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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科68巻5号

2013年05月発行

雑誌目次

特集 一般外科医が知っておくべき小児患者への対応

ページ範囲:P.499 - P.499

 「一般外科医」という言葉に定義はないが,一般外科の診療の場において高齢の患者に遭遇することは決して稀ではなく,むしろ患者の多くを占める場合もあり,その傾向は今後さらに強くなるものと思われる.

 一方,小児医療は少子化時代を迎えたわが国においても,その内容は複雑多岐にわたる傾向が強くなっている.前述のように,高齢者に対する外科診療はむしろ一般外科の中心をなしているため「一般外科」の範疇に含まれ,したがって,特に「高齢者外科」という診療科は存在しないが,「小児外科」はその特殊性から診療科として存在している.

一般外科における小児患者

一般外科医が取り扱う小児疾患

著者: 岩中督

ページ範囲:P.500 - P.503

【ポイント】

◆小児の外科疾患は原則的には小児外科専門医に委ねるべきであるが,救急領域などで遭遇し,診断や治療を担当する疾患も多い.

◆全身状態が不良の場合には,いたずらに診断に時間をかけるのではなく,専門施設や高次医療機関へ早急に転送することが重要である.

◆成人で診療する疾患が年長児に発症した場合には,小児の特性を十分に考慮したうえで,小児科医のバックアップ体制などに配慮して診断・治療を行ってもよい.

小児の生理学的特徴と周術期管理の要点

著者: 田口智章

ページ範囲:P.504 - P.512

【ポイント】

◆小児は年齢区分によって生理的特性と疾患の種類が大きく異なる.

◆体の水分構成や臓器の未熟性を熟知しなくてはならない.

◆成長発達を考慮した管理が必要である.

小児における内視鏡下手術の適応と注意点

著者: 高橋篤 ,   桑野博行 ,   鈴木信

ページ範囲:P.513 - P.517

【ポイント】

◆小児外科疾患の多くは内視鏡下手術の適応がある.

◆小児腹部救急疾患に対しても内視鏡下手術が行われ,一般外科医が対応する場合がある.

◆①小児の解剖学的特性,②病態に対する理解,③今後の患児の成長を踏まえた内視鏡下手術が必要である.

小児医療における患者ならびに保護者への説明(対応)のあり方

著者: 池田均

ページ範囲:P.518 - P.520

【ポイント】

◆小児患者と保護者に対しては,診断過程の共有,正しい疾患情報の提供,こどもの将来を見据えた治療と長期のフォローアップの実施,などに特に配慮する.

◆保護者の理解,心理,家庭や社会的な状況などに応じて個々に対応する.

代表的な症候の鑑別診断と初期対応

急性腹症

著者: 窪田正幸

ページ範囲:P.522 - P.525

【ポイント】

◆腹痛の性状:閉塞性イレウスや腸炎は間欠的疼痛となる.絞扼性イレウスは虚血性病変のため持続性疝痛となる.

◆重篤度の評価:急性腹症で最も重篤なものは絞扼性イレウスであり,乳児では腸回転異常・中腸軸捻転をまず念頭に置く.

◆画像所見:絞扼性イレウスでは,超音波検査で液体で満たされ内容が停滞した拡張腸管を認め,小腸趨壁が観察される.

脱水

著者: 上杉達 ,   増本幸二

ページ範囲:P.526 - P.529

【ポイント】

◆小児,特に2歳未満の乳幼児は脱水に陥りやすい.

◆小児の急性疾患ではつねに脱水症の合併を念頭に置き,体重減少率や臨床症状から脱水の有無と程度を判断する.

◆軽症~中等症の脱水症に対しては経口補水療法で対応が可能なことが多いが,重症の脱水症に対しては輸液療法を行う.

嘔吐・下痢

著者: 清水俊明

ページ範囲:P.530 - P.534

【ポイント】

◆嘔吐の原因として,消化器疾患のほかにも中枢神経疾患や代謝性疾患も鑑別する.

◆胆汁性嘔吐を認める場合は,外科手術が必要である消化管閉塞の可能性を考える.

◆下痢が2~3週間以上続く場合は,その原因検索をしっかりと行うことが重要である.

