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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科69巻2号

2014年02月発行

雑誌目次

特集 ディベート★消化器・一般外科手術―選ぶのはどっちだ!

ページ範囲:P.133 - P.133

 外科の手術手技・術式は手術機器や技術の進歩により時代とともに変わりうる.また,手術適応そのものも病態生理の解明や内科的治療の進歩に伴い再評価され,なかには消滅するものもある.過去に外科的常識とされたものが,今では非常識あるいは疑わしいものがある一方,その逆もある.Controversialである外科的治療法は,症例の蓄積や臨床試験によりエビデンスのレベルが向上し,優劣が評価できるようになることが望まれる.

 本特集では,現在でも意見の分かれるテーマのうち,消化器外科および一般外科の9つの項目を取り上げ,ディベート形式で執筆していただいた.本特集が読者の手術法に対する視野を広げることに役立ち,ひいては治療法選択の一助となれば幸いである.

消化器外科手術 テーマ1◆食道胃接合部癌に対するアプローチ

食道胃接合部癌に対するアプローチ:経腹 vs 経胸

ページ範囲:P.134 - P.134

経腹の立場から
①経腹を選ぶメリット

 経裂孔アプローチでの徹底した下縦隔郭清により,開胸と同等もしくはさらに優れた予後が期待できる,合併症が少ない,術後の呼吸機能が優れる,体位変換が必要ない,手術時間が短い点がメリットである.
②経腹のデメリットとそれに対する考え方・対処法

 胃を使った再建時には視野確保が困難である,小腸を用いた高位での再建が難しい,開胸手術に比し解剖の把握が難しい,という手技上の困難性がデメリットである.これらに対しては,経裂孔視野で開胸することにより視野は格段に向上する,腹腔鏡や内視鏡下手術用の器具を補助的に利用するなどの工夫により,克服可能である.


経胸の立場から

 われわれがめざす普遍的な目的は,患者を根治へ導くことである.食道胃接合部癌の腫瘍学的見地に基づき至適郭清範囲を同定し,根治性を優先した術式を決定する必要がある.縦隔リンパ節転移は組織型にかかわらず解剖学的位置によるリンパ流に規定され,食道浸潤長が20 mmを超えるものには高い縦隔リンパ節転移リスクがある.これらには“右開胸食道亜全摘2領域郭清”が必要であり,縦隔転移を認めた例でも開胸手術による5年全生存率は47%で,長期生存は可能である.わが国においては右開胸食道亜全摘術の安全性は確立されており,リスク回避のために開胸を避ける必要はない.今後,根治性を最優先する立場に立って症例を蓄積し,より正確なリンパ節転移状況を把握し,真の治療方針を構築する必要がある.

食道胃接合部腺癌に対するアプローチ:「経腹」の立場から

著者: 吉川貴己 ,   長谷川慎一 ,   利野靖 ,   大島貴 ,   國崎主税 ,   尾形高士 ,   長晴彦 ,   佐藤勉 ,   益田宗孝

ページ範囲:P.135 - P.140

①経腹を選ぶメリット

 経裂孔アプローチでの徹底した下縦隔郭清により,開胸と同等もしくはさらに優れた予後が期待できる,合併症が少ない,術後の呼吸機能が優れる,体位変換が必要ない,手術時間が短い点がメリットである.
②経腹のデメリットとそれに対する考え方・対処法

 胃を使った再建時には視野確保が困難である,小腸を用いた高位での再建が難しい,開胸手術に比し解剖の把握が難しい,という手技上の困難性がデメリットである.これらに対しては,経裂孔視野で開胸することにより視野は格段に向上する,腹腔鏡や内視鏡下手術用の器具を補助的に利用するなどの工夫により,克服可能である.

食道胃接合部癌に対するアプローチ:「経胸」の立場から―食道胃接合部癌における至適郭清範囲に基づく術式選択

著者: 白石治 ,   牧野知紀 ,   安田卓司

ページ範囲:P.141 - P.146

 われわれがめざす普遍的な目的は,患者を根治へ導くことである.食道胃接合部癌の腫瘍学的見地に基づき至適郭清範囲を同定し,根治性を優先した術式を決定する必要がある.縦隔リンパ節転移は組織型にかかわらず解剖学的位置によるリンパ流に規定され,食道浸潤長が20 mmを超えるものには高い縦隔リンパ節転移リスクがある.これらには“右開胸食道亜全摘2領域郭清”が必要であり,縦隔転移を認めた例でも開胸手術による5年全生存率は47%で,長期生存は可能である.わが国においては右開胸食道亜全摘術の安全性は確立されており,リスク回避のために開胸を避ける必要はない.今後,根治性を最優先する立場に立って症例を蓄積し,より正確なリンパ節転移状況を把握し,真の治療方針を構築する必要がある.

テーマ2◆幽門側胃切除後の再建法

幽門側胃切除後の再建法:Billroth Ⅰ法 vs Roux-en-Y法

ページ範囲:P.147 - P.147

Billroth Ⅰ法の立場から

 Billroth Ⅰ(BⅠ)法とRoux-en-Y(RY)法を比較する無作為比較試験を実施し,BⅠ法を実施する根拠となった試験結果を以下に述べる.【試験方法】対象は,BⅠ法でもRY法でも再建可能と判断される胃癌症例である.術中登録で適格性を確認後,両群をランダム割付し,主評価項目は術後1年目の体重減少割合とした.【結果】332例が登録された(BⅠ群163例,RY群169例).両群間で背景因子に偏りはなかった.出血量に変わりはなく,手術時間はRY群で有意に長かった(RY群214±180,BⅠ群210±217(分)p<0.001).術後短期合併症はRY群で嘔吐,胃内容停滞などが有意に多かった.術後1年目の体重減少割合はBⅠ群9.1%,RY群9.7%と有意差を認めず(p=0.39),そのほかの栄養指標においても有意差を認めなかった.【結果】1年目の術後の栄養状態,QOLなどに大きな差はなかった.以上の結果から,手術が簡便で,術後短期成績に優れているBⅠ法を選択すべきだと結論した.ただし,逆流性食道炎は,BⅠ法での克服すべき課題である.


Roux-en-Y法の立場から

 Roux-en-Y法を選択するメリットとして,
①残胃が小さい場合の再建が可能,②吻合部に緊張がかかりにくい,③十二指腸液の逆流が少ない(逆流性食道炎が少ない),④十二指腸付近の局所再発がある場合に影響を受けにくい,⑤残胃癌の手術は比較的容易,といった点が挙げられる.

