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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科69巻1号

2014年01月発行

雑誌目次

特集 見直される膵癌診療の新展開

ページ範囲:P.5 - P.5

 膵癌の治療成績は長い間改善がみられなかったが,最近になり非切除例に対しての新規抗癌剤および分子標的薬の登場によるMSTの延長が多く報告されてきている.切除例でも,borderline resectable症例へのneoadjuvant therapyによる切除率および根治切除率の向上,また切除可能例への術後adjuvant therapyにより,予後の改善がみられるようになってきた.

 一方,診断面においては術前診断の精度の向上により早期膵癌の診断率が向上した.また鑑別診断における膵癌診断能の向上により,大きな手術侵襲を要する膵切除が「癌の疑い」によって適応となる症例が減少してきていると思われる.

診断における新展開

膵癌のEUS-FNA診断の意義と限界

著者: 山口武人

ページ範囲:P.6 - P.11

【ポイント】

◆EUS-FNAは病理学的な確定診断を得られるという点で,画像診断に対し絶対的な利点を有する.

◆CTで確定診断不能であった膵癌に対するEUS-FNAの診断能はきわめて良好である.

◆EUS-FNAの問題点としては,偽陰性例の取り扱い,さらなる診断能向上がある.また,囊胞性腫瘍に対するEUS-FNAは,播種の危険性があり原則禁忌である.

膵液細胞診および膵液遺伝子検査による膵癌診断

著者: 安蘓鉄平 ,   大塚隆生 ,   木村英世 ,   松永壮人 ,   渡邉雄介 ,   田村公二 ,   井手野昇 ,   大内田研宙 ,   上田純二 ,   高畑俊一 ,   相島慎一 ,   五十嵐久人 ,   伊藤鉄英 ,   小田義直 ,   水元一博 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.12 - P.16

【ポイント】

◆膵液細胞診は,膵炎発症の懸念から敬遠される傾向にあるものの,微小膵癌発見のための重要ツールである.

KRAS変異などの遺伝子マーカーとの組み合わせにより,さらなる診断効率の向上が期待できる.

膵癌鑑別におけるPETの意義と限界

著者: 羽鳥隆 ,   鈴木修司 ,   大島奈々 ,   君島映 ,   鈴木隆二 ,   出雲渉 ,   清水京子 ,   白鳥敬子 ,   山本雅一

ページ範囲:P.17 - P.21

【ポイント】

◆FDG-PETは膵癌の鑑別診断に有用である.

◆FDG-PETは小さい腫瘍や活動性の炎症性疾患と膵癌との鑑別が苦手である.

◆FDG-PETはCT,MRI,EUS,ERCPなどと併せて活用することが重要である.

膵癌切除能の術前画像判断―特にborderline resectableの定義について

著者: 丹羽由紀子 ,   藤井努 ,   神田光郎 ,   小寺泰弘

ページ範囲:P.22 - P.26

【ポイント】

◆NCCNガイドラインではborderline resectable膵癌を,SMV/PV系因子,腹腔動脈系因子,SMA系因子によって細分類している.

◆診断には多時相造影CTが推奨されている.

治療における新展開―膵癌手術の最前線

膵癌に対するneoadjuvant chemoradiationの意義

著者: 高折恭一 ,   増井俊彦 ,   川口道也 ,   岩永康裕 ,   水本雅己 ,   中村晶 ,   板坂聡 ,   平岡眞寛 ,   上本伸二

ページ範囲:P.27 - P.31

【ポイント】

◆先端施設における切除可能膵癌に対する術前化学放射線療法(NACRT)の成績は比較的良好であるが,NACRTの生存期間延長効果を証明するには至っていない.R0率の向上,および潜在的な遠隔転移を有する症例を手術対象から除外することが,切除可能膵癌に対するNACRTの意義と考えられる.

◆切除不能局所進行膵癌に対してNACRTを行い,切除に至った症例は,最初から切除可能な膵癌と同等の生存期間が得られている.Borderline resectable局所進行膵癌に対するNACRTにはR0率向上が期待されており,十分に標準化された臨床試験により検討していく必要がある.