知っておきたい疾患と治療のポイント

小児の急性虫垂炎―その診断と最近の治療

著者: 黒岩実 ,   柴田祐充子 ,   岩崎維和夫

ページ範囲:P.536 - P.539

【ポイント】

◆小児の急性虫垂炎は,小児が成長・発達過程にあることや同様症状を呈する疾患の存在などから成人に比べて診断が困難で,穿孔をきたしやすい.

◆診断は身体所見や血液検査成績を参考にして,超音波検査によって虫垂炎の直接所見(腫大虫垂)を描出することで確定する.不必要な手術を回避し,穿孔させないため,疑診例では経時的に診察(検査)して経過を追う(active observation)必要がある.

◆近年,治療は多様化しており,膿瘍形成例のみならず,非穿孔性虫垂炎においても保存治療が行われる.しかし,その適応と有効性,保存治療後の待機的虫垂切除の是非および入院期間の延長と医療コストの増大など,解決すべき問題が残っている.

小児鼠径ヘルニア

著者: 土岐彰 ,   杉山彰英 ,   中山智理

ページ範囲:P.540 - P.543

【ポイント】

◆鼠径ヘルニアにおけるsilk signの正診率は64%と低く,超音波検査による診断が望まれる.

◆鼠径ヘルニアの自然閉鎖時期を考えると,特殊な場合を除いて手術時期は生後8か月以後が望ましい.

◆手術は高位結紮が原則であり,Potts法を行うが,最近ではLPEC法が普及している.

イレウス

著者: 大田貢由 ,   石部敦士 ,   渡邉純 ,   渡辺一輝 ,   諏訪雄亮 ,   鈴木紳祐 ,   秋山浩利 ,   市川靖史 ,   國崎主税 ,   遠藤格

ページ範囲:P.544 - P.547

【ポイント】

◆小児のイレウスをきたす疾患は多岐にわたるため,様々な原因疾患の存在に留意して診察する必要がある.

◆絞扼性イレウスを見逃さず,手術のタイミングを逸しないことが特に重要である.

◆小児においても癒着性イレウスの頻度は高い.早期の手術適応判断と,癒着を起こさない配慮が必要である.

腸重積症―診療ガイドラインから

著者: 伊藤泰雄

ページ範囲:P.548 - P.551

【ポイント】

◆2012年,日本小児救急医学会から「エビデンスに基づいた小児腸重積症の診療ガイドライン」が刊行された.

◆ガイドラインでは「診断基準」「重症度診断基準」「移送基準」を提唱している.

◆ガイドラインは非観血的整復術時のバリウム使用を推奨しない.

小児期に合併症を併発したMeckel憩室

著者: 富田凉一

ページ範囲:P.552 - P.555

【ポイント】

◆8歳以下の男児に多く,術前確定診断は難しい.合併症(憩室炎,腸閉塞症,穿孔,下血)に手術が行われる.

◆回腸末端から30~90 cmの腸間膜反対側に存在することが多く,約20%に異所性組織(胃粘膜,膵組織など)がみられる.

◆手術は,憩室切除,楔状切除,小腸部分切除が行われるが,異所性組織の切除断端への移植や遺残に注意しなくてはならない.

体表面の腫瘤―外来で遭遇する比較的稀な腫瘤

著者: 樋口恒司 ,   木村修 ,   田尻達郎

ページ範囲:P.556 - P.560

【ポイント】

◆体表の病変観察では良・悪性の判断は困難であり,専門医への相談が必要である.

◆特に,顔面から頸部にかけては病変が大血管や気道を圧迫するように深部へ進展していることもあるため,経過観察にも注意が必要である.

◆リンパ管腫にはOK432硬化療法の効果が得られにくいタイプもあるため,切除を含めた治療方針の検討が重要である.

外傷

著者: 樽井武彦 ,   山口芳裕

ページ範囲:P.561 - P.563

【ポイント】

◆外傷は小児の死因の第1位である.小児外傷に対する知識や経験は一般外科医にとって必須である.

◆外傷診療の原則は成人と同様であるが,小児の解剖・生理学的特異性に配慮した対応が必要となる.

◆児童虐待による外傷は,初期対応にあたる外科医が疑い,診断し,通報する義務がある.

若年発症のがん

著者: 黒田達夫

ページ範囲:P.564 - P.568

【ポイント】

◆小児がんは全国で年間2,000~2,500例の新規発症があり,うち45%程度が固形腫瘍である.