 一方,デメリットとしては,
①吻合箇所が多い,②術後の胆道系疾患(総胆管結石など)や十二指腸腫瘍に対する内視鏡的治療のためのアプローチがしづらい,③食物通過ルートが非生理的(十二指腸を食物が通過しないことから十二指腸関連消化管ホルモンの分泌障害が起こりうる.術後胆石の発症率が高いという報告もある),④術後十二指腸が盲端になるため縫合不全を生じると致命的となりうる,⑤挙上空腸作製のために間隙ができることで内ヘルニア(ピーターセンヘルニアなど)を生じる可能性がある,といった点が挙げられる.

幽門側胃切除後の再建法:「Billroth Ⅰ法」の立場から

著者: 瀧口修司 ,   宮崎安弘 ,   高橋剛 ,   黒川幸典 ,   山崎誠 ,   宮田博志 ,   中島清一 ,   森正樹 ,   土岐祐一郎

ページ範囲:P.148 - P.153

 Billroth Ⅰ(BⅠ)法とRoux-en-Y(RY)法を比較する無作為比較試験を実施し,BⅠ法を実施する根拠となった試験結果を以下に述べる.【試験方法】対象は,BⅠ法でもRY法でも再建可能と判断される胃癌症例である.術中登録で適格性を確認後,両群をランダム割付し,主評価項目は術後1年目の体重減少割合とした.【結果】332例が登録された(BⅠ群163例,RY群169例).両群間で背景因子に偏りはなかった.出血量に変わりはなく,手術時間はRY群で有意に長かった(RY群214±180,BⅠ群210±217(分)p<0.001).術後短期合併症はRY群で嘔吐,胃内容停滞などが有意に多かった.術後1年目の体重減少割合はBⅠ群9.1%,RY群9.7%と有意差を認めず(p=0.39),そのほかの栄養指標においても有意差を認めなかった.【結果】1年目の術後の栄養状態,QOLなどに大きな差はなかった.以上の結果から,手術が簡便で,術後短期成績に優れているBⅠ法を選択すべきだと結論した.ただし,逆流性食道炎は,BⅠ法での克服すべき課題である.

幽門側胃切除後の再建法:「Roux-en-Y法」の立場から

著者: 比企直樹

ページ範囲:P.154 - P.158

 Roux-en-Y法を選択するメリットとして,
①残胃が小さい場合の再建が可能,②吻合部に緊張がかかりにくい,③十二指腸液の逆流が少ない(逆流性食道炎が少ない),④十二指腸付近の局所再発がある場合に影響を受けにくい,⑤残胃癌の手術は比較的容易,といった点が挙げられる.

 一方,デメリットとしては,
①吻合箇所が多い,②術後の胆道系疾患(総胆管結石など)や十二指腸腫瘍に対する内視鏡的治療のためのアプローチがしづらい,③食物通過ルートが非生理的(十二指腸を食物が通過しないことから十二指腸関連消化管ホルモンの分泌障害が起こりうる.術後胆石の発症率が高いという報告もある),④術後十二指腸が盲端になるため縫合不全を生じると致命的となりうる,⑤挙上空腸作製のために間隙ができることで内ヘルニア(ピーターセンヘルニアなど)を生じる可能性がある,といった点が挙げられる.

テーマ3◆下部直腸癌における側方リンパ節郭清

下部直腸癌における側方リンパ節郭清:郭清 vs 化学放射線療法

ページ範囲:P.159 - P.159

リンパ節郭清の立場から

 わが国では専門施設を中心に,下部直腸癌をおもな対象として側方郭清が行われてきた.近年の単一施設からの報告では,側方転移陽性例の5年生存率は36~42%である.側方リンパ節転移はStage Ⅳより予後は良好で,側方郭清が予後を改善することが,大腸癌研究会の集積データから明らかにされている.また,全直腸間膜切除と比べ,Stage Ⅲ直腸癌では生存率を改善することがメタアナリシスで示されている.側方郭清では,術中出血量の増加や術後の性機能・排尿機能障害が問題となるが,自律神経温存術の普及に伴い,これらの欠点は改善されている.

 一方,術前化学放射線療法は手術単独(全直腸間膜切除)に比べ,直腸癌術後の局所(骨盤内)再発率を低下させるが,側方リンパ節転移を制御できるという根拠に乏しい.また,生存率を改善しないことがメタアナリシスで明らかにされている.わが国においては,下部直腸癌に対する側方郭清は良好な生存率を担保する最も確実な局所療法と考えられる.


化学放射線療法の立場から

 下部直腸癌の局所再発抑制において,欧米の標準治療である術前化学放射線治療と,側方リンパ節郭清を直接比較した大規模第Ⅲ相ランダム化比較試験は存在しない.今までのエビデンスでは,局所再発制御には術前化学放射線療法が優っている可能性が高く,腫瘍縮小によるdown stage後,臓器温存の可能性や肛門括約筋温存の可能性においても術前化学放射線療法が優勢である.

 両治療法のデメリットとして性機能障害・排尿機能障害,手術操作の困難性,術後合併症の増加が挙げられるが,側方リンパ節郭清のほうが手術の侵襲が高く,これらのデメリットに関しても術前化学放射線治療のほうが軽度ではないかと推察される.しかしながら,根治手術まで時間がかかること,放射線治療における急性期・晩期障害や二次発癌の問題が術前化学放射線治療で劣る点である.今後の課題として,局所再発制御は可能となっても,最も重要な生存期間延長に寄与する報告が少ないことから,遠隔転移制御が予後を決定すると思われるため,化学療法のレジメン選択が重要と思われる.

下部直腸癌における側方リンパ節郭清:「リンパ節郭清」の立場から

著者: 石田秀行 ,   隈元謙介 ,   石橋敬一郎

ページ範囲:P.160 - P.163

 わが国では専門施設を中心に,下部直腸癌をおもな対象として側方郭清が行われてきた.近年の単一施設からの報告では,側方転移陽性例の5年生存率は36~42%である.側方リンパ節転移はStage Ⅳより予後は良好で,側方郭清が予後を改善することが,大腸癌研究会の集積データから明らかにされている.また,全直腸間膜切除と比べ,Stage Ⅲ直腸癌では生存率を改善することがメタアナリシスで示されている.側方郭清では,術中出血量の増加や術後の性機能・排尿機能障害が問題となるが,自律神経温存術の普及に伴い,これらの欠点は改善されている.

