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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科69巻4号

2014年04月発行

雑誌目次

特集 サルベージとコンバージョン―集学的治療で外科手術に求められるもの

ページ範囲:P.395 - P.395

 サルベージ手術とは,がんの根治目的で行った放射線あるいは薬物療法などのあとに,病巣が消失しなかったり,消失したものの再燃したりした場合にR0切除を目的として行う外科治療と一般的には考えられている.一方,コンバージョン手術とは,薬物療法から外科的切除へといった治療方法の変更に伴う手術と考えられる.切除不能であった病変がdown stagingしたが切除以外では根治の望めない場合などは,いずれにもあてはまるものと思われる.

 いずれにしても放射線や薬物療法など手術以外の治療法の進歩と普及に伴い,今後増加していくことが予想される.本特集では,その考え方,意義を整理し,現時点での「サルベージ」「コンバージョン」とは何かを考えてみたい.

巻頭言

「サルベージ」「コンバージョン」手術とは

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.396 - P.398

はじめに

 昨今,サルベージ手術あるいはコンバージョン手術といった言葉を聞く機会が増えたように感じているのは筆者だけではあるまい.特に癌診療においては最近の出来事のように思う.おそらく読者である先生方におかれても,それぞれの考え(イメージ)をお持ちと思うが,それらを整理して考え直すために本特集は企画された.

 医学用語としてのサルベージあるいはコンバージョンの定義に類する明確なものはなさそうである.日本医学会医学用語管理委員会編集「医学用語辞典」(第3版,2007年,南山堂)では「salvage operation:救済手術」とだけ記載されており,コンバージョンに至っては記述そのものがない.Medical dictionary(英)においても同様である.しかしながら,salvageやconversionの単語それ自体の意味を考えると,それぞれの意味は理解しやすい.salvageは「救い出す」ことであり,conversionは「変更する」ことである.

 サルベージ手術とは,癌を根治する目的で行った放射線あるいは薬物療法などのあとに,病巣が消失しなかったり,いったん消失したものの再燃したりした場合にR0切除を目的として行う外科治療と一般的には考えられている.日本語では救済手術と記載されているように,「最後の一手」の意味合いがある.外科以外の治療法がない場合の手術を指している.

 一方,コンバージョン手術とは,薬物療法から外科的切除へといった治療方法の変更に伴う手術と考えられる.そのような場合には,外科手術後に再び薬物療法を行う例も少なくないものと考えられるので,確かに「一時的」治療法の変更(コンバージョン)のほうが適切な用語と考えられる.放射線療法は限りがあるので(追加照射はない),せっかく奏効しても,そのあと放射線は使えない.根治的放射線化学療法後の外科手術は,ほかに根治的治療法がない時点の治療になるわけで,まさしく救済(サルベージ)の言葉がふさわしいと考える.

 しかしながら,切除不能であった病変が外科以外の治療法によりdown stagingすることができ,その時点で切除以外では根治が望めない場合などは,いずれの言葉もあてはまるものと思われる.重要なことは放射線や薬物療法などの外科以外の治療法の進歩,普及に伴い,固形悪性腫瘍に対して様々な治療法が導入され,日常診療に活かされていることである.それらをどのように組み合わせて行うかが最も大切なことであり,それぞれの治療法は専門的知識を必要とするかもしれないが,現場で癌診療を担っている外科医も知っておくべき事柄であると考える.そのことが間違いなく患者さんにも恩恵をもたらすものと考える.

 もともと切除できなかった病変が切除できるようになりR0切除ができた.これが「サルベージ」であれ「コンバージョン」であれ,最善,最良の手術の役割である.もともとは切除可能であったが,術式を変更できるくらいに(縮小あるいはQOL向上)奏効したあとに行う手術,これも重要である.いずれにしても,手術だけではなく,ほかの治療法を組み合わせる(集学的治療)ことによって,患者さんにメリットが発生することが肝要なことであり,本特集はそのことを広く理解していただくための特集でもある.個別臓器に関しては各論を参照していただきたい.本稿では,日常診療において,癌患者を診療するに際しての考え方を述べる.まず,そのポイントを列挙する(表1).

