icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科68巻6号

2013年06月発行

雑誌目次

特集 胃癌腹膜転移治療の最前線

ページ範囲:P.635 - P.635

 現在の胃癌治療ガイドラインでStageⅣ胃癌に対して提示されている選択肢は,化学療法,放射線治療,緩和手術,best supportive careである.腹膜転移例については,化学療法が治療の中心と考えるのが一般的であろう.しかし,化学療法の進歩とともに,下火となっていた手術療法の適応がふたたび拡大される可能性はあり,現にCY1症例など軽微な腹膜転移症例は今や根治を目標とした手術の適応となりつつある.高度な腹膜転移症例についても,より高い「延命」効果を求める化学療法のランダム化試験を見守るのみではなく,あくまでも「根治」をめざした戦略に取り組む外科医の試みにも注目していただきたいと思う.本企画では,胃癌腹膜転移に対する手術療法を含む集学的治療の最前線を読者諸氏にお伝えすべく,気鋭の執筆者に執筆をお願いした.

胃癌腹腔内微小転移のメカニズムとその検出

著者: 中西速夫 ,   舎人誠 ,   村上弘城 ,   伊藤友一 ,   三澤一成 ,   伊藤誠二

ページ範囲:P.636 - P.640

【ポイント】

◆腹膜転移の初発巣(微小転移)は大網や腸間膜に存在する乳斑に好発する.

◆その後の腹腔内への播種性進展は,癌細胞,中皮細胞,炎症細胞から分泌されるTNF-αなどの炎症性サイトカインにより促進される.

◆腹膜微小転移はCEAなどを指標とする遺伝子診断により高感度に検出できる.

胃癌腹膜転移に対する標準治療とは

著者: 津田享志 ,   中島貴子

ページ範囲:P.642 - P.646

【ポイント】

◆胃癌腹膜転移例は腹水貯留,腸閉塞,尿管閉塞による水腎症,総胆管閉塞など様々な病態を呈する.

◆軽度から中等度の腹膜転移症例は切除不能進行・再発胃癌の一般的な標準治療(SP療法)を行えることが多い.

◆高度の腹膜転移症例に対しての化学療法は,SP療法などの標準治療ではなく,別途開発が必要である.

CY1陽性胃癌の治療方針

著者: 小林大介 ,   神田光郎 ,   田中千恵 ,   山田豪 ,   中山吾郎 ,   藤井努 ,   杉本博行 ,   小池聖彦 ,   野本周嗣 ,   藤原道隆 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.648 - P.653

【ポイント】

◆CY1陽性胃癌に対して胃切除後にS-1を中心とした術後化学療法を行うことで,2年生存率50%,5年生存率24%と良好な成績を得ることができた.

◆今回の検討では,治癒症例と考えられる5年以上の長期生存例が14例,17%存在した.

◆CY1陽性胃癌は根治を期待できる対象群であり,今後さらに集学的治療法についてエビデンスの構築が待たれる.

胃癌腹膜転移に対する術前全身化学療法+手術

著者: 岡部寛 ,   小濱和貴 ,   角田茂 ,   久森重夫 ,   田中英治 ,   金城洋介 ,   坂井義治

ページ範囲:P.654 - P.661

【ポイント】

◆「P0CY1症例」および「P1~P2で腹膜転移のサイズが小さい症例」はCS療法で高率に腹膜転移および腹腔内細胞診の陰性化が期待できる.

◆全身化学療法により腹膜転移および腹腔内細胞診が陰性化したのちにR0切除が達成できた症例は長期生存が期待できる.

◆胃癌腹膜転移に対するさらに高い奏効率が期待できる全身化学療法として,現在DCS療法による臨床試験が進行中である.

胃癌腹膜転移に対する腹腔内化学療法の理論と実際

著者: 伏田幸夫 ,   柄田智也 ,   木下淳 ,   尾山勝信 ,   藤村隆 ,   太田哲生

ページ範囲:P.662 - P.667

【ポイント】

◆腹腔内化学療法では感受性のある抗癌剤を高濃度で長時間,播種巣に接触させることが理想的であり,局所(腹膜)に炎症の生じにくい反復投与可能な薬剤が望ましい.

