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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科68巻7号

2013年07月発行

雑誌目次

特集 NOTSS―外科医に問われる手技以外のスキル

ページ範囲:P.761 - P.761

 外科医に求められるスキルとして,これまで外科医教育は手術手技の習得を中心になされてきた.しかし近年,外科手術関連の医療事故およびその訴訟事例が増加しており,医療安全の面から手術手技以外のスキルについての問題点が指摘されるようになってきた.そのような手技以外のスキルは“non-technical skills for surgeons”(NOTSS)と呼ばれている.

 NOTSSには,コミュニケーション能力やリーダーシップなど,様々な人間性の要因が含まれている.このようなスキルの重要性は今まで見過ごされてきたわけではなく,古くから高名な先人たちが,優れた外科医のあり方として外科医教育のなかで語ってきた事柄なのである.それが近年,医療安全を中心とした観点から再評価・注目されている.

NOTSSとは何か―その歴史と背景

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.762 - P.763

専門家に必要なのは技術だけか

 外科学の発展のこれまでの歴史において,surgical skillおよび臨床医学の知識以外にもprofessionとして重要な行動・性格様式に様々な事項があることは古くから高名な外科医が述べてきている.

 近年,様々な産業界でnon-technical skill(NTS)なるものが注目されており,特に航空業界,原子力産業,油田発掘などの資源開発分野,さらにはわれわれ医学領域において,専門の知識と技術をもった専門家が,それだけでは十分に仕事が行われないという点から,様々なNTSの必要性・重要性が指摘されてきている.すなわちコミュニケーション能力,リーダーシップ,資源・資産管理能力,決定判断力といった能力である.これらはどちらかというと知識・技術力と違い人間性や人格,あるいは教養学的能力といった風にこれまで取り扱われてきたところであろう.特に,先に挙げた航空業界,原子力産業ではそのリスク管理がきわめて重要であり,また高度なレベルの技術が執行されたうえで成り立つ領域であるため,多くの職種の人々が協働して初めて達成されている業務であると言える.この点は近年の高度に発展してきた現在の医療ときわめて類似した状況となっていると考えられる.

医療安全およびチーム医療

医療安全からみたノンテクニカルスキル―オーストラリア・ニュージーランドの外科医養成プログラムからみた具体的な問題行動

著者: 相馬孝博

ページ範囲:P.764 - P.772

【ポイント】

◆プロフェッショナルが仕事を遂行する際には,テクニカルスキルのみならず,ノンテクニカルスキルも車の両輪のごとく重要であり,事故原因はノンテクニカルスキルの失敗が多い.

◆オーストラリア・ニュージーランド王立外科医会(RACS)の外科医養成プログラムでは,外科医の資質として9つの因子が挙げられており,患者安全を脅かす不良行動の具体例はほぼ世界共通である.

◆患者安全を確保するため,外科医は手術の施行にとどまらず,自らかかわる手術の客観評価を常に行い,他の職種に敬意を払いつつ診療チームのなかでのリーダー的役割を果たし,組織運営にかかわり,次世代育成も行わなければならない.

外科チーム医療からみたノンテクニカルスキル

著者: 円谷彰 ,   相馬孝博 ,  

ページ範囲:P.774 - P.777

【ポイント】

◆外科医のノンテクニカルスキル(NOTSS)の多くは手術室内での行動であるが,その要素である情報交換・相互理解・活動の調整などは日頃から意識してスキルアップしていく必要がある.

◆外科医は指導医・研修医にかかわらず,威圧的な態度がチームの要件または機能を阻害する可能性が高いことを十分認識する必要がある.NOTSSには多職種による理解と協力が欠かせない.

手術室チーム医療からみたノンテクニカルスキル

著者: 古家仁

ページ範囲:P.778 - P.782

【ポイント】

◆手術室内では数多くの職種が活動しており,安全で質の高い医療を実践するためには関係するすべての職種が協働して働く必要がある.