 一方,術前化学放射線療法は手術単独(全直腸間膜切除)に比べ,直腸癌術後の局所(骨盤内)再発率を低下させるが,側方リンパ節転移を制御できるという根拠に乏しい.また,生存率を改善しないことがメタアナリシスで明らかにされている.わが国においては,下部直腸癌に対する側方郭清は良好な生存率を担保する最も確実な局所療法と考えられる.

下部直腸癌における側方リンパ節郭清:「化学放射線療法」の立場から

著者: 髙橋孝夫 ,   吉田和弘

ページ範囲:P.164 - P.169

 下部直腸癌の局所再発抑制において,欧米の標準治療である術前化学放射線治療と,側方リンパ節郭清を直接比較した大規模第Ⅲ相ランダム化比較試験は存在しない.今までのエビデンスでは,局所再発制御には術前化学放射線療法が優っている可能性が高く,腫瘍縮小によるdown stage後,臓器温存の可能性や肛門括約筋温存の可能性においても術前化学放射線療法が優勢である.

 両治療法のデメリットとして性機能障害・排尿機能障害,手術操作の困難性,術後合併症の増加が挙げられるが,側方リンパ節郭清のほうが手術の侵襲が高く,これらのデメリットに関しても術前化学放射線治療のほうが軽度ではないかと推察される.しかしながら,根治手術まで時間がかかること,放射線治療における急性期・晩期障害や二次発癌の問題が術前化学放射線治療で劣る点である.今後の課題として,局所再発制御は可能となっても,最も重要な生存期間延長に寄与する報告が少ないことから,遠隔転移制御が予後を決定すると思われるため,化学療法のレジメン選択が重要と思われる.

テーマ4◆肝切除術における肝門部脈管処理

肝切除術における肝門部脈管処理:一括処理 vs 個別処理

ページ範囲:P.171 - P.171

一括処理の立場から

 Glisson鞘一括処理法による肝門部血行処理先行肝切除術のメリットは,脈管個別処理法と比較して手技が簡便で,血行処理時間が短く,出血量の軽減にも繋がることが挙げられる.また,肝内三次分枝Glisson鞘を処理する亜区域切除に対しても切除理念が合致する.

 一方のデメリットとしては,この術式が発表されてから30年近く経過したが,いまだに誤った方法で行われていることを目にする.また,肝細胞癌や転移性肝癌でも腫瘍の性格や局在によっては適応されないこともある.肝門処理法としてGlisson鞘一括法にこだわる必要性はないが,肝臓外科においてはこの術式の理念,方法に精通しておくことは非常に重要であり,手術手技に幅がもてる.

 本稿では,Glisson鞘一括処理法の概念とメリット,デメリットについて解説する.


個別処理の立場から

 「個別処理」は右肝切除や左肝切除,さらに左傍正中領域切除(S3+S4切除),右傍正中領域(前区域)切除や右外側領域(後区域)切除に適応される方法であり,それぞれ肝離断前に切除予定領域の動静脈を肝門部にて「個別処理」する.そのメリットとしては,①腫瘍が切除領域のGlisson鞘根部に近接するとき,肝離断後にGlisson鞘を腫瘍から離して切離できること,②動門脈を剝離していることにより,片葉阻血を容易に適応できること,③離断前の肝実質損傷とそれに伴う出血を生じないこと,④門脈内腫瘍栓陽性症例,肝門部胆管癌手術,生体肝移植手術などの肝門処理に通じることができること,などがある.特に安全性において「一括処理」よりも有利だと考え,肝切除術におけるGold Standardと考える.

肝切除術における肝門部脈管処理:「一括処理」の立場から

著者: 片桐聡 ,   山本雅一

ページ範囲:P.172 - P.174

 Glisson鞘一括処理法による肝門部血行処理先行肝切除術のメリットは,脈管個別処理法と比較して手技が簡便で,血行処理時間が短く,出血量の軽減にも繋がることが挙げられる.また,肝内三次分枝Glisson鞘を処理する亜区域切除に対しても切除理念が合致する.

 一方のデメリットとしては,この術式が発表されてから30年近く経過したが,いまだに誤った方法で行われていることを目にする.また,肝細胞癌や転移性肝癌でも腫瘍の性格や局在によっては適応されないこともある.肝門処理法としてGlisson鞘一括法にこだわる必要性はないが,肝臓外科においてはこの術式の理念,方法に精通しておくことは非常に重要であり,手術手技に幅がもてる.

 本稿では,Glisson鞘一括処理法の概念とメリット,デメリットについて解説する.

肝切除術における肝門部脈管処理:「個別処理」の立場から

著者: 佐野圭二

ページ範囲:P.175 - P.176

 「個別処理」は右肝切除や左肝切除,さらに左傍正中領域切除(S3+S4切除),右傍正中領域(前区域)切除や右外側領域(後区域)切除に適応される方法であり,それぞれ肝離断前に切除予定領域の動静脈を肝門部にて「個別処理」する.そのメリットとしては,①腫瘍が切除領域のGlisson鞘根部に近接するとき,肝離断後にGlisson鞘を腫瘍から離して切離できること,②動門脈を剝離していることにより,片葉阻血を容易に適応できること,③離断前の肝実質損傷とそれに伴う出血を生じないこと,④門脈内腫瘍栓陽性症例,肝門部胆管癌手術,生体肝移植手術などの肝門処理に通じることができること,などがある.特に安全性において「一括処理」よりも有利だと考え,肝切除術におけるGold Standardと考える.

テーマ5◆胆管非拡張型膵・胆管合流異常に対する術式

胆管非拡張型膵・胆管合流異常に対する術式:胆摘のみ vs 分流手術

ページ範囲:P.177 - P.177

胆摘のみの立場から

 膵・胆管合流異常では,逆流した膵液が胆汁と混和することにより惹起される持続性の慢性炎症が発癌の原因であることが推測されている.しかし,このような慢性炎症が長期持続するためには,膵液と混和した胆汁が胆道内に一定時間停滞する必要があり,胆管非拡張型の場合は胆管ではなく胆囊に高率に癌が発生するものと考えられる.自験例の胆管非拡張型44例の検討では,胆管癌の合併は1例もなく,胆囊癌や膵癌を合併していなかった19例の胆囊摘出後平均9.3±4.7年の経過観察中に胆管癌の発生は1例も認めなかった.

 以上の結果よりわれわれは,胆管非拡張型膵・胆管合流異常に対して肝外胆管切除は不要と判断し,胆囊摘出術のみを行っている.膵・胆管合流異常では診断されていない症例も多数存在するため,診断技術の進歩による症例の拾い上げや蓄積が必要であり,それらを再検討していくことで,エビデンスに基づいた治療方針の統一が望まれる.


