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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科68巻9号

2013年09月発行

雑誌目次

特集 大腸癌腹膜播種を極める―最近の進歩と今後の展望

ページ範囲:P.1013 - P.1013

 近年の大腸癌に対する化学療法の目覚ましい進歩は,外科治療にも影響を与えている.肝転移,肺転移などの切除不能転移性大腸癌に対して化学療法を施行し,腫瘍縮小後に切除を行う,いわゆるconversion therapyはその典型的な例であろう.

 このようにStage Ⅳ大腸癌の予後改善が期待されているが,Stage Ⅳ大腸癌の腹膜播種をどう扱うかが大きな課題として残されている.大腸癌の腹膜播種症例のなかには長期生存が得られる症例もあることが知られており,この点が胃癌などの他臓器の腹膜播種とは若干異なる点だと思われる.Stage Ⅳ大腸癌全体の予後改善のためには,腹膜播種に対していかに治療するかが非常に重要となってくるのである.

腹膜播種を考える―大腸癌と胃癌の違い

著者: 山口博紀 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1014 - P.1018

【ポイント】

◆癌取扱い規約,治療ガイドラインにおいて,大腸癌と胃癌の腹膜播種の分類と治療方針には大きな違いがある.

◆大腸癌根治術後の腹膜播種再発の頻度は胃癌に比べて圧倒的に少ない.

◆その理由として,大腸癌は未分化型の頻度が少なく,また,腹腔内に癌細胞が遊離しても腹膜転移形成能が低いことが考えられる.

大腸癌腹膜播種の分類と頻度

著者: 小澤平太 ,   森谷弘乃介 ,   和田治 ,   藤田伸 ,   固武健二郎

ページ範囲:P.1020 - P.1025

【ポイント】

◆大腸癌取扱い規約では,腹膜播種は播種巣の部位と多寡によってP1~P3の3段階に分類され,腹膜播種があればStage Ⅳである.腹腔洗浄細胞診の臨床的意義は不明であるとされている.

◆TNM分類では,腹膜播種の程度にかかわらず複数臓器転移と同等のM1bに分類され,腹膜転移があればStage ⅣBである.腹腔洗浄細胞診の取扱いは規定されていない.

◆海外において腹膜播種の切除を積極的に行っているグループからは播種巣の分布に大きさを加味した分類が提案されている.

◆国内外から報告されている同時性腹膜播種の頻度は3.5~7.1%であり,大腸全国癌登録データ(1985~2004年)における頻度は6.4%であった.

大腸癌における卵巣転移―Krukenbergの病態・診断・治療

著者: 能浦真吾 ,   大植雅之 ,   三吉範克 ,   藤原綾子 ,   真貝竜史 ,   藤野志季 ,   本告正明 ,   岸健太郎 ,   藤原義之 ,   矢野雅彦 ,   左近賢人

ページ範囲:P.1026 - P.1031

【ポイント】

◆従来,転移性卵巣腫瘍は胃原発の症例が最も多かったが,近年,大腸原発の症例が増えている.

◆両側卵巣転移の頻度は40~70%であり,両側付属器摘出術を施行すべきである.

◆一般に大腸癌卵巣転移症例は予後不良であるが,卵巣単独転移症例は予後良好なため積極的に切除をすべきである.

大腸癌における腹腔洗浄細胞診の意義

著者: 室野浩司 ,   須並英二 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1032 - P.1035

【ポイント】

◆大腸癌においては腹腔洗浄細胞診が予後と相関するかどうかについては一致した見解がない.

◆原因として腹腔洗浄細胞診陽性となる症例数が少ないことが挙げられる.

◆さらに感度の高い検査として免疫染色やPCR法を用いることで癌細胞を検出する試みも行われており,今後の治療への応用が期待される.

大腸癌腹膜播種の画像診断

著者: 森田廣樹 ,   堤荘一 ,   高田考大 ,   須藤利永 ,   矢島玲奈 ,   藤井孝明 ,   浅尾高行 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1036 - P.1039

【ポイント】

◆腹膜播種は,CTやMRIなどによる形態画像よりも,PETのほうが診断能力が高いとの報告が多い.

◆近年,MRI拡散強調画像が腹膜播種診断に有用であるとの報告があり,今後に期待される.

