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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科69巻3号

2014年03月発行

雑誌目次

特集 究極の肛門温存術式ISR―長期成績からわかる有用性と問題点

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.267 - P.267

 わが国で“ISR”という術式をよく聞くようになったのは,2000年前後頃だったと思う.本特集のなかでも何度か引用されているISRを最初に報告したとされるSchiesselの論文が発表されたのは1994年であり,最初の報告から数年後に日本でも注目を浴びたということになる.ISRの登場により従来は人工肛門が必要であった症例の一部では肛門温存が可能となった.しかしISRが導入され始めた頃,この新たな術式に関する多くの議論があった.歯状線も含めて広範囲に内括約筋を切除すれば十分な排便機能が期待できないのではないか,あるいは,本来腹会陰式直腸切断術を行うような症例にISRを行えば,根治性が確保できないのではないか,といったISRの術後成績を危惧する意見があった.しかし,当初ISRは専門施設を中心に行われていたが,その後は普及が進み,現在では全国の多くの施設で行われる術式になっている.また,大腸癌に対する腹腔鏡手術が増加してきている現在,直腸癌に対する腹腔鏡手術の再建法としてもISRは重要な手技となっている.

 ISRが注目され始めてから10年以上経過した現在,当初危惧されていたISRの術後成績に関する長期成績を評価する時期にきている.そこで,ISRに関する,解剖,アプローチ法など実際の手技,術後の問題などを専門家の先生方に解説していただき,改めてISRを見直すため本特集を企画した.本特集を読まれて多くの外科医がISRの理解を深め,そして治療成績を向上させるために役立つことを期待している.

ISRからみた肛門管の局所解剖

著者: 大木繁男 ,   藤井正一 ,   大田貢由

ページ範囲:P.268 - P.275

【ポイント】

◆静止(安静)時に肛門管は内肛門括約筋で持続的に閉鎖され,閉鎖範囲はHerrmann線のやや頭側からHilton線のやや尾側までである.歯状線はほぼその中間にある.Herrmann線,歯状線,Hilton線は直視下にはっきりと見ることができる.

◆ISRでは肛門管のどの位置の上皮と内括約筋を切除し,温存するのはどこかを確認すれば,術後の肛門機能評価に有用である.

ISRの長期成績―腫瘍学的側面から

著者: 山田一隆 ,   緒方俊二 ,   佐伯泰愼 ,   福永光子 ,   田中正文 ,   辻順行 ,   高野正博

ページ範囲:P.276 - P.282

【ポイント】

◆ISRの適応基準は,①RMの確保,②DMの確保,③特殊癌症例の除外,④直腸肛門機能低下例の除外,が原則である.

◆ISR治癒切除139例の長期治療成績は,Stage別生存率も良好で,5年累積局所再発率も4.4%と低率であった.

◆ISRの腫瘍学的側面に関する文献的評価も良好であり,下部直腸癌の標準治療となりうると思われる.

ISRの長期成績―機能的側面から

著者: 浅尾高行 ,   桑野博行

ページ範囲:P.284 - P.291

【ポイント】

◆術前放射線化学治療を併用し下部進行直腸がんにISRを適応させる.

◆恥骨直腸筋は特有の肛門閉鎖のメカニズムをもつ.

◆恥骨直腸筋の機能に必要な固定組織が存在する.

◆不随意時でも直腸肛門角を保つための再建法が重要である.

一時的ストーマ造設を伴わないISRのコツと術後成績

著者: 小山基 ,   村田暁彦 ,   坂本義之 ,   諸橋一 ,   長谷部達也 ,   斎藤傑 ,   袴田健一

ページ範囲:P.292 - P.298

【ポイント】

◆ISRにおける縫合不全の危険因子を考慮して,予防的ストーマ造設の適応となる症例の選択が必要である.

◆肛門吻合部における口側腸管の血流を確保し,吻合部の緊張がない状態で吻合を行うことが肝要である.

◆stay sutureにより吻合部の緊張を緩和させるだけでなく,縫合不全が起こった場合の腸管離断を予防する.

