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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科68巻11号

2013年10月発行

雑誌目次

特集 術前画像診断のポイントと術中解剖認識

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.3 - P.3

 われわれ外科医にとって,「系統解剖」とともに「外科解剖(surgical anatomy)」を熟知することは必須の要件であることはいうまでもありません.しかしながら患者個々において,また各臓器において,解剖のanomalyとともに「variation(変異)」も存在しており,これらを十分に認識しておくことは肝要です.さらに「癌」などの腫瘍は元より,様々の手術の対象となる病変の「存在」「広がり」「程度」「周辺組織との関係」などを十分に把握して,手術適応判断や手術術式設定,そして十分なback up(支援)体制の準備などの術前の対策が求められます.

 一方,PETなどの質的診断とともに,CT,MRI,造影超音波検査などの画像診断およびPET/CTなどそれらの組み合わせや,CT画像情報の再構築による3D-CTやCT colonographyなど,画像診断技術の進歩は最近目覚ましいものがあり,手術前の画像に基づく情報は格段に向上してきました.これらによって,術前に個々の患者における状況をより精緻に把握して手術に臨むことが可能となりましたが,このことは一方で,われわれ外科医にとっては詳細かつ高度な解剖の認識のもとで手術を施行することが求められているということです.

Ⅰ.食道

頸部食道癌

著者: 安田卓司

ページ範囲:P.6 - P.16

はじめに

 頸部食道癌においては,気管や喉頭への浸潤の有無や腫瘍口側上縁の高さは咽喉頭合併切除の適応を左右する.確かに,合併切除をすれば根治性や術後の安全性は高くなるが,反面,患者には発声機能を喪失するという大きな機能的代償を強いることになる.甲状腺や総頸動脈も合併切除可能な臓器であるが,後者では術前にWillis動脈輪の交通の評価をしておくことが推奨される.さらに,再建は通常,遊離空腸移植で,頸部の血管との吻合が必要であり,手術に際しては癌切除とともに移植床血管への配慮も求められる.

 以上を鑑み,本稿では,頸部食道癌の術前画像による喉頭温存の適応判断や周囲臓器へのT4診断を中心に,そのポイントを解説する.

胸部食道癌

著者: 宮崎達也 ,   宗田真 ,   酒井真 ,   本城裕章 ,   原圭吾 ,   小澤大悟 ,   横堀武彦 ,   桑野博行

ページ範囲:P.18 - P.23

術前に必要な基本の画像

 胸部食道癌の術前画像として必須の検査は,上部消化管内視鏡検査,頸部から腹部まで撮影した造影CTである.より詳細な情報を得るためには頸部,腹部の超音波検査,超音波内視鏡検査,体幹を撮影したFDG-PET検査,MRI,骨シンチグラフィが有用である(表1).気道系への浸潤が疑われる症例に対しては気管支鏡を行う必要もある.また,重複癌や再建臓器については頭頸部領域の喉頭ファイバースコープによる精査や,経鼻スコープを用いたバルサルバ法での下咽頭の観察,大腸内視鏡検査が必要である.

食道胃接合部癌

著者: 山下裕玄 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.24 - P.27

はじめに

 わが国における食道胃接合部癌とは,西分類の「食道胃接合部(EGJ)の上下2 cm以内に癌腫の中心があるもの」であり,食道癌取扱い規約第10版補訂版1),胃癌取扱い規約第14版2)のいずれにも明記されている.腫瘍の浸潤範囲によりE,EG,E=G,GE,Gと記載され,つまり食道にのみ腫瘍が存在するE,胃にのみ腫瘍が存在するG,2領域にまたがるEG,E=G,GEで構成される.組織型も扁平上皮癌,腺癌の2つが大部分を占めるが,この時点で「食道胃接合部癌」というものはheterogenousな集団であることがわかる.食道と胃のちょうど境界領域に存在するために,食道癌として扱うべきか,あるいは胃癌として扱うのが適切なのかが明らかとなっておらず,各症例ごとに医師が判断して術式・リンパ節郭清範囲を決めているのが現状であると推測される.つまり,同一疾患でありながら,食道外科と胃外科で異なる術式が選択される可能性があるということになる.

 食道胃接合部癌の診断基準および至適術式を検討することを目的とし,食道胃接合部癌ワーキンググループ(日本胃癌学会,日本食道学会合同,委員長:瀬戸泰之)が立ち上げられ,昨年には食道胃接合部癌に対する至適リンパ節郭清範囲を検討することを目的とした全国調査を行い,3,000例を超える症例が集積された.解析結果は近日報告される予定である.

食道癌の切除後再建

著者: 加藤広行 ,   中島政信 ,   里村仁志

ページ範囲:P.28 - P.33

はじめに

 食道切除後に代用食道として使用する臓器は,通常は胃であり1,2),胃全摘術後や胃切除術後,あるいは同時性重複胃癌の存在などの理由により胃が利用できない場合は小腸または結腸を用いる3).食道癌の再建に関する問題としては,再建臓器への腫瘍浸潤の危険性や,血流支配などによる術後の縫合不全,再建臓器の異時性癌発生のリスクなどが挙げられる.それらに対する対策として,術前に再建臓器の状態を把握しておくことは非常に重要である.

 本稿では,胃および結腸を中心に術前画像による評価と,術中の対応などについて概説する.

GERD―病態と手術適応

著者: 中島康晃 ,   河野辰幸 ,   川田研郎 ,   東海林裕 ,   熊谷洋一 ,   永井鑑

ページ範囲:P.35 - P.44

はじめに

 わが国において,食生活の欧米化,国民の肥満の増加傾向,H. pylori感染率の低下などに伴い,近年,逆流性食道炎の罹患率は増加傾向にある.今後は萎縮性胃炎に対するH. pylori除菌の保険適用拡大や疾患概念の一般化を受けて,さらなる罹患率の上昇が予想される.

