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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科68巻4号

2013年04月発行

雑誌目次

特集 「食道胃接合部癌」に迫る!

ページ範囲:P.387 - P.387

 「食道胃接合部癌」が増加していると考えられている.しかしながら,いまだその治療方針は確立されているとは言いがたい.そこで本特集ではまず,現状での各施設での治療方針とその成績を明らかにしていただく.また,生活の欧米化に伴い重要性がさらに増してきたBarrett食道癌の本態にも迫りたい.「食道胃接合部癌」症例を目の前にした臨床の現場で,診療の一助となれば幸いである.

総論

食道胃接合部とは

著者: 幕内博康

ページ範囲:P.388 - P.394

【ポイント】

◆食道胃接合部は食道の筋層と胃の筋層の境目であり,内視鏡で観察できる柵状血管の下端である.柵状血管が不明の場合は胃の縦走ひだの口側端とする.

◆X線造影では,内腔の最も狭小化している部分でHis角に一致するものも多いが,滑脱型食道裂孔ヘルニアでは胃の縦走ひだの口側端とする.

◆病理肉眼観察では周径の変わる部分とするが,組織学的に筋層構造上の接合部の同定は難しい.

食道胃接合部癌の疫学

著者: 山下裕玄 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.395 - P.399

【ポイント】

◆わが国において食道胃接合部癌は増加傾向であり,男性に多い.

◆欧米の報告では男性の食道腺癌が急速に増加している.

◆肥満およびGERDは接合部癌の危険因子であると推測される.

各論

Barrett癌と胃噴門癌の組織学的鑑別

著者: 田久保海誉 ,   相田順子 ,   櫻井うらら ,   新井冨生 ,   熊谷洋一 ,   岩切勝彦 ,   星原芳雄 ,   幕内博康

ページ範囲:P.400 - P.404

【ポイント】

◆癌組織や癌細胞自体の差異により,Barrett癌と胃噴門癌を厳密に鑑別できるとする報告はない.

◆癌の存在部位によりBarrett癌と胃噴門癌を鑑別する.食道胃接合部にまたがる癌の発生母地の決定方法には議論がある.

◆Barrett食道では胃とは異なり固有食道腺,扁平上皮島,組織学的柵状血管,粘膜筋板の二重化が観察される.

Barrett食道癌における酸逆流の意義

著者: 大前雅実 ,   藤崎順子 ,   清水智樹 ,   石山晃世志 ,   平澤俊明 ,   山本頼正 ,   土田知宏 ,   五十嵐正広 ,   峯真司 ,   山田和彦 ,   山口俊晴

ページ範囲:P.406 - P.412

【ポイント】

◆Barrett食道癌は食道胃接合部の12~3時の右前に位置することが多い.

◆軽症GERDのmucosal breakも12~3時の右前に多い.

◆酸逆流の周在性と癌の位置はほぼ一致することをpHモニタリングを用いて証明しえた.

食道胃接合部癌に対する内視鏡治療

著者: 山田真善 ,   小田一郎 ,   野中哲 ,   鈴木晴久 ,   吉永繁高 ,   谷口浩和 ,   関根茂樹 ,   九嶋亮治 ,   斎藤豊

ページ範囲:P.414 - P.417

【ポイント】

◆Siewert分類のtypeⅠとⅡではリンパ節転移に対するリスクが異なる可能性がある.

◆当院における内視鏡治療後の5年全生存率,5年無再発生存率,5年原病生存率はそれぞれ92.6%,90.9%,94.3%であり,良好にコントロールされていた.

◆内視鏡治療適応を確立するためには今後,症例の蓄積が必要である.

食道胃接合部癌に対する外科治療戦略―組織型別の検討から

著者: 平松昌子 ,   河合英 ,   西田司 ,   内山和久

ページ範囲:P.418 - P.423

【ポイント】

◆縦隔リンパ節転移率は組織型によらず食道浸潤長に相関し,少なくとも#108以下の郭清が必要である.

◆腹部リンパ節転移率は組織型によらず高率であるが,#4d,5,6の転移頻度は低く,胃温存術式も許容しうる.

◆確実なproximal margin(PM)の確保(3.8cm以上)は重要な予後因子であり,pPM1回避には食道亜全摘も妥当である.