◆可能な限り結腸J-pouchによる再建を行い,吻合部の血流維持に努め,術後早期に起こる排便機能障害の軽減を図る.

術前化学放射線療法施行例に対するISRの問題点と工夫

著者: 木村文彦 ,   柳秀憲 ,   後野礼 ,   竹中雄也 ,   堀尾勇規 ,   北濱誠一 ,   小野朋二郎 ,   友松宗史 ,   別府直仁 ,   飯田洋也 ,   生田真一 ,   岸本昌浩 ,   相原司 ,   土井啓至 ,   上紺屋憲彦 ,   山中若樹

ページ範囲:P.299 - P.306

【ポイント】

◆深達度に応じた術前化学放射線療法を併用したISR手術により,進行直腸癌に対して良好な局所制御が得られている.

◆術前化学放射線療法により骨盤内膿瘍や肛門管近傍の合併症が増加するが,さまざまな工夫により対応可能である.

◆自然排便後に肛門機能が回復するまで時間を要するので,投薬による積極的な排便コントロールも肝要である.

長期成績を左右する手術手技のポイント―開腹手術によるISR

著者: 白水和雄 ,   赤木由人 ,   衣笠哲史

ページ範囲:P.307 - P.313

【ポイント】

◆ISRを成功に導くには,肛門管解剖の把握と,腫瘍の状況を熟知し,適応を決めるべきである.

◆開腹手術では,hiatal ligamentを切離し,括約筋間を歯状線下部まで剝離する.

◆経肛門的操作では,肛門管前壁を損傷しないように注意する(特に前壁の腫瘍に対して).

◆生存率,再発率などの腫瘍学的結果は受容できるが,肛門機能とQOLの評価は,さらなる検討が必要である.

長期成績を左右する手術手技のポイント―腹腔鏡手術によるISR

著者: 河野眞吾 ,   齋藤典男 ,   合志健一 ,   塚田祐一郎 ,   山崎信義 ,   西澤雄介 ,   小林昭広 ,   伊藤雅昭

ページ範囲:P.314 - P.317

【ポイント】

◆確実にTMEを行う.

◆肛門管内の剝離は側部→前側方部→後壁→前壁の順で行う.

◆十分なsurgical marginを確保するようにする.

長期成績を左右する手術手技のポイント―ロボット手術によるISR―腹腔鏡手術との類似点,相違点

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.318 - P.325

【ポイント】

◆ロボット手術によるISRの報告はまだ少なく,長期成績に関しては明らかになっていない.

◆ロボット手術と腹腔鏡手術によるISRを比較した検討では,ロボット手術のほうが開腹移行率が低率であった.

◆実際の手術では,会陰操作を先行させる方法や,腹腔側からロボット操作により肛門管内の剝離,切離操作を完全に行ってしまう方法など,異なった方法がある.

ISR術後の長期管理の問題点とその対策

著者: 吉岡和彦 ,   畑嘉高 ,   松浦節 ,   岩本慈能 ,   權雅憲

ページ範囲:P.326 - P.331

【ポイント】

◆長期の管理においては排便障害,肛門部局所の器質的変化および精神的なケアが問題となる.

◆ISR術後に長期にわたって排便障害をきたす患者のQOLは低下している.

◆術後長期の排便障害に対しては外科的な治療も必要となることがある.

FOCUS

肝細胞癌に対する肝移植の適応拡大を探る

著者: 石崎陽一 ,   川崎誠治

ページ範囲:P.332 - P.336

■■はじめに

 現在,肝細胞癌(HCC)に対する肝移植適応はミラノ基準がスタンダードになっており,ミラノ基準内であればHCC非合併例の移植成績と遜色ない生存率である.しかしミラノ基準の発表から17年経過し,国内外から適応を拡大した基準が多く提唱され,比較的良好な成績が報告されている.ミラノ基準は厳しすぎる基準であり,肝移植により助けることのできるHCC合併肝硬変が除外されてしまう可能性があるとする意見もある.本稿ではHCCに対する肝移植適応拡大の可能性に関して概説する.

