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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科69巻13号

2014年12月発行

雑誌目次

特集 早期胃癌の外科治療を極める—「EMR 適応外」への安全で有益な縮小手術を求めて

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.1429 - P.1429

 早期胃癌の手術術式は,その診断が容易ではなかった時代に,せっかく早期に診断され本来であれば治るべき患者さんを一例たりとも失ってはならないとの強い信念と倫理観のもとに確立されたものである.したがって,切除範囲や郭清範囲の上でのsafety marginは極めて大きい.しかし,今や早期胃癌の一部においてはEMR/ESDが標準治療である.そして,惜しくもEMR/ESDの適応からはずれた場合,次に標準治療として提示されるのはリンパ節郭清を伴う系統的な胃切除術である.大いに落胆する患者がみられるのも無理はない.一方,高齢者が増加しつつある現状を鑑みると,上部の胃癌にも常に系統的胃切除を行うのが本当に良いことなのかどうか疑問に感じられることもある.このような場合の選択肢はないものだろうか.しかし,何らかの縮小手術を提案するのであれば,病変の過小評価を避ける必要があり,現段階での術前診断の限界を知っておきたい.また,早期胃癌の手術の多くが完全内視鏡下で行われつつある現状では,確実な切除ラインあるいは切除範囲の決定のためにもそれなりの工夫が必要である.さらに言えば,噴門側胃切除術の胃全摘術に対する,あるいは幽門保存胃切除術の幽門側胃切除術に対する明らかな優越性についても,必ずしも示されていない.こうした縮小手術のコツをつかみ,なるべく患者の利益につなげる必要もある.今や早期胃癌の治療に求められている質は「治ればよい」という域を確実に超えており,その治療は実はなかなか難物であるともいえる.

縮小手術のための画像診断のポイント

胃癌の深達度診断と進展範囲の診断:アップデート

著者: 宮原良二 ,   舩坂好平 ,   古川和宏

ページ範囲:P.1430 - P.1437

【ポイント】
◆通常内視鏡による観察は白色光による非拡大観察が基本であり,病変の肉眼型,大きさを把握し,形態から診断を行う.
◆拡大内視鏡ではNBI,BLIを併用して観察する.まず中程度の拡大率で病変の境界を確認し,強拡大にて微小血管,微細粘膜構造を評価する.
◆超音波内視鏡では病変の最深部の断層像を得ることにより,客観的な深達度診断が可能となる.

画像による胃癌のリンパ節転移診断

著者: 深川剛生 ,   森田信司 ,   藤原久貴 ,   和田剛幸 ,   片井均

ページ範囲:P.1438 - P.1442

【ポイント】
◆CTスキャンによるリンパ節転移の有無について,術前診断の正診率は進行癌の場合60%程度である.リンパ節転移個数についての診断はより困難となる.
◆早期胃癌(cT1症例)の病理学的リンパ節転移例は,術前にはほとんど診断されていない.
◆安易な縮小手術を行わないことと,慎重な術中判断が重要である.

ESDの現状

ESDでここまでできる

著者: 辻陽介 ,   藤城光弘 ,   小池和彦

ページ範囲:P.1444 - P.1450

【ポイント】
◆早期胃癌に対するESDにより,低侵襲かつ腫瘍の確実な一括切除が可能となり,内視鏡治療で完治しうる早期胃癌の幅が広がった.
◆今後,ESDの腹腔鏡下手術との融合による新たな早期胃癌治療が確立されてくる可能性がある.

切除範囲の決定法

センチネルナビゲーションの現状

著者: 柳田茂寛 ,   上之園芳一 ,   有上貴明 ,   石神純也 ,   夏越祥次

ページ範囲:P.1452 - P.1456

【ポイント】
◆術前診断早期胃癌におけるリンパ節転移診断の転移検出感度は4.7%である.
◆正確なリンパ節転移診断手技としてのセンチネルリンパ節(SN)検索において,分子生物学的手法を用いた正確な術中迅速診断が重要である.
◆胃癌におけるSN navigation surgery(SNNS)については,根治性とQOLの客観的評価が今後必要である.

