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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科67巻8号

2012年08月発行

雑誌目次

特集 知っておきたい放射線・粒子線治療

ページ範囲:P.969 - P.969

 癌に対する放射線治療は近年,急速に進歩している.放射線を様々な方向からミリ単位の精度で照射し,癌周辺の正常臓器や神経を避けることで,被曝による人体への有害事象を最小限に抑えられる高精度放射線治療装置(ノバリスTx)も導入されてきている.また,コンピュータの進歩により適切な照射モデルを作りやすくなり,効果的で副作用の少ない放射線照射がより簡便にできるようになってきており,その効果も期待されている.

 一方,いまだ医療保険には適用されていないが,近年大きく注目されている陽子や炭素の原子核による粒子線・重粒子線治療の現況はどうなのか,外科医にとっても興味ある分野である.本号では,これらの放射線治療や粒子線治療の現況と将来の展望について,外科医向けにわかりやすく解説していただいた.

頭頸部癌に対する放射線治療の現況と展望

著者: 古平毅

ページ範囲:P.970 - P.976

【ポイント】

◆亜部位,病期を考慮のうえ(化学)放射線治療により臓器・機能温存が可能でQOLの高い治療が行える.

◆咽頭癌の放射線治療では,強度変調放射線治療により唾液腺機能温存が可能であるので適応を考慮する.

◆画像診断の進歩,バイオマーカーの応用により治療の個別化が可能になり,適切な治療選択の参考情報になる.

乳癌に対する放射線治療の現況

著者: 山内智香子

ページ範囲:P.977 - P.985

【ポイント】

◆乳房温存術後の放射線療法は局所領域再発を低下させるだけでなく,浸潤癌においては乳癌死も低下させる.

◆乳房切除後放射線療法(PMRT)は腋窩リンパ節陽性例などの局所進行期例で,胸壁再発を軽減させるだけでなく,生存率を向上させることが示されている.

◆乳癌の骨転移や脳転移に対して放射線療法は症状の予防・緩和に有効で,QOLの維持や改善に重要な役割を果たしている.

肺癌に対する放射線治療の現況と展望

著者: 早川和重

ページ範囲:P.986 - P.991

【ポイント】

◆肺癌の根治的放射線療法には,切除不能非小細胞肺癌の胸部放射線治療(進行期は化学療法同時併用推奨),小細胞肺癌の胸部照射(+化学療法)と予防的全脳照射がある.

◆手術との境界領域にある局所進行癌に対する術前あるいは術後照射の意義は,胸壁浸潤型非小細胞肺癌を除くと明らかではない.

◆高精度放射線治療技術が進歩し,末梢型Ⅰ期非小細胞肺癌は標的病巣の体内移動に対応した体幹部定位放射線照射の適応である.

食道癌に対する放射線治療の現況と展望

著者: 西村恭昌

ページ範囲:P.992 - P.996

【ポイント】

◆切除不能局所進行食道癌に対しては同時化学放射線療法が標準治療となっている.

◆表在食道癌を含む切除可能例にも化学放射線療法が行われ,良好な治療成績が報告されている.

◆照射法の進歩では,3次元多門照射や強度変調放射線治療(IMRT)の有用性が報告されている.

直腸癌・肛門癌に対する放射線治療の現況と展望

著者: 唐澤克之

ページ範囲:P.998 - P.1002

【ポイント】

◆肛門の扁平上皮癌は化学放射線療法に感受性が高く,手術を検討する前に化学放射線療法を検討すべきである.

◆直腸癌・肛門癌ともに化学放射線療法による有害事象で懸念される臓器が小腸である.体位の工夫とともにIMRTの導入が望まれる.

◆局所進行直腸癌に対しては術前に化学放射線療法が行われる.1~3割のCaseでpCRが期待される.

膵癌に対する放射線治療の現況と展望

著者: 伊藤芳紀 ,   馬屋原博 ,   脇田明尚 ,   角美奈子 ,   師田まどか ,   村上直也 ,   吉尾浩太郎 ,   稲葉浩二 ,   高橋加奈 ,   関井修平 ,   原田堅 ,   北口真由香 ,   山岸健太郎 ,   伊丹純

ページ範囲:P.1004 - P.1010

【ポイント】

◆局所進行切除不能例に対し,新規抗癌剤併用化学放射線療法により治療成績が向上し,中長期的な生存も図ることができる.