◆神経芽細胞腫などの小児がんでは成人癌よりも短期間に腫瘍の増大をみるのみならず,原発巣の小さい場合にも転移を起こす.

◆小児がんの外科治療は近年は臓器温存が基本概念であり,さらに,肝移植の応用など新たな外科治療の導入が試みられている.

必見! 完全体腔内再建の極意・2

胃切除後再建術に必要な手縫い吻合,縫合法―アートな世界

著者: 笠間和典

ページ範囲:P.570 - P.574

■■はじめに

 皆さん,元気ですかーっ! 元気があれば手縫い吻合もできる! というわけで,今回は九州大学の永井英司先生による「必見! 完全体腔内再建の極意」にお呼びいただきました四谷メディカルキューブ減量外科センターの笠間です.

 私は減量外科(肥満外科)を主として行っていますが,実は減量外科こそ体腔内再建の元祖です.1994年にWittgloveらによって世界ではじめての腹腔鏡下Roux-Y胃バイパス術が行われましたが,私の知る限りではこれがはじめての体腔内再建ではないかと思います.

 私自身は2002年に腹腔鏡下胃バイパス術を行いましたが,それがはじめての体腔内再建であり,2003年には胃癌に対しての幽門側胃切除,体腔内R-Y再建を行っています.その後,胃癌領域では噴門側切除では食道残胃吻合,空腸置換術,胃全摘ではoverlap法,食道空腸手縫い縫合などを行っています.上部消化管に関しては,小開腹から操作をして……という「腹腔鏡補助下」の手術は2003年以降はまったく行っていません.なぜなら,体腔内再建のほうが「安全で,早くて,楽」だからです.

胃癌手術のロジック―発生・解剖・そして郭清・7

腸間膜化mesenterization―~制約克服のための理論的手法

著者: 篠原尚 ,   春田周宇介

ページ範囲:P.576 - P.585

48 本連載第1回の冒頭で,筆者は“固有腸間膜全切除”こそが最も理にかなったリンパ郭清の手段であると述べた.しかし第3回では,「担癌臓器の固有腸間膜が胎生5週頃のような単純なヒダ構造を保持していればよいが,胃の場合は主たる腸間膜である背側胃間膜(大網)に生じた“ねじれと癒合”がリンパ郭清の制約となる」ことに気づき,Langmanのメッセージを解読しながらその三次元的形態変化の発端となった胎生期のイベント,胃回旋と腸回転を追ってここまできた.その結果,D2の郭清が課せられるリンパ領域は下図aからbに示すような位置に配置転換することがわかった.図bを見た読者の皆さんも,今では胃の周りに潜んでいる「姿を変えた腸間膜」を透見しておられることだろう.

 さて問題は,胃癌リンパ郭清につきまとう,この制約をどう乗り越えるかである.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・12

がんの化学予防―アスピリンでがんは減るか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.586 - P.589

素朴な疑問

 痛みは病気の警告症状とはいうものの,頭痛や歯痛や腰痛はつらく,鎮痛薬はありがたい.アスピリンは抗炎症薬(NSAIDs)の代表的な医薬品であり,ドラッグストアで買える大衆薬である.アスピリンを常用している関節リウマチ患者にがんが少ないことは知られているが,アスピリンを服用すると大腸がんを予防できるのだろうか.

病院めぐり

公立富岡総合病院外科

著者: 尾形敏郎

ページ範囲:P.590 - P.590

 当院は,群馬県富岡甘楽医療圏で唯一の急性期医療を担う総合病院です.平成2年に富岡厚生病院から現名称となり,305床で新築・移転して,現在は359床で稼動しています.同2年にオーダリングシステム,10年にトータル在庫管理システムを導入し,14年に電子カルテシステム,20年にPACSを稼動してIT化を行いました.また,15年にハイケア病棟,16年にICU病棟,17年にPCU病棟を開設しました.14年には自治体立優良病院として総務大臣から表彰を受け,22年には病院機能評価,審査体制区分3(Ver. 6)に認定されました.最近では,24年12月27日付の日本経済新聞誌上において,診療体制の実力病院調査で全国ベスト50に選ばれました.群馬県下では唯一,関東でも上位6番目という順位をいただきました.

