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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科68巻3号

2013年03月発行

雑誌目次

特集 CRT時代の直腸癌手術―最善の戦略は何か

ページ範囲:P.259 - P.259

 直腸癌の外科治療においては,局所再発をいかに回避するかが重要な課題であり,海外では術前化学放射線療法を用いたTMEが行われている.一方,わが国では直腸癌に対しては側方郭清が広く行われ,進行下部直腸癌に対しては側方郭清が標準術式となっている.

 しかし,近年はわが国でも術前化学放射線療法が積極的に導入されており,直腸癌治療に術前化学放射線療法を導入する際には,側方郭清と術前化学放射線療法の両療法をどのように位置づけるかが重要な問題となっている.また,腫瘍の縮小効果や側方郭清の適応縮小によって腹腔鏡下手術の適応を拡大するため術前化学放射線療法が導入されている可能性もある.このように,近年のわが国における術前化学放射線療法は新たな局面を迎えている.

直腸癌に対する術前CRTの現況

著者: 清松知充 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.260 - P.264

【ポイント】

◆TMEが普及した現在でも,下部進行直腸癌に対する術前CRTは欧米における標準療法である.

◆術前CRTを行うことによって,わが国で行われてきた予防的側方郭清を省略できる可能性がある.

◆術前CRTによって肛門温存率は改善し,奏効例では非手術も今後は選択肢となりうる可能性がある.

〔適応,治療法と治療成績〕

下部進行直腸癌に対するCRT後の開腹手術

著者: 井上靖浩 ,   田中光司 ,   楠正人

ページ範囲:P.265 - P.269

【ポイント】

◆進行直腸癌に対する術前CRTの主目的は腫瘍学的予後の改善である.

◆自然肛門温存を目的とする術前CRTの役割は依然として確立しておらず,術前CRTを行った下部直腸癌術後の排便機能に関しては術式の違いもあって意見が分かれる.

◆術前CRT後の直腸癌手術では特有の有害事象に注意した手術や周術期マネージメントが大切である.

CRT後の腹腔鏡下手術

著者: 近藤圭策 ,   奥田準二

ページ範囲:P.270 - P.274

【ポイント】

◆当科では,進行直腸癌に対する欧米での標準的治療法であるCRTを局所再発制御の観点から積極的に取り入れている.

◆CRT後であっても,習熟によって腹腔鏡下手術の拡大視効果や近接視効果を最大限に活かすことができる.

◆CRTによる腫瘍縮小効果によって腹腔鏡下手術を安全かつ的確に行うことができる.

温熱療法併用のCRT―肛門温存率の向上および長期予後改善を目指した,直腸癌に対するhyperthermo-chemo-radiotherapy(HCRT)

著者: 堤荘一 ,   森田廣樹 ,   須藤利永 ,   藤井孝明 ,   浅尾高行 ,   中野隆史 ,   桑野博行

ページ範囲:P.275 - P.279

【ポイント】

◆局所進行下部直腸癌は局所再発率が高く,欧米では術前化学放射線治療を行うことが標準となっている.

◆われわれは,局所制御率,生存率,切除率,肛門温存率の向上を目的として,術前化学放射線療法に温熱療法を併用している.

◆温熱療法の意義は,直接殺細胞効果,放射線感度増幅,血流増加,局所免疫能の向上にある.

局所進行直腸癌に対する放射線治療を併用しない術前化学療法

著者: 上原圭介 ,   吉岡裕一郎 ,   江畑智希 ,   横山幸浩 ,   伊神剛 ,   菅原元 ,   深谷昌秀 ,   板津慶太 ,   梛野正人

ページ範囲:P.280 - P.284

【ポイント】

◆局所進行直腸癌に対する術前放射線化学療法の予後改善効果は明らかでない.

◆予後改善のためには,局所制御のみならず,遠隔転移の抑制が必要不可欠である.

◆新規抗癌剤を用いた術前化学療法には遠隔微小転移の制御と局所コントロールの双方が得られる可能性があり,期待が寄せられている.