◆以上の条件を満たし安全に吻合が行える術式であれば開胸にこだわる必要はなく,経裂孔アプローチ,食道抜去,縦隔鏡下手術なども可能である.

食道胃接合部癌に対する外科治療戦略―当科における臨床病理学的検討をふまえて

著者: 鈴木茂正 ,   宮崎達也 ,   原圭吾 ,   小澤大悟 ,   田中成岳 ,   横堀武彦 ,   猪瀬崇徳 ,   中島政信 ,   福地稔 ,   桑野博行

ページ範囲:P.424 - P.429

【ポイント】

◆食道胃接合部癌は胸腹部の境界領域に発生して多様な組織型を有することを特徴とし,わが国でも今後増加することが予測される.

◆近年のRCTの結果を基本としつつも,実際の腫瘍の進展範囲やリンパ節転移状況などを十分に把握したうえでの術式選択が肝要である.

◆縦隔リンパ節転移陽性例は予後不良であり,補助化学療法などを加えた集学的治療の必要性が示唆される.

食道胃接合部癌に対するリンパ節郭清と予後

著者: 黒川幸典 ,   瀧口修司 ,   森正樹 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.430 - P.433

【ポイント】

◆食道胃接合部癌は,Siewert type別にリンパ節転移の好発部位が異なる.

◆Siewert Ⅰ型は中・下縦隔リンパ節転移が高頻度であるため,右開胸アプローチによる中・下縦隔の郭清効果が期待されるが,Siewert Ⅱ型とⅢ型は開腹経食道裂孔アプローチによる下縦隔郭清のみで十分と考えられる.

◆Siewert Ⅰ型とⅡ型では,胃の領域リンパ節のうち#4sb,4d,5,6への転移は非常に稀であるため,これらの郭清は不要と考えられる.

食道胃接合部腺癌に対する化学放射線療法―欧米におけるこれまでの治療開発とわが国における放射線療法の果たす役割

著者: 長谷川慎一 ,   吉川貴己

ページ範囲:P.434 - P.439

【ポイント】

◆欧米の臨床試験の結果から,切除可能食道胃接合部腺癌に対する術前化学放射線療法は有望な治療戦略であるが,術前化学療法に対する優越性はいまだ明らかではない.

◆術前化学放射線療法は,扁平上皮癌>腺癌,術前化学療法は,腺癌>扁平上皮癌と,組織型により治療効果が異なる可能性がある.

◆食道胃接合部腺癌根治切除例の再発形式の検討から,わが国の局所再発は欧米より少なく,補助療法として放射線治療の果たす役割は欧米に比べると相対的に低い可能性がある.

必見! 完全体腔内再建の極意・1【新連載】

胃切除後再建術式の変遷

著者: 佐藤裕

ページ範囲:P.440 - P.447

■Billroth Ⅰ法の登場

 1881年1月29日,かねてから周到な準備を重ねてきたTheodor Billroth(1829~1894:図1)は,弟子のWölfler(1850~1917)らとともに胃癌患者に対して幽門側切除を実施し,絹糸による一層の奨膜筋層縫合で残胃と十二指腸を吻合して,約1時間半で手術を終えた(図2).進行胃癌であったが患者は耐術し,術後約4か月生存した.その死後,Mikulicz(1850~1905)らが本手術(特に残胃十二指腸吻合)の成否を検証し,この吻合が完璧になされていたことを確認した(図3).しかし,再建術式として残胃の上半端に十二指腸を吻合していたため(“oralis superior”にしたため:図2),残胃の下方の盲端部分が囊状に拡張して通過障害をきたしていたことから(図3),のちに吻合方式を“oralis inferior”に変更した.そして,これがいわゆるBillroth Ⅰ法(BⅠ法)の原型となったのである.

 この2年前の1879年にフランスのJulius Péan(1830~1898:図4a)が「その腕に物を言わせて」胃切除を敢行したが,さしたる術前準備もなかったこともあって,患者は術後5時間で死亡した.ただ,これを受けて,ドイツに対して強い対抗意識をもつフランスでは現在でも「Billroth法」とは呼ばすに「Pean法」と呼んでおり(図4b),あるフランスの外科学書には“Gastrectomie des deux tiers anastomose gastro-duodenale selon Péan”と表記されている.

