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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科69巻10号

2014年10月発行

雑誌目次

特集 直腸癌局所再発に対する治療戦略―新たな展開

ページ範囲:P.1169 - P.1169

 結腸癌と異なり,直腸癌では術後再発形式として局所再発が臨床的に重要な位置を占めている.結腸癌では肝転移再発が最も頻度が高く認められるが,直腸癌では肝転移再発,肺転移再発,そして局所再発が頻度の高い再発形式である.特に局所再発は疼痛,下肢の浮腫などQOLの面からも重要な位置を占めている.

 本特集では,近年の化学療法,放射線療法などの進歩を踏まえて,現在直腸癌局所再発に対してどうアプローチすべきか,その治療戦略を様々な視点から解説していただいた.

総論

直腸癌局所再発の治療に必要な局所解剖

著者: 山口智弘 ,   絹笠祐介 ,   塩見明生 ,   富岡寛行 ,   賀川弘康 ,   山川雄士 ,   佐藤純人

ページ範囲:P.1170 - P.1174

【ポイント】

◆局所再発の手術は,癒着や瘢痕のため剝離・授動が難しい.腫瘍との境界も不明瞭である.

◆初回手術時のラインより外側を剝離し,隣接臓器も場合によっては合併切除することでsurgical marginを確実に確保する.

◆骨盤内の解剖について深い知識をもつことで,出血や,癌の根治性を落とす手術を避けることができる.

直腸癌局所再発の画像診断

著者: 大植雅之 ,   能浦真吾 ,   三吉範克 ,   藤野志季 ,   杉村啓二郎 ,   本告正明 ,   岸健太郎 ,   藤原義之 ,   矢野雅彦 ,   左近賢人

ページ範囲:P.1175 - P.1179

【ポイント】

◆わが国の直腸癌手術後のサーベイランスは,大腸癌治療ガイドラインに示されているように問診・診察(直腸指診),腫瘍マーカー(CEA,CA19-9),CT,大腸内視鏡が一般的であり,CTのサーベイランス間隔は術後3年までが6か月ごとで,以降は4年目,5年目に一度というスケジュールの一例が示されている.

◆局所再発はR0切除(完全切除)によって長期生存が得られる可能性があるので,サーベイランスで再発巣を小さく見つけることが重要である.

◆局所再発の診断は,CTよりもPET/CTやMRIのほうが精度は高い.CTで再発を指摘されなくても,臀部や会陰部痛の訴えがある場合や,症状がなくともCEAが増加している場合には再発を積極的に疑って,まずPET/CTを用いた全身の精査を行うべきである.

直腸癌局所再発に対する外科的アプローチの要点

著者: 上原圭介 ,   有元淳記 ,   加藤健宏 ,   中村勇人 ,   江畑智希 ,   横山幸浩 ,   伊神剛 ,   菅原元 ,   深谷昌秀 ,   板津慶太 ,   水野隆史 ,   山口淳平 ,   梛野正人

ページ範囲:P.1180 - P.1186

【ポイント】

◆術前画像診断に基づいてR0切除の可否を判断し,詳細な手術計画を立案することが最大のポイントである.

◆手術適応は厳格でなければならず,病変が骨盤内に限局しているものとしているが,治癒切除可能な肝・肺転移は切除の対象としている.

◆手術の難易度には,内腸骨静脈合併切除の有無と骨性骨盤壁合併切除の有無が大きく影響する.

各論

直腸癌局所再発に対する化学療法

著者: 岡本渉 ,   吉野孝之

ページ範囲:P.1187 - P.1189

【ポイント】

◆直腸癌局所再発に対する標準化学療法レジメンは確立しておらず,検討されたデータも少ない状況である.

◆直腸癌局所再発に対しては集学的治療が重要であり,化学療法は局所制御のみならず,遠隔転移制御による根治性,延命効果の向上を担っている.

