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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科68巻12号

2013年11月発行

雑誌目次

特集 漢方を上手に使う―エビデンスに基づいた外科診療

ページ範囲:P.1277 - P.1277

 漢方の専門医を中心に使われてきた漢方薬が,一般診療においても広く処方されるようになった.さらに外科診療の現場でも多くの漢方薬が幅広く用いられている.

 外科においては特に,①術後管理ならびに合併症対策,②癌化学療法の副作用対策として,漢方の意義と役割が広く認められている.

外科における漢方の現状と展望

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.1279 - P.1279

 わが国においては,江戸時代の蘭方(学)に対して中国医学は漢方と呼ばれるようになり,100年以上が過ぎた現在,外科領域においても漢方の治療成績がエビデンスをもって報告されるようになってきている.

 昭和51年(1976年)に漢方薬の薬価が初めて保険収載されるに至ってから37年が経つ.外科診療の日常臨床でよく知られるところとなった漢方薬は大建中湯,六君子湯,茵陳蒿湯,十全大補湯などが挙げられる.特に大建中湯1,2)や六君子湯3)の消化管蠕動促進効果は,開腹術後のイレウスを予防することがわが国より多く報告されており,欧米においてもその効果が期待され,現在臨床試験が進められているところである.また,茵陳蒿湯の閉塞性黄疸症例に対しての減黄促進効果も報告され4),様々な病態に対しての黄疸軽減効果が今後注目されてくるところであろう.

周術期管理・合併症と漢方

機能性ディスペプシア―六君子湯

著者: 持木彫人 ,   福地稔 ,   矢内充洋 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1280 - P.1284

【ポイント】

◆機能性ディスペプシア(FD)はローマⅢ診断基準により,器質的な疾患がなく,①食後のもたれ感,②早期の膨満感,③心窩部痛,④心窩部の焼けるような感じ,の4症状のどれかが長期に続く疾患とされている.

◆六君子湯は慢性胃炎や消化不良に効果がある漢方薬であるが,近年の研究によって消化管運動亢進作用やグレリン分泌刺激作用が確認され,FDにも効果が期待されている.

◆外科の手術後にもFD様の症状をしばしば経験する.西洋薬が第一選択となるが,六君子湯の作用機序を考えると,上部消化管手術後のもたれ感,早期の膨満感,食欲不振に効果が期待できる.

術後腸管麻痺―大健中湯(DKTフォーラムにおける取り組み)―胃・食道

著者: 白下英史 ,   衛藤剛 ,   猪股雅史 ,   白石憲男 ,   北野正剛

ページ範囲:P.1286 - P.1289

【ポイント】

◆大建中湯には消化管運動促進作用や腸管血流増加作用がある.

◆大建中湯は術後のイレウス,腸管運動麻痺や便通異常に対して使用されることが多いが,クリニカル・エビデンスは少ない.

◆胃癌術後の腸閉塞や術後の消化管運動に対する大建中湯の効果を検討中である.

術後腸管麻痺―大健中湯(DKTフォーラムにおける取り組み)―大腸

著者: 内藤正規 ,   佐藤武郎 ,   中村隆俊 ,   渡邊昌彦

ページ範囲:P.1290 - P.1293

【ポイント】

◆大建中湯の主な作用は,腸管運動促進作用,抗炎症作用,腸管血流増加作用である.

◆DKTフォーラムは,大建中湯の臨床的エビデンスを確立して海外に発信するための全国規模の研究組織である.

◆JFMC39-0902試験により,大建中湯が術後の消化管機能を回復する効果を有していることが示された.

術後腸管麻痺―大健中湯(DKTフォーラムにおける取り組み)―肝

著者: 草野満夫

ページ範囲:P.1294 - P.1301

【ポイント】

◆大規模臨床研究にて肝癌肝切除症例において大建中湯の術後の腸管運動改善効果が認められた.

◆抜管から排便までの時間は大建中湯群で88.2時間,プラセボ群で93.1時間と実薬群で有意に短縮した(p=0.0467).

