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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科68巻1号

2013年01月発行

雑誌目次

特集 進歩する消化器外科手術―術式の温故知新

ページ範囲:P.5 - P.5

 現在,消化器外科において日常的に行われている術式は,時代の評価に耐えうるように改良が加えられ,様々な変遷をたどって標準術式として確立している.その進歩の背景には,麻酔や手術機械の進歩,解剖学的あるいは生理学的知識の向上などが寄与しているが,つねに外科医の新しい発想が原点になっている.

 本特集では,消化器外科の主な手術の歴史を振り返り,エポックとなった術式をその文献とともに紹介するとともに,現在の標準術式について各領域の達人に述べていただいた.また,現段階における議論や問題点についても言及し,さらに今後の進歩に向けての提言をしていただいた.読者が消化器外科手術の古きをたずねて新しきを知る一助となれば幸いである.

〔疾患別〕

食道癌手術の温故知新

著者: 宮崎達也 ,   猪瀬崇徳 ,   田中成岳 ,   鈴木茂正 ,   原圭吾 ,   小澤大悟 ,   横堀武彦 ,   福地稔 ,   桑野博行

ページ範囲:P.6 - P.9

【ポイント】

◆食道癌手術の歴史は頸部食道手術に始まり,胸部食道癌手術の最初の成功は1913年にTorekによってなされた.

◆当初,治療成績は満足すべきものではなかったが,1970年以降に麻酔法や栄養法,再建術式が進歩して手術死亡率は減少し,一期的手術も可能となった.

◆胸部食道癌手術の標準術式は右開胸胸部食道切除術である.上縦隔リンパ節は十分に郭清する必要がある.

胃癌手術の温故知新

著者: 瀬戸泰之 ,   愛甲丞 ,   森和彦 ,   山形幸徳 ,   山下裕玄 ,   三ツ井崇司 ,   和田郁雄 ,   清水伸幸 ,   野村幸世

ページ範囲:P.10 - P.14

【ポイント】

◆現在行われている胃癌定型手術の原型は19世紀に考案された.リンパ節郭清は20世紀前半に提唱された.

◆周術期管理,手術器具,デバイスの進歩・発達,腹腔鏡下手術などの導入によって手術成績は向上している.

◆今後は,より繊細な転移診断法などの導入によって胃温存が可能になると思われる.また,それが目指すゴールでもある.

結腸癌手術の温故知新

著者: 小倉直人 ,   筒井敦子 ,   三浦啓寿 ,   内藤正規 ,   中村隆俊 ,   佐藤武郎 ,   渡邊昌彦

ページ範囲:P.16 - P.21

【ポイント】

◆癌の手術は,手術の安全性,根治性,臓器機能温存,低侵襲性の順を追って発展してきた.

◆1993年に早期大腸癌に対して腹腔鏡下手術が報告されて以来,手術の標準化が進み,段階的に適応が拡大されている.

◆近年は,患者の満足度やQOL,整容性を重視することからも,腹腔鏡下手術が盛んに行われるようになってきている.

直腸癌手術の温故知新―肛門機能温存を中心に

著者: 横山雄一郎 ,   須並英二 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.22 - P.29

【ポイント】

◆20世紀半ばまで直腸癌に対する手術の基本はabdominoperineal resectionであった.

◆20世紀後半から肛門機能温存術は目覚ましく進歩した.

◆今後は直腸癌の手術は非侵襲的・機能温存の面で進歩していくと考えられる.

膵癌手術の温故知新

著者: 大塚隆生 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.30 - P.37

【ポイント】

◆膵癌手術は,膵頭十二指腸切除術などの術式の確立から拡大手術,そして標準手術と変遷して現在へ至っている.

◆現在の膵癌の標準手術は,膵切除と1,2群リンパ節郭清,R0を得るための後腹膜組織切除と上腸間膜動脈周囲神経叢半周切除,必要時の門脈合併切除である.

◆現行の標準的治療(標準手術+術後補助化学療法)でも膵癌の予後は不良であるため,現在は術前補助化学療法の効果に期待が寄せられ,臨床試験が進められている.

