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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科68巻2号

2013年02月発行

雑誌目次

特集 術後の血管系合併症―その診断と対策

ページ範囲:P.133 - P.133

 外科手術手技は近年,血管外科手技を取り入れた高度な手術手技が確立され進歩してきた.一方で,血管系を操作しての手術手技の施行に伴い,これまでみられることの比較的少なかった様々な血管系合併症の発症をみるようになってきている.

 本特集では,これら外科手術後に発症する合併症のうち,血行障害を惹起するような血管系合併症を特に取り上げた.そして,どのような症状に注意して術後患者を診ていけば合併症の発症をいち早く診断できるのか? その診断確定のためにはどのような診断方法を用いればよいのか? また,これら血管系合併症の発症時には,どのタイミングでどの治療方法を選択すべきなのか? について,各エキスパートの先生方に解説していただいた.

術後の脳内血行障害―診断のポイント

著者: 奥村知之 ,   森山亮仁 ,   北條荘三 ,   松井恒志 ,   澤田成朗 ,   嶋田裕 ,   塚田一博

ページ範囲:P.134 - P.137

【ポイント】

◆周術期脳血管障害は術後早期に発症することが多く,死亡率は通常の2倍以上に達するといわれており,その発症をいち早く疑い迅速に診断する必要がある.

◆動脈硬化や血栓形成に関与する因子に加えて抗凝固療法の中断,頭頸部の術前放射線照射やリンパ節郭清,術中体位,低血圧,術後炎症反応,敗血症など外科周術期に特徴的な危険因子を念頭に置く必要がある.

◆ハイリスク群において術後経過のなかで発症する運動麻痺や感覚障害,言語障害,意識障害などの徴候を早期に捉え,CT撮影や脳神経専門医へのコンサルトを行う必要がある.

術後の脳血管障害(周術期脳卒中)に対する治療および管理

著者: 松浦威一郎 ,   小林英一 ,   佐伯直勝

ページ範囲:P.138 - P.142

【ポイント】

◆外科手術後の脳血管障害では,脳梗塞が圧倒的に多くを占める.

◆外科手術後の脳血管障害の脳梗塞では,治療方針に様々な制約が生じるため,代替療法の検討が必要となる.

◆速やかな診断と治療のために担当科のみならず,神経系医師(神経内科・脳神経外科),麻酔科,コメディカルスタッフとの連携が重要となる.

術後の頸静脈血栓・閉塞―診断のポイント

著者: 橋本貴史 ,   岩沼佳見 ,   富田夏実 ,   天野高行 ,   諌山冬実 ,   大内一智 ,   酒井康孝 ,   井上裕文 ,   國安哲史 ,   橋口忠典 ,   那須元美 ,   尾﨑麻子 ,   齋田将之 ,   藤原大介 ,   野原茂男 ,   吉野耕平 ,   服部友香 ,   松森聖 ,   北野裕巳 ,   内田隆行 ,   柴本峰彩子 ,   鶴丸昌彦 ,   梶山美明

ページ範囲:P.144 - P.147

【ポイント】

◆頸静脈血栓を含む上肢の深部静脈血栓は全深部静脈血栓症の1~4%と稀であり,そのうち肺塞栓の発生頻度は約5%といわれている.

◆原因のはっきりしない頸部痛,圧痛,頸部腫脹,頸部の熱感,発赤などの局所炎症症状がある場合は頸静脈血栓症を疑うが,症状のない場合も多く,中心静脈カテーテルでは,多くは不完全な静脈閉塞で無徴候であり,多くが見逃されている.

◆診断には超音波検査,CT,MRIや血管造影検査などの画像検査が有用である.

術後の頸静脈血栓・閉塞―治療のコツ

著者: 森毅 ,   林亨治 ,   鈴木実

ページ範囲:P.148 - P.152

【ポイント】

◆内頸静脈血栓の主な原因はカテーテルである.カテーテルを有する患者においては内頸静脈血栓の可能性を念頭に置いておく.

◆疼痛,圧痛,熱感,腫脹,浮腫,皮膚の青変,側副血行の怒張などの血栓・閉塞症状および発熱に注意して周術期管理を行う.

◆血栓・閉塞が疑われたら,造影CTなどで血栓の範囲を確認し,抗凝固療法か侵襲的治療を選択するかを迅速に判断する.