直腸癌局所再発に対する外科治療(手術単独治療)

著者: 山田一隆 ,   緒方俊二 ,   佐伯泰愼 ,   福永光子 ,   田中正文 ,   高野正太 ,   辻順行 ,   高野正博

ページ範囲:P.1190 - P.1195

【ポイント】

◆直腸癌局所再発には適切な術後サーベイランスよる早期診断が重要であり,骨盤CT下の経皮的骨盤内針生検も有効である.

◆局所再発に対する根治切除では予後良好(5年生存率47.3%)であり,術前因子では骨盤内浸潤形式(限局型・仙骨浸潤型・側方浸潤型)のみが有意の予後因子であった.

◆局所再発に対する治療方針として,切除可能であれば根治切除の方針とし,特に限局型と仙骨浸潤型の症例が推奨される.

直腸癌局所再発に対する外科治療(集学的治療)

著者: 小山基 ,   村田暁彦 ,   坂本義之 ,   諸橋一 ,   内田知顕 ,   二階春香 ,   櫻庭伸悟 ,   袴田健一

ページ範囲:P.1196 - P.1203

【ポイント】

◆再発形式が限局型の症例に対しては,確実なR0手術を目的とした術前化学放射線療法が考慮される.

◆再発形式が側方浸潤型で有症状の場合にはR0切除は困難であり,根治的な化学放射線療法を考慮する.

◆術前化学放射線療法が手術の安全性や術後合併症に及ぼす悪影響は少ないが,合併症を起こした場合には難治性になりやすい.

直腸癌局所再発に対する外科治療(仙骨合併切除)

著者: 池田正孝 ,   関本貢嗣 ,   原口直紹 ,   三宅正和 ,   前田栄 ,   山本和義 ,   浅岡忠史 ,   西川和宏 ,   大宮英泰 ,   宮本敦史 ,   宮崎道彦 ,   平尾素宏 ,   高見康二 ,   中森正二

ページ範囲:P.1204 - P.1210

【ポイント】

◆術前の正確な部位診断による手術術式の計画,特に仙骨切離の高さの決定,それに応じた適切な仙骨切離方法を行うこと.

◆術中にできるだけ,術後の感染症予防のための工夫(臓器温存・骨盤内充塡)を行う.

◆術後管理,特に骨盤死腔炎・尿路感染症・腸閉塞などの好発合併症の管理が重要である.

直腸癌局所再発に対する重粒子線治療

著者: 山田滋 ,   磯崎哲朗 ,   磯崎由佳 ,   安西誠 ,   安田茂雄 ,   鎌田正 ,   辻井博彦

ページ範囲:P.1212 - P.1218

【ポイント】

◆重粒子線はシャープな線量分布と強力な殺細胞効果を有する放射線である.この特性により,がんの周囲にある放射線感受性の高い臓器を避けて腫瘍を狙い撃ちにすることが可能であると同時に,従来X線に抵抗性であった腫瘍にも殺細胞効果が高い.

◆放医研では2001年から直腸癌術後局所再発に対する重粒子線治療を開始した.73.6 GyEで治療した176例では5年局所制御率91%で5年生存率は53%と,外科的治療法に匹敵する成績であった.

◆最近では適応拡大として,消化管近接例に対してはスペーサーを用い,X線治療後の再発症例に対しても重粒子線治療を施行し,高い安全性と抗腫瘍効果が示されている.

直腸癌局所再発と緩和医療

著者: 下山理史

ページ範囲:P.1220 - P.1226

【ポイント】

◆直腸癌局所再発では,症状コントロールを十分に行う必要がある.

◆排便排尿という,人にとって非常に生理的な部分が障害されることも多い.そのほかの様々な苦痛も含めて,全人的なアプローチを行う必要がある.

◆全人的なアプローチを行うには,早期から緩和ケアと並行して治療を行っていくと良く,同時に多職種によるチームアプローチが重要である.