分流手術の立場から
①「分流手術」を選択するメリット

 日本膵・胆管合流異常研究会からの報告では,胆道癌の合併頻度は非拡張型・成人が42.4%であり,人口動態統計を考慮すると約3,000倍の高危険率となる.合流異常における胆道粘膜上皮遺伝子発現においては,K-ras遺伝子・p53遺伝子異常が報告され,合流異常における胆道粘膜上皮は胆囊・胆管ともに癌発生母地であると考えられる.
②デメリットとそれに対する対処法・考え方

 分流手術の術後合併症には縫合不全があり,炎症が持続している状態での手術施行は吻合部狭窄のリスクにも関与する.肝内結石は吻合部狭窄や肝内胆管狭窄における反復する感染により発生し,その解決のために肝切除を選択することも考慮される.

 また,分流手術後にも遺残胆管での発癌の可能性,あるいは肝内胆管での発癌の可能性は残り,手術手技の工夫・術後長期にわたるフォローアップが必要である.

胆管非拡張型膵・胆管合流異常に対する術式:「胆摘のみ」の立場から

著者: 大内田次郎 ,   千々岩一男

ページ範囲:P.178 - P.181

 膵・胆管合流異常では,逆流した膵液が胆汁と混和することにより惹起される持続性の慢性炎症が発癌の原因であることが推測されている.しかし,このような慢性炎症が長期持続するためには,膵液と混和した胆汁が胆道内に一定時間停滞する必要があり,胆管非拡張型の場合は胆管ではなく胆囊に高率に癌が発生するものと考えられる.自験例の胆管非拡張型44例の検討では,胆管癌の合併は1例もなく,胆囊癌や膵癌を合併していなかった19例の胆囊摘出後平均9.3±4.7年の経過観察中に胆管癌の発生は1例も認めなかった.

 以上の結果よりわれわれは,胆管非拡張型膵・胆管合流異常に対して肝外胆管切除は不要と判断し,胆囊摘出術のみを行っている.膵・胆管合流異常では診断されていない症例も多数存在するため,診断技術の進歩による症例の拾い上げや蓄積が必要であり,それらを再検討していくことで,エビデンスに基づいた治療方針の統一が望まれる.

胆管非拡張型膵・胆管合流異常に対する術式:「分流手術」の立場から

著者: 岩橋衆一 ,   森根裕二 ,   宇都宮徹 ,   居村暁 ,   池本哲也 ,   森大樹 ,   高須千絵 ,   矢田圭吾 ,   石橋広樹 ,   島田光生

ページ範囲:P.182 - P.186

①「分流手術」を選択するメリット

 日本膵・胆管合流異常研究会からの報告では,胆道癌の合併頻度は非拡張型・成人が42.4%であり,人口動態統計を考慮すると約3,000倍の高危険率となる.合流異常における胆道粘膜上皮遺伝子発現においては,K-ras遺伝子・p53遺伝子異常が報告され,合流異常における胆道粘膜上皮は胆囊・胆管ともに癌発生母地であると考えられる.
②デメリットとそれに対する対処法・考え方

 分流手術の術後合併症には縫合不全があり,炎症が持続している状態での手術施行は吻合部狭窄のリスクにも関与する.肝内結石は吻合部狭窄や肝内胆管狭窄における反復する感染により発生し,その解決のために肝切除を選択することも考慮される.

 また,分流手術後にも遺残胆管での発癌の可能性,あるいは肝内胆管での発癌の可能性は残り,手術手技の工夫・術後長期にわたるフォローアップが必要である.

テーマ6◆膵頭十二指腸切除における幽門の処理

膵頭十二指腸切除における幽門の処理:PPPD vs SSPPD

ページ範囲:P.187 - P.187

PPPDの立場から

 PPPDの最大の特長は,幽門輪が機能することにより食物の適切な胃内停滞時間が確保でき,急激な血糖値の上昇や,小腸負荷が原因となる下痢などを緩和できることである.PPPDを選択するメリットとして,メタアナリシスの結果から次の点が挙げられる.①PPPDはPDと比較して術中出血が少なく,手術時間が短縮される.②PPPDは補助化学療法による有害事象を最小化できる.③PPPDとPDでは手術根治度に差がない.④PPPDとSSPPDでは術後合併症や手術死亡率に差がない.⑤PPPDは長期的にみて栄養状態が良好である,⑥PPPDはガイドラインにおける推奨による妥当性がある.

 われわれは,PPPD再建にtwisted anastomosisによるstraight methodを行っている.DGEはISGPS(A/B/C)で2.1%/1.0%/0%であり,DGEが臨床的に問題になることがないため,術式の変更を考慮する必要性がない.

 一方,PPPDのデメリットとして,制酸剤を処方する必要がある点を挙げることができる.


SSPPD;PrPDの立場から
①胃排泄遅延の発生からみたメリット

 幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PpPD)では胃の貯留能は温存されるが,郭清に伴う迷走神経支配の喪失や血流の乏しくなった幽門輪の存在は胃排泄遅延の危険因子になる可能性がある.幽門輪のみを切除し,すべての胃を温存する幽門輪切除膵頭十二指腸切除術(PrPD:SSPPD)とPpPDとのRCTを施行した.胃排泄遅延の発生頻度はPrPD 3例(4.5%)(grade A 1例,B 1例,C 1例),PpPD 11例(17%)(grade A 6例,B 5例,C 0例)でありPrPDで有意に減少した(p=0.0244).
②SSPPD;PrPDを選択した場合のデメリット

 長期成績として術後2年間フォローし,晩期合併症,栄養評価(アルブミン値,プレアルブミン値)および体重変化を評価した.両術式ともに晩期合併症に有意差はなく,栄養状態および体重変化は同等であった.PrPDは長期成績である晩期合併症,栄養状態,体重変化においてPpPDと比較して遜色のない有効な術式であり,SSPPD;PrPDを選択した場合のデメリットはない.