術後の肺動脈塞栓―診断のポイント

著者: 大谷和広 ,   千々岩一男

ページ範囲:P.154 - P.157

【ポイント】

◆肺血栓塞栓症は特異的な症状や所見に乏しいため,診断のためにはまず本症を疑うことが最も重要である.

◆本症を疑うべき状況として,①ほかの疾患で説明がつかない呼吸困難,突然の呼吸困難,②安静解除後の初歩行,排便・排尿時,体位変換時の突然の呼吸困難,胸痛,失神,ショック,③原因不明の酸素飽和度の低下,などがある.

◆確定診断は造影MDCTで肺動脈血栓を証明することにより行う.下肢まで撮影し深部静脈血栓症も同時に評価する.

術後の肺動脈塞栓―治療のコツ

著者: 猪瀬崇徳 ,   宮崎達也 ,   鈴木茂正 ,   田中成岳 ,   国元文生 ,   桑野博行

ページ範囲:P.158 - P.163

【ポイント】

◆肺血栓塞栓症の発症頻度は低いものの,わが国でも増加傾向にあり,発症すると重篤な状態に陥る.

◆肺血栓塞栓症に対しては抗凝固療法が治療の基本であり,禁忌でない限り速やかに開始することが肝要である.

◆残存した静脈血栓からの再発は重要な予後規定因子であり,再発予防を行うことは非常に重要である.

術後の冠動脈閉塞―診断と治療

著者: 大野貴之 ,   髙本眞一

ページ範囲:P.164 - P.167

【ポイント】

◆外科手術後急性期に心筋梗塞など急性冠症候群を疑う場合には緊急冠動脈カテーテル検査を行い,必要があれば責任病変に対するカテーテル治療(PCI)を第一選択とする.

◆外科手術前検査でPCI適応となる軽症冠動脈疾患を合併している場合は,薬物治療を強化して外科手術を先行させ,その後必要ならPCIを施行する.

◆外科手術前検査で冠動脈バイパス手術(CABG)適応となる重症冠動脈疾患(特に左主幹部分岐部病変+多枝病変患者,低心機能患者)を合併している場合にはCABG先行も考慮する.外科手術前にCABGを先行させる最大のメリットは,外科医,麻酔科医の双方が周術期リスクを恐れることなく存分に外科治療を行える点にある.

術後の門脈血栓・閉塞―診断のポイント

著者: 久保木知 ,   清水宏明 ,   吉留博之 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   吉富秀幸 ,   古川勝規 ,   竹内男 ,   高屋敷吏 ,   鈴木大亮 ,   中島正之 ,   相田俊明 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.168 - P.171

【ポイント】

◆術後門脈血栓・閉塞は比較的稀であるが,脾摘後,炎症性腸疾患術後,腹腔鏡下手術後,肝胆膵外科手術後に比較的多い.

◆発生初期には症状が乏しく診断が困難だが,急速に進行すると腸管うっ血・壊死,門脈圧亢進症,肝不全などを引き起こし,重篤となりうる.

◆早期診断にはドップラー超音波検査,造影CT検査,および血液検査での凝固線溶系の亢進などが有用である.

術後の門脈血栓・閉塞―治療のコツ

著者: 河地茂行 ,   島津元秀

ページ範囲:P.172 - P.176

【ポイント】

◆消化器外科領域のなかでは,肝胆膵外科手術後に門脈血栓を経験することが多い.特に,肝胆膵領域への腹腔鏡下手術導入の拡大により,その頻度は増加傾向にある.腹腔鏡下脾摘術後には特に,高頻度に門脈血栓を生じると報告されている.

◆門脈血栓症の大部分は無症状で,画像診断の機会に偶然発見されることが多い.有症状の場合,門脈圧亢進症状から腸管虚血による腹膜炎まで多彩な症状を呈する.

◆門脈血栓症の治療の第一選択は抗凝固療法である.抗凝固療法が無効もしくは不能の症例には,病態に応じて血栓溶解療法,手術治療を選択する.

術後の肝動脈塞栓・閉塞―診断のポイント

著者: 金子順一 ,   菅原寧彦 ,   長谷川潔 ,   國土典宏

ページ範囲:P.177 - P.181

【ポイント】

◆肝動脈再建を併設した術式は,0~11%に肝動脈血栓症が発症する.

