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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科69巻12号

2014年11月発行

雑誌目次

特集 外科切除適応の境界領域—Borderline resectable cancerへの対応

ページ範囲:P.1297 - P.1297

Editorial

がんにおける外科的切除適応の境界領域

著者: 新木健一郎 ,   桑野博行

ページ範囲:P.1299 - P.1299

 がんに対する外科治療の成績は,手術手技の進歩に加え,診断技術,周術期管理,集学的治療などの発展に伴い飛躍的に向上してきた.このようながん治療の発展により,多くのがんで切除による長期成績が改善され,がん治療においてわれわれ外科医が活躍する場はますます広がってきている.

 近年種々のがんにおいて,局所進行症例すなわち切除適応の境界領域といえるような症例に対しても,外科的切除によって予後が得られるかという議論が盛んに行われている.とりわけ膵癌におけるborderline resectable cancerという概念は,膵臓外科領域において難治癌かつ切除率の低い通常型膵管癌の切除適応を広げ,長期成績を改善させようと議論されている分野である.わが国においても,腹腔動脈や上腸間膜動脈に一部浸潤するような境界領域症例に対して術前の化学療法や化学放射線療法を行うことにより,R0切除率を高め,良好な予後を得ようとする試みが各施設でなされている.米国包括的がんセンターネットワーク(NCCN)ではborderline resectable膵癌の定義を定めているが,この定義によるとわが国では切除可能な膵癌が多数含まれることになり,より緻密な診断と切除適応,集学的治療によってさらに優れた長期成績を得られる可能性があり,わが国から世界へ発信できる治療戦略の確立が期待されている.

診断/術前療法

画像診断—CT,MRI,PETを中心に

著者: 吉田啓介 ,   井上登美夫

ページ範囲:P.1300 - P.1304

【ポイント】

◆外科切除適応の決定に画像診断が重要な役割を果たしている.

◆現状ではCT,MRI,PET(/CT)が主役であるが,PEMやPET/MRIといった新しいモダリティが登場しており,今後の普及が期待される.

◆適切な画像の撮像と診断のため,外科医は放射線診断医および診療放射線技師と緊密な連携を図ることが重要である.

Borderline resectable cancerに対する術前化学療法

著者: 小寺泰弘 ,   藤井努 ,   中山吾郎 ,   小池聖彦

ページ範囲:P.1306 - P.1309

【ポイント】

◆Borderline resectable cancerは膵癌以外では確立されていない概念である.

◆補助療法として化学療法と化学放射線療法があり,いずれが適しているかは対象症例の生物学的特性による.

◆術前補助療法において,化学療法には主に遠隔微小転移への効果,化学放射線療法には局所制御能に期待する.

難治性腫瘍における術前(化学)放射線治療の意義—外科をサポートするための周術期放射線治療を目指して

著者: 櫻井英幸 ,   石川仁 ,   福光延吉 ,   粟飯原輝人 ,   大西かよ子 ,   水本斉志 ,   室伏景子 ,   沼尻晴子 ,   大城佳子 ,   林靖孝 ,   奧村敏之 ,   榮武二 ,   坪井康次

ページ範囲:P.1310 - P.1314

【ポイント】

◆近年の放射線治療は高精度治療により「正確に狙いをつけて,がんに強く正常組織にやさしく照射」に進歩している.

◆術前照射には,計画的に行うものと,結果として術前照射となる場合がある.

◆Borderline resectable cancerに対する術前(化学)放射線治療は,新しいがん治療の分野である.

がん種別の治療指針

甲状腺癌

著者: 菊森豊根

ページ範囲:P.1315 - P.1319

【ポイント】

◆甲状腺分化癌においては,腫瘍の生物学的特性から術後QOLを外科的局所制御より優先すべき場合が多い.

◆未分化癌では局所制御そのものが外科的には不可能な場合がほとんどであり,集学的対応が必要である.

◆微小乳頭癌(〜1 cm)においては経過観察という選択肢もある.

乳癌

著者: 大野真司

ページ範囲:P.1320 - P.1324

【ポイント】

◆原発巣における手術切除範囲,センチネルリンパ節生検による腋窩郭清省略のために,癌の生物学的特性やエビデンスの理解が重要である.

◆新しい化学療法薬や分子標的薬により手術の縮小化・腋窩郭清省略の適応が広がる可能性がある.