◆放射線治療は,腫瘍に対する正確な照射と正常組織への線量低減を図るために,3次元治療計画を行うことが推奨される.

◆局所進行切除不能例に対する化学放射線療法前の導入化学療法や,切除例に対する補助化学放射線療法の有用性を検討する臨床試験が施行されている.

消化器癌に対する陽子線治療の現況と展望

著者: 有村健 ,   荻野尚

ページ範囲:P.1011 - P.1015

【ポイント】

◆消化器癌における陽子線治療の主な対象疾患は,切除不能な肝癌,膵癌および直腸癌の術後再発である.

◆管腔臓器は耐容線量が低く,内容物やガスを含み,固定が困難なため,原則として陽子線治療の対象にならない.

◆陽子線治療の適応は,腫瘍と近接する消化管との距離が離れていることが,最も重要な条件の一つである.

消化器癌に対する重粒子線治療の現状と展望

著者: 山田滋 ,   篠藤誠 ,   遠藤悟史 ,   安田茂雄 ,   今田浩史 ,   今井礼子 ,   鎌田正 ,   辻井博彦

ページ範囲:P.1016 - P.1021

【ポイント】

◆重粒子線は陽子線のシャープな線量分布と中性子線の強力な殺細胞効果を有する放射線である.

◆重粒子線は優れた線量分布により,癌の周囲にある放射線感受性の高い臓器(消化管・膀胱・尿道など)を効果的に避けて腫瘍のみを狙い撃ちにすることが可能である.

◆重粒子線は強力な殺細胞効果により,従来X線や陽子線に抵抗性であった癌細胞(腺癌や肉腫など)にも殺細胞効果が高い.

◆治療期間を短期にすることが可能である(肺癌や肝癌では1~2回照射).

Expertに学ぶ画像診断・16

3D画像ナビゲーションと臓器立体モデルによる手術支援・シミュレーション

著者: 杉本真樹 ,   東健

ページ範囲:P.1022 - P.1030

はじめに

 近年の医用画像診断は,画像解析のデジタル化が大きく進歩したことで,診断目的から治療支援へと広く活用範囲が拡大している.特に外科手術においては「手術ナビゲーション」や「ナビゲーション手術」などの用語が手術とその誘導,補助などの総括として広く一般化し,医用画像を参照した術前診断や手術計画の立案などに応用されている.

 2008年の診療報酬改定において,画像等手術支援加算(いわゆるナビゲーション加算)として「ナビゲーションによるもの」と「実物大臓器立体モデルによるもの」が設定され,ともに2000点の算定ができるようになった.「ナビゲーションによるもの」とは,手術前または手術中に得た画像を3次元に構築し,手術の過程において手術を補助する目的で用いることをいう.「実物大臓器立体モデルによるもの」は,手術前に得た画像等によって作成された実物大臓器立体モデルを,手術を補助する目的で用いることをいう.主に骨などを対象とした脳外科や整形外科,耳鼻咽喉科など一部の術式で適応され,2012年には消化器外科領域でも一部の術式で画像ナビゲーション加算の設定がされ,徐々にほかの術式でも応用されつつある.画像等手術支援加算は当該技術の補助によって手術が行われた場合に算定するものであり,当該技術が用いられた場合であっても,手術が行われなかった場合は算定できない(平成24年 保医発0305第1号).

 本稿では,医用画像を用いた支援手術の現状と展望について,筆者らの研究成果と合わせて述べる.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑱

“知ってるつもり?”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.1031 - P.1035

デバイスの使い方は

  「知ってる」なれど

器械設定は以外と

  「知ってるつもり」なり

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・3

Will Rogers現象―精密検査で治療成績が向上するか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.1036 - P.1039

素朴な疑問

 がんの治療成績は時代とともに向上しており,その理由として早期発見や治療法の進歩,特に手術手技や抗腫瘍薬の進歩が挙げられる.ところが,がんは治療の内容と関係なく,精密検査をするだけでステージ別の治療成績が向上するという(Will Rogers現象).本当にそんなことがあるのだろうか.