総論

放射線科医からみた「サルベージ」手術とは?―意義と役割

著者: 小塚拓洋 ,   利安隆史 ,   浅利崇生 ,   室伏景子 ,   八木縁 ,   小口正彦

ページ範囲:P.399 - P.402

【ポイント】

◆放射線療法,化学放射線療法後の局所残存・再発に対するサルベージ手術は,効果の高い有効な治療法である.

◆サルベージ手術は放射線療法の影響で術後合併症が多く,高度な技術を必要とする.

◆化学放射線療法とその後のサルベージ手術において,照射範囲,総線量,併用薬剤,残存・再発診断の時期と方法,術式などの最適化が今後の課題である.

腫瘍内科医からみた「コンバージョン」手術とは?―意義と役割

著者: 本間義崇 ,   山田康秀

ページ範囲:P.403 - P.407

【ポイント】

◆Conversion surgeryは,根治不能な病態に根治可能性を見出す大変魅力的な治療方法である.しかし,その適応については対象症例が「根治不能に近い病態」であることを念頭において慎重に判断する必要がある.

◆確たるエビデンスのない領域で患者の治療方針を決定する際には,様々な領域の専門家の意見を取り入れたディスカッションの場が必須である.

◆臨床医はsurvival dataだけを鵜呑みにするのではなく,患者個々のQOLや切除後の再再発時の治療を想定して,conversion therapyの内容や手術適応について判断しなくてはならない.

各論

乳腺―乳癌手術におけるサルベージ手術―適応と治療成績

著者: 稲治英生 ,   井上共生 ,   中野芳明 ,   西敏夫 ,   石飛真人 ,   菰池佳史

ページ範囲:P.408 - P.414

【ポイント】

◆乳癌手術の縮小化に伴い,一定の許容範囲内で乳房や腋窩リンパ節から再発することは避けられない.こうした局所再発病巣に対する根治性を期待した再手術が乳腺外科領域ではサルベージ手術と称される.コンバージョンの用語は乳腺領域では使用されない.

◆乳房温存療法後の乳房内再発に対するサルベージ手術としては,現時点では乳房切除術が標準術式であるが,ある条件下では再度の乳房温存も選択肢となりうる.

◆乳房・腋窩リンパ節いずれの再発もサルベージ手術後の遠隔再発のリスクが高いので,サルベージ手術後に適切な全身療法を考慮すべきである.ただ,乳房内再発に関しては,真の再発と新発生の癌との鑑別など,病態に応じた治療戦略が望まれる.

肺―肺癌に対するsalvage surgeryの現状と展望

著者: 鈴木健司

ページ範囲:P.415 - P.422

【ポイント】

◆StageⅢA-N2はinfiltrativeとdiscreteに分類され,いずれの標準治療も化学放射線療法とされているが,後者には外科切除が加えられることが多い.

◆Salvage surgeryの報告は肺癌において極めて限られている.一方で,化学放射線療法後の手術は安全に施行可能であるとする報告もあり,最近のhigh-dose radiotherapy(74 Gy)に対する否定的な臨床試験の結果も手伝い,今後salvage surgeryの意義が再検討される可能性が高い.

食道―食道癌に対するサルベージ手術とコンバージョン手術

著者: 日月裕司 ,   井垣弘康 ,   仲里秀次 ,   岸野貴賢 ,   高橋崇真

ページ範囲:P.424 - P.430

【ポイント】

◆化学放射線療法を含む集学的治療の構成要素として,サルベージ手術とコンバージョン手術の役割を考えるべきである.

◆化学放射線療法後に治癒を望める唯一の治療オプションとして,サルベージ手術とコンバージョン手術を積極的に検討すべきと考える.