肝門部胆管癌手術の温故知新

著者: 清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚將之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   鈴木大亮 ,   中島正之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.38 - P.42

【ポイント】

◆肝門部胆管癌に対しては治癒切除が唯一の根治性が得られる治療法であるため,これまで,安全な,かつ根治が得られるstrategyが積極的に追求されてきた.

◆肝門部の緻密な外科解剖の研究をはじめ,尾状葉切除の必要性,術前門脈塞栓術,さらには,肝門部血管合併切除は,わが国から世界に向けて発信された誇るべき業績であり,肝門部胆管癌の外科切除の安全性,根治性を向上させるうえで大きな意味をもった.

◆現在では拡大肝葉切除と尾状葉切除が肝門部胆管癌の外科切除のスタンダードになっているが,適切な術前処置と術後のきめ細かい周術期管理が手術を成功に導く重要なポイントと考える.

胆囊癌手術の温故知新

著者: 島津元秀 ,   河地茂行 ,   千葉斉一 ,   高野公徳 ,   富田晃一 ,   佐野達

ページ範囲:P.43 - P.47

【ポイント】

◆T1胆囊癌は診断さえ正確であれば単純胆摘術で治癒しうる.したがって,術前の深達度診断の精度を上げることが単純胆摘術の適応を決定するために必要である.

◆T2胆囊癌に対する標準術式は,胆囊床肝切除と2群リンパ節郭清(D2)を行う術式である.これに胆管切除を付加するか否かは施設によって方針が異なるが,ルーチンに胆管切除を行うことを支持するエビデンスはない.

◆T3・T4胆囊癌に標準術式はなく,個々の症例でR0手術を達成するための術式を立案しなければならない.そのためにはMDCTを主軸とする画像診断で進展様式や浸潤臓器を正確に把握する必要がある.

〔術式別〕

膵頭十二指腸切除術の温故知新

著者: 田島秀浩 ,   北川裕久 ,   牧野勇 ,   林泰寛 ,   中川原寿俊 ,   宮下知治 ,   高村博之 ,   太田哲生

ページ範囲:P.48 - P.52

【ポイント】

◆膵頭十二指腸切除術(PD)は19世紀末に始まり,再建方法,膵消化管吻合法および切除範囲を中心に様々な変遷を経て現在に至っている.

◆膵消化管吻合はいまだに手技が統一されておらず,ドレナージおよび再建方法も最良の方法は確立していない.

◆われわれでは腹側膵領域の膵頭部癌に対してmesopancreatoduodenum(meso-PD)を意識した幽門輪温存PD(PPPD)を基本とし,症例を選んでSMA神経叢全周性郭清やSMA合併切除を行っている.

肝切除術の温故知新―時代変遷と現在の標準手術,肝門部グリソン鞘一括処理法

著者: 山本雅一 ,   片桐聡 ,   有泉俊一

ページ範囲:P.54 - P.59

【ポイント】

◆肝臓脈管処理法として,肝十二指腸間膜内個別脈管処理法,肝門部グリソン鞘一括処理法,肝離断先行脈管処理法がある.

◆肝門部グリソン鞘一括処理は肝内グリソン鞘枝(グリソン鞘3次分枝)へのアプローチも可能で,亜区域レベルの解剖学的肝切除に応用が可能である.

◆肝離断方法,Pringle法,肝下部下大静脈クランプ法,腹腔鏡下肝切除などには多くのcontroversyが存在する.今後も様々な工夫がなされることで肝切除成績はさらに向上することが期待される.

肝移植手術の温故知新―標準化と克服するべき問題点

著者: 上本伸二

ページ範囲:P.60 - P.65

【ポイント】

◆成人生体肝移植におけるグラフト選択においては,ドナーの安全性を十分に考慮する.

◆門脈血栓症例では術前の画像診断で血栓の広がりと側副血行路の状態を把握しておくことが大切である.

◆Budd-Chiari症候群の肝移植においては,病変部である横隔膜部の下大静脈を静脈吻合に用いない.

胃癌手術のロジック-発生・解剖・そして郭清・3

胃癌リンパ郭清 2つの制約

著者: 篠原尚 ,   春田周宇介

ページ範囲:P.66 - P.77

17 図11(第2回連載)で投げかけた問いをもう一度繰り返す.なぜこれほどまでに,腸間膜の剝離可能層ということにこだわるのか.