◆腸閉塞を伴う腹膜播種では,modalityの利点を理解し,手術適応を判断する必要がある.

大腸癌腹膜播種に対する手術療法―治療の現況と手術の適応

著者: 矢野秀朗

ページ範囲:P.1040 - P.1045

【ポイント】

◆腹膜偽粘液腫に対しては,完全減量切除と術中腹腔内温熱化学療法の有効性がほぼ確立している.

◆完全減量切除と腹腔内温熱化学療法は,症例を選択すれば通常の大腸癌腹膜播種に対しても有効である可能性がある.

◆新規の抗癌剤や分子標的薬を用いた全身化学療法とどのように使い分けるか,もしくは組み合わせて使うかが今後の課題である.

大腸癌腹膜播種に対する化学療法

著者: 大瀬良省三 ,   吉野孝之 ,   大津敦

ページ範囲:P.1046 - P.1051

【ポイント】

◆腹膜播種を有する大腸癌においても,殺細胞性抗悪性腫瘍薬と分子標的薬の使用によりある程度の治療効果が期待できる.

◆イリノテカンは代謝物が腸管より排泄されるため,消化管の通過障害がある腹膜播種症例には注意が必要である.

◆ベバシズマブは腸管閉塞が消化管穿孔の危険因子の1つとして挙げられており,使用する際には注意が必要である.

◆5-FUやオキサリプラチン,抗EGFR抗体薬は毒性が強く出るという明らかなデータは存在せず,イリノテカン,ベバシズマブに比較すれば投与しやすい薬剤である.

大腸癌腹膜播種に対する免疫療法―癌ペプチドワクチン療法

著者: 松田健司 ,   山上裕機

ページ範囲:P.1052 - P.1055

【ポイント】

◆大腸癌腹膜播種は他の転移部位と比較して予後は不良であるが,肉眼的根治切除により長期生存が期待できる.

◆進行再発大腸癌に対するペプチドワクチン療法の臨床試験が施行され,免疫応答を認める症例は生存期間を延長できる可能性が示されてきている.

大腸癌腹膜播種に対する腹腔内温熱化学療法

著者: 田中宏典 ,   岡正朗

ページ範囲:P.1056 - P.1059

【ポイント】

◆大腸癌腹膜播種に対する腹腔内温熱化学療法(HIPEC)は減量手術との併用で,その予後を改善させる.

◆海外では標準的治療となっており,減量手術で完全切除が行われた例の5年生存率は22~51%と報告されている.

◆わが国でもいくつかの施設で行われており,腹膜播種限局例が適応となり得ることを念頭に置いておきたい.

私の工夫-手術・処置・手順

癒着防止吸収性バリア(セプラフィルム®)を簡便かつ正確に開腹創に挿入する工夫

著者: 萩原信敏 ,   松谷毅 ,   野村務 ,   藤田逸郎 ,   金沢義一 ,   内田英二

ページ範囲:P.1060 - P.1061

【はじめに】

 開腹術後の腸管癒着を防止する目的で癒着防止吸収性バリア(セプラフィルム®)が広く使用されている.セプラフィルムの挿入法は,いくつか考案されている1,2).しかしこれらの方法では,直視下で見えない範囲まで確実に創部下面を広く覆うことは容易ではない.今回われわれは,セプラフィルムを開腹創から創直下に簡便かつ正確に挿入する方法を工夫したので紹介する.

必見! 完全体腔内再建の極意・6

―胃全摘術後再建―Functional法―通常の胃全摘の場合の食道空腸吻合

著者: 山浦忠能 ,   金谷誠一郎

ページ範囲:P.1062 - P.1067

■■はじめに

 当科では,腹腔鏡下胃全摘術後の再建はRoux-en-Y法・結腸前経路を標準とし,食道空腸吻合はリニア・ステイプラーを使用したfunctional end-to-end anastomosis法1)(以下,functional法)とoverlap法2)を採用している.通常は手技が簡易で短時間に施行可能なfunctional法を行い,食道浸潤により腹部食道を切除した症例にはoverlap法を採用している.Functional法は手技が簡便である半面,腸管3本分のスペースが必要であり,縦隔内の狭く深いスペースでの操作が必要となる食道浸潤例では,腸管2本分のスペースで施行可能なoverlap法が適している(図1).本稿では,当科で施行しているfunctional法の手技を紹介する.