FOCUS

食道外科領域でのロボット手術の現況

著者: 森和彦

ページ範囲:P.1228 - P.1230

はじめに

 胃外科では従来の腹腔鏡下手術がすでに十分低侵襲であり,手術時間,出血量などの安全運用の面でもすでに確立されたものとなっている.一方,食道外科においては胸腔鏡下手術の普及,普遍化がみられるものの,長い手術時間や合併症軽減などの面でいまだ改善の余地があるといえる.よって,食道癌手術ではロボット支援手術導入による手術の低侵襲化に期待するものは大きい.例えば,胸腔鏡ではほとんど不可能と考えられる胸腔内での用手的縫合による吻合再建もかなり容易に行える.また,反回神経周囲のより精緻な操作が必要になる場面では,「机の上でプラモデルを組み立てる」ように,安定した手技が行えるロボット支援手術のメリットは大きいものと考えられる.実際このようなメリットが前立腺全摘では遺憾なく発揮され,現在ではロボット支援下腹腔鏡下前立腺全摘は急速に普及し,標準治療の地位を占める.

 術野が狭く,内視鏡下での手技の制約が多い点では,前立腺手術と食道手術では理論上のメリットが類似している.しかしながら,食道領域ではいまだにロボット支援手術は普及していない.ロボット支援下前立腺全摘における有用性が,後述する別の制約を受ける胸腔鏡の手術にそのまま活用されるわけではない.また,消化器領域に関しては,わが国では自費診療でロボット手術を行わなければならず,入院診療費が高い食道癌ではロボット手術はなかなか患者に勧められるものではないため,保険収載以前の症例の集積は大変困難である.わが国でのロボット支援下食道癌手術は,2009年に藤田保健衛生大学が初めて行って以来,東京医科大学,佐賀大学,そして筆者らの東京大学のほか少数の施設のみで行われているのが現状である.これを反映して,本邦発の英文論文は筆者らのものを含めて2013年12月時点で3篇のみとエビデンスの集積が乏しい状況である.海外では欧米のみならず韓国,インドなどから多数症例の集積の報告が認められるが,食道外科のプラクティスは海外ではわが国との相違が多く,海外での報告を鵜呑みにすることはできない.

 本稿では,わが国からの文献および症例数が多く代表的な海外の文献の引用を交えつつ,食道外科領域におけるロボット支援手術の現況について解説する.

病院めぐり

打波外科胃腸科婦人科

著者: 打波大

ページ範囲:P.1231 - P.1231

 当院は1977年に福井市で「打波外科胃腸科」として先代が開業した有床診療所です.2006年に先代が理事長となり,院長が私に引き継がれています.2013年に妻が副院長に就任し,同時に診療所名を「打波外科胃腸科婦人科」に変更しました.

 開院当初より消化器系のスペシャリストとして,苦痛の少ない医療をモットーとしています.そのためか遠方から来院される方も多く,現在でも福井市外の方が30%程度いらっしゃいます.しかしあくまでも診療所ですので,ご近所の方々も数多く来院されており,一般内科的な診療,特定健診や長寿検診,さらに婦人科があるので癌検診も増加しています.近所の特別養護老人ホームの嘱託医や学校医も社会奉仕として引き受けており,あっという間に時間が過ぎていきます.

必見! 完全体腔内再建の極意・19

胃全摘術後再建―Inverted T法

著者: 永井英司 ,   仲田興平 ,   大内田研宙 ,   清水周次 ,   田中雅夫

ページ範囲:P.1232 - P.1239

■■はじめに

 胃全摘術後の再建法としてはRoux-en-Y再建が一般的である.開腹手術では手縫い吻合からサーキュラー・ステイプラーを用いる方法へと変遷してきたが,腹腔鏡下手術となり,腹腔鏡下手術用機器としてのリニア・ステイプラー(LS)が開発され,消化管などの離断,縫合,吻合に用いられるようになった.当科で工夫を重ねてきたLSを用いたRoux-en-Y再建法1)について紹介する.