◆転移・再発乳癌での再発巣切除やStage Ⅳ乳癌の原発巣切除は,局所制御の意義を十分に考慮して手術適応を検討することが望ましい.

肺癌

著者: 中島崇裕 ,   吉野一郎

ページ範囲:P.1325 - P.1329

【ポイント】

◆切除不能な肺癌に対する明確な定義はなく,技術的切除可能性は外科チームの経験や技量に左右される.

◆臨床ⅢA期N2非小細胞肺癌に対し外科切除単独療法は勧められない.治療法選択には多職種での協議が推奨される.

◆T4N0-1非小細胞肺癌に対する隣接臓器合併切除は考慮してもよいが,合併症率が高く適応判断には注意を要する.

食道癌

著者: 中島政信 ,   百目木泰 ,   高橋雅一 ,   加藤広行

ページ範囲:P.1330 - P.1334

【ポイント】

◆食道癌におけるborderline resectableは進行癌,特に隣接臓器への浸潤が疑われる局所進行癌を指す場合が多い.

◆Borderline resectable cancerの診断に有用なモダリティは内視鏡,食道造影,CT,MRIなどである.

◆術前化学療法,術前CRTののちに切除を行う.根治的CRT後の遺残・再発にサルベージ手術を行うこともある.

胃癌

著者: 山形幸徳 ,   八木浩一 ,   愛甲丞 ,   清川貴志 ,   西田正人 ,   山下裕玄 ,   森和彦 ,   野村幸世 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1336 - P.1339

【ポイント】

◆胃切除のborderlineとして,①cM0でcStage Ⅲ以下であると考えられるが,切除に困難を伴うことが予想される場合,②cM1でcStage Ⅳであると考えられるが,M1の因子が限局していたり,前治療が奏効したりといった要因でR0切除が可能である/可能になったと判断される場合,が考えられる.

◆具体的には,①は(1)局所進行(T4b)症例,(2)大型3型・4型胃癌症例が,②は(3)M1因子が腹腔内洗浄細胞診陽性(CY1)のみである症例,(4)大動脈周囲リンパ節(No. 16a2, b1)転移症例,(5)一部の肝転移症例,といった疾患群が挙げられる.

◆補助療法の進歩により,胃切除のborderlineは変化しつつある.

結腸癌

著者: 石橋敬一郎 ,   近範泰 ,   田島雄介 ,   幡野哲 ,   松澤岳晃 ,   福地稔 ,   熊谷洋一 ,   持木彫人 ,   石田秀行

ページ範囲:P.1340 - P.1345

【ポイント】

◆結腸癌他臓器浸潤(cT4b)の多くはR0切除が可能で予後も良好なため,technicalにもoncologicalにもresectable cancerである.

◆Stage Ⅳ結腸癌の肝,肺,腹膜播種の単独転移あるいは一部の肝・肺転移では,高度な技術を必要とせずにR0切除ができる場合,technicalにもoncologicalにもresectable cancerである.

◆遠隔リンパ節,卵巣,副腎,脾,脳転移,肝・肺転移以外の複数部位の転移は,切除後の予後は一般的に不良であり,technicalにはresectableでもoncologicalにはborderline cancerである.

直腸癌

著者: 永井雄三 ,   清松知充 ,   渡邉聡明

ページ範囲:P.1346 - P.1350

【ポイント】

◆局所進行直腸癌の治療の原則はR0切除を達成することであり,浸潤が疑われれば他臓器合併切除が考慮される.

◆術前放射線化学療法は局所進行直腸癌のR0切除率の向上に寄与する可能性がある.

◆全身化学療法により遠隔転移を含めた切除不能病変が切除可能となるconversion therapyの概念が注目されている.

肝癌

著者: 柿坂達彦 ,   神山俊哉 ,   若山顕治 ,   横尾英樹 ,   折茂達也 ,   敦賀陽介 ,   蒲池浩文 ,   山下健一郎 ,   嶋村剛 ,   武冨紹信

ページ範囲:P.1351 - P.1356

【ポイント】

◆肝細胞癌のうちborderline resectable症例は,肝障害度A,Bの高度脈管侵襲症例に対する肝切除,肝障害度Cのミラノ基準外に対する肝移植を検討する症例と考えられる.

◆肝細胞癌の高度脈管侵襲症例は積極的な手術治療で,TACE・肝動注療法・ソラフェニブ治療などよりも良好な予後を期待できる.

