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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科68巻10号

2013年10月発行

雑誌目次

特集 次代の外科専門医をめざしたトレーニングシステム

ページ範囲:P.1149 - P.1149

 一昔前は,一人前の外科医になるためにはまず鉤引きから入り,糸結びを取得し,ヘモ,ヘルニア,アッペを経験し,その後,胆摘,さらに早期胃癌に対する胃切除という誰しもが認める流れがあった.昨今,術式そのものが変化し,開腹による胆摘は激減し,早期胃癌も腹腔鏡下手術が主になりつつある.そのような流れの中で,外科専門医をめざす若手をどのようにトレーニングするかは指導医の大きな悩みになっているのではないだろうか.

 本特集では,各施設で実際にどのような流れで教育しているかを示していただき,各論では手術中の指導ポイントを記述していただいた.研修指定病院や外科学会認定施設の指導医へのヒントになり,また,これから外科専門医をめざす若手医師には重要なポイントが理解できることと思う.さらに,技術面にとどまらない,先輩医師たちからのメッセージもぜひお読みいただきたい.

総論

外科専門医の概要

著者: 梛野正人

ページ範囲:P.1150 - P.1153

【ポイント】

◆外科専門医制度は,日本外科学会,日本消化器外科学会,日本小児外科学会,日本胸部外科学会,日本心臓血管外科学会,日本血管外科学会,日本呼吸器外科学会の7学会が,その合意のもとに共通の基盤として立ち上げた制度である.

◆National Clinical Database(NCD)は外科系専門医制度と密接にリンクしている.今後,外科系専門医の新規申請や更新に必要な症例はNCDに登録した症例のみに限られる.

◆本法の専門医制度には,①至適専門医数の設定がなされていない,②研修プログラム,研修期間,資格認定が統一されていない,③専門医取得者および専門医取得者が勤務する医療機関にメリットがないなどの問題点がある.

各施設の外科研修プログラム

聖路加国際病院

著者: 小野寺久

ページ範囲:P.1154 - P.1159

【ポイント】

◆研修の基本は屋根瓦方式である.すぐ上の先輩が,自分の歩みを振り返りながら具体的かつ丁寧に後輩を教える.

◆研修は病院の組織全体で責任をもつ体制を築く.各種委員会には研修医代表も参加し,研修現場の意見が反映されやすい環境づくりをする.

◆研修終了後の進路も親身になって相談を行う.海外の病院への留学や臨床研究への展開も支援している.

沖縄県立中部病院

著者: 村上隆啓 ,   加藤崇 ,   中須昭雄 ,   八幡浩信 ,   嵩下英次郎 ,   安元浩 ,   天願俊穂 ,   上田真 ,   福里吉充 ,   嘉陽宗史 ,   𤘩宮城正典 ,   本竹秀光

ページ範囲:P.1160 - P.1164

【ポイント】

◆重症軽症を問わず,全身を診て,患者背景をふまえた“正しい外科治療”を行う一般外科医を育成する.

◆専門領域にとらわれず,すべての外科系疾患に対し,その診断と治療に精通した一般外科医を育成する.

◆患者に一番近いところで外科研修が行える“場”を,適切な指導体制のもとに,安全かつ継続的に提供する.

亀田総合病院―少数精鋭主義で,厳しさを求める若者の期待に応える

著者: 加納宣康

ページ範囲:P.1166 - P.1171

【ポイント】

◆厳しい外科トレーニングで若者を惹きつける.若者は厳しさを楽しめ.

◆Open surgeryとendoscopic surgeryの並行教育.これが現代では当たり前.

◆術者としてのearly exposure.誰でも早くから術者になりたい.

天理よろづ相談所病院

著者: 吉村玄浩 ,   古山裕章 ,   浅生義人 ,   上田裕一

ページ範囲:P.1173 - P.1177

【ポイント】

◆卒後初期臨床研修中は内科・外科研修・救急診療を通じて医師としての幅広い見識・管理能力を習得させる.

