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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科68巻8号

2013年08月発行

雑誌目次

特集 外科医のための癌免疫療法―基礎と臨床

ページ範囲:P.885 - P.885

 標準治療では克服することが困難な難治癌や再発癌に対し,「第4の癌治療法」として期待されてきた免疫療法.必ずしも期待された治療効果は得られていないのが現状だが,近年,免疫研究技術の進歩に伴い多くの癌抗原が明らかになり,professionalな抗原提示細胞である樹状細胞の培養法が確立され,癌抗原を標的とした「特異的免疫細胞療法」である癌ワクチン療法が注目されている.

 癌ワクチンを含む免疫療法に対する評価は,「エビデンスがないこと」が最大の問題点となっているが,徐々に臨床試験の結果が集積されはじめ,2010年4月には前立腺癌に対する樹状細胞ワクチンPROVENGE®がFDAに承認されている.

基礎編

癌免疫療法の基礎

著者: 河上裕

ページ範囲:P.886 - P.893

【ポイント】

◆がんは形成過程で免疫抵抗性を獲得し,がん患者では多様な免疫細胞や分子が関与する免疫抑制環境が構築されている.

◆最近の臨床試験で治療効果が認められ,今後,免疫療法は「効果が期待できる症例では長期延命をもたらす治療」となることが期待されている.

◆効果が期待できる症例を選択するバイオマーカーの同定や,抗腫瘍免疫ネットワークの制御による強力な複合免疫療法の開発が進められている.

がん免疫療法の臨床への展望

著者: 平家勇司

ページ範囲:P.894 - P.898

【ポイント】

◆抗CTLA-4抗体や抗PD-1抗体などの,免疫抑制解除抗体が注目を集めている.抗PD-1抗体は,悪性黒色腫だけでなく,腎細胞がん,非小細胞肺がんに対しても,高い抗腫瘍効果が期待されている.

WT1ペプチド癌ワクチン

著者: 杉山治夫

ページ範囲:P.899 - P.906

【ポイント】

◆Wilms腫瘍遺伝子WT1は小児の腎癌であるWilms腫瘍の原因遺伝子として単離された遺伝子で,種々の遺伝子の転写を制御する転写因子をコードしており,細胞の増殖,分化に重要な働きをしている.

◆WT1遺伝子の過剰発現が白血病やほとんどすべての種類の固形癌でみられることから,WT1蛋白は汎腫瘍抗原である.

◆また,白血病(がん)幹細胞で発現することから,WT1免疫療法は,cure-oriented therapyの可能性が高い.

新しい概念に基づくがん免疫治療―NKT細胞標的治療

著者: 谷口克

ページ範囲:P.908 - P.914

【ポイント】

◆これまでのがん免疫治療はがん免疫に関わる免疫細胞1種類だけを標的にした治療法であったため,再発が起こることが問題であった.

◆第3世代のがん免疫治療―NKT細胞標的治療として,NKT細胞は患者体内のNK細胞およびキラーT細胞の両方を“増殖・活性化”でき,「HLA発現を失ったがん細胞」と「HLA発現のあるがん細胞」の2種のがん細胞を同時に排除できるしくみを利用している.

◆NKT細胞標的治療第Ⅰ/Ⅱa臨床試験では,進行肺がん治療群17例の60%の平均生存期間は約30か月で,有意な延長がみられた.

臨床編

メラノーマの免疫学と免疫療法の進歩

著者: 斎田俊明

ページ範囲:P.915 - P.919

【ポイント】

◆先駆的な免疫学的研究が進められたにもかかわらず,進行期メラノーマに有効な治療法は存在しなかった.しかし最近,予後改善を期待できる画期的な新薬が登場した.

◆免疫抑制解除作用を有する新薬イピリムマブ(抗CTLA-4抗体)によって進行期メラノーマ患者の生存期間が有意に延長する.抗PD-1抗体も有望である.

◆メラノーマの分子遺伝学的研究が進み,変異BRAFの分子標的薬vemurafenibをはじめ,臨床効果を期待できる新薬の開発が進んでいる.