◆現時点で,膵癌にNACRTを推奨する高いレベルのエビデンスは確立されていない.化学療法,化学放射線療法,手術を,どのように組みわせて,どのような順序で,どのような症例に対して行うことが,最も治療成績向上に寄与するかを,質の高い臨床試験により検証していく必要がある.

膵癌切除後adjuvant chemotherapyの意義

著者: 奈良聡 ,   小菅智男 ,   島田和明 ,   江崎稔 ,   岸庸二

ページ範囲:P.32 - P.36

【ポイント】

◆RCTの結果,膵癌術後の補助化学療法により,無再発生存期間,全生存期間が延長することが示された.

◆2012年にS-1がゲムシタビンより生存期間を延長することが示され,新たな標準治療として位置付けられた.

◆今後の検討課題として,新規抗癌剤レジメンの開発,術前補助療法との比較などが挙げられる.

進行膵癌の切除限界―門脈浸潤

著者: 吉富秀幸 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   岡村大樹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   中島正之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.38 - P.43

【ポイント】

◆門脈浸潤を伴う膵癌に対する門脈合併切除は安全に施行可能であり,治療成績の向上に寄与する.

◆治癒切除が見込めるのであれば,門脈完全閉塞例に対しても積極的な外科切除は予後改善に役立つ.

◆広範囲門脈浸潤に対しては左腎静脈グラフトの利用が有用である.

進行膵癌の切除限界―腹腔動脈浸潤

著者: 松本譲 ,   平野聡 ,   七戸俊明 ,   岡村圭祐 ,   土川貴裕 ,   中村透 ,   田本英司 ,   村上壮一 ,   海老原裕磨 ,   倉島庸 ,   佐藤暢人

ページ範囲:P.44 - P.48

【ポイント】

◆腹腔動脈(CA)浸潤を伴う膵癌の切除限界とは,CAを根部で安全に処理できる解剖学的距離の限界ということのみならず,癌に切り込まずにCAを処理しR0手術を達成できる限界を意味する.

◆CAそのものに浸潤が及んでいない場合でも,周囲神経叢への浸潤をMDCTを用いて慎重に診断する.

◆癌に切り込むことなくCA根部に到達するためには,神経叢剝離を上腸間膜動脈分岐部の尾側から始めて,大動脈の外膜と横隔膜脚を露出しながら徐々に頭側に剝離を進める.

◆CA根部で癌の露出が予想される場合は化学療法で腫瘍の縮小を図るべきである.

切除不能膵癌に対するdown-sizing chemo(radio)therapyの意義

著者: 信岡祐 ,   岸和田昌之 ,   伊佐地秀司

ページ範囲:P.49 - P.57

【ポイント】

◆近年の化学療法の進歩にて,腫瘍や腫大リンパ節の縮小・消失(down-sizing)といった優れた治療効果が報告されている.

◆初診時は切除不能膵癌と診断された症例においても,化学(放射線)療法後に切除が可能となる症例もあり,このような手術は“adjuvant surgery”と呼ばれ,予後の向上が期待されている.

◆わが国において切除不能膵癌の定義は明確ではなく,切除率の向上および予後の延長を得るために明確な切除適応の判断と治療法のアルゴリズムの確立が早急に望まれる.

治療における新展開―切除不能例への治療戦略

切除不能膵癌に対する抗がん+分子標的薬治療

著者: 古瀬純司 ,   岡野尚弘 ,   成毛大輔 ,   春日章良 ,   北村浩 ,   高須充子 ,   長島文夫

ページ範囲:P.58 - P.63

【ポイント】

◆切除不能例に対する標準治療として,GEM単独,S-1単独,GEM+エルロチニブ併用療法が推奨されている.

◆海外において転移例に対し,FOLFIRINOX療法あるいはGEM+ナブパクリタキセル併用療法の有用性が報告された.わが国でも第Ⅱ相試験が行われており,今後保険適用の承認が見込まれている.

◆切除不能例に対する化学療法では多くのGEM-based併用療法として分子標的薬の開発が行われているが,ほとんど結果が残せていない.現在までGEM+エルロチニブ併用療法がGEM単独を上回る成績を示しているのみである.