◆多くの職種が協働するためには,意思決定と指示を出すリーダーを核に各職種がお互いの役割を理解し,コミュニケーションが保たれた環境にする必要がある.

◆リーダーシップ,意思決定,コミュニケーションなど,これらはノンテクニカルスキルと呼ばれ,全職種がこの能力を高めておく必要がある.

災害医療からみたノンテクニカルスキル―災害対応時に守った「行動原則」

著者: 石井正

ページ範囲:P.784 - P.788

【ポイント】

◆災害医療コーディネーターであった筆者は,東日本大震災の最大被災地である石巻の医療救護活動を統括した.

◆筆者の所属していた東北大学第二外科から様々な「行動原則」を学んだが,それらはNOTSSに該当する.

◆これらの「行動原則」を,どのようにして各々の災害対応の場面で筆者が活用したのかについて紹介する.

災害医療に携わった看護師からみたノンテクニカルスキル―東日本大震災からの教訓と提言

著者: 星愛子

ページ範囲:P.790 - P.794

【ポイント】

◆災害医療では状況把握,状況判断,コミュニケーション,マネジメントスキルが重要であり,リーダーシップを発揮,実行していく能力が必要であった.

◆災害医療を支える根底は医療の原点にあった.

◆災害医療は特別なものではなく日頃の地域連携が重要である.

外科医の教育

外科医に求められるノンテクニカルスキルの教育

著者: 田邊政裕

ページ範囲:P.796 - P.801

【ポイント】

◆医療の質保証の観点から,医学教育はプロセス基盤型からアウトカム基盤型教育へシフトした.

◆NOTSの教育にはフィードバック,デブリーフィングを含むシミュレーション教育やOJTが重要である.

◆NOTSの評価にはmini-CEXなどの「診療現場での学習者評価」やポートフォリオが利用される.

外科医指導責任者からみたノンテクニカルスキル

著者: 児島邦明 ,   藤澤稔 ,   北畠俊顕 ,   町田理夫 ,   町淳二

ページ範囲:P.802 - P.807

【ポイント】

◆若手外科医のNOTSS教育には,対人能力やコミュニケーション能力,プロフェッショナリズムなどの医療のアート面の教育が重要.

◆手術室におけるNOTSS教育には,①タイムアウトの実践,②他の専門職種を尊重し,手術室スタッフ教育に積極的に参加すること,③see one,do one,teach one,が必要.

◆手術室以外でのNOTSS教育には,①他の専門医療職とのカンファレンス,②M & M conference,③Problem-based conference(PBC),が必要.指導医はノンテクニカルスキルを意識して,若手外科医に「言葉に出して明確に伝える」ことが重要.

総合診療医からみたノンテクニカルスキル

著者: 野田和敬 ,   生坂政臣

ページ範囲:P.808 - P.811

【ポイント】

◆問題解決能力の教育では,まず学習者に基本的解法パターンを修得させる.

◆熟練者の思考過程を学習者が追従できるように言語化する.

病院めぐり

長崎市立市民病院外科

著者: 井上啓爾

ページ範囲:P.813 - P.813

 当院は長崎市の南部地区に位置する地域拠点病院です.長崎は九州の西の端にあり,観光と造船(三菱重工業)で有名な街です.お祭りが好きな土地柄であり,2月にランタンフェスティバル,8月に精霊流し,10月には最大のイベントである長崎くんちなどがあります.人口44万人の長崎市には拠点病院としての総合病院が,長崎大学病院,当院,長崎原爆病院の3院あります.当院は風光明媚な長崎港に面しており,市街地から工業地域にかかる地域を担っています.

 当院は昭和16年の小倉陸軍病院分院に始まり,昭和23年に現名称となりました.現在,414床の総合病院で,職員数542名,常勤医師数67名,研修医10名です.当院は地域支援病院,地域災害医療拠点病院,地域がん診療連携拠点病院,臨床研修指定病院などの認定を受けています.繁華街,中華街のすぐ近くにあり,ランタンフェスティバルのメイン会場からは100 m,観光名所のグラバー園,大浦天主堂からも500 mほどのところです.