◆合併症率や在院死亡率が高いサルベージ手術とコンバージョン手術では局所制御を優先して侵襲を軽減し,安全性の向上を図る.

著者: 山口和也 ,   吉田和弘 ,   奥村直樹 ,   田中善宏 ,   棚橋利行 ,   高橋孝夫 ,   長田真二 ,   二村学

ページ範囲:P.432 - P.440

【ポイント】

◆サルベージとコンバージョンのterminologyについて述べる.

◆コンバージョンセラピー(adjuvant surgery)は,Stage Ⅳ胃癌に対する化学療法奏効中にR0をめざした手術を行うことで最大限の効果を引き出せる.

◆コンバージョンセラピーの意義を評価するには,化学療法の効果が得られた症例を化学療法継続群とadjuvant surgery群にランダム化した第Ⅲ相臨床試験が必要である.

直腸

著者: 塚田祐一郎 ,   齋藤典男 ,   伊藤雅昭 ,   小林昭広 ,   西澤雄介

ページ範囲:P.441 - P.446

【ポイント】

◆直腸・肛門管癌に対する局所切除や化学放射線療法後の病巣遺残・再発に対する根治手術をサルベージ手術と呼ぶ.

◆切除不能局所進行・再発直腸癌が化学(放射線)療法により切除可能となった場合の根治手術をコンバージョン手術と呼ぶ.

◆いずれの手術も高侵襲・高難易度となることが少なくないため,十分な経験と患者・家族の十分な理解が必須である.

膵臓―切除不能膵癌に対する補助療法後の手術

著者: 深瀬耕二 ,   元井冬彦 ,   海野倫明

ページ範囲:P.447 - P.452

【ポイント】

◆化学療法の進歩により,診断時切除不能と判断された症例も切除可能となる場合が存在する.

◆切除断端陰性(R0)が可能であれば,切除可能症例に近い治療成績が得られる可能性がある.

◆一定期間,非切除療法が持続奏効している症例への切除はadjuvant surgeryと提唱され,高い治療成績が期待されている.

肝転移―切除不能大腸癌に対するconversion therapy―CareからCureへのconversion

著者: 林洋光 ,   坂本快郎 ,   宮本裕二 ,   黒木秀幸 ,   東孝暁 ,   坂本慶太 ,   新田英利 ,   今井克憲 ,   近本亮 ,   石河隆敏 ,   別府透 ,   馬場秀夫

ページ範囲:P.454 - P.460

【ポイント】

◆切除不能大腸癌肝転移は全身化学療法(care)が主体となるが,転移巣が化学療法の奏効により根治切除術(cure)へ移行(コンバージョン)できることがある.

◆コンバージョンにより根治が期待でき,化学療法後にR0肝切除が可能となれば積極的に肝切除を考慮すべきである.

◆画像上消失した病巣でもviableな癌病巣の残存を認めるため,肝切除を行うことが推奨される.

◆化学療法による肝毒性(オキサリプラチンによる類洞拡張,イリノテカンによる脂肪性肝炎など)が報告されており,コンバージョンを行う際には十分な休薬と術前リスク評価を行うべきである.

肝移植

著者: 岩橋衆一 ,   居村暁 ,   宇都宮徹 ,   森根裕二 ,   池本哲也 ,   森大樹 ,   荒川悠佑 ,   金本真美 ,   齋藤裕 ,   高須千絵 ,   島田光生

ページ範囲:P.461 - P.465

【ポイント】

◆サルベージ肝移植とは,肝機能の良好な肝細胞癌に対してはまず肝切除を施行し,その後経過中に肝細胞癌が再発,または肝機能が悪化したときに肝移植を行うものである.

◆サルベージ肝移植においては術後死亡率・再発率が高いとの報告がある一方,サルベージ肝移植と初回肝移植を比較し,術後合併症・長期生存率に差がなく,サルベージ肝移植が有用との報告も散見される.

