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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科68巻13号

2013年12月発行

雑誌目次

特集 切徐可能なStage Ⅳ胃癌に対する外科治療

ページ範囲:P.1405 - P.1405

 胃癌治療ガイドライン上,Stage Ⅳ胃癌に対して推奨されているのは化学療法,放射線治療,緩和手術,best supportive careである.これに則れば,小さな肝転移が1個あっても,あるいは大動脈周囲リンパ節に腫大が認められても,根治を目標とした手術の適応にはならない.しかし,大動脈周囲リンパ節はかつては系統郭清の範囲内であった時代もある.

 こうした一部のStage Ⅳ癌について,根治をめざした,すなわち郭清を伴う定型的胃切除術を行うことはあり得ないであろうか?

総論

胃癌治療ガイドラインからみたStage Ⅳ胃癌に対する外科治療の現状

著者: 小寺泰弘 ,   大橋紀文 ,   小林大介 ,   田中千恵 ,   藤原道隆

ページ範囲:P.1406 - P.1409

【ポイント】

◆胃癌治療ガイドライン第3版においては,Stage Ⅳ 胃癌を根治をめざした外科切除の対象外と位置づけている.

◆洗浄細胞診陽性例,軽微な大動脈周囲リンパ節転移陽性例,少数の肝転移を有する症例は例外的に切除の対象となりうる.

◆今後はStage Ⅳ 胃癌の治療方針についても,前向きの臨床試験でエビデンスを構築する必要がある.

薬物療法の効果と限界

StageⅣ胃癌化学療法における長期生存の検討

著者: 門脇重憲 ,   室圭

ページ範囲:P.1410 - P.1415

【ポイント】

◆切除不能Stage Ⅳ胃癌に対する化学療法により長期生存する症例が稀に存在する.

◆当院で化学療法を施行した切除不能Stage Ⅳ胃癌の2年生存割合は19.5%,5年生存割合は2.8%であった.

◆2年以上の長期生存者に関与する因子は男性,胃切除歴あり,PS 0~1,転移臓器数1か所であった.

手術の適応と成績:肝転移例

胃癌同時性肝転移の手術適応と治療成績

著者: 竹村信行 ,   齋浦明夫 ,   古賀倫太郎 ,   佐野武 ,   山口俊晴

ページ範囲:P.1416 - P.1421

【ポイント】

◆Stage Ⅳ胃癌である胃癌同時性肝転移に対し,切除を推奨するガイドラインはない.

◆胃癌肝転移(同時性,異時性とも含む)切除後の5年生存率は11~42%と報告されている.

◆当施設の胃癌同時性肝転移に対する手術適応を原発巣根治切除可能かつ転移個数原則3個以内とし,慎重に適応を選んだ結果,胃癌同時性肝転移症例の切除後の5年生存率は34%であった.

◆胃癌肝転移切除後の肝再発に対する再肝切除が予後を延長する可能性がある.

胃癌異時性肝転移の手術適応と治療成績

著者: 江藤弘二郎 ,   渡邊雅之 ,   井田智 ,   今村裕 ,   石本崇胤 ,   岩上志朗 ,   馬場祥史 ,   坂本快郎 ,   宮本裕士 ,   吉田直矢 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.1422 - P.1425

【ポイント】

◆胃癌肝転移の治療の中心は全身化学療法であり,肝切除の有用性は明らかではない.

◆胃癌肝転移の切除の適応としては,肝転移個数や化学療法にて新規病変が出現しないことなどが挙げられる.

◆手術を含む集学的治療を組み合わせ,個々の患者に適した治療戦略を立てることが重要である.

胃癌肝転移の画像診断

著者: 杉本博行 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.1426 - P.1432

【ポイント】

◆腺癌肝転移の各種画像に共通する特徴的な所見としては,石灰化,乏血性腫瘍,リング状濃染などがある.

◆造影CTが術前進展度診断に用いられるが,Gd-EOB-DTPA造影MRIは微小肝転移の検出に有用である.

◆超音波検査はスクリーニングから精査まで幅広く用いられ,造影,フュージョンイメージ,弾性イメージなどの機能も登場している.