 担癌臓器の固有腸間膜が胎生5週頃のような単純なヒダ構造を保持していれば,リンパ郭清は「腹膜」というカバーを付けたまま中間脂肪層を主幹動脈基部で切り落とせば事足りる.切り口だけは脂肪がむき出しになるが,これはやむを得ない.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・8

食道がんの手術―鏡視下手術は利点があるか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.78 - P.81

素朴な疑問

 食道切除は大がかりな手術であり,肺炎のような術後合併症が多い.肺がんの胸腔鏡下手術や胃がんの腹腔鏡下手術のように,食道がんにも胸腔鏡や腹腔鏡を利用できるが,食道切除を鏡視下手術で行うと術後合併症や手術死亡は減るだろうか.患者の満足度は高いだろうか.食道がんの根治性や長期成績は問題ないだろうか.

病院めぐり

東北厚生年金病院外科

著者: 中村隆司

ページ範囲:P.82 - P.82

 当院の前身である健康保険宮城第一病院の開設から約65年が経ちます.昭和57年に仙台市東部の七北田川河口近くに移転し,総合病院となってちょうど30年となりました.病床数約440床,医師数88名の仙台市東部の基幹病院として,仙台市内のみならず,近隣の多賀城市,利府町,七ヶ浜町,松島町から東松島町まで広いエリアをカバーしています.基幹型臨床研修指定病院として毎年,研修医を受け入れており,がん診療連携拠点病院,また,多くの学会の修練施設として東北大学と密接な関係を保ちながら,日夜,診療・研究に励んでいます.

 残念ながら平成23年3月11日の東日本大震災で大きな被害を受け,一時,病院を閉鎖せざるをえませんでしたが,医師,看護師をはじめ,スタッフ全員が一人も脱落せずに同月末に病院機能を一部再開し,同年9月には全病棟を再開することができました.今では入院,外来とも完全に震災前と同じレベルで診療を行っています.仙台市や七ヶ浜などの沿岸部はいまだ住民が戻っておらず,若干の患者数の減少はみられるものの,毎日手術にあけくれる日常を取り戻しつつあり,仕事(手術)ができるありがたさをスタッフ全員がしみじみと感じているところです.

臨床研究

当科における直腸癌局所再発症例の治療成績と集学的治療戦略

著者: 熊野秀俊 ,   堀江久永 ,   清水徹一郎 ,   鯉沼広治 ,   宮倉安幸 ,   安田是和

ページ範囲:P.83 - P.88

要旨

1994~2008年に自治医科大学消化器一般外科で根治手術が行われた直腸癌541例中,局所再発した23例の治療成績を解析し治療戦略を考察した.10例(43%)に再発巣切除が施行されていた.切除例は非切除例より再発後生存日数が延長していた.再発形式を3 type(A:骨盤壁に浸潤,B:骨盤内臓器浸潤,C:吻合部近傍)に分類すると,切除率はそれぞれ15%,71%,100%で,生存期間もtype A,Bに比べCが有意に長かった.よってtype Cは手術を中心とした治療,type Bは手術と全身化学療法,type Aでは全身化学療法に重点を置いた治療が必要と考えられた.また,治療成績の再発type別検討は治療戦略の考察に有用と思われた.

臨床報告

多発胃転移をきたした直腸印環細胞癌の1例

著者: 畠達夫 ,   鶴田好彦 ,   髙森繁 ,   宍倉有里

ページ範囲:P.89 - P.93

要旨

患者は62歳,男性.直腸癌に対して腹会陰式直腸切断術を施行した.総合所見はRab,type 5,sig,pA,pN0,M0,pRM1,R1,CurB,StageⅡであった.術後にカペシタビンを6か月間内服したが,腫瘍マーカーが上昇傾向となったため全身精査を施行したところ,胃内に多発する粘膜下腫瘍を認め,生検で印環細胞癌が検出された.多発胃転移と診断し,FOLFIRI+ベバシズマブによる全身化学療法を開始した.いったん腫瘍マーカーは低下したが,その後,病状は急速に進行し,癌性腹膜炎で癌死した.文献的考察の結果では直腸原発の転移性胃腫瘍はきわめて稀で,その半数以上は印環細胞癌であった.予後はきわめて不良であり,胃切除による延命効果も明らかでなかった.