◆日本外科学会の外科専門医修練カリキュラムの到達目標に準拠し,知・情・技を兼ね備えた外科医を育てる.

◆外科専門医取得後,消化器外科専門医をめざす医師を対象に2~3年間のFellowshipを設ける.

各論

ヘモ

著者: 妙中直之

ページ範囲:P.1178 - P.1181

【ポイント】

◆意識下での手術のため,患者に不安感を与える会話,態度は禁物である.術中に指導者に教えを請わないよう,十分に手術手順を理解しておく必要がある.

◆術野が狭く,器具の挿入方向が限られているため,出血がその後の手術に大きく影響する.組織は常に愛護的に扱い,極力出血させないよう意識する.

◆肛門の働きは非常に微妙かつ繊細なものだといえる.できるだけ組織を温存する侵襲の少ない手術を行うことを心がける.

鼠径ヘルニア

著者: 伊藤契

ページ範囲:P.1182 - P.1189

【ポイント】

◆鼠径ヘルニア手術は簡単な手術ではない.臨床解剖を把握し,基本的手術手技を駆使し,手順良く進めて初めて完遂できるものである.

◆手術参加のときには,先輩の手術操作をよく見ておこう.その手術操作一つ一つには理由があるはずである.

◆膨潤局所麻酔下,前方アプローチ,腹膜前腔修復について,注意点,操作の要点,考え方について詳述した.

アッペ

著者: 野村幸博 ,   永井元樹 ,   田中信孝

ページ範囲:P.1190 - P.1193

【ポイント】

◆虫垂炎はほとんどが緊急症例であるので,術前診断の段階から指導医が積極的にかかわるべきである.

◆開腹では術野を共有しにくいので適宜術者を交代しながら手術を進める.腹腔鏡ではモニターを指し示しながら指導できる.

◆開腹はon-the-jobトレーニングが中心となり,腹腔鏡はそれに加えてシミュレーターやドライ・ラボでのトレーニングが可能である.

胆摘

著者: 蜂須賀丈博 ,   坂田和規 ,   末永泰人 ,   倉田信彦 ,   筒山将之 ,   梅田晋一 ,   松村卓樹 ,   江坂和大 ,   寺本仁 ,   鹿野敏雄 ,   服部圭祐 ,   水野豊 ,   森敏宏 ,   篠原正彦 ,   宮内正之

ページ範囲:P.1194 - P.1200

【ポイント】

◆胆囊摘出術は,胆管奇形や炎症により非常に困難な症例が存在するため,十分な術前準備(解剖や手順の理解,スケジュール管理,メンバー選定など)を行うことが肝要である.

◆特に腹腔鏡下胆囊摘出術では,シミュレーショントレーニングや動物,Cadaverを用いた術前トレーニングが必須である.

◆「胆摘は難しい手術だ」と肝に銘じ,少しできるようになったときに決して油断しないように,胆摘術を行うべきである.

胃切除術

著者: 篠原尚 ,   春田周宇介 ,   百瀬洸太 ,   李世翼 ,   上野正紀 ,   宇田川晴司

ページ範囲:P.1202 - P.1206

【ポイント】

◆手術の流れを頭の中でシミュレーションするair surgeryや縫合結紮練習器具などを使ったdry surgeryで,来たるべき術者デビューに備えよう.

◆腹腔鏡下手術の助手は多くのことを学ぶチャンス.自分が入った手術ビデオは必ず見直し,編集してみよう.

◆開腹手術の執刀機会には,適切なカウンタートラクションによる“凛とした術野”や剥離操作のダイナミズムを習得しよう.

結腸切除術

著者: 佐々木愼

ページ範囲:P.1207 - P.1213

【ポイント】

◆指導者としては初期教育の重要性を認識し,ルーチンワークとして徹底させる部分,基本以外は本人のスタイルに任せる部分,決して行ってはいけない部分を意識して指導することが必要である.