必見! 完全体腔内再建の極意・12

幽門側胃切除術後再建―Roux-en-Y再建(リニア+手縫い)

著者: 笠間和典

ページ範囲:P.338 - P.344

■■はじめに

 幽門側胃切除術後の再建はB-Ⅰ,B-Ⅱ,Roux-en-Y法と様々な様式があるが,われわれは2002年に重症肥満に対する腹腔鏡下Roux-en-Y胃バイパス術をわが国で初めて施行してから,腹腔鏡下幽門側胃切除後の再建も完全腹腔鏡下に行うRoux-en-Y法を積極的に行ってきた.本稿ではわれわれの行っている幽門側胃切除後のリニア・ステイプラー(LS)と手縫いを用いた再建方法を紹介する.

 以下,エシェロン:ジョンソン・エンド・ジョンソン製リニア・ステイプラー,エシェロンW:エシェロンホワイトカートリッジ,エシェロンB:エシェロンブルーカートリッジ,エンドGIA:コヴィディエン製リニア・ステイプラー,GIA-P:エンドGIAパープルカートリッジ,GIA-C:エンドGIAキャメルカートリッジ,とする.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・22

医師の仕事と病気―ストレスでがんになるか

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.346 - P.349

素朴な疑問

 人類は身体的なストレスを克服して生き抜いてきたが,現代人は精神的なストレスが多く,医師の仕事はストレスを感じることが多い.消化性潰瘍や過敏性腸症候群などの消化器疾患は精神的なストレスが原因になるが,心臓病やがんなどの生命にかかわる病気もストレスが原因になるのだろうか.仕事のストレスが大きい人はがんになりやすいのだろうか.

病院めぐり

埼玉慈恵病院外科

著者: 久保寿朗

ページ範囲:P.350 - P.350

 「熊谷」という地名をご存知ですか.例年のニュース・天気予報などで高温・真夏日といえば熊谷の名前が出るほど有名ですので最近はご存知の方が多いと思います.当院は埼玉県熊谷市の中心街に位置し,新幹線・JR熊谷駅より約2.2 kmほど北にあります.病院の歴史は古く,明治36年開院の西田医院より始まり,明治42年に結核専門病院として西田病院が開設されました.その後に戦災にて建物を消失し診療所として運営され,昭和26年に財団法人埼玉慈恵会埼玉慈恵病院を27床で開設し,その後に社会福祉法人埼玉慈恵病院に改組されました.標榜科は内科・外科・整形外科の3科です.急性期病床109床,療養型病床51床の合計160床にて運営され,熊谷市の2次救急指定病院です.当院の基本理念は「地域社会に組織として貢献していくこと」です.2007年より県北では一番早く電子カルテ・院内情報システム(グループウェアー)を導入しました.

 外科は西田貞之理事長(院長)を含めて常勤医5人と数名の非常勤医で日々の診療に当たっております.外科スタッフは慈恵医大外科の教室関連病院という位置つけでレジデントのローテーションを受け入れております.手術数は年々増加傾向にあり,局所麻酔手術を加えると年間約800件余りです.悪性疾患としての手術件数は胃癌が20件,大腸癌が45件と,膵臓癌・肝臓癌手術が数例です.また良性疾患は圧倒的に鼠径ヘルニアが多く年間60~80件です.