完全腹腔鏡下胃切除術における切離ライン決定法

著者: 小林建太 ,   小嶋一幸 ,   井ノ口幹人 ,   大槻将 ,   藤森喜毅 ,   佐藤雄哉 ,   谷中淑光 ,   樋口京子 ,   冨田知春 ,   油谷知毅

ページ範囲:P.1457 - P.1463

【ポイント】
◆完全腹腔鏡下胃切除術における切離ライン決定法を症例提示とともに概説する.
◆術前の正確な範囲診断が第一義である.術中のマーキング認識で腫瘍学的担保を得る.
◆低分化型・表層拡大型胃癌に対しては特に注意を要する.疑わしければ迷わず迅速病理診断に提出する.

手術手技のポイント

—縮小手術のコツとピットフォール①—噴門側胃切除術(観音開き法)

著者: 西﨑正彦 ,   黒田新士 ,   松村年久 ,   高嶌寛年 ,   加藤大 ,   菊地覚次 ,   桒田和也 ,   香川俊輔 ,   藤原俊義

ページ範囲:P.1464 - P.1471

【ポイント】
◆噴門側胃切除術後の再建方法は食道残胃吻合法,空腸間置法,空腸囊間置法,ダブルトラクト法の4種類が挙げられるが,いまだ標準再建法は確立されていない.
◆噴門側胃切除術は胃全摘術に対する縮小手術の位置づけであるが,1950年代には欧米で逆流性食道炎の根本的治療として研究・開発されていた.
◆噴門側胃切除術の郭清および逆流防止弁形成食道残胃吻合法(観音開き法)のコツとピットフォールを概説する.

—縮小手術のコツとピットフォール②—完全腹腔鏡下幽門保存胃切除術

著者: 李相雄 ,   河合英 ,   田代圭太郎 ,   田中亮 ,   革島悟史 ,   内山和久

ページ範囲:P.1472 - P.1475

【ポイント】
◆幽門保存胃切除術は,早期ダンピング症候群や体重減少の抑制,残胃炎の発生を低下させうる機能温存手術であり,自律神経温存,幽門下動脈温存などの精緻な操作が要求されることから腹腔鏡下手術に適した術式である.
◆幽門下動静脈と右胃動静脈を温存し,幽門洞を大きく残すことで術後胃内容うっ滞の発生率が低下する.
◆器械吻合で生じた挿入口を新規縫合糸であるBarbed sutureで縫合閉鎖することで,幽門洞を全容量残すことができる.

幽門側胃切除術でどこまで高位までとれるのか—上部早期胃癌に対する腹腔鏡下高位幽門側胃切除術の適応と手技

著者: 大橋学 ,   比企直樹 ,   入野誠之 ,   布部創也 ,   佐野武 ,   山口俊晴

ページ範囲:P.1476 - P.1481

【ポイント】
◆術前に病変の位置を把握し,食道胃接合部を温存する切除線を設計しておくことは必要であるが,術中は口側断端の距離と内視鏡の通過性の確認がより重要である.
◆病変の近傍に,陰性生検に基づいたマーキングクリップを2か所置いたほうが確実な口側断端が確保できる.
◆術中内視鏡の切除胃側内での反転操作で,マーキングクリップを確認して確実に口側断端を確保する.断端の術中迅速診断も必須である.

LECSとNEWS—胃癌に対する未来の縮小手術のあり方

著者: 愛甲丞 ,   瀬戸泰之

ページ範囲:P.1482 - P.1487

【ポイント】
◆腹腔鏡・内視鏡を併用した胃局所切除術として,LECS,NEWSと呼ばれる新たな手技が開発されている.NEWSでは,穿孔させずに胃の局所切除が可能である.
◆通常の腹腔鏡下手術,ESDのテクニックを用いて施行することができるが,内科・外科の協働が最も重要である.
◆現在はリンパ節転移の可能性のない胃の粘膜下腫瘍などを対象として行われるが,より正確なリンパ節転移診断手技との併用により将来的には胃癌に対する手技にもなりうる.