必見! 完全体腔内再建の極意・4

―胃全摘術後再建―Overlap法―通常の胃全摘の場合の食道空腸吻合

著者: 河村祐一郎 ,   須田康一 ,   佐藤誠二 ,   宇山一朗

ページ範囲:P.814 - P.821

■■はじめに

 体腔内での食道空腸吻合の手技は,サーキュラー・ステイプラーを用いる方法とリニア・ステイプラーを用いる方法に大別される.Overlap法はリニア・ステイプラーを用いた体腔内再建法としては最初に導入された方法である.近年は,サーキュラー・ステイプラー法や機能的端々吻合法(functional end-to-end anastomosis:FEE法)を応用した方法がより簡単に施行できるようになり,普及しているものと思われる.一方,overlap法は共通孔の閉鎖を手縫いで行うため,他の吻合法と比較すると若干手術時間が延長し,やや煩雑である.しかし,食道浸潤例での胸腔内吻合や,挙上空腸に緊張がかかった場合でも比較的実施しやすい技法であり,汎用性は高い.

 通常の吻合でこの手技に慣れておけば,いざ高位吻合が必要となる場合でも対処が容易となるため,習得しておきたい手技と思われる.

胃癌手術のロジック―発生・解剖・そして郭清・9

総論のまとめ:原則の遵守と妥協

著者: 篠原尚 ,   春田周宇介

ページ範囲:P.822 - P.831

64 手術が終わって標本整理.今日の患者さんも内臓脂肪が多くて大変だったなあ.トレイに入った検体を見ると,胃と一緒にとってきた大網の厚みも半端じゃない.まずは4dから.どうせリンパ節は胃大網動脈沿いにしかないんだから,血管から少し離れたところで切り落としてしまおう.「ホイッ,これ廃棄するやつ」,てな具合で摘出された瞬間からぞんざいに扱われる大網.そんな大網の切除を右胃大網動静脈に近いところだけにとどめ,残りはお腹の中に残してこようという腹腔鏡下手術でよく行われるオプションが上図である.

 「これでも確かに4d,4sbは確かにとれるでしょう.でも左右の胃大網動脈を根部で切るので,温存した[大網]がネクってしまうんじゃないですか?」とご心配の向きもあるだろう.でも大丈夫! 何故なら(多少,心許ないが)隠し玉の後大網動脈が残っているから.ということはこのオプションのミソは膵下縁で[横行結腸間膜前葉]に切り込まないこと.胃膵ヒダからbelow Toldtに入って“郭清範囲(11p, or +11d)に応じた腸間膜化”を行い,[網囊後壁]を胎生期から甦らせる.そして例のごとくinner dissectable layerに入って11番を郭清したあと脾門の手前で切り上がる(④).脾摘をしないので,いわゆる膵脾脱転は行わない.脾門部の“すだれ郭清”という逃げ道はあるが,通常は原則D2マイナス10番郭清のための必要最小限の胃間膜切除である.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・14

周術期輸血―がん患者の輸血は予後に影響するか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.832 - P.835

素朴な疑問

 貧血や低栄養がある患者は創離開や縫合不全を起こしやすく,周術期の輸血と栄養補給が重要であるが,輸血を受けた患者は感染防御能や腫瘍免疫力が低下することが知られている.がんの手術が順調に経過するには,貧血や出血を輸血で補正しないといけないが,がん患者に輸血を行うと,感染性合併症や手術死亡,再発や転移が増えたりするのだろうか.