内視鏡的粘膜切除術(EMR)後の局所再発に対して手術を施行した食道類基底細胞癌の1例

著者: 中村威 ,   中川基人 ,   小柳和夫 ,   金井歳雄

ページ範囲:P.94 - P.99

要旨

患者は65歳,男性.胃癌検診で下部食道に異常陰影を指摘された.内視鏡の生検診断から0-Ⅰp型食道扁平上皮癌と診断して内視鏡的粘膜切除術(EMR)を施行した.病理診断で類基底細胞癌と診断して経過観察していたが,EMR施行後5年目に局所再発を認め,外科的切除を施行した.EMRで根治を期待できる症例と考えたが,局所再発をきたし,類基底細胞癌に対する内視鏡治療の困難性が示唆された.類基底細胞癌との診断がつけば,外科的切除が必要と考えられた.

腹腔鏡下手術を施行した胃神経鞘腫の1例

著者: 早川朋宏 ,   松谷毅 ,   平方敦史 ,   吉田寛 ,   笹島耕二 ,   内田英二

ページ範囲:P.100 - P.104

要旨

患者は49歳,男性.上部消化管内視鏡検査で胃体中部大彎後壁にbridging foldと,頂部に中心陥凹を伴った粘膜下腫瘍を認めた.胃平滑筋腫とGISTを疑った.術中,腫瘍は胃後壁から壁外性に突出し,結腸間膜と高度の癒着を認めた.腹腔鏡下幽門側胃切除術およびRoux-en Y再建を施行した.切除標本の組織学的検査では紡錐細胞が束状配列に増殖しており,核のpalisadingを認めた.免疫染色ではS-100蛋白陽性,c-kit,CD34陰性,MIB-1 index 5%未満であったことから胃良性神経鞘腫と診断した.本症例の腫瘍径は5cm以上で悪性神経鞘腫を否定できなかったため,リンパ節郭清を伴う胃切除が必要であった.腹腔鏡下手術を施行したことで過度の手術侵襲を加えることなく診断・治療を行うことが可能であった.

左乳癌術後18年目の巨大腋窩リンパ節再発に対して外科的切除術を施行した1例

著者: 吉川祐輔 ,   川口正春 ,   亀山哲章 ,   冨田眞人 ,   三橋宏章 ,   大渕徹

ページ範囲:P.105 - P.108

要旨

患者は81歳,女性.1992年に左乳癌に対して定型的乳房切除術を施行された.2010年6月に左腋窩の巨大腫瘍を主訴に受診し,左乳癌の腋窩リンパ節再発と診断した.明らかな遠隔転移を認めず,内分泌療法を開始した.病変はSDであったが,腫瘍の疼痛と悪臭によるQOLの低下が著しく,2011年5月に手術を施行した.病理はinvasive ductal carcinomaであった.術後経過は良好で,現在までに再発はなく,QOLの向上を認めた.乳癌では術後長期間経過してからの再発・転移に関する報告が散見される.しかし,術後15年以上経過してからの再発症例において外科的切除が施行されたものは比較的稀と考えられた.

Crohn病に合併した痔瘻癌の2例

著者: 櫻庭伸悟 ,   諸橋一 ,   坂本義之 ,   小山基 ,   村田暁彦 ,   袴田健一

ページ範囲:P.109 - P.113

要旨

症例1は43歳,男性.19歳でCrohn病と肛門病変を発症し,病悩期間24年目に痔瘻に伴う肛門狭窄と直腸周囲膿瘍を認めた.全身麻酔下に肛門狭窄部の組織診断を行い,粘液癌の確定診断を得て,後日に骨盤内臓全摘術を施行した.症例2は39歳,男性.19歳でCrohn病と痔瘻を発症し,病脳期間19年目に難治性痔瘻部の腫瘤形成を認めた.生検で粘液癌の診断を得て,腹会陰式直腸切断術を施行した.本疾患では早期診断が困難であることから,広範囲に浸潤している進行癌症例が多い.手術は広範囲切除の術式や姑息手術が多く選択され,その予後は不良である.