ペプチドワクチンを用いた膵癌治療

著者: 谷眞至 ,   山上裕機

ページ範囲:P.64 - P.69

【ポイント】

◆ペプチドワクチンは直接癌細胞を傷害しないが,リンパ球などの効果細胞を介して標的とする部位が明らかになっていることから,理論的根拠に基づいたペプチドワクチン療法の開発が可能である.

◆自然発癌において,腫瘍細胞は宿主免疫監視機構をすり抜けて発育していることから,様々な免疫逃避機構の存在に関する推測ができる.

◆今後,新しいペプチドの同定ならびにワクチンアジュバントの開発など,解決しなければならない問題が山積しており,さらなる治験などの臨床試験の推進が必要である.

局所進行膵癌に対する放射線治療

著者: 塩見美帆 ,   山田滋 ,   磯崎哲朗 ,   寺嶋広太郎 ,   篠藤誠 ,   鎌田正

ページ範囲:P.70 - P.73

【ポイント】

◆局所進行膵癌において,化学放射線治療または化学療法単独がともに標準治療である.

◆導入化学療法を施行することで,同時化学放射線治療で高い治療効果が期待できる症例を選択できる可能性がある.

◆放射線治療,化学放射線治療により除痛効果が得られ,放射線治療はQOL改善に有用である.

治療における新展開―緩和医療

切除不能膵癌に対するEUSガイド下腹腔神経叢・神経節ブロックによるペインコントロール

著者: 安田一朗 ,   岩下拓司 ,   土井晋平 ,   上村真也 ,   馬淵正敏 ,   奥野充 ,   森脇久隆

ページ範囲:P.74 - P.77

【ポイント】

◆腹腔神経叢が存在する腹腔動脈根部は,EUSによって明瞭に描出することができる.

◆さらに最近,腹腔神経節そのものがEUSによって明瞭に描出できることが明らかとなった.

◆EUSガイド下腹腔神経叢・神経節ブロックは,極めて安全かつ効果的に膵癌に伴う疼痛を緩和することができる.

FOCUS

胃癌に対する二次治療の現況

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.78 - P.82

はじめに

 切除不能,転移性胃癌に対しては患者の状態が不良でなければ化学療法を行うのが標準治療である.その目的は現状では延命,症状の緩和である.近年では想定以上の効果がみられることもあり,長期にわたりcomplete responseが得られる場合や,転移巣が消失して原発巣の切除の提案に至る場合もある.しかし,多くの場合に治癒には至らない以上,患者および家族にとっては可能な限りの延命が望ましい一方で,限られた生存期間中の生活の質も重要である.

必見! 完全体腔内再建の極意・10

―幽門側胃切除術後再建―Billroth-Ⅰ法再建:デルタ吻合

著者: 木下敬弘 ,   高田暢夫 ,   砂川秀樹 ,   榎本直記 ,   芝﨑秀儒

ページ範囲:P.84 - P.90

■■はじめに

 幽門側胃切除後Billroth-Ⅰ法(以下,B-Ⅰ)は国内で永く標準的な再建法として行われてきた.B-Ⅰは欧米ではあまり行われないため,遠位側に好発する分化型胃癌の発生率が高いわが国のお家芸であった.現在は「B-Ⅰ至上主義」という風潮はなく,症例や状況に応じてRoux-en-Yなどの再建法も使い分けるのが標準的な考え方であろう.しかし吻合が1か所でシンプルかつ早い,術後内ヘルニアのリスクがほとんどない,術後の胆道アクセスが容易といったメリットを考えると,やはりB-Ⅰという選択肢は残しておきたい.

 完全体腔内で行うB-Ⅰとして,現在最も普及している術式はKanayaら1)が開発したデルタ吻合である.筆頭著者はほぼ原法に準じた手法で,2007年以降,これまで300例近くのデルタ吻合を経験した2).本稿では,現在の施設で定型化して行っているデルタ吻合の手技を紹介する.

病院めぐり

札幌外科記念病院

著者: 長内宏之

ページ範囲:P.91 - P.91

 当院は,札幌市の中心部の中央区に位置はしていますが,藻岩山の麓で,裏は天然記念物の藻岩山原始林となっており,スキー場も車で10分と自然に恵まれています.北海道というとヒグマが有名ですが,支笏洞爺国立公園もある札幌市の南区で熊が出ても,あまりニュースにはなりませんが,2年前には当院の駐車場に熊が出て,全国版のテレビニュースにもなり,全国のいろいろなドクターの方からも,「見たことのある病院だなぁ」と電話をもらいました.

