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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科67巻9号

2012年09月発行

雑誌目次

特集 高齢者外科手術における周術期管理

ページ範囲:P.1097 - P.1097

 高齢者人口の増加および高齢者の健康状態の改善に伴って,近年,外科手術の適応となる患者の高齢化も進んでいる.以前と比べて高齢者の健康管理はよくなってきているとはいえ,やはり生物学的年齢からみて手術侵襲に対する問題点は特有のものがある.そのような特性を十分に知ったうえで手術適応を判断し,また周術期管理を行う必要がある.

 本特集では,手術適応および周術期管理において高齢者に特有なポイント,特に,その生体反応を中心として執筆していただいた.実践に役立てていただきたい.

〔老化の影響を知る〕

外科医が知っておくべき正常の老化現象

著者: 小林一貴 ,   横手幸太郎

ページ範囲:P.1098 - P.1102

【ポイント】

◆老化とは疾患そのものではなく,臓器の機能や予備能の低下であり,生理的(正常)老化と病的老化に大別される.

◆生理的老化での最大寿命は約110歳とされるが,併存疾患や環境因子が機能低下を加速し,病的老化として寿命を縮める.

◆高齢者の手術適応の判断は,併存疾患の有無や臓器予備能をきめ細かく評価し,ケースごとに慎重に検討する.

高齢者に対する薬剤投与の留意点

著者: 西弘二 ,   谷川原祐介

ページ範囲:P.1104 - P.1108

【ポイント】

◆加齢による生理機能変動によって,高齢者の薬物体内動態は若年者と異なる場合が多い.

◆加齢に伴う薬物受容体の発現・活性の変動は薬剤感受性に影響を及ぼす.

◆高齢者への薬剤投与は,加齢に伴う薬物体内動態および感受性変化,さらには多剤併用・合併症を考慮し,適切に用量を減量するなど慎重に行う.

麻酔科医からみた高齢者外科手術周術期管理の注意点

著者: 坂口了太 ,   武田純三

ページ範囲:P.1110 - P.1113

【ポイント】

◆外科手術において高齢者の占める割合は大幅に増加している.

◆加齢は主要臓器機能の予備能の低下をもたらし,外科的侵襲が加わる際,低下した予備能が問題となる.

◆併存疾患の有無や程度に個人差が大きいため,各患者の臓器機能を評価したうえで周術期管理を行う必要がある.

〔高齢者への手術のリスク評価〕

心・肺機能からみた高齢者のリスク評価

著者: 木村大輔 ,   福田幾夫

ページ範囲:P.1114 - P.1119

【ポイント】

◆高齢者は潜在的・顕在的な呼吸器系疾患,心疾患を抱えていることが多く,術後の転帰を左右する重大な要因である.

◆心機能低下やCOPDのリスクを評価するうえで問診や身体所見が重要である.

◆最近は各種ガイドラインが充実しており,これらを利用して的確にリスク評価を行うことが重要である.

腎機能からみた高齢者のリスク評価

著者: 石田厚 ,   立原啓正 ,   大木隆生

ページ範囲:P.1120 - P.1126

【ポイント】

◆高齢者は加齢に伴う動脈硬化が進んでおり,正常でも若年者より腎機能は低下し,CKDの割合が多い.

◆スクリーニングで腎機能低下を認めた場合,高齢者には若年者以上に積極的に原因疾患と併存疾患の精査・加療を行う.

◆腎臓内科医にはつねに慢性的なCKD管理を念頭に置いているが,周術期にはその常識が通用しないことを理解すべきである.

◆CKD患者に対する造影CT検査を禁忌と考える医師が多いが,近年の造影剤は輸液などの配慮をしつつ施行すれば安全に行えるので,メリットがある場合には躊躇せずに施行してよい.

◆CKD合併高齢者の場合,直感的に低侵襲治療がよいと考えがちだが,手術時間が長引いて腎灌流が低下する腹腔鏡下手術や,塞栓症リスクを伴うカテーテル治療などの低侵襲治療においては注意が必要である.