胃癌手術のロジック―発生・解剖・そして郭清≪番外編≫

Letter to Authors―「背側膵と腹側膵の膵頭部における占拠部位について」

著者: 阪本良弘 ,   大山繁和 ,   篠原尚

ページ範囲:P.1068 - P.1070

 「胃癌手術のロジック」第5回(68巻3号,314~323頁)“膵の形成と固定”について,膵頭部の発生学的な構造を含めた解剖の図解を興味深く拝読しました.本稿は膵頭部内の解剖や胃癌手術の理解に非常に助けになると思います.さて,本稿では一貫して膵頭下部や膵鉤部が腹側膵原基由来として描かれていますが,実際は背側膵原基由来の場合が多いと考えられます.

 膵頭部の前面や膵鉤部にはSantorini管の枝が多く分布し,背側膵原基由来であることがTakahashiら1)の剖検例15例を用いた研究で示されています.Santorini管とWirsung管の癒合点はTakahashiらが2つに分類していますが,どちらの場合でも膵頭下部や膵鉤部にはSantorini管の下行枝が分布しています.

病院めぐり

ベルーガクリニック

著者: 富永祐司

ページ範囲:P.1071 - P.1071

 当院は検診・診断を主とする乳腺専門クリニックとして2006年5月に開業し,今年で7年が経ち,受診者が3万人を超えました.都心部より少し離れた東京都板橋区にありますが,区外から約75%,東京都外から約32%と,遠方からの来院が多い特徴があります.

 開業当初から精度の高い診断を目指し,医療機器も拠点病院と遜色ない設備を整えております.年間約200名弱の原発乳癌を診断し,現在までに約1,100名の診断をいたしました.また,32%以上は非浸潤癌で診断しています.この割合は全国でもトップクラスの成績です.特に,若年者の乳癌が多く,40歳未満が約22%を占めています.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・16

腹膜炎の腹腔洗浄―よく洗ったほうがよいか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.1072 - P.1075

素朴な疑問

 開腹手術や開胸手術では,閉腹や閉胸の前に腹腔や胸腔を適量の生理食塩水で洗浄する.消化管穿孔や汎発性腹膜炎のときは大量の生理食塩水で洗浄する.洗浄すると細菌や異物が減少するが,創傷治癒に必要な炎症細胞やサイトカインも減少してしまう(図1).腹腔洗浄を十分に行ったほうが創感染や腹腔内膿瘍などの手術部位感染(SSI)が少ないのだろうか.

臨床報告

前仙骨部epidermoid cystに発生した扁平上皮癌の1例

著者: 経田淳 ,   萩野茂太 ,   芳炭哲也 ,   岩田啓子 ,   桐山正人 ,   高川清

ページ範囲:P.1078 - P.1081

要旨

症例は64歳,男性.近医にて肛門周囲膿瘍の診断で加療を受けたが改善せず,当科を紹介された.骨盤部MRI検査で9×7cm大の壁不整な囊胞性腫瘤を認めたため,ドレナージを施行した.その後,腫瘤は6×3cm大にまで縮小したが,感染性epidermoid cystを疑い腫瘤摘出術を施行した.病理組織学的所見では,囊胞壁は重層扁平上皮からなり皮膚付属器は認めず,epidermoid cystと診断した.しかし,その一部に浸潤像を伴う扁平上皮癌を認めた.剝離断端は陰性であったが播種の可能性も否定できなかったため,63Gyの放射線治療を行った.術後1年経過した現在,再発徴候は認めていない.前仙骨部epidermoid cystの悪性化は非常に稀ではあるが,その可能性も念頭に置き,速やかな切除と完全切除を行うべきであると考えられた.