 当院は,昭和57年に,札幌医科大学第一外科の故・早坂滉教授の希望のもとに,80床で設立されました.現在は,一般病床99床で,消化器外科,外科,小児外科,肛門科,消化器内科,内科,整形外科,麻酔科を標榜し,日本外科学会指定修練施設となっています.また,この規模の病院としては珍しく,臨床病理部も併設されており,札幌医大病理からの協力も得られています.規模が小さい病院で小回りがきくので,たとえば腹腔鏡手術が一般的になるかなり前より腹腔鏡手術をスタートできたなど,新しい治療にもすぐ飛びかかれるのが利点です.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・20

体格とがん―肥満は死亡率が高いか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.92 - P.95

素朴な疑問

 2008年度から職場にメタボ健診が導入され,腹囲が大きい人や肥満指数(body mass index:BMI)が高い人は保健指導の候補である.肥満は生活習慣病と関連があり,心臓病や脳卒中による死亡が多いが,がんによる死亡も多いのだろうか.肥満が影響するのはどのようながんであろうか.がんの手術で肥満は術後合併症や手術死亡に影響するのだろうか.

臨床報告

プロテインS欠乏症による上腸間膜静脈血栓症に対し保存的治療を行った1例

著者: 仲田真一郎 ,   三宅建作 ,   潮真也 ,   嶋村文彦 ,   向井秀泰 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.97 - P.101

要旨

症例は50歳,男性.腹痛を主訴に前医を受診した.腹部造影CT検査にて上腸間膜静脈血栓症(SMVT)の診断となり,当センターへ紹介された.来院時,腹膜刺激徴候を認めたが全身状態が保たれていたため,保存的治療を行った.血液検査にてプロテインS欠乏症と診断された.徐々に全身状態は改善し第56病日に退院した.現在1年1か月が経過し,再発を認めていない.SMVTの治療として,腹膜刺激徴候を認める症例では手術を行うことが多いが,今回,保存的治療を行い良好な経過を得た.早期診断がつき,全身状態が保たれていれば,保存的治療にて軽快する症例もあると考えられた.

高CEA血症精査中に発見されたRET遺伝子変異家族性甲状腺髄様癌の1例

著者: 御供真吾 ,   佐瀬正博 ,   玉澤佳之 ,   加藤久仁之 ,   藤澤健太郎 ,   若林剛

ページ範囲:P.102 - P.106

要旨

症例は77歳,女性.当院糖尿病代謝内科へ入院中に高CEA血症を認め,CTにて甲状腺腫瘍が指摘され,当科へ紹介された.超音波検査で甲状腺両葉に腫瘍性病変を認め,穿刺吸引細胞診の結果は甲状腺髄様癌の疑いであった.血液検査にてCEA,カルシトニンはともに異常高値で,PET/CTでは甲状腺両葉と右内深頸リンパ節に集積を認めるのみであった.RET遺伝子検査を施行しexon15(codon891)の変異を認めた.家族性甲状腺髄様癌の診断にて甲状腺全摘,D3bリンパ節郭清を施行した.家族性甲状腺髄様癌は遺伝性疾患であることから,本人,家族へ十分に説明したうえで検査,加療を進めることが重要であると考えられた.

回盲部に発症した仮性腸間膜囊胞の1切除例

著者: 石井泰 ,   外園幸司 ,   藤田逸人 ,   新山秀昭 ,   小野洋 ,   前岡伸彦

ページ範囲:P.107 - P.111

要旨

症例は83歳,女性.右下腹部の腫瘤を自覚し,近医を受診した.超音波検査で腹腔内囊胞が疑われ,当院へ紹介され受診した.腹部CT検査で右下腹部に9 cm大の単房性囊胞を認め,腹部MRI検査ではT1,T2強調画像とも腫瘍内部は高信号で,内部に粘液成分や出血の混在が疑われた.後腹膜囊胞性腫瘍を疑い,手術を行った.病変は回盲部から上行結腸間膜に存在する囊胞性腫瘤で,右結腸切除術を施行した.病理組織学的検査では囊胞壁は炎症細胞を伴う線維結合組織であり,上皮細胞を認めず,仮性腸間膜囊胞と診断した.仮性腸間膜囊胞は腸間膜囊胞のなかでも稀な疾患であり,わが国で23例しか報告されていない.仮性腸間膜囊胞の特徴を文献的に考察したので報告する.