脳機能・精神機能の面からみた高齢者のリスク評価

著者: 渡辺剛 ,   山本雄造

ページ範囲:P.1127 - P.1131

【ポイント】

◆脳血管障害といった脳機能障害症例の手術適応は,実年齢によらずに個々の障害程度を考慮して判断すべきである.

◆認知症を有するだけでは手術非適応とする要因とならず,予後など総合的な判断で適応を決定すべきである.

◆せん妄の治療では,精神科医に頼診するとともに,せん妄の原因となる基礎疾患・病態の治療が必要である.

〔高齢者対策の実際〕

食道癌手術における高齢者対策

著者: 田中成岳 ,   宮崎達也 ,   原圭吾 ,   小澤大悟 ,   鈴木茂正 ,   横堀武彦 ,   猪瀬崇徳 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1132 - P.1136

【ポイント】

◆高齢というだけで食道癌手術の適応外とはならない.

◆生理機能の低下やそのほかの疾患を併存している高齢者では,術前からの予防も含めた慎重な周術期管理が必要である.

◆身体機能の低下した高齢者では,理学療法や嚥下機能など,ほかの職種と協力し合う周術期管理が必要である.

大腸癌手術における高齢者対策

著者: 金沢孝満 ,   須並英二 ,   田上佑輔 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1137 - P.1141

【ポイント】

◆高齢者は様々な併存疾患や生活上のバックグラウンドを有している.それらを考慮したうえで治療方針を検討する必要がある.

◆手術死亡率は年齢とともに上昇するものの,根治術が行われれば非高齢者と同等の予後が期待できる.

◆高齢者では予備力の低下があり不安定なため,術前の準備と素早い対応が重要である.

肝胆膵外科手術における高齢者対策

著者: 成田匡大 ,   上本伸二

ページ範囲:P.1142 - P.1145

【ポイント】

◆高齢者の肝切除では併存疾患に十分に注意をしたうえで,若年者と同等の手術および術後補助化学療法を行うべきである.

◆高齢者に対する膵頭十二指腸切除は術後合併症が若年者に比べて多く,致死率が高いため,十分な注意が必要である.

〔患者管理のポイント〕

栄養評価からみた高齢者の特性と周術期栄養管理

著者: 古川勝規 ,   鈴木大亮 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   中島正之 ,   相田俊明 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1146 - P.1151

【ポイント】

◆高齢者は加齢に伴って骨格筋量が減少し,内臓脂肪が増加する.

◆高齢者はエネルギー消費量の個人差が大きいため,栄養評価には間接熱量計を用いた安静時エネルギー消費量(REE)の測定が望ましい.

◆適切な栄養評価に基づいたリハビリテーションの活用が有効である.

術後疼痛コントロールにおける高齢者の特性

著者: 山本達郎

ページ範囲:P.1152 - P.1155

【ポイント】

◆認知機能障害や痛み知覚の低下などによって高齢者の痛みの評価は難しい.

◆良好な術後痛コントロールによって術後せん妄の発症を抑制することができる.

◆薬物療法のみでなく,硬膜外ブロックや末梢神経ブロックを組み合わせた痛みコントロールを行うべきである.

高齢者の術後リハビリテーションの問題点

著者: 村田淳

ページ範囲:P.1156 - P.1160

【ポイント】

◆高齢者においては廃用症候群のために活動制限・参加制約が生じることが多い.

◆QOLを向上するためには可及的に活動を維持することが大切である.

◆リハビリテーションに際しては,国際生活機能分類を用いて全人的なアプローチをすることが有効である.

Expertに学ぶ画像診断・17

CT colonography

著者: 森本毅 ,   藤川あつ子 ,   中島康雄 ,   牧角良二 ,   四万村司 ,   月川賢 ,   大坪毅人 ,   宮島伸宜 ,   飯沼元

ページ範囲:P.1162 - P.1167

はじめに

 従来,大腸癌の術前検査として,病変部位および大腸走行形態の評価には注腸造影検査が,転移検索のためには腹部CT検査が,肉眼型や深達度,病理診断の目的には大腸内視鏡検査などが行われてきた.近年のmulti-detector row CT(MDCT)の進歩によって高解像度の画像データを用いたCT 3次元表示は高精細化し,消化管診断領域にも応用されてきている.