◆肝動脈再建後の定期的な超音波ドップラー検査は,血栓症の早期発見に有用である.

◆膵頭十二指腸切除後膵液漏に合併した出血後の肝動脈塞栓術は,44~67%に肝梗塞が発症する.

肝動脈血栓閉塞による術後急性肝虚血に対する治療戦略

著者: 浅野賢道 ,   平野聡 ,   田中栄一 ,   土川貴裕 ,   松本譲 ,   加藤健太郎 ,   海老原裕磨 ,   中村透 ,   七戸俊明

ページ範囲:P.182 - P.185

【ポイント】

◆肝動脈の血栓閉塞は比較的稀な術後合併症ではあるが,対応が遅れると致命的になる可能性が高く,迅速な診断および適切な治療が要求される.

◆治療法としては,抗凝固療法による保存的治療,interventional radiologyによるステント留置または選択的血栓溶解療法,外科的治療がある.

◆外科的治療法として,安全性に関してさらなる検討の余地はあるものの門脈部分動脈化(APS)が一手段となりうると考える.

術後の骨盤・下肢静脈血栓・閉塞―診断のポイント

著者: 瀧澤玲央 ,   金岡祐司 ,   大木隆生 ,   鈴木裕

ページ範囲:P.186 - P.190

【ポイント】

◆外科手術後の骨盤・下肢静脈血栓は時に重篤な術後経過を引き起こす肺血栓塞栓(PTE)の発生母体であり,最近は予防に重点が置かれているが,早期診断,PTEの予防が非常に重要である.

◆深部静脈血栓症(DVT)はほとんど症状のないものから下肢の腫脹,疼痛,発赤などを認めるものまで様々である.また,下肢の症状は認めないが胸部痛や呼吸困難などPTEの症状を認めるものもある.周術期の患者が上記のような症状を訴えた場合,すぐに本症を疑い検査を行う.

術後の骨盤・下肢静脈血栓・閉塞―治療のコツ

著者: 岡本宏之

ページ範囲:P.191 - P.193

【ポイント】

◆外科手術後,深部静脈血栓症と診断したら,持続性の出血がない限り直ちに抗凝固療法を開始する.

◆抗凝固療法開始前に,先天性の血栓性素因(プロテインSおよびC,ATⅢなど)をチェックする.

◆抗凝固療法と同時に弾性包帯などによる圧迫療法を開始し,血栓後遺症の発生予防と軽減に努める.

胃癌手術のロジック-発生・解剖・そして郭清・4

“ねじれ中心”と3本のtrunk

著者: 篠原尚 ,   春田周宇介

ページ範囲:P.194 - P.203

 26腸回転~90度:今回は胎生期の最大イベントである腸回転のプロセスを,外科医の視点で解明する.胃の回旋が起こると,その反動で十二指腸ループは発育しながら右に張り出してくる.この十二指腸の右方移動を契機として,中腸では腸回転が始まる.中腸とは将来の遠位十二指腸から近位横行結腸までの部分で(第1回連載,図6参照),その中間地点に卵黄管がある.胎生4週頃から(すなわち,これまでたびたび示してきた胎生5週の基本図の時点からすでに)中腸ループは臍帯内に脱出し,生理的臍帯ヘルニアの状態になっている.中腸回転は,この卵黄管に向かってまっすぐに伸びたSMAを回転軸とする,反時計回り3/4周270度の大回転である.Michelsはその著書の中で,mesenteric trunkという呼称をSMAに与えている1)

 まず90度回転した状態を,動脈の分岐とともに示す.この回転によって中腸ループの近位脚(十二指腸空腸脚)は右側に,遠位脚(盲腸結腸脚)は左側にくる(下図).十二指腸と結腸との間の狭い腸間膜の中をSMAが通っている.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・9

直腸がんの手術―ストーマはQOLがわるいか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.204 - P.207

素朴な疑問

 直腸がんの手術で人工肛門(ストーマ)になると生活に不便を感じるが(身体障害4級),低位前方切除で肛門を温存しても,排便困難・失禁・残便・頻回便・夜間排便・便ガス識別能低下などの排便障害によって社会生活が制限されることがある.直腸切断は前方切除より劣った手術だろうか.直腸切断は前方切除に比べてQOLが低いのだろうか.