◆治療的腹腔内化学療法では他病巣に対する効果が少ないため,全身化学療法との併用が望ましい.

◆腹膜播種の評価は困難であるため,手術可能症例の選別には審査腹腔鏡は必須と考える.

胃癌腹膜転移に対する腹腔内化学療法の臨床試験

著者: 大橋紀文 ,   伊藤暢宏 ,   安田顕 ,   田井中貴久 ,   有川卓 ,   永田博 ,   宮地正彦 ,   鈴村和義 ,   三嶋秀行 ,   野浪敏明

ページ範囲:P.668 - P.674

【ポイント】

◆国内外において胃癌腹膜転移に対する抗癌剤腹腔内投与の明らかな有効性を示す臨床試験はない.

◆高度医療評価制度を組み入れることで保険適用外である抗癌剤腹腔内投与を含む化学療法の臨床試験が可能となった.

◆パクリタキセルの腹腔内投与は腹膜転移に対する効果が期待されており,国内2つの臨床試験において効果が検証されている.

胃癌腹膜転移に対する腹腔内化学療法奏効後の手術

著者: 石神浩徳 ,   北山丈二 ,   山口博紀 ,   江本成伸 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.675 - P.679

【ポイント】

◆パクリタキセル腹腔内投与を併用した化学療法により,胃癌腹膜転移の強力な制御が可能である.

◆化学療法により腹水細胞診が陰性化し,腹膜播種が消失または著明に縮小した場合に手術適応と判断した.

◆腹膜転移100例中60例に手術を施行し,生存期間中央値は34.5か月であり,重篤な術後合併症を認めなかった.

胃癌腹膜転移に対する術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)の歴史と現況

著者: 片山寛次

ページ範囲:P.680 - P.688

【ポイント】

◆胃癌の腹膜転移に対するHIPECはわが国で始まったが,合併症頻度の割に効果が得られず,施行施設は減少した.

◆欧米では,大腸癌,腹膜偽粘液腫の治療としてHIPECは標準治療であり,胃癌の腹膜転移にも応用され始めた.

◆胃癌では,術前化学療法有効例に可及的な減量手術とHIPEC併用が勧められるが,経験豊富な施設で行うべきである.

胃癌に対する癌ペプチドワクチン療法―胃癌腹膜播種に対する新規治療開発をめざして

著者: 藤原義之 ,   岸健太郎 ,   本告正明 ,   矢野雅彦 ,   大東弘明 ,   大植雅之 ,   能浦真吾 ,   丸橋繁 ,   高橋秀典 ,   後藤邦仁 ,   真貝竜史 ,   石川治

ページ範囲:P.689 - P.694

【ポイント】

◆最近,癌に対する第4の治療として癌免疫治療が注目され,特に癌ペプチドワクチン療法が盛んに研究され,各種癌において臨床試験が行われている.

◆この癌ペプチドワクチン療法を胃癌治療に応用する臨床試験について現状を解説する.

◆胃癌腹膜播種に対しては,進行すると腹水貯留により急速にQOLが低下する.効果出現が緩徐でマイルドな免疫療法がこのような症例に有効とは考えにくいが,術後再発予防,抗癌剤との併用で効果を示す可能性がある.

胃癌手術のロジック―発生・解剖・そして郭清・8

系統的胃間膜切除systematic mesogastric excision

著者: 篠原尚 ,   春田周宇介

ページ範囲:P.696 - P.703

56 正統な網囊切除には確かに大網全切除という大義はあるが,いざ実施するとなると,出血や膵液漏などのリスクがある程度つきまとう.進行度に斟酌を加えずすべての胃癌手術で実施するというわけにはいかない.それなら郭清度を(リンパ節の番号ではなく)腸間膜の切除範囲で規定する結腸癌手術の考え方を,言うなれば系統的胃間膜切除systematic mesogastric excisionとして,胃癌リンパ郭清のコンセプトに取り入れてみよう.