 CTを用いた大腸診断はCT colonography(CTC)と総称されており,わが国でも広まりつつある.CTCは,経肛門的に大腸内にガスを送気して腸管を拡張させた状態でCT検査を行い,撮像データに3次元処理を加えて仮想内視鏡画像や仮想注腸画像を作成して大腸病変の評価を行う検査である.欧米ではCTCは主として大腸病変のスクリーニングに用いられているが,わが国には優れた内視鏡診断や消化管造影診断があるため,主に術前検査に用いられてきた.術前検査としてのCTCは従来,注腸造影検査,CT検査などで別々に行われてきた大腸病変の評価と転移検索を一度の検査で行うことができ,患者の負担軽減や医療コストの削減につながる.また,造影CTで得られた血管情報を3次元画像に加えることによって術前シミュレーションとしても活用することができ,その有用性はわが国でもすでに確立されている.

 現在,大腸癌をはじめとした大腸腫瘍性病変の術前検査としてCTCを導入する施設は増えてきており,今後もさらなる増加が予想される.

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑲

“極度乾燥(しなさい)”

著者: 内田一徳

ページ範囲:P.1168 - P.1171

「所変われば品変わる」

  「日本の常識」は「世界の非常識」?

たまには極度乾燥して

    俯瞰で眺めるべし

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・4

がん告知と自殺―どんな患者が自殺しやすいか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.1172 - P.1175

素朴な疑問

 がんは今では普通の病気であるが,今でも深刻な病気である.インフォームド・コンセントが普及し,がんの「告知」は当たり前のことになったが,患者は医師から「がんです」と言われて,動揺・不安・恐怖・絶望はないのだろうか.がん患者を担当する医師は患者の希死念慮や自殺企図に注意したほうがよいのだろうか.

病院めぐり

村立東海病院外科

著者: 坂本昌義

ページ範囲:P.1176 - P.1176

 茨城県の海岸線のほぼ中間点,水戸市と日立市の間に東海村はあります.人口は約37.000人で,30km圏内に100万人以上の人が住み,日本最初の原子力発電施設があることで知られています.

 当院は昭和34年に東海村国保診療所として設立され,平成18年に新病院を東海村が建設するとともに,公益社団法人地域医療振興協会が指定管理者になって診療にあたっています.

大隅鹿屋病院外科

著者: 奥田澄夫

ページ範囲:P.1177 - P.1177

×大隈→○大隅(おおすみ)

×鹿屋(しかや)→○鹿屋(かのや)

 学会などで時々間違えられます(^_^;

臨床報告

鳥骨による十二指腸穿孔の1例

著者: 太田竜 ,   関川浩司 ,   後藤学 ,   北村雅也 ,   河原祐一 ,   高橋保正

ページ範囲:P.1179 - P.1182

要旨

患者は70歳代,男性.右側腹部痛を主訴とし,当院を紹介された.右季肋部に圧痛を認め,血液検査では炎症所見高値を呈していた.腹部CT検査で十二指腸下行脚周囲にfree airを認めた.消化管穿孔の診断で緊急手術を行った.十二指腸を授動すると,下行脚背側を貫通する4cm長の棒状異物が存在した.異物を除去して穿孔部を縫合閉鎖し,大網を被覆した.十二指腸液ドレナージ目的で経胃的十二指腸減圧チューブを留置し,胆汁ドレナージ目的で胆囊摘出術を行ってCチューブを留置した.異物は食歴から鳥骨と推察された.原因不明の消化管穿孔においては異物誤嚥も念頭に置き,詳細な病歴聴取と慎重な画像診断が必要であると考えられた.