 胃食道逆流症(GERD)による逆流性食道炎は,食道へと逆流した胃内容による食道粘膜の傷害であるが,その発生メカニズムは複雑であり,食道胃接合部の逆流防止機能不全に加え,食道体部や胃十二指腸の運動,分泌機能障害も関与する.そのため,その治療は胃内容の食道への逆流防止,逆流物と食道粘膜との接触時間短縮,あるいは逆流物の組織傷害性自体の低減が基本となる.

アカラシア

著者: 小村伸朗 ,   矢野文章 ,   柏木秀幸

ページ範囲:P.46 - P.51

術前に必要な基本の画像

 手術のために必要な基本的な画像検査は上部消化管X線造影と胸腹部CT検査である.食道アカラシア取扱い規約が2012年に改訂され,紡錘型,フラスコ型,S字型の3型から直線型,シグモイド型,進行シグモイド型の3型へとなった.これまで,拡張型の決定にはややあいまいな点があったが,本改訂では食道の長軸が折りなす角度(α)によって客観的に拡張型が決められることになった.

 図1aは直線型の食道アカラシアである.食道はほぼ屈曲することなく,直軸は1本線である.図1bは同一症例のCT画像である.食道内に唾液や残渣の貯留が認められる.

Ⅱ.胃・十二指腸

胃癌―噴門側胃切除術

著者: 布部創也

ページ範囲:P.52 - P.59

はじめに

 噴門側胃切除術(PG)は,主に上部早期胃癌症例に対する機能温存手術として位置づけられている術式である.術後生存期間やQOLの維持に関するエビデンスは乏しいので,胃全摘術との比較において,適応についての議論の余地は残されているものの,2008年4月改訂の保険点数にも収載されており,広く普及した術式の1つと考えるべきである.

 当科においては残胃が2/3以上残存する上部早期胃癌を腹腔鏡による本術式の適応としている(LAPG).そのため,UM領域の広い0~Ⅱc病変などは適応から外れることとなる.切除範囲については幽門側胃切除術と異なり,どのような再建法を採用するにせよ術後の逆流性食道炎を考慮すると残胃は大きいほうがよいと思われる.

 リンパ節郭清範囲については『胃癌治療ガイドライン―医師用2010年10月改訂,第3版』1)に従う.本改訂から術式ごとのリンパ節郭清範囲が規定されており,噴門側胃切除は通常,早期胃癌を対象とするため,D1+(#1,2,3a,4sa,4sb,7,8a,9,11p)を郭清範囲と考えるのが妥当であろう.後胃動脈沿いのリンパ流は,特に上部胃癌では重要と考えられるため,脾動脈に沿って,後胃動脈根部周囲までの#11pはしっかり郭清したいところである.

胃癌―幽門側胃切除術

著者: 藤原道隆 ,   三澤一成 ,   田中千恵 ,   小林大介 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.60 - P.67

はじめに

 癌の手術において術前に重要となる画像情報は,従来,腫瘍の進展,他臓器浸潤,遠隔転移などのstaging,切除可能性の診断と,肝などの実質臓器においては臓器内脈管系の情報であった.腸管の手術においては,脈管系ナビゲーションの重要度は実質臓器ほどではなかったが,腹腔鏡下手術導入期には,動脈の拍動など触覚の欠如を補うものとして,血管系の画像情報支援が期待された.しかし,今世紀に入って特にハイビジョン・スコープを使用した腹腔鏡下手術の発展(いわば「腹腔鏡下手術時代」)に伴い,手術中の画像から得られる情報が飛躍的に増大し,細かな血管走行や筋膜の構造が手術中によくわかるようになり,外科解剖について多くの新たな知見が生まれた.

 本稿では,切除可能性の診断に関してはすでに多くの成書もあるので割愛し,血管走行に関して術前画像検査で何をおさえておくべきかと,術中判断すべき解剖バリエーションを中心に解説したい.

胃癌―胃全摘術

著者: 永井英司 ,   伊達健治朗 ,   山田大輔 ,   仲田興平 ,   大内田研宙 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.68 - P.75

はじめに

 胃癌の唯一の根治治療は切除術であり,リンパ節郭清を伴う胃切除術および内視鏡的粘膜下層剝離術がその中心である.胃全摘術は最も広範囲に胃を切除する方法であり,癌治療においてきわめて重要な方法であるが,胃の食物貯留能をはじめ,蛋白質を分解するペプシンや酸の分泌,ペプチドホルモンであるグレリンの分泌など多種多様な機能を喪失するものであり,その適応に関しては十分な検討が必要である.

 本稿では,胃全摘術を行うにあたっての病変の部位および質的診断の重要性と,安全に手術を進めるための手術解剖の把握の要点について述べる.

GISTを含む粘膜下腫瘍

著者: 髙橋剛 ,   瀧口修司 ,   黒川幸典 ,   中島清一 ,   森正樹 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.76 - P.81

はじめに

 粘膜下腫瘍を病理組織学的に確定診断することはしばしば困難である.そのため,粘膜下腫瘍の診断がなされた症例では,画像診断に基づき,良悪性を含めた鑑別診断が必要となる.鑑別すべき疾患は,①消化管間葉系腫瘍(GIST,平滑筋腫,平滑筋肉腫,神経鞘腫,脂肪腫,脂肪肉腫,血管腫,グロームス腫瘍,リンパ管腫),②リンパ腫,③先天性腫瘤(異所性膵,消化管重複症),④粘膜下腫瘍の形態をとる上皮腫瘍(カルチノイドや未分化癌)が挙げられる.

 精査には,超音波内視鏡検査(EUS),さらに超音波内視鏡下穿刺生検(EUS-FNAB),CT検査が行われる.その結果,GISTを含む悪性疾患と診断される際には治療が行われる.

 以下,GISTを念頭に置いて,その治療を,特に画像所見を中心に述べる.