 当科は日本外科学会の修練施設で,一般外科のほか,消化器,胸部,乳腺,血管など,開心術以外のほぼすべての分野の診療が可能な体制です.昭和54年卒の院長から平成17年卒までの幅広い世代にわたる常勤医7名で構成されていて,出身大学別では,群馬大学5名,秋田大学1名,千葉大学1名です。加えて,研修医が常時1~2名在籍しています.

臨床研究

注射薬自動読み取り装置(SPASER)システムによる消化器外科手術の原価計算とコスト評価

著者: 末廣剛敏 ,   濱津隆之 ,   梶原勇一郎 ,   市来嘉伸 ,   杉町圭蔵

ページ範囲:P.591 - P.594

要旨

病院で医療材料を最も使うのは手術室であるが,診療報酬では手術手技料が安く設定されているので,病院経営の健全化のためには,手術料に包括されている高価な医療材料費を減らすことが大切である.そこで,筆者らは世界で最初となるSPASERシステム(オオクマ電子)を開発し,これによって薬品や物品の管理,医療材料の適切な使用,請求漏れ防止,医事業務の簡素化などが可能となった.さらに,手術の原価計算が容易となった.また,症例ごとのコストパーフォーマンスを開示することで外科医のコスト意識の熟成に有用である.

外科医が「自分の力を発揮できていない」と考える要因―大分県の外科医へのアンケート調査結果から

著者: 矢田一宏 ,   上田貴威 ,   野口剛 ,   白石憲男 ,   内田雄三 ,   北野正剛

ページ範囲:P.595 - P.599

要旨

【目的】若い世代に外科医が敬遠される昨今,外科医自身が感じる「やりがい」に関する因子を明らかにする.【対象と方法】外科医の「自分の力が発揮できていない要因」について大分県内の外科医211名へのアンケートを行い解析した.【結果】単変量解析で週間手術数が5件未満,週間執刀数が3件未満,週間手術時間が5時間未満の場合,自分の力が「発揮できていない」要因として有意差を認めた.これらは多変量解析でも同様であった.入院・外来患者数や勤務時間,当直回数の多さに有意な差はみられなかった.【結語】外科医は手術数や執刀数に対してやりがいを感じており,これらが満足のいくものであれば,その業務の多忙さは必ずしも重要ではないといえる.

臨床報告

Segmental arterial mediolysisによる未破裂総肝動脈瘤の1例

著者: 平出貴乗 ,   坂口孝宣 ,   福本和彦 ,   山本尚人 ,   海野直樹 ,   今野弘之

ページ範囲:P.601 - P.606

要旨

患者は56歳,男性.腹部打撲,膵炎,開腹手術などの既往症はなかった.右腰背部痛を主訴に近医を受診した.腹部超音波と造影CT検査で総肝動脈遠位に径1.0 cm大の囊状動脈瘤を指摘され,精査・加療目的に当院を紹介された.腹部造影CT立体構築画像と血管造影所見をもとに瘤を切除したのち,総肝動脈と胃十二指腸動脈,左右肝動脈の間に橈側皮静脈グラフトによる総肝動脈再建を実施した.病理組織検査では中膜空胞変性および内弾性板の断裂を認め,segmental arterial mediolysis(SAM)として矛盾しない所見であった.SAMは異時性に出現する報告もあり,今後も厳重な経過観察が必要と思われた.

Press through package(PTP)誤飲による空腸穿孔の1例

著者: 下田陽太 ,   関川浩司 ,   後藤学 ,   北村雅也 ,   河原祐一 ,   太田竜 ,   高橋保正

ページ範囲:P.607 - P.610

要旨

患者は72歳,男性.透析中の血圧低下を主訴に当院の救急外来を受診した.腹部の圧痛を認めたため腹部CTを撮影したところ,腹腔内遊離ガスがあり,消化管穿孔の診断で緊急手術を施行した.Treitz靱帯から90 cm肛門側の空腸の穿孔を認め,小腸部分切除術を施行した.切除検体にpress through package(PTP)が含まれており,PTPによる空腸穿孔と診断した.高齢者社会となった近年,PTP誤飲の報告例は増加しており,患者への服薬指導だけでなく,PTPそのものの改良が必要であると考えられた.