術後の課題

残胃の癌は減らせるのか—除菌について

著者: 加藤元嗣 ,   小野尚子 ,   間部克裕

ページ範囲:P.1488 - P.1492

【ポイント】
◆胃癌は組織型を問わずHelicobacter pylori感染に伴う慢性胃炎を背景として発症する.
◆胃癌治療には内科治療と外科治療があるが,内視鏡的粘膜下層剝離術の普及によって,胃癌の内視鏡治療の適応拡大がなされてきた.
H. pylori除菌が内視鏡治療後の異時癌の発生を抑制することは,わが国におけるランダム化比較試験より証明された.H. pylori除菌には異時癌の予防効果が期待できる.
◆外科切除後の残胃再発には,十二指腸液の逆流,迷走神経切離による脱神経支配など,術後の胃内環境の変化が関与しているが,H. pylori除菌の予防効果は明らかではない.

病院めぐり

姫路聖マリア病院外科

著者: 横山伸二

ページ範囲:P.1493 - P.1493

 当院の基礎は,ドイツに本部を有するカトリック宗教法人の傘下にある,米国イリノイ州スプリングフィールドのアメリカ管区法人の援助で,1950年2月に姫路市北東部の田園地帯に開設された診療所に始まります.当初,岡山大学医学部第二外科(現在の呼吸器・乳腺甲状腺外科教室)出身の清水先生の赴任のもとに,外科・内科・小児科を標榜するわずか16病床を有す診療所として開設しました.何度かの施設基準の拡充,診療科目の増加により,1984年に現在の病床360床を有する施設となり,現在では地域の基幹病院に成長しました.1998年には日本病院機能評価機構認定施設,2002年にISO9001:2000認証を受け,2003年には医師卒後臨床研修病院の認可を受けました.2006年には電子カルテの導入,2007年にはプライバシーマーク認証を受けました.さらに2013年より社会医療法人姫路聖マリア病院に法人変更し,徐々に公的責務を有する急性期医療施設となっています.
 現在,外科医はスタッフ6名,後期研修医3名の計9名です.当外科では毎年,当院初期研修医のなかより1名以上の外科医を誕生させ,現在まで8名,予定者を含めますと11名となっています.これはスタッフ一同,外科医を誕生させ,外科医の魅力,使命を教えることに喜びを感じている結果です.

FOCUS

外科治療における短期滞在手術「4泊5日入院」の意義

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.1494 - P.1495

 本年4月の平成26年度診療報酬改定において,短期滞在手術基本料3の対象手術が拡大されたことが大きな話題となった.今後の保険診療における影響は少なくないと考えられる.というのは,わが国で初めてアメリカ同様の1入院あたり包括支払制度(DRG/PPS:Diagnosis Related Group/Prospective Payment System)が本格的に導入されたことになるからである.
 本稿では,その意味を理解していただくために,まず従来のわが国の保険診療における短期滞在手術基本料の概略を述べる.

2014年のASCO報告

著者: 山口研成 ,   原浩樹 ,   山田透子 ,   吉井貴子 ,   朝山雅子

ページ範囲:P.1496 - P.1505

 消化器がん領域における今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)では,大腸がんの化学療法が注目を浴びていた.特に,一次治療における分子標的薬ベバシズマブ(bev)とセツキシマブ(cet)の直接比較の試験結果(CALGB/SWOG 80405:80405試験)が報告され,注目を集めていた.本稿では,この演題を含めASCOで大腸がん領域の注目すべき報告にfocusして紹介する.