膵頭十二指腸切除における幽門の処理:「PPPD」の立場から

著者: 土井隆一郎

ページ範囲:P.188 - P.192

 PPPDの最大の特長は,幽門輪が機能することにより食物の適切な胃内停滞時間が確保でき,急激な血糖値の上昇や,小腸負荷が原因となる下痢などを緩和できることである.PPPDを選択するメリットとして,メタアナリシスの結果から次の点が挙げられる.①PPPDはPDと比較して術中出血が少なく,手術時間が短縮される.②PPPDは補助化学療法による有害事象を最小化できる.③PPPDとPDでは手術根治度に差がない.④PPPDとSSPPDでは術後合併症や手術死亡率に差がない.⑤PPPDは長期的にみて栄養状態が良好である,⑥PPPDはガイドラインにおける推奨による妥当性がある.

 われわれは,PPPD再建にtwisted anastomosisによるstraight methodを行っている.DGEはISGPS(A/B/C)で2.1%/1.0%/0%であり,DGEが臨床的に問題になることがないため,術式の変更を考慮する必要性がない.

 一方,PPPDのデメリットとして,制酸剤を処方する必要がある点を挙げることができる.

膵頭十二指腸切除における幽門の処理:「SSPPD;PrPD」の立場から

著者: 川井学 ,   山上裕機

ページ範囲:P.193 - P.198

①胃排泄遅延の発生からみたメリット

 幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PpPD)では胃の貯留能は温存されるが,郭清に伴う迷走神経支配の喪失や血流の乏しくなった幽門輪の存在は胃排泄遅延の危険因子になる可能性がある.幽門輪のみを切除し,すべての胃を温存する幽門輪切除膵頭十二指腸切除術(PrPD:SSPPD)とPpPDとのRCTを施行した.胃排泄遅延の発生頻度はPrPD 3例(4.5%)(grade A 1例,B 1例,C 1例),PpPD 11例(17%)(grade A 6例,B 5例,C 0例)でありPrPDで有意に減少した(p=0.0244).
②SSPPD;PrPDを選択した場合のデメリット

 長期成績として術後2年間フォローし,晩期合併症,栄養評価(アルブミン値,プレアルブミン値)および体重変化を評価した.両術式ともに晩期合併症に有意差はなく,栄養状態および体重変化は同等であった.PrPDは長期成績である晩期合併症,栄養状態,体重変化においてPpPDと比較して遜色のない有効な術式であり,SSPPD;PrPDを選択した場合のデメリットはない.

一般外科手術 テーマ7◆鼠径ヘルニアに対するアプローチ

鼠径ヘルニアに対するアプローチ:鼠径法 vs 腹腔鏡下

ページ範囲:P.199 - P.199

鼠径法の立場から

 成人鼠径部ヘルニアに対する術式としては,前方アプローチによる鼠径法を選択する.第1選択:通常の還納可能な症例は大小を問わず,局所麻酔下・鼠径法・腹膜前腔修復(ヘルニア門のサイズにより変更あり).第2選択:還納不可能ないしは嵌頓緊急症例は,腰椎麻酔下ないし全身麻酔下・鼠径法・腹膜前腔修復(状況により変更あり).第3選択:再発還納可能症例は,局所麻酔下・鼠径法・腹膜前腔を意識した修復.ただし,どの場合も高度肥満などのときは,全身麻酔下での鼠径法を考慮する.

 そのメリットは,①すべての鼠径部ヘルニアの,どのような状況に対しても対処可能である.②ヘルニアの状況を把握して,全体像を把握した解剖学的アプローチが可能である.③近年の高齢患者,有リスク患者の増加を考えると,鼠径法かつ局所麻酔下の根治手術は低侵襲である.④医療コスト面でのパフォーマンスに優れる.

 鼠径法のデメリットは特にないと言える.詳細な膜構造の解剖を云々する議論はあるが,全身麻酔を要する腹腔鏡下手術は,決して低侵襲とは言い切れない.鼠径法は,習得すべき基本術式であり,かつ最終的解決法である.


腹腔鏡下の立場から

 腹腔鏡法と前方切開法との数多くの無作為化比較試験やメタアナリシスによると,腹腔鏡法の手術時間は長いが,術後疼痛が軽度で血腫・神経損傷・慢性疼痛が少ないなどの報告や,入院期間が短い,回復が早い,社会復帰・仕事復帰が早いなどの点で評価されている.腹腔鏡法のTAPP法は腹腔内から特殊なヘルニアや複雑なヘルニア門の状態が正確に把握できる利点があり,細径ポートサイト手術では術後疼痛は非常に少なく,傷跡もほとんど残らない.腹腔鏡法の最大の利点は,高精細なハイビジョンモニターで鼠径部の重要な膜構造や解剖を腹腔側より正確に確認し,必要な層を温存しながらmyopectineal orifice全体を確実に補強できる点である.膜構造を必要十分に温存することで無意味な出血や術後急性・慢性疼痛が少なくなり,正確な解剖学的認識に基づく再発の少ない手術が行える.術後運動制限をほとんど必要としないことから,社会貢献できる術式と考える.映像を通した精緻な手術を若手外科医に教育できることは大きな利点であり,前方切開法の理解も一段と深まると思われる.

鼠径ヘルニアに対するアプローチ:「鼠径法」の立場から

著者: 伊藤契

ページ範囲:P.200 - P.204

 成人鼠径部ヘルニアに対する術式としては,前方アプローチによる鼠径法を選択する.第1選択:通常の還納可能な症例は大小を問わず,局所麻酔下・鼠径法・腹膜前腔修復(ヘルニア門のサイズにより変更あり).第2選択:還納不可能ないしは嵌頓緊急症例は,腰椎麻酔下ないし全身麻酔下・鼠径法・腹膜前腔修復(状況により変更あり).第3選択:再発還納可能症例は,局所麻酔下・鼠径法・腹膜前腔を意識した修復.ただし,どの場合も高度肥満などのときは,全身麻酔下での鼠径法を考慮する.

 そのメリットは,①すべての鼠径部ヘルニアの,どのような状況に対しても対処可能である.②ヘルニアの状況を把握して,全体像を把握した解剖学的アプローチが可能である.③近年の高齢患者,有リスク患者の増加を考えると,鼠径法かつ局所麻酔下の根治手術は低侵襲である.④医療コスト面でのパフォーマンスに優れる.

 鼠径法のデメリットは特にないと言える.詳細な膜構造の解剖を云々する議論はあるが,全身麻酔を要する腹腔鏡下手術は,決して低侵襲とは言い切れない.鼠径法は,習得すべき基本術式であり,かつ最終的解決法である.