臨床報告

コレステロール結晶塞栓症に起因する腸閉塞の1例

著者: 村上隆英 ,   小木曾聡 ,   畑啓昭 ,   山口高史 ,   大谷哲之 ,   猪飼伊和夫

ページ範囲:P.837 - P.840

要旨

患者は60歳,男性.53歳時から自覚する両足の間欠性跛行に対して冠動脈・腹部大動脈造影が施行された.検査後に腹部膨満と腹痛が出現し,徐々に増悪したため,3か月後に腸閉塞の診断で入院した.CTで小腸狭窄,小腸内視鏡で回腸に全周性狭窄を認め,腹腔鏡下手術を施行した.術中所見で回腸末端に狭窄があり,回腸部分切除術を行った.切除標本では狭窄部の粘膜にびらん・潰瘍があり,病理組織学的には小動脈内にコレステロール結晶を認め,コレステロール結晶塞栓症による腸閉塞と診断した.コレステロール結晶塞栓症は稀な疾患であるが,血管カテーテル操作後の腸閉塞の原因として考慮する必要がある.

若年者に発症した孤立性上腸間膜動脈解離の1例

著者: 高木健裕 ,   京兼隆典 ,   渡邉克隆 ,   久世真悟

ページ範囲:P.841 - P.844

要旨

患者は33歳,男性で,急性腹症で受診した.腹部造影CTで,上腸間膜動脈(SMA)の4 cmにわたる動脈解離を認めた.腹腔動脈は正中弓状靱帯のため閉塞しており,SMA造影では膵頭部アーケードを介して固有肝動脈,脾動脈が造影された.SMAの瘤化や腸管虚血の所見はなく,保存的治療を選択し,良好な経過を得た.自験例は本邦報告例中では最若年者であり,腹腔動脈閉塞を併発した稀有な症例と考えられた.動脈壁へのshear stress増加が発症の一因となる可能性を考えた.

術後10年目に大腸に再発した胃高分化型腺癌の1例

著者: 木原直貴 ,   木下隆 ,   菅敬治 ,   鱒渕真介 ,   上野浩 ,   森田眞照

ページ範囲:P.845 - P.849

要旨

症例は75歳,女性.10年前に胃癌で胃全摘術を施行された[tub1,T3(se)N0,CY0,P0,H0,M0,Stage Ⅱ].上腹部痛と便通異常を自覚し,近医より大腸狭窄と診断され,当院へ紹介された.注腸造影X線検査で横行結腸に2箇所の狭窄病変を認め,大腸内視鏡は通過不可能であった.腹部CTで同部位の壁肥厚像を認めたが,所属リンパ節などへの転移は認めなかった.横行結腸重複癌を疑い手術を施行した.病理組織像は,両病変ともに粘膜下層から獎膜下層にびまん性に浸潤する高分化型腺癌であった.免疫組織学的染色で胃癌の大腸転移と診断した.術後34か月目に死亡した.術後10年経過した胃癌の大腸転移例は稀であるが,長期経過した後も再発を念頭に置いた経過観察が必要と思われた.

CT angiographyとCT colonographyによる術前シミュレーションが有用であった異型大動脈縮窄症を伴う上行結腸癌の1手術例

著者: 文陽起 ,   福田啓之 ,   尾形章 ,   吉村光太郎 ,   金子高明 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.851 - P.855

要旨

患者は60歳代,女性.貧血の精査目的で当院を受診した.大腸内視鏡検査で上行結腸に1/4周性の2型腫瘍を認め,生検の結果,adenocarcinomaと診断された.術前検査のCT angiographyで胸部下行大動脈下部に狭窄を認め,異型大動脈縮窄症と診断した.ポート挿入の前後に体表超音波検査で側副血行路である腹壁動脈を確認して損傷を回避し,腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.CT angiographyとCT colonographyを組み合わせた術前シミュレーションは,側副血行路の把握を含め,安全に腹腔鏡下手術を施行するうえで非常に有用な手段であると考えられた.