十二指腸腫瘍

著者: 山田豪 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.82 - P.86

はじめに

 近年,上部消化管内視鏡検査などのスクリーニング検査の増加に伴い,早期病変を含めた十二指腸腫瘍の頻度は増加傾向にあるといえる.十二指腸腫瘍としては,十二指腸乳頭部癌をはじめ,原発性十二指腸癌,Brunner腺由来の腫瘍,gastrointestinal stromal tumor(GIST),内分泌腫瘍などが挙げられる.これらの十二指腸腫瘍に対する外科的切除としては,十二指腸の解剖学的特性だけでなく,特に原発性十二指腸癌では取扱い規約やUICCのTNM分類が存在しないなどの理由もあり,個々の症例に対する適切な対応が必要とされる.

 一般的には,十二指腸における進行癌症例に対しては,膵頭十二指腸切除術(PD)が標準術式として選択される.低悪性度病変,粘膜下層までにとどまる早期癌症例に対しては,膵温存十二指腸切除術などを含めた縮小手術の適応も考慮される.

Ⅲ.小腸・虫垂・大腸

腸間膜異常

著者: 荒木俊光 ,   大井正貴 ,   廣純一郎 ,   大北喜基 ,   藤川裕之 ,   大竹耕平 ,   問山裕二 ,   田中光司 ,   井上靖浩 ,   内田恵一 ,   毛利靖彦 ,   楠正人

ページ範囲:P.87 - P.96

 腸間膜異常には先天的なもの,腸管切除後の再建に伴うもの,あるいは腸間膜腫瘍などさまざまな病態が存在する.そのため本稿では,われわれが経験した実際の症例をもとに,それぞれの疾患や状態について術前画像診断のポイントを中心に紹介する.

血行障害

著者: 緒方裕

ページ範囲:P.97 - P.102

はじめに

 絞扼性イレウスを除けば,小腸および大腸の血行障害を引き起こす疾患として腸間膜血行不全が代表される.患者の多くは急性腹症として来院するが,適切な処置が施されないと腸管は壊死し,重篤な病態となる.したがって,適切かつ迅速な診断と治療が求められ,臨床症状,血液・生化学所見とともに画像診断が重要である.また,画像所見は手術適応決定のキーポイントとなり,さらに治療内容を左右する.

 本稿では,腸間膜血行不全をきたす疾患について,画像をいかに・どこまで読み取るか,また治療への応用について解説する.

イレウス

著者: 伊東英輔 ,   小澤壯治 ,   山崎康 ,   宇田周司 ,   蒲池健一 ,   林勉 ,   數野暁人 ,   三朝博仁 ,   千野修

ページ範囲:P.103 - P.107

はじめに

 イレウスとは,腸管内腔の閉塞や腸管の運動障害などによって正常な腸管内容の肛門側方向への通過が障害された病的状態である.イレウスの原因は多岐にわたり,その原因によってイレウスの病態や治療は異なる.症状として,激烈な腹痛,嘔吐,排ガス・排便の停止を伴って発症し,緊急手術の要否を鑑別しなければならない急性腹症の1つである.急性腹症中に占めるイレウスの頻度は,急性虫垂炎に次いで多く,急性腹症手術例の約12%である1).2000年に報告されたイレウス全国集計によると,単純性イレウスが58.1%,絞扼性イレウスが10.6%,大腸癌を含めた腫瘍性イレウスが8.1%,腫瘍の転移・播種が7.2%と報告されている2).イレウス手術例の検討では,癒着性30.5%,腫瘍性20.5%,絞扼性14.9%,腫瘍の転移・播種11.2%であった.また,腹部手術施行例における癒着性イレウスの発症頻度は4.6%と報告されている3)

 これらの頻度を念頭に置いて救急患者を診察することは,円滑な検査計画を立て,より短時間で確定診断に至るうえで重要である.また,イレウスの患者の身体診察の際に,鼠径ヘルニアや腹壁瘢痕ヘルニアの有無を診察するなどの基本事項は当然おさえておくべきである.

小腸腫瘍

著者: 大熊誠尚 ,   矢永勝彦

ページ範囲:P.108 - P.113

はじめに

 かつて,小腸腫瘍が疑われた際の診断法はX線診断法がその中心であった.近年,ダブルバルーン内視鏡(DBE)やカプセル内視鏡(CE)の開発によって全小腸の内視鏡検査が可能となり,小腸腫瘍の診断は大きな転換期を迎えている.

 一方で,小腸の全体像を捉えることのできる小腸造影の意義は大きく,またCTやMRIなどの断層画像は内視鏡では評価できない管腔外の情報を描出できる.特に,CTの進歩により広範囲,高精細な画像の撮影や三次元画像の作製が可能となった.今後,小腸腫瘍の診断,治療方針の決定において画像検査の担う役割が大きくなってくると予想される.

虫垂炎―小児

著者: 齋藤武 ,   照井慶太 ,   光永哲也 ,   中田光政 ,   大野幸恵 ,   小林真史 ,   秦佳孝 ,   笈田諭 ,   吉田英生

ページ範囲:P.114 - P.120

小児虫垂炎を診療する際の留意点

 対象が小児であるからといって,消化管の解剖が成人と大きく異なることはなく,成人の虫垂炎手術で留意すべき回腸終末から盲腸の正常構造や回結腸動静脈の走行・変異1)は,ほぼそのまま小児に当てはまる.ただし,小児虫垂炎の対象年齢は幅広く,診断・治療にあたっては年代特有の生理学的特徴や鑑別疾患の種類・頻度を理解し,肉体的にも精神的にも侵襲の少ない方法を選択する必要がある.専門的知識が乏しい状態で治療に介入すると,診断もしくは病勢の認識を誤ったり,合併症の対応に難渋したり,親とのコミュニケーション不足が生じたりすることがあり,成人虫垂炎治療の延長で小児を診るという姿勢は勧められない.