 まず横行結腸付着部で[大網]と[横行結腸間膜前葉]の間を切離する(①).ここに最初の“脂肪が剝き出しになってしまう部分”ができる.網囊内に入った後,膵下縁で今度は[横行結腸間膜前葉]と[網囊後壁]の間を切離する(②).2か所目の“脂肪が剝き出しになってしまう部分”ができる.当然,後大網動脈を切離することになる.中間脂肪層を通過すると,目の前にさっと剝離可能層が開ける.この層は通常above Toldtのouter dissectable layerである(右頁図57写真a).この剝離層を脾外側から迎えに行けば尾側膵・脾の固定解除,いわゆる膵脾脱転ができる(図58a).

必見! 完全体腔内再建の極意・3

リニアステープラーとサーキュラーステープラーの特徴・使い方

著者: 木下敬弘

ページ範囲:P.704 - P.708

■■はじめに

 胃癌に対する腹腔鏡下手術において,最近は「補助下再建」から「体腔内再建」へのムーブメントが著しい.そのメリットは,整容面よりむしろ,肥満など患者の体型に左右されない一定の再建が可能なことであろう.筆者はこれまで多くの体腔内再建を経験し,いくつかのトラブルにも遭遇してきた.体腔内再建を成功させるために必須なテクニックは何かと聞かれれば,筆者ならば,①ステープラーを空間で使いこなすこと,②内視鏡下縫合・結紮ができること,の2点だと答える.ステープラーを使いこなすためは,現在販売されている2社の製品それぞれの特徴,長所,メカニズムをよく理解しておくことが重要である.

 本稿ではこれらに焦点を絞り,初心者にも理解できるように解説する.内視鏡外科手術には「弘法筆を選ばず」は当てはまらず,外科医は知識をもとに最適なステープラーを選ぶ必要がある.

病院めぐり

坂出市立病院外科

著者: 岡田節雄

ページ範囲:P.709 - P.709

 坂出は四国の香川県・讃岐平野の中心に位置し,隣接する県庁所在地の高松市街地から西へ車で約30分の位置にある,人口5万6千人の小さな市です.昭和63年に完成した瀬戸大橋の香川県側接岸市でもあり,JRも含め交通のアクセスは非常に便利です.台風と水不足以外の自然災害は比較的少なく,温暖な気候に恵まれ,穏やかな瀬戸内海に面した利便性から,古くは塩田の町として栄えた歴史もあります.現在は瀬戸大橋と瀬戸内海などのアクセスメリットから,「番の州臨海工業団地」で工業,商業,造船業が盛んに行われています.ただ,住民の高齢化・過疎化傾向が止まらず,当院を受診する患者も高齢者が多い特徴があります.

 当院は昭和21年に仮診療所として,内科,小児科,耳鼻咽喉科で診療を開始し,以後,数回の増床を重ねて昭和43年に総合病院の承認を受けました.現在,病床数は216床で,7対1看護基準,DPC対象病院です.ほぼすべての診療科が香川大学医学部から医師を派遣され,各診療科間の垣根も低いのが特徴です.「地域型急性期病院」として機能しており,救急部がないにもかかわらず救急車の受け入れは年々増加し,昨年は1,501件(内休日・時間外に1,009件)でした.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・13

社会経済状態―学歴や所得で死亡率に差があるか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.710 - P.713

素朴な疑問

 海外の論文タイトルを見ると“socioeconomic status”という言葉があり,社会経済格差が大きいアメリカやヨーロッパ諸国には,学歴・所得・職業が病気の転帰や治療成績に影響するかどうかを調べた研究がある.外科の診療やがん治療において,患者の社会経済状態は結果や成績に影響するのだろうか.学歴や所得で手術やがんの死亡率に差があるのだろうか.