肝癌に対するペプチドワクチン療法

著者: 酒井麻友子 ,   中面哲也

ページ範囲:P.920 - P.925

【ポイント】

◆肝細胞癌に対して自ら固定したglypican-3(GPC3)由来のペプチドを用いたワクチン療法の臨床第Ⅰ相試験において,安全性,ペプチド特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の誘導効果,腫瘍内へのCTLの浸潤,一部の症例での抗腫瘍効果,ペプチド特異的CTLの最大頻度と全生存期間の相関を示すことができた.

◆ペプチドワクチン療法のproof of conceptともいうべき,ペプチドワクチン後の腫瘍生検組織にペプチド特異的CTLが浸潤していることを証明し,わずか2回のペプチドワクチン投与で肝内のほとんどの腫瘍が壊死した症例も経験した.肝細胞癌根治的治療後の再発予防効果を検証する第Ⅱ相試験も登録が完了した.この成果により製薬企業への導出が実現し,GPC3ペプチドを含むペプチドカクテルワクチン療法の第Ⅰ相の企業治験も進行中である.

膵癌に対する樹状細胞療法

著者: 砂村眞琴 ,   島村弘宗 ,   江川新一 ,   高野公徳 ,   千葉斉一 ,   河地茂行 ,   島津元秀

ページ範囲:P.926 - P.933

【ポイント】

◆切除不能の進行膵癌に対する樹状細胞療法は安全に施行でき,抗腫瘍効果も期待できる.

◆高品質の人工抗原,樹状細胞誘導の技術開発などにより,樹状細胞を用いた免疫療法の可能性が拡がっている.

◆ゲムシタビンは抗癌剤でありながら抗腫瘍免疫にプラスに働き,免疫化学療法という新しい発想が生まれている.

大腸癌における免疫療法

著者: 奥野清隆 ,   杉浦史哲 ,   助川寧 ,   井上啓介

ページ範囲:P.934 - P.940

【ポイント】

◆大腸癌は増殖速度が緩徐で免疫原性の高いものが多く,腫瘍局所にリンパ球浸潤の強い大腸癌は予後良好である.

◆抗体は抗VEGF抗体,抗EGFR抗体のみでなく,エフェクターT細胞の活性増強の抗体(抗CTLA-4抗体,抗PD-1抗体)が今後,期待されている.

◆ペプチドワクチンは多種カクテルの臨床効果が高く,ペプチド免疫応答性と予後が相関する傾向が強い.

信州大学における取り組み

著者: 下平滋隆

ページ範囲:P.941 - P.947

【ポイント】

◆樹状細胞ワクチン製造技術および品質分析の標準化,人工抗原ペプチドの選択と樹状細胞ワクチンとの最適化,免疫学的効能分析は治療技術のポイントとなる.

◆先進医療制度において「樹状細胞および腫瘍抗原ペプチドを用いたがんワクチン療法」の有効性を多施設共同臨床試験により明らかにする.

◆GMP基準の樹状細胞ワクチンの製造ラインから搬送システムの構築まで,将来の治療技術の応用研究および開発研究は重要となる.

慶應義塾大学における取り組み―切除不能進行膵癌・食道癌に対する化学療法併用WT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチン療法の第Ⅰ相臨床試験

著者: 北郷実 ,   真柳修平 ,   松田達雄 ,   阿部雄太 ,   日比泰造 ,   八木洋 ,   篠田昌宏 ,   川久保博文 ,   板野理 ,   竹内裕也 ,   相浦浩一 ,   田邉稔 ,   藤田知信 ,   岡本正人 ,   砂村真琴 ,   田口淳一 ,   河上裕 ,   北川雄光

ページ範囲:P.948 - P.951

【ポイント】

◆WT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチン療法は,患者の樹状細胞をベンチで大量に培養した後,WT1ペプチドでパルスして戻す癌免疫療法である.

◆切除不能進行膵癌に対する「ゲムシタビンを併用したWT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチン療法の第Ⅰ相臨床試験」を紹介する.

◆切除不能・再発食道癌に対する「ドセタキセルを併用したWT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチン療法の第Ⅰ相臨床試験」を紹介する.

FOCUS

臨床外科領域における3D内視鏡システムの現況と今後の展望

著者: 大内田研宙 ,   剣持一 ,   橋爪誠

ページ範囲:P.952 - P.958

はじめに

 3D映像は,いまや世の中にあふれている.映画館や遊園地では3D映像を用いた作品やアトラクションが数多くみられるようになった.この種の3D動画は,飛び出してくる感覚が強調され,見る者に驚きを与えることが多い.