腸間膜内に穿通した特発性小腸穿孔の1例

著者: 馬越紀行 ,   池田宏国 ,   小縣正明 ,   山本満雄 ,   臼杵則朗 ,   勝山栄治

ページ範囲:P.1183 - P.1186

要旨

患者は68歳,男性.腹痛を主訴に他院を受診し,イレウスと診断されて当院を紹介された.腹痛は軽度で明らかな腹膜刺激症状を認めなかったが,血液検査で炎症反応の上昇と,CTで中部小腸の腸間膜脂肪織不整と内部にairの貯留を認めた.中部小腸の腸間膜内への穿通と術前診断し,同日,緊急開腹手術を施行し,腸間膜を含めて約80cmの小腸部分切除を行った.病理組織学的検査の結果,特発性小腸穿孔と診断した.腸間膜内に穿通した特発性小腸穿孔という比較的稀な症例を経験した.

機能的端々吻合後に吻合部再発をきたした結腸癌の3例

著者: 須浪毅 ,   雪本清隆 ,   澤田隆吾 ,   阪本一次 ,   山下隆史

ページ範囲:P.1187 - P.1191

要旨

機能的端々吻合後に吻合部再発をきたした結腸癌の3例を経験した.いずれもclosed法による機能的端々吻合で再建した.術中の腸管内洗浄や清拭は行っていなかった.また,3例中2例では術前から腫瘍による亜腸閉塞症状を認め,術前のニフレックによる機械的腸洗浄を行わなかった.これらが腸管内遊離癌細胞の吻合部へのimplantationを許し,吻合部再発をきたした可能性がある.器械吻合の際も手縫い吻合の際と同様に腸管内の洗浄や清拭が必要であると考えられる.術前に機械的腸洗浄が行えなかった症例では特に,術中の十分な清拭を行うべきであると考える.

ULTRAPRO Plugを用いて修復したSpigelヘルニアの1例

著者: 浦出剛史 ,   河村史朗 ,   横山邦雄 ,   森本大樹 ,   平田建郎 ,   島田悦司

ページ範囲:P.1192 - P.1196

要旨

患者は72歳,女性.右下腹部の膨隆と疼痛を自覚し,精査加療目的で当科を受診した.右下腹部に径3cm大の膨隆を認めた.容易に用手還納でき,ヘルニア門は2横指であった.腹部超音波・腹部CT検査から内腹斜筋腱膜下に脱出するSpigelヘルニアと診断し,ヘルニア根治術を施行した.術中所見においても内腹斜筋腱膜下にヘルニア囊を認め,腹横筋腱膜を貫通するタイプのSpigelヘルニアと確定診断した.ヘルニア門周囲の内腹斜筋腱膜は菲薄化し,また,内鼠径ヘルニアを合併していたため,それぞれULTRAPRO Plugを用いて同時に修復した.術後2年が経過した現在,再発を認めていない.

門脈と下大静脈間の肝門部に再発した卵巣顆粒膜細胞腫の1例

著者: 小島正之 ,   杉浦芳章 ,   首村智久 ,   似鳥修弘 ,   別宮好文 ,   北島政樹

ページ範囲:P.1197 - P.1201

要旨

症例は60歳,女性.2005年,左卵巣腫瘍の破裂で両側付属器・子宮全摘術を施行し,卵巣顆粒細胞腫と診断した.2008年,骨盤腔内に再発を認め,腹腔内腫瘍摘出を施行した.さらに,2010年に肝門部に下大静脈を背側に,門脈を腹側に圧排した80mm大の腫瘤を認めた.腫瘍の内腔は,囊胞成分と充実性成分の混在を認めた.以上より顆粒膜細胞腫の再々発と診断し,肝外側区域・尾状葉尾側切除で腫瘍を摘出した.病理所見では成人型顆粒膜細胞腫の転移と診断した.本邦報告例22例を検討すると,平均年齢59歳,初発から再発までの平均期間は14年で,腫瘍が破裂した7例はすべて播種性に再発を認めた.卵巣顆粒膜細胞腫は初発時より長期間の観察が必要だと考えられた.