 小児虫垂炎の疾患上の特徴として,成人例に比して虫垂壁が薄く大網が未発達なことから,発症後短時間で穿孔をきたしやすいとされている.ゆえに臨床経過と全身状態を的確に把握したのち,低侵襲な画像検査を迅速かつ効果的に行う必要がある.虫垂炎と診断されたら,その重症度を判定して手術適応を見極め,加えて手術時に必須の情報を拾い上げることが肝要である.

虫垂炎―成人

著者: 藤見聡

ページ範囲:P.121 - P.129

はじめに

 虫垂炎の手術は,若手の外科医が初期の段階で執刀する手術である.大きな皮膚切開で行うことができれば術前解剖の知識の必要性は低いが,良性疾患であるがゆえに虫垂局所しか展開できないような手術創で行うことが要求される.そのために必要なことは,①虫垂の走行の確認,②皮膚切開の適切な位置の決定,③炎症の程度の把握である.個々の症例において,虫垂やその周囲の解剖について十分に理解し,1例1例の手術に臨むべきである.

結腸進行癌

著者: 奥田準二 ,   田中慶太朗 ,   近藤圭策 ,   山本誠士 ,   石井正嗣 ,   濱元宏喜 ,   二瓶憲 ,   内山和久

ページ範囲:P.130 - P.135

術前に必要な基本の画像
 結腸進行癌の基本的な術前画像検査として,原発巣の性状・程度や部位の確認などに大腸内視鏡検査と注腸検査が,肝臓や肺などへの遠隔転移や腫瘍周囲浸潤・リンパ節腫大の検索にCT検査が挙げられる.さらに,肝転移が疑われれば造影MRIによる精査が有用とされている.また,通常のCT検査で明らかでない肺・リンパ節や腹膜などへの転移の精査としてPET/CT検査が用いられるが,造影剤アレルギーで造影CT検査の行えない患者に対する転移検索としても有用である.

 一方で,低侵襲手術として導入された腹腔鏡下手術は,近年,多くの施設で結腸進行癌にも適用されるようになった.ただし,腹腔鏡下手術では触診が行えないなど,開腹手術よりも難易度が高いとされており,結腸進行癌に適用する際には安全で的確なリンパ節郭清・腫瘍支配血管処理,十分なsurgical marginの確保など根治性を損なわない手技が必須となる.

直腸癌

著者: 竹之内信 ,   大島秀男

ページ範囲:P.136 - P.142

はじめに

 近年,直腸周囲の解剖の理解と手術手技・手術器械の進歩により,従来なら腹会陰式直腸切断術を余儀なくされた症例においても,かなりの割合で肛門機能を温存することが可能となった.また,total mesenteric excision(TME)の導入は中下部直腸癌の局所再発率を10%程度にまで減少させ,現在では直腸癌手術における標準的術式となっている.しかしながら,周囲組織に浸潤した局所進行癌においては手術単独による治癒は困難であり,放射線化学療法の併用や他臓器合併切除などの拡大切除が必要となることから,術後の排尿機能障害,性機能障害や排便機能障害が大きな問題となる.このため,腫瘍の局在,壁深達度,他臓器浸潤の有無,リンパ節転移の有無や遠隔転移の有無を正確に評価し,過不足なく治療方針を決定することが重要である.

 また,直腸癌手術を安全かつ確実に遂行するうえでは,術中に直腸固有筋膜をはじめとする直腸周囲の膜構造を十分に認識しながら手術を進めることが重要であり,術前の画像評価においてもこれらの膜構造と腫瘍との関係を十分に評価しておく必要がある.

 本稿では,最近の知見をもとに直腸癌術前検査に用いられる各種画像診断の特徴とその限界について概説する.

肛門癌

著者: 山田一隆 ,   緒方俊二 ,   佐伯泰愼 ,   田中正文 ,   福永光子 ,   辻順行 ,   高野正博

ページ範囲:P.143 - P.149

はじめに

 肛門部は発生学的に外胚葉性の原始肛門と内胚葉性の原始直腸が癒合して形成された部位であり,上皮や筋肉の構造は複雑である.肛門癌は組織型が多彩で,組織型によって治療法が異なる.したがって,肛門癌の治療においては,組織学的発生を考慮した適切な質的診断とともに,複雑な解剖構造に留意した画像診断が重要となる.

痔瘻・痔核・裂肛

著者: 山名哲郎

ページ範囲:P.151 - P.157

はじめに

 肛門疾患における術前画像診断の意義は,その疾患によって大きく異なる.痔核や裂肛は指診や肛門鏡診などの通常の肛門診察だけで診断きるため,術前に画像検査を行う必要はない.しかし,深部肛門周囲膿瘍,複雑痔瘻,痔瘻癌,Fournier症候群などの疾患は,通常の肛門診察だけでは正確な診断評価が困難な場合が多く,術式や治療方針の決定には各種の術前画像診断が必要となる.本稿ではこれらの肛門疾患に有用な各種の画像検査について概説する.

直腸脱

著者: 船橋公彦 ,   栗原聰元 ,   松田聡 ,   小池淳一 ,   塩川洋之 ,   牛込充則

ページ範囲:P.158 - P.164

はじめに

 直腸脱の発症機転は,深い直腸膣窩あるいは直腸膀胱窩に腹腔内臓器(小腸,S状結腸,膀胱,子宮など)が嵌入して直腸を押し出す滑脱ヘルニア説と,口側直腸が直腸内に重積する(recto-rectal intussusception)重積説が考えられている.直腸脱では,①直腸重積,②S状結腸の過長,③深い骨盤底の腹膜盲囊部(deep pelvic),④骨盤底筋の弛緩,⑤直腸の仙骨前面の固定不良,⑥sigmoidceleやrectoceleなどの解剖学的異常を伴っており,これらの要因が相互に関与し,症状をきたしているものと考えられる.したがって,直腸脱に対する治療(ここでは術式)の選択においては,術前の検査から直腸脱の発症機転や病態を的確に診断したうえで,年齢や全身状態などの患者背景を考慮しながら決定していくことが重要である.現在,直腸脱に対する外科的治療は,経肛門的と経腹的手術に大別されているが,各術式には利点・欠点があり,患者の病態に合わせて術式を選択していくことが重要である.