〔側方郭清と術前CRT〕

直腸癌に対する,術前に放射線を用いる集学的治療の成績―側方郭清を行わない立場から

著者: 貞廣荘太郎 ,   鈴木俊之 ,   田中彰 ,   岡田和丈 ,   町田隆志

ページ範囲:P.286 - P.291

【ポイント】

◆術前の化学放射線療法+TME手術で局所再発率を2~3%に減少させることが可能である.

◆経口剤のUFT,TS-1を用いて行う術前の化学放射線療法は有害事象が軽微で,外来で実施することが可能である.

◆術前の化学放射線療法後にTME手術を行い,downstagingあるいは組織学的奏効が得られない症例に対する補助化学療法の開発が急務である.

CRT後でも側方郭清は省略困難という立場から

著者: 神藤英二 ,   長谷和生 ,   橋口陽二郎 ,   内藤善久 ,   梶原由規 ,   上野秀樹

ページ範囲:P.292 - P.295

【ポイント】

◆直腸癌術前CRTの局所制御効果は実証されているが,術前CRTを行ってもなお側方郭清が必要かどうかについての結論は得られていない.

◆当科の検討では,CRT後の側方郭清によって17%の症例で側方領域への癌進展が確認された.主病巣にCRTの効果が認められる症例であっても,側方領域ではその効果があまり期待できない.

◆術前CRTを実施してもなお側方転移のある症例に対し,側方郭清を追加することで60%以上の局所無再発生存が得られた.

◆CRT後においてもある一定の割合で側方領域に癌細胞の残存することを考慮すると,わが国で広く行われてきた側方郭清によって癌細胞を除去することで局所制御の上乗せ効果がはかれる可能性は十分にある.

〔CRTに関する諸問題〕

術前CRT症例における術後の問題―術後補助化学療法の必要性と術後機能障害

著者: 秋吉高志 ,   上野雅資 ,   福長洋介 ,   長山聡 ,   藤本佳也 ,   小西毅 ,   山口俊晴

ページ範囲:P.296 - P.300

【ポイント】

◆NCCNのガイドラインでは術前CRTを施行する全症例で術後補助化学療法が推奨されている.

◆術前CRTを施行した直腸癌に対する術後補助化学療法の有効性を示すエビデンスは十分ではない.

◆術前CRTによって性機能障害と排便機能障害は手術単独に比べて有意に増加する.

術前CRTのバイオマーカー

著者: 石原聡一郎 ,   福島慶久 ,   赤羽根拓弥 ,   島田竜 ,   堀内敦 ,   中村圭介 ,   端山軍 ,   山田英樹 ,   野澤慶次郎 ,   松田圭二 ,   橋口陽二郎 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.302 - P.307

【ポイント】

◆CRTの組織学的効果と末梢血リンパ球の照射によるアポトーシスとの間には相関関係がある.

◆CRTによる副作用(下痢,白血球減少)があった症例や,末梢血好中球が<65%の症例で術後再発は少ない.

◆CRTの効果予測・予後予測のためには,癌と宿主(患者)の両方からのアプローチが必要である.

〔CRT後の手術手技〕

術前CRT後の腹腔鏡下直腸癌手術

著者: 戸田重夫 ,   黒柳洋弥 ,   的場周一郎 ,   森山仁 ,   花岡裕 ,   富沢賢治 ,   隈本力 ,   花岡まりえ

ページ範囲:P.308 - P.312

【ポイント】

◆化学放射線治療後の直腸癌手術では線維化や浮腫のために剝離層が不明瞭となる.手術のランドマークを確認し,通常手術のイメージを念頭に置いて手術を行う.

◆手術のランドマークとして,左右下腹神経,骨盤神経叢,肛門挙筋,neurovascular bundle,精囊,Denonvillier筋膜などがある.total mesorectal excisionの終点を示す肛門挙筋は術前化学放射線治療でも変化をきたさないため,特に重要な目安となる.

◆剝離は,電気メスを用いた鋭的剝離を心がける.剝離層がわかりにくいときに鈍的剝離を用いると,さらに間違った剝離層に進むことが多いので慎むべきである.