◆サルベージ肝移植の適応基準については,ミラノ基準,UCSF基準,Up to Seven基準などで検討がなされているが,どこまで適応を拡大可能であるかはコンセンサスが得られていないのが現状である.

FOCUS

術後回復促進のためのESSENSEプロジェクト―外科医は周術期管理のどこにエネルギーを注ぐべきか?

著者: 宮田剛

ページ範囲:P.466 - P.471

外科医の原点と術後管理

 周術期管理の改善を考えるに際し,患者の視点ではなく,あえて外科医の視点で外科治療を考えると,多くの外科医は,手術をすることをidentityとしており,周術期管理はその付録であることに気付く.特に内視鏡下手術という一癖ある技術に取り組み技術的な向上心をくすぐられる現代では,その内視鏡下手術の完遂で達成感を得,あるいは内視鏡下から大開腹へコンバートする勇気と決断にまた自分の存在意義を見出す.「良い手術」はもちろん良い術後経過と喜ばしいアウトカムにつながる最も重要な因子である.しかし,いくら良い手術をしても,もし旧来型の術後安静と長期の絶飲食を強いるような管理を行うならば,それ自体が身体的回復に対する阻害因子にすらなりうることに気づかされる時代となってきた.

 これまで「術後安静」には,創部への張力負荷回避,創痛増強回避という大義があり,「術後絶飲食」には消化管吻合部への負荷回避,腸管麻痺時の嘔気嘔吐対策という理由があった.しかし現代では,骨格筋や腸管の廃用症候群の不利益に関する論拠が増えてきており,また創痛対策,侵襲反応抑制的な麻酔を周術期管理に反映させて早期からリハビリや腸管使用が可能になってきた.

必見! 完全体腔内再建の極意・13

幽門側胃切除術後再建―Roux-en-Y:β再建

著者: 佐藤雄哉 ,   小嶋一幸 ,   加藤敬二 ,   井ノ口幹人 ,   椙田浩文 ,   神谷綾子 ,   谷中淑光 ,   中川正敏 ,   小林建太 ,   杉原健一

ページ範囲:P.472 - P.479

■■はじめに

 当科では腹腔鏡下幽門側胃切除後の再建法として,Roux-en-Y(R-Y)再建法(結腸前,順蠕動)を第一選択としている.

 以下にわれわれが行っている完全腹腔鏡下の前結腸順蠕動R-Y再建法を紹介する.

臨床の疑問に答える「ドクターAのミニレクチャー」・23

大腸手術の前処置―術前の腸管洗浄は必要か

著者: 安達洋祐

ページ範囲:P.480 - P.483

素朴な疑問

 大腸の手術では,創感染や吻合不全を減らすために,下剤や腸管洗浄液を使って腸内容を完全に排泄させておくのが当然とされてきたが,ときに腸管洗浄液が大腸に残留していて,切除・吻合のときに内容物が腹腔内や骨盤内にこぼれて慌てることがある.前処置が不十分だと感染性合併症が増えるのだろうか.腸管洗浄しないと縫合不全が増えるのだろうか.

病院めぐり

千葉県済生会習志野病院外科

著者: 山本和夫

ページ範囲:P.484 - P.484

 当院のある習志野市は,千葉県北西部に位置する人口16万人の市で,都心まで40分ほどのベッドタウンです.ラムサール条約登録地の谷津干潟があります.近くには東京ディズニーランド,幕張メッセがあり,30分ほどで行くことができます.千葉県は埼玉県,茨城県に次ぐワースト3の人口10万対医師数過疎県となっていますが,当院の位置する北西部では,医師数は確保されています.

 当院は,正式には社会福祉法人恩賜財団済生会千葉県済生会習志野病院といいます.秋篠宮殿下を総裁とする公的病院です.昭和16年千葉県船橋市西船に診療所として開設された船橋済生病院が前身で,明治33年に習志野衛戍病院として創設された国立習志野病院の経営移譲を受け,国立習志野病院の跡地である千葉県習志野市に移転し,千葉県済生会習志野病院として平成13年6月に新たにスタートしました.平成17年6月に病院を新築し患者さんにも職員にも快適な病院となりました.