Ⅳ.肝・胆・膵

胆囊結石症

著者: 吉岡伊作 ,   澤田成朗 ,   松井恒志 ,   渋谷和人 ,   橋本伊佐也 ,   奥村知之 ,   吉田徹 ,   長田拓哉 ,   塚田一博

ページ範囲:P.165 - P.168

術前に必要な基本の画像

 胆囊結石症は一般消化器外科領域において頻度の高い疾患であり,そのほとんどは腹腔鏡下胆囊摘出術として施行される.手術手技の向上とともに合併症発生率は低下したが,胆管損傷などの重篤な合併症はいまだ生じている1).胆道合併症は致死的となりうるために,胆囊炎の既往,重症度,上腹部手術の既往などの手術難易度の予測となりうる術前の詳細な病歴聴取に加え,術前画像診断も重要となる.各症例の胆道走行,周囲臓器の解剖を十分に把握して,胆囊摘出術は“胆道損傷と常に隣り合わせである”との認識をもって手術にあたるべきである.

総胆管結石症

著者: 横山政明 ,   小河晃士 ,   中里徹矢 ,   鈴木裕 ,   阿部展次 ,   正木忠彦 ,   森俊幸 ,   杉山政則

ページ範囲:P.170 - P.176

はじめに

 総胆管結石症は胆石症全体の約20%を占めているとされる1)が,いったん急性胆管炎を発症すると重篤な状態になることもあるため,その診断と治療は極めて重要である.また,無症状胆囊結石症と違い,無症状総胆管結石症に対しては,胆石症診療ガイドライン2)にはいずれ起こりうる胆管炎を見据えた治療の必要性をグレードAとしている.

 その胆石症診療ガイドラインにおける胆石症診断フローチャート(図1)には,

・腹部X線単純写真

・腹部超音波検査(US)

・腹部CT検査

・点滴静注胆囊胆管造影法(DIC-CT)

・MRI検査(MRCP)

・内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)

・超音波内視鏡検査(EUS)

・管腔内超音波検査法(IDUS)

を診断モダリティとしている.

 これらのモダリティを用いて診断し,胆石症診療ガイドライン総胆管結石症治療フローチャート(図2)に基づいて日々治療を行っている.

先天性胆道拡張症

著者: 安藤久實

ページ範囲:P.178 - P.183

はじめに

 先天性胆道拡張症(以下,本症)に対しては,拡張胆管切除・肝管空腸吻合術が基本術式であるが,この手術を施行するに当たっては以下の点を知っておく必要がある.第一に,膵内胆管を残存させると残存した膵内胆管に結石が形成されたり癌が生じることが少なくないため,膵管との合流部近くまで確実に切除する必要があること.第二に,肝管には狭窄が存在することが多いので,これを術前に把握して手術時に対処しないと術後に肝内結石を生じる確率が高いこと.第三に,本症では血管の走行異常,とりわけ右肝動脈の走行異常が少なくないので,これを損傷しないよう十分な留意が必要であること.すなわち,本症に対する手術は膵液と胆汁の流出路を分離すればよい,というようなものではないことを十分認識し,術後長期の合併症を防ぐためには上記の点を術前に理解・診断しておくことが重要である.

肝細胞癌

著者: 島田和明 ,   江崎稔 ,   奈良聡 ,   岸庸二 ,   巌康仁 ,   小菅智男

ページ範囲:P.184 - P.191

術前に必要な基本の画像

 従来より肝細胞癌のルーティンの術前診断として,腹部超音波(US),dynamic CT, MRI,血管造影CTを行ってきた.現在,標準的にはUS,MDCTによる質的診断および進展度診断を行い,鑑別診断が困難な場合や肝内転移巣の診断に難渋する場合には,肝細胞特異性造影剤であるGD-EOB-DTPA(ガドキセト酸ナトリウム)を用いたMRI,あるいは血管造影CT(CTAP/CTHA)による診断を追加する1)(図1).

 多くの症例ではdynamic CTにより肝細胞癌の診断は可能である.典型的な肝細胞癌は動脈相で濃染し,門脈~平衡相では周囲の肝実質より低濃度となる.CT・MRIで内部モザイク構造,被膜,動脈相の早期濃染,平衡相の洗い出しが認められれば確定診断してよい.dynamic CTによる基本的な肝細胞癌の画像を示した(図2).肝細胞癌でも非定型画像を示す場合もある.実際に慢性肝炎,肝硬変肝を背景に充実腫瘍が認められれば,まずは肝細胞癌を疑うことが肝要である.

肝内胆管細胞癌

著者: 岡村大樹 ,   大塚将之 ,   清水宏明 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   中島正之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.192 - P.197

はじめに

 肝内胆管癌(ICC)は「胆管の2次分枝およびその肝側の肝内胆管に由来する上皮性悪性腫瘍」と定義されており,癌取扱い規約上では原発性肝癌として取り扱われる1).肝癌の5~25%を占めると報告されており,日本では4.4%と比較的稀であるが,近年増加傾向にある.同じ原発性肝癌である肝細胞癌(HCC)に比べ,リンパ節転移を高率にきたし,HCCの切除後5年生存率が54.2%であるのに対し,ICCの5年生存率は20.3%と予後不良の疾患である2).現在のところ,手術以外に有効な治療法がないため,遠隔転移や腹膜播種がなく,術前の画像診断上治癒切除が期待できる症例はすべて外科切除の適応となる.