 医療界,特に内視鏡外科領域においても3Dスコープや3D提示装置の開発は数十年前から行われてきた.この領域においてもブームがあり,現在の内視鏡外科領域におけるブームも初めてではない.過去に内視鏡外科領域で開発された3Dシステムは一般的に普及するに至らなかった.これはなぜだろうか.様々な理由が挙げられるが,大きな理由が2つある.1つ目は解像度や色再現性,奥行き感など過去の3Dシステムによる3D動画の質の悪さと,それに起因する疲労感や違和感である.そして2つ目は,過去においては胆囊摘出術などのシンプルな手技しか必要としない手術がほとんどであったことにより,3D情報を必要とする局面がほとんどなかったことである.この2つの理由は,現在までに劇的に変化している.

 3D内視鏡システムは,近年の急速なテクノロジーの進歩により劇的に改善した.また,内視鏡外科手術の対象も胃癌や大腸癌,食道癌,肺癌など多くの癌が含まれるようになり,そのほとんどが今や保険診療として日常の診療のなかで行われている.この癌に対する手術の多くは緻密なリンパ節郭清や煩雑な再建手技を伴うものであり,この領域において3D情報はきわめて有用である.本稿では,臨床外科領域における3D内視鏡システムの現況と今後の展望について解説する.

必見! 完全体腔内再建の極意・5

―胃全摘術後再建―Overlap法(高位での吻合)―食道浸潤胃癌で食道空腸吻合が縦隔内になるような場合

著者: 能城浩和 ,   浦田雅子 ,   池田貯

ページ範囲:P.960 - P.964

■■はじめに

 開腹手術の無作為抽出試験であるJCOG9502 studyにおいて,食道浸潤胃癌ではその食道側浸潤の長さが3 cm以下であると,下縦隔郭清を伴う左開胸手術の追加は根治性のメリットがなく,呼吸器合併症が増えることが指摘され,その意義は少ないことが明らかになっている1).したがって,このようなケースでは経食道裂孔的に下縦隔の郭清と再建を行うべきと結論されている.しかし,実際にこれを腹腔鏡下手術にて再現しようとしたとき,口側断端が癌浸潤陰性になるように切離するとその再建は容易でないことをたびたび経験する.これは食道浸潤長のみにおいて規定されるものではなく,食道の短縮や裂孔ヘルニアの存在,体型にも大きく左右されることは言うまでもない.もちろん3 cm以上の食道浸潤胃癌で下縦隔にリンパ節転移があれば予後はきわめて不良であるが,切除の方針ならば十分な郭清と安全な再建を考慮する必要がある.

 そのようなとき横隔膜を切離して大きく左胸腔に術野を作製するか,再建においては経口アンビルを用いたサーキュラー・ステイプラーで行うか,さらには中下縦隔郭清と再建を右胸腔から胸腔鏡下に行うなど様々な工夫を必要とするが,いずれにせよ安全に施行するだけの知識と技量を身に着けておく必要がある.筆者らは,腹腔鏡下手術にて腹腔内操作を終えたのち必要と判断したならば,患者を腹臥位にして行う胸腔鏡下手術を併用している2,3).最近ではこのような術式すべての操作をIntuitive社のda Vinci Surgical Systemを用いてロボット支援手術として施行することもできる.本稿ではこれらの術式を解説し,knack and pitfallsに言及する.

病院めぐり

市立横手病院外科

著者: 吉岡浩

ページ範囲:P.965 - P.965

 当院は秋田県の南部に位置する横手市の自治体病院です.横手市は四季折々の自然が豊かで,いぶりがっこやB-1グランプリで優勝した横手やきそばなど,特産品もたくさんあります.また,冬には横手かまくらが幻想的な光を街に灯します.