臨床報告

脾血管腫類似病変として新たに分類されたsclerosing angiomatoid nodular transformationの1例

著者: 岡ゆりか ,   藤本康二 ,   小柴孝友 ,   坂野茂 ,   東山洋 ,   山本正之 ,   伊藤利江子

ページ範囲:P.715 - P.719

要旨

症例は45歳,女性.子宮筋腫の術前検査で施行した腹部単純CTで,脾上極に腫瘤を認めたため精査目的で当科へ紹介された.造影CTおよびMRI検査で脾上極に57×46 mmの辺縁から徐々に濃染する腫瘍を認めた.FDG-PET検査でFDGの軽度集積(SUVmax:2.98)を認め,悪性腫瘍の可能性も考えられたため,開腹下に脾臓摘出術を施行した.病理組織学的には線維芽細胞,リンパ形質細胞の浸潤により形成される線維性間質とその中心に血管腫様の結節を認め,血管内皮細胞の免疫組織化学的マーカーであるCD31,CD34陽性であり,sclerosing angiomatoid nodular transformation(SANT)と診断された.SANTは近年新しく分類された良性の脾腫瘍で,わが国での報告例はいまだ少ない.以前から報告されている脾炎症性偽腫瘍と臨床的にも病理組織学的にも類似している点が多く,非常に興味深いため文献的考察を加えて報告する.

進行癌との鑑別が困難だった肝硬変合併粘膜内胃癌の1例

著者: 小南裕明 ,   川崎健太郎 ,   中山俊二 ,   金治新悟 ,   藤野泰宏 ,   富永正寛

ページ範囲:P.720 - P.724

要旨

症例は66歳,男性.アルコール性肝硬変の精査目的で撮影した腹部CTで胃壁の肥厚が認められ,上部消化管透視および内視鏡検査で幽門輪浸潤を伴う5 cm大の亜全周性1型病変の存在が確認された.腹部CTで左胃動脈領域リンパ節の増大と肝のLDAが指摘され,転移を強く疑われた.肝機能の改善と腹水のコントロールを図った後に胃癌に対して開腹で幽門側胃切除術を施行した.術前診断はcT2N2M0 StageⅡBだったが,最終病理組織学的診断はtypeⅠ+Ⅱa,tub1,pT1aN0M0 INFα,ly0,v0,StageⅠAだった.広範囲に及ぶ腺腫内に癌が存在し,肝硬変による胃壁固有筋層内の血管およびリンパ管拡張と,癌による非腫瘍性腺管構造の分泌障害のために腫瘍全体が挙上されていたことと,肝硬変を原因とする胃壁の線維化とリンパ節腫大に限局性脂肪肝が重なり進行度が過大に評価されたと考えられた.

胃軸捻転症と脾臓嵌入を合併した横隔膜傍裂孔ヘルニアの1例

著者: 渡辺和英 ,   金木昌弘 ,   田畑敏 ,   家接健一 ,   酒徳光明 ,   清原薫

ページ範囲:P.725 - P.728

要旨

症例は79歳,女性.心窩部痛,嘔吐にて当院に救急搬送された.胃X線検査,腹部CT検査,内視鏡検査にて胃軸捻転症を伴う食道裂孔ヘルニアと診断した.開腹し,胸腔内に入り込んでいた胃体中部,脾臓を整復したところ,ヘルニア門は左横隔膜にあり食道裂孔との間に横隔膜脚が存在しており,横隔膜裂孔ヘルニアと診断した.ヘルニア門を縫縮し手術を終えた.術後14日目に退院し,現在再発はない.横隔膜ヘルニアのなかでも非常に稀な疾患であり,画像検査により確定診断が困難な場合には鑑別疾患の1つとして考慮するべきである.