病院めぐり

焼津市立総合病院外科

著者: 平松毅幸

ページ範囲:P.208 - P.208

 当院(486床)の外科は,50年前に東大第1外科(現 大腸血管外科)の支持で始まり,28年前からは浜松医大第1外科が加わって,人口14万人の当地域の外科診療を支えてきました.私が外科専修を開始した28年前から,当科には若手医師が伸び伸びと診療できる雰囲気がありました.温和な先生方が多くいらしたからだと思いますが,当地の看護師・技師の多くが自他に寛容で自由な発言をする気質を有しているのも大きいと思います.18年前に当科に再赴任して外科専修医を指導する立場になってはじめて,安全な医療を提供することと専修医に多種多数の手術を経験させることの両立の難しさを実感することとなりました.

 まず自分たちのスキルアップをはかる必要がありましたが,幸運なことに,東大系と浜松医大系の手術上手な先生方のご指導を受けることができました.肝門部胆管癌などの肝胆膵の高難度手術は親友でもある山本順司先生(現 防衛医大外科学講座教授)に,腹部大動脈瘤などの血管疾患の手術は重松 宏先生(現 山王メディカルセンター血管病センター長)に,胸部外科手術は,鈴木一也先生(現 すずかけ新病院病院長)にご指導いただきました.達人の先生方から学んだ臓器(肝・胆管・膵臓・肺・リンパ節)や血管(門脈・動脈)の手術手技の本質を外さないことと,卒後3~4年目の外科専修医でも確実に行えることを両立させるべく,当科なりの手術手技を作り上げてきました.無駄が少なく,トラブルのない手術を行うことで,手術が上達したかのように外科専修医達に感じさせることが好ましい指導と考えてきました.

臨床研究

TS1膵癌切除症例の検討

著者: 徳山泰治 ,   長田真二 ,   佐々木義之 ,   今井寿 ,   吉田和弘

ページ範囲:P.210 - P.214

要旨

 【目的】当科で経験した小膵癌について検討し,その特徴を検討する.【対象】当科で加療し病理組織学的に直径2 cm以下(TS1)と確認された通常型膵癌14例.【結果】膵頭部9例,膵体部5例で,平均腫瘍径は16.8±3.3 mmであった.膵癌取扱い規約(第6版)における局所進展度はpT1が5例(35.7%)のみで,それ以外はすべてpT3以上であった.また9例(64.2%)にリンパ節転移を認め,fStageⅢ以上が10例(71.4%)と進行癌が大半を占めた.MSTは32.6か月で5年生存率は51.5%であった.【結語】TS1症例でも進行癌に準じた手術でR0をめざすとともに,集学的治療が重要と考えられた.

臨床報告

乳癌との鑑別診断に難渋し,針生検所見を含めてlymphocytic mastopathyと診断した2例

著者: 手塚健志 ,   松村晃秀 ,   清水重喜 ,   北市正則

ページ範囲:P.215 - P.218

要旨

 症例は86歳と75歳の女性で,主訴はともに乳房腫瘤.理学所見上,乳癌との鑑別が困難であったが,どちらも針生検にてlymphocytic mastopathy (LM)と診断,その後外来経過観察をしているが特に腫瘤の変化は認められていない.今回われわれは,短期間に同疾患を2例経験し,実地臨床では比較的遭遇することが多い疾患と考えた.乳癌のような触診所見を呈し,エコーでは内部エコーが豹紋状であり,マンモグラフィではカテゴリー3の局所的非対称性陰影程度ならば,LMを念頭に置いてcore needle biopsy以上の過剰な検査を慎むべきと考えた.