手術の適応と成績:大動脈周囲リンパ節転移例

胃癌における大動脈周囲リンパ節郭清の意義をどこに見出すか

著者: 寺島雅典 ,   杉沢徳彦 ,   三木友一朗 ,   幕内梨恵 ,   後藤裕信 ,   徳永正則 ,   谷澤豊 ,   坂東悦郎 ,   川村泰一 ,   絹笠祐介 ,   金本秀行 ,   上坂克彦

ページ範囲:P.1434 - P.1438

【ポイント】

◆術中大動脈周囲リンパ節転移陽性診断例,食道胃接合部癌,術前化学療法施行例が適応となる.

◆郭清範囲は,#16a2からb1とし,術後障害予防の目的で予防郭清では自律神経は極力温存すべきである.

◆後腹膜の解剖と,生じる可能性のある術後障害に関して熟知しておくべきである.

胃癌大動脈周囲リンパ節転移に対する術前補助化学療法

著者: 吉川貴己 ,   長晴彦 ,   利野靖

ページ範囲:P.1440 - P.1445

【ポイント】

◆大動脈周囲リンパ節郭清術により,手術単独でも,組織学的転移例で20%程度,肉眼的転移例で10%程度の5年生存率が得られる.

◆強度を高めた2~3コースのS-1+CDDPによる術前補助化学療法と大動脈周囲リンパ節郭清術により,58.8%の3年生存率が得られている.

◆術前補助化学療法後の大動脈周囲リンパ節郭清術は侵襲が高くリスクも大きい.

手術の適応と成績:腹腔洗浄細胞診陽性例

CY1胃癌に対する集学的治療

著者: 伊藤友一 ,   三澤一成 ,   伊藤誠二

ページ範囲:P.1446 - P.1449

【ポイント】

◆CY1胃癌は腹膜転移再発のリスクが高く,予後不良であり,胃癌治療ガイドライン第3版上,M1に分類され,化学療法,対症療法が推奨された.

◆近年の化学療法の進歩に伴い,その予後は改善してきており,定型手術の適応はあると考えられる.

◆切除のタイミング,至適化学療法レジメン,化学療法実施期間についてのレベルの高いエビデンスは存在せず,今後の課題である.

手術の適応と成績:その他の遠隔転移例

胃癌遠隔転移に対する外科的切除

著者: 藪崎裕 ,   梨本篤 ,   松木淳 ,   會澤雅樹

ページ範囲:P.1450 - P.1456

【ポイント】

◆胃癌腹膜転移に対する全身化学療法の効果は不十分で,これまでは手術の対象外と考えられていた.

◆腹腔内化学療法の登場で,腹膜転移に対する効果が認められるようになった.

◆全身・腹腔内化学療法と手術を組み合わせた集学的治療と,術後も化学療法を継続する治療戦略により,予後の向上が期待できる.

切除可能Stage Ⅳ胃癌―腫瘍内科医の立場から

Stage Ⅳ胃癌における外科的切除―腫瘍内科医の立場から

著者: 津田享志 ,   朴成和

ページ範囲:P.1457 - P.1461

【ポイント】

◆非治癒因子を1つだけもつ症例に対するR0/1切除後の良好な治療成績が散見されており,切除可能なstage Ⅳ胃癌に対する外科的切除術を含む集学的治療の有効性が期待されている.

◆大腸癌でみられるように,胃癌においても腫瘍縮小効果の高い化学療法後のconversion surgeryを検討する価値があると思われる.他方,胃癌治癒切除後の補助化学療法ではS-1+シスプラチンの忍容性が悪かったなど,外科切除によって化学療法が十分行えない危険性も十分考慮すべきである.

◆Stage Ⅳ胃癌は切除できたとしても再発率が高いという意味では,術後補助化学療法を含めて化学療法が治療の主役であり,術後化学療法の忍容性を意識して外科的切除術の適応は慎重に決定されるべきである.