胃癌手術のロジック―発生・解剖・そして郭清・6

大網の運命にみるLangmanの真実

著者: 篠原尚 ,   春田周宇介

ページ範囲:P.448 - P.457

41 話が膵にそれて随分と回り道をしてしまったが,今回は「胃の腸間膜」である大網の完成まで一気に進もう.

 270度の腸回転を見届けた横行結腸間膜は頭側に翻る.そして左側の大部分が,その頃には風船のように大きく膨らんだ大網と衝突する.例によって接触面の腹膜は変性して癒合筋膜となり,新たに二重構造の腸間膜(double mesentery)ができる.これが外科的[横行結腸間膜]である.つまりわれわれが横行結腸間膜と呼んでいる腸間膜は,実は【大網】(=発生学的背側胃間膜:緑)と発生学的横行結腸間膜(赤)の2枚が合わさったものを指している.その上で前者を[横行結腸間膜前葉],後者を[横行結腸間膜後葉]と呼んでいる.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・11

異動時期の病院―年度始めは死亡率が高いか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.458 - P.461

素朴な疑問

 桜が咲く4月は就職や異動の時期である.一般病院では新しいドクターやナースが加わり,教育病院では国家試験に合格したばかりの研修医が働き始め,前からいたドクターは新しいスタッフの指導と自分の仕事が増えて忙しい.4月はミスやアクシデントが多いのだろうか.患者の死亡率が高いのだろうか.手術後の合併症や死亡が増えるのだろうか.

私の工夫-手術・処置・手順

腹腔鏡下胃切除術における膵周囲リンパ郭清に有用な「展開用ガーゼ」の工夫

著者: 春田周宇介 ,   篠原尚 ,   貝田佐知子 ,   李世翼 ,   上野正紀 ,   宇田川晴司

ページ範囲:P.462 - P.463

【はじめに】

 #6,8,11といった膵周囲のリンパ郭清に際して,適切なカウンタートラクションを得るために「膵を圧排する」という行為が必要となる.開腹手術ではガーゼで用手的,愛護的に膵を圧排して膵周囲郭清を行うことできるが,腹腔鏡下胃切除術では術者もしくは助手の鉗子で直接膵を把持して展開することはできず,折りたたんだガーゼを用いても,鉗子の金属が膵に直接当たることで膵被膜損傷や出血の危険性がある.われわれは腹腔鏡下手術用ガーゼに1針の針糸をかけてガーゼを成形することで把持しやすくし,また,あたかも手で膵を転がすかのように操作できるガーゼを考案したので紹介する.

病院めぐり

松島病院―大腸肛門病センター

著者: 岡本康介

ページ範囲:P.464 - P.464

 今をさかのぼること150有余年の1859年に横浜港が開港し,1872年には新橋~横浜(現 桜木町駅)間に日本初の鉄道が開通して,横浜は港を中心に今まで栄えてきました.今では,みなとみらい21地区の帆船日本丸,赤レンガ倉庫,学会などで利用されるパシフィコ横浜などが有名となっています.この地に,関東大震災の翌年にあたる1924(大正13)年,現院長の祖父にあたる松島善三先生が外科・内科・肛門病科医院を開業しました.一度,戦火で灰燼と帰した診療所はその後再建され,現理事長の松島善視先生が病院化して現在に至っています.2014年には創業から90周年を迎えることになります.

 現在はベッド数120床を備える,肛門疾患,大腸疾患を中心に診療する専門病院で,同一地区にある,年間2万件を超える大腸内視鏡検査・治療,炎症性腸疾患,過敏性腸疾患などを扱う松島クリニックと,女性患者専門の松島ランドマーククリニックと連携し,その中核となる「大腸肛門病センター」として診療を行っています.理事長,院長をはじめ外科医と内科医合わせて14名,麻酔科医2名,中国人医師1名の肛門科専門医が,永年にわたって受け継がれてきた診療経験をもとに,県内はもとより全国各地からいらっしゃる多くの患者様の肛門手術を中心とした診療を行っています.2012年の年間初診患者数は11,000人,外来患者数は1日約300~400人で,延べ再来患者数は約10万人です.主な対象疾患は痔核,痔瘻,裂肛で,入院手術件数は1日15~20件前後で,表のようになっています.高齢化が進む昨今では直腸脱手術や,便失禁・直腸肛門括約筋機能不全にバイオフィードバック療法を行う症例も増えています.そのほか,患者様,ご家族向けの肛門病説明会を毎週土曜日に開催し,肛門病予防の啓蒙活動にも取り組んでいます.