鼠径ヘルニアに対するアプローチ:「腹腔鏡下」の立場から

著者: 早川哲史

ページ範囲:P.205 - P.210

 腹腔鏡法と前方切開法との数多くの無作為化比較試験やメタアナリシスによると,腹腔鏡法の手術時間は長いが,術後疼痛が軽度で血腫・神経損傷・慢性疼痛が少ないなどの報告や,入院期間が短い,回復が早い,社会復帰・仕事復帰が早いなどの点で評価されている.腹腔鏡法のTAPP法は腹腔内から特殊なヘルニアや複雑なヘルニア門の状態が正確に把握できる利点があり,細径ポートサイト手術では術後疼痛は非常に少なく,傷跡もほとんど残らない.腹腔鏡法の最大の利点は,高精細なハイビジョンモニターで鼠径部の重要な膜構造や解剖を腹腔側より正確に確認し,必要な層を温存しながらmyopectineal orifice全体を確実に補強できる点である.膜構造を必要十分に温存することで無意味な出血や術後急性・慢性疼痛が少なくなり,正確な解剖学的認識に基づく再発の少ない手術が行える.術後運動制限をほとんど必要としないことから,社会貢献できる術式と考える.映像を通した精緻な手術を若手外科医に教育できることは大きな利点であり,前方切開法の理解も一段と深まると思われる.

テーマ8◆甲状腺癌に対する甲状腺切除

甲状腺癌に対する甲状腺切除:全摘 vs 亜全摘以下

ページ範囲:P.211 - P.211

全摘の立場から

 全摘を選ぶメリットとしては,①多発する病巣をすべて取り除けること,②術後放射性ヨードによる残存甲状腺および微小な病変をablationできること,③術後Tgを利用したsurveillanceが行えること,そして何よりも④全摘により再発が減り生存率が向上すること,が挙げられる.また,亜全摘以下の手術を行った場合,のちに残存甲状腺組織に結節ができてくることが意外と多い.

 デメリットとしては,甲状腺の全摘に伴う①甲状腺機能低下,②副甲状腺機能低下,③反回神経麻痺といった合併症が増加すること,が挙げられる.①については避けられないが,葉切除を行った場合でも約1/4は甲状腺ホルモン剤の補充が必要である.②③を避けるには,成書にある反回神経走行や副甲状腺の存在部位と同定法をよく理解し,なるべく丁寧な手術を心がける以外に方法はない.また,このような合併症は進行癌で起こる可能性が高く,非進行例では頻度は低いとされている.


亜全摘以下の立場から

 亜全摘以下を選ぶメリットとしては,①術後甲状腺機能の維持,②術後合併症としての反回神経麻痺および③副甲状腺機能低下症の発生率の減少が挙げられる.デメリットとしては,①残存甲状腺からの再発の可能性,②術後の放射性ヨウ素による検査・治療が行えない,③術後のサイログロブリンが腫瘍マーカーとして有用でなくなる,という点であろう.

 デメリットに対する考え方として,①については,残存甲状腺内の小病変は術前の詳細な超音波検査にて診断可能であり,見落とされるような潜在小病変は臨床的に意義がないと考える.②③については重要なポイントとなるが,甲状腺全摘が生命予後を改善するというエビデンスは確立されていない.むしろ低危険群では甲状腺全摘は予後改善に影響しないというのが定説である.ゆえにリスクの評価をきちんと行い,無用な全摘は避けるべきであると考える.

甲状腺癌に対する甲状腺切除:「全摘」の立場から

著者: 吉田明 ,   嘉数綾乃 ,   西山幸子 ,   山中隆司 ,   中山博貴 ,   吉田達也 ,   稲葉将明 ,   清水哲

ページ範囲:P.212 - P.215

 全摘を選ぶメリットとしては,①多発する病巣をすべて取り除けること,②術後放射性ヨードによる残存甲状腺および微小な病変をablationできること,③術後Tgを利用したsurveillanceが行えること,そして何よりも④全摘により再発が減り生存率が向上すること,が挙げられる.また,亜全摘以下の手術を行った場合,のちに残存甲状腺組織に結節ができてくることが意外と多い.

 デメリットとしては,甲状腺の全摘に伴う①甲状腺機能低下,②副甲状腺機能低下,③反回神経麻痺といった合併症が増加すること,が挙げられる.①については避けられないが,葉切除を行った場合でも約1/4は甲状腺ホルモン剤の補充が必要である.②③を避けるには,成書にある反回神経走行や副甲状腺の存在部位と同定法をよく理解し,なるべく丁寧な手術を心がける以外に方法はない.また,このような合併症は進行癌で起こる可能性が高く,非進行例では頻度は低いとされている.

甲状腺癌に対する甲状腺切除:「亜全摘以下」の立場から

著者: 原尚人 ,   澤文 ,   周山理紗 ,   古屋舞 ,   島正太郎 ,   市岡恵美香 ,   田地佳那 ,   齋藤剛 ,   清松裕子 ,   井口研子 ,   池田達彦 ,   坂東裕子

ページ範囲:P.216 - P.219

 亜全摘以下を選ぶメリットとしては,①術後甲状腺機能の維持,②術後合併症としての反回神経麻痺および③副甲状腺機能低下症の発生率の減少が挙げられる.デメリットとしては,①残存甲状腺からの再発の可能性,②術後の放射性ヨウ素による検査・治療が行えない,③術後のサイログロブリンが腫瘍マーカーとして有用でなくなる,という点であろう.

 デメリットに対する考え方として,①については,残存甲状腺内の小病変は術前の詳細な超音波検査にて診断可能であり,見落とされるような潜在小病変は臨床的に意義がないと考える.②③については重要なポイントとなるが,甲状腺全摘が生命予後を改善するというエビデンスは確立されていない.むしろ低危険群では甲状腺全摘は予後改善に影響しないというのが定説である.ゆえにリスクの評価をきちんと行い,無用な全摘は避けるべきであると考える.

テーマ9◆乳癌におけるセンチネルリンパ節陽性症例の追加郭清

乳癌におけるセンチネルリンパ節陽性症例の追加郭清:郭清必要 vs 郭清不要

ページ範囲:P.221 - P.221

郭清必要の立場から

 Z0011試験,IBCSG23-01試験,AMAROS試験,これら3つのセンチネルリンパ節(SLN)陽性症例に対する追加郭清の省略を目的とした試験では,腋窩郭清省略(No-AD)群の無病生存率,全生存率は追加郭清(AD)群と同等であった.しかし,ADが局所制御に重要な役割を果たす症例は一定頻度存在する.BluteらのSLN陰性,腋窩リンパ節再発症例の検討では,腋窩再発後の5年無病生存率50%,5年全生存率58%と,決して良好ではない.上記3試験でも,no-AD群の腋窩再発率は有意ではないものの高い.また,SLN陽性後,追加郭清を省略したために,その後,腋窩再発を繰り返す症例をわれわれは経験している.ADのデメリットとされる上腕浮腫も,BMIが低い日本人では頻度は低く,許容できるレベルにあると考えられる.以上より,追加郭清省略は安全に施行できる症例群の特定など,さらなる研究の進展を待つべきであり,安易な導入は慎むべきである.