◆サブグループ解析では肝障害度(Liver damage)B症例の比較において,大建中湯群はプラセボ群に比して有意差は付かないものの抗炎症効果が確認された.

◆肝癌肝切除症例において,術前からの大建中湯の投与は術後の腸管麻痺を軽減しうるものと考えられた.

高アンモニア血症―大建中湯―効果のメカニズム

著者: 吉川幸造 ,   島田光生 ,   栗田信浩 ,   佐藤宏彦 ,   岩田貴 ,   東島潤 ,   近清素也 ,   西正暁 ,   高須千絵 ,   柏原秀也 ,   松本規子

ページ範囲:P.1302 - P.1306

【ポイント】

◆大建中湯を投与することで肝臓切除後のアンモニア上昇を抑えることができる.

◆作用機序は腸管血流上昇作用,抗炎症作用,bacterial translocation予防作用,腸内細菌(マイクロバイオーム)の維持作用が関与している.

◆当科では肝臓切除後のクリニカルパスに大建中湯を導入し,全例に使用している.

黄疸・肝障害―茵蔯蒿湯

著者: 海保隆 ,   柳澤真司 ,   新村兼康 ,   岡本亮 ,   西村真樹 ,   小林壮一 ,   岡庭輝 ,   柴田涼平 ,   松尾めぐみ ,   土屋俊一

ページ範囲:P.1308 - P.1313

【ポイント】

◆茵蔯蒿湯はウルソデオキシコール酸と異なり,胆汁酸非依存性の胆汁分泌を促進する.よって胆汁うっ滞を呈する病態ではウルソデオキシコール酸との併用は合目的的である.

◆外科領域では先天性胆道閉鎖症の術後,減黄不良の閉塞性黄疸患者,大量肝切除患者の術後高ビリルビン血症などに有用である.

◆肝切除患者の周術期に大建中湯と併用することにより,術後残肝血流の微小循環改善作用が期待される.

術後せん妄―抑肝散―心臓大血管手術後せん妄の予防効果

著者: 高瀬信弥 ,   横山斉

ページ範囲:P.1314 - P.1318

【ポイント】

◆心臓大血管手術症例は増加傾向にあるが,高齢者,特に65歳以上では術後せん妄状態に陥りやすく,術後合併症を引き起こしやすくなる.

◆抑肝散は認知症に有効とする報告が増加している.錐体外路系の抑制がないため,リハビリを安全に行いつつ術後せん妄の緩和が期待できる.

◆手術5~7日前から退院時までの抑肝散投与では,現実感覚,幻覚,妄想,興奮,気分の変動において投与群で有意に軽度であったため,抑肝散は心臓大血管手術後せん妄を抑制する可能性が示唆される.

癌化学療法の副作用と漢方

オキサリプラチンによるしびれ―牛車腎気丸

著者: 河野透 ,   上園保仁 ,   武田宏司 ,   笠井章次 ,   佐藤宏彦 ,   島田光生

ページ範囲:P.1319 - P.1323

【ポイント】

◆漢方薬は多成分で多標的を基本とし,西洋薬は単一成分で単一標的であり,大きく異なることを理解する.

◆オキサリプラチンによる神経毒性を予防することが重要であるが,カルシウム・マグネシウム投与は臨床試験でその効果が否定された.

◆牛車腎気丸の基礎薬理的検討,臨床試験から,オキサリプラチンによる神経障害発生を予防する効果が期待される.

タキサン系抗癌剤による神経痛,しびれ―牛車腎気丸

著者: 高島勉

ページ範囲:P.1324 - P.1327

【ポイント】

◆タキサン系抗癌剤の有害事象として末梢神経障害は用量制限毒性となるが,決定的な支持療法はない.

◆牛車腎気丸は糖尿病性神経障害に有効な薬剤であり,抗癌剤による神経障害にも応用可能である.

◆牛車腎気丸により神経障害の進行が抑制され,その発現を遅らせることで治療を完遂させる効果が期待される.