臨床報告

腹膜前脂肪が閉鎖管に陥入し症状を呈した1例

著者: 山本海介 ,   森嶋友一 ,   里見大介 ,   利光靖子 ,   福冨聡 ,   榊原舞

ページ範囲:P.485 - P.488

要旨

閉鎖孔ヘルニアの前段階とされる腹膜前脂肪の閉鎖管への陥入により閉鎖神経症状を呈することがある.今回われわれは,ヘルニア囊を伴わない腹膜前脂肪のみが閉鎖管に陥入し症状を呈した1例を経験したので報告する.症例は55歳,女性.主訴は,陰部右側の腫瘤感と右大腿内側部痛であった.骨盤CTおよびMRI検査にて,両側の外閉鎖筋と恥骨筋間隙が開大し,脂肪成分を主体とする腫瘤を認めた.この脂肪性腫瘤が症状の原因と診断しTEP法により手術を行った.修復はULTRAPRO MESH®により行った.術直後から症状が消失し良好な経過をみている.閉鎖孔ヘルニアの前段階であっても症状が存在する場合,手術適応となりうると考えられた.

肺クリプトコッカス症の近傍に甲状腺癌微小肺転移を認めた1例

著者: 吉富誠二 ,   池田英二 ,   森山重治 ,   宮原一彰 ,   安部優子 ,   辻尚志

ページ範囲:P.489 - P.493

要旨

症例は30歳代,女性.甲状腺癌精査目的のCT検査で右肺に径6 mm大の腫瘤を認め肺転移と考え,T4aN1bM1と診断した.甲状腺全摘とリンパ節郭清を施行し,術後に放射性ヨード内用療法を行った.右肺腫瘤は孤立性であり確定診断が必要であると考えて,術後7か月目に胸腔鏡下肺部分切除を行った.病理で右肺腫瘤はクリプトコッカスによる肉芽腫性病変と診断されたが,すぐ近傍に偶然,径1.3 mm大の微小な甲状腺乳頭癌転移巣を認めた.甲状腺癌肺転移と鑑別困難であった肺クリプトコッカス症の切除例でその近傍に偶然,甲状腺癌微小肺転移が発見された稀な1例を経験したので報告する.

腹腔鏡下胃固定術を行った食道裂孔ヘルニアによる間膜軸性胃軸捻転症の1例

著者: 川村崇文 ,   西山雷祐 ,   山崎將典 ,   石川慎太郎 ,   片橋一人 ,   土屋博紀

ページ範囲:P.494 - P.499

要旨

症例は82歳,女性.上腹部痛と嘔吐のため当院を受診した.MD-CTで胃軸捻転症と診断し,内視鏡的整復を試みるが整復不能のため腹腔鏡下胃固定術を施行した.食道裂孔ヘルニアに落ち込んでいた胃体部大彎を整復し,裂孔ヘルニア縁の横隔膜に穹窿部を2か所,胃体部大彎と前庭部大彎を腹壁に合計4か所の縫合固定を行った.術後2年6か月経過するが再発を認めていない.近年の高齢者数増加に伴い当疾患の報告も散見されるようになってきたが,腹腔鏡下での整復,固定術の報告はまだ少ない.(緊急手術においても)胃軸捻転症に対する腹腔鏡下整復,胃固定術は安全性も高く,根治性もあり有効な手術方法と考える.