直腸癌管腔内implantationにより発症した転移性痔瘻癌の1例

著者: 森藤雅彦 ,   藤本三喜夫 ,   宮本勝也 ,   横山雄二郎 ,   中村浩之 ,   中井志郎

ページ範囲:P.857 - P.863

要旨

患者は58歳,男性.10年前から痔瘻にて近医で加療されていた.肛門左側にできた腫瘤が急速に増大してきたため,近医にて局所麻酔下に腫瘍と瘻管を切除したところ,病理組織学的に高分化腺癌,surgical marginが陽性と診断された.追加治療の目的で当科を紹介された.肛門から10 cmの直腸に全周性腫瘍と肝転移を認め,直腸腫瘍は高分化腺癌と診断された.直腸癌の痔瘻への管腔内転移と考え,腹会陰式直腸切断術および肝部分切除(S6, S7)を施行した.術後の病理組織所見で直腸癌は会陰部の残存腫瘍との連続性はなく,ともに高分化腺癌で組織型も同一であることから,管腔内播種による転移性腫瘍である可能性が高いと診断した.大腸癌,特にS状結腸から下部の癌の痔瘻合併症例では管腔内播種による転移の有無を,逆に痔瘻癌と思われる症例では口側大腸癌の有無を考慮した術式と治療方針を考慮する必要があると思われた.

肝転移と大動脈周囲リンパ節転移を有するStage Ⅳ大腸癌に対しconversion therapyにて長期生存を得た1例

著者: 千田峻 ,   坂本渉 ,   古川義英 ,   中村泉 ,   大木進司 ,   竹之下誠一

ページ範囲:P.865 - P.868

要旨

患者は46歳,男性.腹部膨満感と便秘を主訴として当院を受診した.精査にて肝S8と大動脈周囲リンパ節への転移を有し,狭窄を伴う4型S状結腸癌(Stage Ⅳ)と診断された.2007年4月,S状結腸切除を施行後,mFOLFOX6を10コース施行したところ,肝転移は臨床的完全奏効,大動脈周囲リンパ節転移は臨床的部分奏効となった.続いて2007年12月に肝部分切除および大動脈周囲リンパ節郭清術を施行し,2012年10月まで無再発生存中である.大腸癌において,遠隔リンパ節転移巣切除に関する明確なエビデンスはないが,conversion therapy施行後に根治切除を行うことで予後改善が期待される症例があると考えられた.

管外発育型を呈した巨大な回腸gastrointestinal stromal tumor(GIST)の1切除例

著者: 古橋隆 ,   安部利彦 ,   平野文明 ,   荒木昌典 ,   石川伸久 ,   藤東寛行

ページ範囲:P.869 - P.873

要旨

患者は62歳,男性.主訴は1週間前からの寝汗と微熱で,腹部症状の訴えはなかった.腹部造影CT,腹部造影MRIにて,長径20 cmを超える原発不明の巨大腹腔内腫瘍を認めた.開腹手術の結果,回腸末端より約110 cmの回腸から管外性に発育した,緊満した囊胞を主体とした不整な暗黒赤色の腫瘍を認め,小範囲の小腸切除で摘出することができた.病理検査の結果,GISTと診断された.再発率90%の高リスク群であったが,術後補助化学療法としてイマチニブ400 mg/日の36か月間の継続投与を重篤な副作用もなく行い,術後約4年2か月無再発生存中である.腫瘍径が大きく高リスクの症例でも,イマチニブ36か月間投与で長期無再発生存の期待ができることが示唆された.

書評

―泉 孝英(編)―日本近現代医学人名事典【1868-2011】

著者: 髙久史麿

ページ範囲:P.772 - P.772

 今回,医学書院から泉孝英先生の編集による『日本近現代医学人名事典』が刊行された.この事典で紹介されているのは,2011年末までに死去された医療関係者の方々である.紹介の対象になっているのは医師,医学研究者が大部分であるが,歯科医師,看護師,薬学,体育指導者,宣教師,事業家(製薬業),工学者(衛生工学),社会事業家,厚生行政の方,生物学者など,幅広い業種の方々であり,いずれもわが国の医療の発展に大きく貢献された方々である.本誌に紹介されている方々の年代は誠に長く,1868~2011年までの143年に及び,その数は3,762名に達している.

 本書の「序」にも紹介されているように,1868年はわが国に西洋医学が導入された年であるから,本書は,日本の近代医学・医療に貢献された先達のご経歴とご業績を網羅した“一大人名事典”であるといって過言ではないであろう.