臨床報告

肝細胞癌に対するTAE施行後に発生した小腸間膜デスモイド腫瘍の1例

著者: 中谷和義 ,   徳原克治 ,   良田大典 ,   尾崎岳 ,   中根恭司 ,   權雅憲

ページ範囲:P.351 - P.355

要旨

患者は64歳,男性.肝細胞癌に対するtranscatheter arterial embolization(TAE)施行後,経過観察中のCT検査にて腹腔内腫瘤を認めた.その後経過観察されていたが,腫瘤確認5か月後の腹部造影CT検査にて腫瘍の増大を認めたため,当科を紹介された.腸間膜の悪性充実性腫瘤,腸間膜リンパ管腫,gastrointestinal stromal tumor(GIST)などを疑い手術を施行した.腹腔鏡下観察にて,腫瘍はTreitz靱帯近傍に位置することを確認し,開腹に移行して同部小腸を含む腫瘍切除術を施行した.病理学所見ではCD34,bcl-2,c-kit,desmin,S-100蛋白,α-SMAは陰性であった.β-カテニンにて一部の紡錘細胞の核や細胞質に陽性を示したため,デスモイド腫瘍と診断された.術後経過は良好で術後9日目に退院となった.術後3か月現在,再発徴候はなく経過している.

シートベルト外傷による外傷性気胸,CO2ナルコーシスに合併した胃粘膜損傷の1例

著者: 矢島澄鎮 ,   甲賀淳史 ,   奥村拓也 ,   山下公裕 ,   鈴木憲次 ,   川辺昭浩

ページ範囲:P.357 - P.360

要旨

今回われわれは,受傷2日後にシートベルトによる胸部外傷,意識障害に併発した外傷性胃粘膜損傷の1例を経験した.症例は78歳,男性で,交通外傷で近医を受診し右鎖骨骨折,右第5中指骨骨折と診断された.翌日の再診時も問題なく,その翌日に当院整形外科を紹介受診の予定となっていたが,受診当日の朝,自宅で突然意識消失し救急車にて当院へ搬送された.外傷性気胸,CO2ナルコーシスと診断され外科へ紹介となり,胸腔ドレナージ,人工呼吸器管理とした.胃内容物減圧目的にNGチューブを挿入したところ血性排液がみられ,緊急内視鏡を行い胃粘膜損傷と診断された.外傷性胃損傷は稀ではあるが,多発外傷においては様々な可能性を念頭に置いて対応することが肝要である.

クリッピング後再出血をきたした小腸毛細血管腫に対し単孔式腹腔鏡下手術を施行した1例

著者: 高田英志 ,   松本智司 ,   上田純志 ,   内藤善哉 ,   内田英二

ページ範囲:P.361 - P.366

要旨

症例は74歳,男性.貧血の精査目的にて当院を受診した.上部・下部消化管内視鏡を施行したが,出血源はなく,カプセル内視鏡,小腸内視鏡を施行したところ,中心に発赤を伴う粘膜下腫瘍様の隆起を認め,クリッピングおよび点墨を施行した.生検の結果,小腸血管腫と診断された.その後良好に経過していたが,9か月後に再度貧血が進行し,カプセル内視鏡にて小腸血管腫からの出血が強く疑われ,単孔式腹腔鏡下小腸部分切除を施行した.クリッピングで消退した小腸血管腫の報告もあるが,本症例は消退がえられず外科的切除を行った.小腸毛細血管腫に対する単孔式腹腔鏡下手術は整容性,根治性からも有用と考えられた.

初回手術後16年目に腋窩リンパ節単独再発をきたした乳癌の1例

著者: 大場崇旦 ,   春日好雄 ,   原田道彦 ,   家里明日美 ,   小野真由 ,   江原孝史

ページ範囲:P.367 - P.371

要旨

乳癌術後晩期再発は稀ではないが,腋窩リンパ節への晩期再発は稀である.今回,術後16年目に腋窩リンパ節再発をきたした1例を経験したので報告する.症例は67歳,女性.51歳時に左乳癌で非定型的乳房切除を施行された.以降,当科にて定期的な経過観察を行っていたが,術後16年目に腋窩リンパ節腫大を指摘され,穿刺吸引細胞診で腺癌の転移と診断された.FDG-PET検査にて他に転移を認めなかったため,腋窩リンパ節郭清を施行し,乳癌の腋窩リンパ節転移と診断され,Ki-67陽性率は29.5%であった.本症例においては,再発までの臨床経過,初回手術時と再発巣の病理学的所見から晩期再発の機序としてtumor dormacy説を支持するものと考えられた.