病院めぐり

石川勤労者医療協会 城北病院外科

著者: 三上和久

ページ範囲:P.1462 - P.1462

 当院は,金沢城や兼六園で有名な石川県金沢市(人口46万人)にあり,2015年春に開通する北陸新幹線の終着駅である金沢駅から徒歩10分の距離に位置しています.戦後の荒廃した状況のなか,「地域住民がいつでも安心してかかれる診療所を」との要望が強く,1949年に地域住民が出資し合って作った「しろがね診療所」が当院の前身です.その後も地域に溶け込んで医療を展開していき,地域の方に支えられた「住民立」の病院として現在に至ります.病床数は314床で20診療科を標榜し,二次救急病院,基幹型臨床研修病院,卒後臨床研修評価機構認定病院(2013年9月時点で北陸唯一)となっています.開設以来「弱い立場の方に寄り添う医療」「いつまでも安心して住み続けられるまちづくり」をスローガンにして,無料・低額診療や,差額ベッド代を徴収しない無差別平等の医療を継続してきました.これらの実績から所属法人は,医療機関として県内唯一の公益社団法人として認可されました.

 また当院は,外科学会・消化器外科学会・乳癌学会・がん治療認定医機構・消化器内視鏡学会・消化器病学会・静脈経腸栄養学会の施設認定を受けています.消化器を中心に乳腺・甲状腺,胸部,末梢血管などの幅広い領域の外科診療を行っています.外科スタッフは斎藤典才(副院長:肛門,麻酔科,ペインクリニック内科),筆者(部長:消化器),中村崇(医長:乳腺甲状腺,呼吸器),古田浩之(後期研修医:消化器)の4名で,年間300症例超の手術を行っています.平均年齢は38歳と比較的若く,小さなチームであるがゆえに一致団結した小回りの効く外科医療を,毎日アクティブに行っています.当科の特徴としては腹腔鏡下手術に力を入れており,胃癌・大腸癌の8割,ヘルニア・虫垂炎は全例を腹腔鏡下に施行しています.内科・病理科との合同検討会を毎週行い,診断・手術適応・治療方針・治療結果の検討などを集団で行っています.また,癌全般の患者会(いきる会)や乳癌の患者会(さくら会)があり,術後や化学療法中の患者さんを支える活動を行っています.

FOCUS

微細解剖ならびに剝離層にこだわった腹腔鏡下直腸癌手術

著者: 絹笠祐介 ,   塩見明生 ,   山口智弘 ,   富岡寛行 ,   賀川弘康 ,   山川雄士 ,   佐藤純人

ページ範囲:P.1464 - P.1469

はじめに

 直腸癌手術においては,根治性を担保しつつ,肛門温存および泌尿生殖器機能温存をはかる手術手技が要求される.誤った解剖の理解は術中・術後の合併症を増加させるだけでなく,癌の根治性を損なう恐れがある.正しい解剖の理解とともに,癌の進展・進行度により適切な剝離層を選択し,根治性を保持する必要がある.

 これまでの直腸癌手術において,術後泌尿生殖器機能障害は外科医が想像している以上に高頻度に出現していることを理解しておかなくてはならない.直腸癌の臨床試験で有名なDutch Trialでは,実に7割以上の症例で術後の勃起障害や射精障害が生じている.わが国で行われているJCOG0212での術後性機能障害もこれに近い頻度で障害を認めている.

 腹腔鏡による拡大視効果によって,骨盤深部までの良好な視野を共有する手術が可能となった.腹腔鏡下という特殊な環境において術野の展開や解剖に沿った剝離を諦めるのではなく,骨盤内という狭いスペースでは,多くの場面で開腹手術と同等,もしくはそれ以上の剝離・授動ができることを十分理解する必要がある.そのために解剖を熟知し,技術を磨き,決して妥協をしない手術を心掛けることが重要だと感じている.

 本稿では,直腸周囲の筋膜構成と,それに則った剝離層で行う腹腔鏡下低位前方切除術の手技について解説する.