―馬場忠雄,山城雄一郎(編) 雨海照祥,佐々木雅也,宮田 剛,島田和典(編集協力)―新臨床栄養学(第2版)

著者: 小越章平

ページ範囲:P.850 - P.850

 このたび医学書院より,『新臨床栄養学』が6年ぶりに改訂になり刊行された。本書は馬場忠雄先生ならびに山城雄一郎先生が中心となり,それに若手というより現在,旬のベテラン4名が編集協力者として加わって全面改訂が行われ,第2版として刊行に至ったことに,まずはご同慶の至りと心よりお祝い申し上げる。

 初版は紹介するまでもなく,故岡田正先生の孤軍奮闘の力作であり,当時は少なかった医家向けのスタンダードを目指したテキストで,かなり画期的と言えるものであった。栄養学にとってのこの30年は,高カロリー輸液,そして経腸栄養は成分栄養法を中心として方法論はもとより,その臨床効果は「抗生物質に並ぶ20世紀最高の治療手段」といわれ,重症患者の管理には不可欠のものとなった時代である。今から振り返って,当初臨床栄養学の全般を網羅するこのような教科書を完成させたのは,全く岡田先生の情熱のほかの何ものでもないと感心させられる。

1200字通信・54

母校―私の原点

著者: 板野聡

ページ範囲:P.773 - P.773

 この歳になっても,時代に遅れないように学会や講習会に参加させてもらっています.東京の学会へは,名古屋まで近鉄特急を使い,名古屋からは新幹線を利用していますが,名古屋から東京までの所要時間は短縮され,車内も快適になっています.その際の楽しみに車内雑誌の「ひととき」がありますが,先日乗車した際の2013年2月号に,私の実家のある岡山県の古い学校建築についての特集があり,早速手に取ることになりました.

 実は,その表題にわずかな期待をもって読み始めたのですが,予想どおりに私の母校が写真入りで紹介されており,大変嬉しく思いました.それは,実家の近くにある倉敷市立西中学校ですが,昭和12年完成(この雑誌ではじめて知りました)の木造校舎で,今も現役で使用されていると紹介されていました.私は昭和44年に卒業しましたが,当時,木造校舎は当たり前だったのではないでしょうか.それが,各地に鉄筋の校舎が増えるにつれて話題になり始め,とうとう「ひととき」に取り上げられることになり,思わず,乗り合わせた方々にもお教えしたい気分になりました.そう言えば,わが家では少し前に父が私の子供たちを車に乗せ,「お父さんが卒業した中学校だよ」と案内していたことを思い出しましたが,これはジイ様と孫の間の話で,校舎の話とは関係がなかったかもしれません.

ひとやすみ・100

体を鍛える

著者: 中川国利

ページ範囲:P.789 - P.789

 車社会となり,歩く機会は少なくなった.しかし,時間とお金をかけてまで運動する気にはなれない.そこで,日常生活のなかで意識的に運動することに努めている.私が日頃行っている筋肉トレーニング法を紹介したい.

 朝の歯を磨く際には,仰向けになる.そして,1分間両足を30度上げ,つぎに1分間反り返り,最後に再び1分間両足を上げて歯を磨く.7時のテレビニュースを見ながら行うので,時間を有効に使うことができる.さらに,口を水でゆすいだあとに,腕立て伏せを10回行う.外出衣に着替えて,再び腕立て伏せを10回行う.妻から「またカメムシが運動している」とからかわれるが,腹筋や上腕三頭筋は引き締まる.

勤務医コラム・50

人生が二度あれば

著者: 中島公洋

ページ範囲:P.836 - P.836

 本誌の読者である外科勤務医の皆さんは,これまでたくさん手術や当直をこなし,ドキドキしたりヒヤヒヤしたりガッカリしたりガッツポーズをしたり,いろいろなことがあったことでしょう.あるいは,その真っ最中かもしれません.