 以降は以下の略語を使用する.エシェロン:エチコンエンドサージェリー社製LS,エシェロン-W:エシェロンホワイトカートリッジ,エシェロン-B:エシェロンブルーカートリッジ,エンドGIA:コヴィディエン社製LS,GIA-P:エンドGIAパープルカートリッジ,GIA-C:エンドGIAキャメルカートリッジ.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・29

がんの腹腔鏡手術―低侵襲手術で予後が改善するか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.1240 - P.1243

素朴な疑問

 がんの手術にも腹腔鏡手術が導入され,一般病院でも腹腔鏡下胃切除や腹腔鏡下大腸切除が行われている.腹腔鏡手術は侵襲が小さいため,術後の生体反応や炎症反応が軽く,がんと闘っている患者にとっては,生体防御機能や免疫力が低下せず,がんの手術として有利と考えられる.腹腔鏡手術は再発が少ないのだろうか.開腹手術より予後がよいのだろうか.

臨床研究

TAPP568例におけるSeprafilm®の有用性の検討

著者: 加藤恭郎 ,   牛丸裕貴 ,   鈴木大聡 ,   垣本佳士 ,   遠藤幸丈 ,   村上修

ページ範囲:P.1244 - P.1247

要旨

2010年4月~2014年6月に568例の腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP)を行った.原則として全例で腹膜縫合部へSeprafilm®の貼付を試みてきた.十分に貼付できた症例は493例,86.8%であった.Seprafilm使用の有無にかかわらず術後の癒着性腸閉塞発症例はなかった.吸収糸による腹膜縫合部を腹腔鏡で再観察できた症例が21例あった.癒着を認めたのはSeprafilm非使用例で100%(5/5),使用例で37.5%(6/16)と有意差を認めた(p=0.015).TAPPの腹膜縫合部にSeprafilmを使用することで癒着の頻度が有意に減少することが確認できた.

臨床報告

腹腔内膿瘍を合併した胆囊結腸瘻の1例

著者: 鈴木崇之 ,   鈴木大亮 ,   清水宏明 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1249 - P.1253

要旨

症例は83歳,男性.当院消化器内科で総胆管結石に対し内視鏡的切石術施行後,本人が胆摘を希望せず経過観察となっていた.その2年後に,急性胆囊炎を発症して当科へ入院となり,緊急でPTGBDを施行した.留置8日後にPTGBD造影を行ったところ胆囊から横行結腸への瘻孔が描出され,胆囊結腸瘻の診断となった.PTGBD留置後も発熱が続くため,胆道精査も兼ねてDIC-CTを撮影したところ,肝S6の尾側に膿瘍形成を認めたため穿刺ドレナージを行った.最終的に開腹胆摘,横行結腸部分切除術を施行し,術後経過良好にて術後11日目に退院となった.胆囊結腸瘻の本邦報告54例の集計を行ったところ,膿瘍を合併した症例は8例であり,高齢者や全身合併症のある患者に多く認められた.肝床部胆囊周囲膿瘍を伴う急性胆囊炎に対しPTGBDを施行し,ドレナージ後も発熱が続く場合は,腹腔内膿瘍形成の可能性も念頭に置く必要があると考えられた.

10年以上の長期にわたって嵌頓,自然整復を反復した閉鎖孔ヘルニアの1例

著者: 小南裕明 ,   川崎健太郎 ,   下山勇人 ,   上野公彦 ,   佐溝政広 ,   山本正博

ページ範囲:P.1254 - P.1258

要旨

症例は75歳,女性.10年前から左下肢痛と腹痛を反復していたが,自分では腸炎,神経痛と判断し放置していた.人工透析の導入目的で入院した際にも腹痛と左下肢痛が出現し,CTで左閉鎖孔ヘルニアへ小腸の嵌頓が確認できたが,間もなく自然解除された.過去の画像で,恥骨筋と外閉鎖筋間隙の有意な開大から同部の棍棒状軟部組織陰影の明瞭化を経て,腸管の嵌頓と自然整復の反復まで閉鎖孔ヘルニアの形成過程が確認できた.手術ではコンポジックスメッシュとアブソーバタックを使用してヘルニア修復を行ったが,手術時間の短縮にきわめて有用であった.