必見! 完全体腔内再建の極意・9

胃全摘術後再建―針糸による手縫い食道空腸吻合を用いた完全腹腔鏡下Roux-en-Y再建―“Back to the Suture”

著者: 稲嶺進 ,   間山泰晃 ,   卸川智文 ,   嘉数修 ,   春松敏夫 ,   金城省吾 ,   兼松恭平 ,   小倉加奈子 ,   砂川宏樹 ,   當山鉄男 ,   大城直人 ,   大田守雄

ページ範囲:P.1470 - P.1479

■■はじめに

 胃癌に対する腹腔鏡下胃全摘術には多くの難所があるが,最大の難所はRoux-en-Y再建時の食道空腸吻合だと思われる.これまでリニア・ステイプラーやサーキュラー・ステイプラーを用いた様々な器械吻合が報告されてきたが,どの方法も一長一短があり,いまだ標準化には至っていない.腹腔鏡下手術においては,針糸による縫合や糸結びは難易度が高いとされ,その手技をいかに排除するかに力点が置かれてきた.しかし,針糸での縫合を避ける器械吻合を用いた術式も決して簡単とはいえず,ときに修復が容易でないトラブルに見舞われ,決してストレスから解放されることはなかった.

 われわれは,病的肥満に対するRoux-en-Y gastric bypassでの完全腹腔鏡下手術を2004年に導入し,その技術を胃癌手術にも応用してきた.そのモデルとなったKelvin D. Higaの腹腔鏡下gastric bypassの方法は,胃空腸吻合でステイプラーを使用せず,針糸のみを使用した腹腔鏡下手縫いで行うものであった1).同法での縫合不全はHigaらの報告と同様,われわれの経験でも皆無であり,食道空腸吻合も腹腔鏡下に針糸のみで施行可能ではないかと考えた.2010年より食道空腸吻合を腹腔鏡下に針糸のみで施行してきたが,これまで連続した30例で1例のリークも経験していない.様々な理由から,今では器械吻合よりもはるかにストレスの少ない吻合と考えている.

 本稿では,器械吻合時代から手縫い時代に至るまでの様々な経験から得られた,エラーの少ない手縫い食道空腸吻合を含む完全腹腔鏡下Roux-en-Y再建のコツを紹介したい.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・19

嗜好品と病気―コーヒーとチョコはおすすめか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.1480 - P.1483

素朴な疑問

 嗜好品は健康を害するというイメージがある.確かにタバコはわるく,アルコールも適量(男性10~20 g/日,女性10 g/日)を超えるとわるい.コーヒーとチョコレート(以下,チョコ)は世界中で愛される嗜好品であり,社交的にも欠かせない.カフェインやポリフェノールを含むので,脳機能にいいのだろうか.がん・脳卒中・心臓病を予防するのだろうか.

臨床報告

尿膜管-S状結腸瘻の1例

著者: 牛嶋良 ,   岡田晃穂 ,   田枝督教 ,   畠雅弘 ,   大河内信弘

ページ範囲:P.1484 - P.1487

要旨

患者は55歳,男性.臍部から便性分泌を認め,近医より当院を紹介され受診した.臍部に瘻孔があり,腹部CTで臍部から膀胱頭側まで連続する腹壁に沿った索状構造を認め,尿膜管遺残が疑われた.瘻孔造影で臍部から下腹部正中へ索状構造が描出され,尾側でS状結腸が描出されたため,S状結腸-尿膜管瘻と診断した.開腹すると腹壁に沿って臍部から尾側に伸びる尿膜管を認め,尾側でS状結腸憩室との間に瘻孔を形成していた.尿膜管を瘻孔とともに切除したが,第52病日に術創とS状結腸憩室との間に再び瘻孔が形成されたため,半年後にS状結腸切除および瘻孔切除を施行した.尿膜管と結腸憩室との瘻孔形成は海外6例,本邦2例の報告を認めるのみであった.