大腸癌術後機能的端々吻合部の便塊貯留が通過障害の原因となった1例

著者: 川口孝二 ,   平塚孝宏 ,   泉公一 ,   荒巻政憲

ページ範囲:P.1202 - P.1204

要旨

症例は57歳,女性.腹痛・便秘を主訴に当科を受診し入院となった.約2年前に他院でS状結腸癌に対して腹腔鏡補助下S状結腸切除術(T1N0P0M0 Stage Ⅰ)が施行され,再建は自動縫合器を用いた機能的端々吻合が行われていた.入院時腹部CT検査にてS状結腸癌術後吻合部に大きな便塊貯留を認め,これが通過障害の原因と考えられたために,入院8日後に開腹術を行った.開腹したところ,吻合部は囊状に拡張し内部に便塊が嵌頓していた.吻合部を含めた腸管切除を行い,手縫いによる端々吻合を行った.術後経過は良好で,術後14日目に退院した.本症例のような合併症は極めて稀であるが,左側結腸吻合においては起こりうる合併症と考え対処する必要があると考えられた.

パイエル板の肥厚を先進部とする成人腸重積症の1例

著者: 杉森志穂 ,   山田行重 ,   明石諭 ,   伊藤眞廣 ,   島田啓司 ,   吉川高志

ページ範囲:P.1205 - P.1208

要旨

症例は29歳,女性.下痢,発熱,腹痛を主訴に受診した.腹部CTで上行結腸にmultiple concentric ring signを認め,腸重積症と診断し手術を施行した.重積整復後に回盲弁から30cm口側に腫瘤を触知し,小腸部分切除を施行した.切除標本で3×2.5cmの範囲の壁肥厚を認め,病理組織では粘膜固有層から粘膜下層の限局性のリンパ組織の過形成を認め,パイエル板の肥厚と考えた.パイエル板は乳児期にはその肥厚が腸重積の原因となるが,成人例は非常に稀である.一方,回腸終末部は悪性リンパ腫の好発部位であり,腸重積を発症することも知られている.本疾患は悪性リンパ腫との鑑別が重要であると考えられた.

溶血性貧血を誘因とした胆囊摘出術後肝内結石症の1例

著者: 林泰寛 ,   北川裕久 ,   高村博之 ,   藤村隆 ,   谷卓 ,   太田哲生

ページ範囲:P.1209 - P.1212

要旨

症例は68歳,男性.以前より黄疸を指摘されており,48歳時に胆囊結石症に対し開腹胆摘術を施行された.今回,上腹部不快感を主訴に近医を受診した際に左肝内胆管拡張を指摘され,当科へ紹介された.精査にて遺伝性球状赤血球症に伴う溶血性貧血を誘因とした肝内結石症との診断に至り,腹腔鏡補助下脾摘および左肝切除を施行した.本症例では溶血性貧血と胆摘後であることが肝内結石症の発症に深く関与していると考えられた.黄疸を有する胆石症の術前には,溶血性貧血合併の有無を考慮する必要があると考えられた.

ひとやすみ・89

海外留学の勧め

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1136 - P.1136

 韓国や中国から米国への留学生が激増しているのに反して,日本からの留学は激減している.「言葉の壁があるから」「国内での臨床や研究から離れるから」「給料が安いから」「そもそもアメリカから学ぶことがないから」など,種々の理由が挙げられる.しかし,最も欠けているのは「貪欲に何でも見てやろう,経験してみよう」というハングリー精神が現代の若者に欠落していることに起因していると私は思う.

 私は27年前に,1年間の短期間であったが,ドイツのハイデルベルク大学に内視鏡治療を学びに留学したことがある.当時,すでに日本製の内視鏡が世界を席巻し,EMRやESTなどの先進的治療も国内で行われていた.しかし,ドイツでは食道静脈瘤硬化療法,肥満に対するバルーン留置,胃瘻造設術などの内視鏡的治療が積極的に行われ,すでに内視鏡外科として独立していることにまぶしさを感じた.腹腔鏡下虫垂切除術も行われていたが,ドイツ国内でも特殊な技術を有する外科医の特異な手術とされ,完全に無視されていた.私自身も関心を持ったが,とても自分自身ではできない特殊な手技であると思った.しかし,医療機器や技術の進歩に伴い,1989年以降は腹腔鏡下手術が爆発的に世界中で普及した.私自身が腹腔鏡下手術に取り組んだのは1991年であり,画期的な外科手術の萌芽期に臨みながら遅れをとったことが非常に残念である.