集学的治療にて長期生存中の多発肝転移を伴う若年者AFP産生胃癌の1例

著者: 山上裕子 ,   水谷伸 ,   打越史洋 ,   鳥正幸 ,   上島成幸 ,   西田俊朗

ページ範囲:P.219 - P.223

要旨

 症例は20歳,女性.心窩部痛を主訴に受診し,精査にて胃噴門部癌を指摘された.肝S4,S8に最大8 cmの多発転移を認め,血中α-fetoprotein(AFP)値が76,220 ng/mLと異常高値であった.S-1+CDDPによる化学療法を施行したがSDであった.審査腹腔鏡にてP0,CY1であったが,原発巣および肝転移巣は切除可能と判断し,胃全摘術,拡大左葉切除術を施行した.術後経過は良好で,その後S-1内服を5年間継続した.6年6か月を経過した現在,再発徴候はなく血中AFP値も基準値内で維持されている.非常に稀な肝転移を伴う若年かつAFP産生胃癌の1例を経験した.若年者の進行胃癌でも,積極的な集学的治療により,予後の改善が見込める可能性がある.

高度肥満者に発症した臍ヘルニアの1例

著者: 大谷裕 ,   岡伸一 ,   倉吉和夫 ,   河野菊弘 ,   吉岡宏 ,   金山博友

ページ範囲:P.225 - P.229

要旨

 症例は58歳の女性(BMI=66.7).過去に臍ヘルニア嵌頓で整復されたことがあるが,その後は放置していた.2009年7月に症状が再発し,当院救急外来を再受診した.臍周囲の間欠的な疼痛がコントロールできないため,緊急手術を施行した.ヘルニア囊を開放すると,その内部に癒着した小腸が捻転しており,これを解除した.また,ヘルニア門はprosthesisを用いて修復した.本症例のように長期間放置されていた臍ヘルニアでは,ヘルニア囊内の癒着が発端となり発症した消化管の捻転が疼痛の原因となる可能性があると思われたが,同様の症例報告は過去になく,大変稀なケースであると考えられた.

胃切除後40年経過して発症した空腸残胃重積症の1例

著者: 三浦宏平 ,   二瓶幸栄 ,   池田義之 ,   大滝雅博 ,   鈴木聡 ,   三科武

ページ範囲:P.230 - P.233

要旨

 症例は72歳,女性.腹痛と吐血を主訴に紹介され入院となった.40年前に胃潰瘍に対して胃切除術を施行されていた.CTで残胃内にtarget like signを認め,上部消化管内視鏡検査では残胃内に浮腫状の蛇腹様腸管を認めた.以上より,空腸残胃重積症と診断し緊急手術を施行した.初回手術の再建はBillrothⅡ法で行われており,遠位側空腸が残胃内に20 cmほど逆行性に重積していた.重積部を整復し壊死腸管を切除後,Roux-en-Y法にて再建をし直した.空腸残胃重積症は稀な疾患であり,かつ術後40年という長期経過後の報告例は少ない.空腸残胃重積症の頻度,病態,検査所見,および治療法につき文献的考察を加え報告した.

内臓逆位症に腸回転異常症を含む複数の奇形を伴った進行胃癌の1例

著者: 山田哲平 ,   岩永真一 ,   渕野泰秀 ,   城崎洋 ,   大谷博

ページ範囲:P.234 - P.238

要旨

 症例は88歳,男性.食後の胃もたれを主訴に近医を受診し,上部消化管内視鏡検査にて進行胃癌を指摘され,手術目的に当院へ紹介され入院した.術前精査にて内臓逆位症と腹部臓器の小奇形や脈管の奇形を認めた.本症例に対して胃全摘術,2群リンパ節郭清(D2),胆囊摘出,脾臓摘出,虫垂切除,Roux-en-Y法再建を施行した.手術所見ではnon-rotation typeの腸回転異常症や新たな上腹部脈管奇形を認めたものの,術中大きな問題なく手術を遂行しえた.術前画像検査から得られた情報をもとに術者,助手ともに術前のイメージトレーニングを入念に行ったうえで,術中に鏡面像をイメージしながら腹腔内の詳細な観察を行い局所の処理を手順を追って遂行することで,通常の胃全摘術症例と同様に安全な根治術が可能であった.