術後5か月で肝転移再発をきたした上行結腸早期内分泌細胞癌の1例

著者: 松本知拓 ,   佐藤真輔 ,   高木正和 ,   大場範行 ,   大端考 ,   渡邉昌也 ,   鈴木誠

ページ範囲:P.1488 - P.1492

要旨

患者は65歳,男性.健診で便潜血陽性があり,下部消化管内視鏡検査で多発ポリープを指摘された.EMRを施行し,上行結腸のIsp病変は充実性増殖成分を伴う中分化型腺癌で,pSM(150 μm)と診断された.追加切除で腹腔鏡下右結腸切除術D2郭清を施行したところ,211リンパ節に転移を認めた.術後補助化学療法を開始したが肝転移が出現したため,拡大外側区域切除術,S6部分切除術を施行した.病理検査では大腸癌の転移で,免疫染色でCD56(+), synaptophysin(+)を示し,上行結腸内分泌細胞癌の転移と診断された.その後,化学療法を施行したが,多発転移が出現した.術後1年3か月後に永眠された.大腸内分泌細胞癌は早期癌であっても予後は極めて悪く,新たな集学的な治療の開発が望まれる.

妊娠時イレウスに対して手術を施行した3例

著者: 高久秀哉 ,   春日信弘 ,   原明弘 ,   東和明 ,   長倉成憲 ,   鈴木俊繁

ページ範囲:P.1493 - P.1496

要旨

症例1は,38歳.婦人科疾患による開腹手術の既往があった.妊娠32週5日,絞扼性イレウスの診断にて緊急手術を行った.まず,帝王切開を行った.回腸が索状物により絞めつけられており,これを切離した.症例2は,38歳.婦人科疾患による腹腔鏡下手術の既往があった.妊娠28週2日に内ヘルニアによるイレウスと診断し,緊急手術を行った.症例3は,33歳.腹部手術の既往はなかった.妊娠16週6日に手術を施行した.子宮筋腫と大網の癒着の間に小腸がはまりこんでおり,これを剝離し,子宮筋腫を核出した.妊娠時のイレウスは,非妊娠時と比べ,診断,治療が複雑であり,その治療には外科と産科との協力が重要である.

子宮が異常索状物となって発症した絞扼性イレウスの1例

著者: 長谷部達也 ,   大石晋 ,   奈良昌樹 ,   野崎剛 ,   吉原秀一 ,   舘岡博

ページ範囲:P.1497 - P.1500

要旨

症例は73歳,女性.帝王切開の既往があった.2013年2月,腹痛が出現し救急外来を受診した.単純CTの多断面再構成像でclosed loop obstruction,whirl sign,腹壁から骨盤へ伸びる索状物と,それに絞扼された小腸を認め,絞扼性イレウスと診断し緊急手術を行った.索状物は腹壁との癒着によって延長した子宮であった.わが国では子宮が原因となって絞扼性イレウスになったという報告はなく,きわめて珍しい症例と考えられた.

術前に小腸・膀胱嵌頓を診断しえた鼠径ヘルニアの1例

著者: 森田洋平 ,   山本雅由 ,   山田圭一 ,   永井健太郎 ,   奥田洋一

ページ範囲:P.1501 - P.1504

要旨

患者は82歳,男性.60歳台から右鼠径部の腫脹を自覚していた.2012年,右鼠径部の腫脹が増悪し,疼痛を伴ったため救急外来を受診した.右鼠径ヘルニア嵌頓と診断し,造影CTを撮影した.嵌頓した小腸を認め還納し,一部還納できなかったが疼痛は改善した.再度単純CTを撮影したところ,小腸は還納されていたが,造影剤が充満した膀胱が嵌頓していた.待機的に手術したところ,内鼠径ヘルニアであった.術後第3病日に退院した.膀胱ヘルニアは稀で,下部尿路障害の精査で偶然発見される例が多い.自験例では小腸と膀胱の同時嵌頓であり,排泄相のCT撮影により残存した膀胱ヘルニアを術前診断でき,排泄相でのCT撮影が有用である可能性が示唆された.