自然気胸手術の切除標本で発見された肺癌の1例

著者: 伊藤哲思 ,   川崎徳仁 ,   木下雅雄 ,   鴈野秀明 ,   鄭子文 ,   池田徳彦

ページ範囲:P.114 - P.118

要旨

自然気胸で発症し,切除標本で偶然発見された肺癌の1例を経験した.患者は62歳,男性で,自然気胸の診断で当院を紹介された.ドレナージ治療では軽快せず,手術となった.術中は特に異常所見を認めなかったが,切除標本で肺癌を認めたため,後日,左上葉切除術およびリンパ節郭清術を施行した.自然気胸で発症し,切除標本で偶然発見された肺癌症例はきわめて稀であるが,特異な浸潤形態を示す例もあり,病期Ⅰ期であっても必ずしも予後が良好とはいえない.40歳以上の自然気胸症例ではつねに肺癌の合併を念頭に置いておくべきである.

学会告知板

第67回手術手技研究会

ページ範囲:P.9 - P.9

会 期:2013年5月17日(金)~5月18日(土)

会 場:札幌プリンスホテル 国際館パミール

    〒060-8615札幌市中央区南2条西11丁目

    Tel:011-241-1111

ひとやすみ・94

輸血と献血

著者: 中川国利

ページ範囲:P.21 - P.21

 日本における献血制度は,1964年にライシャワー駐日アメリカ大使が暴漢に刺され,売血による輸血後肝炎を発症したことを契機に確立された.以後,手術を行うわれわれ外科医は大いなる恩恵を受けてきた.常日頃仕事で血液を使う立場で経験した,輸血に関連した話題を提供したい.

 今から35年ほど前の研修医時代のことであるが,交通事故で肝破裂をきたした患者さんが救急搬送されてきた.緊急手術を施行したら,腹腔内に大量の血液が貯留し,肝臓からの出血も続いていた.大量輸血が必要であったが,血液センターからの血液供給には限界があった.そこで外科のボスは,航空自衛隊基地がある町の知り合いの町長に直接電話を掛けた.その町長からの要請に応じ,深夜にもかかわらず制服姿の屈強な若者が100人ほど駆けつけてきた.われわれ研修医はベッドに2人ずつ寝かせ,200mLバッグに入るだけ採血した.そして,全血交差試験しただけで次々と手術室へ運び輸血した.

1200字通信・48

還暦を迎えて

著者: 板野聡

ページ範囲:P.99 - P.99

 今年,2013年の誕生日で私も満60歳になります.この1月1日で数えでは61歳,生まれた年の干支に戻ることから還暦を迎えるわけですが,厚かましいことを承知の上で,まだまだ若いつもりでもあり,「自分が還暦を迎えるとは」というのが本音ではあります.

 古来,60年で再び生まれた年の干支(私は癸巳)に還る(十干と十二支の最小公倍数が60)ということから,数えの61歳をもって還暦とする習わしですが,最近は長寿社会となり,還暦程度ではあまり大袈裟にお祝いすることもなさそうです.ましてや,赤い衣装(赤ちゃん?)で宮参りをする風習もあるようですが,御辞退したいことです.

昨日の患者

愛を取り持つエンジェル

著者: 中川国利

ページ範囲:P.108 - P.108

 病院には様々な職種や家庭環境の患者さんが来院する.医療に従事するわれわれ医師はただ診療を行うだけであるが,時に患者さんの人生をも大きく変革する機会を与えることがあるものである.

 40歳代後半のMさんが,右上腹部痛を主訴として紹介されてきた.精査の結果,急性胆囊炎と判明したため手術を勧めた.しかし,「仕事が多忙で入院はできません」と頑強に手術を拒否した.そこで,鎮痛剤と抗菌薬を処方した.しかし,翌朝の深夜2時,激痛に耐えかねて再び来院した.今度は素直に入院を受け入れ,緊急手術を施行することにした.

書評

―田中まゆみ(著)―研修医のためのリスクマネジメントの鉄則―日常臨床でトラブルをどう防ぐのか?