1200字通信・43

計画と時間

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1151 - P.1151

 NHKに「アスリートの魂」という番組があります.毎回,トップアスリートたちの栄光の裏に隠された努力や苦悩が映し出され,感動すると同時に学ぶべきことが沢山あると感じています.今年2月はじめの放送では,ハンマー投げで世界のトップレベルを維持し続けている室伏広治選手が取り上げられていました.

 番組では,今年7月から開催されるロンドンオリンピックに向けての調整について紹介されていましたが,その綿密さに驚かされることになりました.オリンピック決勝の日時を最終地点とし,そこから逆算しながら計画を立てるのですが,いつ移動し,移動後はどの程度の運動をし,いつ休むのか.また,ロンドン入りをいつにし,会場へは何時に入るのかなどなど,一日ごとに事細かなスケジュールが決められていたのでした.そして,この計画が狂うと最終日の調子が狂い,メダルという最終目標に到達できないというのです.長年にわたってトップレベルを維持している秘訣と感心しましたが,何度かの失敗を経て辿り着いた方法ではないかと拝察しました.

勤務医コラム・40

さよなら夏の日

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.1161 - P.1161

 学生の頃,甲子園の決勝も終わった夏の終わりの黄昏時に,廊下に差し込む西陽を見て,ふと感じたなんとも言えぬsentimentalなあの気分…….外科医になってからこの30年は忙しすぎてそんな高尚な感覚は忘れていたが,ここ最近は再び感じるようになってきた.「年をとって季節のうつろいに敏感になった」ということとは違う「一種の淋しさ」に似た感覚だ.

 手術,論文,動物実験,学会,医局の仕事,学生のこと,ネーベン等々で超多忙のジェットコースターに乗ったような「人生の夏」が,もう終わった.さよなら夏の日……いつまでも忘れないよ……山下達郎の曲が心に染みる.

書評

佐藤 裕(監修)/桑野博行(編)「外科学 温故知新」

著者: 小川道雄

ページ範囲:P.1178 - P.1178

 今でも母校医学部の「医学序説」の講義を担当している.最初に出すスライドは,ヨーロッパの諺の「歴史を知らない民族は滅びる」である.自分たちの将来を発展させるためには,自分たちが過去に行ってきたことをまず知っておかなければならない,それがかならず将来につながる,と話す.

 まさにこの目的のために,外科学の「これまで」をまとめたのが本書である.企画され,編集された桑野博行教授のご慧眼と,執筆された「外科53会」の方々に心からの敬意を表したい.

若林 剛(監修)/佐々木 章(編)「ステップアップ内視鏡外科手術[DVD付]」

著者: 北野正剛

ページ範囲:P.1213 - P.1213

 このたび,岩手医科大学の若林剛教授の監修の下,佐々木章准教授が編集を行った『ステップアップ内視鏡外科手術』と題する手術書が医学書院から刊行された.消化器外科領域を中心に内視鏡外科手術を幅広く,数多く手掛けてきた同大学外科学講座の,世界をリードする腕利きの外科医たちの総力結集の著書といえる.

 1990年,腹腔鏡下胆囊摘出術がわが国にもたらされた.低侵襲治療としての内視鏡外科手術の夜明けであった.以来,この20年余りの間に,内視鏡外科手術は「低侵襲性手術」としてのカテゴリーを確立しながら急速に普及し,その適応は,良性疾患はもちろん早期がんから進行がんへと拡大されてきた.さらに,内視鏡外科手術の対象は胆囊,大腸,胃にとどまらず,肝・膵・脾,乳腺・内分泌,高度肥満などへ広がり,単孔式腹腔鏡下手術やNOTES(経管腔的内視鏡手術),内視鏡手術支援ロボットも登場してきた.この目覚ましい手術革命は,「体に優しい」手術が,国民の福祉に貢献し,社会が求めているためにほかならない.