病院めぐり

青森県立中央病院―がん診療センター外科

著者: 森田隆幸

ページ範囲:P.313 - P.313

 本院は昭和27年に開設された,現在は一般病床689床を有する県内唯一の総合病院です.癌・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病の4疾患を対象とし,救急医療・災害時医療・へき地医療・周産期医療・小児医療の5事業の基幹的な役割と責務を果たしていくことを目的として平成20年に大規模な組織改編を行い,がん診療センター・循環器センター・脳神経センターの3つのセンターを,ついで,平成22年に糖尿病センターを立ち上げ,拠点病院としての整備を進めています.

 外科はがん診療センターに属しています.創設当初は北海道大学,東北大学,弘前大学からスタッフが派遣されていましたが,現在は弘前大学からの派遣医師が中心となり,後期研修医5名を含め14名の外科医が,上部消化管,肝胆膵,下部消化管,乳腺の4つの診療グループに分かれて専門性の高い診療の提供に努めています.また,本年度,救急救命センターのなかにacute care surgeryの部門が設立され,そのサポートも行っています.

胃癌手術のロジック―発生・解剖・そして郭清・5

膵の形成と固定

著者: 篠原尚 ,   春田周宇介

ページ範囲:P.314 - P.323

33 膵発生の遺伝子機構については図15(第2回連載)で述べたが,今回はその複雑な形成過程の臨床的意義と膵周囲の剝離可能層について考察する.胃癌手術において膵は,リンパ郭清に制約をもたらす重要な臓器だからである.

 膵をプラモデルの設計図風に組み立ててみよう.最初に涙滴形をした小振りな腹側膵(VP:ventral pancreas,褐色)を,その鉤状突起がSMVの枕になるよう後ろからくっつける.導管であるWirsung管は腹側膵内を貫通する胆管(膵内胆管)と合流して大乳頭となり,十二指腸に注ぐ(左図b).次に,流線型に細長く伸びた背側膵(DP:dorsal pancreas,紫色)を前からくっつける.こちらの導管であるSantorini管は副乳頭となって十二指腸に注ぐ(左図c).この後,お互いの導管どうしが膵内でつながり,Santorini管からWirsung管に至るルートが本流の主膵管(MPD:main pancreatic duct)となる(左図d).Santorini管の下流部分は支流の副膵管として残る.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・10

遊離がん細胞―血中がん細胞で予後がわかるか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.324 - P.327

素朴な疑問

 がんの特徴は「増殖・浸潤・転移」であり,がんの進行度は「腫瘍」(大きさや深さ)と「転移」(リンパ節や遠隔臓器)で決まる(TNM分類).がんを切除したあとの再発は血行性転移が多く,分子生物学的手法(RT-PCR)を用いるとがん患者の血液中にがん細胞が高頻度に認められるが,遊離がん細胞は再発や死亡の予測に役立つのだろうか.

臨床報告

経肛門的に挿入された下行結腸内異物の1例

著者: 光岡晋太郎 ,   酒井亮 ,   寺本淳 ,   川崎伸弘 ,   庄賀一彦 ,   羽井佐実

ページ範囲:P.329 - P.334

要旨

患者は24歳,男性.腹痛を主訴に近医を受診し,結腸内に異物を指摘され,当院を紹介された.腹部CTで下行結腸内に長さ約15cm,直径約5cmの円筒状の異物が確認された.内視鏡的に摘出を試みたが摘出できず,緊急に開腹手術を施行した.下行結腸内に弾性・軟な異物を触知し,用手的に肛門側に押し出そうと試みたが移動できず,S状結腸を切開して異物を摘出した.異物はウレタン製の性的玩具であり,みずから経肛門的に挿入したものが取り出せなくなったものであった.経肛門的に挿入された異物は多くの場合,直腸内にとどまり,下行結腸まで移動した例は非常に稀であり,検索しえた範囲では本邦2例目であった.