胃・結腸・副腎合併切除によって根治手術を行いえた膵腺扁平上皮癌の1例

著者: 細内康男 ,   西田保二 ,   藍原龍介 ,   中里健二 ,   龍城宏典 ,   塚越真梨子

ページ範囲:P.611 - P.615

要旨

患者は75歳,男性.心窩部痛・体重減少を主訴に受診し,精査で,膵尾部に発生し,胃,結腸,脾に浸潤する85×75 mm大の膵腺扁平上皮癌と診断した.胃全摘,左側結腸切除,左副腎合併切除を伴う膵尾側切除・脾摘出術によって摘出しえた.病理組織学的検査で,扁平上皮癌部分が全体の約8割を占め,リンパ節転移はなく,胃,脾に浸潤を伴う膵腺扁平上皮癌と確定診断した.術後7か月目の現在,再発なく経過している.複数の他臓器浸潤を伴う膵腺扁平上皮癌の切除報告例は6例ときわめて稀である.Doubling timeが短いため,発育が早く予後が不良とされる膵腺扁平上皮癌でも,根治切除によって予後の改善が見込める可能性がある.

腹腔鏡併用により確定診断し大腿法で修復し得た鼠径ヘルニア術後大腿ヘルニアの1例

著者: 森永暢浩 ,   熊倉裕二 ,   小林力 ,   矢島俊樹 ,   設楽芳範 ,   石崎政利

ページ範囲:P.617 - P.620

要旨

患者は80歳,女性.左鼠径部の再発ヘルニアに対して腹腔鏡下の観察を行い,大腿ヘルニア単独と確定診断し,大腿法で修復した.術後瘢痕があり,術前の腹部CT検査では鼠径ヘルニア再発と大腿ヘルニアの鑑別が困難であった.腹腔内からの観察を併用することによって前回手術部の再発はないことが確認できたため,鼠径管への操作を行わず,大腿ヘルニアのみの修復法を選択できた.再々発を起こさないためには確実な補強が必要であることはもとより,手術操作で新たに脆弱な組織を作らないことが肝要と考える.腹腔鏡で観察することは,ヘルニア門とヘルニアサックの確実な識別を行い,最善の手術法の選択するために有効と考えられる.

腹部鈍的外傷後の遅発性腸間膜裂孔ヘルニアの1例

著者: 鈴木茂貴 ,   唐崎秀則 ,   藤原康博 ,   松坂俊 ,   新居利英 ,   古川博之

ページ範囲:P.621 - P.624

要旨

患者は24歳,女性.イレウスとの診断にて紹介され,入院となった.3年前に交通事故による腹部打撲,腹腔内出血に対して保存的治療を受けた既往があるが,開腹手術の既往はなかった.イレウス管による治療で症状は軽快せず,造影にて回腸の狭窄,途絶を認めたため手術を施行した.術中に回腸間膜裂孔への内ヘルニアを認め,腹腔鏡補助下にこれを解除し,裂孔を縫合閉鎖した.腹部鈍的外傷後に遅発性に発症するイレウスは,開腹歴のないイレウスの鑑別診断として念頭に置くべきである.症状が急速に悪化して腸管の壊死をきたす症例が報告されていることから,本疾患の臨床・画像的特徴を熟知し,手術の時期を適正に判断することが重要だと考えられた.

学会告知板

第10回 拡大内視鏡研究会

ページ範囲:P.512 - P.512

テーマ:そこが知りたい! 拡大診断のコツ 観察法から診断法まで

日時:2013年9月14日(土)9:30~18:00(予定)

会場:ベルサール半蔵門

   〒102-0083 東京都千代田区麹町1-6-4 住友不動産半蔵門駅前ビル2F TEL:03-3265-9301

第23回 大腸Ⅱc研究会

ページ範囲:P.525 - P.525

日時:2013年9月15日(日)9:30~17:00(予定)

会場:ベルサール半蔵門

   〒102-0083 東京都千代田区麹町1-6-4 住友不動産半蔵門駅前ビル2F TEL:03-3265-9301

SR講習会 第10回リーダーシップコース

ページ範囲:P.569 - P.569

講習会目標:ストーマリハビリテーションの分野でリーダーシップを発揮できるようになるために,ストーマリハビリテーションの理念,ならびにストーマリハビリテーション学の高度な知識・技能・態度を習得する.