郭清不要の立場から
①こちらを選ぶメリット

 過去のエビデンスから,臨床的腋窩リンパ節転移陰性症例においてセンチネルリンパ節転移陽性でも一定の条件を満たせば,郭清省略が臨床上問題となるような腋窩再発率の増加を招かない.さらに,腋窩リンパ節郭清を省略することでリンパ浮腫,上肢可動制限,腋窩から上腕にかけての疼痛や知覚異常といった有害事象の発現頻度を減らし,生活の質の低下を防ぐことができる.
②その場合のデメリットと考え方・対処法

 センチネルリンパ節転移陽性にもかかわらず腋窩リンパ節郭清を省略することで,腋窩に転移陽性リンパ節を遺残させる可能性が高くなる.術後5年の局所再発率の増加と術後15年の乳癌死亡率の増加は4対1の比率で相関することが示されており,郭清省略後の腋窩再発率の増加を可能な限り低く抑えなければならない.そのためには最適な薬物療法と腋窩への放射線治療が重要であると考える.

乳癌におけるセンチネルリンパ節陽性症例の追加郭清:「郭清必要」の立場から

著者: 林光弘

ページ範囲:P.222 - P.225

 Z0011試験,IBCSG23-01試験,AMAROS試験,これら3つのセンチネルリンパ節(SLN)陽性症例に対する追加郭清の省略を目的とした試験では,腋窩郭清省略(No-AD)群の無病生存率,全生存率は追加郭清(AD)群と同等であった.しかし,ADが局所制御に重要な役割を果たす症例は一定頻度存在する.BluteらのSLN陰性,腋窩リンパ節再発症例の検討では,腋窩再発後の5年無病生存率50%,5年全生存率58%と,決して良好ではない.上記3試験でも,no-AD群の腋窩再発率は有意ではないものの高い.また,SLN陽性後,追加郭清を省略したために,その後,腋窩再発を繰り返す症例をわれわれは経験している.ADのデメリットとされる上腕浮腫も,BMIが低い日本人では頻度は低く,許容できるレベルにあると考えられる.以上より,追加郭清省略は安全に施行できる症例群の特定など,さらなる研究の進展を待つべきであり,安易な導入は慎むべきである.

乳癌におけるセンチネルリンパ節陽性症例の追加郭清:「郭清不要」の立場から

著者: 武井寛幸

ページ範囲:P.226 - P.229

①こちらを選ぶメリット

 過去のエビデンスから,臨床的腋窩リンパ節転移陰性症例においてセンチネルリンパ節転移陽性でも一定の条件を満たせば,郭清省略が臨床上問題となるような腋窩再発率の増加を招かない.さらに,腋窩リンパ節郭清を省略することでリンパ浮腫,上肢可動制限,腋窩から上腕にかけての疼痛や知覚異常といった有害事象の発現頻度を減らし,生活の質の低下を防ぐことができる.
②その場合のデメリットと考え方・対処法

 センチネルリンパ節転移陽性にもかかわらず腋窩リンパ節郭清を省略することで,腋窩に転移陽性リンパ節を遺残させる可能性が高くなる.術後5年の局所再発率の増加と術後15年の乳癌死亡率の増加は4対1の比率で相関することが示されており,郭清省略後の腋窩再発率の増加を可能な限り低く抑えなければならない.そのためには最適な薬物療法と腋窩への放射線治療が重要であると考える.

FOCUS

画像上,完全に見えなくなった肝腫瘍に対する肝切除法―リアルタイム・バーチャル超音波装置とインドシアニングリーン蛍光法による手術ナビゲーション

著者: 粕谷和彦 ,   石崎哲央 ,   永川裕一 ,   勝又健次 ,   土田明彦

ページ範囲:P.232 - P.240

はじめに

 近年,CTやMRIの画像精度の急速な進歩により,小さなサイズの肝癌や肝転移巣の描出が可能となった.また,第二世代の造影剤であるソナゾイド®を用いた体外超音波検査でも,より小さな肝腫瘍の描出が容易になった1~3).一方,このような小さなサイズの腫瘍は化学療法の著効により,画像上の完全消失,すなわちクリニカル・コンプリート・レスポンス(clinical complete response:以下,クリニカルCR)を示すことも報告されている4,5).それらクリニカルCR腫瘍は,たとえ術中造影超音波を用いても,その描出に難渋することがある.本稿では,クリニカルCR腫瘍に対し,リアルタイム・バーチャル超音波(real-time virtual sonography:以下,バーチャル超音波)装置と,インドシアニングリーン(indocyanine green:ICG)蛍光法を用いた肝切除法を考案したので紹介する6~8)

 なお,本手技の臨床応用は本学倫理委員会の承認を得ており,事前に患者および家族に説明し承諾を得たのち,本手技を施行している.

病院めぐり

奈良県立三室病院外科

著者: 池田直也

ページ範囲:P.241 - P.241

 当施設は奈良県西和地域に位置する地域拠点病院です.昭和54年4月に地域住民および王寺周辺7カ町の要望にて,人口が急増する奈良県西和地域に住民のための基幹病院として開院しました.現在は診療科12科,病床数300床の総合病院として地域に貢献しています.また,平成4年には病院敷地内に奈良県立三室病院附属看護専門学校が開校し,看護師の育成にも力を入れるようになりました.

 現在,外科はスタッフ5名が診療にあたっているほか臨床研修医1名が研修を行っています.年間の全身麻酔下手術件数は300~350例で年々増加傾向にあります.腹腔鏡下手術も早い時期から積極的に行っており,平成24年では胃癌37例中32例に,大腸癌50例中30例に施行しました.さらに平成21年からは単孔式腹腔鏡下手術(SILS)を奈良県では最も早く導入し,平成24年では胆囊摘出術30例,虫垂切除術21例,胃部分切除術2例,腹膜生検術2例,腹膜透析用カテーテル交換術1例の計56例に施行しました.外科が行う検査としては下部消化管内視鏡検査を担当しています.症例数としては年間約600例行っており,ポリープ切除やEMRも積極的に行っています.施設認定としては日本外科学会,日本消化器外科学会の専門医修練施設認定を受けているほか,日本がん治療認定医機構認定研修施設に認定されています.その他多くの学会の修練施設として奈良県立医科大学と密接な関係を保ちながら,日夜,診療・研究に励んでいます.