病院めぐり

社会医療法人財団慈泉会 相澤病院外科

著者: 田内克典

ページ範囲:P.1040 - P.1040

 当院は長野県中央部に位置する松本市(人口24万人)に立地し,地域医療支援病院,地域がん診療連携拠点病院,新型救命救急センター指定病院として約40万人の医療圏を対象とした基幹病院です.明治41年に相澤医院としてスタートし,平成24年3月現在,病床数502床,医師141名,看護師589名を含む1,578名の職員で運営されています.平成22年度の実績は,外来患者219,272人,入院患者12,776名,救急車6,114台,救急ヘリコプター59機,手術件数4,198件でした.

 外科は,がんの外科的治療を中心に行っています.消化器外科チーム5名,呼吸器外科チーム2名,乳腺甲状腺外科チーム3名,小児外科チーム1名のスタッフと,5名の外科専門医コース(後期研修医)医師で構成され,各分野の専門医によるチーム医療を行っています.

黒部市民病院外科

著者: 桐山正人

ページ範囲:P.1041 - P.1041

 当院は,富山県の東方,新潟県にほど近い,海と山に挟まれた黒部市の市街地にあります.病院の窓からは立山連峰,白馬岳が眺望でき,映画「黒部の太陽」で有名な黒部ダムを有する自然豊かな街です.

 黒部市民病院は昭和23年に創設された診療科26科,病床数414床,職員数634名(うち常勤医63名,初期研修医20名)を有する,新川医療圏14万地域住民の基幹病院です.日本医療機能評価機構認定病院であるとともに,地域がん診療連携拠点病院,地域災害医療センター,地域周産期母子医療センター,地域救命センター,小児急患センター,DMAT指定医療機関の指定を受けています.

外科専門医予備試験 想定問題集・8

直前総チェック

著者: 加納宣康 ,   本多通孝 ,   伊藤校輝 ,   青木耕平 ,   松本純明 ,   松田諭

ページ範囲:P.1042 - P.1056

出題のねらい

 いよいよ受験日が近づいてきました.今月号は最終回として,これまでのチェック項目を○×形式で出題します.教科書を復習する時間のない人,直前の時間を有効に使いたい人は,ぜひ一度目を通しておいてください.今年の受験会場は京都です.移動手段の確保や当日・前夜の診療の代診の手配など,今のうちに済ませておくとよいでしょう.それでは検討を祈ります.

臨床報告

小児に発生した境界病変巨大葉状腫瘍の1例

著者: 北山輝彦 ,   篠原育代 ,   佐古達彦 ,   永田直幹 ,   實藤隼人

ページ範囲:P.1058 - P.1062

要旨

症例は11歳の女児.1か月前に左乳房の母指頭大の腫瘤に気付いた.2週間で急速に増大し巨大腫瘤となったため近医を受診し,精査加療目的にて紹介受診となった.左乳房全体の大きさは12×10×9cmで巨大化を認め,発赤と疼痛を伴っていた.針生検にて葉状腫瘍と診断し,全身麻酔下に左乳腺腫瘍摘出術を施行した.摘出標本の肉眼所見は9.0×7.5×6.5cm,190gで割面は分葉状でほぼ均一な灰白色であった.病理組織学的所見では上皮細胞と間質細胞優位な両者の増生を認め,上皮細胞に異型は乏しいが間質細胞の核の腫大と少数の核分裂像を認め,境界病変型の葉状腫瘍と診断した.わが国において10歳台での良性乳腺葉状腫瘍報告例は散見されるが,第二次性徴期における悪性病変を含めた境界病変型の報告例は少なく,貴重な症例と考えられた.