◆手術に入る際の若手には,手術のシミュレーションを術前から十分に行っておくことが求められる.

◆術者の資質には手術手技的な部分だけではなく,患者・家族あるいは他職種との良好なコミュニケーションや日々のきちんとした仕事遂行なども求められる.

必見! 完全体腔内再建の極意・7

―胃全摘術後再建―Roux-en Y再建―サーキュラー・ステイプラーを用いた再建(経口的アンビル挿入法)

著者: 民上真也 ,   福永哲 ,   榎本武治 ,   松下恒久 ,   久恒靖人 ,   天神和美 ,   野田顕義 ,   佐治攻 ,   大坪毅人

ページ範囲:P.1214 - P.1219

■■はじめに

 腹腔鏡下胃全摘術後における再建は,視野展開や手技が煩雑なため難易度が高く,より安全で簡略化された手技の確立が望まれる.当科では経口的アンビル(OrVilTM)挿入法による食道空腸吻合1~4),およびリニア・ステイプラーを用いたY脚部空腸パウチ付加のRoux-en Y再建4)を行い,手技の定型化を図っている.本稿では上記手技のコツとピットフォールについて概説する.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・17

閉塞性大腸がん―腸閉塞にステントは有用か

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.1220 - P.1223

素朴な疑問

 腸閉塞で発症した大腸がんは,糞便の貯留や腸管壁の浮腫があり,緊急手術で腸管吻合を行うのは危険である.以前は病巣切除と腸管吻合を別の日に行う二期的手術が主流であったが,最近は内視鏡下ステントで腸管を減圧したあと一期的に切除と再建を行う方法がある.緊急手術は不要になるのだろうか.ステント挿入にトラブルはないだろうか.

病院めぐり

山陰労災病院外科

著者: 野坂仁愛

ページ範囲:P.1224 - P.1224

 山陰労災病院は鳥取県の西部にある米子市皆生に位置し,当時の政策である労災病院グループの1つとして1963年(昭和38年)に設立されました.今年創立50周年を迎え,現在に至っております.設立当時の病床数は200床で,現在は383床です.当院の理念は,患者に信頼される,優しい,効率のよい医療です.

 手術症例数としては,10年前は年間500症例の前半の数でしたが,この2年は年間600症例を超す勢いです.手術内容ですが,山陰労災病院40年誌に記したように,腹腔鏡下の手術が年間全症例数の半数を超えています.胃,大腸,胆囊はもちろんですが,特に鼠径ヘルニア,虫垂炎のほとんどの症例が腹腔鏡下の手術になったことは特筆に値することでしょう.術後の傷がほとんど残らないこと,術後数日で退院など,従来の術後1週間で抜糸のうえ退院ということからすれば画期的なことでしょう.今後もその流れはとどまることなく進んでいくと思われます.わが外科はその流れに遅れることなく乗り,患者さんのためになる医療を実践していく所存です.次の60年目が楽しみです.

臨床研究

肛門手術における前立腺肥大症と術後尿閉の関連

著者: 矢野孝明 ,   田中荘一 ,   尾田典隆 ,   浅野道雄 ,   川上和彦 ,   松田保秀

ページ範囲:P.1225 - P.1228

要旨

〔目的〕肛門手術の合併症の1つとして術後尿閉はよく知られている.近年,整形外科の領域でその発生には前立腺肥大症の程度(国際前立腺症状スコア:IPSS)が関与するとの報告があった.そこで,われわれは痔核手術後の尿閉について検証した.〔対象と方法〕痔核結紮切除術を施行した170症例を対象とし,後ろ向きのケースコントロール研究を行った.検討項目はIPSS,QOL,熟練度,年齢,Goligher因子,LE(ligation & excision)個数,麻酔薬である.〔結果〕多変量解析の結果,LE個数とIPSSが術後尿閉の有意なリスク因子であった.〔結論〕前立腺肥大症の程度が術後尿閉の発生に影響を及ぼす可能性が示唆された.