ENBD catheterを用いた内視鏡的ドレナージが奏効した十二指腸傍乳頭憩室後腹膜穿孔の1例

著者: 橋本恭弘 ,   佐藤雅之 ,   吉岡晋吾 ,   冨田昌良

ページ範囲:P.112 - P.116

要旨

患者は36歳,女性.激しい上腹部痛を主訴に当院を受診した.理学的所見では右季肋部に腹膜刺激症状を伴う圧痛を,血液検査では高度炎症反応を認めた.CT検査および側視型内視鏡による造影検査にて,十二指腸傍乳頭憩室後腹膜穿孔・後腹膜膿瘍と診断した.膿瘍が限局性であることから,抗菌薬による保存的治療を施行した.しかし,改善傾向が乏しいため,内視鏡的に憩室内穿孔部を経由して膿瘍腔内に6Fr ENBD catheterをドレナージチューブとして留置し,排膿治療を行い治癒しえた.十二指腸傍乳頭憩室穿孔により形成された膿瘍腔は,経皮的ドレナージでは部位的に困難であり,開腹ドレナージ術などの観血的治療を行う報告が散見される.また,しばしば高侵襲手術を要することもある.しかし,本治療手技は比較的低侵襲な非観血的治療法であり,今後本疾患に対する治療法の1つとして検討する価値があると考えられた.

肝鎌状間膜裂孔ヘルニアの1手術例

著者: 小西健一郎 ,   小林隆 ,   塩入貞明 ,   陶山雅子 ,   川上雅代 ,   安野正道

ページ範囲:P.117 - P.120

要旨

患者は胃切除術の手術歴のある64歳,男性.上腹部痛・嘔吐を主訴に当科を受診した.腹部CT検査で肝表面に拡張した小腸を認め,術後癒着性イレウスと診断した.保存的治療を開始したが腹部症状は改善せず,開腹手術を施行した.術中所見で肝鎌状間膜の異常裂孔への小腸の陥入を認め,内ヘルニアと診断した.陥入した小腸を用手的に整復し,裂孔部を縫合閉鎖した.われわれが調べた範囲では,肝鎌状間膜裂孔ヘルニアの本邦報告例は8例で,7例が先天的な異常裂孔によるものと報告されている.しかし,自験例は以前の胃切除術の際に肝鎌状間膜に異常裂孔を認めておらず,肝鎌状間膜裂孔ヘルニア症例ではきわめて珍しい1例と考えられたので,報告する.

ひとやすみ・107

手書手帳と電子手帳

著者: 中川国利

ページ範囲:P.21 - P.21

 私は白衣の胸ポケットに,ボールペンとともに小さな手帳を入れている.かつては医師の誰もが,薬会社のMRさんが年末に配布する手帳を愛用したものである.しかしながら昨今は,スマートフォンなどの電子手帳が普及し,従来の手書きの手帳を見かけることが少なくなった.いまだ私は手帳を愛用し,しかもS社の手帳を20数年来使い続けている.

 表紙の裏には今年1年間の暦が,次のページには来年の暦が表示されている.私は主な学会などの期日や家族の記念日を記入し,余白には種々のパスワードや会員登録番号などを書き込み,衰えた記憶力の助けとしている.

1200字通信・61

試験

著者: 板野聡

ページ範囲:P.69 - P.69

 また冬が来て,受験のシーズンとなりました.わが家では,すでに子供たちの大学受験は済んでおり,気楽といえば気楽なのですが,親として,はたまた己自身のトラウマなのか,この季節は落ち着かない気分になります.東京の友人からは,「もうすぐ,会社のある街全体が入試モードに入ります」との便りがありましたが,張りつめた空気が漂う,この季節独特の雰囲気なのだろうと想像しています.