胃癌術後にPetersen's herniaを併発した2例

著者: 川崎健太郎 ,   金治新悟 ,   小南裕明 ,   田中賢一 ,   藤野泰宏 ,   富永正寛

ページ範囲:P.729 - P.732

要旨

症例1:60歳台,男性.胃癌に対し開腹胃全摘(結腸前Roux-en-Y再建)を施行した.術後40日目に腹痛をきたし入院し,当初は経過観察としたが翌朝ショックとなり,急性輸入脚症候群との診断で緊急手術を施行した.輸入脚がPetersen's defectに陥入,嵌頓し輸入脚症候群となっていた.症例2:50歳台,男性.胃癌に対し開腹胃全摘+脾摘(結腸後Roux-en-Y再建)を施行した.8か月後,輸入脚症候群との診断で緊急手術を施行した.小腸がPetersen's defectに陥入し輸入脚症候群となっていた.胃癌術後のPetersen's herniaは比較的稀であるが,輸入脚症候群を併発し重篤になることがあり,注意すべき必要があると思われた.

右側肝円索を伴う胆囊結石症の3例

著者: 橋本良二 ,   横山裕之 ,   谷口健次 ,   望月能成 ,   渡邉卓哉

ページ範囲:P.733 - P.738

要旨

当院において過去8年間に腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した1,005例中3例(0.3%)に右側肝円索を認めた.3例とも有症状の胆囊結石症でありCT検査および超音波検査にて右側門脈臍部,肝円索の左側に胆囊を認め,すべての症例で術前に解剖学的異常の診断が可能であった.2例は腹腔鏡下手術を完遂し得たが,1例は炎症による高度癒着で開腹術に移行した.いずれの症例も術後経過は良好であった.近年の画像診断技術の向上により右側肝円索は術前診断可能であり,この解剖学的異常を伴った胆石症に対する腹腔鏡下胆囊摘出術は,手術手技に若干の工夫を加えることで,より安全に手術を行うことができると考えられた.

横隔膜穿破により喀血を呈した慢性膵炎の1例

著者: 石田順造 ,   岩佐真 ,   宗行毅 ,   保坂誠 ,   松島康 ,   冨田隆

ページ範囲:P.739 - P.743

要旨

患者は55歳,男性.発熱の持続で当院内科を初診した.自己免疫疾患が疑われ,非ステロイド性消炎鎮痛薬が投与された.発熱は一時的に軽快したが,血痰が出現し当科を紹介された.精査中に大量喀血を認めた.病態把握に難渋したが,慢性膵炎急性増悪に伴う炎症が横隔膜を超えて肺内に波及し,喀血を呈したことが判明した.内科的な治療で喀血は速やかに軽快したが,血清アミラーゼ値の上昇が遷延したため,手術(膵体尾部切除+脾臓摘出+横隔膜穿孔部縫合)を行い軽快した.血痰,喀血は気道出血を示す徴候であるが,原因が特定されない場合は周囲臓器疾患からの2次的な症状の可能性についても検討する必要があると考えられた.

腹腔鏡下に摘出した脾臓sclerosing angiomatoid nodular transformationの1例

著者: 高原秀典 ,   横山正 ,   安炳九 ,   杉山朋大 ,   田渕幹康 ,   神澤真紀

ページ範囲:P.744 - P.748

要旨

症例は49歳,男性.2年前に粘膜下層浸潤の下部直腸癌に対し内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)をされた.経過観察CTにて増大傾向のある脾腫瘍を指摘された.自覚症状はなかったが悪性腫瘍を否定できなかったため,腹腔鏡下脾臓摘出術を行った.腫瘤は脾臓下極から突出性に発育した60×60×60 mm大であったが被膜外への露出は認めなかった.腫瘍の割面は境界明瞭な白色充実性であり,辺縁部で結節性の出血斑が散見された.CD31,CD34,CD8の免疫組織化学的検査にてsclerosing angiomatoid nodular transformation(SANT)と診断された.本疾患は非常に稀な脾腫瘤形成性疾患であり,貴重な症例であると考えられた.本疾患のように脾臓の腫瘤形成性疾患では,診断的治療として腹腔鏡下脾臓摘出術のよい適応と考えられた.