臨床報告

右下腹部痛を契機に発見された肺癌虫垂転移の1例

著者: 大熊利之 ,   宮村俊一 ,   飯田伸一 ,   池上克徳 ,   本郷弘昭 ,   二村聡

ページ範囲:P.1229 - P.1232

要旨

症例は79歳,男性.右上葉肺癌(pStage ⅢA)術後約11か月時に右下腹部痛が出現し,当院呼吸器科を受診した.理学的に虫垂炎症状を,血液学的にCEAの上昇を認め,腹部造影CTにて回盲部に造影効果を有する腫瘤像を認めた.当科へ紹介後,大腸内視鏡検査で虫垂口から盲腸内腔に軽度突出する腫瘍を認め,内視鏡下生検でadenocarcinomaとの診断であった.そこで第一に原発性虫垂癌を考えたが,肺癌による転移性虫垂腫瘍も否定できなかった.回盲部切除術を施行し,術後の免疫染色も含めた病理組織学的検索にて肺癌の虫垂転移と診断された.肺癌術後の虫垂炎あるいは虫垂腫瘍に遭遇した際には,肺癌の虫垂転移を考慮し,PET-CTを含めた全身精査や術前に生検組織材料が得られれば免疫組織学的検索を行うことで術前に確定診断が得られ,治療方針の決定に有用であると考えられた.

腹腔鏡下直腸切断術後に腸間膜欠損部に生じた内ヘルニアによる絞扼性イレウスの1例

著者: 明石諭 ,   山田行重 ,   杉森志穂 ,   北野睦子 ,   吉川高志

ページ範囲:P.1233 - P.1236

要旨

症例は81歳,女性.直腸癌にて腹腔鏡下直腸切断術を施行した.上直腸動脈根部切離時に,下腸間膜動脈左側の腸間膜に欠損を生じた.人工肛門を腹腔内経路で挙上後,腹腔内を観察すると欠損部に小腸が入り込んでおり,これを戻しておいた.術後3か月に絞扼性イレウスにて手術を施行したところ,小腸がこの腸間膜欠損部に陥入して壊死に陥っていた.腹腔鏡下大腸切除時には腸間膜欠損部は後腹膜と接するため腸管が入り込むことは少ないといわれている.自験例では人工肛門を腹腔内経路で挙上したことで欠損部が開存したままとなり,内ヘルニアから絞扼性イレウスを発症しており,後腹膜経路で腸管挙上していればこれを防ぎえたと思われた.

腹腔鏡補助下切除術を施行したS状結腸MALTリンパ腫と胃癌を合併した1例

著者: 安田貴志 ,   角泰雄 ,   黒田大介 ,   長谷川寛 ,   富永正寛 ,   酒井康裕 ,   伊藤智雄 ,   掛地吉弘

ページ範囲:P.1237 - P.1241

要旨

患者は71歳,男性.検診の下部消化管内視鏡検査でS状結腸に2.5 cm大の粘膜下腫瘍を認め,生検でMALTリンパ腫と診断された.上部消化管内視鏡検査では胃体下部大彎に0-Ⅱc病変を認め,生検でpor2>sigと診断された.MALTリンパ腫に対してH. pylori除菌療法を行ったが腫瘍の消退を認めず,手術適応と判断して腹腔鏡補助下S状結腸切除術(D2)および幽門側胃切除術(D1+)を同時に施行した.MALTリンパ腫はpSM,pN0であった.大腸MALTリンパ腫に対して根治性を考えるなら現時点では外科的切除が推奨され,特にリンパ節郭清を伴う腹腔鏡補助下大腸切除術は有用と考えられる.