イリノテカンによる下痢―半夏瀉心湯

著者: 森清志

ページ範囲:P.1328 - P.1331

【ポイント】

◆イリノテカンは抗癌剤のなかで下痢の副作用頻度が高く,下痢の発現予防および下痢対策を行うことが大切である.

◆イリノテカンに伴う下痢には一過性の急性下痢と遷延する遅発性下痢があり,後者は時に重症化する.

◆半夏瀉心湯はイリノテカンに伴う遅発性下痢を予防する効果がある.

口内炎―半夏瀉心湯

著者: 三嶋秀行 ,   松田宙 ,   大橋紀文 ,   伊藤暢宏 ,   田井中貴久 ,   有川卓 ,   永田博 ,   宮地正彦 ,   鈴村和義 ,   野浪敏明

ページ範囲:P.1332 - P.1335

【ポイント】

◆化学療法に伴う口内炎に対して,黄連湯・半夏瀉心湯・小柴胡湯など共通成分をもつ多数の漢方薬が使用されている.

◆小柴胡湯や半夏瀉心湯は,内服できなくても含嗽や塗布により口内炎に対する鎮痛効果が示唆されている.

◆半夏瀉心湯はプラセボを対照とした比較試験でGrade 2以上の口内炎期間を短縮したので,期待される薬である.

骨髄抑制―十全大補湯―化学療法症例における顆粒球減少症に対して

著者: 大河内千代 ,   福島俊彦 ,   中野恵一 ,   古川義英 ,   阿美弘文 ,   鈴木眞一

ページ範囲:P.1336 - P.1339

【ポイント】

◆癌化学療法による顆粒球減少症に対し,G-CSFはガイドラインに従い,かつ保険制度内での使用が求められる.

◆十全大補湯は骨髄抑制を軽減させる効果を有し,さらに免疫賦活作用や抗腫瘍効果などの効能が報告されている.

◆G-CSFの適応外である骨髄抑制への予防的投与,補剤としての各種薬理作用を,補完療法として十分に活用すべきである.

食欲不振―六君子湯

著者: 大野哲郎 ,   持木彫人 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1340 - P.1344

【ポイント】

◆抗癌剤使用時,六君子湯は5-HT2b,5-HT2c受容体に拮抗してグレリン分泌阻害を抑制し,食欲を維持させると考えられている.

◆ほかに,グレリン代謝酵素阻害作用,グレリンシグナル増強作用などのエビデンスが報告されている.

◆臨床研究でも,抗癌剤による食欲不振を六君子湯が抑制する効果が示されているが,大規模臨床試験が待たれる.

全身倦怠感―補中益気湯

著者: 太田惠一朗

ページ範囲:P.1345 - P.1347

【ポイント】

◆漢方薬治療は症状が慢性化した状態に行われ,癌化学療法の支持療法のよい適応である.

◆癌化学療法の副作用としての全身倦怠感に有効な西洋薬は少なく,補中益気湯などの補剤が用いられる.

◆癌化学療法時および有害事象の「証」については明らかでなく,今後の検討課題である.

病院めぐり

津島市民病院外科

著者: 山中秀高

ページ範囲:P.1349 - P.1349

 当院は,ペスト病予防のため明治32年に隔離病舎として設立されたのが始まりです.昭和2年に津島病院,昭和18年に津島町立病院を経て,昭和22年に市制施行とともに津島市民病院となりました.しかし昭和24年,火災により全焼し,2年後に再建されました.昭和29年には結核が猛威をふるっており,結核病棟を主とする分院が建築され,こちらが主体となり,昭和35年に本院と統合され,さらに昭和45年に総合病院として認定され,地域の中核病院となりました.昭和62年には市立看護専門学校が創設され順調でありました.しかし,平成18年からは全国でみられた医師の都市集中,田舎の過疎により当院でも未曾有の医師不足,特に内科医の不足に見舞われ,診療科の減少,一科あたりの専門医師の激減により病院存続の危機がありました.そのようななかでも外科は名古屋大学医学部腫瘍外科学(旧第一外科)教室の支援により医師数や手術件数の減少なく病院を支え続けることができ,平成23年より内科系医師も次第に増え,現在では研修医の育成も行えるまで立ち直りました.