神経線維腫症Ⅰ型に発生した無症候性褐色細胞腫の1例

著者: 亀谷直樹 ,   柏木伸一郎 ,   石川哲郎 ,   小野田尚佳 ,   若狭研一 ,   平川弘聖

ページ範囲:P.1082 - P.1086

要旨

43歳,女性.生来より神経線維腫症Ⅰ型(NFⅠ)と診断されていた.近医でのふらつき精査におけるCTにて左副腎腫瘍および上縦隔腫瘤が偶発的に認められ,当院へ紹介された.内分泌検査や 131I-MIBGシンチグラフィにより左副腎腫瘍は褐色細胞腫,上縦隔腫瘍は神経線維腫が疑われた.縦隔腫瘍は二期的な切除とし,左副腎腫瘍を腹腔鏡下に摘出し,褐色細胞腫との病理診断を得た.NFⅠは,症候性褐色細胞腫との合併の報告は散見されるものの,無症候性での報告は少ない.画像診断の進歩に伴い,今後このような報告例は増加するものと思われる.NFⅠの症例では,臨床症状に乏しい症例においても褐色細胞腫を念頭に置いて診察をすすめるべきと考えられた.

胃原発T細胞悪性リンパ腫の1例

著者: 小南裕明 ,   川崎健太郎 ,   金治新悟 ,   田中賢一 ,   藤野泰宏 ,   水野石一 ,   梶本和義 ,   富永正寛

ページ範囲:P.1087 - P.1092

要旨

症例は80歳,男性.不明熱を主訴に受診し,胃透視で異常を指摘された.悪性リンパ腫が疑われ,全身化学療法を予定していたが,出血性貧血のほかに低蛋白血症の出現や発熱の持続,炎症反応の遷延などから病変部の切除が優先されると判断された.術中所見で胃体上部への明らかな腫瘍の進展がみられず,横行結腸,小腸への直接浸潤が示唆されたために幽門側胃切除に加えて横行結腸および小腸の合併切除を行った.病理学的検索でmalignant lymphoma, peripheral T-cell typeと診断された.胃原発悪性リンパ腫のなかでもT細胞性は悪性度が高いとされていることから,手術的治療の適応基準や切除範囲などを含めた集学的な治療方針を早急に確立することが必要と考えられた.

単孔式手術用器具を使用し胃内手術を施行した食道胃接合部近傍発生GISTの1例

著者: 田中聡也 ,   古賀浩木 ,   伊藤孝太朗 ,   山地康大郎 ,   篠崎由賀里 ,   佐藤清治

ページ範囲:P.1093 - P.1097

要旨

症例は69歳,女性.検診で胃の食道胃接合部近傍に径5cm大の粘膜下腫瘍を指摘された.管内発育型のGISTと診断した.胃GISTは胃上部が好発部位であり,食道胃接合部近傍に発生する症例も少なくない.接合部近傍に存在する管内発育型症例では,胃壁外からのアプローチのみでは術後狭窄による通過障害をきたす可能性がある.また,胃壁の切開を伴う術式では,腫瘍が腹腔内に散布される可能性などの問題がある.これらの問題を克服するために単孔式手術用の器具を用いた胃内手術を施行し,良好な結果を得た.

乳癌と間違われやすい画像所見を呈した乳腺腺筋上皮腫の1例

著者: 吉村紀子 ,   春田るみ ,   河島茉澄 ,   山口恵美 ,   高橋元 ,   米原修治

ページ範囲:P.1099 - P.1102

要旨

症例は右乳房腫瘤が主訴の70歳,女性.マンモグラフィで右乳房CD領域に3.0×3.2cmの辺縁,境界ともに一部不明瞭な高濃度腫瘤を認め,超音波検査で多房性の囊胞形成を伴う充実性腫瘤があり,前方境界線が断裂し,後方エコーはやや減弱していた.造影MRIでの腫瘤の造影パターンは早期濃染~wash outであったため悪性が示唆され,PET-CTで腫瘤のSUVmaxは高値を示した.針生検において乳腺腺筋上皮腫(AME)と診断され,悪性を示唆する所見を認めなかった.AMEは,筋上皮細胞と腺上皮細胞がともに増殖を示す稀な乳腺腫瘍である.その画像所見は悪性を示唆されやすく,術前に乳癌を疑われやすい.AMEは一般的に良性腫瘍であるが,きわめて稀に悪性の症例も知られており,過剰あるいは過少診断しないよう注意が必要である.