発生組織の同定に苦慮した腋窩副乳線維腺腫の2例

著者: 平井健清 ,   平井利明 ,   塩田麻理 ,   岡一雅

ページ範囲:P.1243 - P.1248

要旨

症例1は44歳,女性,右腋窩腫瘤で受診した.症例2は23歳,女性,左腋窩腫瘤を触知し受診した.ともに腋窩に隆起する皮下腫瘤を認め,良性腫瘍と判断し切除した結果,線維腺腫であった.症例1は副乳組織を認めず,estrogen receptorなどの免疫染色で乳腺由来を証明した.さらにマンモグラフィを再検討し,腫瘍周囲副乳像の固有乳腺との分離から副乳線維腺腫と判断した.症例2は術中に副乳組織に気付き,合併切除して組織学的に診断しえた.本疾患は安易に切除すると発生組織が同定できない可能性があり,注意するべきである.自験例を加えた本邦例を収集し検討した結果,腋窩腫瘤を診た場合,副乳由来良性腫瘍も念頭に置いての精査・診療が必要と考えられた.

中心壊死により小腸と瘻孔を形成した小腸GISTの1例

著者: 稲岡健一 ,   三輪高也 ,   福岡伴樹 ,   澤木康一 ,   山村義孝

ページ範囲:P.1249 - P.1254

要旨

29歳,男性.2か月前より続く腹痛があり受診した.CTで左側腹部に長径12 cmの内部にair-fluid levelを有する不整形腫瘤を認め,腹腔内膿瘍の診断で入院加療となった.保存治療で症状は改善し,小腸腫瘍,GISTなどを疑い待機手術とした.開腹すると空腸間膜に小児頭大の腫瘤を認め,小腸合併切除し腫瘤摘出術とした.腫瘤は小腸粘膜に瘻孔を形成し内部に壊死組織が貯留していた.c-kit陽性,核分裂像11/50 HPFであり小腸GIST高リスク群と判断した.腫瘍増大により中心壊死が生じ小腸と瘻孔を形成したことが内腔感染の原因と考えられ,腹腔内膿瘍の形態を呈した症例は少なく文献的考察を含めて報告する.

リウマチ性多発筋痛症を併発した早期胃癌の1例

著者: 尾辻和尊 ,   上田哲也 ,   吉澤奈央 ,   森田薫 ,   岩崎由希子 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1255 - P.1259

要旨

症例は生来健康な69歳,男性.上下肢の疼痛・可動域制限,発熱,四肢の浮腫を主訴に近医を受診した.進行性の貧血も認められたため,上部消化管内視鏡検査を行った.胃癌を疑う隆起性病変を指摘され,当科へ紹介された.精査の結果,リウマチ性多発筋痛症(PMR)またはparaneoplastic PMR syndromeと,胃癌の診断に至った.ステロイド内服を開始したところ,上下肢の疼痛・可動域制限は改善し,内服9日目に幽門側胃切除術を施行後,症状はさらに改善した.なお,病理診断はT1b(sm)の早期胃癌であった.PMRの悪性腫瘍併発は内科領域では広く知られているが,わが国での報告は少なく,本症例はPMRと早期胃癌の併発の報告としては本邦初と考えられる.

検診を契機に発見された長期経過を有する腋窩副乳癌の1例

著者: 平井健清 ,   平井利明 ,   塩田麻理 ,   岡一雅

ページ範囲:P.1260 - P.1264

要旨

症例は74歳の女性.乳癌検診にて,腋窩中央皮下に10年来自覚していた長径1.5 cmの腫瘤が認められた.マンモグラフィではX域上部に非対称性局所陰影があり,超音波検査では一部皮下に浸潤する低エコー腫瘤が認められた.切除生検の結果,副乳癌と診断され,局所広範囲切除と腋窩郭清を施行した.腋窩リンパ節転移はなく,緩徐な増殖を示した症例と考えられた.わが国の報告例を集計の結果,2000年以降に自験例を含めて8例の検診発見例があり,高齢化による腋窩副乳癌の増加傾向が認められた.2000年以降でも,皮膚浸潤,リンパ節転移が高率に認められることに変わりはなく,マンモグラフィ併用乳癌検診では腋窩にも留意して検診を行うことが必要と考えられた.