◆ミラノ基準外でも肝移植により良好な予後を示す肝細胞癌症例が存在し,日本全体のデータから新たな基準を策定すべきである.

胆道癌

著者: 千葉斉一 ,   島津元秀 ,   若林大雅 ,   沖原正章 ,   高野公徳 ,   河地茂行

ページ範囲:P.1357 - P.1363

【ポイント】

◆Brderline resectable(BR)とは膵臓癌において近年提唱された概念であり,resectableに比べ予後が不良であり,術前化学療法や術前放射線療法など各種の治療戦略が検討されているのが現状である.胆管癌におけるBRの明確な定義はいまだなされていないが,主要動脈への浸潤,門脈への浸潤,膵浸潤,局所リンパ節転移の有無などがその候補として考えられている.

◆当科の検討からは,胆管癌におけるBR症例の因子としては動脈浸潤,リンパ節転移,胆管の水平方向・垂直方向の浸潤の程度が問題となることが示唆された.BR症例には全34例に術後補助化学療法を施行し,その5年生存率は32.3%とBR以外の症例に比較して2群間に有意差は認めなかった.

膵癌—最近の話題と今後の課題

著者: 吉富秀幸 ,   清水宏明 ,   大塚将之 ,   加藤厚 ,   古川勝規 ,   高屋敷吏 ,   久保木知 ,   高野重紹 ,   岡村大樹 ,   鈴木大亮 ,   酒井望 ,   賀川真吾 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.1364 - P.1370

【ポイント】

◆膵癌は周囲脈管との関係を中心にborderline resectableが定義されることが多く,NCCNの定義が一般的に用いられている.

◆Borderline resectable膵癌に対する門脈合併切除はその有用性が示されているが,動脈合併切除は予後改善に結びつくかはっきりしておらず,その適応は慎重に判断すべきである.

◆術前化学療法の有用性が特に動脈浸潤例で報告されており,今後,臨床試験を通したエビデンスの確立が期待される.

GIST

著者: 岩槻政晃 ,   蔵重淳二 ,   岩上志朗 ,   吉田直矢 ,   髙森啓史 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.1371 - P.1375

【ポイント】

◆Marginally resectable GISTとは,併存症や拡大手術により高率に術後合併症が予想される局所進行GISTと定義される.

◆Marginally resectable GISTに対する術前補助療法の安全性や治療効果のエビデンスはなく,ガイドラインでは「臨床試験段階の治療」としての位置づけである.

◆術前補助療法において,投与薬剤,用量・期間,効果判定のタイミング,術後補助化学療法の必要性などの問題点がある.

NET—Borderline resectabilityとは?

著者: 青木豪 ,   海野倫明

ページ範囲:P.1376 - P.1379

【ポイント】

◆神経内分泌腫瘍(NET)は比較的稀な腫瘍で,多くは膵臓と消化管に発生する.各臓器に応じた対応が必要となる.

◆機能性NETと非機能性NETに分けられ,ホルモン産生により諸症状を呈する機能性NETに対しては,切除術が治癒させうる唯一の治療法である.また非機能性NET,転移巣に対して減量目的の手術も行われる.

◆NETに対するborderline resectableを論じるとすれば,悪性度が高いneuroendocrine carcinoma(NEC)において,比較的予後が望める群に対する積極的な外科切除術であろう.

FOCUS

胃癌に対するロボット手術の現況

著者: 寺島雅典 ,   徳永正則 ,   谷澤豊 ,   坂東悦郎 ,   川村泰一 ,   幕内梨恵 ,   三木友一朗 ,   絹笠祐介 ,   上坂克彦

ページ範囲:P.1382 - P.1388

はじめに

 手術支援ロボットとして広く普及しているda Vinci Surgical Systemは1988年に開発され,高解像度の3D画像と,7自由度をもつEndoWrsitを搭載することにより,内視鏡下でも可動制限のない自然な操作感で手術を行うことが可能である.2014年4月現在,全世界で約3,000台が稼働しており,わが国でも174台が納入され,米国に次いで世界第2位のロボット手術大国となっている.その大きな推進力となったのは,2012年4月に承認された前立腺全摘除術に対する保険適用であり,これ以降,多くの施設で泌尿器科を中心にロボット支援手術が導入されるようになった.