 当院は明治22年,この横手市に急性期総合病院として開設された,秋田県で最も歴史ある病院です.かつて医療供給体制の未熟・低迷な時代に平鹿郡の委託を受け,看護婦養成所の設置により看護婦などの養成を行うとともに,貧困者に対しては施療を行うなど,病ある人々への福音に努めてきました.また,診療所の開設や伝染病隔離病舎の竣工,地域住民のための各種公衆衛生活動など,一貫して地域医療の確保に力を注いできました.平成21年には「ゆとりある快適な療養環境の整備を図ること」「専門性を発揮した医療を強化すること」に重点を置いた増改築工事を行い,平成23年5月に完成いたしました.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・15

レントゲン診断―CT検査は安全で有用か

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.966 - P.969

素朴な疑問

 1895年にレントゲンが発見したX線はコンピュータ技術によってCT装置の発明につながった.CT検査は病気の診断や治療方針の決定に必要不可欠であるが,被曝の影響は無視できない.東日本大震災で起こった福島第一原発事故のあと,国民は被曝に関心を持っている.被曝線量が多いCT検査について,医師は有用性と危険性をきちんと知っておかないといけない.

交見室

NOMIを考える

著者: 出口浩之

ページ範囲:P.970 - P.970

 腸間膜血管に塞栓や血栓などの器質的病変,物理的閉塞が存在しないにもかかわらず腸管が乏血,虚血状態に陥り,壊死に至る重篤な疾患は非閉塞性腸管虚血症(non-occlusive mesenteric ischemia:NOMI)と呼称されている.NOMIの疾患概念自体はかなり以前から報告されていた(Ende, 1958)のでご存知の方は多いと思われるが,動脈や静脈の血栓症など急性閉塞性疾患に比べてその認知度は低い時代が長かったように思われる.しかし,近年の高齢化社会によって本疾患の発生頻度も多くなり,注目される疾患となりつつあるので,本稿ではこのNOMIについて述べてみたい.

 NOMIの病態の本質は腸間膜・腸管壁動脈を灌流する血液量の減少に起因するものである.つまり,心不全などの心拍出量低下による低灌流状態・脱水・出血性ショック・敗血症性ショック・腸閉塞による腸管内圧の上昇とそれによる粘膜下血流に対する血管抵抗の上昇・昇圧剤投与による血管収縮,それによる粘膜下微小循環不全などが挙げられる.多くの場合,ひとたび血管痙縮・虚血に陥ると容易に回復せず,よって腸管は急速に壊死の状態に陥り,ほどなく腹膜炎・敗血症となる場合も多い.しかし,必ずしも穿孔に至るわけではなく,したがってfree air signは認められず,このことが診断に躊躇する一因になるのであろう.しかし,何より本疾患に対する知識というか,疾患概念の周知が十分でない場合,あるいは理解・経験のない場合,往々にして診断が遅れることが多いのも事実であろう.その結果,緊急手術を行っても死亡率は70~100%(John 2000, Bassiouny 1997)と極めて高い.いうまでもなく診断に至らない場合や保存的療法では救命はおぼつかないということになる.

臨床報告

膵頭十二指腸切除後に肝転移をきたした膵神経内分泌腫瘍に対して肝右葉切除術を施行した1例

著者: 大森一郎 ,   大石幸一 ,   小橋俊彦 ,   真次康弘 ,   中原英樹 ,   板本敏行

ページ範囲:P.971 - P.974

要旨

症例は64歳,女性.膵神経内分泌腫瘍(pNET)に対する膵頭十二指腸切除術(PD)術後4年5か月目のCT,MRI検査にて肝右葉に多発する肝腫瘍を認め,肝右葉切除を施行した.術後に潰瘍出血を認めたが,保存的加療にて軽快し,術後第36病日に退院となった.術後5か月目に施行したMRI検査にて尾状葉に3 mm大の再発病変を認めたため,オクトレオチドの投与を開始した.その後も病変の増大や新病変の出現を認めず,術後3年1か月現在,外来にて経過観察中である.PD術後の症例に対する肝葉切除の安全性や予後に関しては不明な点もあるが,神経内分泌腫瘍(NET)の肝転移に対する肝切除の有用性は複数報告されており,PD術後のpNET肝転移に対する肝葉切除は有用と考える.