有茎性肝外性に発育したため胃GISTと術前診断された肝原発褐色細胞腫の1例

著者: 佐藤裕 ,   井上健 ,   中村雅史

ページ範囲:P.1063 - P.1066

要旨

有茎性に肝外性発育したため胃GISTと術前診断していた,副腎外としてはきわめて稀な肝に原発した褐色細胞腫を経験した.症例は66歳の女性.左乳癌に対する胸筋温存乳房切除術後のフォローCTで,偶然に胃の近傍に充実性腫瘍(GISTの疑い)を認めていた.術後経過観察中に血中CEAが漸増してきたため,FDG-PET/CTを施行したところ,当該の腫瘍のほかに甲状腺左葉にも集積亢進を認め,甲状腺癌合併と診断した.根治的甲状腺左葉切除の2か月後に腹腔鏡下手術を企図したが,術中に本腫瘍が茎をもって肝縁から肝外性に発育していることから胃GISTは否定され,摘出後の病理学的検索によって“褐色細胞腫”と診断された.本症例は,副腎外褐色細胞腫としてはきわめて稀な肝に原発したものであり,かつこれが有茎性肝外性に発育していたこと,さらに乳癌と甲状腺癌を合併していたことが特筆すべき点であった.

Roux-en-Y法で挙上した空腸内に24年後に発症した真性腸石の1例

著者: 板野聡 ,   寺田紀彦 ,   堀木貞行 ,   遠藤彰 ,   谷口信將

ページ範囲:P.1067 - P.1070

要旨

症例は78歳,男性.1986年9月に胆囊炎,総胆管結石症にて胆囊摘出術およびRoux-en-Y法による総胆管空腸吻合術を受けた.2010年7月に右季肋部痛を訴え来院し,疼痛部位に圧痛と筋性防御を認めた.腹部US検査と腹部CT検査で同部の腹壁直下の腸管内に3cm径の腫瘤陰影を認め,挙上空腸内の結石と診断し外科的処置を行った.摘出された結石は5.8×3.5×3.5cmの円柱形で,主成分は脂肪酸カルシウムであり,真性腸石と診断された.腸石は十二指腸以下の腸管内結石のことで,なかでも真性腸石は稀といわれており,盲囊状態の腸管や腸管狭窄による腸管内容のうっ滞により発生すると考えられている.質的診断は困難で,治療は結石の摘出と原因の除去が原則であり,予後は良好である.

偽還納をきたした鼠径ヘルニアの1例

著者: 高塚聡 ,   山添定明 ,   池原照幸

ページ範囲:P.1071 - P.1074

要旨

症例は69歳,男性.右鼠径部の膨隆を自己整復したのち,腹痛が続くため翌日当院を受診した.来院時,右鼠径部に膨隆は認めず,鼠径ヘルニアと診断して入院予約をして帰宅した.同日夜間より強い腹痛と頻回の嘔吐があるため翌朝当院を受診した.腹部X線でイレウス像を呈し,骨盤部CTで円形に拡張した小腸を認めた.内ヘルニアによる絞扼性イレウスと診断し,緊急開腹手術を施行した.膀胱右側の腹膜前腔に回腸が嵌頓したヘルニア囊を認め,偽還納と診断した.嵌頓腸管は壊死のため切除し,鼠径ヘルニアに対しては腹膜前腔にてポリプロピレンメッシュで修復した.鼠径ヘルニアの偽還納は比較的稀な病態であり,認識されていないことが多い.若干の文献的考察を加えて報告する.

血胸で発症した異所性子宮内膜症の1例

著者: 桒田和也 ,   木村圭吾 ,   立本昭彦 ,   津村眞 ,   守都敏晃 ,   溝渕光一

ページ範囲:P.1075 - P.1077

要旨

患者は45歳,女性.持続性の胸腔内出血を認め,胸腔鏡下血腫除去術を施行した.術中の胸膜生検の結果から,異所性子宮内膜症による血胸と最終診断した.術後,婦人科的加療を行い,1年4か月を経過する現在も再発所見を認めず経過観察中である.異所性子宮内膜症のうち胸腔で発症するものは2%程度に過ぎず1),さらに血胸のみで発症するものは非常に稀であると思われる.