巨大気腫性肺囊胞症の1例―術前後の比較検討

著者: 原田芳邦 ,   野中誠 ,   高坂佳宏 ,   三浦康誠 ,   早稲田正博 ,   石田康男

ページ範囲:P.500 - P.504

要旨

症例は66歳,男性.右横隔膜上に発生した巨大気腫性肺囊胞に対して,完全内視鏡下に3ポートにて囊胞切除術を施行した.本術式を提示するとともに,術前後の呼吸機能検査ならびに胸部X線像の変化について考察を加えた.手術により,対側の横隔膜収縮ならびに左右肺拡張が良好となった.深呼気では術側横隔膜がより挙上して良好な呼気が得られ,心陰影の左方圧排が解除されて左横隔膜の挙上も認められた.このように巨大囊胞切除により呼吸に伴う横隔膜の可動範囲を広げたのみならず,骨性胸郭や縦隔の呼気運動にも影響をもたらし,結果として良好な呼吸状態を示すことが示唆された.

手術手技

単孔式内視鏡下手術での体腔内結紮手技―コンバインド法における結紮手技の詳細

著者: 宮川雄輔 ,   北原弘恵 ,   唐澤幸彦 ,   森川明男 ,   織井崇 ,   林賢

ページ範囲:P.505 - P.510

要旨

[目的]単孔式腹腔鏡下手術では鉗子の操作制限により結紮手技は難度の高いものとされ,特に鉗子が交差するセッティングでの結紮は困難とされてきた.当科ではコンバインド法での体内結紮法について工夫を行った.[方法]右手に持針器,左手に屈曲鉗子を持ち,左手鉗子で糸を把持し,右手持針器のjawを開いて糸を巻き取る方法で結紮操作を行う.左手屈曲鉗子の屈曲の手前側ですべての操作を行うことで,結紮操作を容易にすることが可能であった.[結論]従来の3ポート法での体内結紮と同様の時間で,コンバインド法での体内結紮を施行することが可能であった.可変式屈曲鉗子以外,特殊な手術器械を用いる必要はなく,有用な方法であると考えられる.

昨日の患者

不要となった紹介状

著者: 中川国利

ページ範囲:P.414 - P.414

 一般的に男性は,妻に感謝の意を伝えることがはなはだ苦手である.日常生活とは別世界の船旅で,永らく連れ添う奥さんに感謝の意を表した患者さんを紹介する.

 胃癌術後で肝転移をきたした70歳代後半のUさんが,「紹介状を書いてくれませんでしょうか」と,思い詰めた感じで願い出た.「転居でもするのですか」と質問すると,「金婚式を迎え,妻と船旅をしたいと思います.病気が病気なため,長期にわたる旅行は控えてきました.しかし,10日間のイタリア船籍豪華客船による日本一周のパンフレットをみつけました.船には医師や看護師が常駐し,国内の港にも毎日のように入港します.どうでしょうか」.私は,「日本中どこにも医療機関はありますから,大丈夫です.大いに楽しんできてください」と背中を押し,宛先未定の診療情報提供書を作成した.

書評

国立がん研究センター内科レジデント(編)―がん診療レジデントマニュアル―第6版

著者: 小松嘉人

ページ範囲:P.423 - P.423

 このたび,『がん診療レジデントマニュアル 第6版』に対する書評を書くようにご依頼をいただいた.おそらく,私は実はがん診療レジデントマニュアルの第1版の著者の一人であるので,先輩として後輩たちの作った第6版を厳しく評価せよ(笑)ということであろうと思われるので,お引き受けした.

 世の中には,たくさんのがんの本が出版され,どれを選んで良いのか,迷う先生方も多いのではないだろうか? 最近は随分減ってきたが,私がマニュアル作りに携わったころには,がんのテキスト本でも,著者の私見ばかりで,しっかりとしたエビデンスの記載のないものがたくさんあった.やはり記載された文書には,その考え,解説に至ったエビデンスの出典がしっかり記載されたテキスト本を選ぶべきである.そういう点から,本書を読むと,まさにその通りで事細かに,適切なエビデンスが選ばれており,著者の記載が適切であることが保証されている訳である.われわれが,抗がん剤という毒性の強い薬を患者に用いるときに,EBMの裏付けのない治療を施行することは絶対に避けねばならないが,本書を選択すればその心配はほぼないものと思われる.しかも,そのエビデンスも重要度が★によって判りやすく格付けがなされ,その推奨度が一目でわかるようになっている.