主 催:日本大腸肛門病学会,日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会,日本看護協会

後 援:日本泌尿器科学会

期 日:2013年7月24日(水)~27日(土)の4日間

会 場:東京慈恵会医科大学附属第三病院(東京都狛江市和泉本町4-11-1)

1200字通信・52

1万例

著者: 板野聡

ページ範囲:P.521 - P.521

 昨年の夏も終わる頃,S状結腸内視鏡検査や全大腸内視鏡検査(TCS)といった下部消化管の内視鏡検査で,通算1万例目を経験することになりました.最初の研修先での,ある先輩からの「記録することが大切ですよ」との言葉に従って記録をし始めてから,およそ32年間で,やっと到達することができた記録です.もちろん,もっと多くの症例を経験されている先生方も沢山おられることと承知していますが,週に2回の検査日に行ってきた検査の積み重ねに,自分としては満足しているところです.

 1万例目の患者さんは,これまでも定期的にTCSを行っている男性で,毎回,私を指名してくださっています.記録では,すでに9,996例を数えており,その日のうちに1万例目に到達すると予想され,節目の検査がどなたになるのかと気になっていたのですが,結局,そのお馴染みの患者さんになった次第です.

ひとやすみ・98

研修医時代

著者: 中川国利

ページ範囲:P.535 - P.535

 医師となり,早30年近くが過ぎ去った.わが子の成長をみると長い年月がすぎたことを自覚せざるを得ないが,自分自身にとって研修医時代はつい先日のように感じられる.そして,臨床を早く身に付けたいと日々競った研修医仲間の姿が鮮やかに思い出される.

 研修医Aが日曜日に急性虫垂炎を発症したため,腰椎麻酔下に指導医と手術を行った.たまたま外回りをしていた皮膚科外来の看護師が「血圧測定ができません」と言った.すると,Aは突然,過呼吸を始めて腹部は波打った.まさに虫垂動脈を切るときで,指導医は私が結んだ位置より中枢側で動脈を切った.すると指導医は「動くな,サクシン静注」とのたまい,Aは意識のあるまま呼吸を停止した.そして気管挿管が行われ,手術は続行された.

書評

―長野展久(著)―医療事故の舞台裏―25のケースから学ぶ日常診療の心得

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.547 - P.547

 この本は損害保険会社の顧問医師により書かれたものである.本書で記載されている25のケースはドキュメントファイルと呼ばれ,実際の医療紛争事例を臨場感あふれるドキュメンタリー風のケースシナリオにアレンジしたものであり,なぜ医療事故や訴訟に至ったのかが丁寧に解説されている.数多くの医療事故での紛争を観察した著者ならではのことであるが,賠償金の支払いを巡って医師側に責任があるのかないのかなどについてのポイントがわかりやすく記載されており,貴重な教訓が豊富にまとめられている.

 第一章では,診断での思い込みや見落としなどのピットフォール・バイアスによる診断エラーについてのケースファイルが収録されている.続く第二章では,患者や家族に対するインフォームドコンセントのあり方が問われたケースファイルが記載されている.そして第三章では,検査や治療のための医療手技に関連する事故についてのケースファイルが収録されており,CVカテーテルや内視鏡手技に伴う事故などで争われたものが集められている.

―国際膵臓学会ワーキンググループ[代表:田中雅夫](著) 田中雅夫(訳・解説)―IPMN/MCN国際診療ガイドライン 2012年版―〈日本語版・解説〉

著者: 下瀬川徹

ページ範囲:P.568 - P.568

 膵腫瘍診療の難しさは,手術難度が高いこと以外に,外科切除の侵襲が大きく,術後合併症がしばしば致命的となるため,良悪性の見極め,術式の選択,年齢や合併症を考慮した手術適応が正確でなければならない点にある.IPMNやMCNはこのような点において,以前より多くの議論が展開されてきた代表的な膵腫瘍であり,診療指針の策定は世界中の膵疾患診療の臨床現場から強く求められていた.

 このような背景から2006年に当時の世界的コンセンサスとして「IPMN/MCN国際診療ガイドライン」が公表されたが,多くの課題を残した内容であった.日本膵臓学会前理事長の田中雅夫氏を座長とする国際膵臓学会ワーキンググループは,その後集積された多数の知見に基づいて改訂作業を進め,2011年末に改訂2012年版が公表された.本書はその日本語訳と解説書であるが,原著とほぼ同時に翻訳版が出版されたことは,わが国におけるIPMN/MCN診療に大きく貢献するものと期待される.