結腸腸間膜脂肪織炎の自験例を含む本邦報告例のまとめ

著者: 秋田聡 ,   谷川和史 ,   末廣和長 ,   佐藤元通

ページ範囲:P.373 - P.376

要旨

結腸腸間膜脂肪織炎は稀な疾患で,一般的には認識が低く,診断や治療に難渋することがある.症例は46歳,男性で,腹部膨満を主訴として来院し,腹部症状の悪化のため緊急で右半結腸切除を行った.上行結腸肝彎曲部に一塊となった腫瘤を認めた.病理診断は,結腸漿膜下に鹸化した脂肪織炎と線維化肉芽腫を認め,腸間膜脂肪織炎であった.大腸腸間膜脂肪織炎の自験例と本邦報告例を合わせた111例を検討し,臨床病態像,診断,保存療法,手術適応などを明らかにした.本症は中年男性で左側結腸の罹患が多い.保存療法はステロイドが有効と報告されている.保存治療では3週間以内に軽快することが多く,3週以上であれば手術を考慮する必要がある.

術前に自然壊死を認めた肝細胞癌の1例

著者: 井上雅文 ,   木村拓也 ,   松田康雄 ,   鯉田五月 ,   清水義之 ,   加藤恭郎

ページ範囲:P.377 - P.381

要旨

症例は57歳の男性で,近医にてC型慢性肝炎のフォロー中に超音波検査(US)で肝S5に径22 mm大の腫瘍を認め,PIVKA-Ⅱ 603 ng/dLから肝細胞癌と診断され当科へ紹介された.初診後に禁酒し,化膿性脊椎炎の治療目的で服用していたリファンピシン,ミノサイクリンは腎機能悪化のため当院2回目受診以降は中止した.手術直前のUSでは肝腫瘍は径12 mm大に縮小し,PIVKA-Ⅱは36 ng/dLと低下していた.自然退縮をきたした肝細胞癌と診断し,腹腔鏡下肝S5部分切除術を施行した.病理組織検査では腫瘍内部は壊死し,線維性被膜内に変性が加わった癌細胞が残存していた.

私の工夫

エンドクローズによるポート孔閉創のコツ

著者: 二宮卓之 ,   田辺俊介 ,   前田直見 ,   野間和広 ,   白川靖博 ,   藤原俊義

ページ範囲:P.382 - P.383

【はじめに】

 われわれは腹腔鏡下手術の際,12 mmポート孔の閉創に,エンドクローズTM(COVIDIEN社製)を用いているのでその手技とコツを紹介する.

 当科で施行している腹腔鏡下食道裂孔ヘルニア修復術を例に,12 mmポート孔の閉創手順を以下に示す.臍部をカメラポートとし,術者用ポート(12 mm)を左右上腹部に計2か所,助手用ポート(5 mm)を右中腹部に1か所挿入し,計4ポートで手術を行っている.近年,腹腔鏡下手術における肥満症例の割合が増加していることから,皮下脂肪の厚い症例も多い.閉創時,ポート挿入時の皮膚切開では視野がとれず確実な筋膜縫合ができないことがある.12 mmポート孔から腹壁瘢痕ヘルニアを発症した例1, 2)が報告されていることからも,ポート孔の閉創に確実な筋膜縫合が必要である.

ひとやすみ・109

院内学級

著者: 中川国利

ページ範囲:P.283 - P.283

 社会の縮図である病院には様々な疾患の患者さんが来院し,そしてすべての年齢層の患者さんが入院している.そこで長期入院療養を要する学齢期の児童に対応して,当院では院内学級を併設している.児童数は通常数名と少ないが,近接の小学校から2名の教師が配属されている.

 子供らは車いすやベッド上で,さらには点滴を受けながら真面目に授業を受けている.辛く厳しい闘病生活にもかかわらず,子供らが描く絵は明るく,そして作文は希望に溢れている.これらの作品は病院内に掲示するとともに病院広報誌にも掲載し,当院を利用する患者さんからは好評である.