必見! 完全体腔内再建の極意・21

幽門側胃切除術後再建—Roux-en-Y再建(逆蠕動)

著者: 須田康一 ,   田中毅 ,   石田善敬 ,   宇山一朗

ページ範囲:P.1506 - P.1515

■■はじめに
 完全腹腔鏡下胃切除は体腔内吻合を伴う腹腔鏡下胃切除で,腹腔鏡補助下手術と比べてさらなる創縮小効果,低侵襲性と,より確実な外科的切除縁が期待できる1).当科では,1997年より鏡視下手術の拡大視効果に着目して早期胃癌のみならず進行胃癌も含む治癒切除可能なすべての胃癌症例を対象とし,これまでに胃全摘を含む1,000例以上の完全腹腔鏡下胃切除を行い良好な成績を収めている2,3)
 本稿では,functional end-to-end anastomosis(FEEA)による幽門側胃切除術後Roux-en-Y再建(逆蠕動)の手技と,当科における体腔内吻合の原理原則について概説する.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・31

喫煙患者の手術—禁煙で術後合併症が減るか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.1516 - P.1519

素朴な疑問
 喫煙は心臓病・脳卒中・肺疾患(COPD)の危険因子であり,喫煙者の手術は死亡率が高い.喫煙者は易感染性で創傷治癒がわるく,喫煙者が多い肺がんや食道がんの手術は肺炎や吻合不全の頻度が高い.外科医は喫煙者に術前の禁煙を厳しく指示するが,禁煙で術後合併症が減るのだろうか.1か月以上の禁煙で肺切除や食道切除の肺合併症が減るのだろうか.

臨床報告

腎癌・大腸癌に合併し転移性脾腫瘍との鑑別が困難であった脾過誤腫の1例

著者: 香川哲也 ,   小林達則 ,   上山聰 ,   岡林弘樹 ,   白﨑義範 ,   荻野哲也

ページ範囲:P.1521 - P.1524

要旨
症例は59歳,男性.腫瘍マーカーの上昇を指摘され,当科を紹介されて受診した.CTおよび下部消化管内視鏡検査にて,大腸腫瘍(上行結腸および直腸RS),右腎腫瘍および脾腫瘍が指摘された.大腸癌,腎癌および転移性脾腫瘍の術前診断にて,それぞれに対する切除術を施行した.結腸癌pT3pN3cM0,pStageⅢb,直腸癌pT2pN0cM0, pStageⅠ,腎細胞癌pT1bpN0cM0,pStageⅠであったが,脾腫瘍は病理学的に過誤腫(赤脾髄型)と診断された.脾過誤腫は比較的稀な良性疾患である.自験例は腎細胞癌および大腸癌の同時性3重複癌に合併し,転移性脾腫瘍との鑑別を要したきわめて稀な1例であったので,文献的考察を加え報告する.

腹腔鏡下手術が有用であった盲腸腹膜垂によるイレウスの1例

著者: 陸大輔 ,   山田育男 ,   長野郁夫 ,   金澤英俊 ,   佐藤太一

ページ範囲:P.1525 - P.1530

要旨
症例は開腹歴のない79歳の女性で,腹痛と嘔吐を主訴に来院した.腹部造影CTで回盲部に閉塞起点がある小腸イレウスであったが,腹部所見や血液検査所見から保存的治療可能と判断し,イレウス管を挿入して経過観察した.イレウス管からの小腸造影で通過障害が改善しなかったため,第8病日に腹腔鏡下に手術を施行した.術中所見は盲腸の腹膜垂が回盲部の腸間膜に癒着し,その中に回腸が約30 cm嵌頓していた.腹膜垂を切離して腸閉塞を解除したが,腸管壊死は認めず腸切除は行わなかった.腹膜垂によるイレウスの本邦報告例は24例あり,自験例は25例目であった.開腹歴のないイレウスに対する腹腔鏡下手術は従来の開腹手術に比べ,低侵襲で術後在院日数が有意に短かった.