鼠径部痛で発症したNuck管水腫の1例

著者: 齋藤傑 ,   山田恭吾 ,   小笠原紘志 ,   中山義人 ,   松浦修 ,   橋爪正

ページ範囲:P.1259 - P.1262

要旨

症例は30歳代,女性.右鼠径部痛を主訴に前医を受診し,経過観察となったが,その後同部の腫脹および疼痛増強のため当科を受診した.CT検査にて右子宮円索に沿って鼠径管内に少量の液状陰影を認めた.Nuck管水腫と診断し,根治術を施行した.術後8日目に退院となり,症状なく経過している.Nuck管水腫は,女性の鼠径部から外陰部に生じる男性の精索・陰囊水腫に相当する疾患であり,成人例は1983~2012年11月まで自験例を含め15例が原著として報告されているにすぎない.稀な疾患であるが,鼠径部痛,鼠径部腫瘤において本疾患を念頭に置いて鑑別を進める必要があると考えられた.

膵胆管合流異常に合併した粘液産生胆囊癌の1例

著者: 宮田隆司 ,   天谷公司 ,   寺田逸郎 ,   山本精一 ,   加治正英 ,   清水康一

ページ範囲:P.1263 - P.1267

要旨

症例は69歳,女性.心窩部痛を主訴に胆囊炎と診断され,加療目的に当科へ紹介された.画像検査にて胆囊底部から体部にかけて44 mm大の乳頭状腫瘤を認め,また胆管非拡張型膵胆管合流異常を伴っていた.胆囊癌の診断で,胆囊摘出術,肝外胆管切除とD2リンパ節郭清,肝管空腸吻合術を施行した.胆囊内には多量の白色粘液を認め,病理組織学的には,深達度ssのstageⅡ乳頭腺癌であった.粘液産生胆囊癌の報告は比較的みられるようになったが,膵胆管合流異常を合併した粘液産生胆囊癌の報告は稀である.合流異常の臨床的・遺伝子的特徴を有することが推察されたが,今後の症例蓄積が重要と考えられた.

直腸癌腟転移の1例

著者: 岩田至紀 ,   小森康司 ,   木村賢哉 ,   木下敬史 ,   清水泰博 ,   谷田部恭

ページ範囲:P.1268 - P.1272

要旨

症例は75歳,女性.便秘と血便,肛門痛を主訴に2012年8月に前医を受診した.直腸癌の診断で,当科へ紹介された.当院での精査で尾骨への直接浸潤を認め,術前化学療法施行後の同年12月に腹会陰式直腸切断術,D3(prxD3+bil・lat)郭清,を施行した(R0, CurA).術後6か月で肝再発,骨盤内局所再発,腟再発を認めた.肝切除は二期的に行う方針とし,2013年8月に骨盤内臓全摘術を施行した.術後に肺再発が出現し,肝・肺いずれも切除可能ではあるが,化学療法を先行し,二期的に切除予定である.大腸癌腟転移は稀な疾患であるが,肝転移や肺転移と同様にR0切除が期待できる症例では,積極的に切除することが予後に寄与すると示唆された.

狭窄をきたした卵巣癌術後放射線性大腸炎に合併したS状結腸同時性3重癌の1例

著者: 有吉要輔 ,   中西正芳 ,   村山康利 ,   栗生宜明 ,   小島治 ,   大辻英吾

ページ範囲:P.1273 - P.1278

要旨

症例は78歳,女性.主訴は下痢・排便障害.既往歴として38歳時に卵巣癌に対し手術および放射線治療(照射線量など詳細不明)を受けていた.便潜血陽性を指摘され下部消化管内視鏡を施行したところ,S状結腸に強い狭窄を認め,生検で腺癌が検出された.放射線性腸炎による狭窄に大腸癌が合併したものと診断し,腹腔鏡下ハルトマン手術を施行した.病理組織学的検査では2か所の2型病変と1か所の0-Ⅱa病変のそれぞれより腺癌を認め3重癌と診断した.背景粘膜は放射線性大腸炎の晩期像を示しdysplasiaなども認められた.骨盤内悪性腫瘍に対する放射線治療による放射線性腸炎は発癌の高リスクであり,厳重なフォローアップが求められる.