病院めぐり

市立長浜病院外科

著者: 東出俊一

ページ範囲:P.1389 - P.1389

 近畿地方の水がめ琵琶湖を中央に抱える滋賀県は,7医療圏から構成され,6か所のがん診療連携拠点病院があります.長浜市は滋賀県の北東部に位置し,古くから北陸地方と近畿地方との交通の要所として発展してきました.歴史的には,羽柴秀吉の最初の居城地として開け,江戸時代には大通寺の門前町としても栄え,現在もその街並みを活かした黒壁スクエアはガラス工芸を中心とした観光スポットとなっています.

 市立長浜病院は,昭和19年に市の中心部に開設され,平成8年に市の郊外にある現在地に移転しました.病床数624床で,床面積がゆったりと設計された病棟です.標榜科は22で,内科,心療内科,内分泌・代謝内科,腎臓内科,血液内科,リウマチ・膠原病内科,呼吸器内科,呼吸器外科,消化器内科,循環器内科,神経内科,脳神経外科,外科,整形外科,形成外科,心臓血管外科,泌尿器科,皮膚科,小児科,眼科,産婦人科,耳鼻咽喉科,歯科,歯科口腔外科,麻酔科,放射線科,リハビリテーション科の診療科があります.北は福井県境,東は岐阜県境,西は琵琶湖に達する湖北医療圏に属し,対象人数約17万人の中核病院として,平成17年に地域がん診療連携拠点病院に指定されています.「人中心の医療」を病院理念として,平成10年には全国で26番目に日本医療機能評価機構の認定も受けています.

必見! 完全体腔内再建の極意・20

胃全摘術後再建—手縫いまつり縫い法

著者: 瀧口修司 ,   宮崎安弘 ,   高橋剛 ,   黒川幸典 ,   山崎誠 ,   宮田博志 ,   中島清一 ,   森正樹 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.1390 - P.1397

■■はじめに

 “Simple is best !”よく耳にする言葉であるが,外科領域でも大事な言葉である.安全性,リスクマネジメントを考えた場合,複雑な過程で行う吻合よりも,多少技術を要したとしても単純な吻合のほうが,大きな間違いを軽減することができる.腹腔鏡下胃全摘術においても,糸を全周性にかけてアンビルを装着するというシンプルな方法こそが安定した手術成績につながるものと考えている.

 本稿では,われわれが行っているまつり縫いによるアンビル装着と吻合について述べ,いくつか腹腔鏡で行うことで注意すべき点について合わせて述べる.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・30

消化器がんの手術—リンパ節郭清で再発が減るか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.1398 - P.1401

素朴な疑問

 がんは浸潤してリンパ節や臓器に転移する.がん手術の原則は原発巣の完全切除とリンパ節の予防的摘出であり,リンパ節郭清は範囲が広く個数が多いほどよいと考えられてきた.拡大リンパ節郭清の先陣を切った乳がん手術は腋窩郭清の縮小や省略に向かっているが,消化器がん手術は今後どうなるのだろうか.リンパ節郭清を行わないと再発は増えるのだろうか.

臨床報告

直腸癌前方切除術後の吻合部に発生したimplantation cystの1例

著者: 横山義信 ,   南村哲司 ,   塚田一博

ページ範囲:P.1403 - P.1406

要旨

症例は63歳,男性.直腸癌にて前方切除術を施行した.吻合はdouble stapling techniqueで行った.5か月後のCTにて吻合部右壁に囊胞性病変を認め,大腸内視鏡検査では直腸吻合部に表面平滑な隆起性病変を認めたため,implantation cystと診断した.症状もなく,増大もないため,経過観察中である.本症は消化管吻合に伴って生じる稀な合併症であるが,一般に広くは認識されておらず,確定診断に苦慮することも多い.器械吻合の普及に伴って増加しており,再発との鑑別に際して常に念頭に置く必要があると思われる.

結腸癌切除12年後の晩期肝転移の1例

著者: 高木健裕 ,   京兼隆典 ,   渡邉克隆 ,   久世真悟

ページ範囲:P.1407 - P.1411

要旨

症例は41歳,女性.盲腸癌のため結腸右半切除術を施行された.well/muc,ss,ly1,v1,n3,stageⅢbであった.4年後に肝S8に胆管内腫瘍栓を伴う転移性肝腫瘍を認め肝右葉切除を施行された.初回手術から12年3か月後に肝S3に10 cm大の腫瘍を認め,S3亜区域切除を施行した.肉眼的胆管内腫瘍栓を伴っており,組織学的には原発巣と同様の粘液産生腺癌であった.術後はUFT+LV内服を6か月行い,初回手術から17年経過し現在無再発生存中である.大腸癌術後10年以上経過してから肝再発する症例は稀である.疾患群の特徴として生物学的悪性度が低い症例が多く,特に肉眼的胆管内腫瘍栓を伴う場合は晩期再発の可能性を考慮すべきと考えられた.