回腸導管を巻き込んだ回腸絞扼性イレウスの1例

著者: 廣瀬創 ,   宮崎知 ,   宮嵜安晃 ,   道浦俊哉 ,   山邉和生 ,   長岡眞希夫

ページ範囲:P.1531 - P.1534

要旨
症例は65歳,男性.6年前に膀胱癌に対して膀胱全摘術,回腸導管造設術を受けていた.術後約1年後より傍ストーマヘルニアと診断され,嵌頓を繰り返していた.2013年12月に腹痛,嘔吐を認めたため入院した.CTにて回腸導管を中心に捻転した回腸の拡張を認め,絞扼性イレウスと診断し手術を施行した.回腸導管を回腸が渦状に取り巻き,索状物によって絞扼されていた.壊死腸管を切除し,傍ストーマヘルニアは単純縫合修復を行った.今回経験した回腸導管を巻き込んだ絞扼性イレウスは,回腸導管の圧排・閉塞による画像変化を認め,診断にCTが大変有用であった.

腹腔鏡手術した魚骨によるMeckel憩室穿孔の1例

著者: 松宮弘喜 ,   矢田善弘 ,   森本智紀 ,   米永吉邦 ,   東出俊一 ,   野田秀樹

ページ範囲:P.1535 - P.1540

要旨
症例は78歳,男性.腹痛を主訴に近医を受診し,腹部CTにより消化管穿孔の疑いで当院へ紹介となり,Meckel憩室の穿孔と診断した.腹膜刺激症状はなく,抗血小板薬を内服していたため待機手術を予定した.第7病日のCTでMeckel憩室の近傍に線状影を認め,魚骨によるMeckel憩室穿孔と診断した.第8病日に腹腔鏡手術を施行した.回腸末端から口側約50 cmの部位にMeckel憩室とその近傍に魚骨を認め,Meckel憩室を含めた回腸部分切除術を施行した.魚骨によるMeckel憩室穿孔は本邦に28例の報告があり,術前診断し腹腔鏡手術をした症例は稀である.しかし,確定診断,腹腔内の検索,処置に腹腔鏡手術は有用であり,積極的に行うべきと考えた.

手術手技

当科における吊り上げ式腹腔鏡下総胆管切石術—ラッププロテクターminimini®の使用

著者: 田代耕盛 ,   峯一彦 ,   市成秀樹 ,   松田俊太郎 ,   米井彰洋 ,   宮原悠三

ページ範囲:P.1541 - P.1546

要旨
当科における総胆管結石症に対する手術は,すべて吊り上げ式で行っている.ポートは臍直下に12 mm×1本,右腹部に5 mm×2本,上腹部にラッププロテクターminimini® 50/40(八光)を設置する.吊り上げ法の利点は,経済的,開腹手術器械を使用可能,胆道鏡の出し入れが容易,熟練すれば胆囊摘出も含めて1時間前後で手術可能,などが挙げられる.気腹法が主流の現在であるが,吊り上げ法は利点が多く,外科医として手技の選択肢の一つに考慮すべき方法である.今回,当科における手術法とその利点について報告する.

1200字通信・73

ケモ,その後

著者: 板野聡

ページ範囲:P.1443 - P.1443

 これまでにも癌化学療法(以下,ケモ)について何度か書いてきましたが,最近になって,ある意味で「ついにケモもここまで来たか」という思いを持つことになりました.
 ご存知のように,次々と新たな抗癌剤が開発され,ここ数年で多くの分子標的薬も登場して,治療の選択肢が増えてきています.そのうえで,ガイドラインでは段階を踏んだ治療が推奨され,さらには前倒しでの使用も勧められるようになっています.また,最近では,第四次治療と称して,新しい内服の分子標的薬も登場するに至っています.学問的には,それはそれで良いことなのでしょうが,改めて思うことになります.「医者は,一体どこまでやり続けなければならないのか?」