術中の触診が契機となり発見された胃癌同時性胆囊転移の1例

著者: 吉川潤一 ,   牧淳彦 ,   白潟義晴 ,   鷹巣晃昌 ,   水野惠文

ページ範囲:P.1279 - P.1284

要旨

症例は62歳,女性.胃前庭部の進行胃癌に対して開腹胃全摘術を施行した.術前検査では胆囊には胆囊結石や胆囊壁肥厚などの異常所見を認めず,胆囊摘出は予定していなかった.術中に明らかな播種所見や肝転移所見を認めなかったが,触診で胆囊頸部に小豆大の腫瘤を触知した.胆囊結石あるいは胆囊腫瘍を疑い胆囊を摘出したところ,病理学的に胃癌胆囊転移と診断された.このような症例は稀ではあるかもしれないが,術中の触診の重要性を再認識させられる症例であり,特に進行癌における術中の触診は診断や治療を大きく左右する場合があると考えられた.

ひとやすみ・116

子育てごっこ

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1195 - P.1195

 仕事に邁進し,有能な医師として評価されることは外科医の本分である.しかし家庭を顧みず,家族を犠牲にしてまで仕事をし続けることには疑問を覚える.本人が納得できればどんな人生でも結構であるが,家庭生活も謳歌し,たった一度の人生を公私ともに大いに楽しむことを私は勧めたい.

 私は子供を三人授かり,全員が男の子である.そこでボーイスカウトに入団させ,夏と冬の二泊三日のキャンプには親子で参加したものである.夏は蔵王の裾野の野営場で野山を駆け回り,夜には満天の星空の下でキャンプファイヤーを囲んだ.冬には澄み切った青空の下でスキーを楽しみ,踏みしめた雪で造ったかまくらに寝泊りした.そして子供らが寝入ってからは付き添う親たちが集まり,お酒を飲んでは大いに歓談したものである.

1200字通信・70

Fournier症候群

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1211 - P.1211

 大腸・肛門を専門とされる外科医であれば,この病名を一度はお聞きになったことがあるのではないでしょうか.私も学会や研究会で勉強し,こういう怖い病気があることを一応知ってはいましたが,恐らく一生経験することはない,いや,経験したくない疾患の一つくらいにしか考えていませんでした.

 ところが,先日,目の前に「数日前から腫れて痛いお尻」が現われ,触診した瞬間からこの病気とのお付き合いが始まることになりました.患者さんやご家族にもお話しして,今は笑い話になっているので書きますが,私にとっても患者さんにとっても,「宝くじに当たったらこんな感じかな」ではありました.

昨日の患者

亡き夫への自慢話

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1248 - P.1248

 30年近くも同じ病院に勤めていると,馴染みの患者さんができる.そして患者さんを介して,家族の絆や人生観をも垣間見ることになる.

 Gさんの夫は,私が病院に勤めはじめた頃に受け持ったスキルス胃癌患者さんであった.30歳代後半で,既に癌性腹膜炎をきたしており,胃全摘術のみを行った.そしてGさんの手厚い介護にもかかわらず,半年ほどで亡くなった.残されたGさんは,三人の幼子を抱えながらも家業のクリーニング屋を引継ぎ,女腕一つで生活を支えた.