臨床報告

直腸瘤を合併した直腸脱の1例

著者: 山田英貴 ,   柴田佳久 ,   加藤岳人 ,   平松和洋 ,   吉原基 ,   夏目誠治

ページ範囲:P.465 - P.468

要旨

症例は77歳,女性.直腸脱の治療を希望して当科外来を受診した.精査にて直腸瘤を合併した直腸脱と診断した.直腸脱と直腸瘤の合併例は本症例を含めて4例しか報告されておらず,極めて稀と考えられた.直腸脱と直腸瘤は発症のリスクが異なっているため,それぞれの疾患に対する治療が必要と考え,直腸脱は開腹Wells法,直腸瘤はTVM(tension-free vaginal mesh)で治療した.術後経過は良好で,1年経過した現在,直腸脱・臓器脱の再発所見や腟・直腸のびらんは認めていない.しかし,メッシュによる合併症も報告されているため,厳重な経過観察が必要と思われる.

NSAIDsの長期使用で隔膜様狭窄を呈する腸閉塞をきたした1例

著者: 吉野健史 ,   間中大 ,   濱洲晋哉 ,   坂元克考 ,   小西小百合 ,   西躰隆太 ,   安原裕美子

ページ範囲:P.469 - P.472

要旨

今回われわれは,NSAIDs起因性と考えられる,小腸の膜様狭窄を伴う腸閉塞を認め,手術を施行した1例を経験した.症例は82歳,女性,他院に腸閉塞で入院後,当院へ紹介され,精査にて小腸閉塞を認め,開腹手術を施行した.小腸内腔に多発した隔壁を認め,約110cmの小腸を含む回盲部切除を行った.標本内に無数の膜様狭窄と閉塞を認めた.病理検査で特異的所見はなく,前医入院前にNSAIDsの長期服用歴を確認し,NSAIDs起因性の隔膜様狭窄症(diaphragm disease)と診断した.腸閉塞,腸炎などの腸管疾患の診療に際し,NSAIDs起因性腸炎も念頭に置き,診断・治療にあたることが重要と考えられた.

高齢者の胃軸捻転を伴う食道裂孔ヘルニアに対しメッシュを用いた腹腔鏡下手術を施行した3例

著者: 高橋祐輔 ,   岸本浩史 ,   笹原孝太郎 ,   小田切範晃 ,   吉福清二郎 ,   田内克典

ページ範囲:P.473 - P.477

要旨

食道裂孔ヘルニアは加齢に伴う横隔膜の筋組織の脆弱化,腹圧の上昇,円背,るい痩などによる食道裂孔の開大が要因となる.通常は保存的治療が優先されるが,滑脱型と傍食道型とが併存した混合型の場合には,通過障害や陥入臓器の血流障害を認めることもあり,手術治療が基本となる.今回われわれは,高齢者の胃軸捻転を伴った混合型食道裂孔ヘルニア3症例に対し,メッシュを用いた腹腔鏡下ヘルニア修復手術を施行した.3症例とも主症状であった食事摂取困難は速やかに改善し,術後経過良好で退院した.高齢者の食道裂孔ヘルニアに対しメッシュを用いた腹腔鏡下ヘルニア修復術は低侵襲であり,再発予防の点からも有用と思われた.