昨日の患者

チャーミングなおばあさん

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1471 - P.1471

 市中病院の外科外来には,様々な患者さんが来院する.癌や胆石などの手術目的で紹介された患者さんもいれば,虫垂炎などの急性腹症,さらには外傷などの飛び込み患者さんもいる.日々の診療を介し,患者さんとの交流を楽しんでいる.
 90歳代のIさんが,転倒による左前腕部裂傷にて救急搬送されて来た.裂傷が大きく,大量出血をきたしていた.そこで私は不安を和らげるために,「高齢になられても転んで怪我をするとは,幼い頃より少々勝気でおてんば娘ではなかったですか」と,声を掛けた.するとIさんは,「いいえ.私は市内の老舗の箱入り娘で,蝶よ花よと大事に育てられました」と語った.

ひとやすみ・119

大学医局への入局の勧め

著者: 中川国利

ページ範囲:P.1505 - P.1505

 新医師臨床研修制度の発足を契機に,大学の医局に入局することなく市中病院で各種資格を取得し,外科勤務医として邁進する医師が増加しつつある.本人が納得できればすべて正解であるが,長い外科医生活,入局も良いのではないかと私の経験から思う.
 大学の医局には教授をはじめとした多数の有能な先輩が在局し,最先端の臨床研究や高度な手術を積極的に行っている.そこで目指すべき外科医像を身近な先輩に求め,少しでも近づくべく努力を重ねる.また多数の同年輩と切磋琢磨し,同じ年代における悩みを共有する.さらには後輩を指導することにより,先輩としての自覚や指導力を磨くことができる.

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原稿募集 私の工夫—手術・処置・手順

ページ範囲:P. - P.

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P. - P.

投稿規定

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著作財産権譲渡同意書

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バックナンバーのご案内

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次号予告

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あとがき

著者: 小寺泰弘

ページ範囲:P.1552 - P.1552

 わが国における胃癌の診断学は世界でも群を抜いております.「ガン回廊の朝」というノンフィクションには,早期胃癌を診断する能力の向上に向けての国立がんセンター(当時)の医師の工夫と奮闘ぶりが克明に描かれており,学生時代にこれを読んだ私は内科医に憧れたものです.その後,先輩に「内科は頭を使うから君には無理だ」と言われて外科を選んだ私は,今度は癌研の丸山雅一先生が書かれた教科書を読んで衝撃を受けました.外科医が切除標本を板に貼る際の貼り方が気に入らないとの叱責なのですが,「私が撮った胃透視の写真をちゃんと見ていれば,このような貼り方にならないはずだ」というわけで,美しい(?)Ⅱc病変がゆがんで固定されたりしていると,その美意識の欠如に腹が立ってならないといったところでしょうか.その時は驚いたものですが,今は日本人としてこういう感覚を失ってはならないと思っております.
 胃潰瘍の手術という機会をあまり与えられることがなくなった私たちの世代ですが,内科の先生方に多くの早期胃癌を見つけていただいたおかげで,若いうちから豊富な手術経験を積み,さらに内視鏡外科手術のような新しい領域にもあまり臆することなく突き進むことができました.それは,先人が定めた早期胃癌の手術が比較的「大きな」手術であったためです.手術の醍醐味を十分に味わうことができる内容である一方で,多少のことがあってもまず再発にはつながらない,すなわち,癌の手術としての安全域が他の術式ではありえないくらい大きな手術であるというのがこれまでの早期胃癌の手術の特徴です.本当によく勉強させていただきました.しかし,早期胃癌の手術もそれでは済まなくなってきました.胃癌の患者さんには高齢者の比率が増えるばかりです.治癒の確率を1%単位でじりじり上げることよりも,術後に自宅で元気に生活できることが優先されるケースも増えてくるのではないでしょうか.いや,欲を言えば治癒の確率を下げずに術後のQOLをじりじりと,あるいは場合により飛躍的に向上させたい.そういう思いを持つ著者の先生方の現在の到達点を勉強しようと思い立って,本特集を企画いたしました.明日の診療に通じる内容を見つけていただき,お役立ていただければ幸いです.

「臨床外科」第69巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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