 外科は現在9名で診療にあたっており,日本外科学会,日本消化器外科学会の修練施設であり,各学会の指導医,専門医と日本乳癌学会認定医も常勤しております.そのため,対応疾患は消化器(消化管,肝胆膵),乳腺・内分泌を主とし,腹部では大動脈瘤,末梢血管では閉塞性動脈硬化症,下肢静脈瘤,胸部では転移性肺癌や気胸に対する胸腔鏡下手術などを行っています.当院では消化器内科があり,手術症例のほとんどは術前後に週1回,放射線科医師も交えて診断,治療方針,手術術式など,詳細にカンファレンスが行われており,根治性,安全性の高い(合併症の少ない)手術を目指しております.手術は過去2年間では食道癌3例,胃癌87例,結腸癌123例,直腸癌68例,痔疾患23例,イレウス84例,肝切除16例,胆囊結石症147例,膵腫瘍10例,乳癌95例,甲状腺腫瘍15例,鼠径ヘルニア202例,急性虫垂炎148例,血管疾患9例,肺部分切除術8例と広範囲にわたり施行しています.

必見! 完全体腔内再建の極意・8

胃全摘術後再建―サーキュラー・ステイプラーを用いた再建(引き上げ法)―合併症のない再建を目指して

著者: 比企直樹 ,   布部創也

ページ範囲:P.1350 - P.1355

■■はじめに

 胃上部の早期胃癌に対する手術として,噴門側胃切除は根治性を損なうことがない手術であることは明らかである1)一方,術後のquality of life(QOL)は決して良好なものとはいいがたい.噴門側胃切除における術後のQOLに関するエビデンスはまだ結論づけるに至るものはなく,U領域のT1胃癌に対する術式として,むしろ胃全摘を推奨する外科医も多い.

 腹腔鏡下胃全摘(LTG)は,腹腔鏡下幽門側胃切除(LDG)と比較して,技術的に腹腔鏡下手術への応用が困難であるというコンセンサスがあるが,その解剖を熟知したうえで手術を行うことで,腹腔鏡下手術にむしろ適している術式である.噴門周囲や脾門部の視野は腹腔鏡下では良好に得られ,その操作は容易である.しかしながら,吻合のステップは挙上空腸が上腹部のスペースを占拠することで吻合が困難となるため,コツと工夫が必要となる.また,再建にまつわる合併症が多く報告されている.再建関連の合併症には縫合不全,術後吻合部狭窄,吻合部出血などがあり,重篤となることも少なくない.

 近年,LTGが定型化され,安定した成績が報告されるようになったが,われわれがこれまで行ってきたhemi-doubleまたはdouble stapling法による引き上げ法2)では,吻合部狭窄は一定の確率で起こる.これらも栄養障害の一因となることは間違いなく,われわれはこれを防ぐ意味で開腹手術に近いまつり縫いを用いた自動縫合器による食道空腸吻合を行い,安定した成績を得ている.

 本稿では,以前より行っている引き上げ法によるアンビルヘッド格納法と,まつり縫いを用いたアンビル縫着方法を紹介する.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・18

局所進行がん―閉塞症状にバイパスは有用か

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.1356 - P.1359

素朴な疑問

 切除不能の胃がんや膵がんで胃や十二指腸が閉塞したときは,「食べられるようにする」という理由でバイパス手術を行うが,期待したほど食べられなかったり,腹膜播種で再入院したり,予想より早く死亡したりすることがある.胃十二指腸閉塞を生じた進行消化器がん患者のバイパス手術は本当に有用だろうか.ステントを留置したほうがよいのだろうか.