下行結腸癌の術前検査にて後天性血友病Aが指摘され腹腔鏡下に手術を行った1例

著者: 北川一智 ,   甲原純二 ,   須知健太郎 ,   吉岡裕司 ,   松井道宣

ページ範囲:P.479 - P.482

要旨

症例は76歳,男性.下行結腸癌と診断され当科に紹介された.術前に多量の鼻出血と腫瘍出血が持続しており,入院時検査所見で後天性血友病Aと診断された.周術期にrFⅦa製剤を投与しながら腹腔鏡下にハルトマン術を行った.手術時間2時間45分,出血量60mLであった.病理診断は中分化型腺癌,stageⅡであった.術後経過は良好であり,手術に起因する合併症は認めなかった.術後22日目に血液内科に転院となった.術前に後天性血友病Aと診断された結腸癌に対して腹腔鏡下で手術を行った報告はこれまでに認められなかった.今回の症例では,周術期にrFⅦa製剤を投与することで安全に手術を行うことが可能であったと考えられた.

急性膵炎を契機に発見された膵内分泌腫瘍の1例

著者: 名取健 ,   今井康雄

ページ範囲:P.483 - P.488

要旨

膵内分泌腫瘍は稀な膵腫瘍であり,急性膵炎の成因となりうることはきわめて稀である.今回,急性膵炎を契機に発見された膵内分泌腫瘍の1例を経験した.患者は61歳,女性.上腹部痛を主訴に受診し,急性膵炎と診断した.膵炎の軽快後の造影CTで,膵頭部に造影後期相で淡く濃染する径11mmの腫瘤を認めた.また,MRCPでは主膵管の途絶像と尾側膵管の拡張像を認めた.膵内分泌腫瘍を第一に疑い,膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本で主膵管を閉塞させる10mmの腫瘍を認めた.病理組織的にクロモグラニンA陽性,Ki-67 index 3%で膵内分泌腫瘍NET G2と診断した.原因が不明な急性膵炎では膵内分泌腫瘍の存在を念頭に置いておく必要があると考えられた.

学会告知板

第36回 日本膵・胆管合流異常研究会

ページ範囲:P.399 - P.399

会 期:2013年9月14日(土)

会 場:淡路夢舞台国際会議場(兵庫県淡路市夢舞台1番地)

第21回 日本消化器関連学会週間

ページ範囲:P.463 - P.463

会 期:2013年10月9日(水)~12日(土)

場 所:グランドプリンスホテル新高輪・国際館パミール,グランドプリンスホテル高輪,品川プリンスホテル

1200字通信・51

オードリーの言葉―新医師に贈る

著者: 板野聡

ページ範囲:P.405 - P.405

 「魅力的な唇になりたければ,優しい言葉を語りなさい.美しい目になるためには,相手のよいところを見なさい.大人になると,2本の手をもつことに気づくでしょう.1本は自分を支えるために,もう1本は誰かを支えるためにあるのです」この言葉は,あるテレビ番組のなかで,オードリー・ヘップバーンさんが,最愛の息子であるショーンさんに語った言葉として紹介されていたものです.

 彼女は,その美しさと愛くるしさで映画界の頂点を極めた女優さんですが,長男のショーンさんを出産したのち,女優よりは母親であることを選んで,一時,銀幕の世界から身を引かれたそうです.先の言葉のような強く大きな愛があったからこそ,そう決断できたのだと納得されることではあります.

ひとやすみ・97

活動報告

著者: 中川国利

ページ範囲:P.413 - P.413

 本来,肉食動物である猫は,鼠やトカゲを捕まえる習性がある.猫にも種々の性格があり,子供の頃に飼っていた猫は捕獲したばかりの獲物を人前にくわえてきて,さも誇らしげに見せることがしばしばあった.人も自分の活動成果を両親や親しい先輩に報告し,そして誉めてもらいたい願望が少なからずあるものである.

 初期研修医時代,外科ボスのW先生には外科一般ばかりではなく,外科医としての心構えも教わった.またM先生には,教務主任のように種々の適切な助言をいただいた.外科医として最初に手ほどきを受けた両先生には研修を終えてからも,手術件数や手術術式,また演題名や掲載論文などを年次報告した.両先生は多忙にもかかわらず,その時に応じた適切な助言を書いて送ってくれた.また,学会などでお会いしたときには,近況報告を嬉々として傾聴してくれるとともに,種々の相談にも丁寧に応じてくれた.敬愛する両先生から手紙や励ましの言葉をいただけることが嬉しく,日々の臨床や学会活動に情熱を燃やし続けたものである.