5年間の無再発生存を得た,腹膜播種を伴った小腸癌の1切除例

著者: 石川彰 ,   金丸太一 ,   田中賢一 ,   中村洋一郎 ,   阪田和哉 ,   山本正博

ページ範囲:P.1078 - P.1082

要旨

初回手術時に腹膜播種を伴った空腸癌に対して,手術療法に加え化学療法を行い,術後5年間の無再発生存を得た症例を経験した.患者は67歳,男性で,腹痛を主訴に来院し,精査で小腸癌と診断した.開腹時にDouglas窩に米粒大の結節を1個認め,これを摘出した.術中迅速診断で腹膜播種陽性と診断された.手術は空腸部分切除およびリンパ節郭清を行った.深達度seの高分化腺癌で,空腸第1枝リンパ節転移陽性と診断された.術後ドキシフルリジンとパクリタキセルの併用療法を行い,術後5年間の無再発生存を得た.小腸癌は比較的稀な疾患であり,予後不良である.特に腹膜播種をきたした長期生存例の報告はなく,貴重な症例と考えられた.

手術手技

別創からの細径内視鏡を利用した単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術

著者: 多賀谷信美 ,   久保田和 ,   鈴木麻未 ,   吉羽秀麿 ,   菅又嘉剛 ,   大矢雅敏

ページ範囲:P.1083 - P.1087

要旨

単孔式内視鏡下手術が普及して適応が拡大するのに伴い,細径器具の使用が必須となってきた.われわれは,3.3mm細径内視鏡を別創から挿入した単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術を経験し,良好な成績が得られたので報告する.臍部とは別の右季肋下に細径ポートを刺入し,そこから挿入した3.3mmの細径内視鏡観察下に単孔式腹腔鏡下胆囊摘出術を5例施行した.3.3mm腹腔鏡の視野は通常の5~10mmの腹腔鏡と比べて遜色なく,平均手術時間は89.7分であった.臍部に内視鏡の挿入がないため鉗子の操作性が向上し,また創部も目立たず,整容的にも十分であった.3.3mm細径内視鏡は今後も種々のminimally invasive surgeryに利用されるものと思われる.

勤務医コラム・39

外来はヘビー級

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.976 - P.976

 2月のとある月曜日.月曜朝の外来は忙しい.「echoしてからカメラ!」「ハイ」「ネオファーゲンして血算生化AFPも!」「ハーイ」「紹介状書くヨ!」「ハイッ」「局麻して切開!」「ハイヨ」「ムンテラ,お母さん呼んで!」「ファーイ」「腰椎2方向,MRI空いてる?」「アイ」「hemoみるよ」「ヘーイ」.多種多様の患者さんに医者2人+ナース5人で対応していく.忙しいはずなのに,なんだか今日はスムーズだ.

 AM11:00,外来も佳境に入り皆クルクル動いている.そのとき受付のキィ子(第23回)が,診断書の件で外来に入って来るなり,「ワッ,オバサンばっか」とつぶやいて目を丸くしている.私もふと顔を上げてみると,なんと当院の高齢ナース五人衆の揃い踏みだった.いつもは若い人が多いのに,この日に限って病欠・休み・試験などなどが重なり,師長や主任がヘルプに入って,外来はヘビー級だ.彼女らの動きには無駄が全くない.先の先を読んで動くので,どんどん仕事が進む.気の利かせ方が一味も二味も違うのです.これぞベテランの味だ.昼休みに「今日はすごかったね」と言ったら,「どういう意味ですか」とにらまれた.“ヘビー級”という言葉をグッと飲み込みました.

学会告知板

第22回 大腸Ⅱc研究会

ページ範囲:P.991 - P.991

日 時:2012年9月9日(日)9:30~17:00(予定)

会 場:全社協 灘尾ホール(〒100-8980東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞が関ビルLB階)

第9回 拡大内視鏡研究会

ページ範囲:P.1074 - P.1074

日 時:2012年9月8日(土)10:00~17:00(予定)

会 場:全社協 灘尾ホール

    (〒100-8980東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞が関ビルLB階)

昨日の患者

最期の演技

著者: 中川国利

ページ範囲:P.996 - P.996

 誰もが最期を迎えるが,現代の日本では病院で亡くなる人が大多数である.各家庭での人間模様が病室でも繰り広げられ,われわれ医療従事者は仕事を介してそれを垣間見ることになる.理想的な最期は各人で異なるが,最愛の家族を前にしてテレビドラマのように感動的に演じ切った患者さんを紹介する.