臨床報告

回盲部子宮内膜症による成人腸重積症の1手術例

著者: 渡辺めぐみ ,   林同輔 ,   松村年久 ,   野中泰幸 ,   黒瀬通弘 ,   徳田直彦

ページ範囲:P.1361 - P.1365

要旨

症例は48歳の女性で,嘔吐と下痢を主訴に受診した.造影CT検査で腸重積と診断し,注腸造影を行ったが,完全に整復できず手術を行った.手術時,回盲部は盲腸と虫垂が一塊となっており,回盲部切除術を施行した.術中迅速病理診断では壁在リンパ節に子宮内膜症の所見があったが,悪性像は認めず,回盲部子宮内膜症と診断した.成人腸重積症は比較的稀な疾患で,器質的疾患が原因であることが多い.本症例のように回盲部子宮内膜症を原因とすることは極めて稀で,わが国の報告例は自験例を含めて18例であった.本症例では術中迅速病理診断にて確定診断を得られたため,リンパ節郭清を行わず,過大手術を避けることができた.

腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した肝内門脈血栓症を伴った胆囊炎の1例

著者: 八木康道 ,   前多力 ,   吉光裕 ,   佐久間寛

ページ範囲:P.1367 - P.1371

要旨

症例は27歳,女性.上腹部痛を主訴に当院救急外来を受診した.内服加療にて症状の改善はみられず,発症から3週間後に当科を受診した.腹部造影CTにて胆囊腺筋腫症を伴う胆囊炎が疑われ,同時に肝内門脈の分枝であるP3,P4に血栓を認めたが,末梢の肝血流障害は認めなかった.胆囊炎に起因した肝内門脈血栓症と診断し,感染巣の除去を優先して腹腔鏡下胆囊摘出術を行った.術後早期にワルファリンによる抗凝固療法を開始した.術後6か月後の造影CTで血栓の消失を確認し,抗凝固療法を中止した後も血栓の再燃は認めていない.胆道感染症に起因した門脈血栓症においては,感染巣の治療に引き続き抗凝固療法による迅速な対応が重要である.

直腸穿孔をきたした血管型Ehlers-Danlos症候群の1例

著者: 神寛之 ,   小山基 ,   諸橋一 ,   坂本義之 ,   村田暁彦 ,   袴田健一

ページ範囲:P.1372 - P.1376

要旨

症例はEhlers-Danlos症候群(EDS)の47歳,女性.1週間前からの難治性便秘の加療中に腹痛の急性増悪が出現した.画像所見で消化管穿孔と診断し,緊急開腹手術を施行した.S状結腸から直腸に多量の硬便を触知し,直腸S状部に穿孔を認めた.Hartmann手術を行い,救命しえた.EDSのサブグループは術前には不明であったが,消化管穿孔の合併が特徴的な血管型EDSと判断した.本疾患は,結合組織の脆弱性をきたす遺伝性疾患で,血管型は動脈破裂や消化管穿孔を呈する重篤な型である.EDS既往のある症例では消化管穿孔予防のための排便コントロールが重要であると考えられた.

術前MDCTにて診断したMeckel憩室mesodiverticular bandによるイレウスの1例

著者: 勝田絵里子 ,   兼子順 ,   岩田乃理子 ,   吉田剛 ,   長谷川久美 ,   前島静顕

ページ範囲:P.1377 - P.1381

要旨

患者は開腹手術歴のない37歳,男性.腹痛・下痢・嘔吐を主訴に当院を受診した.腹部は全体的に膨満し,軽度の圧痛を認めた.MDCTにて骨盤内に拡張した小腸を認め,同部位に臍から連続する索状構造物を認めた.Meckel憩室から連続するmesodiverticular bandによるイレウスの診断で,同日緊急手術を施行した.Meckel憩室が索状物となって臍まで連続しており,このバンドが原因のイレウスであった.索状物を含めた憩室切除術を施行した.近年のMDCTの普及に伴い,イレウスの原因の術前診断が可能となってきているが,Meckel憩室によるイレウスの診断はいまだ困難な場合が多い.自験例はmesodiverticular bandが臍まで連続していたため診断可能であった.今回われわれは,術前MDCTにて術前診断可能であったMeckel憩室のmesodiverticular bandによるイレウスの1例を経験したので報告する.