1200字通信・64

身なりについて―新医師へ贈る言葉

著者: 板野聡

ページ範囲:P.431 - P.431

 最近では,医学部の5年生になるとき,白衣の贈呈式があるそうです.私の時代には,そうした儀式はありませんでしたが,5年生から白衣を着て患者さんと接することになりました.そこでは,「男子はきちんとネクタイをすること.女子は過度な化粧や装飾品は控えること」と指導された記憶があり,それまでの蛮カラな服装での学生生活とは違って,緊張とともに,この仕事に就くことになるのだという自覚が芽生えたものでした.

 私が尊敬する元熊本大学外科教授の小川道雄先生は,その著書『研修医のための早朝講義』*1のなかで,いの一番に「ネクタイを着用し,白衣のボタンをかける」と題した講義をなさっています.先生は,「いくら立派で優秀な医師であってもだらしない身なりでは,初めて会ったときから敬遠され,医師としての本当の力を発揮できない」と指導され,医療界に限らず,人と人が接する上での身なりの大切さを説いておられます.

ひとやすみ・110

病院食

著者: 中川国利

ページ範囲:P.465 - P.465

 入院患者さんにとって最大の目的は,罹患した病気を治すことである.したがってわれわれ医療従事者には,適切な治療を提供することが求められる.さらに人は闘病生活においてもより快適な生活環境を求めるもので,とくに食事に対する要求は厳しい.

 病院における給食は治療の一環をなし,患者さんの病気や全身状態に応じて食事内容は異なる.そこで個々の患者さんの病状に応じて,管理栄養士は献立を作る.しかしながら日頃食している味付けや好みとは異なるため,患者さんから多くのクレームが寄せられる.

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原稿募集 私の工夫―手術・処置・手順

ページ範囲:P.398 - P.398

原稿募集 「臨床外科」交見室

ページ範囲:P.407 - P.407

投稿規定

ページ範囲:P.511 - P.512

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.513 - P.513

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.514 - P.514

次号予告

ページ範囲:P.515 - P.515

あとがき

著者: 瀬戸泰之

ページ範囲:P.516 - P.516

 外科医を取り巻く環境を考える機会が増えてきた.すなわち,初期臨床研修制度導入以降の外科医減少,専門医制度の在り方,手術療法(外科学)の役割や進歩とは?等々である.一見それぞれ異なる問題のように見えるが,実は根底ではつながっているように感じている.このあとがきを目にしている読者は,おそらくほとんどが一般外科医である思われる.これまで,われわれ(一般外科医)は,自分らの領域が内科とならぶ医学・医療の王道であると考えていた.しかし,どうも「世の中」の考えは違うのではないか,ということである.初期臨床研修制度においては,外科必修がはずされたままである.昨今行われている専門医制度改革においては,これまで先人達が築き上げてきた日本外科学会や日本消化器外科学会による専門医制度にも少なからぬ影響が及ぼされそうである.専門医認定は第三者機関によるとのことである.これも,数ある基盤領域の中のone of themである.

 筆者は食道癌,胃癌手術を生業としているが,手術しか根治療法がなかった時代と異なり,集学的治療の中の一治療法ととらえられることも多くなった.これは,以前はgive upしていた高度進行癌も外科以外の治療法の進歩により,外科手術も合わせることによって根治が期待できる症例が増えてきた,ということなので患者さんにとっては間違いなく朗報である.それが,本号特集の「サルベージとコンバージョン」に反映されている.いずれにしても,従来通りの手術をしていればいいという時代ではないのである(乳癌が先行している).となると外科学のめざす方向もおのずと見えてくる.癌手術においては,予防的,系統的といった,癌がないところも含めて大きく切除してしまう術式ではなく,臓器損失の影響を最小限にしたQOL重視の術式をめざすべきであるし,それが外科学の発展にもなると確信している.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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