出月康夫,古瀬 彰,杉町圭蔵(編)「NEW外科学(改訂第3版)」

著者: 上本伸二

ページ範囲:P.1214 - P.1214

 本書『NEW外科学』の序論で外科の歴史~外科の特殊性~医療の倫理と展開する執筆者の「外科学に対する思い」を楽しんで拝読した.常日頃,外科医の日常で考えていることを見事に論じており,これからの若い世代の外科医や医学生に読んでもらいたい内容である.

 外科学教科書を評価する場合に,私はまず総論の内容に目を通す.本書においては,総論は全体の3分の1を占める充実したものとなっている.しかし,外科学教科書における総論には,現場の外科医療に役立つようにコンパクトにまとまっていることと同時に,基礎医学のおさらいをかねて理解を助ける工夫の2点が必要である.もちろん,外科医に限らず一般の臨床医が常に理解しておく必要がある範囲を超えての学問の広がりは,各医学領域の専門書に委ねるべきであり,このあたりのバランスが教科書には必要となる.今回の第3版では,「免疫」,「腫瘍」,「臓器移植」,「人工臓器とME」に多くの紙面が割かれている.最近の医療の進歩に対応する改訂であり,このくらいの知識の増加は,今後の外科医療の発展についていくためにも一般の外科医にも必要とされるものである.

昨日の患者

両親の背中

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1191 - P.1191

 子供が最も関心を持つ職業は,親が就いている職業である.親が仕事に燃えてやりがいを感じていると,子供も同じ職業を志すものである.

 M君は高校2年生で,父親は当院の臨床工学士として,母親は手術室の看護師として勤務している.彼が臍からの排膿を主訴として,母親に連れられて外科を受診した.そこで切開・排膿を行い,抗菌薬を処方した.CT検査を行うと,臍部から下腹部正中にかけて膿瘍腔を認めた.そこで尿膜管遺残と診断して,手術を勧めた.

学会告知板

真菌症フォーラム第14回学術集会

ページ範囲:P.1196 - P.1196

テーマ:「深在性真菌症の診断・治療ガイドラインの改訂を目指して」

日 時:2013年2月16日(土)12:00~17:45(予定)

会 場:第一ホテル東京

    〒105-8621東京都港区新橋1-2-6 Tel:03-3501-4411(代表)

第4回日本レックリングハウゼン病学会学術大会

ページ範囲:P.1212 - P.1212

会 期:2012年11月4日(日)午前9時50分より

会 場:慶応義塾大学 三田キャンパス 北館ホール(〒108-8345東京都港区三田2-15-45)

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1109 - P.1109

原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.1204 - P.1204

投稿規定

ページ範囲:P.1216 - P.1217

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.1218 - P.1218

次号予告

ページ範囲:P.1219 - P.1219

あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.1220 - P.1220

 わが国においては近年,高齢者人口の増加が著しく,5年以内には人口の4人に1人以上を65歳以上の高齢者が占めることになると予想される.そのため,外科治療を要する多くの患者さんにおいても高齢者の比率はさらに高まると想像される.最近の高齢者は以前に比べて体力的に頑丈になっており,臓器機能も維持しているとはいえ,やはり様々な加齢性の変化を伴ってきているのは間違いない.

 老年医学はgerontologyやgeriatricsといった概念で新たな学問分野がすでに確立されつつあり,多くの知見がこれまで明らかにされてきている.しかし,老年外科学の研究は実地臨床においてはまだ始まったばかりであり,その学問的な深さは十分ではない.加齢に伴う精神機能,生理学的生化学的臓器機能など,きわめて多岐な変化が一つの体に表れており,それが実地臨床では患者各人ごとにその加齢に伴った機能障害程度の差異が異なっているため,複合的な機能評価を行ったうえでの詳細な周術期管理が必要となるのは当然である.したがって,外科医が自分自身の専門領域の知識のみで高齢者の周術期管理を行っていくことはまず不可能であり,危険でもある.十分な全身管理を行いえるだけの知識・経験を持ったうえで専門的な手術を施行していくようにしなければならない.その意味では,現在,要求されている「全身を診られる医師」に必要な要素をしっかり普段から身に付けておくことが今後,外科医として仕事をしていくうえではより強く求められる時代になっている.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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