腹腔鏡下結腸切除術後に発生した腹腔内デスモイド腫瘍の1例

著者: 蒲田亮介 ,   藪下和久 ,   竹下雅樹 ,   小林隆司 ,   堀川直樹 ,   月岡雄治 ,   野手雅幸

ページ範囲:P.1382 - P.1386

要旨

症例は56歳,女性.2009年10月,下行結腸癌に対して腹腔鏡下結腸切除術が施行された.病理検査にてリンパ節転移を認め(T3 N1 M0,stageⅢa),術後補助化学療法(UFT/LV)を行った.術後1年目のCT検査にて,左下腹部腫瘤および右肺中葉の結節影が指摘された.PET検査で腹部の腫瘤は集積を認めず,肺病変は集積を認め肺癌が疑われたため,右開胸下肺中葉切除術が施行された.病理検査結果は大腸癌肺転移の診断であった.腹部の腫瘤に関しては経過観察としたが,その2か月後のCT検査で増大傾向を認めたため,開腹手術を行った.最終病理診断では腹腔内デスモイド腫瘍の診断であった.腹腔鏡下手術後にもデスモイド腫瘍の発生を考慮した術後フォローアップが重要であることが示唆された.

S状結腸への直接浸潤を認め大腸内視鏡下生検にて術前診断した尿膜管癌の1例

著者: 山本規央 ,   平松聖史 ,   雨宮剛 ,   秋田英俊 ,   江崎茂 ,   新井利幸

ページ範囲:P.1387 - P.1391

要旨

症例は61歳,女性.下腹部の違和感にて近医を受診し,当院へ紹介となった.CT・MRIにて膀胱頂部から腹膜前脂肪層,腹直筋に広がる腫瘍性病変を認めた.S状結腸への浸潤も疑われた.膀胱鏡検査では,膀胱内腔への圧排所見のみで粘膜への腫瘍の露出は認めなかった.下部消化管内視鏡検査ではS状結腸に腫瘍性病変を認め,生検で腺癌と診断した.尿膜管癌の腹壁浸潤・膀胱浸潤・S状結腸浸潤と診断し,手術を施行した.尿膜管癌は全膀胱腫瘍の0.17~2.8%を占め,大腸浸潤は稀であり,術前大腸内視鏡下生検で悪性像が確認されることはほとんどない.比較的稀な症例と考えられるので,文献的考察を加えて報告する.

私の工夫-手術・処置・手順

腹腔鏡下胆囊摘出術における術中胆道造影の工夫

著者: 新名一郎 ,   岩村威志 ,   黒木直哉 ,   樋口茂輝 ,   根本学 ,   佛坂正幸

ページ範囲:P.1392 - P.1393

【はじめに】

 腹腔鏡下胆囊摘出術(laparoscopic cholecystectomy:LC)において,術中胆道造影(intraoperative cholangiography:IOC)の適応や方法は施設によって様々である.当院での,岩村が考案したIOCの工夫を紹介する.

ひとやすみ・105

クレイマー

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1301 - P.1301

 デパートや銀行をはじめ多くの商業施設では「ご意見承り箱」を設置し,利用者の意見を積極的に受け入れ,施設の改善に努めている.当院でも「ふれあい箱」を玄関ホールや病棟に設置し,患者さんからの意見を集めている.そして院長が必ず翌日に読み,関係する部署に投書を回して対処について検討する.また投書していただいた患者さんには返事を書くとともに,投書に対する対応を病院広報誌などにて公開することにしている.

 投書内容は稀にお褒めの意見もあるが,職員の対応への不満や施設の不備を指摘するものが圧倒的に多い.そして職員の対応に問題がある場合には当事者の意見を聞き,改めるべき点を指導している.また指摘された施設の不備は,できるだけ迅速に改善することにしている.しかし,職員に対する不満の多くは誤解に基づく批判であり,また施設の不備の多くは経営的に余裕がないために改善できないことばかりである.そもそも国の医療費抑制政策により,全国の医療機関は人的にも経済的にも疲労困憊しているのが現状である.