乳癌手術後16年目に孤立性肺転移を生じた1例

著者: 山上良 ,   畑山純 ,   佐伯典之

ページ範囲:P.1505 - P.1509

要旨

症例は57歳,女性.16年前に乳癌の診断で部分切除術を受けた.病理診断はinvasive ductal carcinoma, solid-tubular type, T2N0M0:StageⅡAであった.経過観察中の胸部X線写真およびCT検査で原発性肺癌あるいは乳癌肺転移を疑い,開胸術での肺部分切除を行い乳癌の肺転移と診断された.術後は再発なく経過は良好である.乳癌術後15年以上を経過しての肺再発例の報告は,本症例を含めて15例と少ない.乳癌の肺転移に対しては,一般的には手術療法は勧められないが,晩期再発の単発転移例では予後の改善も期待できることから手術は有用な方法であると考えられた.

私の工夫-手術・処置・手順

Reduced port surgeryにおけるロール状癒着防止吸収性バリア貼付の工夫

著者: 高木剛 ,   小泉範明 ,   中瀬有遠 ,   福本兼久 ,   宮垣拓也

ページ範囲:P.1510 - P.1511

【はじめに】

 術後癒着による腸閉塞を予防するために,癒着防止吸収性バリアを腹腔内の剝離・切開部に貼付することでの癒着軽減の有用性は示されている.腹腔鏡下手術は近年,使用するポートの数または径を小さくするreduced port surgery(以下,RPS)へ進む傾向がある.腹腔鏡下手術,特にアクセスポートを用いたRPSにおける癒着防止吸収性バリアの的確かつ簡易に貼付する方法を紹介する.

1200字通信・60

手の悪(わろ)き人

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1433 - P.1433

 最近は,院内のオーダリングがパソコンでの入力となり,悪筆の問題では以前ほど困ることはなくなりました.しかし,たとえ全面的に電子カルテにしたとしても手書きの部分は残るわけで,かえって悪筆が目立つことになります.ただ,他院からいただく紹介状にも悪筆のものがあり,肝心の内容が理解できないだけではなく,なかには紹介医のお名前すら判読できないこともあり,この問題が当院だけのことではないと苦笑いさせられることにもなります.そうした先生方は,きっとよほど御高名な名医なのだろうと,お名前を存じ上げない自分を恥じることになっています.

 そんな折,昔習った『徒然草』を,ふとしたことから読み直す機会がありました.悪筆の問題は兼好さんの時代にもあったようで,第35段に,「手の悪(わろ)き人の,憚らず文書き散らすはよし.見苦しとて人に書かするはうるさし」とあります.中学か高校で習ったのだとは思いますが,今から思えばそんな子供の頃に兼好さんの思いを理解できるわけもなく,この歳になってやっと実感として味わうことができるということのようです.

ひとやすみ・106

外科勤務医を続ける理由

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1445 - P.1445

 外科医が勤務医として労働意欲を持ち続ける理由は何であろうか.生活費を得るためもあるが,自分が執刀した手術により,病を患う患者さんが健康を取り戻すことを実感できることが,激務の外科勤務医を続ける最大のモチベーションであると私は思う.

 日本の外科医は,診断,手術,術後管理,癌化学療法,ターミナルケア,さらには麻酔や救急医療までをこなすスーパーマンである.また主治医として受け持つ入院患者さんには,すべてに対応することが責務として求められる.したがって365日24時間,何時も拘束され,自由な時間が持てずに常に緊張を強いられている.さらには各種の委員会などの会議や病院行事への参加も求められる.これらの激務に耐えられるのも,勤務医なればこそ大好きな手術ができるからである.

書評

―Jerome Groopman, Pamela Hartzband(原著) 堀内志奈(訳)―決められない患者たち

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1449 - P.1449

 今般医学書院から,アメリカでベストセラー作家といわれてきたJerome Groopman医師とPamela Hartzband医師合作の“Your Medical Mind:How to decide what is right for you”という著書が,札幌医科大学卒業後米国留学の経験をもつ堀内志奈医師によって日本語に訳され,『決められない患者たち』という邦題で出版された.

 これはハーバード大学医学部教授と,ベス・イスラエル病院に勤務する医師の二人が,患者とその主治医に密着して得た情報を行動分析して,一般読者にわかりやすく書かれた本である.