 また,わが国ではその肉眼的分類で3つの型,すなわち,①腫瘤形成(MF)型,②胆管浸潤(PI)型,③胆管内発育(IG)型の3つに分類され,その型によって臨床経過や予後が異なる3,4).ICC全体では,外科的切除可能であった症例に限っても5年生存率25~35%と満足できる予後ではないが,そのうちIG型に関しては非常に良好な成績が得られることが報告されている4).しかしながら,IG型の頻度は4%と最も少なく,MF型が59%と最も多い.また,MF型とPI型の混合型であるMF+PI型が数多く存在し,上記の3型に加えMF+PI型を1つの独立型として扱うのが現実的であり,実際の頻度はMF+PI型が20%とMF型に次いで多く,PI型が7%となっている.近年はMF型とMF+PI型が増加傾向であることが報告されており,本稿ではMF型およびMF+PI型を中心に,術前画像診断のポイントと術中の解剖認識につき解説する.

胆管癌

著者: 上坂克彦 ,   金本秀行 ,   杉浦禎一 ,   岡村行泰 ,   伊藤貴明 ,   栗原唯生 ,   蘆田良 ,   絹笠祐介 ,   坂東悦郎 ,   寺島雅典

ページ範囲:P.198 - P.203

はじめに

 臨床の現場では,2000年初頭からmultidetector-row CT(MDCT)が使われるようになり,それまでの胆管癌の診断様式や進展度診断から手術に至る過程が一変した.

 Helical CTの時代においては,胆管癌の水平方向進展度診断は,主として直接胆道造影〔多くは経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)カテーテル経由,または内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)〕と胆道内視鏡によって行われた.主要脈管に対する垂直方向進展度診断は,おもに肝動脈造影と門脈造影所見に基づいて行われた.さらに,局所解剖,特に肝門部の複雑な立体解剖については,上記によって得られた胆管像,肝動脈造影像,門脈造影像を頭の中で複合させることによって理解していた.すなわち,helical CT時代の胆管癌進展度診断は,「総合画像診断」によっていた.

 しかし,MDCTが導入されてからは,減黄処置前に適切なMDCTを撮れば,それだけでほぼ正確な進展度診断と立体解剖の把握が可能で,またそれに基づいて術式選択まで行うことができる時代となった.本稿では,MDCTによる胆管癌の術前画像診断のポイントと,手術施行時に把握しておくべき重要な三次元立体解剖の認識について概説する.

十二指腸乳頭部癌

著者: 樋口亮太 ,   梶山英樹 ,   谷澤武久 ,   岡野美々 ,   竹下信啓 ,   濱野美枝 ,   高山敬子 ,   太田岳洋 ,   新井田達雄 ,   山本雅一

ページ範囲:P.204 - P.208

はじめに

 十二指腸乳頭部癌に対しては,全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PPPD)が標準術式として確立されている.しかし,手術手技や周術期管理の進歩した現在においてもPPPDの手術侵襲は大きく,その合併症発生率や在院死亡率も低くはないため,さらなる安全性の追求が求められている.一方,早期十二指腸乳頭部癌に対しては縮小手術が行われているが1,2),その適応決定のためには,正確な進展度診断が必要である.そこで本稿では,十二指腸乳頭部癌における術前画像診断と解剖認識のポイントについて述べる.

膵頭部癌

著者: 丹羽由紀子 ,   神田光郎 ,   藤井努

ページ範囲:P.209 - P.213

はじめに

 外科的切除の適応のある膵頭部癌に対する標準術式は,系統的リンパ節郭清を伴う膵頭十二指腸切除術(PD)である.癌遺残のないR0手術を達成するためには,術前画像診断による腫瘍の進展範囲を正確に評価し,血管合併切除を含めた至適な術式の決定が必要である.また,PDにおいて分枝血管の切離および周囲リンパ節郭清が必要となる,腹腔動脈(CA)系,上腸間膜動脈(SMA)系,門脈(PV)系の分岐・走行にはバリエーションが多く,その分岐形態を術前に把握しておく必要がある.本稿では,膵頭部癌に対するPDを安全かつ確実に施行するために術前検査にて確認すべきポイントについて,CT画像所見と実際の術中写真を示しつつ解説する.

膵体尾部癌

著者: 中村透 ,   平野聡 ,   浅野賢道 ,   佐藤暢人 ,   倉島庸 ,   海老原裕磨 ,   田本英司 ,   村上壮一 ,   松本譲 ,   土川貴裕 ,   田中栄一 ,   七戸俊明

ページ範囲:P.214 - P.219

 膵癌の外科治療においては,組織学的に癌遺残のない(R0)手術が不可欠である.当教室では腹腔動脈(CA)・総肝動脈(CHA)・腹腔神経叢・腹腔神経節・左副腎・腎前筋膜を含む広範囲なen-bloc切除を行う拡大尾側膵切除術(distal pancreatectomy with en-bloc celiac axis resection:DP-CAR)を開発し,主要血管浸潤を伴う膵体部癌に対しても積極的にR0手術を施行してきた1).本稿では,標準的な尾側膵切除術(DP)とDP-CARの手術適応の判断に際し,重要な画像所見を中心に概説する.

膵内分泌腫瘍

著者: 増井俊彦 ,   高折恭一 ,   上本伸二

ページ範囲:P.220 - P.227

はじめに

 膵内分泌腫瘍は種々の様相を呈する腫瘍であり,古典的には機能性腫瘍および非機能性腫瘍,近年ではWHO2010分類でのグレードなど,様々な分類がなされている.手術術式は内分泌腫瘍の種類に応じて多岐にわたり,郭清を伴わない核出術から十二指腸温存膵頭切除術,さらにはリンパ節郭清を伴う膵頭十二指腸切除術や脾臓切除を伴う膵体尾部切除術までが適応となる.どのような腫瘍にどの切除術が適応となるかについてコンセンサスができつつあるが,それに加えて術前の画像の読みが術式の決定,手術のアプローチの仕方を考えるうえで重要となってくる.

