理司先生(現・洛和会音羽病院院長)が中心となって運営されていた,舞鶴市民病院での「大リーガー医」招聘プログラムでの経験だ.

 『ティアニー先生の診断入門 第2版』を読了した時,松村理司先生の声がよみがえってきた.「大リーガー医がホームランを打っているときに,何をボーっとしとるんや!」と,いら立ちとともに発せられた声である.

前川和彦,相川直樹(監修)/杉本 壽,堀 進悟,行岡哲男,山田至康,坂本哲也(編)「今日の救急治療指針(第2版)」

著者: 丸藤哲

ページ範囲:P.959 - P.959

 前川和彦・相川直樹監修,杉本壽ら編集の『今日の救急治療指針 第2版』が上梓されました.本書はわが国で久しく親しまれてきた,医学書院の『今日の治療指針』各科版の一つとして企画された救急医療分野の治療指針です.初版は1996年に出版されましたが,その後の十数年においてわが国の救急医療を取り巻く環境の変化は,激変の文字で表現することができるでしょう.卒後臨床研修の義務化に伴い初期臨床研修で必修化された救急医療の実践と,国民の医療への要求が変化し,救急診療という名の時間外診療患者の増加に,救急医療体制の整備が追いつかない実態が最近明瞭になってきました.この結果,救命救急センターあるいは救急科に所属する救急科専門医以外の一般内科・外科医師らが救急患者の診察を行わざるを得ない状況が常態化し,医師のみならず医療全体の疲弊を招いています.これらの変化を十分に認識し,その環境変化に対応可能な形で編集された本書は現在の救急医療の現場に必須の知識を提供しています.

 救急医療の第一線で活躍している執筆陣による救急に特化した治療指針である本書は,若手救急科医師のみならず救急初期診療を担当する研修医,一般内科・外科医師などが利用することを想定して編集されています.対象患者に常に不確実性が伴う救急初期診療では,治療を進めつつ症状・症候から鑑別すべき病態・疾患を挙げて診断を行う,治療と診断の同時進行を余儀なくされる場面を多く経験します.本書はこの特徴を理解し,最初に症状・兆候からのアプローチを掲げ,診断のついた疾患・病態の治療が詳述される心憎い編集方針です.さらに,救急初期診療で遭遇するほぼすべての病態・疾患を網羅し,その緊急度と重症度を重視して編集されているのみならず,初期対応,重症度の見分け方,入院判断基準など,まさに救急の現場ですぐに役立つ知識が満載されています.心肺停止症例に対する一次・二次救命救急処置は2010年に国際的に大幅な改訂が行われましたが,本書は処置内容を単純なアルゴリズムで示しつつすべての医療従事者が理解しやすい平易な文章で最新の救命処置を解説しています.また,迅速性が要求される救急初期診療では,救急医薬品の使用方法を速やかに調べる必要がありますが,付録として救急医薬品の適応,使用方法,作用・副作用・注意が見やすい一覧表として掲載されていることも特徴の一つでしょう.

昨日の患者

手術中の死亡

著者: 中川国利

ページ範囲:P.958 - P.958

 外科医として避けるべきことは多々あるが,手術中の死亡は絶対にあってはならないことである.しかしながら,長い外科医生活の間には,特に,経験豊かな外科医ほど術中死亡に臨むことがある.悔恨の念を込めて,私の経験例を紹介したいと思う.

 35年前にもなるが,私が初期研修していた病院では,頭から足までのすべての外科的疾患を対象に年間一千件を超える手術を施行していた.現在,私は主に消化器疾患の手術に携わっているが,当時は脳外科,整形外科,そして心臓外科も施行していた.したがって,人工心肺の操作を行うこともあった.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.868 - P.868

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.901 - P.901

投稿規定

ページ範囲:P.960 - P.961

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.962 - P.962

次号予告

ページ範囲:P.963 - P.963

あとがき

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.964 - P.964

 近年の分子標的薬の進歩は様々な疾患の治療に対して大きな影響を与えました.大腸疾患に関しても,悪性疾患,良性疾患ともに分子標的薬を導入した新たな診療体系の構築が必要となっています.良性疾患である炎症性腸疾患では,インフリキシマブの登場によってCrohn病の自然史まで変わる可能性が期待されています.これに伴って,外科治療のタイミングも以前とは異なった視点で判断する必要性も出てきています.また,潰瘍性大腸炎でもインフリキシマブの使用が可能になり,外科治療を回避する新たなオプションとしての可能性が期待されています.

 大腸癌の治療においては,以前は海外とのdrug lagが大きな問題となっていました.化学療法の効果が期待できなくなった時点で,効果が期待できる薬剤が海外では使用されているのに,わが国では使用することができない,というジレンマがありました.Drug lagが解消された現在,海外で使用できる薬剤がわが国でも使用できるようになり,切除不能再発大腸癌のfirst line治療においても多くの選択肢が可能となっています.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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