転移性心臓腫瘍の1例

著者: 久貝忠男 ,   摩文仁克人 ,   阿部陛之 ,   山里隆浩 ,   仲里巌

ページ範囲:P.1103 - P.1106

要旨

症例は69歳,男性.11年前に早期腎癌で左腎摘出術を受け,術後の補助療法は行わなかった.今回,胸部圧迫感で冠動脈造影を施行したところ,右冠動脈を栄養血管とする腫瘍濃染を認めた.胸部CT検査では,右房・右室の房室間溝から右室を圧迫する充実性の腫瘤が心外膜下に認められた.体外循環下に腫瘍を完全に切除した.病理で腎癌の心臓転移と診断し,分子標的治療を行ったが,術後1年10か月目に腫瘍関連にて死亡した.腎癌の転移様式は下大静脈から連続性に血管内進展することが多く,自験例のようなリンパ行性と思われる心外膜への遠隔転移は稀である.また,早期腎癌が11年目に心臓転移したこともきわめて興味深いため報告する.

腹部刺傷後腰動脈に発生した仮性動脈瘤の1例

著者: 二宮卓之 ,   青木秀樹 ,   清田正之 ,   金谷信彦 ,   武田正 ,   竹内仁司

ページ範囲:P.1107 - P.1112

要旨

症例は63歳,女性.自殺企図で腹部に刺傷を負い,当院へ搬送された.出血性ショックのため十分な画像検索を行うことができず,緊急手術を施行した.小腸損傷とTreitz靱帯の尾側,腰椎の左側に後腹膜損傷を認め,周囲に広範な後腹膜血腫を伴っていた.小腸部分切除と止血術を行った.術後4日目の腹部造影CTで,左第4腰動脈に仮性動脈瘤を認めた.血管造影検査を行い,仮性腰動脈瘤に対しコイル塞栓術を施行した.仮性腰動脈瘤は腹部外傷後や医原性にごく稀に発生することが知られているが,腹部刺傷後に発生した例はわが国では報告がない.鋭的腹部外傷後に本疾患が発生する可能性を考慮する必要があると考えられた.

腹部内臓血管3枝に閉塞性病変を有する腹部アンギーナに対して大動脈-上腸間膜動脈バイパス術を施行した1手術例

著者: 原田憲一 ,   白方秀二 ,   岡山徳成 ,   小出一真 ,   濱頭憲一郎 ,   能見伸八郎

ページ範囲:P.1113 - P.1117

要旨

腹部アンギーナは,腹腔動脈(CA),上腸間膜動脈(SMA),下腸間膜動脈(IMA)の閉塞あるいは高度狭窄により腸管虚血を呈する疾患である.症例は73歳の男性で,食後の腹痛を主訴とし,腹部CTでCAの75%狭窄とSMA,IMAの閉塞を認め,3枝病変の腹部アンギーナと診断された.人工血管を用いて大動脈-SMAバイパス術を行った結果,腹痛は消失した.腹部アンギーナは,予後不良な急性腸間膜動脈血栓症に移行する可能性が高く,可及的な治療を要する.今回,3枝病変の腹部アンギーナに対してでも1枝の血行再建のみで十分な症状改善を得られる可能性が示唆された.

術後早期に再発した肝外胆管原発腺扁平上皮癌の1例

著者: 今井浩二 ,   唐崎秀則 ,   石崎彰 ,   谷口雅彦 ,   古川博之

ページ範囲:P.1119 - P.1126

要旨

症例は62歳,男性.黄疸を主訴に前医を受診し,CTで肝門部に造影効果を伴う2cm大の腫瘍を認めた.生検で腺癌と診断され,乳頭膨張型肝門部胆管癌の診断で肝右葉,尾状葉,肝外胆管切除を施行した.病理検査では胆管腔内の腫瘍は乳頭腺癌であったが,これと連続して肝実質に浸潤する扁平上皮癌を認めた.腺癌と扁平上皮癌には組織的な移行部分を認め,腺扁平上皮癌と診断した.術後3か月で局所再発を認め,8か月で原病死した.肝外胆管原発の腺扁平上皮癌は稀で,わが国では39例が報告されている.臨床的に腺癌と異なる特徴的な所見はなく,生検による正診率も低いが,CTで早期から造影効果を認める場合には本疾患を疑う必要がある.