ひとやすみ・103

人生の岐路

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1165 - P.1165

 後で振り返ると,人生の大きな転換点になったと思われる選択が誰にでもあるものである.進学,就職,結婚など,人はその時々に悩みながらも選択し,自らの人生を歩み続ける.私の人生における大きな岐路を紹介したい.

 大学の医局に在職していた26年前,懇意に指導してくれた先輩が某基幹病院に赴任することになった.そして「一緒に敵地に乗り込み,大改革をやろう」と,私を誘ってくれた.教授からも,「付いて行ってもいいぞ.それとも仙台赤十字病院に行く手もあるが」と,某基幹病院への赴任を勧めながらも,私に選択の幅を持たせてくれた.

書評

―Robert M. Zollinger, Jr./E. Christopher Ellison(著)安達洋祐(訳)―ゾリンジャー外科手術アトラス

著者: 森正樹

ページ範囲:P.1172 - P.1172

 またまた安達洋祐先生がやってくれました.これまでに『消化器外科のエビデンス―気になる30誌から』(医学書院),『外科の「常識」―素朴な疑問50』(医学書院),『外科研修ハンドブック』(医学と看護社),『エビデンスで知るがんと死亡のリスク』(中外医学社)など,医師(特に外科医)や医療関係者の必読書となる本を出版してきた著者が,今回は外科手術書のバイブルである“Zollinger's Atlas of Surgical Operations, 9th ed”の日本語版を刊行しました.

 本書を手にした最初の感想は,「これだけの量の本を,よくもたった1人で翻訳できたものだ」ということでした.今までに多くの医学翻訳書が出版されていますが,これだけの量をただ1人で翻訳したものを見た記憶はありません.多人数での翻訳は,翻訳の仕方,語彙の用い方など,細かなところで統一性に欠けており,読みづらくなることが少なくありませんでした.本書の場合,安達先生の翻訳にかける迫力・執念を随所に感じながらも,楽しく読むことができます.それにしても1人での翻訳作業にはいかほどの時間を費やしたことか……,脱帽!

―竜 崇正(編著)―肝臓の外科解剖―門脈segmentationに基づく新たな肝区域の考え方(第2版)

著者: 藤元治朗

ページ範囲:P.1265 - P.1265

 私が竜崇正先生の『肝臓の外科解剖 第1版』を手にしたのはもう7,8年前になる.学会での竜先生のお話を拝聴した後すぐに買い求め,まさに「目からうろこ」であった.それまではHealeyおよびCouinaudの肝区域分類が中心であり,肝静脈を基にした「肝癌取扱い規約」の区域・亜区域分類が一般的であった.しかし実際の肝切除においては,肝臓外科医はこれらが実情に合わないことを経験的に察知していた.すなわち,S5-S8間,S6-S7の画一的な境界などあるべくもなく,また中肝静脈に沿ったmain portal fissureに沿い肝を切離し,右肝のいわゆる「前区域枝・後区域枝」分岐に達しても,必ずしも前区域枝は頭・尾側1本ずつに分岐せずさまざまな分岐形態を有し,またこれらをテーピングして阻血領域をみると,Couinaud分類とはかけ離れた症例が多々存在した.竜先生の本は大変新鮮で「ああ,こういうことだったのか」と納得させられる内容であった.

 2009年には日本語版の内容をさらに充実された英語版の『New Liver Anatomy』(Springer社)を発刊され,さらに今回,日本語では第2版となる本書を上梓された.

―坂井建雄(著)―解剖実習カラーテキスト

著者: 松村讓兒

ページ範囲:P.1266 - P.1266

 人体解剖学実習は,医学部・歯学部の教員であっても,これにかかわることのない方にとっては「別世界の話」であり,その認識は「解剖学実習はどこの大学でも同じ」というものであろう.しかし,実際の実習の進め方はそれぞれの大学・教室によって異なる.これについては,近年のカリキュラム改変による実習時間の削減や,学生定員増に伴う教員不足などによる影響もあるが,それ以上に歴代の解剖学実習担当者による創意・工夫が大きな理由である.