胃癌副腎転移との鑑別が困難であり,再発と切除を繰り返した後腹膜脂肪肉腫の1例

著者: 多田耕輔 ,   西山光郎 ,   宮原誠 ,   久保秀文 ,   長谷川博康 ,   山下吉美

ページ範囲:P.335 - P.339

要旨

患者は66歳女性.胃癌手術後9か月目のCTで左副腎部に腫瘤を認め,胃癌の副腎転移と診断して癌化学療法を施行した.8か月後に腫瘍は著明に増大した.Progressive diseaseであったが単発性で,FDG-PET検査では副腎転移としては低集積であり,低悪性度の原発性病変も考えられたため手術を施行した.多形性脂肪肉腫と診断された.脂肪肉腫に対する治療の原則は外科的切除であり,完全摘出例の予後は良好とされる.また,再発腫瘍に対しても切除が基本とされ,本症例では3回の局所再発に対して切除を施行し,現在,再発なく経過観察中である.今後,症例の蓄積に伴い,効果的な術後補助療法の確立が望まれる.

胃癌腹膜播種によって発症した急性虫垂炎の1例

著者: 木村裕司 ,   岩川和秀 ,   早瀬良二 ,   大塚眞哉 ,   稲垣優 ,   岩垣博巳

ページ範囲:P.340 - P.344

要旨

悪性腫瘍の腹膜播種による虫垂炎の発症は非常に稀である.今回,胃癌腹膜播種によって発症した急性虫垂炎の1例を経験した.患者は41歳,女性で,前日からの発熱と下腹部痛を主訴に近医を受診した.腹部CTで卵巣腫瘍を指摘され,当院を紹介された.臨床所見では急性虫垂炎が疑われたが,CTでは明らかな虫垂炎所見は認められず,その一方で,胃壁肥厚と腹腔内脂肪織の毛羽立ちを認め,胃癌腹膜播種が疑われた.原因不明の腹膜炎の診断で緊急手術を施行したところ,虫垂中央付近に播種結節があり,先端部で強い炎症を起こしていた.播種巣が虫垂内腔へ浸潤し,閉塞したことで虫垂炎を発症したと考えられた.

初回手術から12年が経過したのち乳房内再発を認めた乳腺アポクリン癌の1例

著者: 森至弘 ,   玉森豊 ,   大谷博 ,   東孝 ,   有本裕一

ページ範囲:P.345 - P.348

要旨

患者は75歳,女性.1998年6月に左A領域および左C領域の乳癌に対して左乳房部分切除術・腋窩リンパ節郭清を施行した.外来経過観察中の2010年10月に乳房切除断端部に腫瘤を自覚して来院した.CNBで乳癌と診断し,左乳房切除術を行ったところ,病理組織学的検査でアポクリン癌と診断された.前回手術時の標本と比較検討したうえで,乳房内再発と診断した.アポクリン癌とは乳癌のうち,アポクリン化生部分が優位を占めるものをいい,全乳癌のなかでは比較的稀な疾患である.通常型の乳癌より一般的に予後がよいとされているが,12年もの長期経過後に再発をきたすこともあるため,長期にわたるフォローが必要と考えられた.

骨盤内巨大腹腔内遊離体の1例

著者: 竹原裕子 ,   青木秀樹 ,   竹原清人 ,   清田正之 ,   田中屋宏爾 ,   竹内仁司

ページ範囲:P.349 - P.352

要旨

患者は72歳,男性で,以前からCTで骨盤内腫瘤を指摘されていた.便通異常および夜間頻尿を自覚し,近医を受診したところ,腹部CTで直腸膀胱窩に石灰化を伴う腫瘤を認めた.増大傾向を認めたため,精査目的で当院を紹介された.下部消化管内視鏡では腸管内に異常はなく,MRIで腹腔内遊離体を疑い,骨盤内腫瘤摘出術を施行した.摘出した腫瘤は68×55×40mm大で,術後病理検査で腹腔内遊離体と診断された.術後に便通異常の改善を認めた.腹腔内遊離体は腹膜鼠や腹膜石とも呼ばれ,開腹手術の際に腹腔内の遊離物質として認められることがあり,症状を有する場合や腫瘍との鑑別が困難な場合には手術適応を検討する必要がある.