IPMN

著者: 渡邉雄介 ,   大塚隆生 ,   田村公二 ,   木村英世 ,   松永壮人 ,   井手野昇 ,   安蘇鉄平 ,   上田純二 ,   高畑俊一 ,   牛島泰宏 ,   伊藤鉄英 ,   水内祐介 ,   相島慎一 ,   小田義直 ,   水元一博 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.228 - P.234

はじめに

 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は膵管上皮に発生した腫瘍が粘液を過剰に産生し,膵管拡張による多房性囊胞性変化などの特徴的な臨床像を呈する疾患であり,通常型膵癌と比較し緩徐に発育・進展し予後は比較的良好である.2006年に国際診療ガイドライン1)が刊行され,IPMNの治療方針が示されるとともに,広く認知されるようになった.さらに2012年改訂版2)では,最新の知見に基づき診断基準や手術適応などに一部変更が加えられた.

 本稿では,IPMNの診断と術式決定に際ししばしば問題となる主膵管内進展と併存膵癌に注目し,膵切離の実際と術中膵管洗浄細胞診について主膵管型IPMNを中心に概説する.

脾臓疾患

著者: 河地茂行 ,   佐野達 ,   沖原正章 ,   高野公徳 ,   千葉斉一 ,   阿部雄太 ,   島津元秀

ページ範囲:P.235 - P.240

はじめに

 脾臓疾患と一口に言っても,手術適応となる脾臓疾患は多彩である.悪性の脾腫瘍(原発性,転移性)は最もわかりやすい手術適応であるが,良悪性鑑別困難な脾腫瘍も手術されることが多い.門脈圧亢進症に伴う脾腫もインターフェロン治療の忍容性を高める目的に手術適応となり得るし,生体肝移植手術では血小板減少や門脈圧のmodulationのために脾臓摘出術(脾摘)が行われている.さらに特発性血小板減少性紫斑病(ITP),自己免疫性溶血性貧血,遺伝性球状赤血球症,SLEに伴う自己抗体関連の血小板減少症などの血液疾患も脾摘の良い適応と考えられている.

 脾臓疾患に対する外科治療の大部分は脾摘である.小児の遺伝性球状赤血球症などに対しては,脾摘による免疫能の低下を危惧して脾臓の部分切除が行われることもあるが1),成人の脾臓疾患に関して脾摘以外の術式を施行することはほとんどない.近年,脾摘のほとんどが腹腔鏡手術のよい適応と考えられるようになった.腹腔鏡下脾摘術は1991~1992年にさまざまな国々で初例が施行されて以来,急速に普及し,現在は著しい凝固能異常や門脈圧亢進症とそれに伴う高度の側副血行路が形成されているような症例や長径が約25 cmを超えるような著しい脾腫を呈する症例以外は,腹腔鏡下脾摘術を第一選択としている施設が多いと思われる2)

 本稿では,脾臓疾患の画像診断と,脾摘術,特に腹腔鏡下脾摘術の際に留意すべき画像所見について概説する.

食道・胃静脈瘤

著者: 石崎陽一 ,   川崎誠治

ページ範囲:P.242 - P.247

 様々な疾患により門脈圧が上昇して左胃静脈,後胃静脈,短胃静脈を介する門脈への流入が障害され,これに伴って大循環系に血液が排血されることにより生じた側副血行路が食道・胃静脈瘤である.食道・胃静脈瘤の病態を理解するためには,食道,胃ならびに周囲臓器の解剖ならびに門脈系静脈と大循環系静脈の短絡を熟知する必要がある.

肝移植

著者: 金子順一 ,   菅原寧彦 ,   田中智大 ,   石沢武彰 ,   青木琢 ,   阪本良弘 ,   長谷川潔 ,   田村純人 ,   國土典宏

ページ範囲:P.248 - P.252

術前に必要な基本の画像

 肝移植レシピエントの術前に必要な最も基本的な画像検査は胸部単純CT,腹部造影CT,腹部超音波である.劇症肝炎における頭部CT,重症肝不全に合併する心不全の評価や肝硬変に合併する肺高血圧症の除外のため心臓超音波検査も必要である.原発性硬化性胆管炎など,胆管病変の評価ではMR胆管膵管撮影(MRCP)を追加する.肝移植においては,通常の解剖を見ておくことに加え,過去にどのような治療がどの程度行われたか,詳細な病歴を把握したうえで画像をよく見ることが重要である.また,肝細胞癌があれば個数と大きさ,他臓器悪性腫瘍の合併の有無も確認する.門脈圧亢進症としておもに門脈の血流に異常をきたしていることが多いため,画像で確認する.

 本稿では,基本的な画像検査である胸部単純CT,腹部造影CT,腹部超音波で術前に読み取ることが必要な事項について述べる.

Ⅴ.ヘルニア

鼠径・大腿ヘルニア

著者: 三ツ井崇司 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.253 - P.257

はじめに

 日本には温泉や銭湯などの大衆浴場があり,他人の鼠径部を見る機会が比較的多かったため,鼠径ヘルニアは“脱腸”と称され広く認知されていた.そのためか放置されがちでもあり,鼠径ヘルニアの正確な有病率,発生率はわかっていない.人生の間に鼠径ヘルニアを発症する確率は男性で27%,女性においては3%程度との報告があり1),一般的な疾患であることは間違いない.しかし,鼠径ヘルニアにおける画像診断の必要性や検査の適応を検討している文献は多くない.