1200字通信・59

ケモ―もう一つの問題

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1313 - P.1313

 常日頃,睡眠薬や下剤などを,近所のどなたかの「クセになる」の一言で勝手に飲まなくなる患者さんを経験し,残念な思いをしています.そんな折,別の理由で薬を拒否される方があり,自分が忘れかけていた大事なことを思い出させていただくことになりました.

 その方は70歳代の男性で,無症状のままに検診で便潜血陽性となり,精査の結果,上行結腸に癌が見つかりました.消化器外科医なら常識でしょうが,右側の結腸癌は相当に進行するまで無症状なことが多いのですが,この方もすでにリンパ節転移を伴う進行癌になっていたのでした.しかし,幸いにも,なんとか切除できる時期であり,手術は予定通りに行われ,術後経過も良好でした.

昨日の患者

関白宣言

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1376 - P.1376

 同じ家族とはいえ,絆の程度は実と義理の親子の間では異なる.そして男女で日常生活へのかかわりの程度も違うため,病める家族への介護も男女間では異なる.病室で繰り広げられたエピソードを紹介する.

 80歳代後半のEさんが,総胆管結石を伴う急性胆囊炎で紹介されてきた.そこで腹腔鏡下総胆管切石術を緊急に施行した.Eさんには術前から軽い認知障害があったが,術後に著明な精神錯乱が生じた.心配した家族は付き添いを願い出た.

書評

―坂井建雄(著)―解剖実習カラーテキスト

著者: 石田肇

ページ範囲:P.1381 - P.1381

 山形大学の学生時代に,浦良治先生の『人体解剖学実習』を用いて勉強させていただいたことを,今も鮮明に覚えている.ラテン語の世界に触れた最初の感動があった.長崎大学に奉職した折には,浦先生の実習書を使った.その後,札幌医科大学では,大学独自の実習書で指導に当たった.1998年に琉球大学に赴任してからは,定番である寺田春水先生・藤田恒夫先生の『解剖実習の手びき』を用いてきた.それぞれに素晴らしい実習書であった.最近では,2013年に,『Gray's Clinical Photographic Dissector of the Human Body』が出版されたので,これも取り寄せてみた.

 しかしこれらの実習書を使う医学生から,「楔形に切り取る」の「楔形」がわからない,「あばた状に」の「あばた」がわからないといった声をきくことが多くなった.他の大学医学部の教授に聞いても,同じような状況で,いろいろ模索しておられるようだ.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1306 - P.1306

原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.1393 - P.1393

投稿規定

ページ範囲:P.1395 - P.1396

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.1397 - P.1397

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1398 - P.1398

次号予告

ページ範囲:P.1399 - P.1399

あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.1400 - P.1400

 「セレンディピティ(serendipity)」という言葉を目にする機会が多い.ご存知の方も多いと思われるが,“Serendip”国の3人の王子が旅の途中に意外な出来事に遭遇し,その聡明さから,彼らが元来求めていなかった,それ以外の別の価値のものを発見した,という童話に基づいて英国のHorace Walpoleが発案した造語であり,「偶然幸運に出会う能力」という意味で「偶察力」とも称される.この具体例としては,数多くのノーベル賞受賞研究をはじめとする偉大な発見から,ささやかでもキラリと光る成果に至るまで枚挙にいとまがない.私たちの身近にある付箋(Post-it®)も強力な接着剤の開発中にたまたま弱い接着剤を作り出してしまったが,本の栞に応用できないかと思いついて,現在は世界中で使用されるに至ったとのことである.医学研究においても,Alexander Flemingの細菌培養実験におけるアオカビのcontaminationからのペニシリンの発見や,Louis Pasteurによる夏の暑い実験室に放置されて弱毒化されたコレラ菌から,ワクチン開発へつながった経緯などがserendipityの代表例であろう.

 このように考えると,私たちは,当初の研究デザインと,それにより齎されるであろう予測に結果がそぐわなくても,また実験が,目的からすると失敗であったとしても,その事実から眼を離さず,謙虚に現実と向き合い,頭と心を使って考えをめぐらせることが肝要であることを思い知らされる.そのような精神と姿勢のもとでは,現在問題となっているデータのねつ造などは論外であろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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