小腸間膜原発paragangliomaの1例

著者: 小倉由起子 ,   山崎一馬 ,   児玉多曜 ,   近藤悟 ,   赤池康

ページ範囲:P.975 - P.979

要旨

 患者は70歳,男性.黒色便と貧血があり,CT検査で小腸腫瘍が疑われ,精査目的にて当科を紹介された.画像検査にて左腹腔内に不均一に造影される約10 cm径の腫瘤あり,小腸造影で空腸上部に不正狭窄像を認め,内視鏡で同部に易出血性3型腫瘍を認めた.小腸間膜原発の非上皮性悪性腫瘍の診断で,上部空腸切除術と結腸部分切除術により一塊に切除した.八つ頭状の腫瘍は13×11 cmで,空腸内腔に浸潤・露出していた.病理組織検査では極めて稀な小腸間膜原発paragangliomaと診断された.本症の20~30%が悪性と考えられているが,有効な化学療法の報告はなく,外科治療では原発巣や転移巣の完全切除が重要であり,再発巣についても積極的に切除すべきであろう.

胃gastrointestinal stromal tumor(GIST)の経過観察中に発生した多発性胃GISTの1切除例

著者: 古橋隆 ,   安部利彦 ,   平野文明 ,   荒木昌典 ,   梁井俊一 ,   石川伸久 ,   藤東寛行

ページ範囲:P.981 - P.986

要旨

 症例は69歳,男性.2006年より胃体上部小彎側後壁寄りに1 cm大の粘膜下腫瘍を指摘され,それ以降2011年を除き毎年,内視鏡検査で経過観察していた.2012年10月の検査で,胃体中部小彎側に新たに2.5 cm大の粘膜下腫瘍を認めた.その急速な発育速度から高悪性度病変を疑い,胃部分切除術を行った.病理結果では顕微鏡的に確認された3個目の腫瘍を含めてすべてgastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断された.胃GIST自体は稀な疾患ではないが,同時多発性の胃GISTの切除例の報告は稀であり,検索しえた限りでは4例目で,会議録を含めても14例目である.単発性が主である胃GISTも多発する可能性があることを念頭に,経過観察するべきであると考えられた.

多発肝転移を伴う膵グルカゴノーマの長期生存例

著者: 束田宏明 ,   塩見尚礼 ,   伊藤文 ,   仲成幸 ,   来見良誠 ,   谷徹

ページ範囲:P.987 - P.991

要旨

 症例は37歳の女性.32歳時,膵グルカゴノーマ,肝転移に対して膵体尾部切除,肝外側区域切除術を行った.術後3年8か月目に再発し,肝部分切除を施行した.4年10か月目,肝S4の腫瘍を認め,肝動脈化学塞栓療法(TAEC)を施行した.5年2か月目には,肝S4切除,総胆管切除,胆管空腸吻合,マイクロ波凝固療法(MCT)を行った.5年5か月目,再発のため,肝部分切除術を行った.その後,肝S1,S5に肝転移を認め,4回TAEC,11年目にも肝部分切除を行った.グルカゴノーマは悪性の症例が多く,肝転移も多い.本症例は初回手術時より約10年間,長期生存し得ている症例であり,文献的考察を加え報告する.

胃軸捻転症に対して腹腔鏡下胃固定術を行った1例

著者: 上村眞一郎 ,   阿部道雄 ,   蓮尾友伸 ,   土井口幸 ,   谷川富夫 ,   坂本不出夫

ページ範囲:P.992 - P.996

要旨

 患者は88歳,女性.腹痛,嘔気を主訴に受診した.腹部CTで腸間膜軸性(短軸性)の胃軸捻転症と診断した.経鼻胃管挿入で症状は改善した.上部消化管内視鏡で捻転の解除を試みたが成功しなかったため,腹腔鏡下胃固定術を行った.腹腔鏡で観察すると軸捻転は自然解除されていたため,胃を自然な位置まで牽引後,胃体中部から前庭部にかけての大彎前壁を腹壁に固定した.固定はあらかじめ胃の漿膜筋層にかけた糸の両端をEndoClose®(Covidien)で体外に誘導して筋膜上で糸を結紮して行った.このような体外結紮で行う腹腔鏡下胃固定術は簡便であり,かけた糸を最後にまとめて結紮できるため,胃と腹壁の関係がわかりやすく推奨される.