腹部大動脈瘤を合併した大腸癌肝転移の1例

著者: 大澤久慶 ,   村木里誌 ,   櫻田卓 ,   佐々木潤 ,   荒木英司 ,   金野有光

ページ範囲:P.353 - P.356

要旨

患者は71歳,男性.体重減少を主訴に当院を受診し,精査の結果,肝転移を伴う大腸癌と診断した.同時に最大瘤径50mmの腎動脈下腹部大動脈瘤(AAA)を合併していることが判明した.大腸癌は肝臓以外に転移巣を認めず,AAAに対しては解剖学的に血管内ステントグラフト内挿術(EVAR)が可能と判断した.治療方法としてAAAに対するEVARを先行させたのち,結腸切除と肝切除を二期的に施行した.腹部悪性腫瘍とAAAの合併症例に対してEVARは有用な方法であると考えられた.

十二指腸壁内血腫による通過障害を契機に診断したgroove膵癌の1例

著者: 北村祥貴 ,   黒川勝 ,   石山泰寛 ,   松永正 ,   伴登宏行 ,   山田哲司

ページ範囲:P.357 - P.361

要旨

非外傷性十二指腸壁内血腫を契機に診断したgroove膵癌の1例を経験した.患者は60歳代,男性.悪心と腹痛を主訴に受診し,腹部造影CTで十二指腸下行脚壁内に5cm大の血腫を認めた.保存的に加療し症状は改善したが,42病日の造影CTで,groove領域に3cm大の早期相で造影効果に乏しく,後期相で濃染する腫瘤を認めた.ERCPでは膵管への浸潤はなく,胆管の圧排所見を認めた.Groove膵癌の疑いと診断し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織診断はgroove膵癌であったが,血腫周囲に炎症所見および腫瘍浸潤はなかった.両疾患間に直接的な因果関係は証明できなかったが,十二指腸壁内血腫の形成にgroove膵癌が何らかの関与をしている可能性が示唆された.

イレウスを繰り返した横行結腸間膜裂孔ヘルニアの1例

著者: 山村明寛 ,   小野文徳 ,   平賀雅樹 ,   大村範幸 ,   佐藤学 ,   小野地章一

ページ範囲:P.362 - P.366

要旨

患者は85歳,女性.過去2か月以内に3回,内ヘルニアによるイレウスの診断で入院したが,保存的に改善して外来で経過観察となっていた.2011年12月に急激に腹痛が出現し,当科を受診した.腹部CTで内ヘルニアによる絞扼性イレウスの診断となり,緊急手術を行った.トライツ靱帯直上の横行結腸間膜に2cm大の欠損を認め,空腸が約15cmにわたって盲囊内に嵌入し,その口側の腸管が異常屈曲でうっ血像を呈していた.用手的整復で改善し,ヘルニア門を縫合閉鎖して手術を終了した.術後経過は良好であった.横行結腸間膜裂孔ヘルニアは診断に苦慮することが多いが,術前画像および術中の注意深い観察が診断に有用と考えられた.

腹腔鏡下手術後の再発性ポートサイトヘルニアに対してComposix mesh(E/Xタイプ)を用いて腹腔鏡下修復術を施行した1例

著者: 馬越通信 ,   松谷毅 ,   松下晃 ,   平方敦史 ,   吉田寛 ,   内田英二

ページ範囲:P.367 - P.370

要旨

患者は71歳,女性.約4年前に右卵巣囊腫に対して腹腔鏡補助下卵巣囊腫摘出術を施行された.約2年前に下腹部膨隆の主訴で当科を紹介された.腹部CT検査で恥骨上のポートサイトから腸管の脱出を認め,ポートサイトヘルニアと診断した.これに対して前方アプローチでヘルニア根治術を施行したが,術後約3か月で再発した.これに対してComposix mesh(E/Xタイプ:C.R. Bard社)を使用して腹腔鏡下修復術を施行した.術後経過は良好で第7病日に軽快・退院し,術後約18か月が経過した現在も再発を認めていない.再発ポートサイトヘルニアに対して,Composix meshを使用した腹腔鏡下ヘルニア修復術は有用な方法であると考えられた.