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.118 - P.118

 このたび医学書院から,田中まゆみ先生(大阪市にある北野病院は京都大学医学部の関連病院で,その病院の総合内科部長をなさっている)の『研修医のためのリスクマネジメントの鉄則――日常臨床でトラブルをどう防ぐのか?』というA5判168ページの本が出版された.

 田中まゆみ医師は,京都大学医学部卒業後,京大大学院を出て,ボストンのマサチューセッツ総合病院で研修を受け,さらにボストン大学公衆衛生大学院を修了し,帰国後,聖路加国際病院の総合臨床外来を経て,現在は北野病院総合内科部長として勤務している.

―白日高歩(著)川原克信(執筆協力)―呼吸器外科手術のすべて

著者: 池田徳彦

ページ範囲:P.120 - P.120

 白日高歩先生の『呼吸器外科手術のすべて』がこのほど医学書院から出版され,僭越ながら書評を述べさせていただく機会を得たことを誠に光栄に感じております.本書は題名にふさわしく,新旧も含め,呼吸器外科に関するあらゆる技術と知識が網羅され,加えて,一挙手一投足まで直接手ほどきを受けているように,理解しやすい内容であることを強調させていただきます.白日先生が多くの後進の育成に当たられ,その蓄積された指導経験の賜物と感銘を受けました.

 本書は白日先生がお一人で執筆されたため,多数の執筆者の共同作業にありがちな内容の重複や相違がなく,一貫して明解,簡潔な記載となっています.そして膨大な呼吸器外科の内容を的確な視点の基に50項目に分割し,合計556点の質の高いイラストを用いて,特に手術の山場となる点,合併症回避に留意すべき点に関しては,非常に丹念な記述がされています.

―加納宣康(監修)三毛牧夫(著)―腹腔鏡下大腸癌手術―発生からみた筋膜解剖に基づく手術手技

著者: 山口茂樹

ページ範囲:P.121 - P.121

 本書『腹腔鏡下大腸癌手術――発生からみた筋膜解剖に基づく手術手技』は,著者の三毛牧夫先生の大腸癌手術,特に臨床解剖に対する熱い情熱のこもった一冊である.以前どこかで感じたことのある,本書の読後のこの感覚は,しばしば本文で登場する故・高橋孝先生が長く在籍された癌研病院で味わったものと似ている.私は出身教室での研修を修了してすぐに癌研病院で研修する機会を得たが,どのスタッフも手術に関してこだわりがあり妥協がない.時には激しく口論し意見を戦わせていた.本書を読んでそのときの懐かしい感覚と,長年こだわりの手術を積み重ねてこられた三毛先生の情熱が重なって感じられた.

 内容を見ると,特に左側結腸と直腸の筋膜,剝離層について多くのページが割かれている.特にToldtの癒合筋膜の癒着不全状態であるS状結腸窩について,私自身も認識はあるものの,これだけ詳細に記載されたものは今までみたことがない.また一般に腹膜を裏打ちする筋膜とされる腹膜下筋膜subperitoneal fasciaと直腸間膜を包み込む直腸固有筋膜は現在の大腸癌手術の剝離層の指標として最も重要な筋膜であるが,これらについて発生学的な見地と実際の手術の経験から独自の理論が展開されている.最近の組織学的検討や,ビデオによる剝離層の議論により標準的な術式はかなり洗練されてきている感があるが,術中見えていない部分の解剖,特に筋膜の連続性,非連続性についてはまだまだ検討の余地がある.

―池田健次(編)―肝癌診療ハンドブック―ケースで学ぶ集学的治療のコツとセンス

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.122 - P.122

 “肝癌診療ハンドブック―ケースで学ぶ集学的治療のコツとセンス”という,肝癌治療の最新情報が載せられたユニークなハンドブックが出版された.本書は虎の門病院肝臓センターの池田健次氏が編集責任者であり,虎の門病院肝臓センターの肝臓病専門医により執筆されている.本邦の肝癌発症はそのほとんどを占めるC型肝炎が背景の肝癌であり,肝炎および肝硬変患者さんのフォローアップにおける肝癌発症の診断およびその治療というところにポイントを置いたことに本書の特徴が良く表れている.これまで虎の門病院の池田健次先生を中心とした肝臓チームは,肝炎および肝硬変さらには肝癌への移行に関して極めて多くの優れた業績を残しており,そのチームで実際行われてきた肝癌診断および治療の経験症例数は膨大なものである.したがって,彼らによってこれまで培われてきた肝癌診療における高い臨床能力レベルが本書において存分に発揮されたものとなっている.