―大川清孝,清水誠治(編) 中村志郎,井谷智尚,青木哲哉(編集協力)―感染性腸炎A to Z(第2版)

著者: 飯田三雄

ページ範囲:P.600 - P.600

 本書は,感染性腸炎に関するあらゆる知識・情報が特徴的な内視鏡像と共に解説されたアトラス的実践書である.4年前に発刊された初版が好評であったことから今回改訂版の出版に至ったわけであるが,初版で掲載された項目の改訂にとどまらず,疾患の項目数と症例数が大幅に増え,さらに充実した内容となっている.

 本書の編集を担当した大川清孝,清水誠治の両氏は,消化管,特に下部消化管疾患の診療ではわが国を代表するエキスパートである.両氏が主宰する「感染性腸炎の内視鏡像を勉強する会」という研究会で十分な時間をかけて検討された1例1例の症例が本書の骨子となっている.今回の改訂版では,この研究会で検討されなかった珍しい症例や疾患についても研究会メンバー以外の専門家によって執筆されており,まさに“A to Z”という表題にふさわしい感染性腸炎の実践書としてできあがっている.

勤務医コラム・48

ジェネリック事件

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.575 - P.575

 一般に,外科医は内科医に比べて薬剤に無頓着だ.私も御多聞に漏れず,何も知らなかった.手術という問題解決方法を知っているがゆえに,薬剤に対しては無関心であった.ジェネリック薬品についても,①「医療費抑制のためにどんどん導入すべきだ」とか,②「薬効や副作用の面で問題があり,導入は慎重にすべきだ」などの議論があることは知っていたが,他人事のように感じていた.

 ところが,そんな私の無関心を吹きとばす事件が持ち上がった.10年くらい前の話です.肝右葉切除術を予定していた65歳の男性が,抗血小板剤のジェネリック薬品を内服しているのを見逃して,ope当日の朝に気付いて延期したことがあったのです.冷汗がタラーと流れました.

昨日の患者

再び来ようね

著者: 中川国利

ページ範囲:P.620 - P.620

 高齢化社会を迎え,ともに癌に罹患する夫婦も稀でなくなった.夫婦でともに支えながら闘病生活を送り,そして伴侶を看取った患者さんを紹介する.

 70歳代後半のSさんは3年前に胃癌で胃全摘術を受けた.術後に逆流性食道炎が生じ,また著明に体重が減少したため,奥さんは食事の献立に苦労した.一方,奥さんも1年前に直腸癌となり,直腸前方切除術を受けた.しかしながら再発をきたし,病状は急速に悪化した.そしてSさんは弱った奥さんを支えながら外来を受診し,折々の近況を語ってくれた.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.534 - P.534

投稿規定

ページ範囲:P.625 - P.626

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.627 - P.627

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.628 - P.628

次号予告

ページ範囲:P.629 - P.629

あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.630 - P.630

 2013年1月の大学入試センター試験の「国語」の現代文の問題に,故 小林秀雄氏(1902~1983年)の刀剣の鐔★つば☆の美しさが語られた評論,「鐔」が出題されました.単純な,もしくは素直な筋書きで読むと,場合によっては逆の解釈になる恐れもあるような氏の評論ですが,この文章を大学入試センター試験に採用したことへの意見は,難易度が上がったことも相まって様々のようでした.思い返しますと,私たちの世代が受験期の頃には,小林秀雄氏は故 亀井勝一郎氏と並んで試験問題の定番でした.以来,多くの小林秀雄氏の文章に慣れ親しみ愛読してきた者として大変興味深く今回の問題を読み,解答を試みました.一方で,受験の頃の自身を思い出しながら懐かしい思いに浸ることができました.氏の評論は読み解くのに難解な部分も多いのですが,一方で「端的」に表現される文章もあり,難解であるからこそ,その「端的」な文章が際立っているようにも思います.

「上手に語れる経験なぞは,経験でもなんでもない.はっきりと語れる自己などは,自己でもなんでもない」(「カラマーゾフの兄弟」),

「美しい『花』がある.『花』の美しさというものはない」(「当麻★たいま☆」)

「筆を動かしてみないと考えは浮かばぬし,進展もしない」(「学問」)

「人間は歴史を持つ.社会だけなら蟻でも持つ」(「プルターク英雄伝」)

 などの名言が鮮明によみがえってきました.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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