食道癌術後の膵管内乳頭粘液腺癌に対して胃管温存膵頭十二指腸切除術を施行した1例

著者: 鈴木大亮 ,   吉富秀幸 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.239 - P.244

要旨

 症例は66歳,男性.2001年8月に食道癌に対し右開胸開腹による胸部食道亜全摘,後縦隔経路胃管再建術を施行された.その後,膵頭部囊胞性病変を指摘され,経過観察されていたが,2008年4月,囊胞の増大と内部に隆起性病変の出現が認められ,膵管内乳頭粘液性腫瘍の診断で当科へ紹介された.腹部CT,血管造影検査で右胃大網動脈・胃十二指腸動脈に浸潤を認めず,温存可能と判断し,胃管温存膵頭十二指腸切除術を施行した.右胃大網静脈は高度癒着のため切離したが,術中術後に胃管の血行不全を疑わせる所見は認めなかった.胃管温存に動脈温存は必須と考えられるが,静脈を温存できないことが必ずしも胃管の温存を不可能とするものではないと考えられた.

膵頭十二指腸切除術後の仮性動脈瘤出血に対してcovered stent留置にて止血しえた1例

著者: 浅井浩司 ,   渡邉学 ,   松清大 ,   児玉肇 ,   飯島雷輔 ,   草地信也

ページ範囲:P.245 - P.248

要旨

 症例は70歳台,男性.膵頭十二指腸切除(PD)術後に膵液瘻を認め,保存的に経過を診ていたところ,第16病日に腹痛とドレナージチューブからの出血を認めた.腹部CT検査では上腸間膜動脈領域に5 mm大の仮性動脈瘤を認め,周囲に血腫形成を伴っており,この病変に対してcovered stentの留置を行った.留置後はドレーンからの出血は消失し,術後第61病日に軽快退院となった.仮性動脈瘤出血に対してcovered stent留置は低侵襲で,血流も保たれ有用であると考えられた.

1200字通信・49

平穏死―新しい看取りの文化

著者: 板野聡

ページ範囲:P.143 - P.143

 最近,ようやく「緩和ケア」という言葉が言われ始めてはいますが,これまで医学は人の死を敗北と考えてきたようで,高度医療や癌治療の現場では,いまだに人の死は受け入れられていないように思えます.また,医療現場では,その是非は別にして,光と陰が生まれ,その光が強ければ強いほど陰は深くなり,そうした陰の部分に看取りの問題が取り残されているようです.

 そんな事を考えていたとき,長尾和宏先生の『「平穏死」10の条件』(ブックマン社)という本に出会いました.早速読み始めると,「そうそう,その通りなんだ」と相槌を打つことばかりで,まさに日頃から考えていた「陰」の問題を余すところなく書いておられ,同じことを考え,かつ実践されている先生がおられることに感激することになりました.

ひとやすみ・95

難しい人物評価

著者: 中川国利

ページ範囲:P.153 - P.153

 人は何のために働くのだろうか.生活のため,仕事が楽しいから,人に感謝されたいから,社会に貢献したいからなど,働く目的は人によってそれぞれ異なる.しかし,仕事を継続する最大のモチベーションは,他人から評価され認められることだと私は思う.

 古今東西,種々の表彰が行われている.国や地方自治体による表彰,スポーツ大会での表彰,各種学会や産業界における表彰など,数多くの表彰がある.それでは,職場においては仕事へのモチベーションを高めるために,職員をどう評価し,そしてどう表彰してきたのだろうか.

学会告知板

第12回 国際消化器内視鏡セミナー(The Yokohama Live 2013)

ページ範囲:P.181 - P.181

 第12回国際消化器内視鏡セミナーを下記の要領で開催いたします.大腸内視鏡の挿入から,EMR,ESD,拡大内視鏡,ERCP,ESTまで消化器内視鏡のすべての領域で,世界最先端の技術をライブでご覧いただけます.多数の方の参加をお待ちしております.

Coerse Director:工藤進英

共 催:昭和大学消化器内視鏡国際研修センター(ILCE)

会 期:平成25年3月9日(土)10:00~17:30(予定)

    平成25年3月10日(日) 9:00~16:00(予定)

会 場:新横浜プリンスホテル5Fシンフォニア

勤務医コラム・45

想定外

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.190 - P.190

 外科を30年やってきて場数を踏んだつもりになっていたが,基本的なところで今もつまづいており,全くお恥ずかしい限りです.

 ①営林署勤務の30歳男性.山から下りてきて,右前額部が痛痒いと訴える.「悪い虫にでも刺されたんじゃないの?」なんて冗談を言いながら,さしさわりのない処方を出したら,3日後にお岩さんのようになってやってきた.帯状疱疹でした.