偽浸潤を伴う小腸過誤腫による腸重積症をきたしたPeutz-Jeghers syndromeの1手術例

著者: 大屋久晴 ,   山本聖一郎 ,   藤田伸 ,   赤須孝之 ,   稲田涼 ,   森谷冝皓

ページ範囲:P.371 - P.375

要旨

患者は30歳代の男性で,Peutz-Jeghers syndrome(PJS)で13歳時に小腸ポリープの切除歴があった.2010年4月に下血で近医を受診し,CT検査で回腸に約35×30mmの石灰化を伴う腫瘤を認めたが,小腸内視鏡検査では病変への到達が困難であった.当院に転院となり,PJSによる小腸腫瘍,腸重積と診断し,虚血症状を認めなかったため,待機的に手術を施行した.術中所見では重積した回腸腫瘍を認め,腫瘍を含めた小腸部分切除術を施行した.切除標本ではⅠs様の腫瘍を認めた.組織学的には偽浸潤を伴う小腸過誤腫であった.術中所見で悪性との鑑別が困難な偽浸潤を伴うPJS型過誤腫性ポリープ症例を経験した.

ひとやすみ・96

津波被災地の現状

著者: 中川国利

ページ範囲:P.301 - P.301

 東日本大震災では大津波によって甚大な被害が生じた.そこで,津波被災地の被害状況と復旧状況を自分なりに把握するため,南は南相馬市から北は八戸市までの太平洋沿岸を頻繁に訪ね歩いている.

 震災1か月後の平成23年4月,仙台近郊の名取市を訪ねた.電柱や木々は内陸側に押し倒され,田畑には家屋や船が散乱していた.また,住宅地は瓦礫の山と化してはいたが,小高い丘には津波に耐え抜いた桜が健気にも花を付けていた.

勤務医コラム・46

皮肉屋の字引き

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.328 - P.328

 人生の大先輩が,「この世にいるのもあと数年.蔵書を整理中だが,古本屋に売っても二束三文なので,知ってる人にあげている.中島君にはこの本なんてどうかな」と言って,「悪魔の辞典」〔アンブローズ・ビアス(著),郡司利男(訳注),こびあん書房,1982年〕をくれた.「ナンデ僕なん?」と思ったが,タダでくれるというものを断わる理由もなく,ありがたくいただいた.

 これは,すごい本であった.たとえば,「夫Husband:食事が終わると食器類の後始末を課せられる人物」とか,「Hers:His」なんていう微笑ましいのがある.“彼女のもの”とは“彼のもの”を言うのである.男の所有物は結局は女性のものである,という深い意であろう.一方,「司法Justice:忠誠や納税および個人的な奉仕に対する報酬として国家が市民に売りつける多少品質の落ちている商品」なんていう辛辣なものも多い.

1200字通信・50

自分を信じる―香川真司選手に学ぶ

著者: 板野聡

ページ範囲:P.334 - P.334

 最近の日本のサッカーは男女ともにワールドカップやオリンピックでの活躍が目覚ましく,ファンの一人として嬉しく思っています.また,近年は多くの選手が外国チームに移籍し,そのうえで現地のチームで活躍することも当たり前のことになったようです.

 そうしたなかで,香川真司選手が世界最高峰,サッカー生誕の地である英国の強豪チームに迎えられるという嬉しい出来事がありました.香川選手は決して体格的に恵まれているとは思えませんが,すでに先発出場をし,アシストだけでなく,みずからもゴールを重ねて主軸の選手として活躍しています.

昨日の患者

元シベリア抑留患者

著者: 中川国利

ページ範囲:P.361 - P.361

 高齢化社会を迎え,重篤な合併症を伴う超高齢者に対する外科的疾患では,手術に踏み切るべきか否か悩むことが多い.