―Robert M. Zollinger, Jr., E. Christopher Ellison(著) 安達洋祐(訳)―ゾリンジャー外科手術アトラス

著者: 猪股雅史

ページ範囲:P.1512 - P.1512

 医学書院から「すごい本」が出版された.70年余の歴史と伝統ある世界的名著が,卓越した外科医の感性で,日本人向けにわかりやすく,そして実践的に翻訳された.もちろん,『ゾリンジャー外科手術アトラス』のことである.

 原書の『Zollinger's Atlas of Surgical Operations』は,1937年の初版から絶対的な信頼と実績を誇り,世界中の外科医に読まれている手術書である.私も研修医時代に,先輩に真っ先に薦められ,この書籍とともに外科医の仲間入りをした.初版から70年にわたり改訂を重ね続け,2011年,内容をさらに充実させ第9版が出版された.そしてこのたび,同書が日本の外科医のために,原書の内容を正確に伝えつつ,日本人の感性に沿った表現を用いながら,わかりやすい手術の翻訳書として刊行された.日本の外科医にとってまさしく待望の1冊である.

昨日の患者

尊厳死

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1463 - P.1463

 命は地球より重く,最後まで救命を尽くすことが医療従事者に求められている.一方,癌の末期で治療の施しようがなくなった場合は,いたずらに延命処置を行うのではなく,尊厳死が尊重される時代になりつつある.しかし,患者自身そして家族にとって尊厳死の選択は,いまだ難しいことである.自分自身で尊厳死を選択した患者さんを紹介する.

 80歳代前半のOさんが上腹部不快感を訴えて来院した.腹部CT検査を行うと腹腔内に多発性リンパ節腫大を認め,腹腔鏡下に生検を行うと癌の転移であった.原発巣が不明なため更なる精査を勧めたが,検査,さらには癌化学療法さえ拒否した.そして自宅での療養を希望し,早期に退院した.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.1415 - P.1415

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.1469 - P.1469

投稿規定

ページ範囲:P.1513 - P.1514

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.1515 - P.1515

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1516 - P.1516

次号予告

ページ範囲:P.1517 - P.1517

あとがき

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.1518 - P.1518

 私は胃癌治療ガイドラインの第4版の作成委員として,2年間仕事をしてまいりました.担当させていただいたのは,「切除可能Stage Ⅳ胃癌」についてのQ & Aの作成でしたが,これは英訳するには大変ややこしい概念です.「切除可能」という用語は技術的に切除が可能という意味にとれます.遠隔転移があっても一緒に取れる場合には「切除可能」でしょうし,狭窄,出血が原因で姑息切除をする場合でも,それが可能でさえあれば言葉の上では「切除可能」ですよね.しかし,英語でresectableというと,根治目的の手術の適応があるというニュアンスもかなり含まれます.その意味で,現行の胃癌取扱い規約によれば,遠隔転移があればStage Ⅳであり,ガイドラインによれば,これらは全てunresectableということになります.別の言い方をすれば,技術的に切除可能な大腸癌肝転移はresectableですが,1個でも肝転移があれば胃癌はunresectableとなってしまいます.どうやら「切除可能Stage Ⅳ胃癌」という言葉は,うまく英訳できそうもありません.実際には,肝転移があっても1個なら普通は切除するだろうとか,CY1程度なら切除してはどうかなど,いろいろな意見があり,ガイドラインに反映させるのも大変です.

 あるとき,胃のⅡc病変と肝内の孤立性の腫瘤を指摘されてunresectableであると言われたというまだ若い患者さんが,私の外来に来られました.Ⅱc病変でもあるし,本当に肝転移かどうかは到底その段階ではわからないし,肝転移であっても1個では諦めきれない.さっそく手術も視野に入れた精査のご説明をしたところ,大変喜ばれましたが,何とsecondではなくthird opinionだったとのこと.進行胃癌の治療は進歩していますので,まず手術をしてから考えようという考え方が常に正しいわけではありません.しかし,そうではあっても,マニュアル主義といいますか,世の中も変わったなあと思った次第です.

「臨床外科」第68巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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