腹腔動脈起始部狭窄を伴う解離性腹腔動脈瘤の1手術例

著者: 諸久永 ,   福田卓也 ,   田山雅雄 ,   上原彰史 ,   大久保由華 ,   曽川正和

ページ範囲:P.1127 - P.1131

要旨

患者は62歳,男性.58歳時に直腸癌にて腹腔鏡補助下高位前方切除を施行され,60歳時のCT検査で腹腔動脈起始部の狭窄と内膜亀裂を指摘された.その後の経過CTで,狭窄部末梢から総肝動脈と脾動脈分岐部に及ぶ解離性動脈瘤径が急速に拡大したため,瘤切除と10mm人工血管を用いた腹腔動脈置換および左胃動脈再建を施行した.術後CTでは腹部臓器虚血や新たな瘤を認めず,再建グラフトは良好に開存していた.今後,画像診断の進歩から,無症候性腹部内臓動脈瘤の症例増加が見込まれるが,動脈瘤の形態,分枝血流状況,多発性の有無などを十分に精査して治療方針を決定すべきである.

手術手技

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術での視野展開の工夫―内側臍靱帯体外牽引法

著者: 東海林裕 ,   中嶋昭 ,   川村徹 ,   佐藤康 ,   星野明弘 ,   河野辰幸

ページ範囲:P.1133 - P.1137

要旨

2010年4月より鼠径ヘルニアの治療に腹腔鏡下ヘルニア修復術(TAPP法)を導入した.当科におけるTAPP法の手技の工夫を報告する.手術は3ポートで行う.内側臍靱帯を腹膜切離縁とともに針糸で結紮後,体外よりエンドクローズで引き上げ,内側の視野展開を図る.また前壁側では腹膜と腹膜前筋膜深葉および浅葉とが癒合筋膜を形成しており,メッシュ展開を阻害するために切離が必要である.接線方向での切離となるため超音波凝固切開装置(LCS)よりもフック型電気メスが有用である.このような手技の工夫による簡素化を図ることにより,TAPP法のさらなる普及が期待できると考える.

1200字通信・56

ケモと緩和ケアの功罪

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1019 - P.1019

 平成18年6月のがん対策基本法制定以来,各地のがん診療連携拠点病院を中心に緩和ケア研修会が行われています.こうした研修会では,緩和ケアは化学療法などの開始当初から併行して行われるべきであることが強調されていますし,患者さんに対してだけではなく,ご家族のグリーフケアも含めたメンタルケアについての項目も盛り込まれています.しかし,その実践はなかなか難しいようで,研修会を行う側のがん診療連携拠点病院の先生や,熱心に緩和ケアを行っておられる先生に,驚かされることや困惑させられることも増えてきています.

 ある地域で有名ながん診療連携拠点病院の先生ですが,癌の術後化学療法を熱心に行っていたものの,治療効果がなくなった途端,「もう来なくていいから」の一言.質問しようとする家族に,「二度言わせないでください」と言い残して部屋を出て行かれたそうです.この患者さんは,化学療法をしている間,痛みに対しての処置は全く受けておられず,担当の先生はがん診療連携拠点病院の医師でありながら,緩和ケアの研修会を受講しておられなかったようです.結局,最期のお世話をすることになったのですが,このようなケースを何例も経験しており,単に担当した医師個人に問題があるだけではないのではないかと思い始めています.

学会告知板

第7回NOTES研究会

ページ範囲:P.1067 - P.1067

会 期:2013年11月27日(水)16:00~20:30

会 場:福岡サンパレスホテル&ホール2階 パレスルーム

    〒812-0021福岡市博多区築港本町2-1 TEL:092-272-1123(代表)

書評

―位藤俊一(編)―乳房画像診断最前線―超音波診断を中心に

著者: 光山昌珠

ページ範囲:P.1077 - P.1077

 超音波診断を中心に,現時点での乳房の画像診断における最新の情報を網羅した書籍『乳房画像診断最前線』が出版された.りんくう総合医療センター外科主任部長の位藤俊一氏が編集しているが,日本におけるそれぞれの分野の専門の医師・検査技師の第一人者が執筆担当しているのみならず,医療機器の開発に携わっている研究者も担当していることもユニークであり,最前線と名付けている所以と思われる.