 はじめて胃切除を執刀させてもらった晩に,先輩に連れて行ってもらった居酒屋で飲んだあの一杯の酒は旨かった.はじめてのPDでのトンネリング操作,はじめての右葉切除での右肝静脈encircle操作…あの感触は忘れません.退院する患者さんに「ありがとう」と声を掛けられると,すべての疲れが吹き飛ぶから不思議です.逆に,力及ばず悔し涙を流したり,理不尽な事を言うてくる人に辟易したこともありました.忘年会で裸踊りをして教授に叱られたり,美人ナースに酌をしてもらって鼻の下をのばしたりしました.実験や論文作成,あるいは上司の鞄持ちや宴会のセッティングも良い経験となりました.徹夜で学会の準備をして明け方にウトウトし,電車や飛行機に乗り遅れた人もいたでしょう.私もそんな泣き笑いで30年を過ごし,とうとう起承転結の「結」(第12回,65巻5号参照)に突入しました.

昨日の患者

ボケ防止の麻雀

著者: 中川国利

ページ範囲:P.863 - P.863

 急速な高齢化社会を迎えつつあるが,高齢となっても生涯現役で働く人や趣味の世界に活路を見出す元気な人は多い.そして,一般的に男性は妻が亡くなると家にこもりがちになるが,女性は夫が亡くなっても活動的である.いつも艶やかな服で颯爽と来院し,元気に挨拶をする患者さんを紹介する.

 80歳代前半のSさんは,5年ほど前に乳癌の手術を受けた.現在は年に2回ほど外来を受診し,近況を快活に報告してくれる.そこで若さを保つ秘訣を尋ねた.すると,「日々の生活では嫌なことも多々ありますが,くよくよしないことです.また,趣味を持って,友達と楽しむことです」と語った.そこで「どんな趣味ですか」と尋ねると,「夫は10年ほど前に胃癌で亡くなり,子供らも独立して一人となりました.閑をもてあましていたところ,たまたま親しい友人から麻雀に誘われました.やってみると駆け引きが面白く,麻雀の虜になりました.また男友達はみな女性に優しく,何歳になっても紳士的に振る舞ってくれます.ときには会食をし,少しのお酒で話も大いに盛り上がります.しかしながら,賭け麻雀は絶対にしないことにしています.友達を失うことになりますから.また,はまることを避けるため,必ず止める時間を決めてから始めています」

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.801 - P.801

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.807 - P.807

投稿規定

ページ範囲:P.875 - P.876

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.877 - P.877

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.878 - P.878

次号予告

ページ範囲:P.879 - P.879

あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.880 - P.880

 今回の特集は「NOTSS―外科医に問われる手技以外のスキル」ということで,様々な観点から指導医の立場の外科医にご寄稿いただいた.外科手術を通して患者に医療を提供する使命をもっている外科医師にとって,手術手技の修練は当然のことであり重要なことである点には誰もがまったく異論がないであろう.またその手術手技が卓越していればいるほど望ましいことも間違いのない点である.

 しかし,問題は外科手術手技の習得のみに没頭し,それがよい外科医になりうるすべての要素であるかのように誤解している若い医師をときどき見かけてしまうような気が最近するのである.外科医が患者に対してメスを入れ,外科的外傷を負わせることができるのは,その背景に患者を含めた社会の衆目からみて外科医が様々な意味で信頼されてこそのはずである.手術手技や患者の病態のみならず患者自身の希望・意志に基づく手術の適応,周術期に起こりうる様々なイベントや術後の問題点などに対し,患者およびその家族の立場になって考えることは決して簡単なことではなく,しっかりとしたコミュニケーションのもとで初めて成り立つ.外来で初めて患者と会ったときからの付き合い方,話し方によって構築されてくるものと思われる.このためには患者およびその家族の心持ちに対しての深くて暖かな洞察が必要である.患者を含めて彼らが望んでいることを真に理解していくこと,また手術によってもたらされる結果がどのようなものであるのかをきちんと可能な限り理解してもらおうとする姿勢が最も重要に思える.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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バックナンバー

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