必見! 完全体腔内再建の極意・11

幽門側胃切除術後再建―Billroth-Ⅱ 再建

著者: 佐藤誠二 ,   河村祐一郎 ,   石川健 ,   須田康一 ,   石田善敬 ,   宇山一朗

ページ範囲:P.242 - P.251

■■はじめに

 われわれの施設では,①吻合径が大きい,②再建時の消化管に無理なテンションがかからない,③追加の小切開が不要,④肥満など体型に影響されない,などの理由から腹腔鏡下胃切除はリニア・ステイプラーを用いた完全体腔内再建を基本手技としている.幽門側胃切除では,Billroth-Ⅰ法(B-Ⅰ)を標準としているが,以下のような症例ではBillroth-Ⅱ法(B-Ⅱ)を選択している.

1)胃切除後の残胃が小さいためB-Ⅰが困難な場合.ただし術前にGERDや食道裂孔ヘルニアを認めない症例.

2)胃癌の切除のため十二指腸の切除長が長くなりB-Ⅰが困難な場合.

 B-Ⅱ選択の理由は以下の通りである.

1)残胃と空腸の自由度が高いので,リニア・ステイプラーによる再建が容易である.

2)Roux-en-Y法よりも吻合数が少なく低コストである.

3)B-Ⅱは小腸間膜の欠損部がないのでRoux-en-Yよりも内ヘルニアの発生部位が少ない.

4)残胃癌の発生はメタアナリシスでB-Ⅰ= B-Ⅱであり1),術後短期合併症も同等である2).

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・21

身体機能と予後―運動でがんや死亡が減るか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.252 - P.255

素朴な疑問

 糖尿病・心臓病・脳卒中などの生活習慣病の管理や予防には食生活の改善と運動が必要であり,ウォーキング・スイミング・フィットネスなどの運動が勧められる.がんも生活習慣や肥満と関連があるが,運動している人はがんになりにくいのだろうか.運動しているがん患者は予後がよいのだろうか.身体能力が高い高齢者は長生きするのだろうか.

ひとやすみ・108

パワースポット

著者: 中川国利

ページ範囲:P.198 - P.198

 朝から晩まで病院中を駆け回り,自分の机にはほとんど座ることがない.たまに自室で書類に目を通す際にも,気楽に来室できるようにドアは何時も開け放しており,心が平穏になることはない.しかし,病院の中で,唯一心静かに思索に耽ることができ,新たな元気までを授かる特別な空間がある.

 病院の中央にはエレベーター4機と階段が設置されており,患者さんや職員はこれらを利用して階を移動している.一方,病院の両端には非常階段が設置されているが,厚い鉄の扉に閉ざされ照明も抑えられている.また産婦人科病棟や医局などの管理棟の階では,扉は常に施錠されている.したがって利用する人は皆無に近く,たまに警備員が巡回するだけである.

昨日の患者

自宅で最期を迎える

著者: 中川国利

ページ範囲:P.210 - P.210

 現代の日本では病院で死を迎える人が圧倒的に多い.しかしながら充実した医療スタッフによる終末医療を拒み,住み慣れた自宅で最期を迎える患者さんも存在する.

 80歳代後半のSさんが腸閉塞を訴え,近医で大腸癌と診断された.そこで手術を目的に,娘さんが事務職員として勤める当院に入院した.早速手術を施行したが,すでにリンパ節転移や肝転移をきたしていた.高齢でもあり,単に大腸癌の切除のみを施行した.術後経過は良好で早期に退院した.

1200字通信・62

生んでくれてありがとう

著者: 板野聡

ページ範囲:P.230 - P.230

 ある日,胃癌の診断で30歳代の女性の方が紹介来院されました.胃癌はスキルスでかなりの進行度でしたが,前医では告知されておらず,いつものようにすべての荷物が丸投げされた状態でした.告知の折には,若いだけではなく突然のことだけに,最初は納得がいかないというご様子でしたが,厳然たる事実を前にして,なんとかご本人やご家族にご理解いただくことになりました.

 若いことや食事が通らなくなっていたことから手術を行いはしましたが,術前診断通りの進行程度で,予後は不良と考えられました.しかし,これまた若さのなせる技で,術後経過は順調で,退院後も化学療法を続け,一時はこれで治ってしまうのではないかとさえ思われたのでした.しかし,半年を過ぎた頃から食欲が落ち始め,腫瘍マーカーも徐々に上昇してきて,ご主人だけをお呼びしての辛い説明がくり返されることになりました.

書評

―V・スザンヌ・クリムバーグ(編) 野口昌邦(訳)―乳腺外科手術アトラス

著者: 井本滋

ページ範囲:P.231 - P.231

 「乳癌の外科治療の世界で,オピニオンリーダーである日本人は誰か?」

 それは,Klimberg先生編集の“Atlas of Breast Surgical Techniques”を訳された野口昌邦先生である.今回,このような書評の機会を与えられ大変光栄であると同時に,Memorial Sloan-KetteringがんセンターのMorrow先生をはじめ,世界中に親友がおられる野口先生を羨ましく思いつつも,先生ならではの訳書と感服した次第である.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.140 - P.140

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.240 - P.240

投稿規定

ページ範囲:P.257 - P.258

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.259 - P.259

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.260 - P.260

次号予告

ページ範囲:P.261 - P.261

あとがき

著者: 島津元秀

ページ範囲:P.262 - P.262

 今月の特集テーマでは,様々な外科手術における相対する二つの考え方を提示し,その優劣について議論していただいた.このような議論は今回取り上げたテーマ以外にもいろいろあり,いまだにコンセンサスが得られていない.

 外科手術のみならず,格言,箴言,故事,ことわざにも,二つの対立する概念だが見方によっては優劣の判断が分かれる言葉がある.例えば,「大器は晩成す」と「栴檀は双葉より芳し」,「鶏口と為るも牛後と為る無かれ」と「寄らば大樹の陰」,「君子危うきに近寄らず」と「虎穴に入らずんば虎子を得ず」,「騏驎も老いては駑馬に劣る」と「腐っても鯛」,「先んずれば人を制す」と「急いては事を仕損じる」,「融通無碍」と「終始一貫」,等々枚挙にいとまがない.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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