CT colonographyおよびvolumetryで経過観察した腸管囊胞性気腫症の1例

著者: 新津宏明 ,   艮雄一郎 ,   沖山二郎 ,   林亮平 ,   高橋信 ,   井野口千秋

ページ範囲:P.997 - P.1002

要旨

 症例は41歳,男性.便潜血精査の大腸内視鏡検査で右側結腸壁内に囊胞性病変を多数認めた.CTでは同部位腸管壁内に大小不同な囊胞状ガス像を多数認め,腸管囊胞性気腫症と診断した.緊急性を要する状態が背景に存在せず,経鼻酸素吸入での保存的加療を行った.経時的にCT colonographyおよびvolumetryによる定量的評価を行ったところ,囊胞の縮小を確認でき,本法は有用と考えられた.

ひとやすみ・101

夫の付き合う人は

著者: 中川国利

ページ範囲:P.914 - P.914

 永らく学会活動を行っていると,出身大学や医局の垣根を越えて知人や友人ができる.特に卒業年度が同じ同期生とは世代や職場環境を同一にするだけに親近感が涌いて懇意となる.そして,情熱をもって仕事に邁進している同期生と語らうことにより,大いなる刺激を受けるとともに安らぎを覚える.

 いまだに学会活動を行っている私達の年代は,しかるべき社会的地位にあり,有能な人材が多い.そして早朝から深夜まで,また休日にも仕事に邁進している.学会では特別講演や座長を務め,各種の委員会や学会を取り仕切るなど,超多忙な活躍をしている.彼ら同期生とは学会会場で語らうとともに,会長招宴では同じテーブルを囲み,さらには同期生だけの懇親会も開いている.そして,お酒が入ると互いの肩書きを忘れ,それぞれの家族や病気についてまで忌憚なく語り合っている.

1200字通信・55

火事―神田「やぶそば」

著者: 板野聡

ページ範囲:P.947 - P.947

 今年2月19日の夜,そろそろ寝ようかと思いながらテレビのニュースを観ていたところ,馴染みのお店の火災が報じられ,テレビに釘付けになりました.見知った場所の火事だけにあれこれと気になり,その夜はなかなか寝付けなかったことでした.その後,いくつかのテレビ番組にも取り上げられたのでご存じかと思いますが,東京は神田の老舗蕎麦屋「やぶそば」さんの火事でした.

 このお店は創業130年とのことで,第二次大戦の戦火のなかでも焼け残った建物だそうですが,昔の東京の風情をそのままに残した造りで大変気に入っていました.実は,今年の6月号の本欄で書いた大変お世話になった先生に連れられ,1981年にお邪魔したのが最初ですからもう随分時間が経ちました.以来,東京に出かけた折に時間を作っては,季節の旬の味わいとお蕎麦を楽しんでいました.

学会告知板

真菌症フォーラム第15回学術集会 演題募集

ページ範囲:P.951 - P.951

テーマ:「世界の中における日本版ガイドライン」

日 時:2014年2月8日(土)12:00~17:45(予定)

会 場:第一ホテル東京

    〒105-8621東京都港区新橋1-2-6 TEL 03-3501-4411(代表)

昨日の患者

無念な想い

著者: 中川国利

ページ範囲:P.958 - P.958

 生きとし生ける者,必ず死を迎え,そして死に際には様々な想いが去来するものである.無念の思いの丈を語って亡くなった患者さんを紹介する.

 30歳代後半のTさんは小学校教師で,二人の娘さんの父親でもあった.彼は小学生時代に父親を胃癌で失うという家族歴を有していた.生来健康で,排便時に出血を認めたものの,痔だと思って放置していた.しかし,便秘も生じたため近医を受診し,直腸癌を疑われて来院した.精査の結果,多発性肝転移を伴う直腸癌であった.そこで,直腸前方切除を行うとともに癌化学療法を施行したが,肝転移巣増大や局所再発をきたした.

書評

森 正樹,土岐祐一郎(編)―レジデントのための―消化器外科診療マニュアル

著者: 國土典宏

ページ範囲:P.959 - P.959

 手に取ってみて,まず持ちやすくて開きやすい診療マニュアルだと感じた.白衣のポケットに入れるには少し大きいかもしれないけれど,病棟や外来,医局の机の上にこんな本が一冊あっても良い.若い世代はスマートフォンやタブレット端末を好むかもしれないが冊子体も良いと思う.