昨日の患者

東北夏祭り巡り

著者: 中川国利

ページ範囲:P.209 - P.209

 東北地方は冬が長く寒さが厳しいだけに,短い夏に開催される祭りは熱く盛り上がる.癌を抱えながらも,念願の東北夏祭りを巡り歩いた御夫妻を紹介する.

 6月末,北海道の太平洋岸にある浦河赤十字病院のM先生から電話をいただいた.「60歳代前半の癌性腹膜炎の胃癌患者さんが旅行を企画しており,仙台にも行くのでよろしく」との依頼であった.かつて私も中心静脈栄養管理の直腸癌再発患者を“四国八十八箇所霊場巡り”に送り出したこともあり,「できるだけ応援しましょう」と快諾した.

書評

―白日高歩(著) 川原克信(執筆協力)―呼吸器外科手術のすべて

著者: 近藤丘

ページ範囲:P.224 - P.224

 私が大学を卒業し,呼吸器外科(当時そういう名称は一般化されてはいなかったが)の医師として仕事を始めてからもう40年近くになろうとしている.40年とは,当時生まれた方が外科医になったとして,バリバリの指導する立場の年代になっているという大変長い期間である.しかし,その間に呼吸器外科には多くの転機があり,今となってはあっという間のように思われる.当時は,もちろん標準開胸と称する30 cmに達しようという大きな開胸創で手術を実施していた.慢性膿胸に対する剝皮や肺全摘,顔面位での肺切除手術なども珍しくなく,困難な炎症性肺疾患の手術の時代の名残がその標準開胸としてあった,そういう時期である.その後,肺癌の手術例がうなぎのぼりに増加し,呼吸器外科の独自性の確立とともに胸腔鏡手術の導入,そして低侵襲な手術をめざす動きが加速してきた.そして肺移植のスタートにより,呼吸器外科にさらなる新たな1ページが開かれた.そういったいわば激動の40年間であったと思う.著者の白日先生は私にとっては一つ前の世代で,約10年先輩にあたる.この年代の方々は,呼吸器外科の専門性と独自性の確立に心血を注がれた方々で,学会の確立や専門医制度の樹立にも大いに力を尽くされた.

 なぜこのようなことを長々と書き連ねたかというと,この書が,結核外科の時代の終焉を迎えた後,呼吸器外科としての,いわば第二の黎明期を築き上げた世代の代表的なお一人によって書かれた手術書であるということを申し上げたかったからである.本書のタイトルに「すべて」という言葉が掲げられているが,これは単に幅広く手術の手技・手法を網羅しているというだけではなく,私のような人間が本書を拝見すると,白日先生が歩まれた50年近い年月と歴史のすべてを盛り込んだ書にしようとする,著者の思いと意気込みがぎゅっと詰め込まれた一言であると理解できる.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.142 - P.142

投稿規定

ページ範囲:P.249 - P.250

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.251 - P.251

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.252 - P.252

あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.254 - P.254

 外科手術後の様々な合併症の中でも,特に血管系合併症は重篤で致死的な結果を時にもたらすことがあるが,迅速な診断により適切な対応処置を行うことで,術後経過を順調に復することができる.本特集でも述べられているように,血管系合併症においては,施行された手術にもよるが,外科的処置すなわち再手術を行うことで迅速かつ適切な対応がなしうる場合もしばしば遭遇する.外科医にとって,このような血管系合併症の発症を常に念頭に置き術後経過を診ていくことは極めて重要なことである.また,いったん診断がなされた際には,時には躊躇なく再手術に踏み切っていくことも極めて大切である.そのためには,外科医はその知識および対応できる様々な技量を個人のみならずチーム全体で有しているということも重要な点である.

 どの部位の手術であっても,外科手術後には全身部位に様々な合併症が発症しうるものであり,外科医は常に患者の全身病態を診る癖を身につけておくべきである.早期診断および早期対応が,これら術後の血管系合併症の対策には最も重要なポイントであることを改めて強調しておきたい.若い外科医には常に患者の全身を診て病態を考えることの重要さ,学問的面白さを認識して手術に臨んでいってもらいたいものである.外科の学問的深さ・楽しさは外科手術手技のみではなく,術前術後の患者の病態把握および処置管理にもあることを忘れないでいただきたい.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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