勤務医コラム・47

総論と各論

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.478 - P.478

 今から20年前,寝る暇もないほど忙しい毎日であったが,仕事ばかりやっていたらおかしくなると思い,週に1回30分だけギター教室に通った.11年間通った.はじめの頃,まわりは中高生ばかりだったのに,だんだん中高年が増えてきて,しまいには私が中堅クラスになってしまった.今から9年前,この病院に来た頃は入院患者は若かった.一般病床50床の入院患者平均年齢は,平成17年12月に66歳だったのが,平成24年12月には74歳になった.わが国の人口構成が逆ピラミッド型になった今,増え続ける医療費介護費にどこでストップをかけるか,それが大問題だ.生命の尊さ・患者のニーズという「錦の御旗」が存在し,そこに病院組織維持・雇用維持という「incentive」が働いて,医療者発の医療費増大を招いてはいないか? 寄ってたかって介護してはいないか? 大病院にいる若い先生方がこれまで通り積極的にやっていくのはよいが,地域に居る中堅以上の勤務医は,一歩手控えてやっていくべきではなかろうか.今のままではいけない.検査を減らし,処方を減らし,受診回数を減らそう.

 そう考えていたら94歳の閉塞性黄疸患者が入院してきた.総論としては「何もしない」が正解だろう.しかし,それでは収まらぬのが浮世の難しいところ.総論と各論は違うのだ.PTCDをした.患者も家族も喜んでくれた.しばらくしたらEMSだろう.お金がかかる.本当にこれでよいのか,悩みは尽きません.

昨日の患者

オリジナル天使服

著者: 中川国利

ページ範囲:P.488 - P.488

 死は忌み嫌われ,親しい家族の間でもあまり話題とされることはない.いわんや死期の迫った患者さんを前にして,葬儀について話し合うことは稀である.しかしながら,生命には必ず終わりがあり,長短はあるものの誰もが死を迎える.目前に迫った死を前向きに捉え,自分の夢を語った患者さんを紹介する.

 70歳代後半のKさんが胃癌に罹患し,手術や癌化学療法を施行したにもかかわらず,多発性肝転移や癌性腹膜炎をきたして再入院した.そして鎮痛剤や補液によって状態は一時的に安定した.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.417 - P.417

投稿規定

ページ範囲:P.489 - P.490

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.491 - P.491

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.492 - P.492

次号予告

ページ範囲:P.493 - P.493

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.494 - P.494

 食道胃接合部癌が増えている,と感じている読者が多いことと思う.本号の疫学でもそのことが明らかにされており,特に男性に顕著であることが記述されている.欧米では,唯一増えているのが食道胃接合部癌とも言われており,今後,関心はますます高まっていくものと考える.しかしながら,いまだ解決すべき課題は沢山あり,本特集はその糸口になれば,という思いもあり企画した.食道胃接合部とは? その診断基準は? というのが,解決のための入口でありながら,まだまだ大きな問題であり,臨床の現場で治療方針決定に際して最も悩ましい点である.特にBarrettがあった場合の,食道なのか胃なのか,ということはことさら厄介であった.本号の「組織学的鑑別」では,Barrett食道に観察される病理学的所見が列挙されており,いずれかが円柱上皮内に認められれば,Barrett食道の診断がほぼ可能であると記述されている.心強い限りである.術式においても,特にリンパ節郭清に関しては統一された標準郭清がなく,食道専門医にかかると右開胸アプローチが多用され(すなわち上縦隔まで),胃専門医にかかると経裂孔的アプローチが好まれる(下縦隔まで)といった傾向が指摘されてきた.本号の内容からは,腹部における胃周囲(No. 4d, 5, 6)リンパ節の郭清は必要なさそうだということは見えてくる.しかしながら,縦隔郭清については,まだ議論がありそうである.折しも現在,日本胃癌学会,日本食道学会共同で行っている食道胃接合部癌ワーキングで診断基準や,適切な郭清範囲などが議論されている.Retrospectiveではあるが,全国規模の調査も行われており,その結果が待たれている.いずれにしても本特集が,日頃悩ましい疾患である食道胃接合部癌の診療の一助となれば望外の喜びである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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