 ヨーロッパヘルニア学会のガイドライン2)によると,明らかな鼠径ヘルニアであれば診断のための画像検査はほぼ必要ないと述べられている.画像がなくとも診断自体は感度74.5~92%,特異度93%で可能である3).実際に,臨床の現場で鼠径ヘルニアに対し画像検査を追加する必要性を感じる頻度は少ない.多くの鼠径ヘルニアは,立位・腹圧加での膨隆の確認や仰臥位での膨隆の消失,用手還納手技での抵抗感などの触診,還納後の自覚症状の消失・軽減など,外来での理学的所見によって確定診断できることが多い.

 しかし,患者数の多い一般的な疾患であり,客観的画像所見を常に必要とするわけではないがゆえに,鑑別すべき疾患を見逃す可能性が高いともいえる.鼠径部のヘルニアの画像診断を論ずるにおいて第一に重要なことは,どのようなときに理学的所見のみの診断を疑い画像検査を追加するのかにある.常に鑑別疾患を念頭に置き,どのような患者群に検査が有用であるかを認識し,画像診断の目的を事前に明確にしながら検査をオーダーすることが重要である.

閉鎖孔・腹壁瘢痕・内ヘルニア

著者: 奥山隆 ,   斎藤一幸 ,   牧野奈々 ,   久保田和 ,   高橋修平 ,   澁澤公行 ,   多賀谷信美 ,   鮫島伸一 ,   大矢雅敏

ページ範囲:P.258 - P.262

閉鎖孔ヘルニア

 恥骨と坐骨との間に存在する閉鎖孔には閉鎖管が通っており,同部を骨盤に沿って下降してきた閉鎖神経や閉鎖動静脈が骨盤外へと走行している.この閉鎖孔をヘルニア門とし閉鎖管内を通って大腿内側に脱出する外ヘルニアが閉鎖孔ヘルニアである.手術歴のない高齢で痩せた多産の女性が腸閉塞を呈した場合は,本疾患を念頭に置いて検査を進める.

Ⅵ.乳腺

良性疾患・葉状腫瘍

著者: 高丸智子 ,   明石定子

ページ範囲:P.263 - P.270

 乳腺の良性疾患は種類が多く,診断も多岐にわたる.マンモグラフィや超音波などの画像上,良性であるとの診断が容易なものから,悪性と鑑別困難なものまで様々である.

 現在では,乳腺疾患の各種画像診断の進歩や,吸引式針生検によってより大きな組織片の採取が経皮的に可能となってきたことなどにより,診断目的で外科的手術が行われる機会は限られてきている.画像診断,細胞診,針生検では良悪の鑑別が困難である病変や,摘出生検が診断と治療を兼ねる葉状腫瘍や若年性線維腺腫などが適応となりうる1).また,膿瘍などの炎症性疾患の場合には,治療目的で外科的な処置が行われることがある.

悪性腫瘍

著者: 榎戸克年 ,   明石定子

ページ範囲:P.271 - P.275

術前に必要な基本画像

 乳癌診療では,マンモグラフィ,超音波診断,MRIなどの異なるモダリティを組み合わせて診断を進めていくことが重要である.一般的にマンモグラフィ・超音波は,検診,病変の質的診断,生検の適応判断,経過観察などにおいて大きな役割を果たし,MRIは術前の広がり診断として有用性が確立している.

 StageⅠ,Ⅱの浸潤癌において乳房温存療法と乳房切除術とでは生存率に差がないことが大規模臨床試験で証明され,日本でも2003年以降は乳房温存療法と乳房切除術の割合が逆転し,2006年には約60%が乳房温存療法となった1).しかし,切除範囲の縮小は局所再発の増加につながる可能性があるため,手術適応・切除範囲の決定には画像による乳管内進展の術前診断が重要である(図1).

1200字通信・58

御守り―手術は祈りである

著者: 板野聡

ページ範囲:P.45 - P.45

 少し前のことですが,実家の母が目の手術を受けることになりました.連絡をもらったときには,「数日の入院だし,手術もすぐ終わるとのことだから」の言葉に安心し,「胸や腹の手術ではないのだし,大丈夫だよ」と母にではなく自分に言い聞かせるように返答したことでした.最後に「気をつけて.僕は見舞いに行けそうもないけれど」と素っ気なく電話を切りましたが,手術の日が近づくにつれ,あれこれと心配が沸いてくることになりました.挙句,近くの神社にお参りに行き,初めて病平癒の御守りを求めることになりました.

 自分は行く暇もなく,また郵送では無粋で,見舞いに行くと言ってくれた妻に,笑われるかなと思いつつも,その御守り袋を言付けることになりました.言付けながら,一方で「いっそ自分が執刀するのなら,御守りなんかいらないだろうに」などと独り言ちたわけですが,そんな強がりをいうわけにもいかず,妻によろしくとお願いすることになりました.手術当日,大丈夫と思ってはいても,「そろそろ始まっている頃かな」などと思いつつ外来を済ませ,早々に医局に戻って知らせを待つことになり,「俺もただの人の子だった」と改めて確認することになりました.

ひとやすみ・104

術後患者さんへの激励

著者: 中川国利

ページ範囲:P.157 - P.157

 患者さんにとって,術後疼痛は大きな心配事である.しかしながら,疼痛は主に手術そのものにもよるが,不安などの精神的因子も大きく関与するものである.

 外来で膿瘍切開や皮膚縫合などを行う際には,局所麻酔薬を十分に注入し,麻酔が効いていることを確認してから処置を行っている.また処置中に痛みを訴えた場合には,麻酔薬の追加注入を随時している.しかしながら患者さんのなかには,麻酔薬が効いているはずなのに痛みを訴えることがある.そこで「常日頃心掛けのよい人は,痛みが少ないですよ」と話しかけながら処置を行うことにしている.すると痛みを訴える患者さんは激減し,「まったく痛くないですね.普段の心がけがよいからですね」と,冗談に乗る患者さんさえ現われる.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.164 - P.164

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.262 - P.262

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.277 - P.277

奥付

ページ範囲:P.278 - P.278

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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