書評

八尾恒良(監修)「胃と腸」編集委員会(編)[Ⅰ 上部消化管]芳野純治,小山恒男,岩下明德(編集委員)[Ⅱ 下部消化管]小林広幸,松田圭二,岩下明德(編集委員)―胃と腸アトラス 第2版―Ⅰ 上部消化管・Ⅱ 下部消化管

著者: 田尻久雄

ページ範囲:P.1285 - P.1285

 このたび,名著『胃と腸アトラス』が13年ぶりに全面改訂され,刊行となった.本書は,執筆者らが日常診療で遭遇するすべての症例を極めて丁寧に扱い,その経験の積み重ねにより成り立っていることが伝わってくる大著である.本書の最大の特徴はX線像や内視鏡像を中心にした臨床画像所見と病理学所見との対比に基づき,疾患解説が統合的になされていることである.取り上げられている疾患は,消化器診療に従事する上でその理解が必須とされる疾患から,発生頻度は少ないものの貴重な疾患まで多岐にわたるにもかかわらず,非常に質の高い画像で構成され,読者に理解しやすく解説されている.

 また第2版では,初版では取り上げられていなかった咽頭の項が追加され,食道・胃・十二指腸・小腸・大腸のいずれの項においても扱われている疾患数は大幅に増えており,消化管で見られる疾患が各臓器別にほぼ網羅されている.さらに画像強調内視鏡や小腸内視鏡,カプセル内視鏡などの新たなモダリティも組み込まれている.第2版の画像は初版に比べてその質が飛躍的に向上しており,その一端を担った画像診断機器の進歩に心をはせながら,美しい画像に息をのみ,厳選された疾患をX線像や内視鏡像などを基に読み進むと時間が過ぎるのを忘れるほどである.何よりもX線像や内視鏡像が鮮明かつ十分に大きく,また随所に執筆された先生の渾身のエネルギーと溢れんばかりの情熱がほとばしっており,ページをめくる度に読む者の心を惹きつけてやまない.本書は13年前に出版された初版がさらに洗練され,その間の消化器病学と消化器内視鏡学の進境が反映された書といえるであろう.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

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原稿募集 「臨床外科」交見室

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投稿規定

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著作財産権譲渡同意書

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バックナンバーのご案内

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次号予告

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あとがき

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.1292 - P.1292

 直腸癌に対する外科治療は大きな変革の時代を迎えている.1908年,Milesの報告でリンパ節郭清の概念が導入された.その後,拡大リンパ節郭清が主流の時代となり,排尿障害や性機能障害などの術後の機能障害が生じる可能性があるが,腫瘍学的により効果のある治療が行われた.その後は,QOLの向上が重視される時代になり,これに伴って機能温存手術が広く行われるようになった.さらに近年は,欧米で広く行われている術前化学放射線療法などの集学的治療を行う施設も増加してきている.また,化学療法の進歩により術前化学療法など放射線を用いない集学的治療の臨床試験も行われるようになっている.手術では,低侵襲手術である腹腔鏡下手術を行う施設が増加し,ロボット手術も登場している.このように大きく変化そして進化している直腸癌治療であるが,いまだに昔からの大きな課題は解決されていない.すなわち,外科治療後の局所再発である.直腸癌の局所再発では,疼痛や下肢の浮腫など様々な症状を生じ,臨床上大きな問題である.こうした局所再発に対する最新の治療に焦点をあてるため本特集を企画した.本特集では,多方面から直腸癌の局所再発に関して専門の先生方に解説していただいた.近年の診断学の進歩を,そしてその進歩に基づいた最新の外科的アプローチを,さらには近年局所再発治療に大きな影響を与えている放射線治療,すなわち重粒子線の治療についても触れていただいた.重粒子線のような新たな期待される治療法と,外科治療とをどのように棲み分け,あるいは組み合わせていくかが今後の大きな課題である.そのためには,まさに近年重要性が指摘されている外科医,放射線科医,腫瘍内科医などを含めた,multidisciplinaryなアプローチが重要となっている.そして,それでも治癒が困難な局所再発に対しては,緩和ケアも含めたmultidisciplinaryなアプローチを行っていく必要がある.明日からの,直腸癌局所再発の診療に本特集が役立つことを期待している.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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