 特に,本書の構成において特徴として挙げられる点が2つある.1つが,実際のケースを提示していくことにより,実地臨床においてどのような診療手順で肝癌の診断および治療を各症例毎に進めているのかを,具体的に解りやすく示してくれている点である.このケースカンファレンス形式での提示は,特に若い読者には肝癌診療にあたっての考え方を学ぶ最良の教材となってくるであろう.読者にとっては,実際に虎の門病院肝臓センターで臨床研修をするのと同じ臨場感で学ぶことが可能かもしれない.さらにもう1つの特徴が,「Take home message」として最新の膨大な情報の中,著者らが特に強調しておきたい実地診療上のコツ,ポイントを解りやすく記載している点である.この2つの特徴により本書が従来のものと異なり“読みやすさ理解しやすさ”で優れている点と思われる.

勤務医コラム・44

専門医試験―私の場合

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.119 - P.119

 今はどういうシステムになっているのか知りませんが,草創期の消化器外科専門医試験はかなり難しかったです.博士号,論文,学会発表,術者経験などのハードルが色々あって,受験資格を得ること自体が大変だったという思い出があります.

 実際に受けに行ってみると,外科学会や消化器外科学会のパネリストとしてよくお見受けするような各大学の講師・助教授クラスの先生方がゴロゴロいて,自分も有名人の仲間入りをしたような錯覚に陥ったものです.「どこそこ大学助教授のだれそれ先生が落ちたらしい」などのウワサも飛びかって,生きた心地のしない二日間.その頃は毎日,手術手術で忙しく,当日朝の飛行機で会場へすべり込んだ.何の準備もしていない.実際,試験問題が公開されていないので,対策の打ちようもないのです.

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原稿募集 私の工夫-手術・処置・手順

ページ範囲:P.29 - P.29

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.104 - P.104

次号予告

ページ範囲:P.124 - P.124

投稿規定

ページ範囲:P.125 - P.126

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.127 - P.127

あとがき

著者: 島津元秀

ページ範囲:P.128 - P.128

 今月号では,消化器外科における手術術式の歴史的変遷・進歩が疾患別・術式別に解説されている.特にエポックとなった術式や手技などを振り返りながら,現在の標準術式が確立されるまでの過程,いまだ結論の出ていない術式に関するcontroversy,さらに今後の展望と提言などが述べられており,まさに消化器手術の「温故知新」となっている.「温故知新」とは言うまでもなく論語の為政篇にある「温故而知新,可以為師矣」から出た言葉である.現在では前半の「温故知新」だけが独立して,古いものにヒントを得て新しいものを生み出す,という意味で使われている.幾多の論語注釈書にも述べられているように,「温」の意味は重要であり,過去の歴史,古典を煮詰まって固まったスープにたとえて,それを温めなおして飲むように吟味し,現代に生かす新しい意味を知る,と解釈される.古典や文献の検索もじっくり温めるように熟読しなければ,新しい発想には結びつかないという戒めにつながっている.

 小生の恩師である故 青木春夫先生(藤田保健衛生大学名誉教授)は,「本質的に重要な研究テーマは歴史を超えて不変であるから,古いテーマでも一定の周期で起こる技術革新や新概念の登場によってまた最先端のテーマに生まれ変わる.だから研究の継続性が大事だ」と語っていた.「温故知新」を具現化した研究態度を示して,論語後半の「可以為師矣」(以て師と為るべし)をご自身に重ねていたことであろう.また,やはり恩師である阿部令彦先生(慶應義塾大学名誉教授)の退任記念誌は,拙著論文を含む,先生が指導をされた学位論文を集めて編纂したものであり,そのタイトルは「故きを温め,新しきを知るために」であった.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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