膵頭部上縁の後腹膜原発Castleman病の1例

著者: 山崎祐樹 ,   吉光裕 ,   新保敏史 ,   前多力 ,   佐久間寛 ,   仲井培雄

ページ範囲:P.1412 - P.1417

要旨

Castleman病は縦隔や頸部に好発する原因不明のリンパ増殖性疾患である.今回われわれは,膵頭部上縁に発生した後腹膜原発のCastleman病の1例を経験したので報告する.症例は40歳の男性.健診による腹部超音波検査で膵頭部腫瘤を指摘された.画像診断で限局型のCastleman病を疑ったが,CEAが軽度高値であったことから癌の転移を否定できなかった.診断および治療方針の決定のため腫瘍摘出術を行い,切除標本の病理結果からCastleman病(hyaline vascular type)と診断された.限局型のCastleman病は完全切除することで予後良好であるが,稀に再発や悪性リンパ腫が合併することもあり,経過観察が必要であると思われる.

ひとやすみ・118

病気見舞いの品

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1329 - P.1329

 病院には患者さんだけではなく,たくさんの見舞い客も来院する.そして必ず見舞い品を携え,手ぶらで来院する人は稀である.見舞い品としては,花,果物,お菓子,本,そして現金などが多いと思われるが,患者さんに喜ばれる品はなんであろうか.

 花は病室の雰囲気を和らげ,不安になりがちな気持ちを癒してくれる.かつて共に働く独身外科医が虫垂炎となったことがある.誰も見舞い客がなく病室が寂しかったので,医局秘書にお願いして花を贈った.実は送った花は退院した患者さんが病室に残していった物であり,あまりにも見事なため再利用させていただいたが,贈られた独身外科医はプライドさえ取り戻した.しかし,一般に病室は狭く,花瓶を置く場所にも事欠く.さらに病んだ体には,花の世話をする負担が増すことにもなる.

1200字通信・72

7000例

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1350 - P.1350

 今年の5月23日は金曜日で,週二回ある手術日の一つでした.この日,待機手術が2例あり,その2例目は,私が外科医になって以来記録してきた個人的手術記録の7000例目となりました.手術の大小は問わず,手術室で行った症例を記録してきたものですが,いつの間にか辿り着いたという感じです.

 もっとも,手術の大小とは言っても,患者さんにすれば一世一代の出来事であったはずで,ここまで私を育てて頂いた貴重な患者さん達ということになります.この機会に,少しカビ臭い記録帳を開いてみると,苦労した症例や珍しい症例にはちょっとしたコメントやスケッチが書いてあり,症例報告として論文になった症例には印がしてあって,懐かしく思い出すことになりました.もっと多くの手術を経験されている先生方が沢山おられると判ったうえでなお,自分なりに外科医を続けてこられた証であり,この「記録」は己の人生の一里塚程度にはなりそうです.

学会告知板

第23回肝病態生理研究会 演題募集

ページ範囲:P.1375 - P.1375

日 時:2015年5月20日(水)13:00〜17:00(予定)

場 所:ホテル日航熊本(予定)

    〒860-8536熊本県熊本市中央区上通町2-1

    TEL 096-211-1111

書評

中島清一(著) 澤 芳樹(監修)—産学連携ナビゲーション—医学研究者・企業のための特許出願Q&A

著者: 松田暉

ページ範囲:P.1381 - P.1381

 この度,大阪大学次世代内視鏡治療学講座の中島清一特任教授が,「産学連携ナビゲーション:医学研究者・企業のための特許出願Q&A」を上梓されました.中島教授は大阪大学外科の同門で,内視鏡外科の分野で先進的な仕事をされ,特にNOTES(natural orifice translumenal endoscopic surgery)の分野では先駆者のひとりであり,内視鏡機器の開発だけではなく,種々の斬新なアイデアのもとで内視鏡による消化器病治療のイノベーション街道の先頭を走っているリーダのひとりでもあります.消化器外科医として,医療機器や手術手技の開発で苦労された経験をもとに書かれた本書は,外科の臨床現場や医療機器関連企業で,特許申請になじみが薄い,またそこに踏み込めない多くの方々にとっての素晴らしい手引書に思います.