1200字通信・63

二つの命―「生んでくれてありがとう」余話

著者: 板野聡

ページ範囲:P.337 - P.337

 前号で,30歳代女性のスキルス胃癌の経験談をご紹介しました.実は,あの出来事は数年前のことだったのですが,最近になって,今度はご主人が入院することになりました.

 心窩部痛とコーヒー残渣様の嘔吐を主訴に来院され,緊急内視鏡検査で出血性胃潰瘍と診断されたのでした.来院当初,迂闊にも,どこかでお会いした方だがと思いながらも,事の重大さに処置のことばかりを考えて,先に亡くなられた奥様のことを思い出せないでいたのでした.それでも入院後,こちらも少し落ち着くと当時のことが思い出され,さすがに奥様のことを口にはできず,「お子様は大きくなられたのでしょうね」と声をかけることになりました.「お陰様で,二人とも中学生になりました」とのご返事.奥様の話題には触れずじまいでしたが,お互いに彼女のことを心に浮かべあったことでした.

書評

ストラクチャークラブ・ジャパン(監修) 古田 晃,原 英彦,有田武史,森野禎浩(編)―SHDインターベンション ハンドブック

著者: 吉川純一

ページ範囲:P.345 - P.345

 ストラクチャー・ハート疾患(SHD)とは,別に新しい疾患概念ではない.ただ,それに対するインターベンションが大きな時代の変革の到来を示唆しており,「新語」として登場したものと理解される.疾患でいえば,大動脈弁狭窄や僧帽弁逆流,僧帽弁狭窄,肺動脈弁狭窄,心房中隔欠損を中心とする先天性心疾患などである.これらの疾患群に対するインターベンションの中では,何といっても大動脈弁狭窄に対するカテーテル治療(TAVI)や僧帽弁逆流に対するMitraClipが鮮烈な印象を与える.

 そのインターベンションに対して,わが国で初めてその概念や手技などの臨床を科学的に解説したテキストが登場した.私は心からそれを歓迎する.

昨日の患者

一人暮らしを楽しむ

著者: 中川国利

ページ範囲:P.372 - P.372

 超高齢社会を迎え,元気に生活する老人が増えつつある.娘さんの心配をよそに,気ままな一人暮らしを楽しむ患者さんを紹介する.

 94歳のIさんは生来元気で病気をしたことがなかった.しかし便秘が生じ,精査を行うと大腸癌であった.そこで腹腔鏡下結腸切除術を施行した.退院時,付き添う娘さんから「7年前に母が亡くなりましたが,父は高齢にもかかわらずすべてを自分で行い,一人暮らしを楽しんでいます.まだまだ現役の農夫ですので,自慢の畑を見に来てください」とお誘いを受けた.私の父親も92歳で亡くなるまで畑仕事を楽しんでいたことを思い出し,ある土曜日の午後にIさんの自宅を訪ねた.

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原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.291 - P.291

投稿規定

ページ範囲:P.384 - P.385

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.386 - P.386

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.388 - P.388

次号予告

ページ範囲:P.389 - P.389

あとがき

著者: 渡邉聡明

ページ範囲:P.390 - P.390

 今回の特集は「究極の肛門温存術式ISR」という企画です.ISRの登場により,従来は人工肛門になるような症例の一部は,肛門温存が可能となりました.そしてわが国でISRが導入されてから約10年が経過し,今回は長期成績を含めてISRを再考しようというのが,企画の趣旨です.十年一昔といいますが,ISRがわが国で広まり,そしてその評価をするのに10年かかったということになります.

 それでは,そもそも人工肛門を造設するようになったのはいつなのでしょうか? それは,腹会陰式直腸切断術(Miles手術)が登場した時期であり,約100年前の1908年のことです.つまり約100年前に,直腸癌の治療で「肛門」を切除してしまうという,劇的な変化がもたらされた訳です.それから100年以上たった現在でもMiles手術は標準手術として行われています.そして今回のISRはまさに,100年経ってからMiles手術に挑戦すべく,人工肛門を回避する手術として登場したわけです.「できるだけ多くとる」から「できるだけ少なくとる」に変わるのに100年を要したわけです.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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