 帯に「外科医に必要な知識とデータを凝縮,頼りになるコンパクトガイド」とあるように,消化器外科で遭遇する全領域の疾患をカバーして最新の情報が詰め込まれている.各疾患の診断基準,ステージングやガイドラインなどが要領よくまとめられている.最後に外科的事項という比較的長い項目があり,手術方法などを豊富な図や写真を使い詳細に解説してある.マニュアルだから多くの図は入れにくいだろうというのが常識だが,上手に図をふんだんに入れているところが素晴らしい.膵頭十二指腸切除などの記述は本格的な手術書並である.本書は一部を除き二色刷りだが,他の類書に比べて全体にカラフルな感じを受ける.また,サイドメモが所々にあり,手術のコツや用語の解説が簡潔になされているのも特徴であろう.

Robert M. Zollinger, Jr./E. Christopher Ellison(著) 安達洋祐(訳)―ゾリンジャー外科手術アトラス

著者: 中川国利

ページ範囲:P.980 - P.980

 私の本棚に古ぼけた“Zollinger's Atlas of Surgical Operations”がある.最後のページには1976年10月5日購入と記載されている.私が研修医時代に,薄給にもかかわらず大枚をはたいて買い求めた最初の本にして現在も愛読している本である.そして当時の指導医から強く薦められ,先輩研修医も持っていた憧れの本でもあった.

 外科医は主に消化器疾患を対象とし,専門分野は消化管と肝胆膵に大きく分かれ,さらに消化管は上部消化管と下部消化管に,肝胆膵は肝臓,胆囊,膵臓に細分化されている.しかし,研修医は基本的には人間全てを対象として臨床を学ぶ必要がある.また私の専門は消化器外科であるが,研修医時代に「頭からつま先まで」全ての外科的疾患を経験したことが日常臨床では大いに役に立っている.“Zollinger's Atlas of Surgical Operations”は消化管や肝胆膵ばかりではなく,血管外科,婦人科,甲状腺,乳腺,ヘルニア,さらには腱縫合や皮膚移植まで記載されており,外科全体を網羅する手術書である.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.893 - P.893

投稿規定

ページ範囲:P.1003 - P.1004

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.1005 - P.1005

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1006 - P.1006

あとがき

著者: 島津元秀

ページ範囲:P.1008 - P.1008

 本号の特集は「外科医のための癌免疫療法―基礎と臨床」である.知る限りでは,外科系雑誌で癌免疫療法単独の特集が組まれるのは初めてであろう.1970年代に癌に対する免疫療法が手術,化学療法,放射線治療に次ぐ第4の治療法として注目され始めてから久しいが,他の治療法に匹敵するようなエビデンスのある有効性はいまだに示されていない.われわれ外科医は手術が最も信頼できる癌治療であると思っているが,逆にメスの限界も痛感しており,補完的あるいは代替的な治療法の登場を期待している.免疫は非自己と認識した異物を排除するという生体防御機構であり,このメカニズムを利用して癌治療を行うという発想は極めて合理的に思えるが,癌の発生そのものがこの防御機構をかいくぐっているわけで,話はそう簡単ではない.「『非自己』を『自己』から厳密に識別し,『非自己』の侵入から『自己』を守るべき免疫.……,実は曖昧さと冗長さに特徴づけられる分子群によって運営される,混沌の王国であったとは」と多田富雄氏は述べている(『免疫の意味論』より).また,癌細胞から放出される免疫抑制性サイトカインによって樹状細胞は未成熟のままで抗原提示ができず,癌細胞を攻撃する細胞障害性T細胞は活性化されない.これらを打破するために,腫瘍抗原ペプチドを用いたワクチン療法,樹状細胞ワクチン療法,NKT細胞標的治療,などが試みられており,一部では臨床試験も始まっている.本特集では,これら最新の癌免疫療法の現状と展望が外科医にもわかりやすく解説されているので,これらの治療法のステータスを理解するうえで大いに参考になる.また,治療を希望する患者への情報提供にも役立つであろう.

 最後に,「免疫」という共通のキーワードで移植医療と癌治療の未来について一言.移植における免疫抑制療法が最終的なゴールであるグラフト特異的な免疫寛容をめざして進歩するのと対称形に,癌治療における免疫療法のメカニズムがさらに解明され,テーラーメイド治療の一環として確立することを期待したい.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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