 総胆管癌の再発をきたして,80歳代半ばのSさんが入院した.癌性腹膜炎で腸閉塞となり,また著明な腹水を認めた.そこで,補液を行うとともに強力な利尿剤や麻薬を投与した.奥さんは連日付き添い,Sさんを甲斐甲斐しく介護をした.また,近くに住む長男夫婦は孫を連れて足しげく見舞った.Sさんは息子や孫の顔を見ると,大いに喜んだ.

1200字通信・42

ばか,バカ,馬鹿

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1057 - P.1057

 2011年10月に平野達男復興相(当時)が,震災の津波で亡くなった友人を「ばかなやつ」と呼んだことが報道され,早速,「津波で亡くなられた方々に失礼」と非難する声が出たことは,新聞などでご覧になった方もおられると思います.

 その発言の前後の流れを知れば,古くからの同級生の予期せぬ不慮の死に対する悔しさと悲しみ,そして愛惜の念が入り混じった親愛の情からの発言であり,その友人が親しければ親しいほど,そうした端的な言葉しか出てこなかったものと理解できることでした.かつて,私が若い頃勤務した救急現場でも,突然の不慮の死に対して肉親や親しい友人から発せられるこうした言葉を耳にしましたが,胸を熱くさせることはあっても,決して不快なものではなかったと記憶しています.

ひとやすみ・88

研修医時代の恩師を偲ぶ

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1062 - P.1062

 人は死亡すると,現世における姿は消滅する.しかし,故人の言動はいつまでも周囲の人々の脳裏に残存し,時に鮮やかに蘇って影響を与え続けるものである.

 本年3月に金沢市で開催された腹部救急医学会総会での会長講演の演題名は,「医学の既成概念に対する挑戦」であった.どこかで聞いた表題であると思っていたら,私の研修医時代の恩師である渡辺晃先生が執筆した本の題名を借用したとのことであった.太田哲生会長は,膵臓における「常識の嘘」ともいえる3つの事実誤認を取り上げ,若手外科医へ強力なるメッセージを発信した.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1035 - P.1035

原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.1070 - P.1070

次号予告

ページ範囲:P.1082 - P.1082

投稿規定

ページ範囲:P.1088 - P.1089

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.1090 - P.1090

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1091 - P.1091

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.1092 - P.1092

 本号は外科系雑誌での放射線療法に関する特集である.一読して,まず外科医が「知っておきたい」ことは,強度変調放射線治療(IMRT)に代表されるような,その技術進歩である.患部のみ照射されるのが理想的であるが,体外照射では,病巣と照射装置とを結んだ直線上に存在する臓器がある程度被曝することはやむを得ないこととされてきた.筆者が専門とする食道癌においては,その解剖学的特徴から,周囲臓器すなわち肺や心臓,脊椎などの生命維持に必要不可欠な重要臓器も被曝することになる.その影響を極力抑えるため,照射角度を変えて行われてきたが,それでも放射線肺臓炎や心囊水貯留などの晩期毒性の頻度は少なくなかった.ゆえに,筆者は切除できる病巣に対しての術前放射線療法には否定的であった.もちろん,切除できない病巣あるいは,局所再発などに対して放射線が有効であることは十分認識している.照射技術の目を見張るような進歩により,幸いなことにそのような心配,不安が杞憂になりつつあることを本特集は伝えてくれている.

 また,外科医が「知っておくべき」放射線治療の適応・役割,外科治療との棲み分けまで簡潔に述べられている.要するに,科単独ではなく,科の垣根を越えたチーム医療,集学的治療こそが最も強力な癌に対する根治治療なのである.いつ手術を行うか,どの時点で放射線を行うか,緊密な連絡,チームワークが肝要であることは言うまでもない.タイミングは重要である.適切な時期を逸すれば,癌は容赦なく,躊躇せず患者さんの命を奪っていく.的確な集学的治療を行いうる施設こそが癌専門病院と呼ばれるのではないだろうか.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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