 本書を手に取ってみて,臨床の外科医として,また大学医学部外科教室での研究時代の自分を思い浮かべました.特に自身が携わった小児心臓外科や低侵襲心臓手術での種々の苦労を思い出しながら,知財に関する専門家やこういった解説書が当時からあったら,一つか二つは特許が取れたのに,と思ってしまいます.そもそも知財とは何か,どういう物が特許になるのかが分からず,思いついては実験し,それを学会発表や論文にすることばかりの日常を過ごした者にとって,現役時代にこういう解説書を一度読んでおけば,何か新たな展開ができたのに,と思わずにはいられせん.

加納宣康(監修) 三毛牧夫(著)—正しい膜構造の理解からとらえなおす—ヘルニア手術のエッセンス

著者: 執行友成

ページ範囲:P.1417 - P.1417

 副題として「正しい膜構造の理解からとらえなおす」とあり,流行の腹腔鏡下ヘルニア修復術の著書かな? と思い読ませていただきました.まず基礎編では,言葉の定義から始まり,胎生期の腸回転による膜構造の図解など,正しい臨床解剖について解説されており,日常臨床として鼠径へルニアを専門として外科治療を行っている私にとって基本に帰ることのできる流れには感嘆の一言です.腹腔鏡手術が主流になりつつある昨今は,どこから切開をすれば正確な手術が可能であるかの判断をできない中堅・若手が横行する可能性があり,切開線の重要性と皮膚縫合の重要性をご教示いただける内容となっています.

 応用編の「A.鼠径ヘルニア」のセッションでは,引き込まれるように一気に読破できる明解な臨床解剖がひときわ印象的であり,すぐに役に立つ,そして熟練の外科医がハッとする著書と感じました.

昨日の患者

夫婦で同じ趣味を楽しむ

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1397 - P.1397

 かつて若者はオートバイを乗り回し,クラクションを鳴らし交通規則を無視しては社会への自己主張をしたものである.しかしながら昨今は暴走する若者ライダーは激減し,逆に紳士的な中高年ライダーを目にすることが多い.夫婦でツーリングを楽しむ女性ライダーを紹介する.

 大型オートバイで転倒した60歳代前半のKさんが,救急車で搬送されて来た.胸部X線写真で血胸を伴う肋骨骨折を認めたため,入院治療とした.入院当日こそは疼痛が著明であったが,翌日には軽減した.そこでKさんに,「オートバイが好きなのですね.どうして始めたのですか」と,語りかけた.すると「夫はオートバイが大好きで,若い頃はしばしば後に乗せてもらいツーリングしたものです.風を全身に受け,コーナーを回る感触にしびれました」と,語った.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

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投稿規定

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著作財産権譲渡同意書

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バックナンバーのご案内

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次号予告

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あとがき

著者: 桑野博行

ページ範囲:P.1424 - P.1424

 わが国におけるさまざまな学会において英文誌が刊行されており,その評価の一つの因子であるImpact Factor(I.F.)もその多くで向上する傾向にあることは,各々の学会関係者,就中,英文誌の編集に携わっている方々の多大なるご尽力の賜物であろう.またこれら学会英文誌において,「Case Report」を掲載する雑誌を別に発刊する学会も臨床の学会を中心に増してきている.日本外科学会においても「症例報告は,特に臨床医や研究者が個々の経験や新しい治療法を報告するという教育的観点から,外科手術の発展に重要な役割を担ってきました.そのため,貴重な症例報告の出版を促し,臨床教育に貢献することを目的として,新規Case Report誌として『Surgical Case Reports』を発刊することにいたしました」(日本外科学会ホームページより)として2015年1月より出版が開始される予定である.原著論文や総説に比して,引用される機会が一般的には少ない症例報告を分離することにより,元来の英文誌のI.F.の上昇を図るという一面もあるが,一方,若き医師が症例報告を英文で発表する場が,いよいよ少なくなっている現況においては,その場の提供としても「Case Report」誌の発刊はきわめて意義深いものと考える.

 本「臨床外科」も含め,外科系学会会誌や雑誌において,和文の症例報告についても,掲載のハードルがかなり高くなっている.いわんや英文の「Case Report」は言わずもがなである.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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