 90歳代前半のKさんが,嘔吐を伴う著明な腹痛で緊急入院した.腹部単純X線検査では小腸に著明なガス像を認め,腹部CT検査では絞扼性イレウスを疑った.そこで,緊急手術を考慮した.しかしながら,すでに重篤な誤嚥性肺炎を合併しており,術後には人工呼吸器の装着が予測された.

書評

―森 正樹,土岐祐一郎(編)―レジデントのための―消化器外科診療マニュアル

著者: 北川雄光

ページ範囲:P.376 - P.376

 本書をまず手に取ったとき,研修医時代に白衣のポケットに入れていた『ワシントンマニュアル』を懐かしく思い出した。手触り,重さ,色合いから想起したのだが,編者である森正樹教授,土岐祐一郎教授の序文を拝読し,編者がこれを意図して見事に実現していることにまず驚かされた。

 医療現場最前線の「常識」も年々進化し,年配の指導医にとっては教育している内容が本当にup to dateなのか? エビデンスはあるのか? ふと不安になることがあるのではないだろうか。日本において消化器外科医は,手術関連の知識・技量はもとより周術期全身管理,集中治療,集学的がん治療,感染症対策など極めて広範な知識・技術が要求される。このすべてにおいて,一人の指導医が最前線の知識をもってレジデントを教育していくことは必ずしも容易でない。本書は,大阪大学大学院消化器外科関連のそうそうたる執筆者らが,その洗練された知識のすべてを投入した珠玉の一冊として編集されている。

―濱 敏弘(監修) 青山 剛,東加奈子,川上和宜,宮田広樹(編)―がん化学療法レジメン管理マニュアル

著者: 安藤雄一

ページ範囲:P.377 - P.377

 全国の病院で外来化学療法室が稼働し,エビデンスに基づいた治療レジメンが登録され,横断的なキャンサーボードやカンファレンスが開かれるようになった.分子標的治療薬によりがん薬物療法の治療成績が向上し,治療適応の判断から副作用マネジメント,患者や家族の心のケアに至るまで,専門的な知識と豊富な経験を持つ専門家(プロフェッショナル)の存在はもはや不可欠になっている.薬剤師の職域は日々の処方監査と疑義照会からはじまり,服薬指導,抗がん薬の調剤,レジメンの管理へと広がった.さらに診療現場やカンファレンスでは医師や他職種と意見を交えながらチーム医療に積極的に参加する薬剤師も増えてきた.

 一方で,がん薬物療法という共通の目的のために多職種がそれぞれの専門性を発揮するのがチーム医療の本質であり,ただ役割分担を決めて作業すればよいというものではない.評者は常日ごろより,薬剤師の方々は薬剤の適正使用から科学的な整合性の吟味,臓器障害や併存症を持つ患者の用量や薬剤選択,薬物相互作用の可能性など他職種とは異なる独自の視点を大切にして欲しいと思っている.刻々と変化するがん薬物療法を取り巻く状況を踏まえると,このたび本書が上梓されたのは時流なのであろうか.

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原稿募集 私の工夫-手術・処置・手順

ページ範囲:P.264 - P.264

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.269 - P.269

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.285 - P.285

次号予告

ページ範囲:P.378 - P.378

投稿規定

ページ範囲:P.379 - P.380

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.381 - P.381

あとがき

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.382 - P.382

 2012年,アメリカのサンアントニオで開催されたAmerican Society of Colon and Rectal Surgeons(ASCRS)およびイタリアのボローニャで開催されたInternational Society of University Colon and Rectal Surgeons(ISUCRS)に出席して1つの変化を感じました.直腸癌に対する術前化学放射線療法後の“Wait and Watch Policy”が以前より注目を集めていた点です.

 “Wait and Watch Policy”とは,直腸癌に対して術前化学放射線療法を行った際,pathological complete response(pCR),すなわち腫瘍の完全消失が予想される場合に,手術を施行せず経過観察を行う方針です.もともと1990年代からブラジルのチームを中心に報告されてきた方針ですが,これまでは批判的な意見が多かったのに対して,2012年の学会では臨床試験が開始されるなど,“Wait and Watch Policy”の意義をより積極的に評価していこうとする傾向がみられました.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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