 このような解剖学実習のバリエーションに対し,従来,数多くの実習書が出版されてきた.いずれも著者によるさまざまな工夫が凝らされており,解剖学実習への思いが感じられる名著である.しかしながら,実際の実習で使用するとなると,必ずしも使いやすいとは言えない面があることも事実である.大学ごとの解剖手技やアプローチの違い,実習回数の違いなどにより,実習内容が振り分けしにくいためである.

昨日の患者

東日本大震災に被災した患者

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1189 - P.1189

 東日本大震災では地震による直接被害よりも,直後に襲った大津波による被害が甚大であった.そしてすでに2年が過ぎ去ったが,復興の道は遠く,いまだ被災者の避難生活が続いている.

 70歳代後半のSさんは,沿岸部で半農半漁を営んでいた.東日本大震災では辛うじて津波からは逃げることができたが,自宅を津波で流され,夫婦で避難所生活を送っていた.食欲不振が続くため検査を受けると,胃癌と診断された.しかもすでに多発性肝転移をきたしていた.そこで胃全摘出術を施行するとともに,術後に癌化学療法を行った.

学会告知板

第22回 肝病態生理研究会 演題募集

ページ範囲:P.1200 - P.1200

日 時:2014年5月31日(土)8:30~13:30(予定)

場 所:都市センターホテル

    〒102-0093東京都千代田区平河町2-4-1

    TEL 03-3265-8211(代表)

1200字通信・57

告知,その在り方

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1201 - P.1201

 前号は「アカンワケア」などについて書かせていただきましたが,癌化学療法や緩和ケアの実施に伴って,ご本人やご家族への病状や予後の説明が必須となり,「告知」の問題が取り上げられることになってきています.

 告知とは,「告げ知らせること.通知すること」と広辞苑にはありますが,医療界では“telling truth”ともいわれています.ただ,馬鹿が付くほど単純明快に「ありのままに真実を告げる」ことが告知ではないことは論を俟ちませんが,このことをよく理解し実践できてこその医療人であり,「告知」では医療者としての度量,人間力が試されることになります.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1254 - P.1254

投稿規定

ページ範囲:P.1267 - P.1268

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.1269 - P.1269

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1270 - P.1270

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.1272 - P.1272

 文字通り,うだる(“ような”ではない!)猛暑が続いている.ついに,日本国内で最高気温が観測史上初めて41℃に達し,かつ最高気温40℃超えが,これもまた史上初めて4日連続となった.東京では最低気温が30℃を下回らず,これも史上初めてとのことである.「暑い」話ばかりで恐縮だが,本号の特集もまた「熱い」内容となっている.外科指導者の若手に対する「熱い」気持ちのことである.もともと外科トレーニングは技術の伝承であり,徒弟関係になぞらえられた.指導的立場の外科医の医療技術(手技だけではない)を注意深く観察し,そして「まね」することが外科医トレーニングの始まりであった.ゆえに,その厳しさの程度は,ひとえに指導者の姿勢によったものである.筆者も,どちらかといえば徒弟関係で鍛えられた世代である.しかしながら,本号を拝読すると,システムとしての外科医トレーニングが定着しつつあることを感じる.ただ,施設(あるいは外科代表者)によって若干の違いはあるようだ.もしかすると,それは指導医の世代による違いかもしれない.その是非はともかく,そのシステムの中で,いかに厳しく,かつ温かく育てるかに苦心されているかが若手にも伝わることを期待したい.

 昨今,あらたな専門医制度をめざした動きが活発になっている.しかしながら,冒頭にもあるように,外科系は先人の尽力により,他に誇るべき専門医制度を構築してきた.若手もその下で,外科専門医そしてsubspeciality専門医をめざして奮闘しているのである.少なくとも,この制度を維持し,かつ若手にさらに魅力を感じてもらえるような外科医の環境を構築することが,われわれの責務であると痛感している.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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