 本書はⅠ~Ⅵ章で構成されており,第Ⅰ・Ⅱ章は総論で,乳房の画像診断の新しい流れと病理を解説しており,とくに病理では基礎的な知識と悪性例を中心とした代表的な乳腺腫瘍を解説している.超音波のみならず,画像診断に携わる医療従事者にとって,画像から組織型を推定しながら良・悪性診断に至るために,組織型をよく理解することが必修条件である.第Ⅲ章では超音波検査のBモード評価の基本的な事項,カラードプラ検査,エラストグラフィ,3D/4D超音波や保険収載となった造影超音波検査,リアルタイム超音波断層検査を分かりやすく解説している.また,現在乳がんの手術においてはセンチネルリンパ節生検が標準であり,転移陰性であれば腋窩リンパ節非郭清となり,患者のQOL向上に貢献している.その同定法や手技などについても述べており,画像診断者も理解しておく必要がある.第Ⅳ章では超音波以外の代表的なモダリティとして,マンモグラフィ,CT,PET/CT,MRIがそれぞれの画像を用いて,基本的な事項について触れている.

―V・スザンヌ・クリムバーグ(編) 野口昌邦(訳)―乳腺外科手術アトラス

著者: 丹黒章

ページ範囲:P.1132 - P.1132

 野口昌邦教授(金沢医科大学教授・乳腺内分泌外科)翻訳による『乳腺外科手術アトラス』が出版された.原書はProfessor V. Suzanne Klimberg編集の“Atlas of Breast Surgical Techniques”で,第Ⅰ部「摘出生検と乳房部分切除術」,第Ⅱ部「リンパ節生検」,第Ⅲ部「乳房切除術」,第Ⅳ部「乳房再建術」,第Ⅴ部「拡大切除」,第Ⅵ部「放射線照射のための外科手技」まで,全25章で構成されている.急速に進歩する乳腺外科領域において,世界の第一線で活躍する乳腺外科医が担当執筆し,各手技をビジュアルにわかりやすく解説している.それぞれの章は,ステップ1「外科的解剖」,ステップ2「術前に考慮すること」,ステップ3「手術手技」,ステップ4「術後の処置」,ステップ5「要点とピットフォール」および「参考文献」からなり,画像とイラスト,実写真と解説が添えられている.例えば,第9章の「凍結補助下の腫瘍摘出術」の項では,解剖をイラストで超音波横断画像とともに示し,エコーによる良悪性の鑑別所見も記載してある.注意すべき点として,凍結による変性の影響を考慮して術前組織生検が必要なことが述べられ,また手技では,凍結プローブの穿刺方法を写真とイラスト,超音波画像で示し,アイスボールの形成や生理食塩液の注入方法も解説している.「凍結プローブ針をテコとして用い,腫瘤をロリポップ(棒付きキャンデー)のように切除する」など実際の手技を見るがごとくイメージしやすい表現で学ぶことができ,ステップ5の「要点とピットフォール」も術前,術中,術後に分けて簡潔明瞭に記されている.

 編者のProfessor Klimbergも序文で述べられているように,手術はどこで学んだかよりも,誰から学んだかが重要である.外科手技はアートであり,外科医の知識,判断と技術が一体となり,各操作を正確に行うことによってはじめて患者の福音となる手術が完成する.それゆえ,初学者は時間をかけて正確な手技を学ばなければならない.浮腫を予防するaxillary reverse mappingのほか,乳房縮小術,乳房切除術などのoncoplastic surgeryなどは日本からも大きく影響を受けていると編者は述べているが,誠に残念なことに,各章で引用された論文に日本発のものは極めて少ない.世界に通用する普遍性が求められている手術手技においても,乳癌先進国である欧米をはるか後方から追随しているのが現状であるにもかかわらず,“オレ流”が日本の学会では声高に論じられている.野口教授の懸念される“ガラパゴス化”を避けるためにも,日本のレジデントは本書で普遍的かつスタンダードな手技を学ぶ必要がある.

ひとやすみ・102

イクメン親爺

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1098 - P.1098

 女性の社会進出が顕著な現代では,夫婦ともに働く家庭が多い.特に看護師は専門職として,結婚後も仕事に従事する人が多い.しかし,妊娠や育児となると女性の負担が増し,労働意欲があるにもかかわらず離職に追い込まれる.女性が生涯にわたり働き続けるためには,保育所などの整備もさることながら,夫の理解と協力が必要不可欠である.