1200字通信・53

お久しぶりです―驚きの邂逅

著者: 板野聡

ページ範囲:P.647 - P.647

 「板野先生ですよね,お久しぶりです」

 ある研究会に出席したときのことですが,予定の演題が終了して懇親会へ移動しようとしているところへ,その会にははじめてと思しき若い先生が挨拶に来られたのでした.

お知らせ

公益財団法人 かなえ医薬振興財団 平成25年度アジア・オセアニア交流研究助成金募集要項

ページ範囲:P.661 - P.661

趣 旨:近年の生命科学分野において研究者間の交流,ネットワーク,および共同研究が急速な発展に寄与しており,これらの交流は革新的な発見から臨床応用まで少なからぬ貢献ができると考え,アジア・オセアニア地域における共同研究に対する助成を行います.

助成研究テーマ:生命科学分野におけるアジア・オセアニア諸国との交流による学際的研究 特に老年医学,再生医学,感染症,疫学,医療機器,漢方,その他.

ひとやすみ・99

いかに最期を迎えるか

著者: 中川国利

ページ範囲:P.667 - P.667

 生を受けし者は必ず死を迎え,いかに死を迎えるかが大きな問題となっている.私自身はまだ死を差し迫った問題と意識はしていないが,同世代の患者さんを看取るたびに自分の死生観を持つ必要性を強く感じている.

 私が小さい頃の昭和30年代までは医療機関が充実してないこともあり,自宅で死亡するのが一般的であった.「隣のおばあさんが近頃ご飯を食べなくなった」と聞くと,両親は「じゃ,1週間位かな」と語り,見舞いに出かけた.そして予測に違わず1週間後には,親族に見守られ黄泉の世界に旅立った.

昨日の患者

患者さんに寄り添う

著者: 中川国利

ページ範囲:P.688 - P.688

 病院では病を克服し社会に復帰する人がいれば,本人の希望も叶わずに死を迎える人もいる.われわれ医療従事者は治療に努めるとともに,死に逝く患者さんには最期まで傍に寄り添いたいと思う.

 50歳代前半のHさんは,3年前に手術を施行した乳癌患者さんである.ホルモン療法や癌化学療法を施行したが,肺や骨に多発性転移をきたした.そして,疼痛がモルヒネ内服でコントロールできず,呼吸障害も生じたため再入院した.

勤務医コラム・49

求む書類退治人

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.714 - P.714

 勤務医は疲れている.その疲れの原因について,比喩的に考察してみました.

 舞台は夏の海.今日も海水浴場は多くの人で賑わっている.砂浜では奥様方がバーベキュー.波打ち際では家族連れがはしゃいでいる.はるか向こうに点々と見えるのは,遊泳禁止区域を知らせる旗だ.あの旗の向こうは急に深くなっていて,潮の流れが速く,サメも出るので危ない.あそこで溺れかけている人を救うのがわれわれの仕事.命がかかっている人は多くを語らないが,その願いは切実だ.旗の向こうで一仕事終えた後,波打ち際の砂遊びを横目に見ながら,われわれは海から上がってきた.「今日もいろいろあったなぁ.アー疲れた.さぁて一杯やるか」と通り過ぎようとしたら,「ちょっと,そこのアナタ,コレ,どうなの?」と奥様方から呼び止められた.“バーベキューで何を一番先に焼くべきか”を議論しているのだ.議長もいる.ちゃんとした会議のようだ.報道各社の記者たちもたくさん来ている.旗の向こうには誰もいなかったのに,こういうところには必ず記者と弁護士がいる.私が,「そんなもん,テキトーでエエやん」と発言したら白い目で見られた.議長が「そんないい加減なことでどうするの! ものには順番というものがあるのヨ.書類を整備しなきゃ.委員会ひらいて研修やって,キチンとしたガイドラインを作るべきヨ!」と,のたもうた.正論だ.私は「オイオイまた紙が増えるの? 勘弁してくれよ」と蚊の鳴くような声でつぶやいたのだが,意気軒昂な人々の声にかき消されてしまった.本来の仕事による心地良い疲れに変な疲れが混じり合って,今日もlifesaverの当直の夜は更けてゆくのであった…….