 ところで,センター試験なる制度が導入されてから久しいのですが,毎年雪によるトラブルもあり,1年で最も寒いこの時期にこうした全国規模の試験を行うことへの懸念は議論されなかったのでしょうか.それとも,学力だけでなく,寒さに耐えうる体力までが試されているのでしょうか.新しい内閣になってから見直しの話も出始めていますが,こうした観点からも検討の余地がありそうです.

書評

―内富庸介,大西秀樹,藤澤大介(監訳)―がん患者心理療法ハンドブック

著者: 鈴木伸一

ページ範囲:P.83 - P.83

 平成24年にがん対策推進基本計画が刷新され,がん患者の精神的苦痛に対する心のケアを含めた全人的な緩和ケアのさらなる充実に向けた取り組みが始まっている.がん対策基本法の制定以降,がん診療を行う各地域の主要な医療機関に緩和ケアチームなどが置かれ,がん患者の疼痛管理やせん妄およびうつ症状などへの対応が積極的に行われるようになり,がん患者の心のケアの基盤は整いつつある.しかし,がん患者が医療者に望んでいる心のケアの範囲と内容は,もっと多岐にわたっていると思われる.がん診療を行う医療者も,患者が「がん」という病を抱えながら生きていくがゆえに抱えるさまざまな生活上の不安や葛藤をいかに理解し,ケアしていくかが今後のがん診療の中核的な課題であることは理解しつつも,「誰が」「どこで」「どのように」ケアしていくかという点においては,スタッフの専門性や方法論,さらには状況的な制約などから,具体的な取り組みを実行できないジレンマを感じているのではないだろうか.

 このたび刊行された『がん患者心理療法ハンドブック』は,がん患者の心のケアの充実に向けた新たな取り組みへの「道しるべ」になるような,大変優れた解説書である.国際サイコオンコロジー学会(IPOS)公認テキストブックにも指定されており,その内容はがん患者への心理療法の全体像を理解しつつ,かつ各論の重要ポイントをしっかり学ぶことができる構成となっている.

昨日の患者

天国で微笑む父親

著者: 中川国利

ページ範囲:P.96 - P.96

 親にとっての最大の関心事は,子供の行く末である.幼子を残して逝かざるを得ない患者さんには,同情に堪えない.しかしながら時がすべてを癒し,そして人はどんな逆境でも乗り越えられる忍耐力を持っているものである.

 20年ほど前,30歳代後半のHさんが食欲不振を主訴に来院し,精査を行うと胃癌であった.そこで胃全摘術を施行したが,スキルス胃癌ですでに癌性腹膜炎を伴っていた.しかしながら若いだけに,術後の回復は早かった.そして家族のため,退院早々に仕事に復帰した.

学会告知板

第51回 日本小児外科学会学術集会

ページ範囲:P.111 - P.111

会 期:2014年5月8日(木),9日(金),10日(土)

会 場:大阪国際会議場(大阪市北区中之島5-3-51)

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.36 - P.36

投稿規定

ページ範囲:P.122 - P.123

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.124 - P.124

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.126 - P.126

次号予告

ページ範囲:P.127 - P.127

あとがき

著者: 宮崎勝

ページ範囲:P.128 - P.128

 「見直される膵癌診療の新展開」として今回本特集号をお届けします.

 膵癌治療は外科切除が主体の方法であることは依然違いがないものの,これまでなかなか治療成績の向上が認められなかった.しかし近年,ゲムシタビン,TS-1といった抗癌剤の登場により化学療法の効果が期待されるようになってきた.また外科切除においては,血管浸潤例に対しての門脈や肝動脈,腹腔動脈の合併切除も安全に行えるように術式が確立しつつある.そういったところでborder-line resectableといった膵癌進行度分類により,術前の化学療法あるいは化学放射線療法を導入したneoadjuvant therapyによる外科切除戦略が多く試みられ,興味深い成績が出されるようになってきている.また,非切除例と判断された局所進行のunresectable膵癌に対して,化学療法後にdown-stagingされてborder-line resectableあるいはresectable膵癌とstagingが変わり,外科切除を施行しうるような症例も増加してきた.このように様々な膵癌をとりまく,特に治療環境に大きな変化が認められてきており,今回これらの新規治療戦略について特集を企画したわけである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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