 独身であった研修医時代,病棟の看護師長から映画に誘われた.日曜日で特に業務もなかったため,誘いに応じた.映画は日本看護協会推薦で,看護師の夫が仕事で忙しい妻を支え,子育てに奮戦する内容であった.映画が終了し周囲が明るくなると,私たちの周りは病院の看護師さんやその家族で満席で,強い連帯を感じあった.

お知らせ

平成25年度 NOTES研究会研究助成応募要項

ページ範囲:P.1118 - P.1118

 NOTES研究会では本邦のNOTES研究を促進するために,平成21年より研究助成を行っております.本年度も下記の要項により研究を募集することになりましたので,ご案内申し上げます.なお,この制度は賛助会員の皆様のご協力のもとに設立されています.

昨日の患者

患者さんの「その後」

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1126 - P.1126

 外科医は自分が手術した患者さんの「その後」が気になるものである.特に癌患者さんでは,術後何年経過しても関心がある.疎遠となっていた患者さんの「その後」を,兄思いの妹が手紙で伝えてきた.

 「先生がいまだ仙台赤十字病院で働いていると信じて書いています」から始まる,詳細に綴られた手紙をいただいた.「6年前,胆囊を摘出していただいたMの妹です.生来健康な兄が激痛に襲われ,緊急手術を受けることになり大変心配しました.しかも摘出した胆囊から術後に癌が見つかり,先生から連絡をいただいて兄と一緒に説明を受けました.兄は勧められた追加手術を頑として拒否し,単に抗癌剤を内服しました.術後経過が順調であったこともあり,内服を半年ほどで止め,定期検査も受けませんでした.しかし,手術から5年半後に黄疸が生じ,多発性肝転移を伴う閉塞性黄疸と診断されました.近くの病院でステントを入れ,一時的ながら症状が改善しました.しかし,黄疸が再び生じ,腹水も貯まり4か月後に死亡しました.」

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原稿募集 私の工夫-手術・処置・手順

ページ範囲:P.1018 - P.1018

投稿規定

ページ範囲:P.1139 - P.1140

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.1141 - P.1141

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1142 - P.1142

あとがき

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.1144 - P.1144

 2013年7月に『大腸癌取扱い規約 第8版』が発刊されました.今回の改訂では,様々な新しい事項が記載されました.内視鏡診断ではLSTの位置づけが記載され,病理学的には「リンパ節構造を伴わない壁外非連続性癌進展病巣(EX)」が定義され,脈管/神経侵襲の病巣以外のEXが転移リンパ節と扱われることになりました.また,SM浸潤度によってT1がT1aとT1bに亜分類されました.さらに,遠隔転移(M)の定義を領域リンパ節以外のすべての転移と改め,肝転移(H)と本特集で扱われている腹膜転移(P)が遠隔転移に含まれることになりました.その他,前取扱い規約では結腸と直腸とは別に記載されていた直腸S状部(RS)は直腸に含まれることが明記され,内視鏡治療の根治度に新たに根治度EB(CurEB)も追加されました.

 このように多くの新しい事項が追加されましたが,腹膜転移の分類は変更されていません.前回の取扱い規約の改訂時に洗浄細胞診を病期分類に反映させるか否かの議論がすでにありましたが,今回の改訂でも洗浄細胞診は病期分類に含まないことになっています.この点に関しては,現在多施設のプロジェクト研究が進んでおり,次回の改訂には反映される可能性も残っています.本特集の「腹膜幡種を考える―大腸癌と胃癌の違い」の項でも触れられているように,大腸癌と胃癌では腹膜転移,あるいは洗浄細胞診の扱いが異なっています.胃癌では洗浄細胞診陽性は遠隔転移と同等の位置づけとして扱われています.このような違いは,生物学的な悪性度の違いによるものと考えられ,大腸癌では大腸癌に特化した腹膜転移に対するアプローチの重要性を示しています.大腸癌に対する化学療法が進歩し,腹膜転移に対しても新たなアプローチを考えなくてはならない時期にきていると思われます.このような背景のなか,本特集では大腸癌の腹膜転移に対して様々な方向から解説をしていただきました.本特集が臨床現場でお役に立つことを期待しております.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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