学会告知板

第17回臨床解剖研究会のご案内(第23回九州内視鏡外科手術研究会共催)

ページ範囲:P.728 - P.728

会 期:2013年8月23日(金),24日(土)

会 場:城山観光ホテル(〒890-8586 鹿児島市新照町41-1 TEL 099-224-2211)

書評

―国際膵臓学会ワーキンググループ[代表:田中雅夫](著) 田中雅夫(訳・解説)―IPMN/MCN国際診療ガイドライン 2012年版―〈日本語版・解説〉

著者: 真口宏介

ページ範囲:P.749 - P.749

 “International Consensus Guidelines 2012 for the Management of IPMN and MCN of the Pancreas. Pancreatology. 2012:12(3):183-197.”の日本語翻訳版が出版された.2006年の最初の国際診療ガイドラインの発行から6年での改訂である.

 医学の進歩は目覚ましく,数年の間にいくつもの新知見が報告され,理解が進むにつれてガイドラインの改訂が繰り返し必要であることは言うまでもない.しかしながら,国内だけでも意見を集約することが難しい中,診療状況や意見の異なる海外の医師たちと英語で討論し,まとめあげる作業は容易ではない.その作業を短い期間で完成させた著者の田中雅夫教授には心から敬意を表する.さらに,英文論文化されてからすぐに日本語翻訳版を出版された素早さには,ただただ驚くばかりである.

―泉 孝英(編)―日本近現代医学人名事典―【1868-2011】

著者: 猪飼周平

ページ範囲:P.750 - P.750

 本書は,呼吸器内科を専門とする医学者が14年にわたり,明治期以降日本の近代医学・医療の発展に貢献した3,762名(物故者)の履歴を調べあげた成果である.評者のように,明治期以降の医業関係誌を参照する機会の多い者にとっては,このように便利かつ確度の高いレファレンスが完成したことは,大変喜ばしいことであり,そのありがたみは今後随所で感じられることになるであろう.編者の長年のご苦労に感謝したい.

 とはいえ,本書を単に事典として理解するとすれば書評の対象とする必要はないかもしれない.そこで以下では,本書を約800ページの読物と解してその意義を考えてみたい.

--------------------

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.653 - P.653

投稿規定

ページ範囲:P.751 - P.752

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.753 - P.753

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.754 - P.754

あとがき

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.756 - P.756

 本号では,胃癌腹膜転移の治療について特集しました.胃癌治療ガイドラインを見る限り,根治をめざす手術がその治療アルゴリズムに入り込む余地はありませんが,実際には症例を選んでかなり頑張っている外科医がいるのも事実のようです.そして,喜ばしいことに,CY1症例を始めとする軽微な腹膜転移例では,一定の頻度で治癒も望める時代が到来しました.

 その一方で,近年わが国では,手術を主役としない癌の治療法の開発は腫瘍内科医の手にゆだねられるようになりました.しかし,腫瘍内科医の最も重要な役割の一つは新規薬剤の開発であり,そこではタイムリーで厳密な効果判定が必要です.測定可能病変を有さないことが多い腹膜転移の治療は,その観点からも彼らの仕事の中心にはなりにくいものです.また,新薬の開発を通じて腹膜転移の治療にbreak throughが生まれることを期待するのは,現時点ではまだ現実的ではありません.これに対し,腹腔内投与は薬物投与経路における工夫に過ぎませんが,既存の抗癌剤を用いて行っても工夫次第で相当な成果をあげる可能性がありそうです.しかし,腹腔リザーバーを含め,装着・管理に外科的手技を要する医療機器は,洋の東西を問わず腫瘍内科医にとっては足かせのようです.このような理由から,外科医は切除する技術を提供するだけでなく,癌の集学的治療に積極的に参画し,特に胃癌腹膜転移の治療法の開発については腫瘍内科医の理解を求め,協力して進めていく必要があります.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?